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セイバーが剣崎の精神世界より帰還する。
士郎はその姿とその手に持つ剣に視線を奪われた。
可憐なる騎士。
美しいと感じていた。
何処か彼女が戦う姿を忌避していた気持ちもあった。
その思いが間違いではなかったと何故か彼には感じられた。
「どうしたのですか?」
セイバーはそんな士郎に気付き、問いかける。
「いや、何でも!それよりも……」
士郎は顔を少し赤らめながら剣崎を見る。
セイバーが精神世界に入ってから、その暴走は止まっていた。
だが、未だにその姿はキングフォームのままだ。
セイバーが帰還した以上、成果があったと考えるべきだが。

ブレイドはゆっくりと動くとベルトからカードを抜き取った。
「すまない。セイバー、士郎」
剣崎は人間の姿に戻ると二人に笑いかける。
「大丈夫なんですか?」
「あぁ、破滅の存在の侵食はセイバーが食い止めてくれた」
剣崎はセイバーを見る。
「ありがとう。俺の心が弱いばかりに君には迷惑をかけた」
「いえ、そんなことはありませんよ。貴方の心は強い。
アレだけ侵食を受けても尚、その精神は抗い続けていた」
セイバーは嬉しそうにそう答える。
「そうだ、お前は強いよ」
そんな彼らの間に橘が入ってくる。
それを見たセイバーは彼に対して厳しい視線を送る。
「橘朔也!これは一体、どういうことです!?」
そして、詰め寄る。
彼を信じ、剣崎の身を預けた。
だと言うのに、この研究所は連合の怪人が存在し、あまつさえ剣崎は暴走した。
「すまない。申し開きのしようがない……俺は騙されていた」
橘は項垂れ謝罪する。
しかし、謝罪したところでしでかしたことが消えるわけではない。
セイバーは冷たい視線を橘に浴びせる。
「まぁまぁ、橘さんは俺を助けようとしてただけなんだし……」
剣崎が二人の間に割って入り、宥めようとする。
それを受けてセイバーは一歩、後ろへと下がった。
誤るつもりもないがこれ以上、責めるつもりも無いようだ。
「すまない……やはり、プレシアの言葉など信じるべきではなかった」
「過ぎたことはしょうがないですよ」
剣崎自身、このことについて然程気にしてはいない。
橘が自分の身を案じていた事、そして、助けようとしていてくれたことは事実だからだ。
だから、暴走した剣崎を止める為に無謀な戦いも行っていた。
彼の傷も容易くは無いだろう。
「そうだ!ここは危険なんだ。早く、逃げよう!」
士郎が叫ぶ。
それと同時に雷が彼らの周囲に降り注いだ。

「逃がす訳にはいかない……永遠の命、その鍵を!」
プレシアが決死の形相で迫り来る。
















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第五十話「人造の生命」






その後、撤退は問題なく出来た。
追撃も無く彼等は一度、アインツベルンの城へとやって来ていた。
そこには修復フラスコが存在する。
パピヨンは傷を癒すためにそこに行くことを主張した。

「結局、カズマのアンデッド化を防止する方法は分からなかったのね」
イリヤと始は剣崎たちから事情を聞く。
「あぁ……だけど、もう多分、暴走することは無いと思う」
剣崎は自分の胸に手を当てる。
暴走は意図的にアンデッドとの融合を促進することで行われた。
世界樹へのパスの強制解放により、常に剣崎の精神世界の監視を行っていた破滅の存在が流入。
アンデッドたちの防衛も虚しく、その精神は破滅へと侵食された。
だが、それもセイバーの活躍により、防がれた。
「しかし、キングフォームによりアンデッド化が進む以上、その力は封印した方が良い。
例え、破滅の存在に操られないとは言え、怪物になってしまうのは確かだ」
始が剣崎に忠告するが剣崎は首を横に振る。
「いや、ダメだ。あの力は破滅の存在を倒すための力……アレを倒すためなら俺は躊躇わない」
剣崎の決意は変わらない。
それは当に分かっていたことだ。
「そうか……なら、俺から言うことは何もない」
始はその決意を汲み取り、これ以上の言及を止める。
「……アンデッドのキングが英雄の選定を行っていた。
だとすれば、キングと直に融合し、その力を扱う仮面ライダーブレイドこそが真の英雄なのかも知れませんね」
セイバーは精神世界でのキングの言葉を思い出す。
彼の言葉が真実なのなら、英雄を選定し、力を託すカテゴリーKから直接、力を供給するキングフォーム。
それは世界を破滅から救うための剣の王に違いないのだろう。
「セイバーにそう言って認めて貰えるのは嬉しいな」
「既に力も心も貴方の方が上ですよ。貴方に救ってもらったあの時から私は貴方と共にある剣の一つです」
「そんな事ないよ。でも、少しでも成長できてるならそれもセイバーのおかげだって」
剣崎とセイバーは互いを褒めあう。
そんな様子を見てイリヤは士郎の脇腹をつついた。
「な、なんだよ?」
それに士郎は少し驚いて彼女を見下ろす。
「随分とカズマとセイバーは良い感じだけど、シロウは良いの?」
「ん?二人は俺にとって憧れの存在だからな。
そんな二人が尊敬しあってるのは素直に嬉しいかな」
「ふぅん……意外ね。シロウはセイバーのことが好きなのかって思ってたけど」
「好きか嫌いかで言えば好きさ。でも、そこに恋愛感情は無いよ。
彼女は共に戦う仲間で目標だからさ」
士郎は晴れやかな笑みで答える。
そこに含みなどは無い。
純粋に今の状況を祝福していた。

「そう言えば、あの子は大丈夫なのか?」
始が剣崎に尋ねる。
「フェイトちゃんか……」
フェイトも一緒にこの城まで逃げてきている。
だが、今、この場には居ない。
ベッドに休まされて眠っている筈だ。
「二度も母親に裏切られたんだからな……立ち直れるのかな」
士郎はフェイトの境遇に同情し、心配する。
一度、彼女は母親と決別し、別れを告げた。
とは言え、フェイト自体は母親を拒絶していない。
分かり合うことなくプレシアは次元の狭間へと呑まれていった。
しかし、それが生きていた。
それも一度はフェイトを受け入れようとした。
だが、それは表面的なものにしか過ぎなかった。
彼女は以前と変わらずにフェイトを道具扱いした。
「すまない。俺のせいだ……フェイトをプレシアと会わせるにしても、もう少し様子を見るべきだった」
橘は後悔する。
ただ、頼まれたからと彼女の願いを聞き届けてしまったことを。
「確かに軽率ですね。カズマの件も含めて、貴方の独断で我々は大きな損害を受けた」
セイバーがそんな橘に辛らつな言葉を浴びせる。
それを橘は黙って受け入れた。
「まぁまぁ、それも皆のことを考えてのことだったんだし……」
「いや、良いんだ」
橘は剣崎のフォローを拒否し、歩き出す。
「責任は俺がとる……プレシアが何を企んでいたのか突き止める」
橘はそう言ってそのまま城を去っていく。
「……大丈夫なのか?」
始が心配そうに剣崎に尋ねる。
「分からない」
剣崎もそう答えるしか無かった。


次の日の朝
フェイトはベッドの中で眼を覚ます。
「ここは……?」
おぼろげな意識の中、自分が昨日、救出されてアインツベルンの城に来たことを思い出す。
そして、母親に裏切られたことも
「あ……」
自然と涙が零れていた。
もう、二度と会えないと思っていた。
その温もりを感じられないと思っていた。
なのに、それは唐突に現れて……そして、裏切った。
「何を泣いている」
唐突に声がかけられる。
フェイトは驚き、首だけ声のほうを向く。
そこにはパピヨンが立っていた。
その瞳はフェイトを睨み付ける。
「だって……」
「裏切られて泣き寝入りをするのか?
貴様は良いように作られ、弄ばれ、捨てられる。
そんな風に扱われ、何もしないのか?」
パピヨンが強い語気でフェイトに語りかける。
「もう……もう、良いんだ……お母さんが……プレシアが私を愛してないって分かってた……
分かってたのに期待した私が馬鹿だったんだ」
フェイトは眼を閉じ、諦める。
全ては自分が悪かったのだと。
甘い幻想に期待してしまった。
そんな自分が愚かだったと。
パピヨンはそんな彼女の腕を掴み、強引に上半身を起こす。
「いたっ!」
「貴様は……何故、抗わない!あの日、あの時、貴様は呪縛を断ち切り、羽ばたいた筈だ!」
「……アレもプレシアを助けるためだった……私は捨てられてない。
貴方みたいに自分の親を捨てられなかった!」
パピヨンはそんなフェイトを見下す。
その視線にフェイトは怯える。
彼の眼から侮蔑を感じ取ったのはフェイトにとって初めてだった。
「勘違いするな。あの時、貴様はまだ、籠の中の鳥だったことなど分かっている。
そうでは無いだろ。貴様が本当に一歩を踏み出したのは」
「……どういうこと?」
フェイトは呆然とパピヨンの顔を見上げる。
その眼には憎悪にも怒りを感じた。
パピヨンはフェイトの腕を離すと振り向き、背中を見せる。
「今の貴様は名前を呼ぶに値しない」
そして、そう言葉を残して部屋から去っていった。

フェイトは一人残され、ベッドの上で考える。
パピヨンの伝えようとした言葉。
彼はフェイトは完全に見捨てた訳ではない。
彼は興味を示さないものには何もしない。
だから、彼が元気付けようとしていたことをフェイトは分かった。
「……名前」
フェイトは呟く。
そう言えば、パピヨンは名前で人を呼ばない。
第三者を指し示す時でさえ、抽象的な呼び方をする。
唯一の例外は【武藤カズキ】だけ……
「そう言えば……一度だけ名前を呼んでくれた」
フェイトは一回、パピヨンが自分の名前を呼んだ事を思い出した。
アレはとっさの出来事だっただろう。
今まで意識しても居なかった。
「名前か……名前を呼んだら……」
フェイトはあの日を思い出す。
なのはの名前を呼び、初めて友達となった日の事を。
「そっか……私はあの時、初めて自由になった。
自分で望んで選んだんだ……なのはと友達になることを……」
何も出来ない籠の鳥に手を差し伸べてくれたのはなのはだった。
大切なことは自分で選ぶこと。
「もう、誰かに助けられているだけじゃない」
フェイトは眼を閉じて呟く。
この世界に来たのはなのはを助けるためだ。
そして、それは酷く過酷な戦いになるだろう。
闇の書、妖怪と人間の戦争、破滅の存在……
打ちひしがれている時間なんて無い。
人を救う道を選んだのなら、自分のことで立ち止まっている訳にはいかない。
「行こう……私はあの時と同じ過ちを繰り返してた」
フェイトは眼を開き、ベッドから降りる。
その表情には活力が戻っていた。
眼には意思があった。
揺れているだけの弱い心は討ち捨てた。
「もう一度、羽撃たく。あの人に負けないぐらいに強く……高く!」
フェイトはバルディッシュを手に取る。
バルディッシュは主人の復活に力強い声で応えた。


BOARDの研究施設
そこに一人のホムンクルスが襲撃をかけている。
爆発が施設を吹き飛ばし、炎が装置を焼き尽くす。
黒色火薬の武装錬金は縦横無尽にその姿を変えて、忌まわしき存在を破壊しつくしていく。
炎の中をパピヨンは歩く。
その眼は怒りに燃えていた。
「死にたくなければ逃げるんだな。今の俺は少々、機嫌が悪い」
パピヨンは道端で怯える研究者に告げる。
その言葉と同時にその男は走り出して、逃げて行った。

破壊と蹂躙は続く。
だが、それを阻むものも現れる。
「改造実験体か」
パピヨンは目の前に姿を現した青い怪人トライアルEを見て呟く。
アンデッドの研究の過程で生み出された擬似不死生物。
その特性から連合軍への兵器としても転用されている。
その上にトライアルEは仮面ライダーギャレンのデータを元に開発されている。
その性能はほぼ互角。
先の戦闘においてもレミリアとフランドール以外は苦戦を強いられたほどの強敵だ。
パピヨンと言えどもまともにぶつかり合えばただでは済まない難敵。
更にそれが擬似とはいえ不死性を持っているとすれば勝率は限りなく低い。
だが、それも織り込み済みだった。
「ただの量産型で俺を止められると思うな!」
パピヨンは黒死の蝶を展開する。
だが、それよりも早くトライアルEはパピヨンに対して銃を撃つ。
パピヨンはそれを黒色火薬を少量爆破させて、ギリギリで回避する。
非常に正確な射撃だが、それ故に狙いは分かりやすい。
ならば、瞬時に火薬を爆破させれば、射線から外れることは出来る。
しかし、それに対してもトライアルEはすぐさまに対応して狙いを定める。
だが、それに対してパピヨンは目くらまし程度にトライアルEの眼前で黒色火薬を爆破させる。
炎と煙がトライアルEの視界を覆い、攻撃をキャンセルさせる。
それと同時にトライアルEの頭上と足元が爆発し、その天上と床を瓦解させる。
噴出される爆発に呑まれ、トライアルEは開いた穴に降り注ぐ瓦礫毎、落ちていった。
「破壊するには一定以上の破壊力が必要……俺のニアデスハピネスも無限じゃない。
ここであまり力を使いたくないんでね」
パピヨンは生き埋めになったトライアルEに対して告げる。

「なるほど。確かに行動不能になってしまえば幾ら不死身と言えども意味は無い」
不意に言葉が聞こえ、パピヨンはその方向に対して振り向く。
だが、それと同時にパピヨンの体に電撃が襲い掛かる。
「ぐああ!!」
その威力にパピヨンは膝をつく。
「だけど、貴方一人じゃ勝ち目はないわ」
プレシアはパピヨンを見下ろし告げる。
「ふん、それはどうかな。俺はお前さえ倒せればそれで良い。
その目的がノコノコと現れたんだ。
これで後は貴様さえ倒せばそれで終わる」
パピヨンはふらつく足に力を込めて立ち上がる。
「私を……?フェイトの代わりに私を倒しに来たのかしら?
ジュエルシードの確保と言うフェイトの任務を尽く邪魔した貴方が今は仲間だとでも言うの?」
「知らんな。俺はあんなメソメソした子供のことなどどうでも良い。
永遠の命の研究の為に俺の体を実験台にした報復に来ただけだ。
俺は利用されるのが大嫌い何でな!」
パピヨンはプレシアに対し、黒死の蝶を放つ。
だが、それはプレシアに届く前に電撃で打ち落とされた。
「勝てるつもりなの?ホムンクルスとしても不完全な貴方が?」
プレシアは嘲笑する。
パピヨンのことを完全に見下していた。
「ほざけ!」
それに対してパピヨンは吼える。


戦いは施設を破壊しつくし、地上まで出てきても続いた。
周囲は黒煙が立ち上り、炎と火薬の臭いが充満する。
「もう終わり?」
プレシアはその惨状とは裏腹に無傷だった。
それならまだしも疲労の色も見えない。
それに引き換え、パピヨンは息も途切れ途切れで疲労は濃い。
「まだ……ブハッ!」
パピヨンは口から血を吐き出す。
鮮血が地面に滴り落ちた。
「その体は原因不明の病に冒されている。
それは体を蝕み、ホムンクルスの肉体すらも侵食している。
病に死ぬ事は無い。
だけど、その身は常に病による痛みとの戦い。
持久戦を行う体力など一切存在しない」
その様子を見てプレシアが解説する。
既にパピヨンのデータは取り終わっていた。
「章印という弱点の無いホムンクルス。確かにそれは不死身ね。
だけど、それだけよ。
貴方はフェイトと同じ出来損ない……失敗作よ」
プレシアは嘲笑する。
出来損ないでは自分には勝てないと。
「貴様……!!」
パピヨンは怒りに満ちた眼でプレシアを睨み付ける。
そして、黒死の蝶を生成しようとする。
だが、それも目の前で霧散し、上手く形を作れない。
「武装錬金の意地すらも怪しいみたいね。
さぁ、これで終わりよ」
プレシアは右腕に纏った電撃をパピヨンに対し放つ。
それはパピヨンの体を焼き尽くすだろう。
跡形も無くなれば幾らホムンクルスと言えども再生はしない。

「させない!」
だが、その電撃を相殺するように雷の魔法が叩き込まれる。
二つの雷はぶつかり合い、空間に霧散した。
「フェイト!」
それを見てプレシアは叫ぶ。
フェイトは黒いマントを翻し、パピヨンの前に着地した。
「プレシア……もう一度、貴方を止める!今度こそ本当に!!」
フェイトはバルディッシュ・アサルトをプレシアに向ける。
「貴方に出来るわけが無いわ」
「私はあの時とは違う。もう、籠に捕らわれた鳥じゃ無いんだ。
貴方と言う過去を越えて、私は私の翼で羽撃たく!」
フェイトは魔法陣を展開する。
そして、カートリッジをロードした。
「プラズマスマッシャー!」
電撃の魔力による砲撃をバルディッシュ・アサルトより発射する。
その閃光はプレシアの体を飲み込んだ。

閃光が晴れるとそこにプレシアの姿は無かった。
代わりに奇妙な一つ目の怪人がそこに立っていた。
「えっ!?」
それにフェイトは困惑する。
「プレシアじゃ……ない?」
間違いなくフェイトのプラズマスマッシャーはプレシアを飲み込んだ。
だとすれば、その後に現れた怪人こそがプレシアだったことになる。
だが、プレシアは間違いなく人間だったはずだ。
「くっ……」
それに対して怪人はうろたえる。
「そいつはトライアルB。君の母親プレシア・テスタロッサの細胞を元に作り出された改造実験体だ」
その場に橘朔也がゆっくりと歩いてい来る。
「橘、何故その事を!?」
トライアルBは橘の言葉に驚く。
「元々、プレシアが生きて帰ってきていたという事に疑問はあった。
だから、調査は進めていたんだ。まさか、これほどまでに動きが早いとは想像してなかったがな」
そして、橘はフェイトとパピヨンの傍まで歩み寄る。
「それじゃ……やっぱり」
フェイトが橘を見上げる。
「あぁ、間違いなくプレシア・テスタロッサは次元の狭間に呑まれ死んだ筈だ」
その言葉にフェイトは顔を伏せる。
「だが、トライアルBはプレシアと一切、関係の無い存在ではない。
その細胞を元に作り出されたトライアルBはプレシアにもしものことがあった時のスペアとして用意されていた。
そして、その記憶と人格もコピーされている。
これは天王路がプレシアの優秀な頭脳を手放さないために勝手にやったことらしいがな」
「随分と調べたのね」
「パピヨンが騒動を起こしてくれたおかげでな。
ただ、全ての情報が集まる前に脱出するはめになったが。
その為に一つ分からない事がある。
既にアリシアの肉体は失われている。
もはや、復活させられる可能性など何一つ無い。
なのに、何故貴様は研究を続けた?
記憶や人格が同じならば、貴様の目的もプレシアと同じはずだ」
橘が尋ねる。
その問いにトライアルBは笑い出した。
「簡単よ……まだ、可能性は残されている。
その為の方法を天王路は提供してくれた。
だから、私はプレシアとアリシアの幸せの為に動いている。
もう、あの過ちを二度と起こさない為に」
「過ちを二度と起こさない?何を言っているんだ?」
「また、もう一度、世界をやり直す方法がある。
バトルファイトの勝者にのみ与えられる力。
世界を創造する力があればもう一度、やり直せる。
トライアルBもフェイトも必要無い。
あの幸福だった日が続く世界を作り出せる」
トライアルBが叫ぶ。

「そんなのは間違ってる!」
フェイトが叫んだ。
そして、真っ直ぐにトライアルBを見つめる。
「失敗作が何を」
「確かに私は貴方にとって失敗作かも知れない。
でも、私は確かにここに生きていて、私の事を大切だって言ってくれる友達が居る。
やり直したい事、取り戻したい物、皆、いっぱい抱えてる。
でも、それも合わせて皆で繋いできた今日なんだ。
誰か一人の意思で世界を変えて良い筈が無い!」
フェイトは叫ぶ。
多くの人々と出会って来た。
辛い戦いの中で結んだ絆があった。
なのはと出会い、助けられ、友達になれたから皆とも出会えた。
ただ、生きたいと叫んでいた青年とも知り合えた。
それは多くの人々も同じだ。
ありえない筈の出会いで結ばれたこの世界は奇跡だ。
それを捨てて、造られた昨日へと向かう意味などは無い。
「プレシアの遺した亡霊……私は貴方を倒す!」
フェイトはバルディッシュ・アサルトのカートリッジをロードする。
バルディッシュ・アサルトの形は変わり、巨大な剣へと姿を変えた。
そして、フェイトのバリアジャケットもその姿を変える。
白きマントを翻し、黄金にきらめく、透き通るクリスタルの刃をフェイトは構える。
「一人の意思じゃない。よりよき世界の為だというのが分からないの!」
トライアルBが叫ぶ。
「この世界の明日程、良い世界なんて存在しない!
プレシアの娘として……母が残した妄念を切り裂く!」
フェイトはバルディッシュ・ザンバーを振るい、衝撃波を放つ。
それにトライアルBは動きを止めた。
そこにフェイトが加速し、トライアルBに突っ込む。
「撃ち抜け、雷神!!」
そして、刃に魔力刃を形成し、トライアルBの体を両断する。
その一撃にトライアルBの体は耐え切れず、爆発した。

「……お母さん」
フェイトは燃え尽きていくトライアルBの残骸を見て呟く。
偽者とは言え、プレシアの記憶と人格を持っていた。
それを殺したのだ。
何の感情も芽生えないはずは無い。
涙がフェイトの瞳から流れ落ちそうになる。
だが、それよりも先にその頭に手が置かれた。
「良くやったな」
パピヨンがフェイトに優しく声をかけた。
「私は……お母さんを……!」
フェイトは涙を零し、パピヨンに抱きつく。
「アレはお前の母ではない……コピーは本物には成り得ない。
お前がフェイトであるようにな」
「……うん、そうだね」
フェイトは顔を上げて、涙を拭う。
「私の名前……また、呼んでくれたね」
そして、笑みを浮かべる。
それに対してパピヨンは顔を背けた。


その日の夜
パピヨンは紅魔館にやって来ていた。
その目的は一つ、黒い核鉄と白い核鉄の研究資料。
「随分とご機嫌だな」
そんなパピヨンにカズキが声をかける。
「武藤カズキか。あぁ、今の俺はビンビンだ。
俺が何するべきか、明確になったからな」
「俺を戻すために聖杯を探してたんだっけ?」
「そんな事もあったな。だが、願望機などという物に頼るなど俺らしく無かった。
選択肢は常に自分で選び、無ければ作り出すだけだ」
「それで白い核鉄を作り出すって訳か」
「そうだ。俺らしくも無く随分と遠回りをしてしまったがな。
後はお前がヴィクターになってもその影響を抑えるための休眠カプセルも必要だな」
「そこまで考えてたのか……」
「あぁ、俺はよりよき未来へ羽撃たく為に努力は惜しまない。
そして、それは人間である武藤カズキとの決着以外にありえない」
パピヨンはカズキを指差す。
それにカズキは微笑んだ。
「よりよき未来か……」
少し前までのカズキには遠くに聞こえた言葉だっただろう。
だが、今のパピヨンを見ているとそれも遠くないと思えた。
そして、パピヨンがそう羽撃たけたのは間違いなくフェイトのおかげだろう。
強くはあったが意思の弱かったフェイトはあの戦いで明確な決意を見せた。
そして、それはパピヨンにとっても眩しいものだった。
過去の決別でも、やり直しでも無く。
今までの全てを紡ぎ、明日へと向かうその姿勢にパピヨンは惹かれた。
だから、完全な迷いを捨て、幸せな明日へと向かうための努力を惜しまない。


生命は力だ。
それは造られし者だろうと関係は無い。
故に悪用しようとする者も多い。

「トライアルBは消滅したか」
椅子に座る老人が一人呟く。
「彼女の残してくれたプロジェクトF、ホムンクルスのデータは完全なアンデッド完成の為の礎となるだろう。
だが、まだ足りない。やはり、蓬莱の技術は必要だ」
老人はそう言うとモニターに眼を移す。
そこには幻想郷の竹林が映し出されていた。
「デストロイの使用許可を出す。月の賢者を何としてでも確保しろ」
ロゴスの首魁、天王路は命令を下した。


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