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それはハートスートの全てのアンデッドを束ねる為にカリスが進化した姿。
赤き皮膚に黒と黄金の装甲が装着されている。
その複眼と胸部のエレメンタルはジョーカーと同じ緑をしていた。
「破滅の存在……俺はもう、二度と貴様の言いなりにはならない」
両手に醒鎌ワイルドスラッシャーを構え、カリスが吼える。
そこにははっきりと相川始の意思が乗っていた。
「私とのパスを完全に遮断した……」
フィアはカリスとの間に感じていたパスが閉じられているのを感じる。
本体を経由していたとは言え、確実に存在していたそれは応答を返さない。
フィアはその不利を悟ると地上に降り、闇の領域を展開する。
「貴様だけは逃がさん!」
カリスは迷うことなくその領域へと足を踏み入れる。
サーヴァントならば捕らえられ、逃げ出すことは出来ない泥の海。
ジョーカーとしての性質を残していた頃のカリスも一度は捕らえられた。
だが、ワイルドカリスはそれを物ともせずに走破する。
「!」
驚くフィア。
それに対し、カリスは無慈悲に二つの鎌を振るう。
切り裂かれるフィアの体。
「ぐぅ……」
「この体はジョーカーを封じるだけじゃない。
死である貴様と相反する生命の力だ!」
カリスが力を込めると胸の紋章から13枚のカードが出現する。
それは一つに合わさり、一枚のカードへと変化する。
カリスはそれを掴むと醒鎌ワイルドスラッシャーを一つにあわせたラウザーへとラウズする。
―――ワイルド―――
それは全てを象徴する万物の力。
解き放たれるは全てを飲み込み、引き裂く開闢の風。
【ワイルドサイクロン】
緑色の魔力の旋風がフィアの体を飲み込む。
「ぐ……何がワイルドカリスよ……あなたの本質はジョーカー。
死が生へと反転する事なんて絶対に無い!」
飲み込まれ粉砕される間際、フィアは呪いのような言葉を告げる。
そして、闇は泥へと還り、泥は霧散し、消滅する。
「だとしても……俺は破滅を望まない。この世界で行き続ける事を願う」
消え去った影に対し、カリスは告げる。
戦いは決着した。
「始!」
変身を解き、人間態になった始にイリヤが飛びつく。
それを始は抱きとめ、頭を撫でた。
「ごめん、心配させたな」
「本当よ!貴方まで居なくなったら……」
イリヤは涙を見せる。
気丈に振舞っていたが不安はあったのだろう。
「一件落着ですか……ですが、桜には逃げられましたか」
その状況を見てセイバーが呟く。
既に闇の気配は無い。
「すまない……」
それに対し士郎が謝る。
殺すだけならば出来ただろう。
だが、それを決断することは士郎には出来なかった。
「いえ、破滅の存在が居ない以上、そこまで早急に対応する必要は無いでしょう」
そんな気持ちを汲み、セイバーが士郎に告げる。
「いや、油断はしないほうが良い」
だが、そんな二人に対し始が話しかける。
「それは?」
「あれは破滅の存在の端末の一部に過ぎない。漏れでた闇は他にも居る」
「なっ……ですが、あの力は以前に戦ったモノと同等だった」
「アレは妖怪とサーヴァント……それにこの戦いで出た犠牲者の嘆きと悲しみを吸収している。
力は完全に戻り、更に分身を生み出せるほどにな」
その言葉に息を呑む。
下手に放置すればそれだけ力を取り戻すという事だ。
ここまでその尻尾を掴めていなかった事の代償とも言うべきだろうか。
「だが、アレだけの力を持つ分身をそう何体も作られる訳が無い。
今回のようにそう易々と表には出てこなくなるだろうな」
力を殺ぐこと事態には成功している。
決してこの戦いの成果が無かったわけじゃない。
「だが、それで奴もまた、裏に潜んでしまったという事か」
しかし、また慎重になればその姿を掴むのは難しくなる。
戦いは一進一退。
「だけど、これで始はもう、あいつの言いなりにはならない」
剣崎が始の肩を叩く。
「そうだな。それに端末であれば、もはや俺とお前の敵じゃない」
それに始は笑って答える。
確実にだが、一歩ずつ前には進んでいる。
AnotherPlayer
第四十九話「黄金の剣」
BOARDへと向かう道中
セイバーは剣崎に対して質問をした。
「剣崎一真……貴方は不死の怪物へと至るかも知れないその力を使い続けるのか?」
そのセイバーの問いかけに対し、剣崎は迷いを見せずに答えた。
「この力が必要なら使い続けるさ。もちろん、アンデッドになるつもりなんて無いけど。
もし、それが必要だって言うなら躊躇わない」
その言葉を聞き、セイバーは少し眼を閉じる。
そして、何かを決意したように眼を開いた。
「貴方ならそう答える……分かってはいました」
そして、セイバーが立ち止まる。
それにつられて剣崎も歩みを止めた。
「どうしたんだ?」
振り返り剣崎が尋ねる。
「……かつて、私は王を決めるという選定の剣を抜きました」
セイバーが真剣な様子で話を始める。
「アーサー王の伝説……それがその聖剣エクスカリバーなのか?」
剣崎はセイバーが帯刀する剣を見る。
だが、セイバーは首を横に振る。
「いえ、これは選定の剣ではありません。剣は既に奪われてしまいもう、私の手元にはありません」
そう答えるセイバーの顔には後悔の念が見える。
「その失われた剣を抜いた時から私は王という存在になった。
民の為に剣を振るい、数多の敵を討つ者へと」
セイバーは確かめるように指を閉じる。
「貴方は統治者ではない……いや、そんな権限や義務が無いのにも関わらず人々の為に剣を振るっている。
士郎から聞いています。貴方は戦えない全ての人たちの為に戦うと……」
セイバーは何処か辛そうにする。
その表情を見て剣崎は驚いた。
「どうしたんだ!?」
「貴方は強い……その心も。ですが、心配なのです。
貴方が抱え切れないほどの大きなモノを背負ってしまっている。
いずれ、その重みが貴方の行くべき路を潰してしまうのではないのかと」
セイバーは自分の末路を思い浮かべる。
戦い、戦い抜いた結果。
それは誰からも理解されない果てだった。
目の前に居る現代の英雄もまた、その呪われし末路へと行くのではないかと彼女は考えている。
そんな、感情の吐露に対して剣崎は微笑んだ。
「何だ、そんなことか」
軽いその物言いにセイバーは顔をしかめる。
「確かに俺は戦えない全ての人たちの為に戦う……そう、決意した。
だけど、俺は一人じゃそんなに強く思えなかった」
剣崎は少し離れた位置に立っていた士郎を見る。
「士郎や、シン……皆が居たから俺はそう思えたんだ。
俺一人じゃ全ては背負いないかもしれない。だけど、共に戦う仲間が居るから戦えるんだ」
剣崎は告げる。
一人では強くなくても、仲間となら強くなれる。
「仲間……だが、もしその仲間が裏切ったなら……」
セイバーは重々しく辛そうに声を出す。
そんなセイバーを剣崎は抱きしめていた。
「なっ!?」
セイバーは突然の事に驚き慌てふためく。
「大丈夫だ。俺達は君を絶対に裏切ったりなんかしない」
「わ、私は別に自分が裏切られていることを恐れてなど……」
「いや、君は裏切られることを恐れている。親しい仲間が離れていくことを……
俺もそうだった。今までずっと裏切られて、傷ついて……でも、俺は信じることを止めない」
「一真……」
「俺は裏切られても決して折れない。もし、君が裏切りを恐れて前に進めないのなら。
俺が手を、肩を貸す。大丈夫だ。俺は馬鹿正直なのだけが取り柄なんだから」
その言葉に嘘などないことなど分かりきっていた。
彼はいつでも真っ直ぐで単純で、それ故に傷ついても突き進んできた。
そんな彼だから破滅の存在から生み出されたジョーカーという怪物すらも友に出来たのだろう。
BOARDの地下
剣崎一真は約束通りに橘朔也の下を訪れた。
その付き添いに士郎とセイバーの姿もある。
流石に一人で剣崎を行かせる事を二人は反対した。
本当なら始も同行しようと考えていたが完全に消耗が無いわけじゃ無い事と、
曲がりなりにもアンデッドの研究施設に彼を連れて行くことがはばかられた。
今はイリヤと共に紅魔館へと向かっている。
流石に今回の事態で単独行動を続けることが危険だと感じたからだ。
それに対しては二人とも納得している。
「良く来てくれたな」
橘が三人を歓迎し、奥へと案内する。
そして、案内された部屋。
そこで三人をプレシア・テスタロッサが出迎える。
「あんたは!?」
その姿に見覚えのあった剣崎が身構える。
だが、それを橘が制止する。
「安心しろ。彼女は敵じゃない」
「そんな……あいつは次元の狭間に飲み込まれて死んだんじゃ……?」
剣崎は間近でそれを見ている。
プレシアの最期を。
「別に蘇ったわけじゃないわ。死んでいなかっただけよ」
そんな剣崎にプレシアは告げる。
だが、剣崎は何処かその言葉に納得がいかなかった。
「あんたが生きていたのは別に良い……だけど、橘さんはどうして、彼女と?
橘さんの話じゃ、彼女はアンデッドの封印を解いた筈だ。
そんな危険人物とどうして一緒に居るんですか?」
生死の疑問については一旦置いておくにしても、剣崎にはどうしてもプレシアは信用ならなかった。
「言った筈だ。お前をアンデッドにしない為、その研究の為に彼女に協力している」
橘の言葉に剣崎はポケットの中のバックルを触る。
ブレイバック……
ライダーシステムの中核を為し、スペードのAのカードの力で変身を与える装置。
それはジョーカーの持つラウザーを参考にして作られている。
剣崎の戦う力。
剣崎はふと以前に聞いた話を思い出す。
あれは八意永琳との話だ。
アンデッドと融合することはいずれその体を蝕むと言っていた。
彼女の危惧はこのことなのだろうと剣崎は今にして思う。
「アンデッドになる……か」
その事について考える。
不死の体。
それは多くの人間が望む夢の果てと言っても良い。
決して死ぬことなく永遠にその存在は世界に刻まれる。
しかし、剣崎にはそれが魅力的に感じられなかった。
「分かった。俺もこのままアンデッドになるつもりなんてない。
だけど、キングフォームの力はここから先、絶対に必要になるから。
その為の研究に協力する」
剣崎は橘とプレシアの提案に同意する。
それから話は進み、剣崎はカプセルの中に入れられる。
その体の構造を検査するために。
橘もその検査にあたった。
残された士郎とセイバーは宛がわれた部屋で休んでいた。
士郎は携帯電話をしまう。
剣崎が調査の為にしばらく動けない旨を皆に連絡していた。
そして、ふと顔を上げるとセイバーが神妙な表情をしているのが見える。
「どうしたんだ?」
士郎がセイバーに尋ねる。
「いえ……あの女性は本当に信用に足る人物なのですか?」
「プレシア・テスタロッサか……俺は話にしか聞いてないけど自分の娘を生き返らせる為に色々してたらしい。
それに自分の娘のクローンであるフェイトちゃんを利用してたんだ」
「なるほど……失った我が子を取り戻す。よくある話ではありますね」
セイバーの表情に少し同情めいたものが見える。
「……セイバーは今でも聖杯を求めてるのか?」
「……聖杯は求めています。ですが、この聖杯は私の望むモノではありません。
それを求めて戦うつもりはありませんよ」
「そっか、でも、一緒に戦ってくれるんだろ?」
「当然です!幾ら、目的の物が無いとは言え、むざむざと世界の破滅を見逃すつもりはありません。
今、この場で戦う機会があるのなら全力を尽します」
セイバーは強く言い切る。
彼女とて英雄と呼ばれる存在の一人だ。
その問いかけは無粋と言っても良かっただろう。
「そう言えば、剣崎さんにどうして、選定の剣の話をしたんだ?」
士郎は話題を変えるべく、ここに来る途中で止まっていた話を思い出す。
結局、あの話は剣崎さんに抱きしめられ顔を赤くしたセイバーは続けなかった。
「あぁ、あれですか……いえ、私は選定の剣を抜き、不老不死となった身です。
生憎と不老不死の根源たる鞘を失ってしまい、今ではその力はありませんが。
その経験から現在の彼に何かを伝えられるかと思いまして」
セイバーが士郎に事情を説明する。
予想以上に剣崎の覚悟が決まっていたために話す意味なしと彼女はあの後に続けなかったのだろう。
「剣、王、不死……」
士郎はその話を聞いて何か妙な符合を感じる。
「案外、あの宝具の原典はアンデッドだったのかも知れませんね」
セイバーは一つの仮定を告げる。
「宝具がアンデッドの?」
「破滅の存在は死の運命を持つ者を縛る。ですが、不死ならばその呪縛を超えられる。
この星の歴史がアレを倒す英雄を欲していて、アンデッドという存在が世界のシステムの根底にあるなら。
それを元にした宝具が存在していてもおかしくは無いでしょう」
「そうか。英雄の死後は世界樹に縛られる。世界樹自身が世界に英雄を生み出す為に働いていたとしても可笑しくは無いか」
士郎もその仮説に納得する。
「そうであれば、鞘を失ってしまったことは非常に大きい。
今もアレが私の手元にあれば、破滅の存在に遅れを取ることなどありはしないのに」
セイバーは不老不死の大本となる宝具を思い返す。
選定の剣と共に授けられ、セイバーの助けとなった力。
「まぁ、無い物ねだりをしても仕方ありません。
今は一真がアンデッドにならない方法が見つかることを祈りましょう」
セイバーはそこで話を中断する。
士郎もそれに合わせて思考を切り替えた。
「……そういえば、パピヨンとフェイトちゃんもここに居るんだよな」
「そのように話は聞いていますが……しかし、シロウ。そのパピヨンと言う者は仲間なのですか?」
「こんどはそっちか……まぁ、確かに心配になるのは分かる。
というか、俺自身もそんなに信用してる訳じゃないんだ」
「カズキが信じているからですか?」
「うん。カズキが大丈夫だって言うなら俺はそれを信じるだけだ。
多分、あいつがこの世界で誰よりもパピヨンのことを知ってる奴だからな」
「ライバル……ということですか。確かに好敵手となりえる人物とは奇妙な絆を感じますからね」
セイバーもその言葉に少し納得を見せる。
だが、完全にパピヨンを信じたわけじゃないだろう。
それも仕方が無いと士郎は考える。
彼自身も完全に信用しているわけじゃないのだ。
「ちょっと、探しに行くか」
だから、ここで少し彼と話してみるのも悪くないと思った。
研究所内を士郎とセイバーが歩いている。
それを見つけた研究員が二人に話しかけてきた。
「すいません。あまり、歩き回らないでいただけますか?」
それに対して士郎は機密とかがあるんだろうと納得する。
「すいません。ちょっと、ここに居るパピヨンとフェイト・テスタロッサっていう人に会いたくて」
そう告げると研究員は表情を一切崩さない。
だが、妙な威圧を感じた。
「すみませんがあなた方を彼らの部屋に通すわけには行きません」
その物言いに士郎は何かを感じる。
不都合があるとそう感じた。
それはセイバーも同じだったのか彼女の視線も鋭くなる。
「どうしてですか?確かに彼らは怪我の治療をしているとも聞きました。
だけど、そんなに重症だった訳じゃない筈だ。
何であえないのかその説明を……」
そこまで言いかけて研究員の後方から突如、コードのようなものが士郎目掛けて伸びる。
士郎は何も反応できない。
だが、それは士郎の眼前で切り落とされ、弾かれた。
「下がりなさい、シロウ!」
セイバーが研究員を弾き飛ばし、その背後に居た存在に飛び掛る。
その先にはトライアルDの姿があった。
「あいつは……連合の怪人!?」
士郎は紅魔館の防衛戦で戦った怪人であることに気付く。
ブレイドの力をもってしても倒せず、封印も出来ない不死の怪物。
「どうやら、我々は嵌められたようだ」
セイバーはインビジブル・エアの一撃でトライアルDを弾き飛ばす。
だが、その程度でその怪人を止めることは出来ない。
改造実験体トライアル。
それは人間の生み出した擬似アンデッド。
封印できず、アンデッドに近い生命力を持つ。
だが、それは完全ではない。
フランドールのあらゆるものを破壊する程度の能力のような強力な攻撃には耐えることは出来ない。
だが、セイバーの持つ能力でそれを打倒できるとしたらエクスカリバーだけだろう。
士郎は一瞬、その力を使うことを考える。
だが、ここは研究所内部だ。
エクスカリバーの余波によりどれほどの被害が出るかはわからない。
最悪、自分達も生き埋めになる。
それにエクスカリバーは大量の魔力を消耗する。
未だに敵の多い現状でおいそれと切れる札では無かった。
「セイバー、ここは一旦、逃げるぞ!」
士郎は敵の撃破をしている余裕は無いと判断する。
「しかし……」
「俺はフェイトちゃんとパピヨンを探す。セイバーは剣崎さんを探してくれ!
お互いに見つけたら脱出するんだ」
士郎はそう叫ぶと通路を走り出す。
「なっ!単独行動は危険だ!」
それを見てセイバーが叫ぶ。
この研究所は敵の勢力圏内なのだ。
そんな所で単身で動き回るなど死にに行くようなものだ。
だが、そんなセイバーの腕にコードが巻きつけられる。
セイバーはその先のトライアルDを恨めしげに睨んだ。
士郎は闇雲に走った。
その途中でどうにか研究員を脅して二人の居場所は突き止めている。
そこは研究施設の一つだった。
液体の満たされたカプセルの中にフェイトとパピヨンは眠るように入っていた。
それを見た瞬間、士郎は近くに居た研究員に飛び掛っていた。
そして、その胸倉を掴み、怒鳴る。
「一体、何をしている!?」
「貴様は……」
「何をしてるかって聞いてるんだ!」
士郎は投影したブレイラウザーでPCを切り裂く。
それを目の当たりにし研究員は顔を青くした。
「け、研究だ……章印の無いホムンクルスとプロジェクトFの産物……
死を超越した完全なる生命を生み出すために……」
「死を超越……お前達は何を……」
士郎は更に質問を続けようとした時、突如、雷が奔る。
それを咄嗟に士郎は回避した。
だが、研究員は雷に飲まれ、焼け落ちる。
「くっ!」
士郎はブレイラウザーを構え、その雷を放った先を見た。
「やはり、動いていたのね」
プレシアは特に動揺した様子も見せずに士郎の前に姿を現す。
「騙したのか!?」
「当然よ。私の目的は永遠の命……そして、それによるアリシアの復活。
人がアンデッドになる。それは人が永遠の命を手にする鍵になるわ。
そんな最高のサンプルを逃がすわけが無い」
「なら、この二人はどうしたんだ!?」
「章印の無いホムンクルス……それも食人衝動も無いというなら永遠の命の良いサンプルになるからよ。
フェイトは……ついでね。私にとってはもう、何の価値も無いけど。
スポンサーは研究の成果が見たいと言ってきてね」
そこまで聞ければ十分だった。
士郎は迷い無くカプセルを破壊する。
「させない!」
プレシアは士郎を止めるべく雷を放つ。
雷はブレイラウザーを伝い、士郎の腕を焼ききる。
「ぐあああああ!!」
腕を失った痛みに士郎は悶える。
「貴方程度……地球の魔術師が私に敵うが無い」
プレシアはそれで勝利は決したと判断する。
「まだだ!」
しかし、士郎の眼は死んでいない。
「これ以上、抵抗するなら生かしはしない」
プレシアはその眼に危険を感じ、再び雷を放つ。
「(雷……だけど、元を辿ればそれは魔力……)」
士郎はプレシアの動作を見て高速で思考を動かす。
アレに対抗しうる武器。
それを士郎は知っている。
一対一、それも剣術だけで他の介在を許さない真剣勝負を求めた剣士が居た。
歪んだ願望を持っていても、その闘志の原典はただ一つ。
剣の技量のみでの勝負を望んでいた。
一人の剣士としてその願いは、考えは理解でき、同調できた。
故にその再現に失敗は無い。
「投影、開始―――ソードサムライX!」
士郎は日本刀の武装錬金を投影する。
早坂秋水の武装錬金……その特性はエネルギーを交えた攻撃を刀身で受けた時、そのエネルギーを飾り緒から排出する。
士郎はソードサムライXで雷を受け止める。
そのエネルギーは全て飾り緒から排出され霧散した。
「この武装錬金の前に全ての魔法は無力だ!覚悟しろ他次元の魔導師!」
士郎は剣を振るい叫ぶ。
セイバーはトライアルDの追撃を振り切り、どうにか広い場所に出る。
「くっ……一体、何処に」
だが、目的の剣崎の姿は何処にも確認できない。
辺りを見回していると、突如、壁をぶち抜きギャレンが放り出されるように転がってきた。
「橘朔也!一体、どうしたんだ!?」
セイバーは彼を非難しようと考えていた。
彼の指示で入った研究所で敵対していた怪人が存在していたんだ。
それはセイバーにとって裏切りに感じられた。
だが、今の尋常ではない状況でそれを問いただしている余裕は無い。
「セイバーか……くっ、すまない。剣崎を……ブレイドを止めてくれ!」
ギャレンは顔を上げるとセイバーにそう告げる。
その言葉にセイバーは困惑した。
「それはどういう……」
しかし、その言葉は近づいてくる足音で止まる。
重厚なる金属音。
金属のこすれる音。
セイバーは橘がぶち抜いた壁の穴の先を見据える。
そこには金色に輝く黄金の鎧に身を包んだ騎士が立っていた。
「一真……」
セイバーは一瞬、その姿を見て安堵する。
だが、橘の言葉を直ぐに思い出した。
止めてくれ……彼はそう告げていた。
「うおおおおおおお!!!」
突如としてブレイドは咆哮すると凄まじい勢いでセイバーに向かって駆け出す。
「なっ!」
セイバーはギャレンを掴むと即座にその場か飛びのいた。
その直後、彼女達の居た地面にキングラウザーが叩きつけられる。
その刃はコンクリートをまるでバターのように切り裂き、深々と突き刺さった。
「これは一体?」
セイバーはその様子に驚愕する。
その姿に理性というものが感じられない。
アレではまるで獣だ。
「ぐ……すまない。俺はプレシアに騙されていた」
「橘朔也!一体、何があったんだ!?」
「奴は剣崎のアンデッド化を促進させた……その結果、剣崎は暴走している。
恐らく、あいつは今、アンデッドを通じて漏れ出す破滅の存在の魔力に侵されている」
「破滅の存在の……一体、どうすれば?」
「分からない。だが、とにかく今は変身を解除するしかない。
そうすればアンデッドとの融合は終わる」
セイバーはそれだけ聞くと立ち上がり、インビジブル・エアを抜いた。
「まさか、再び……それもこんなに早く貴方と剣を交えることになるとは」
セイバーは躊躇うように剣を構える。
だが、そんな事をお構い無しにブレイドはセイバーに襲い掛かった。
振り下ろされるキングラウザー。
それをセイバーはインビジブル・エアで受け止める。
だが、その一撃はセイバーの予想以上に重かった。
「!」
華奢なセイバーの体はその一撃に耐え切れずに吹き飛ばされる。
壁に激突するセイバー。
壁には亀裂が入り、破片がパラパラと地面に転がった。
「ぐっ……なんて力だ。侮っていた……」
セイバーは吐いた血反吐を拭い、立ち上がる。
予想していたよりもその力は凄まじかった。
油断など一切していない。
だが、先ほどの一撃の重さはバーサーカーよりも上。
まともな打ち合いをすれば先に潰されるのは説明するまでも無い。
「だが、その重装甲では!」
セイバーは悠然と近づいてくるブレイドに対して駆け出す。
ブレイドはそれを迎撃しようと剣を振るった。
しかし、そこにセイバーの姿は無い。
「速度は何時もよりも遅い。それは致命的だ!」
セイバーは側面に回りこむとその胴体に剣を振るう。
ブレイドは反応できていない。
完全な直撃。
それを胴を引き裂く勢いで放つ。
「はああ!!」
裂ぱくの気合と共に放たれた一撃。
だが
「な!?」
その刃はブレイドの体を傷つけることも出来ない。
装甲ではない黒い皮膜に覆われた部分を狙った。
だが、それでもインビジブル・エアは1mmも刃を食い込ませるには至らない。
「あはははは!」
それを嘲笑うようにブレイドはセイバーに対し拳を振るう。
セイバーは咄嗟にそれを腕で防いだ。
その一撃にセイバーは弾のように弾かれ壁に再び激突する。
セイバーは朦朧とする意識の中でブレイドを見る。
彼の鎧には一切の傷はない。
だというのに、セイバーは既に満身創痍という状態だ。
「速度は落ちていても……鎧の強度は上がっている」
元々、ブレイドの持っていた頑丈さ。
それがキングフォームになり跳ね上がっているように感じられた。
真名を解放していないとは言え、宝具の一撃を受けても傷一つ付けられない。
もはや、アレを止めるにはエクスカリバーを使う以外には無い。
だが、その一撃は剣崎の命ごと彼を断ちかねない。
しかし、このままではなぶりごろされるだけだ。
「どうすれば……」
セイバーは答えが出せぬままに迫るブレイドを見上げていた。
振りかぶられるキングラウザー。
それでもセイバーは剣を構えられない。
「貴方の救ってくれた命だ……貴方を失うぐらいなら」
セイバーは眼をつぶり、覚悟を決める。
「させるかぁああ!!」
だが、キングラウザーはセイバーに届かない。
「なっ!?」
セイバーは眼を見開き、驚く。
眼前に立ちふさがるのは士郎の背中。
その彼の背中からはキングラウザーの刃が突き出ていた。
「シロウ!」
悲鳴に近い声でセイバーが叫ぶ。
その光景に覚えがある。
バーサーカーとの戦い。
そこでも彼は身を挺して自分を救ってくれた。
「セイバー!!」
士郎は血を吐きながら叫ぶ。
そして、手の甲に記された令呪を構えた。
「剣崎さんを救え!その精神世界に直接乗り込んで、眼を覚まさせて来い!!」
令呪が輝く。
それと同時に剣崎の頭上に精神世界への門が開いた。
そして、セイバーの体はその門へと吸い込まれた。
「ここは……?」
セイバーが眼を開くとそこは草原の只中だった。
空はくすみ、灰色の空が広がっている。
草原の中で見えるのは大きな樹が一つだけ。
そして、それは今、燃え上がり、焼き尽くされようとしていた。
「アレは……」
「アレが剣崎一真の心の樹だよ」
背後よりの声にセイバーは咄嗟にその場を離れ向き直る。
そして、目の前の存在に眼を見開いた。
「貴様は、キング!」
それは聖杯戦争をかき乱し、ギルガメッシュを利用し、破滅の存在の端末をこの世界に召還した最悪のアンデッド。
スペードのカテゴリーK、コーカサスアンデッドだった。
「久しぶりだね、騎士王。まさか、この世界の君が生き残るなんてね」
「何の話だ……それよりも、どうして貴様がここに居る?
貴様は一真に封印された筈だ」
「そうだよ。僕は封印された。だからこそ、僕はここに居る」
「どういうことだ?」
「理解が遅いね。ここは剣崎一真の精神世界だ。
封印されたアンデッドはどうしてか封印したライダーの精神世界に捕らわれる。
君は君のマスターに剣崎一真を救うように令呪に願われた。
その結果として、君はこの世界に送り込まれたんだ」
「精神世界……では、ここに巣食う破滅の存在を倒せば」
「まぁ、暴走は止まるだろうね」
「なら、貴様と問答をしている暇は無い!」
セイバーは即座に心の樹に向かって駆け出した。
「あらら……さて、どうなるかな。今まで衛宮士郎がやり遂げてきたこと……アルトリア、君に出来るかな?」
大樹の近くの草原
そこには黒い影が無数に群がっていた。
それは今までに破滅の存在の眷属として邪気を巻いていた魑魅魍魎。
だが、今のそれは確かな形に近いものを持っていた。
まるで虫のような人型。
「どけぇ!」
だが、それも騎士王の前では有象無象。
剣を振るい、次々と影を切り裂いていく。
「これを全て払えば」
見渡す限りに広がる影の魔物。
セイバーは臆することなくそれらを裂いて突き進む。
「残念だが、これ以上はさせられんな」
しかし、それに立ちふさがる者が現れる。
それは黒い剣でセイバーの剣を受け止めた。
「なっ!?」
セイバーはその姿を見て驚く。
その姿はセイバーそのものだった。
黒いセイバー……
それは破滅の存在に捕らわれ、邪悪な闇に染まった姿。
「どうして貴様が……!?」
それにセイバーは驚愕する。
「私は貴方の別の可能性……いえ、この運命での本来の貴方だ」
セイバーに対して黒いセイバー……セイバー・オルタが告げる。
「本来の私だと?」
「そう、破滅の存在に取り込まれた時点で貴方はその姿に戻ることはありえない。
天翔……破滅の存在を斬るために生み出された剣の干渉が無ければありえなかった」
「だとしてもだ。既に私は解放されここに居る」
「……知らぬ方が良いこともある。貴様は永遠の絶望に染まることなくこの場にて散れ!」
セイバー・オルタがセイバーへと切りかかる。
ぶつかり合う二つの刃と刃。
その技量は互角。
当然だ。同一人物なのだから。
だが、その魔力量は違っていた。
いや、体を構成する魔力量が違う。
「ぐっ!」
セイバーは弾かれる。
どうにか、踏ん張るものの疲労の色は濃い。
「衛宮士郎に召還され、万全の状態ではない貴様に私は倒せない」
セイバー・オルタが告げる。
サーヴァントは術者の技量により、その能力値が変動する。
素人同然だった士郎に召還されたセイバーは生前の力を完全に発揮しているわけではない。
それでも強力であることに変わりは無いが、破滅の存在という大規模なバックアップを持つセイバー・オルタに敵うものではない。
「終わりだ!」
セイバー・オルタはトドメを刺さんと斬りかかる。
だが、それは怪人に阻まれた。
「そうはさせん!」
ビートルアンデッドはオールオーバーでエクスカリバーを受け止める。
「ビートルアンデッド……どこまで邪魔をする!」
「闇を払う英雄の剣……その切り札である俺が諦めるわけが無い」
ビートルは剣を受け止めながらセイバーの方を見る。
「アルトリア……大樹の根元に行け、そこに君が無くした物がある」
そして、告げる。
その言葉にセイバーは面食らったように驚く。
「何を……」
「いいから、行くんだ。救いたいんだろ?」
その言葉にセイバーは少し悩みはしたが従い、走り出す。
大樹の根元
巨大な心の樹
その根元に来たセイバーは眼を疑った。
「あれは……」
その根に刺さる剣には見覚えがあった。
かつて、選定の儀式があった。
王となる者を選ぶ石に刺さった剣。
アルトリアはその剣を抜き、王となり、女性であることを偽りアーサーとして戦った。
「カリバーン……」
選定の為の剣。
その姿はセイバーが無くした王の証そのものだった。
「何故、あれがここに……?」
セイバーは混乱する。
失われたそれが剣崎一真の精神世界で見つかる筈が無い。
それは物理的にありえない。
で、あるとすればあれは紛い物だということだ。
だが、その輝きは見れば見るほどに本物にしか見えなかった。
「それは本物のカリバーンだ」
その声に驚き、セイバーは振り向く。
そこにはコーカサスアンデッドの姿があった。
「何故、貴様が断言できる?」
「それは当然だ。何せ、あの剣を授けたのは僕だからね」
その言葉にセイバーは驚く。
「何だと?」
「カテゴリーKには他のアンデッドには無い役目がある。
それは王の……英雄の選定だ。
システム・アカシャが作り出した生命の幻想。
生きたいという願いが生み出した救世の具現。
英雄とそれが担う武具。
その決定は僕達が行っている」
衝撃の事実にセイバーは愕然とする。
だが、それは符合の証明でもあった。
王の剣……それは破滅という究極の死を超えるために選ばれ英雄にのみ与えられた幻想の力。
「その中でも剣には特別な意味が込められている。
闇を裂き、世界に光をもたらす。
その剣の方向性をもたらされた生命の結晶が僕達スペードスートのアンデッドだ」
「ならば、何故、貴様は人を襲った!?聖杯を利用し、破滅の存在をこの世界に召還した!?」
セイバーが叫ぶ。
カテゴリーKが、アンデッドがそのような存在だというのなら。
何故、あのような愚行を犯したのか?
「僕は飽き飽きしてたんだよ。この詰まらないゲームが」
「何?」
「幾らやっても勝利は手に出来ない。
スペードスートの全てを束ねるような英雄でも結局、破滅の存在には勝てないんだ」
「そんなものやってみなければ分からないだろう!」
セイバーが怒鳴る。
だが、それ以上に殺気を漲らせた視線をコーカサスは送った。
その視線にセイバーは背筋が凍るようなものを感じる。
「やってみた結果だ。だが、僕がどんなに振舞おうともアレを超える英雄は現れない。
なら、いっそ、と色々と試しただけだ」
さっきまでの軽い感じではなく、深い絶望と共にそれは告げられた。
しかし、セイバーにはその言葉が理解できない。
結果?しかし、未だに戦いに決着などついてはいない。
「だけど、今回は非常にイレギュラーが多い。
少しずつだけどありえない未来を描いている。
もしかすれば、君達は運命にすら手が届くかも知れない」
「運命……世界樹の事を言っているのか?」
「そう……世界樹の根元に君達が辿り付いた時。真の絶望を知る。
だけど、多分、それが君達に無限の勇気を与える」
「真の絶望……無限の勇気?」
その言葉の真意は分からない。
だが、それは事実なのだろうと何となく受け入れられた。
「だけど、その前にだ……アルトリア、君は本当の英雄に成らなくてはならない」
「何を……」
「確かに君は多くの失敗をした。その結果に僕は何を言うつもりもないけど。
だけど、今の君は錬鉄の英雄にも劣る。
その為には今一度、覚悟を決めてもらわないといけない」
「覚悟だと……」
戸惑うセイバーにコーカサスは指し示す。
その先には選定の剣があった。
「再び、あの剣を抜け。そして、もう一度、王と成れ」
「王だと……だが、私の国は……」
その言葉に戸惑う。
既に彼女の国は無い。
受け継がれたものはある。
だが、既にそこは彼女の物ではない。
「王とは……ただの領主を指すものではない。
全ての民の代表とし、戦い、明日を切り開く者のことを言うんだ」
「明日を……」
セイバーはその言葉に剣崎の姿を浮かべる。
ただ、自分の心の赴くままに人を愛し、人の為に戦う青年。
その姿はまさしく英雄。
かつての雄雄しかった自分と同じ。
だが、その果ては誰にも理解されない。
「止めろ!」
そこにセイバー・オルタが飛び込んでくる。
やられたのかビートルアンデッドが地面に転がっていた。
「それを抜けば貴様の運命は決定する。
もはや、聖杯に願おうとも歴史は変わらない。
貴様が王であったという事実は確定するんだぞ!」
セイバー・オルタが叫ぶ。
その行為は聖杯を求めたセイバーの全てを否定すると叫ぶ。
その言葉にセイバーは動揺する。
「全てが決まる……」
その先を知る者としてあの時のように軽々しくは抜けない。
全ての生命に対する責任が圧し掛かる。
それを考えると手が震え、動悸が激しくなる。
運命の選択。
選定するは剣自身ではなく。その担い手……
諦めてしまえば良い。
既に戦い抜いた果て。
その死の間際に見ている夢に過ぎないのだ。
再び、王として戦い。
その果てに何があるというのだ?
誰に賞賛される訳でもない。
理解されず、使い捨てられるだけだ。
英雄なんて……
彼は名も知らぬ者たちの為に命を掛けて戦った。
彼は一切の名声も求めなかった。
決して賢い生き方じゃない。
決して恵まれた生活じゃない。
なのに、彼は常に全力で戦い続けた。
そして、その横には多くの仲間が居た。
その誰もが彼と同じ想いを共有していた。
仲間の為に戦い、仲間を救い。
そして、多くの人々の命を護ってきた。
多くの辛い戦いがある。
勝てるかも分からない戦いの連続だ。
ここは剣の丘の延長。
無数の剣と血が染める大地。
だが、それでも独りではない。
どんなに凄惨なる戦場でも孤独じゃないなら戦える!
セイバーは剣の柄に力を込めた。
そして、それを引き抜く。
それと同時に白い光が彼女の身を包んだ。
純白の衣に白銀の甲冑。
今までの無骨な騎士姿とは一転し、それは華麗な姿だった。
例えるなら白百合、呼ぶならば姫騎士。
「それが君の望んだ王の姿か」
その姿にコーカサスが呟く。
その声には落胆と期待が同時に入り混じっていた。
「私に王の覚悟は足りないかもしれない……
だが、この先の破滅に立ち向かう英雄達と共に肩を並べて戦いたい。
この世界の住む多くの生命を救う為に……
再び、王の剣で邪悪を切り裂く!」
セイバーはカリバーンを構え、セイバー・オルタへと斬りかかる。
「騎士だと……笑わせるな!?」
黒のセイバーはエクスカリバーでカリバーンを受け止める。
純粋な武器の質で言えば、カリバーンはエクスカリバーには勝てない。
カリバーンは結局は王の証。
闇を切り裂くべく生み出された星の剣には届かない。
「確かに王ではないかも知れない。
だが!闇を切り裂き、世界に光をもたらす騎士ではあるつもりだ!」
白いセイバーは一気に攻勢へと出る。
体が軽かった。
全ての力を万全に引き出せているのを感じる。
もはや、今のセイバーはただのサーヴァントではない。
この世界の危機を救う為に正式に召還された英霊に近い存在。
もはや、契約は完了し、逃れることは出来ないだろう。
だが、それでも良いと思えた。
剣崎が、士郎が、皆が居るこの世界。
それを護る為にならば再び剣を振るえる。
「闇は光に照らされ消えるが定め!破滅の存在よ、貴様に勝利は二度と訪れない!」
セイバーはカリバーンに魔力を込める。
カリバーン
【勝利すべき黄金の剣】
黄金の閃光を纏い、剣がセイバー・オルタを切り裂く。
闇を裂く一撃。
それは勝敗を決した。
「……多くの歴史の中でその選択を行ったセイバーは貴方が初めてでしょうね」
霧散し、消え行くセイバー・オルタがセイバーに語りかける。
「もし、真の勝利を目指すなら、鞘を見つけなさい。
アレは恐らく貴方の直ぐ傍にある」
それだけ告げるとセイバー・オルタは完全に消滅した。
それと同時に剣崎の精神世界を覆っていた闇は全て消滅していく。
「これで一真の暴走も止まる」
それを見てセイバーは安堵する。
大本を排除したことで破滅の流入は止まったようだ。
「だが、これで君も逃れることは出来なくなった」
そんなセイバーにコーカサスが語りかける。
「いえ、構いません。
今度はその責任、その全てを背負い戦いぬけましょう」
「そうか……だが、君はやはり、王ではないな」
「……王は孤独だ。それを知る私は王を支えるものになりたい。
この時代の王を」
「なるほどね。でも、不義理は働かないようにね」
「なっ!失敬な。それにそもそも私はそういうことを望んでいるわけでは……」
「まぁ、それはともかく……シン・アスカには気をつけるんだね」
「え……?」
その言葉にセイバーは呆気に取られる。
何故、この場でその名が出る。
「彼は剣崎一真に対して、君に対するランスロット……いや、モルドレッドともいえる運命を持っている」
「何を……一真とシンは親友だ。そんな彼が裏切りなど……」
「運命はそれだけ強力なんだ。どんなに願おうとも、どんなに頑張ろうとも、決まった運命は変えられない」
それは呪いの言葉。
運命という名の呪縛は未だに多くの試練を剣の英雄に課す。