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霧雨魔理沙は考えていた。
今の自分の力は不足しているのでは無いかと。
周りの仲間は皆、新たな力を獲得している。
これから戦う敵のことを考えれば自分も何かをしなければ足手まといになる。
火力優先の身としてはこのまま火力不足に埋もれるのだけは嫌だった。

「だから、こうパワーアップとか出来ないかな?」
魔理沙は馴染みの店に顔を出している。
香霖堂
そこは外界からの物品を扱う雑貨屋だ。
ただ、博麗大結界が壊れてからは開店休業状態になっている。
「そう簡単に出来るわけ無いだろ」
店主である霖之助は答える。
彼は魔理沙の持つミニ八卦炉の製作者。
故に魔理沙は自身の持つミニ八卦炉をどうにか強化できないかと頼みに来たのだ。
だが、返答は芳しくない。
「どうしてだ?」
「どうしても何もそれ以上、ミニ八卦炉を強化するのは無理だ。
以前に強化した時以上の材料なんて持ち合わせていないしね」
霖之助の言葉に魔理沙は考え込む。
要は材料が足りないだけなのだ。
ならば、相応の物さえ用意できれば良い。
しかし、それに相応しい物など思い浮かばなかった。
「そもそも、どうして魔理沙はミニ八卦炉を強化なんてしたいんだい?
そこらの妖怪を相手にするには今のままでも十分だと思うけど」
そんな魔理沙に対して霖之助が問いかける。
「そこら辺の妖怪だったらな……それじゃ、済まないのと戦わなきゃならないから困ってるんだろ」
魔理沙はテーブルに頬杖を突き、項垂れる。
「ふむ……なら、戦いを避けるほうが得策だと思うけどね」
霖之助の言葉に魔理沙は顔を上げる。
「そりゃ、避けられるなら……」
「むしろ、どうして魔理沙が戦う必要があるんだい?
戦争が起きているのは知っている。それは完全に遊びじゃない。
それぐらいは分かっているんだろ。だからこそ、装備を強くしようとしてるんだろうけど」
「当然だろ」
「だったら、尚のことだ。力不足なら出しゃばる必要は無い。
君は霊夢と違ってこの地を護る使命がある訳じゃないんだ」
霖之助の言葉を聞き、魔理沙は立ち上がる。
そして、霖之助を指差した。
「生憎だがそういう説教はいらないし、ウダウダ悩むつもりも一切無い!
私は戦うって決めてるんだ」
そして、踵を返す。
「香霖が無理だって言うなら、他を当たるだけだぜ!」
そして、そのままの勢いでドアを開けて外へと飛び出して行く。
その姿を見送って霖之助は溜息を吐いた。
「やれやれ、無鉄砲なところは変わらないか……
だけど、何も考えなしって訳じゃないのか」
霖之助は魔理沙の眼を思い出す。
何時もの興味本位とは違う本気の眼だった。
「気付かない内に成長しているんだな。
これが人間って事なのかもね」
霖之助は笑みをこぼす。















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第五十一話「恋の魔砲」






紅魔館の図書館
「なぁ、お前の母親って高名な錬金術師だったんだろ。何か凄い道具とか無いのか?」
魔理沙は本の整理をしているヴィクトリアに対してなれなれしく声をかける。
「無いわ」
それに対してヴィクトリアは一言で済ませてしまう。
「そんな事無いだろ。そうだ、核鉄の一つでも余ってないか?」
「生憎とあまってる核鉄は無いわ。
それに貴方は魔術師でしょ、核鉄の力が必要だとは思わないけど」
鬱陶しそうにヴィクトリアは答える。
「そりゃ、魔法も使えるけど武装錬金もあればもっと良いじゃないか。
恐らく私の武装錬金なら大砲とか出ると思う」
「知らないみたいだけど核鉄の武装中に魔術行使は出来ないわよ」
ヴィクトリアが溜息混じりに教える。
それに魔理沙は面食らったように驚いた。
「はぁ!?何でだ?」
「詳しい理論は良く分かってないけど、武装中は全ての魔力を武装錬金に対して占有している状態になるらしいわ。
だから、魔術回路に送る魔力は確保出来ないのよ」
「でも、私の魔法は魔術回路を使用しないぜ」
「魔力を利用しているのは同じでしょ。ただ、貴方は失われた魔術に近いってだけ。
魔術回路もデバイスの補助も無く魔術を操っている。
でも、大本を辿ればどれも同じ魔力行使でしか無いわ」
「そっか。まぁ、そう、上手くはいかないよなぁ」
魔理沙は肩を落として落ち込んだ。

「どうしたんですか?」
そんな魔理沙に近くを通りかかったなのはが声をかける。
「ん、なのはか……そうだ!」
なのははなのはの手を取る。
「私にもそのデバイスってのを作れないか?」
「デバイスですか?」
なのはは突然の申し込みに眼を白黒させる。
「そうだ。私にもレイジングハートやバルディッシュみたいな杖があればパワーアップできるはずだ」
魔理沙は興奮した様子で告げる。
「あぁ、それは無理だと思いますよ」
しかし、それをなのはの肩に乗っていたユーノが否定する。
「何でだ?私にもあのカートリッジって奴があれば威力が上げられるはずだろ」
「道理としてはそうですが……そもそも、魔理沙さんが使う魔法は僕達の知る魔法とは系統が違いますから」
「そうなのか?」
「えぇ、僕も気になって調べて見た事があるんですけど、魔理沙さん達地球人の使う魔法について。
根源的なものは一緒なんですが、魔力を形に変える際の方法が違います」
「でも、根源が一緒だったらどうにかなるんじゃないか?」
「そうですね。デバイスを地球人たちの魔法用に調整するか、あるいは魔理沙さんが僕達と同じ系統の魔法を覚えるか……
どちらにしても直ぐに効果を発揮することは無いでしょう」
「確かにな……なのはですらそのレベルなるのに半年近くはかかったんだ。不可能だな」
魔理沙はその言葉を聞いてこの方法を諦める。
「魔理沙さんは強くなりたいんですか?」
そんな落ち込む魔理沙に改めてなのはが声をかける。
「あぁ、流石の私も火力不足を感じててな。この前の戦闘は騙し騙しどうにか凌いだけど……
出来れば、あの怪人どもを吹き飛ばせるだけの力は欲しいな」
不死身の改造実験体を相手に魔理沙の魔法は全くといって良いほどに効果を表さなかった。
それは魔理沙だけではないが少なくとも火力を売りにしていた魔理沙には耐え難い状況ではある。
「私も倒せなかったことは悔しかったです……だから、特訓しかないと思いますよ」
なのはが握り拳を作って力説する。
「……悪いが遠慮しとく」
しかし、魔理沙はその提案を受けなかった。
「えぇ!でもでも、やれるだけの事をやった方が……」
「だから、強くなる方法を探してるんだろ?」
魔理沙はそう告げてその場から走り去って行く。
なのははその後姿を見送るしか出来なかった。

「そんな……このままじゃ、魔理沙さん」
なのはは不安げに呟く。
「まぁ、確実にこのままだと死ぬわね」
そんななのはに突然、声がかけられる。
その声に驚きなのはが振り向いた。
そこではパチュリーが本を片手に立っている。
「パチュリーさん……」
「分かってるでしょ。あいつは完全に力不足よ。
正式な魔法使いでも無ければサーヴァントなんていう規格外の使い魔を持っているわけではない。
ましてやそれらに渡り合えるだけの資質を兼ね備えている訳じゃない」
「でも、魔理沙さんは凄い優秀な魔術師だって」
「それは遠坂凛が言ったのかしら?だとすれば皮肉ね。
魔理沙は神秘が多く残る幻想郷に生まれた。だから、そこに伝わる魔法を習得できた。
だけど、もし、遠坂凛が幻想郷に居たとすれば。
魔理沙なんか比較にならない魔法使いになっていたでしょうね。
それも文字通りの」
「でも……」
「分かっているんでしょ。魔理沙の資質は並でしか無い。
それでも大きな目標が居たから騙し騙しでもあれだけの力を習得できた。
だけど……限界ね。
魔理沙の成長は完全に頭打ちの状態よ。
そりゃ、長い年月を積み重ねれば力は増していくでしょう。
だけど、あなた達のような英雄と共に戦えるほどじゃない」
パチュリーがはっきりと告げる。
それはなのはも薄々と感じていた事だった。
初めて出会った時は魔理沙の方が上だった。
だが、気付けば並び、そして、今は追い抜かしている。
自惚れているなどとはなのはは思っていない。
純然たる事実として魔理沙は弱いのだ。
「魔理沙のことを考えるのなら彼女をこれからの戦いに巻き込むのは賛成しないわ。
破滅の存在……それに関わるような事象は彼女には荷が重過ぎる」
「……でも、あの人は多分、退かない」
「でしょうね。だから、強く言うのよ。多分、貴方の言葉なら聞いてくれるんじゃない?」
しかし、なのははその問いかけに首を横に振る。
「私はまだ、諦めたくありません。だって、魔理沙さんが諦めていないから」
なのはは何かを決心したように頷いた。


博麗神社
完全に倒壊したその場所で霊夢は立ち尽くす。
既に何度か荒らされた形跡があった。
それが連合軍のせいなのか、それとも妖怪達の仕業なのかは分からない。
「復旧は……まぁ、戦争が終わってから考えれば良いか」
霊夢は溜息を吐く。
実際問題、何も片がついていない状況で神社を直す余裕などは無い。
今日は改めて状況を確認しに来ただけだ。
倒壊した日から結局、一度も帰ってくることは出来ていなかった。
その時、霊夢の周囲に霧が立ち込める。
そして、それは一点に集まり形を形成した。
「萃香……無事だったのね」
それは一匹の鬼の少女だった。
その姿を見て霊夢は胸を撫で下ろす。
「久しぶり~。まぁ、人間なんかに遅れを取る筈がないだろ。
ちょっと、野暮用で動いてただけさ」
「野暮用?」
「そそ、殴っても殴っても気が晴れないぐらいに嫌な奴。
そいつが何処に隠れてるのか調べてたのさ」
「嫌な奴……もしかして、破滅の存在?」
「そうそう。この前、あんた達の仲間でアイツから生み出された怪人がその分身を倒した。
それで行動を起こしたみたいでね。ようやく、見つけられたよ」
「で、何処に居るの?」
霊夢は萃香に詰め寄る。
「まだ、完全じゃないんだ。それに今は力も弱ってる。
霊夢を連れて行くほどのことじゃないよ」
萃香は笑いながら答える。
だが、霊夢は少し考え渋い顔をする。
「何か嫌な予感がするのよね……」
「勘かい?確かに霊夢の勘は異変中は当たるけど……
まぁ、だったら気をつけはするさ」
萃香はそう言うと霧になって消えてしまった。
「全く、話なんて聞かないわね」
霊夢は頭をかく。

「おっ、こんな所に居たのか」
空を飛んできた魔理沙が境内に着地する。
「魔理沙か。あんたこそどうしたのよ?」
「ちょっと、色々とな」
魔理沙は霊夢の隣まで歩くと神社を見る。
「こんな状況じゃ。お茶も期待できないか」
「何を言ってるのよ。無理に決まってるでしょ。
暇つぶしだったら紅魔館かアリスの家にでも行けば?」
「いや、そうじゃないさ。ただ、ちょっと懐かしいなって思ってな」
「懐かしい?」
「そんなに前じゃないけど。何もする事が無い日はここでお茶を飲んで、時間を潰して……
刺激が無いなんてぼやいたりもしてたけど」
魔理沙はまだ、幻想郷が結界に隔絶されていた頃を思い出す。
アレから世界は激動を行っている。
刺激しか無い日々。
だからこそ、あの日は遠くに感じる。
「そうね。出来れば私もここでお茶を飲んで、掃除してた方が良かったわ」
霊夢は溜息を吐く。
その表情に逡巡は無い。
魔理沙はその横顔を見つめる。
その視線に気付いて、霊夢は顔を魔理沙の方へと向ける。
「どうしたの?」
「いや……別に何でも無いさ」
魔理沙は視線を神社へと戻す。
その時、轟音が空を包む。
それは次第に大きくなっていった。

「何!?」
霊夢の音に気付いて空を見上げる。
上空から黒い点のようなものが次第に降下してくる。
それは降下を続けながら竹林へと向かい進行していく。
その姿は黒い円盤から人の体が生えているような奇妙な存在だった。
「機械……シンたちが使ってるモビルスーツって奴かしら?」
それを眼を凝らしてみていた霊夢が呟く。
「だったら、まずいんじゃないか?」
「そうね。侵攻されてるのを大人しく見ている訳には行かないわ」
霊夢と魔理沙はその黒い謎のモビルスーツに向かって飛んで行く。


黒いモビルスーツは竹林の前まで進行すると地面に着地した。
そして、円盤状のユニットに装備されている二門の二連装砲を竹林に向ける。
それは躊躇いも無く竹林に向かって発射された。
強力なビームは一つの巨大な光となり、竹林を一撃で消滅させる。
膨大な熱は全てを焼き払い、射線上に残ったのは焼け野原となった黒い大地だけだった。
そして、モビルスーツはゆっくりと前進を始める。
蹂躙した大地を歩んで行く。
しばらく進んだ所で無数の妖怪兎がモビルスーツの周囲を取り囲むように現れる。
そして、一斉に魔力の弾丸をモビルスーツに放つ。
だが、その全てはモビルスーツの周囲に展開された陽電子リフレクターによって阻まれた。
そして、それの反撃として円盤に装備されている無数のビーム砲からビームが放射される。
それは全方位に一斉に放たれ、展開していた妖怪兎の軍勢を焼き払った。
その姿は破壊をもたらす悪魔のように見えた。

「な、何なのよアレ……」
鈴仙は辛うじて残っている竹林の影からその侵略者の力に戦慄を覚える。
地形すら破壊する攻撃力に有象無象を焼き払うほどの火器。
それは侵攻をする為に生み出された人類の悪意の象徴。
「まともにやって勝てるわけが無いわ」
その力を目の当たりにして彼女は足を竦ませる。
この地には永遠亭がある。
故にここを護らなければならない使命が彼女にはあった。
だが、臆病な彼女の性格がそれを躊躇わせる。
人間が侮りがたい敵であることを彼女は知っている。
かつて、一度の敗北が彼女の足を掴み、動けなくする。
そんな彼女の視界の中に紅白と黒白が黒いモビルスーツに向かっていくのが見えた。

「大きいわね」
霊夢はそのモビルスーツに近づき呟く。
そのモビルスーツはシンたちが使う一般的なモビルスーツの全長の二倍ほどの大きさがあった。
「まずいぜ。幾らなんでもこいつを野放しにしたら被害が尋常じゃなくなる」
魔理沙は破壊跡を見て戦慄し、遠くから見た破壊の光景を思い出し、身震いする。
一瞬の閃光の跡に見知った竹林が消えてなくなる。
破壊規模を考えれば前回の紅魔館防衛戦以上の被害が既に出ている。
もし、あの戦いにこれが投入されていたら戦況は変わっていただろう。
「魔理沙!」
そんな事を考えていた魔理沙の耳に霊夢の怒鳴り声が聞こえる。
それに反応して魔理沙は高速で位置を移動する。
それと同時に無数のビームの内の一つが魔理沙の居た位置を通過する。
後少しでも反応が遅れていたら魔理沙の体はビームで蒸発していただろう。
「ちっ!」
魔理沙は巧みに箒を操り、ビームを回避して行く。
その照射時間は長く、更に一つ一つのビームが移動するために回避しづらい。
そんな必死な魔理沙を横に霊夢は的確に自分に向かってくるビームを回避していく。
「霊符【夢想封印-集-】」
そして、霊力の塊を作り出し、それを一つに纏めて黒いモビルスーツに向かって放った。
だが、それは陽電子リフレクターに阻まれ、霊力は霧散する。
「防がれた!」
それを見て霊夢は驚く。
先ほどの妖怪兎の一斉放射を防がれた時点でリフレクターについては分かっていた。
だが、これほどの力を込めた夢想封印が完全に防がれるとも考えてはいなかった。

陽電子リフレクターにより、夢想封印を防いだ黒いモビルスーツはその挙動を変化させる。
頭部にあたる場所に存在していた円盤状のユニットがせりあがると、それは背部へと移動した。
そして、そこから本当の顔が出現する。
それはインパルスやデスティニーと同じ、角を持ち、二つの瞳を持つ顔。
破壊に特化し、侵略の為の形態から、敵を撃破するための形態へと移行する。
破壊を齎す機械……デストロイが二人の前に立ちふさがった。

「姿を変えた!?」
魔理沙はそれを見て驚く。
姿を変えたのならば行動も変化をするはず。
魔理沙はその動きを警戒した。
デストロイはそんな彼女の前でゆっくりと両腕を持ち上げる。
そして、その指を魔理沙と霊夢に向けた。
瞬間、放たれたのはビーム。
合計十本のビームの帯が放射される。
魔理沙と霊夢はそれを回避する。
だが、腕と指の稼動範囲に照射されるそれは二人を次第に追い詰めて行く。
「このっ!夢境【二重大結界】」
霊夢は札を取り出すと自身と魔理沙を護るように巨大な結界を配置する。
それはデストロイのビームを防ぎ、二人は辛うじて直撃を免れる。
「無茶苦茶だ。こいつ……躊躇いもなんもなく全力で攻撃してきやがる」
魔理沙は結界に防がれても尚、攻撃を繰り返すその姿に恐怖する。
叩き潰すことに躊躇いが無い。
全力を持ってこちらを殺しにかかってくることが分かる。
こちらが完全に押されていると言うのに敵の方が必死に感じるほどだ。
「魔理沙……今の内にあんたはアイツを破壊して」
霊夢が結界を維持しつつ、霊夢が告げる。
その言葉に魔理沙は驚く。
「だ、だけど。あいつは夢想封印すら防いで……」
「だからでしょ。パワーで押すのがあんたの流儀。ここで生かさないでどうするのよ?」
霊夢の言葉を受けても、魔理沙は逡巡した。
恐いのだ。
自分の力が通じないかも知れないのが。
自分の持てる全てを賭けてマスタースパークを撃った所で通じないかもしれない。
そうなってしまって自分はそれでも戦っていけるのか。
だが、ここで退いてしまえば……
「魔理沙?」
「……分かった。やってやるぜ!」
魔理沙は意を決してミニ八卦炉を取り出す。
そして、それをデストロイへと向けた。
自分の持てる魔力の全てをそれに込めて行く。
「通じてくれ……恋符【マスタースパーク】」
ミニ八卦炉から解き放たれる魔力。
それは眩い光となり、デストロイへと放射された。

しかし、それは全てデストロイの陽電子リフレクターの前に弾かれる。
魔理沙のもてる魔力の一撃は科学の光の前に敗北した。
「なっ……」
その結果に魔理沙は愕然とする。
その手からミニ八卦炉が零れ落ちた。
動きの止まる魔理沙。
それに向かって、デストロイは口から赤い閃光を放つ。
その光は的確に魔理沙を捉えた。
魔理沙は呆然とその光を見ていることしか出来ない。

閃光が止み、次に魔理沙の視界にデストロイが見える。
「生きて……」
魔理沙は自分が生きていることに驚く。
「全く、ぼうっとしてるんじゃ無いわよ……」
視界の横からかすれるような声が聞こえる。
それに驚き魔理沙はその方を向いた。
そこには腕から血を流す霊夢の姿があった。
「霊夢!?まさか、お前、私をかばって……」
「はぁ……私も焼きが回ったわね。
柄にも無くあいつらの影響を受けてたのかしらね……」
霊夢は傷の痛みに耐えながら笑う。
その表情は何処か嬉しそうだった。
「私を庇ったって、私はアイツを倒せない。
全力の魔法が届かなかったんだ……私にアイツを倒す事なんて……」
「別にそうじゃないわよ……友達を助ける。それは普通なんでしょ?」
霊夢の言葉に魔理沙は眼から涙が滲むのが分かった。
こんな状況だと言うのに
魔理沙は嬉しかった。
霊夢から改めて友達だと言われたことが。
「そうだ。普通だ。友達のために体を張ることなんて」
魔理沙は霊夢の手を掴む。
「私も戦いたいんだ。最初はただの興味本位で危険だったら逃げるつもりだった。
だけど、どいつもこいつも誰かの為に必死で……それが眩しかった。
お前もそいつらみたいに遠くに行ってしまったみたいで……恐かった。
追いつきたいんだ。ずっと必死だった。
私はお前の横に居たい……ただ、それだけだ!
ただ、それだけが私の戦う理由だ!」
魔理沙は霊夢に気持ちを吐露する。
必死に抗ってきた。
自分の才能の限界を感じても、それを努力で超えてきた。
それすらも届かなくなっていった。
魔理沙は目の前の悪夢を睨む。
それはトドメを刺そうと光を放とうとしていた。
だが、それは天空より放たれた光の一撃が遮断する。

「魔理沙さん!」
上空より現れたなのはが魔理沙に向かって何かを放り投げた。
魔理沙はそれを掴む。
それはミニ八卦炉だった。
今までのそれとは違い装飾の一部に金色の装飾が施されている。
「これは!?」
「香霖堂さんが魔理沙さんの為に作ってくれた新しいミニ八卦炉です。
ただ純粋に魔力を力に変えるためだけに特化した魔理沙さん専用の力」
「香霖……なのは……ありがとな。おかげで……まだ、戦える!」
魔理沙は新たなミニ八卦炉をデストロイへと向ける。
そして、魔力を収束し始めた。
炉の中で魔力が回転し、エネルギーを増大させていく。
周囲に存在する、森羅万象全ての魔力がミニ八卦炉へと注がれていくのが分かった。
蒐集はよりスムーズに行われ、膨大な力へと変換されていく。
今までではありえないほどのエネルギー。
されど、ミニ八卦炉はそんな力を受けても安定している。
そして、魔理沙の持つ魔力も全て炉へと注がれ増大して行く。
膨れ上がって行く力に魔理沙は恐怖すらも覚えた。
だが、これだけの力ならば行けるという確信も同時に覚える。
霊夢と共に戦いたいという気持ちが、想いが更なる力を発揮して行く。
ミニ八卦炉すら鳴動するほどのエネルギーへと変わって行く。
「これが……私の新しい魔砲。
恋心【ファイナルスパーク】だ!」
そして、魔力は全て解き放たれた。
万物を飲み込む極大の閃光がデストロイへと注がれる。
それは陽電子リフレクターを粉砕し、その装甲を焼き尽くして行く。
そして、閃光の果てに残ったのは装甲を溶解させ、行動不能となり立ち尽くすデストロイの姿だけだった。


香霖堂
店主である霖之助と凛と士郎の姿があった。
「草薙の剣をベースに魔力の収束、砲撃にのみ特化したマジックアイテム。
人の持てる道具としては最上級ね」
凛が生み出されたミニ八卦炉について言及する。
霖之助は最初に草薙の剣の刀身に使われているヒヒイロカネを用い、ミニ八卦炉を生成した。
それになのはとユーノ、凛が協力し、魔力の収束と砲撃に特化する術式が組み込まれる。
だが、それだけではない。
強固な金属を探していた魔理沙の話を聞き、士郎がブレイドのキングフォームに使われている黄金の金属を持ち込んだ。
それを組み込むことにより、強度は想定以上に上がった。
「今の魔理沙にはアレぐらいの力が必要だ。
まさか、こんなにも協力してくれるなんてね。
本当、人間は気付けば成長しているもんだな」
霖之助は感慨深げに呟いた。


「凄い……私達が想定してたよりもずっと強力だ」
なのはは魔理沙のファイナルスパークを見て感嘆とする。
マスタースパークを遥かに超えるエネルギー。
この力ならば間違いなくアンデッドやトライアルも打ち倒せるだろう。

「流石に全部は吹き飛ばせなかったか……
だけど、もう動けないだろ」
魔理沙はスクラップ同然のデストロイを見下ろしながら呟く。
陽電子リフレクターによりかなりの熱量を減衰されていなければ間違いなくデストロイは跡形も無かった。
それだけの力だと魔理沙は感じている。
だが、それでもデストロイは動こうとしていた。
それを見て魔理沙は再び、ミニ八卦炉を構える。

「ステラを虐めちゃ……ダメなの」
その時、突如としてデストロイの眼前に小さな人形が出現する。
それを見て魔理沙は眼を丸くした。
「雛苺!?どうして、ここに!?」
行方が分からなかったローゼンメイデンの第六ドール。
雛苺はただ、デストロイを護るようにその両腕を広げている。


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