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間桐桜は荒れていた。
上城睦月と話してから黒い感情が抑えきれない。
いや、それよりも先だ。
八神はやて……
彼女も桜と近い境遇にあると言える。
孤独な家庭、呪われて縛られた体。
だが、彼女の周りには暖かい誰かが寄り添っていた。
彼女を救う為に全てを捨てて戦う四人の騎士。
そして、手を差し伸べる英雄。
自分に無いモノを持っている。
「許せない……許せない!」
こんなにも苦しいのに誰も助けてはくれない。

そんな桜をフィアは微笑み見守る。
憎悪は心地よく、殺意は甘くすらある。
「なら、破壊しよう。この世界の何もかも」
フィアは優しく語り掛ける。
「そう……救われている人なんていちゃいけない」
桜は焦点の合わない眼で告げる。
「騎士たちを犯し、殺しましょう。彼女の目の前で、徹底的に破壊する。
あの子の大切なものの全てを奪いつくす」
「それはまだ、早い」
「何故ですか?」
桜は殺意をフィアにも向ける。
だが、それを受けてフィアは笑う。
「それをするにはまだ、力が足りない。
まずは私の眷属を連れ戻す」
「ジョーカーですか?ですが、彼は取り込むことは出来なかった」
「予想以上にヒューマンアンデッドの呪縛は強いね。
だけど、それさえ突破すれば直ぐだ。
取り込むのではなくジョーカーとして解放しよう。
相川始なんていう皮を破り捨て、純粋な肉の彼を取り戻そう」
「そうよね。私ですら掴めなかった人の幸せを化け物なんかが掴んで良い訳が無い。
もう一つの聖杯もろとも破壊しましょう」
桜はフィアの提案を受け入れる。
もはや、彼女に一辺の迷いも見受けられない。















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第四十八話「万物の器」






紅魔館の図書館
そこで召還の儀式が行われようとしていた。
「色々と集めてみたけど……大丈夫そうなの?」
パチュリーが凛に尋ねる。
「正直、きついわね……ちゃんとしたギルガメッシュの触媒が残っていればいけたかも知れないけど」
凛はこれからサーヴァントとしてギルガメッシュを召還しようとしていた。
理由はある。
一つは純粋な戦力として。
完全に御しきれるかは不明だが、以前の様子から破滅の存在と敵対しているのは明白だ。
その戦いの間だけでも共闘できる可能性は高い。
そして、もう一つは彼が知っている情報を引き出すことにある。
破滅の存在との戦いでの彼の口ぶり。
彼は間違いなく破滅の存在と戦った経験がある。
だが、そんな伝承は残されてはいない。
その真偽を確かめるためにもどうしてもギルガメッシュに問いただしたかった。
だが、凛にはギルガメッシュを召還できるのか不安があった。
ちゃんとした触媒を用意することが出来たのなら、召還は成功するだろう。
だが、それを用意する時間も資金もコネも無い。
それに自分自身とギルガメッシュの相性が良いとはとてもではないが思えなかった。
相性が左右する以上、どうしても博打要素が高くなる。
「まぁ、失敗しても前回のアーチャーが呼び出されるだけじゃないの?」
そんな不安を察したのかパチュリーが声をかける。
「……いえ、多分、あいつはもう、召還できないと思います」
しかし、凛はそれを否定する。
守護者エミヤ……
彼は現在、この時間軸に置いて、明確に行動している。
幾ら本体ではないとは言え、それを召還できるとも思えなかった。
しかし、尻込みを続けていても仕方ない。
意を決して凛は召還の儀式を行う。

その時、何か違和感を凛は感じた。
だが、それに集中を乱すわけにはいかない。
召還の儀式は続行され、そして、成功した。

「まさか、再び現世に呼び出されるとはな」
金色の鎧を身に纏いし不遜なる王は腕を組み、仁王立ちで凛を見下ろす。
「それも貴様がマスターだと……」
不満げにギルガメッシュは眉をしかめる。
「えぇ……そうよ」
凛は内心で驚き、パニックになりながらも、表面では冷静を取り繕う。
この中で恐らくギルガメッシュの召還が成功したことを驚いているのは彼女自身だろう。
「あれからたかが一ヶ月ほどで再び聖杯戦争が起こったことも驚きだが。
まさか、貴様が我を召還するとはな」
「必要だったからしただけよ。英雄王ギルガメッシュ、貴方には聞きたいことがあるわ」
凛はギルガメッシュを挑むように見る。
「王に対して質問とは余りにも不遜だな。雑種よ」
「不遜にだってなるわよ。何せ私達は死の概念を超越しなきゃならないんだからね」
「ほう、この我ですら辿りつけなかった真なる不老不死にたどり着こうと言うのか?」
「えぇ、世界を殺す気はないの。教えてもらうわよ。
貴方が知っている歴史に記されていない真実を」
「記されぬ歴史か……良いだろう。特別に語ってやる。
お前達はどうやら、真実を知る段階へと至ったらしいからな」
ギルガメッシュはそう言うと歩を進め、近くにあった椅子に腰をかける。
「では、お前に語ってやろう。俺の支配していた本当の国についてな」
そして、ギルガメッシュが語り始める。

かつて、世界は一つだった。
比喩などではなく、次元宇宙など存在しない一つの広大な世界がそこにあっただけだ。
そこに王国はただ一つ。
治める王ももちろん、一人だけだった。
そこでは破滅の存在に対抗する手段が日夜研究されていた。
その中心となったのはアルハザード。
そこで数多くの宝具が生み出されていった。
道具だけではない、戦士も多く研鑽されていた。
主に遠距離戦闘を得意とする魔導師を生み出すミッドチルダ。
近接魔法を得意とする騎士ベルカ。
王の統治の下、数多くの英雄が生み出された。
そして、全ての準備を整え、全ての力を結集させ、破滅の存在と対峙した。
結果だけを告げれば敗北だった。
破滅の存在の力は大地を破壊し、次元を崩壊させた。
王の大地は分断され、数多の世界へと分離。
そして、残されたのはもはや魔力も殆ど残らぬ荒れ果てた大地だけだった。
それだけの代償を払い、破滅の存在に対して痛手を負わせることも出来ず、再び封じ込めるのでやっとだった。

ギルガメッシュは語り終え、一息吐く。
ギルガメッシュにとっても心地の良い話ではない。
それ故に彼は不機嫌そうだった。
だが、その話を聞いていた凛は何も言えなかった。
「ちょっと待って……ミッドチルダ、ベルカ、アルハザード……それって、別次元の話じゃ」
「言った筈だ。破滅の存在の力は次元すらも引き裂いたと。
次元世界と言ったか、あれは破滅の存在が世界を引き裂いて生まれた隙間だ。
そして、ミッドチルダもベルカもお前の知るそれの事だ」
「それじゃ、あの世界も元を辿れば同じ人間って事?」
「当然だ。人間はヒューマンアンデッドを始祖とした生物のことを指す。
次元世界で隔たれていようとそれは変わらぬし、当然のようにシステム・アカシャの影響を受けている」
「システム・アカシャ……貴方もその存在を知っているのね」
「当然だ。そもそも、英霊の座と呼ばれるシステムもまた、システム・アカシャの一部。
あれは破滅の存在を打ち倒すためだけに神々が作り出したものだ」
「神……か。人類誕生以前から存在してるって以上、それしかありえないわよね」
凛は改めてそう告げられて溜息を吐く。
「でも、あんたも良くミッドチルダやベルカのことを把握してるわね」
「ふん、キングからな。分断され滅んだと思っていたがまさか、その力を維持して現代まで伝えているとは思ってもいなかったがな」
「キング……コーカサスアンデッドのことね。何故、彼はそんなことまで知りえていたの?
そもそも、一万年前に封印されていた筈のアンデッドが何故、貴方の王国の事まで知っていたのかしら?」
「知らんな。奴らが何を知っていようと我は遅れを取るつもりは無かったからな」
「はぁ……それじゃ、何も知らないのね」
ギルガメッシュの言葉に凛は落胆する。
だが、知りえた情報はそれなりにある。
しかし、そのどれも破滅の存在を倒すに至りはしない。
そもそも、ギルガメッシュは敗北したのだ。
それが事実ならば自分達程度の力で倒す事など不可能だということだけだ。


相川始とイリヤは間桐桜の行方を追い、街を捜索していた。
「居ないわね」
だが、それといった成果は無い。
「だが、予想以上に破滅の存在の侵食は甚大だな」
始は捜索の中で払ってきた魑魅魍魎を思い出す。
街は戦争により呼び込まれた戦いと死の臭いが充満していた。
人々の不安や恐怖がそれらを煮詰め、見えない闇を生み出して行く。
破滅の存在の影響もあるのか、街全体が良くない方向へと進んでいた。
「一度、フェイトが上城睦月を発見したくらいか」
パピヨンとフェイトがレンゲルと交戦したという情報は既に回されている。
現在、街を探索しているのは彼ら以外には剣崎と士郎、セイバー、それに翔だけだ。
「錬金戦団が連合軍と行動を共にしていたって聞き捨てならない情報もあったけど。
彼らに秘匿組織としての意識が無くなったのか……それとも」
イリヤは他に報告のあった情報を考える。
連合軍が錬金戦団と協力しているのなら、これからの妖怪との戦いの錬金の戦士が投入される可能性はある。
一般的な戦士なら問題は無いだろうが戦士長と呼ばれる存在は次元が違う。
魔術師ならばサーヴァント級の魔術を扱えなければ戦いにすらならないだろう。
「厄介だな。だが、そろそろ日も暮れる。一旦、帰ろう」
「そうね。一度、屋敷に戻って夜に備えましょうか」
もし、桜が行動を起こすのならば夜の可能性が高い。
だが、そうなれば狙われるのは妖怪の筈だ。
人間よりも純粋な魔力に近い存在。
餌として間桐桜がそれらを求める可能性は高い。
そんなことを考え、二人は帰路に着こうとする。
だが、そんな二人の前に闇が蠢いた。
「下がって」
先に始が反応し、イリヤを下がらせる。
それと同時に変身を行う。
「仮面ライダーカリス……いえ、ジョーカー」
闇の中から桜が浮かび上がる。
カリスはそれに対して距離をとりつつ、警戒をする。
不用意に近づけば闇に飲み込まれてしまう可能性がある。
この状況で捕らわれれば助かる手段は無いだろう。
「そんなに警戒しないで下さい。私と貴方は同じじゃないですか?」
桜は不敵な笑みを浮かべてカリスに話しかける。
「何?」
「貴方は破滅の存在によって生み出された眷族。
私も彼女と共にある仲間。
貴方が立つべき場所はそちらではない。私の横の筈よ」
桜は手を差し出す。
「くだらんな。俺は確かにジョーカーだ……だが、破滅の存在の仲間などではない!」
始は一切の迷いも無く言い切った。
「……ヒューマンアンデッドの呪縛は強力みたいね」
冷めた視線を桜はカリスに送る。
「呪縛だと?」
「何故、ジョーカーである貴方が人としての意思を持ったのか考えた事がありますか?
全てはヒューマンアンデッドの罠にしか過ぎないんですよ?」
その言葉に始は少なからず動揺する。
その様子を感じ取り、桜は満足げに薄く笑う。
「ヒューマンアンデッドはわざと封印された。そして、封印状態からジョーカーの精神へと侵食した。
スパイダーアンデッドが上城睦月にとった手段と同じね。
一つ違うとすれば、ヒューマンアンデッドの持つ力はスピリット。
その名の通りに精神に影響を与える力。
それは存在し得ないはずのジョーカーの精神すら生み出した」
「存在……しない?」
「そう。貴方が人間を護るのも、全てはヒューマンアンデッドに仕組まれたに過ぎない。
貴方の本質は闇。全てを飲み込み破壊する破滅の相。
与えられた仮面を外して、私達の元に来なさい」
桜はゆっくりと歩み寄る。
だが、始は身動きをとらない。
「始!」
イリヤが叫ぶ。
だが、始は反応しない。
桜から伝えられた事実はそれほどまでに始に重くのしかかる。
「俺は……」
今のこの気持ちは偽りなのか?
ヒューマンアンデッドによって植えつけられただけの感情なのか。
疑心暗鬼が精神に隙を作り、その隙間を闇の触手が入り込む。
「うあああああああ!!」
絶叫する始。
それと同時にカリスの姿はジョーカーへと切り替わった。
それは始の心が闇へと屈したという事。
「うふふ……残念でしたね。もう、貴方を護るバーサーカーは存在しない」
桜はイリヤを睨み付ける。
それと同時にゆっくりとジョーカーがイリヤへと歩み始めた。
「そんな……」
絶望がイリヤを襲う。
もはや、救う手立ては存在しないのか
ジョーカーの刃がイリヤ目掛けて振り下ろされた。

「させるか!」
そこへ突如としてブレイドが躍り出る。
そして、ブレイラウザーで刃を受け止めた。
「一真!」
「大丈夫か、イリヤちゃん!?」
剣崎はキックでジョーカーを一時的に吹き飛ばす。
そして、改めてブレイラウザーを構えた。
「始……どうしたんだ。その姿は?」
剣崎は狼狽する。
ジョーカーの姿を拒絶した筈の始がその姿で居ることも
イリヤに攻撃を仕掛けるなんてこともありえない筈だった。
「ダメよ。一真……始は知ってしまった。自分の心がどうやって作られたのか」
「何?」
「ジョーカーに心を植えつけたのはヒューマンアンデッド。
だから、始は自分の心が信用できなくなった」
「……そうか」
剣崎はその言葉を聞き、静かに頷いた。
「もし、その心がヒューマンアンデッドによって作られたとして……それが何だって言うんだ?」
そして、始に対して問いかける。
「何を馬鹿なことを。その心が偽り」
「黙れ!」
剣崎は桜の言葉を遮り叫ぶ。
「そんなの切欠に過ぎないんじゃないのか?
別にジョーカーだった時の記憶が無いわけじゃないんだろ!?」
ジョーカーがブレイドに斬りかかる。
ブレイドはそれを受け止める。
「全てを覚えていて……それでもジョーカーであることを良しとしなかったんだ。
それに変わることの何がいけないんだ?」
ジョーカーは一旦距離をとると両手の刃に緑色の魔力を込めて、それを放つ。
ブレイドはそれをブレイラウザーで切り払う。
「俺だって多くの人たちと出会って変わってきた。
シンとぶつかりあったり、カズキやなのはの姿に励まされてきたり、士郎に支えられたりしてきた。
そして、お前と友達になれた!」
魔力の刃を弾いた隙にジョーカーはブレイドの胸部を切り裂く。
だが、その衝撃にブレイドは怯むも耐え凌ぐ。
「俺もお前も最初は敵同士だったけど、今は違う!
切欠はヒューマンアンデッドだったかも知れない。
だけど、そこから変わることを選んで、変えてきたのはお前自身の筈だ。始!」
ブレイラウザーで両手の刃を弾き飛ばす。
ジョーカーに無防備な隙が出来る。
「お前がイリヤちゃんと共に歩んできた世界は、時間はそんな簡単に捨て去れるものじゃ無いはずだ!」
剣崎はジョーカーの顔面に拳を叩き込んだ。
その衝撃に怯み、ジョーカーはよろける。
「けん……ざき……」
ジョーカーは顔を抑えながら呻くように声を出す。
「始!意識が戻ったのか!?」
「俺は……馬鹿だ。心を……理解できてなかった」
「そんなの誰だって一緒だ。誰だって間違って、失敗して、それでも前に進んでいくんだ」
「あぁ……そうだな。だが、俺は……もう、押さえられない……」
「諦めるな!破滅の存在に負けるな!」
剣崎が必死に呼びかける。
だが、かろうじて始は意識を繋ぎとめているに過ぎない。

そんなブレイドをフィアは上空から奇襲する。
放たれる黒き風。
だが、それは風の刃が撃墜する。
「相変わらず無粋だな。破滅の存在!」
セイバーが剣崎を護るように立ちふさがる。
「セイバー……丁度良いわ。もう一度取り込んであげる」
それを見た桜は黒い陰を伸ばして、セイバーを取り込もうとする。
だが、セイバーはそれから距離をとり回避する。
「桜か……一真、ここは一旦、退きますよ」
「そんな……だけど、始が!」
「今の私達で何が出来ると言うのです。大丈夫、まだ、手立てはある筈だ」
セイバーの言葉に剣崎はしぶしぶ、頷く。
そして、イリヤを連れてその場から撤退して行く。

「追わないの?」
桜はそれを見送るフィアに尋ねる。
「今はジョーカーを完全に手中に戻すことに集中するわ。
予想以上……本当に予想以上よ。厄介なものね、人の心と言うのは」
今も頭を抑えうずくまるジョーカーを見下ろし、フィアは笑う。
だが、その眼には怒りの感情が見えた。


「一体、どうすれば良いんだ!」
剣崎は悔しさを紛らわすように壁を叩いた。
まだ、完全に始はジョーカーに飲まれていない。
だが、破滅の存在と一緒に居る以上、それも時間の問題だろう。
「落ち着いて下さい、一真。貴方が焦ってしまっては助けられる者はいなくなる」
そんな剣崎をセイバーが宥める。
「そうだな……諦めてたまるか。なぁ、イリヤちゃん、何か良い手立ては無いのか?」
剣崎はイリヤに助けを求める。
剣崎には打開案は思いつかない。
だが、数多くの魔術の知識を持ち、そして、始と多くの時間を過ごした彼女なら何かが分かるかもしれない。
「……カテゴリーKを封印するしか無いわ」
「何?」
「始は言っていた。カテゴリーAの力でジョーカーの本能を抑え込んでいるって……
それは事実の筈よ。現に橘朔也はアンデッドを封印することで破滅の存在の侵食を防いでいた。
始は現在、カテゴリーK以外のハートスートのカード全てを揃えている。
そこにカテゴリーK程の力が加われば……恐らく、防げるはずよ。破滅の存在の力を」
イリヤが語る。
だが、その言葉に剣崎とセイバーは苦々しい表情を浮かべる。
もし、それで打開できるとしよう。
だが、今からカテゴリーKを発見できるのか。
そして、封印して間に合うのか。
「何も手が無いより……ましか」
剣崎はその決断する。
残るアンデッドは少ない。
これから暴れまわる可能性もある。
だが、今までのカテゴリーKを考えれば一筋縄ではいかない筈だ。

「お~い!」
そこに士郎が走ってくる。
それに気付き、三人は一斉にそちらを振り向いた。
「やっと追いついた」
「すいません、シロウ。緊急事態でしたので」
セイバーは罰が悪そうに士郎に告げる。
「いや、別に気にしてない。あのままじゃ、剣崎さんが危険だったし」
セイバーと士郎は剣崎たちが破滅の存在と対峙しているのを一緒に見ていた。
セイバーが一足速く、その場に突っ込んでいった為に置いていかれる破目になっていた。
「そうだ。さっき、橘さんから連絡があったんだ」
士郎が剣崎の顔を見て思い出す。
「橘さんが!?無事だったんだ」
剣崎はその言葉に少しほっとする。
妖怪との戦争が始まってからずっと音信不通だったのだ。
そう簡単にやられる訳は無いと思っていても不安はあった。
前科もあるし。
「それでどうしても剣崎さんに来て欲しいって」
「俺に?」
「あぁ、BOARD跡地……そこで待ってるって」


「これがトライアルF」
橘は培養液につかるその姿を見上げる。
「ハートのカテゴリーKと人間のデータを下に作られた改造実験体。
今までのトライアルシリーズよりも戦闘力は上昇しているけど、まだまだね」
横に立つプレシアが説明する。
「やっぱり、完成には融合係数の高い人間とそれに適応するアンデッドのデータ。
つまり、仮面ライダーが必要ね」
「つまり、剣崎か……だが、本当に人造アンデッドの完成が剣崎を元に戻すことに繋がるのか?」
「当然よ。アンデッドを生成するプロセスを発見できれば、それを抑止する事も可能。
そうなれば、リスクを無くした状態でキングフォームは運用できるわ」
橘はプレシアの説明に納得する。
これからの戦いを剣崎のキングフォームなしに切り抜けるのは難しい。
それは剣崎も同じ考えだろう。
だから、アンデッド化というどうしようもない問題を解決する必要がある。
そんな事を考えていると橘の形態電話が鳴った。


BOARDの跡地
そこを見て剣崎と士郎は複雑な表情を浮かべる。
「随分と激しい戦いがあったようですね」
セイバーがその惨状を見て呟く。
「あぁ……ここは俺たちが始めて出会った場所。
そして、この戦いが始まったと言っても良い場所だ」
それに剣崎が答える。
「この戦いの始まり……それは興味がありますね」
「元々、俺はここにあったBOARDっていう組織に所属していた。
そこで仮面ライダーとしてアンデッドを封印する仕事に就いていた。
シンはザフトという組織から出向して俺達の仕事を手伝いに来ていたんだ。
だけど、一匹のアンデッドと三機のモビルスーツによってBOARDは壊滅した。
俺とシン、それに翔は全てを失って戦いを始めた。
「そんな状態で俺達と出会ったんですよね」
士郎とカズキと出会ったのもこの場所であった。

そんな風に雑談をしていると建物の中から橘がやって来る。
「皆も一緒だったか」
橘は剣崎以外の顔を確認してそう言う。
「橘さん。今まで一体、何処で何をしていたんですか!?」
剣崎はそんな橘に詰め寄る。
「すまんな。俺はここで人造アンデッドの研究を手伝っていた」
その言葉に剣崎を始めとしてその場にいる全員が驚く。
「人造アンデッドって……一体、どうして?」
「それはお前を救う為だ」
「俺を?」
その言葉に剣崎は困惑する。
「お前自身も薄々とは気付いているだろう。お前の融合は俺や睦月とは違うという事を」
「それは……だけど、それがどうしたって言うんですか?」
「お前の融合係数は高すぎる。それは想定外のキングフォームを生み出した」
橘の告げる言葉に剣崎は息を呑む。
「想定外……やっぱり、あの黄金の騎士の姿はありえない現象なのね?」
イリヤが横から橘に尋ねる。
「そうだ。本来のキングフォームはカテゴリーKとの融合形態だ。
だが、剣崎のそれは13体のアンデッドと融合した。
俺や睦月が使ったとしてそんな状態にはなりえない」
「でも、それは想定よりも強い力が手に入ったって事じゃないのか?
だったら、悪いことなんて……」
士郎が発言する。
彼自身もひっかかりは感じている様子だった。
だが、その考えを押し込めて尋ねる。
「士郎……強すぎる力はそれ相応の代償があるもの。
朔也の様子からしてそれは絶対でしょう」
そんな士郎にセイバーが言い聞かせるように告げる。
「そうだ……キングフォームをこのまま使えばお前は……アンデッドになる」
その言葉に全員が息を呑む。
「それも予想ではジョーカーと同質のモノにな」
「ジョーカーと……それは破滅の存在の眷属になるって事?」
「いや、そう言う訳では無いはずだ。能力としてジョーカーなだけで死の概念を纏うわけではない。
だが、お前は未来永劫死ぬ事は出来ず。アンデッドというシステムに捕らわれ戦う運命になる」
「バトルファイト……俺もその仕組みに入るって事ですか?」
「そうだ……あのシステムは後付のアンデッドすらもシステムに組み込む。
破滅の存在がジョーカーを作り参戦したようにな」
その言葉に剣崎は黙る。
「だが、それをどうにかする手段はある。その為に人造アンデッドの研究が行われている。
破滅の存在と戦う上でキングフォームの力は不可欠になるだろう。
それはお前自身が良く分かってるはずだ。
お前をアンデッドにしない為にしばらくの間、お前の体を研究する必要がある」
「ありがとうございます……俺の事を心配してくれて。
だけど、今はダメなんです」
「どういうことだ?」
「今、始が破滅の存在によって昔のジョーカーに戻されようとしている。
それを防ぐ為にどうしてもカテゴリーKが必要なんです。
だから、俺はそれを見つけるまでは一緒にはいけない」
「何だと……相川始が」
その言葉を聞いて橘は考える。
そして、何かを決意すると顔を上げた。
「ハートのKならこの研究所に存在している」
「えっ!?」
「元々、ハートのKは解放を免れていた。それを今でもBOARDが保管していたんだ」
「それじゃあ!」
「本来、ジョーカーである相川始にカードを渡すことなど出来るはずも無い」
その橘の言葉にイリヤが視線を強める。
それは剣崎や士郎も同じだった。
その様子を見て、橘はふと笑う。
「だが、ここであいつを見捨てると多くの恨みを買いそうだな。
ハートのKはお前に託す。
だが、この事が終わったなら必ずここに戻ってきてくれ」
「ありがとうございます!」
剣崎は橘に感謝する。
それはイリヤも士郎も同じだった。
もはや、相川始は仲間なのだ。
それを見捨てるなどという選択肢は無い。


相川始はジョーカーの本能とも言うべきものと戦っていた。
普通の生命ならば生きる為に行動する。
だが、ジョーカーは死をばら撒く本能がある。
生ある者を襲い、死をもたらす事こそが行動基準。
そこに理性などは無く。
ただ、野生の如く、意味も無く、殺す。
だが、始はそれを許さない。
意味も無く何かを殺し、世界を破壊することなど許容できなかった。
この世界に生きる生命がどれだけ強く生きているのかを知っているから。
人が強く誇り高いと教えてくれた友がいた。
人を愛することを実感させてくれる少女がいた。
代償として求められていると分かっても、それでも、尚、愛おしかった。
そんな心を否定することはもう、出来はしない。

「しぶといですね」
桜は今も必死に本能に耐えるジョーカーを見て呟く。
「受け入れてしまえば楽なのに……どうして、そんな人の心にすがるんですか?
人の心なんて素晴らしくない。これほど、醜く濁ったものなんて存在しないのに」
桜には必死に人の心にしがみつく獣の姿が滑稽に見えた。
もっていなかったから眩しく見えるだけ。
そんなモノにどれほどの価値があるというのか。
「君は……悲しいな」
始はそんな桜に対してかすれた声で告げる。
「……貴方に何が分かるんですか?人の良い面しか見ていない癖に!」
その言葉に桜は激昂する。
「そんな事は無い……人は争いあい、時には身内にすら刃を向ける」
始は知っている。人は綺麗ごとばかりでは無いと。
良く知る少女は愛を知らなかった。
父に裏切られ、それでも父の愛を求めていた。
故に得られないそれを持っていた兄を恨み、殺そうとも考えていた。
ある少女は母親だと信じていた女に裏切られた。
都合で生み出され、役立たずとののしられ、挙句に捨てられた。
他にも多くの負の面を見てきた。
だが、それよりも強い輝きも持っていることを知っている。
例え、争いあった敵だとしても救える。
分かり合い、互いに絆を結べる。
その繋がりを、強さを持てる心を……始は望んでいた。
「どうして信じられる……貴方が友だと思っていた人もずっと護ってきた人も貴方を見捨てて逃げたんですよ。
貴方は見捨てられたんだ……なのに!」
「俺は……あいつらを信じている。そして、あいつらも俺を信じている。
だから、俺は戦える!」
ジョーカーという姿に落ちても相川始の意思は健在だった。
「カードを引き離しても効果は無い……ラウズカードの状態では侵食も出来はしない」
フィアは始の持っていた12枚のカードを手で弄ぶ。
生命の結晶とも言えるそれは端末にしか過ぎないフィアには破壊する事もままならない。
「もう、いっその事、取り込みましょう。そうすれば、再び門を開ける」
桜がフィアに提案する。
だが、それに対してフィアは回答を渋った。

「そこまでだ!」
そこに剣崎一真がブルースペイダーに乗り、現れる。
「また来たんですか?無駄なことを……お友達が消えていくことを見ることしか出来ないのに」
桜はそんな彼の姿を見て笑う。
だが、フィアは剣崎の持つカードを見て表情を険しくする。
そして、その翼を開いた。
「ハートのK……ハートスートの力で抑え込もうということね」
明らかにその表情は焦りをはらんでいた。
「やっぱり、この方法は効果的って事か」
「全力で阻止する!」
フィアは剣崎からカードを奪い取るべく羽ばたいて加速する。
「変身!」
剣崎はブルースペイダーから降りると変身する。
展開されるオリハルコンエレメンタル。
「邪魔!」
だが、それをフィアは腕の一振りで破壊する。
「なっ!?」
今まで破られたことの無かった無敵の盾が破壊された。
「くっ!」
だが、それはフィアとて代償の無いものではない。
フィアの腕は破壊され、内部から黒い泥のようなものが溢れ出る。
「変身できなければただの人間……生命を束ねし剣の王はここで始末する!」
フィアは残った腕で黒い風を放つ。
「ストライク・エア!」
だが、その風はセイバーの放つ突風が相殺した。
「先走りすぎです!」
セイバーが剣崎を護るように立ちふさがる。
セイバーの剣はインビジブル・エアが剥がれ、エクスカリバーとしての刀身を剥き出しにしていた。
「すまない」
剣崎はセイバーに礼を言いつつ、再び変身を開始する。
「騎士王……だが、英霊であるならば」
フィアはセイバーを見てうろたえる。
だが、そんなセイバーに対して側面から影が伸びた。
「くっ!」
セイバーはそれを飛んで避ける。
「私の前にノコノコ姿を現すなんて……もう一度、取り込まれたいんですか?」
桜は影を展開しながらゆっくりとセイバーへと近づく。

「いや、桜の相手は俺だ」
桜に対し、矢が射られる。
桜はそれに反応できず、その肩口を切り裂かれた。
「……先輩」
桜はその射手を見て呟く。
士郎は投影した弓を持ち、そのまま接近する。
「桜、眼を覚ませ。破滅の存在の言いなりになったら世界が終わるんだぞ!」
士郎が桜に対して叫ぶ。
「世界なんて終わってしまえば良い」
「何でそんな事を言うんだ?」
「五月蝿い……何も知らないくせに……救ってくれなかったくせに」
桜は士郎に対して憎悪を向ける。
士郎はそれに対して一瞬、怯むが毅然と睨み返す。
「なら、今から救う。その呪縛を払ってみせる!」

「セイバー、まずは破滅の存在からカードを取り戻す!」
剣崎はブレイドに変身し、フィアに対して切りかかる。
「はい!」
セイバーもそれに合わせて斬りかかった。
二人の剣の英雄。
その猛攻ですらフィアは凌ぎきる。
「鬱陶しい!」
フィアは腕を振るい、爪で空間を破壊する。
ブレイドとセイバーはそれを回避するが一撃で地面に巨大な爪跡が刻まれる。
「やはり、強い!」
二人係りでも凌ぐ技量。
そして、一撃でこちらを戦闘不能に追い込むだろう破壊力。
単純な強さでも規格外の化け物だ。
「くそ……だったら!」
剣崎はアブゾーバーにクイーンをセットする。
「させない!」
それを見て、フィアはブレイドに対して飛び掛ろうとする。
「こっちこそ!」
セイバーはフィアの爪をエクスカリバーで受け止める。
凄まじい衝撃にセイバーは押されかけるがそれを必死に受け止めた。
「セイバー、すまない!」
剣崎はアブゾーバーにキングをラウズする。
危険性は聞かされている。
だが、それでも使わざるを得ない。
―――エヴォリューションキング―――
13枚のラウズカードは金色に輝き、ブレイドの装甲へと装着される。
仮面ライダーブレイド・キングフォーム
規格外の融合係数が生み出すありえざる力。
それは確実に剣崎の細胞を侵食し、アンデッドへと組み替えて行く。
「うおおおおお!!」
剣崎はキングラウザーを振るう。
その一撃をフィアは爪で受け止める。
衝撃にフィアの体は弾かれる。
「もらった!」
セイバーはその隙を突き、フィアの体に一太刀浴びせる。
フィアの体は傷つき、内部から泥がもれ出た。
「ぐぅ……」
フィアは翼を広げ、距離をとる。
そして、黄金の翼を広げた。
放たれる破壊の光。
「セイバー、後ろへ!」
それに対してブレイドはセイバーを護るように立ちふさがる。
破壊の照射。
大地を抉り、粉砕する一撃。
だが、それはブレイドの鎧を破壊するには至らない。
「返してもらう!始のカードを!」
ブレイドはギルドラウズカードの2から6をキングラウザーでラウズする。
【ストレートフラッシュ】
覚醒した力はキングラウザーとブレイラウザーに注ぎ込まれた。
「ウェイ!」
背部のグラビティジェネレーターを稼動させ、飛翔する。
そして、電撃を纏うキングラウザーとブレイラウザーでフィアの体を引き裂いた。
「あああああ!!」
引き裂かれた体からラウズカードが剥がされる。
「もらった!」
ブレイドはそれをキャッチする。
「始!眼を覚ませ!」
そして、それを始に向かって投げた。

相川始は呆然とブレイドが戦っている姿を見ていた。
薄れて行く意識でその勇姿を焼付け、必死に保ってきた。
そして、遂に掴み取る。
運命の切り札を
【チェンジ】
始はハートのAの力でカリスへと変身する。
だが、それだけでは足りない。
暴走するジョーカーの本能を押さえつけるにはアンデッドでは足りない。
【エヴォリューション】
ジョーカーのバックルにハートのKをラウズする。
Kが持つ力は進化。
生命が持つ究極の力。
それは生存する為に新たな段階へと上る力。
ジョーカーという死を乗り越える為に、始の中のアンデッドの力が進化する。
ジョーカーに封印された13体のアンデッドは、ジョーカーを乗り越えるために進化する。
覚醒する力。
それはワイルド。
13体のアンデッドが一つとなり、ジョーカーと同等の力を発揮する。
それはジョーカーの本能を押さえつけ、完成する。

「……進化した……死の化身たるジョーカーと対を成せる程の生の化身に」
破滅の存在は切り裂かれ朦朧とする意識の中でそれを見る。

「13のアンデッドを一つに合わせ融合する。
それがカリスという聖杯の完成系……万物の器【ワイルドカリス】」
イリヤはその姿を感嘆とした様子で見つめる。
ありえざる力であるキングフォームと同等の存在。
神々すらも超越する生の究極存在。
それが今、ここに誕生した。


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