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聖サンジェルマン病院
錬金戦団が運営する冬木に近い病院。
妖怪と人間の戦争による影響により多くの患者が入院している。
妖怪に襲われた者、冬木の近くの閉鎖された病院から搬送されてきた者。
色々と原因はあるが病院内は常に慌しく、遂この前の出来事であるライダーの襲撃事件の爪跡も見えなくなっている。

そんな病院の一室にはかつて、LXEに所属し武藤カズキ達と敵対した元信奉者の早坂桜花が入院している。
彼女は以前、蒼星石のマスターであり、現在もその器を大切にしていた。
蒼星石は橘朔也の精神世界を侵食していた破滅の存在により、アリスゲームより脱落。
そのローザミスティカは横から水銀燈が奪っている。
既に動かない人形であるがローザミスティカの器足りえる人形に何かあれば問題がある。
そこで真紅と金糸雀。
それに二人のマスターであるジュンとアリスがこの病院を訪れていた。

「でも、大丈夫なのか?」
ジュンが小声でアリスに尋ねる。
真紅と金糸雀は二人が持つカバンの中に居る。
流石に大手を振って連れ歩くわけにはいかない。
「何が?」
アリスが不思議そうな様子で頭をかしげる。
「何がって……あんただって妖怪なんだろ」
ここは妖怪の被害にあった人間が多く入院する病院。
そんな中に問題の幻想郷の妖怪が訪れることに抵抗があった。
「そうだけど。見た目は人間と変わらないわよ。
それに私は人間を襲う理由なんて無いもの。
何も問題ないわ」
アリスは呆れたような様子でジュンの心配に答える。
確かにアリスは服装こそ現代風ではなく目立つ事を除けば問題は無い。
種族の魔法使いも人を食べるどころか食事すらも不要であるので危険性もほぼ無い。
「まぁな……でも、ここって錬金戦団って奴らの一部なんだろ」
「そうね。下手すれば戦闘になるかも知れないわ。
だからこそ、顔が知られていないだろう私達が来たんだし」
錬金戦団とはカズキの再殺指令を機に完全な敵対状態になっている。
再殺部隊の隊員とも何度か戦闘もしており、下手にこの病院に近づけば厄介ごとは避けられないだろう。
だが、ジュンもアリスもその存在を戦団に悟られていない筈だ。
唯一、ジュンをマスターと知っている戦士だったカズキはその戦団に狙われており、
彼はジュンのことを細かく他の戦士に話しては居ない。
不安なジュンを他所にアリスは一足早く桜花の病室に辿りつく。
そして、躊躇いも無くドアを開いた。

開け放たれた部屋の中は空っぽだった。
いや、ベッドに人の姿が無いだけで誰かがここに入院している形跡はある。
留守なのかと判断し、アリスはその病室の中に足を踏み入れた。
そして、周囲を見渡すが肝心の蒼星石の姿が見当たらなかった。
話によれば棚の上に眠るように座っているという話だったが、そこにあるべき者は居ない。
「……居ない」
アリスは言い知れぬ嫌な予感を感じる。
そこでようやくジュンが遅れて病室に入ってきた。
「おい、置いてくなよ」
置いていかれたことをぼやきながら彼も病室に入る。
そして、そこにアリス以外が居ない事に気づく。
「留守だったのか?」
ジュンは特に何も感じずアリスに尋ねる。
そんなジュンとは対照的にアリスの表情は険しかった。
「病院の関係者に聞き込みをするわよ」
「えっ?下手に感づかれると厄介だから不要な接触は避けるんじゃ無かったのか?」
「不要じゃないって事よ……それで良いわよね。カナ、真紅?」
アリスはそう言いながらカバンを床に置き、それを開ける。
中から金糸雀が顔を出して頷く。
「アリスがそういうのなら問題ないかしら」
それにあわせてジュンもカバンを開き、そこから真紅が顔を出す。
「えぇ、散歩に出かけているのだとしてもここに蒼星石が居ないのは不自然よ。
既に私達が後手に回っている可能性はあるわ」
ローゼンメイデンの二体もアリスの提案に賛成する。

そして、聞き込み行い二人は病院の屋上で落ち合った。
「行方不明……」
二人の聞いてきた話は完全に同じ。
早坂桜花は幻想郷の出現により混乱していた情勢の中で突如として行方をくらませた。
その時から蒼星石も一緒に無くなっている。
「原因は何かしらね……」
アリスは口に指を当てて思考する。
四人は顔を突き合わせて考え込む。
破滅の存在が動いたのかも知れない。
もしくは錬金戦団がローザミスティカの手がかりとして回収したのかも知れない。
だが、手持ちの情報だけでは確証は得られない。
悩む四人。
そこに黒い羽根が舞い落ちる。
「!?」
それに逸早く反応したのは真紅だった。
驚き振り向いた先に佇むのは黒いドレスを纏った銀髪のドール。
「水銀燈!」
真紅はそのドールの名を叫ぶ。
「真紅……どうして、ここに居るのかしら?」
水銀燈は険しい表情で真紅を睨み付ける。
「それはこっちの台詞よ。何故、貴方がここに……
まさか、蒼星石の体を持ち出したのも貴方なのかしら?」
真紅も敵対心を隠す様子も無く水銀燈を睨む。
「さぁ……何のことかしら?」
一触即発という緊張した空気が辺りを包む。
「ちょっと待つかしら!」
しかし、そんな空気を破るように金糸雀が叫んだ。
二人の視線が一斉に金糸雀に注がれる。
「金糸雀……貴方も目覚めてたのね」
「久しぶりね……水銀燈、カナたちは今、争うつもりは無いかしら」
「争うつもりが無い……何を言ってるのかしら?
ローゼンメイデン同士が出会ったのであればアリスゲームは始まる。
私達は互いに争いあう宿命にあるのよ?」
水銀燈は金糸雀を見下して告げる。
「そうね。でも、今、協力してくれなかったらあの事を話しちゃうかしら?」
金糸雀は水銀燈の目を見て問いかける。
しばしの沈黙。
その後、水銀燈は目を見開いた。
「……分かったわ。少しだけお話に付き合ってあげる」
唐突に水銀燈は態度を改める。
それに対して真紅とジュンは目を白黒とさせた。
「どういうこと?」
真紅が金糸雀に尋ねる。
「カナには真紅たちが知らない水銀燈の弱みを知ってるってことかしら?」
金糸雀が得意げに語る。
その様子を見て水銀燈は不満げだが特に何も言っては来なかった。
「一番目と二番目の姉妹……私の知らない時間があるってことね」
真紅は少し微笑ましい様子で納得する。














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第四十七話「黒い翼」






八神はやては聖サンジェルマン病院で入院している。
神経の麻痺。
闇の書の呪いとも言うべきものは刻一刻とはやての体を蝕み、予断を許さない状況となっていた。
それに対してヴォルケンリッターたちはなりふりの構わない行動に出ていた。
殆ど休むことも無く蒐集を行っている。
その為にはやての傍に立つヴォルケンリッターは現在、シャマル一人しか居ない。

そんな彼女の病室に見舞い客が居た。
はやてのベッドの隣に、椅子に座り、彼女達はたわいも無い話に花を咲かす。
「へぇ、色々と参考になるなぁ」
はやては上機嫌という様子で笑っている。
「全部、受け売りだけどね」
それに対して見舞い客である桜も笑みを返した。

コンコンと病室のドアがノックされる。
「どうぞ」
それに対してはやてが答えてドアが開いた。
そして、入ってきたのは睦月と光だった。
睦月は病室に居る桜の顔を見て動きを止める。
「何でここに……!?」
睦月は彼女がここに居ることを知らなかった。
いや、桜がはやてと知り合いなのだと知らない。
「あれ?睦月さんの知り合いだったんですか?」
はやても睦月の反応に驚いているようだった。
それを見て睦月ははやての顔を見る。
驚いている睦月の様子にはやては首をかしげる。
「えぇ、上城先輩とは知り合いよ。私は上城先輩がはやてちゃんの知り合いだって知ってたけど」
桜は立ち上がり、睦月の顔をじっと見る。
薄く浮かべる笑みが何を語るのか睦月には分からない。
「そうだったんですか?だったら、教えてくれれば良いのに」
はやてはそんな様子に気付かないのか明るい声で話す。
「ごめんなさい。他の話題で盛り上がって切り出すタイミングを逃しちゃったの」
桜は軽くはやてに謝罪する。
「それと、私は上城先輩にお話があるんですけど」
そして、桜は再び視線を睦月へと向ける。
「お時間は大丈夫ですか?」
その問いかけに睦月はしぶしぶと頷いた。

桜は睦月を連れ立って病室の外へと出て行った。
「あの二人って恋人同士何かな?」
その様子を見てはやてが残された光に尋ねる。
「恋人……?」
しかし、その言葉に対して光は首をかしげる。
「あらら、あんまりそういう話題には興味ない感じですか?」
はやては苦笑いを浮かべる。
残された光に対して話題をふって場を和ませようとしたのだろう。
光は常に仏頂面で余りに他人を寄せ付けない。
そんな彼女に対して気を回せるはやての胆力のほうが大したものだが。
「生憎と人間のことについて興味は無い」
「アンデッド……でしたっけ?」
「そうだ。種の反映を賭けて戦う誇り高き戦士だ。
だから、安心しろ。関係の無い命を奪うつもりは無い」
光は部屋の隅のほうから様子を伺っているシャマルに視線を送る。
それに対してシャマルは体をびくつかせる。
「シャマルもそんなに恐がる必要はないと思うんやけど。
種族が違っても話も通じるし」
はやては笑って答える。
既に光がアンデッドであることは伝わっている。
光自身がはやてに対してその姿を見せたからだ。

初めて睦月がこの病室に訪れた日。
はやてを見た光はタイガーアンデッドの本性を現し襲い掛かろうとした。
それを丁度、その場に居合わせたシグナムと睦月が必死に押さえ込んだ。
だが、二人は傷つき倒れ、タイガーアンデッドははやてを殺そうと手を伸ばす。
それに対してはやては自分の命乞いをするのではなくシグナムと睦月の事を心配した。
これ以上、二人を傷つけないでくれと。
その様子を見て光は興が殺がれたように手を引いた。

「一度、殺されかけた相手に対してよく、そんな口が利けるものだな」
光はそんなはやての様子に笑みを浮かべる。
「何であの時、襲ってきたのかわからへんけど……真剣だってのは分かったから。
殺されるのは嫌やけど、ちゃんとした理由はあるってな。
だったら、話せばきっと分かるって思ったんよ」
「だが、結局、私はお前を殺そうとした理由を話しては居ない。
何時、気が変わってお前を殺すかも分からないぞ」
「まぁ、それについては流石に教えてほしいんやけど」
はやての言葉を聞いて光はシャマルを見る。
シャマルの無言の圧力が強まった気がした。
「教える気は無い。だが、まぁ、今のお前は私の狩るべき対象ではない。
あの間桐桜と同じでな」
光は外へと出て行った二人のことを気にかける。


「何であの時、邪魔をしたんですか?」
病院の中庭で桜は睦月に問いただす。
「何の話だ?」
それに対して睦月は視線をそらして答えた。
「スペードのQ……アレを投げ入れたのは貴方よね」
紅魔館での戦い。
優勢に戦っていた戦況を一変させた原因はそれだ。
ブレイドの失っていたカード。
スペードのQの一枚はまさしく逆転の切り札となった。
「……」
それに対して睦月は何も答えない。
「貴方はどっちの味方なの?光?それとも闇?
どちらにも行く事も出来ない蝙蝠なの?」
桜の問いに睦月は睨み返す。
だが、それ以上は何もしない。
「何も言えませんか……貴方が彼女に構う理由も同じですか?」
「何がだ?」
「あの子を侵食する闇……それは私たちと同質。
破滅の運命から救い上げたいだなんて思ってるんですか?」
「!」
その言葉に睦月は顔をしかめる。
「不可能ですよ。もう、私達は引き返すことなんて出来ない。
それは貴方も同じはずです。
それを忘れないで下さいね……では」
桜は一方的にそう告げると背を向けて去って行く。
睦月はただ、その背中を見送ることしか出来なかった。


睦月はしばらくして病室へと戻った。
病室でははやてが光に対して話をしている。
光はそれに対して相槌を打っていた。
「あ、おかえり」
はやてが睦月に気付いて声をかける。
「あぁ……すまないな。こいつの相手をさせてしまって」
睦月は光を顎でさしてはやてに話す。
「そんな、こっちこそ話し相手になってもらえてよかったわ」
「そうか……同年代の子の知り合いが居れば良かったんだけど」
睦月はそう話しながらなのはとフェイトのことを思い出す。
はやてと同じ年頃の魔法少女。
もし、自分が剣崎たちと敵対していなかったのなら彼女達をはやてと会わせて上げられたのだろうかと考える。
殆ど会話らしい会話はしていない。
だが、カズキたちと仲良く付き合えるような人物ならはやてとも直ぐに友達になれるような気がした。
「どうしたん?」
そんな事を考えている睦月を心配してはやてが顔を覗き込む。
「いや、少し考え事……」
「そうなんか。そう言えば、桜さんはもう帰ってしまったんか?」
「あぁ、用事があるって」
「そっか……出来ればまた、来てくれると嬉しいな」
はやてが笑顔で話す。
睦月が来るまで桜は普通に会話を楽しんでいたのだろう。
一瞬、垣間見た表情は睦月が知る桜とはかけ離れていた。
もしかしたら、それが本来の彼女なのかも知れない。
それをはやてに向けたのは彼女が気付いているからだろう。
はやても桜に近い呪いを受けているということを
「……なぁ、はやてちゃん」
睦月は少し考えて話を切り出す。
「なんです?」
はやてが無垢な様子で見上げる。
穢れを知らない幼い子供。
その子の体は闇の書により縛られている。
このまま放置すれば生きられる時間は少ない。
助かる手段は闇の書の完成だけ。
そして、完成させるためには多くの犠牲が必要となる。
現に既に多くの犠牲は存在している。
一時的に魔力を奪われている魔導師はともかく、妖怪は蒐集の対象となれば消滅の危険がある。
そして、効率と制限時間を考えれば妖怪を襲わなければ間に合わない。
現にヴォルケンリッターは今も妖怪を相手に蒐集を行っている筈だ。
「君は……」
睦月はつい先ほどのことを思い出す。
パピヨンを倒そうとし、それを護るために立ちふさがったフェイト。
彼女は言った。
生きる為でもしてはいけ無い事があると。
ヴォルケンリッターは覚悟済みの行動でも
目の前の彼女はそれを望んでいるのか
「生きる為なら何をやっても許されると思うか?」
だから、尋ねていた。
「え?」
それが騎士たちの行いに泥を塗る行為だと分かっていても
「睦月くん!」
シャマルが睦月の腕を掴み外へと連れ出す。
それに光も続いた。
残されたのははやて一人だけだった。


「どういうつもり?」
シャマルは睦月を問い詰める。
はやてに蒐集のことを告げるのはご法度だ。
それは睦月も知っていた。
「生きる為……そう言えば何をしても許されるのか?」
睦月は逆にシャマルに問う。
その問いにシャマルは苦悶の表情を浮かべる。
「許されるさ」
だが、それに答えたのは光だった。
「強者であるなら弱者を食い物にするのは当然だ。
お前だって生きる為に食らっている筈だろ」
光は当然だという様子で尋ねる。
「それとこれとは違うだろ」
「何も違いはしない。
むしろ、お前は何故、それを疑問に思う。
お前だって生きる為に他者を排除してきた筈だ。
他者を護るという名目でアンデッドを封印し、妖怪を倒してきた」
「それは……」
睦月はそれに言い返す言葉を持たない。
妖怪すらも命とみなせば多くの命を奪ってきたのは事実だ。
「やめましょう」
最初にそう言ったのはシャマルだった。
「今、私達が口論したところで無意味だわ」
「そうだな。どれだけ、言葉を重ねようとも事実は変わらない」
光はそういうとそのまま去っていった。
残された睦月とシャマル。
「貴方の考えも分かるわ……でも、その事をはやてちゃんだけには伝えないで。
全ての責任は私達が持つから」
シャマルは念を押すように睦月に告げる。
それに対して睦月は頷いた。


「どうしたんやろ……」
はやては睦月の言葉が気にかかる。
真剣な表情で彼が問いかけた言葉。
「生きる為に何をしてもいいのか……」
「良いに決まってるじゃない」
窓の外から返答が返ってくる。
「へっ!?」
それに驚いてはやては窓を見る。
開けられた窓辺には一体の人形が座っていた。
「相変わらずあの男は貴方の周りでウロチョロしているのね」
水銀燈はそのままの状態で話しかける。
「ウロチョロって……睦月さんは入院して暇な私の話し相手になってくれてる良い人やで」
「まぁ、貴方がそう思ってるなら良いんじゃない」
「棘があるなぁ……それはそうとめぐさんは見つかったんか?」
「まだよ。ただ、手がかりなら得たわ」
水銀燈は思い出す。

つい先ほど
「なるほどね。それは多分、白薔薇の仕業よ」
水銀燈は真紅たちから事情を聞き、そう告げた。
「白薔薇……雪華綺晶のこと?」
「そうよ。その様子だともう、接触はしてた見たいね」
「えぇ……危うく体を奪われそうになったわ」
「随分と面白そうな状況になってたのね」
「五月蝿いわね!それで何故、雪華綺晶が早坂桜花と蒼星石の体を奪ったの?」
「白薔薇はローザミスティカを求めていないわ。
求めているのは体とマスターよ」
「体は分かるわね。アストラル体である彼女は現実世界での器を欲している。
でも、マスターを求めているのはどうしてなの?」
「知らないわ……ただ、あいつは繋がりが欲しいと言っていた。
現にあいつはめぐを連れ去った」
水銀燈の言葉に真紅と金糸雀が固まる。
「……まさか、貴方が契約するなんてね」
真紅は水銀燈の意外な言葉に驚きつつも話に納得する。
真紅の時もその体とジュンを狙われた。
信憑性がありそうだ。
「でも、そうなら緊急で動く必要はないかもね」
真紅はそう判断する。
「どうしてだ?あいつが何か企んでるなら阻止しないと」
「確かにどうにかする必要はあるわ。でも、今、早急に対応しなければならないのは破滅の存在に対してよ。
その中では優先順位は低いわ」
「曲がりなりにもアリスゲームの優先順位が低いだなんて。ついに壊れたの?」
水銀燈はそんな真紅をコバカにしたように煽る。
「別にどうでも良いとは考えていないわ。でも、今のこの状況を看過できないだけよ」
「人の争いなんて勝手にやらせておけばいいのよ」
「そうね。人間同士なら私が手を出す必要なんて無かったわ。
でもね、破滅の存在をどうにかしなければお父様に会えないわ」
真紅のその言葉に水銀燈は表情を一変させ真面目になる。
「どういうことよ?」
「平行世界の全てのたどり着く場所である破滅。その先にお父様が居る」
「破滅の先……それは本当なんでしょうね?」
「世界樹が肯定したそうよ」
「世界樹が……」
その言葉に水銀燈は納得する。
「そして、雪華綺晶は自分の方法で破滅を超えようとしている。
それに私達は真っ向から反抗しているわ。
こちらがこのまま行動していれば雪華綺晶は明確に敵対することになる」
「出てきた所を叩く……と。確かに手っ取り早くはあるわね」
水銀燈は真紅の話に納得する。
で、あれば無闇に探し回るよりも機を伺うほうが得策だと判断した。

「破滅を防がなければならない……」
水銀燈ははやてと闇の書を見る。
「破滅?何の話?」
はやてには彼女の言っている意味が分からない。
「いえ……ただ、私にも貴方を護ってあげる理由が出来たってだけよ」
「急にどうしたんや?最初に私を護ってくれた時からあんなに話しかけててつれなかったのに」
はやてはかつて病院が襲われたときに水銀燈に救われたことがある。
その事から幾度となく水銀燈を探していた。
だが、水銀燈自身はそれを拒絶していた。
「状況が代わったのよ。貴方はつくづく闇から愛されてるってだけ」
「闇から……?なんや分からんけど。私も何かお返ししないとならんな」
「まぁ、期待しないで待ってるわ」
黒き翼を持つドールと闇の書の主は他愛の無い話を始める。

今はまだ、安穏は続く。
だが、迫り来る闇は確実にはやての背後まで迫っていた。



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