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「剣崎……」
橘朔也は研究室の一室で映像を見ていた。
それは剣崎一真がキングフォームへと変身する姿だった。
13体のアンデッドと同時融合するありえてはいけない事態。
「私の言ったとおりだったでしょう?」
そんな橘の背後から誰かが語りかける。
「あぁ……しかし、何故あんたがこんな事を……?」
橘は立ち上がり振り替える。
暗闇の先にある人影を睨み付ける。
「いや……どうして、生きている?
プレシア・テスタロッサ?」
その視線の先の人物。
かつて、ジュエルシードを巡り敵対し、次元の狭間へと消えたはずの女性がそこに居た。
娘であるアリシアを復活させるために永遠の生命を研究し、その果てに超技術が存在するというアルハザードを目指した女。
それはフェイトの母親でもあった。
「私はアルハザードに辿り着いた。そう説明したはずよ」
プレシアは不適に笑う。
「なら、娘はどうした?貴様は娘を生き返らせるためにその場所へと向かった筈だ。
帰還したというのなら……」
「まだよ」
「なに?」
「まだ、アリシアを生き返らせることは出来ない。
あそこに必要な技術はあった……だけど、それだけでは完全じゃなかったのよ。
それを手に入れるために私は再びこの世界に戻ってきた」
「必要なもの……まさか」
「えぇ、アンデッド……いえ、剣崎一真こそが永遠の命へのヒント」
プレシアは画面に映る金色の剣王の姿を見る。
「13体ものアンデッドと同時に融合する彼こそが人に永遠の命をもたらす道となる」
橘はその言葉と同時にギャレンラウザーをプレシアへと向ける。
その瞳に敵意が燃えていた。
「馬鹿なことを……失われた命の為に剣崎を実験材料にさせる訳にはいかない」
橘の言葉を、銃口を受けても尚、プレシアの余裕は変わらない。
彼女は薄く笑う。
「橘朔也……仮にも研究者であり、仮面ライダーであるお前に問うわ。
剣崎一真のキングフォーム……その存在について」
プレシアは橘に質問を投げつける。
橘はそれを受けて戸惑う。
「キングフォーム……」
橘自体はその構想について存在は知っている。
アブゾーバーの機能の一つであり、クイーンの吸収の力を利用してキングと融合した姿だ。
そう、ジャックフォームと同じく本来想定されているキングフォームはカテゴリーキングとしか融合しない。
13体のアンデッドと同時融合などアブゾーバーの機能には無いのだ。
言ってしまえばブレイドのキングフォームはキングフォームとはまた別の何かであると言える。
そして、一人の人間が13体のアンデッドと融合するということが何をもたらすのか……
それを考えて橘の表情は険しくなり、青ざめていく。
「気づいたようね。あのキングフォームの危険性に……」
プレシアは満足そうに笑う。
「プレシア……貴様はその答えを知っているのか?」
「えぇ、あの存在はイレギュラーであり、希望。
人が永遠の存在となるための鍵よ」
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第四十六話「再命の徒」
当面の目的は間桐桜と協力者である上城睦月の捜索に決定した。
破滅の存在と繋がる桜は何としてでも見つけ出さなければならないし、
睦月は桜の他にもヴォルケンリッターと繋がっている。
彼を発見し、捕まえることが出来ればそれだけで今回の事件は大きく動くことになる。
「蝶野が何処に居るかだって?」
紅魔館の瓦礫の撤去作業を行っていたカズキにフェイトが尋ねる。
「はい……あの人も一緒に戦ってるって思ってたけど、そうじゃないみたいだから。
今、何処でなにしてるのかって思って」
フェイトはパピヨンに対して不思議な共感を感じている。
「蝶野か……イリヤちゃんが言うには桜ちゃんの動向を探ってるみたいだけど」
「それって別々に動いてるって事?」
「まぁ、そうなるな。あいつはあんまり馴れ合いが好きじゃないから」
カズキがそう言っているとフェイトは少し考える。
「あの人はまだ、一人ぼっちなの?」
フェイトは孤独だったパピヨンのことを知っている。
それがまだ、継続しているのだとしたらとフェイトは落ち込む。
「いや、アインツベルンの家に勝手に居候して好き勝手やってるらしいし、一人ぼっちとは違うんじゃないかな」
「そうなんだ……それなら少し安心かな」
「フェイトちゃんは蝶野のことが心配なの?」
「うん……私はなのはと友達になって、リンディ提督とかクロノとか色々と良くしてもらってる。
だけど、あの人にそういう人が居ないんだったら可愛そうだって」
「そっか。やっぱり優しい子なんだね」
「そんな事無いよ。私がなのはに手を差し伸べてもらえて嬉しかった。
だから、私も手を差し伸べたいって思っただけだから」
「……そうだな。蝶野も流石にこの状況で一人ってのも危険だし……
なぁ、フェイトちゃん。君させよければ、蝶野の手伝いをしてもらえないか?
俺が行きたいところだけど俺だと無用な敵も寄せ付けちゃうし」
「パピヨンの手伝い……うん、そうします!」
それに対してフェイトは明るい顔で頷いた。
パピヨンは簡素な道路を歩く。
繁華街であったそこに人の姿は殆ど無い。
それ故に奇抜な印象である彼を注視する輩は居ないはずだった。
パピヨンは立ち止まると振り返る。
「何時まで付いて来るつもりだ?」
そして、背後から少し距離を置いて歩いているフェイトに声をかけた。
「えっ?」
不思議そうな表情でフェイトは首をかしげる。
「えっ?じゃない。どうして、貴様がこの世界に居るのかは知らんが生憎、俺はストーキングされる趣味は無い」
パピヨンはあからさまにフェイトを拒絶する。
「ストーキングじゃないよ!一人だと危ないから一緒に行動しようって言った筈だよ」
フェイトはその言葉を慌てて否定する。
「俺は断ると告げたはずだ!何を勘違いしているのかは知らんが俺は貴様らの仲間になったつもりなどは無い」
「でも、間桐桜って人を探しているんでしょ?」
「それは個人的な興味からだ」
「私もその人の捜索が任務だから。一緒に探そうよ」
「目的が一緒だからとは言え、共に行動する理由にはならん。
そもそも、何故、貴様がその事を知っている?」
「カズキさんから聞いたんだ。カズキさんはイリヤって子から聞いたって言ってたけど」
「ちっ……余計なことを……」
パピヨンは苛立ちあからさまに態度に出している。
だが、フェイトはそんなパピヨンの態度を見ても臆する様子は一切、無かった。
「ホムンクルスと魔法少女が……こんな所で何をしている?」
言い争う二人に声がかけられる。
二人は一斉にその方向へと視線を向けた。
「上城睦月!」
フェイトはその顔を見て臨戦態勢をとる。
ヴォルケンリッターの協力者にして、間桐桜との関連が存在するアンデッドに支配された裏切り者の仮面ライダー。
最重要目標である彼が今、目の前に現れた。
何としてでも捕まえなければならないとフェイトは身構える。
「敵意むき出しだな……まぁ、それなら今の内に一人でも潰しておくか」
睦月はバックルを装着する。
それを見てフェイトは即座にバルディッシュを起動させ、バリアジャケットに身を包む。
それと同時に睦月に対して突撃する。
―――OPEN UP―――
だが、それはレンゲルバックルの展開するオリハルコンエレメンタルに阻まれる。
「くっ!」
フェイトは衝撃に怯み、その隙に睦月は変身を完了させた。
「聞いてないのか?変身の邪魔は出来ない」
睦月はレンゲルラウザーを振るい、フェイトへと襲い掛かる。
だが、突如として目の前に黒き蝶が舞い降りると同時に爆発した。
「うわっ!」
睦月は至近距離の爆発に仰け反る。
「そちらから来てくれたのなら好都合だな」
パピヨンは黒き蝶の羽根を展開し羽ばたく。
そして、レンゲルを見下ろして告げる。
「間桐桜の元へと案内してもらおうか」
空を羽ばたき優位に立つパピヨン。
だが、その黒き蝶を狩るべく何かが襲い掛かる。
「!?」
パピヨンは咄嗟に反応するが回避するまでには至らない。
襲撃者の爪をその体に受けて、血を吹きながら地面へと叩き落される。
「何!?」
フェイトもその突然の襲撃に気づけずに慌てふためく。
周囲に何者の反応もありはしなかった。
気づけばそれは現れて、パピヨンに襲い掛かり、地へと落としていた。
「ふん……人間では無いようだが非力だな」
襲撃者は鼻を鳴らして、倒れるパピヨンと呆然としているフェイトを見る。
虎を思わせる怪人。
神聖に感じさせる肉体を持ちしそれは一目でアンデッドであると分かり、
そして、それは紛れも無く上級の存在であることを感じさせた。
「何をしにきた?」
そのアンデッド……タイガーアンデッドに対して睦月は声をかける。
「戦いの匂いを感じ取って来たんだがな……どうやら、雑魚しか居ないようだ」
タイガーアンデッドは目の前の二人を侮る。
いや、純粋に今までの経験から二人を格下だと断定していた。
周囲に気を配らず上を取っただけで優位に油断していた。
突然の襲撃に対して戸惑うばかりで直ぐに攻勢に出れない。
それだけで彼女にとって敵にはなりえない。
「仮面ライダーと上級アンデッド……パピヨン、ここは増援が来るまで……」
フェイトはバルディッシュを構えたまま消極的な意見を出す。
「はっ……この俺が雑魚だと?笑わせるな。たかが、獣の始祖風情が。
人間を超えた超人である俺の敵じゃあ無い!」
パピヨンは立ち上がり、二アデスハピネスをタイガーアンデッドに対して放つ。
無数の黒死の蝶は不死生物に死を与えるべく、襲い掛かる。
「はっ!」
タイガーアンデッドは死の蝶を無視してパピヨンに対して襲い掛かろうとする。
それに反応して二アデスハピネスは爆発し、紅蓮の炎と黒煙が立ち上る。
閃光と炎が視界を支配する。
普通なら跡形も無くなる。
だが、敵はアンデッド。それも上級。
その程度で倒せる敵ではない。
パピヨンの視線は炎の向こうを見定めていた。
そして、それは予想通りに炎と煙を破り、襲い掛かる。
獰猛な人型の獣は凄まじい速度でパピヨンを引き裂こうと襲い掛かる。
だが、パピヨンはその腕を掴み取った。
「ぐっ!」
しかし、その勢いと力にパピヨンの体が浮かび上がる。
「ほう、反応は出来たか……だが、弱いな!」
タイガーアンデッドは掴まれた腕を振るい、パピヨンの体を強引に振るう。
「ぬお!」
パピヨンは完全に力負けしてその体を吹き飛ばされる。
地面へと倒れる体。
そこへ即座にタイガーアンデッドは追撃をかけようと駆け出す。
「やらせない!」
だが、その爪を防ぐようにフェイトはタイガーアンデッドとパピヨンの間へと飛び込む。
そして、バルディッシュでその爪を防いだ。
しかし、一撃だけでバルディッシュが軋む。
「邪魔だ!」
タイガーアンデッドは爪を振るい、フェイトを払いのけようとする。
だが、フェイトはそれよりも先に電撃を放ち、タイガーアンデッドを怯ませた。
その隙にフェイトは一旦、距離をとり、パピヨンの元へと下がる。
「ここは一旦、退こう」
フェイトがパピヨンに提案する。
「逃げたければ貴様一人で逃げろ」
しかし、パピヨンはその提案を一蹴し、続行の意思を示す。
「あのアンデッドは強い……私達だけじゃ……」
フェイトはこの少しの戦闘でタイガーアンデッドの力を感じていた。
彼女の強さは今まで報告を受けたどのアンデッドよりも上だ。
上級アンデッドと云えどもバルディッシュ・アサルトがあれば十二分に渡り合えると試算されていた。
シミュレーターでの戦闘ではピーコックアンデッドにも一対一で勝利できた。
それだけの戦闘力を手にしていても目の前のアンデッドを退けることさえ出来る気がしない。
上級アンデッドにも力の優劣が存在しているということだろう。
目の前の存在は果たして、ブレイドのジャックフォームでも勝利できるか……
「生憎だが逃がす訳にはいかんな」
フェイトとパピヨン、それに敵対するレンゲルとタイガーアンデッド。
それとは別に新たな集団が現れる。
先頭には十字槍を持つ人間の男。
その制服から彼が再殺部隊の人間であることは分かった。
だが、その後ろに控えているもの達が不可解だった。
「再殺部隊……それにモビルスーツ?」
錬金の戦士の後ろには9機ものウィンダムが並んでいた。
そして、そのモビルスーツ部隊を率いるように見覚えのある三機のモビルスーツの姿もある。
「あれは……シンが言ってた強奪されたセカンドステージのモビルスーツ」
フェイトは今回の戦いに参加するにあたって覚えた情報からその答えを導く。
今まで幾度と無くシンたちの邪魔をしてきた所属不明のモビルスーツ。
遂先日の連合との戦いで彼らは連合側として出撃してきた。
その事から連合軍はLXEとの繋がりがあった事が濃厚になっていた。
だが、しかし、目の前の戦士はホムンクルスと敵対する錬金戦団の一員。
彼らが手を組んで襲い掛かってくるという事態が不可解だった。
「ふん……きな臭いとは感じていたが……より一層、匂いは濃くなったな」
パピヨンはそれを見て不愉快そうに口元を歪める。
「仕事柄ホムンクルスを見逃すわけには行かん。元々の目的は仮面ライダーの捕獲だったが……
どうやら、思っていた以上に血湧き肉踊る戦いが出来そうだ」
戦士は好戦的な瞳のままに笑う。
仮面ライダーと上級アンデッド……その強さを知らぬはずが無いだろう。
だが、それでもその男はこの戦力で勝てると思っている。
いや、戦うことに喜びを抱いている。
「ほう……人間にしては中々、良い闘志じゃないか」
それを見てタイガーアンデッドが興味を抱く。
その目は獲物を見定めて輝いていた。
戦いは乱戦へと持ち込まれた。
最初にぶつかり合ったのは錬金の戦士、戦部とタイガーアンデッドだった。
それと同時にウィンダムが一斉に睦月へと殺到する。
残されたパピヨンとフェイト。
フェイトはその隙に離脱をしようと試みるがそれをカオス、アビス、ガイアの三機が阻む。
「金髪の魔法少女……お前がフェイト・テスタロッサか?」
カオスのパイロットであるスティングがフェイトに尋ねる。
ぶつかるバルディッシュの魔力刃とビームサーベル。
刃と刃を交えながら突然の質問にフェイトは驚く。
「何で私の名前を?」
フェイトの名を知るものはこの世界に殆ど存在しない。
「さぁな、俺はスポンサーからお前の身柄を捕獲しろと言われているだけなんでな!」
カオスは機動ポッドを切り離すとフェイトに対してビームを撃つ。
フェイトはそれに感づき距離を置いてビームを回避した。
「私を捕獲……魔法技術を狙っているの?」
フェイトの持つインテリジェンスデバイス・バルディッシュはこの世界にとっては未知のテクノロジー。
それを欲する軍事組織が存在していても不思議は無いだろう。
「しらねぇよ。だが、このチャンスは逃しはしない……俺達が生き残る為にもな!」
スティングは機動ポッドを展開し、フェイトを追い詰める。
「……あなた達も必死なんだ……でも、私だって!」
フェイトは機動ポッドに対して高速で移動すると一瞬に切り裂き破壊する。
「何!?」
スティングはその動きを捉えられずにうろたえる。
「捕まるわけにはいかないから……ごめん」
そして、即座に背後に回ると背面の動力系統を破壊する。
「ふん、偽善者が」
それを見てパピヨンは呟く。
パピヨンは二アデスハピネスで攻撃と回避を繰り広げガイアとアビスを翻弄する。
パピヨンの意思で自由に展開し、爆発する黒色火薬の武装錬金。
それに対応できるのは限られたエースだけだろう。
目の前の二人は反応は出来ている。
だが、それすらもパピヨンの計算の内でしかない。
ろくに攻撃に移ることも出来ず、消耗し、次第に装備は破壊されていく。
「諦めろ。貴様ら程度では相手にならん」
パピヨンは勝利を確信する。
地面に横たわる二機のモビルスーツは大破寸前。
もはや、攻撃することは適わないだろう。
だが
「ふざけるな……まだだ!」
それでも二機は立ち上がろうとする。
「そうか……なら、死ね」
パピヨンは一際大きな黒き蝶を作り出す。
完全なるトドメを刺す為に。
「待って!」
フェイトがパピヨンとガイア、アビスの間に立ちふさがる。
その両手を大きく広げ、パピヨンに攻撃を止めるように視線を送る。
「どけ」
しかし、パピヨンはそれを一言であしらおうとする。
だが、フェイトは首を横に振る。
「もう、この人たちは戦えない。何も殺す必要なんて無い」
「何を甘いことを……こいつらは殺す気で来ていた。
それにお前の仲間のことを何回も襲っている敵だぞ。
止める必要など無い筈だ」
「そうかも知れない……だけど、この人たちも戦いたくて戦ってるわけじゃ無いかも知れない」
「何を根拠に……」
「根拠なんて無い……だけど、この人たちは何処か私たちに似てる気がするから」
「私……たち?」
パピヨンはフェイトの言葉に怪訝とする。
「うん。必死に生きようとしてるだけだって……だから、話さえ聞ければ争う必要なんて……」
フェイトがそこまで言ったとき、その肩口が切り裂かれる。
「え?」
フェイトは呆然と切り裂かれた肩を見る。
鮮血があふれ、激しい痛みが襲う。
「油断大敵だな」
何処から現れたのか
突如として出現した錬金の戦士がその手に持つ小太刀でフェイトの肩を切り裂いた。
呆然とするフェイト。
それに対して戦士は容赦なく彼女を背中から刺し貫こうとする。
「ちぃ!」
パピヨンは叫ぶとフェイトの体を押しのける。
その為、戦士の刀はパピヨンの腹部を貫いた。
「ぐっ!」
その痛みに苦悶を漏らすがパピヨンはそれを強引にねじ伏せ、戦士に対して黒死の蝶を放つ。
至近距離での爆発。
それはパピヨンの体も飲み込んだ。
「パピヨン!」
フェイトは地面に座り、肩口を押さえながら爆発に対して叫ぶ。
爆発の距離は近かった。
だが、パピヨンの影に居た為にその影響は受けていない。
爆発が止むと全身をボロボロに焼かれたパピヨンがふらつきながら後ろへと下がる。
ダメージは無い訳ではないがホムンクルスの生命力は伊達ではないのか倒れることも無く立っている。
「ちっ……逃がしたか」
パピヨンは苛立った様子で呟く。
そして、周囲をくまなく見渡す。
「逃がした……でも、姿は……もしかして透明化?」
フェイトも周囲を索敵する。
「違う……奴は爆発の直前、地面へと消えた。まるで吸い込まれるようにな」
「地面?地中に潜ったって事?」
「それなら良かったが……そんな単純なものじゃないな」
警戒する二人は背中合わせに周囲に気を配る。
気づけば戦闘は終結へと向かっていた。
ウィンダムは全滅し、残っているのはもう一人の錬金の戦士のみ。
戦部はタイガーアンデッドに押されてはいるものの殆ど無傷で戦っていた。
「随分と痛めつけられたみたいだな」
そんな二人にレンゲルが歩み寄る。
「ちっ……」
パピヨンは睦月に対して黒死の蝶を飛ばそうとする。
「!?」
だが、形成は完成せず、パピヨンは目を見開くと口から盛大に血を吐いた。
「パピヨン!?」
フェイトはそれに驚き、倒れそうになっている体を支える。
「はっ……まさか、お前。さっきの戦いで力を使い果たしたのか?」
睦月はその様子を見てあざ笑う。
確かに派手な戦闘だったが長くは無い。
だとしたら致命的なスタミナ不足と言えるだろう。
「くっ……」
「まさか、体の病が完治して無いから……」
フェイトは心配そうにパピヨンの顔を見上げる。
「ちっ……」
流石のパピヨンも表情に余裕は無い。
目の前にはレンゲル。
そして、姿は見えないが錬金の戦士も隠れている筈だ。
まともに戦えるのはフェイトのみでは勝ち目は薄い。
「……十分に生きただろ?町の人間を犠牲にして繋ぎとめた命だ。
カズキや士郎が許したって……俺は許さない!」
レンゲルはラウザーを振りかぶりパピヨンへと襲い掛かる。
「させない!」
フェイトはバルディッシュでレンゲルラウザーを受け止める。
「邪魔をするな……そいつが何をしたのかお前は知ってるだろ?」
レンゲルはジリジリとフェイトの体を押し込めていく。
単純な力ではレンゲルがフェイトを完全に上回っていた。
「知ってます……貴方なんかよりもずっと、この人がどんな気持ちなのかを!」
だが、フェイトはそれを懇親の力で受け止める。
肩の傷口から血は流れ出る。
だが、それでも決して力は緩めない。
「生きる為でもしちゃいけ無い事があるなんて分かってる。
パピヨンが間違ったことをしてしまったってことも。
でも、パピヨンはそれを後悔してる。後悔してて……それでも償えないから生きてるんだ!」
フェイトはレンゲルを押しのける。
「もし、パピヨンを断罪できるのだとしたら……それはあの人の悲しみを知ってそれでも止めようとした人だけ。
知らなかった貴方も……何も出来なかった私もそれは出来ない!」
フェイトは倒れそうになる体をバルディッシュで支えながらレンゲルを睨む。
その気迫に睦月は気おされたのか一歩、後ずさる。
「……」
パピヨンはその様子を無言で眺めていた。
だが、その時、フェイトの足元から何かが飛び出すのが見える。
「フェイト!」
パピヨンは叫び、飛び出した。
だが、その体に力が入らない。
伸ばす手は届かない。
刃が少女の体を貫こうとする。
しかし、それはフェイトには届かない。
「そこまでだ。錬金の戦士……俺の仲間を傷つけようとするなら人間だとしても容赦はしない」
赤き鎧の戦士がその場に駆けつける。
その手に持つ銃の銃口からは煙が流れていた。
「……流石は都市伝説に名を知らしめた仮面ライダーか……ピンチに駆けつけるのはお手の物と言う訳だ」
パピヨンはその様子を見て呆れ気味に呟く。
錬金の戦士の忍者刀がフェイトを貫こうとした瞬間、弾丸がそれを弾いた。
地面から奴が飛び出てフェイトを刺そうとした時間を考えれば驚くほどに正確で素早い射撃だ。
「ここは一旦、逃げるぞ」
ギャレンはフェイトとレンゲルの間まで駆けつけるとフェイトとパピヨンに対して告げる。
「パピヨン……」
フェイトはパピヨンの顔を見上げる。
「ちっ……仕方あるまい」
パピヨンはしぶしぶ、その言葉に従う。
逃走を開始する三人。
逃走する三人を睦月は静かに見守っていた。
気づけば錬金の戦士の姿も無い。
追いかけていったのか、逃走したのか、定かではないが今の睦月には関心が無い事だった。
「……生きる為……か」
フェイトの言葉を呟き睦月は変身を解除する。
「そっちも終わったのか?」
そんな彼の元に一人の女性が近づいてくる。
「あぁ……逃げられた」
「そうか。私もだ……しかし、人間にも不思議な奴が居るな。
幾ら叩き潰しても即座に再生するとは……あいつは本当に人間か?」
女性はタイガーアンデッドの人間形態……名前は城光。
「錬金の戦士は不思議な力を一つだけ持ってるからな」
「あれはまるでアンデッドだったな……最初にこの世界を見た時は絶望したが……少しはまともなのも居るようだな」
少し嬉しそうに彼女は笑う。
その笑顔は睦月には見えていなかった。
「ここは……」
パピヨンは連れられてきた廃墟を目の前に呟く。
彼はここに見覚えがあった。
「そうだ。ここはかつてのBOARD……俺は今、ここを拠点にしている」
橘が告げる。
そこはこの春にローカストアンデッドと三機のガンダムによって破壊されたBOARDの研究所だった。
パピヨンは永遠の命の謎を求めてこの研究所の捜索に来たこともある。
そして、その際に武藤カズキの命を配下のホムンクルスが奪った。
思えば色々な始まりのあった場所とも言える。
「しかし、ここは完全に潰れて復旧もされていない筈だ」
「表向きはな……だが、連合軍と妖怪との戦争の混乱に乗じて地下では施設がある程度、復旧している」
「秘密裏にか……貴様、何を企んでいる?」
パピヨンは爪を橘に向ける。
橘は真っ直ぐにパピヨンの目を見た。
「よせ、別に俺はお前達に敵対するつもりは無い。かつては敵だったかも知れない。
だが、お前らはカズキとなのはが救った」
橘の言葉を遮るようにパピヨンは腕を振るう。
橘はそれを回避するが頬は薄く切り裂かれ、血が流れる。
「別に救われたつもりなどはない」
そう言いパピヨンは少し橘から距離をとる。
「……まぁ良い。お前達を連れてきたのは退避させるのと……フェイト、君に会って貰いたい人物が居るからだ」
橘はフェイトの顔を見る。
フェイトはいきなり話をふられて驚き目を見開く。
「会って貰いたい人……誰ですか?」
「会えば分かる。君も恐らく再会したかった筈だ」
「え……」
その言葉にフェイトは困惑する。
それと同時に不思議な感覚を覚えた。
期待とそれに準じるほどの不安。
予感としてその人物と会うことは自分を大きく変える気がした。
BOARDの地下
そこでは研究者達がせわしくなく働いていた。
彼らの行動をパピヨンは視線を動かして見やる。
アンデッドだけならまだしもそこにはホムンクルスや妖怪なども研究も行われているように見受けられた。
「何の研究を行っている?」
パピヨンの表情が険しくなる。
「永遠の命……人造アンデッドの研究だ」
「ならば、何故、ホムンクルスや妖怪の研究もしている?」
「ホムンクルスや妖怪の持つ不死性はアンデッドに通じるものがあるからな」
橘は冷ややかな様子で答える。
「あれは……!?」
フェイトは途中で見つけたガラス越しの部屋に眠らされている怪人に驚く。
その姿は紅魔館を襲った連合の新兵器そのものだった。
「あれはトライアルE……この研究所で試作された人造アンデッドの試作体の一体だ」
フェイトはバルディッシュを展開すると橘の背中に向ける。
「あれは連合軍が使っていました。どういうことですか?」
そこでフェイトは初めて橘という男に懐疑心が生まれる。
「……そもそも、BOARDのバックにあるのは連合軍だ」
フェイトはそこで紅魔館での会議でシンから聞かされた事実を思い出す。
BOARDの理事長であった天王路は連合軍を裏から操るロゴスの代表。
繋がりがあるという示唆はされていた。
「君達が連合軍と敵対していると言うのは知っている。
だから、協力しろとは言わない……だが、会うだけ会ってくれないか?」
橘は振り向かずにフェイトに語りかける。
「まんまと敵の懐まで誘い込まれたと言う訳だ」
パピヨンも敵対心を橘に向ける。
「何故、貴方は連合軍に協力するの?彼らのやり方に賛成しているの?」
フェイトは橘に問いかける。
「妖怪を根絶やしにしようとする考えは理解できないわけじゃない。
だが、俺が彼らに協力している理由は一つだ……剣崎一真を救うため」
その言葉に二人は驚く。
剣崎を救う。
予想もしない答えだった。
「キングフォーム……君はそれを目の当たりにしたんだったな?」
橘がフェイトに問いかける。
フェイトは静かに頷く。
「あの力は危険だ……剣崎があの力を使い続ければ取り返しのつかない事になる」
「どういうことだ?」
パピヨンが尋ねる。
詳しい事情を知らぬパピヨンには事態が飲み込めない。
ただ、その力を知るフェイトは何かを感じ取ったのか息を呑んだ。
「……このままあの力を使い続ければ剣崎の体はアンデッドになる」
その言葉に二人の体は固まる。
特にフェイトはその異常性を感じていただけに納得が早かった。
「俺はあいつにそんな業まで背負わせたくない……あいつを救う為に俺は連合に協力している」
「バルディッシュ」
橘の言葉にフェイトはバルディッシュを待機モードへと移項させる。
「貴方の言葉を信じます」
「ありがとう」
フェイトは橘を信じることにした。
救いたいと言う言葉に嘘が無いと判断したから。
だが、パピヨンは何処か納得いっていない様子で橘を睨んでいる。
だが、それ以上は言葉は挟まなかった。
連れられた奥の部屋
フェイトはそこで信じられないものを見る。
「プレシア……約束どおり連れてきたぞ」
橘がその部屋で待っていた人物に告げる。
フェイトはその姿を見て固まる。
心のどこかで予感はあった。
だが、絶対に無いと思っていた。
何故なら、彼女の最期をフェイトは見ているのだから。
アルハザードへの到達。
その為にジュエルシードを求め、次元の狭間へと呑まれていった。
フェイトの母であった女性。
プレシア・テスタロッサ
「フェイト……久しぶりね」
彼女はフェイトを見て微笑んだ。
その顔をフェイトは目を見開く。
それはありえない事だ。
「……どうして?」
フェイトは困惑する。
頭が混乱し、上手く思考が回らない。
「貴方には苦労をかけたわね」
プレシアは申し訳ないという様子で言葉をかける。
フェイトはその言葉に更に困惑する。
プレシアが生きて目の前に居ることだけでありえない事だ。
だが、それが更にフェイトのことを見て微笑み、心配している。
あんなにも渇望していた事が目の前で行われた。
「あ……」
自然とフェイトの瞳から涙が流れ落ちる。
それを見てプレシアは驚き手を差し伸べた。
だが、その手をパピヨンが弾く。
親子の間に入り込んだ無粋な男に対してプレシアは睨み付ける。
「何をするの!?」
怒気をはらんだ言葉。
それに対しパピヨンは見下すように睨み付ける。
「どういった心境の変化だ?貴様はこいつを捨てたはずだ?」
パピヨンは知っている。
フェイトがプレシアの本当の娘であるアリシアのクローンであり、アリシアの記憶や能力を受け継がなかった彼女を虐げていたことを。
そして、用が済んだと思えば鞭打ち、奴隷のように使っていた彼女をあっさりと捨てたことを。
それが何か
生きていたと思えば当然のように心配しているなどパピヨンには虫唾が奔る様な事だった。
「そうね……確かに私はフェイトにひどいことをしたわ。
でも、気づいたのよ……フェイトもまた、私の娘だと」
「都合が良い戯言だな」
「そもそも、貴方には関係が無い事よ。
これは私とフェイトの問題……ねぇ、フェイト。
今までの事は謝るわ。だから……」
プレシアはパピヨンを押しのけてフェイトに近づく。
だが、フェイトはそれに対して一歩、後ずさった。
その様子を見てアリシアは凍りつく。
「フェイト……」
「ごめんなさい……」
それを見てプレシアは歩みを止める。
「恐がるのも無理は無いわ……あんなに酷いことをしたんだもの。
だけど、もうそんなことはしない。
いえ、フェイト……もう、戦う必要なんて無いわ」
プレシアのその言葉に驚き顔を見上げる。
「貴方が私の犯した罪で戦いを強いられているのは知っている。
その償いは私が引き継ぐわ。今すぐには無理だけど。
だから、貴方はこれ以上、管理局に協力する必要は無い」
その言葉にフェイトの鼓動が早くなる。
「それは……」
反論しようとする。
だが、言葉が続かない。
「もう、これ以上、貴方が傷つく必要なんてないのよ。
これからは一緒に暮らしましょう。
アリシアが戻ってくるまでは寂しい思いをさせると思うけど。
それはそんなに先の話じゃないわ」
その言葉を横で聞いていたパピヨンの目が鋭くなる。
「でも……」
煮え切らない様子のフェイト。
「急なことだものね。直ぐに答えなんか出せないわよね。
とりあえず、その傷が癒えるまでは戦いは休みなさい。
その間にゆっくりと考えてくれれば良いわ」
プレシアの温かい言葉にフェイトは頷いた。
その少し後
別室にてパピヨンと橘が対面しあう形で立つ。
「貴様も奴の話に協力しているのか?」
「失われた命の復活か……永遠の命を求めていた者としては興味があるか?」
「無いな。俺は既に蝶サイコーな体を手に入れた。更に蝶サイコーにすることに興味はあるが失われた命を戻す方法など下らん」
「そうか……俺も同じだ。失われた命は戻らない。だからこそ、命を大切に出来る」
「ならば、何故?」
「言っただろう。剣崎をアンデッドにさせないためだ。
剣崎のアンデッド化を防ぐためには剣崎を研究する必要がある。
その研究は永遠の命にもつながるということだ」
「なるほどな。人間のアンデッド化……不死になる理論が完成すれば命の復活の足がかりとなる訳か。
ならば、もう一つ質問だ。
あの女は本当に奴なのか?」
「……分からない。だが、奴は次元の狭間に落ちる直前の記憶も持ち合わせていた。
偽者では分からない筈だ……」
橘もその質問には言い淀んだ様子だ。
「まぁ、そのことは俺にとって価値は無い」
「……なら、お前にとって価値のあることはなんだ?
剣崎のアンデッド化の阻止も永遠の命も貴様には価値は無い筈だ。
ならば、何故、未だにこの場に留まる」
「ふん……俺はおせっかい焼きなのさ。
そして、されたことは返す性分でね」
「なるほどな。お前はフェイトの事が心配だと言う訳だ」
「まぁ、このまま戦いを止めるも奴次第だ。どんな答えを奴が出すのか……」
パピヨンは今はこの場に居ないフェイトのことを考える。
思えば奇妙な縁だと感じた。
ジュエルシードを取り合い、人間・蝶野攻爵の最期の間近に立ち会った。
そして、彼女の契機となる場にも立ち会った。
もし、彼女がパピヨンの想像する答えを返す時には……
研究所内の一室
そこでプレシアは一人、画面に向かい合う。
「はい。フェイトの身柄は確保しました」
そして、画面に映る老人に話しかける。
「そうか。彼女は非常に重要な鍵の一つだ。
決して手放さないようにしてくれたまえ」
その老人は尊大な態度で答える。
「えぇ……全ては永遠の世界の為に」