AnotherPlayer
AnotherPlayer TOPへ戻る
一覧へ

人間と妖怪の戦い
その始まりは人間側の撤退により幕を引いた。
妖怪側の被害は紅魔館に残っていた数少ない妖怪達と
彼らに協力していた人間達だけである。
幻想郷の妖怪の殆どは妖怪の山に退避し、その被害は免れた。
とは言え、総数では人間の方が圧倒的に有利といえる。

シンは戦いの後、直接、議長の下へと赴いた。
既にシンは今回の戦いでの報告書を作成して議長へと送っている。
そこに隠し立ては一切無い。
シンが知りえる事実の全てがそこに記載されていた。
連合を止めるのにはザフトの協力が不可欠になる。
それをなす上で議長の協力は絶対だ。
そして、それを得る為に秘密など無い方が良いとシンは判断したからだ。
「待っていたよ」
デュランダルは微笑を絶やさずにいつもどおりに彼を迎えた。
「議長……この戦いは間違っています」
シンは真っ直ぐにデュランダルの眼を見て告げる。
そこに迷いなどは無く真っ直ぐな意思だけが垣間見えた。
「君の纏めてくれた報告書は読んだ。
連合軍が我々から盗み出したモビルスーツを戦闘に使用していることも確認した。
そして、モビルスーツとは違うアンデッドに近い生物兵器を使用していることもね。
これについては私に心当たりがある」
「本当ですか!?」
その言葉にシンは驚く。
まさか、議長から彼らについて情報が得られるなどとは思っていなかった。
「人類基盤史研究所BOARD……その理事長である天王路博史。いや、現在は元理事長か。
恐らくは彼が関わっている」
「BOARDの理事長!?」
「彼は連合を裏から操る秘密結社ロゴス……その代表だ」
「ロゴス……連合を裏から操る秘密結社って……議長はその事を知っていてBOARDに協力していたんですか!?」
「いや、その事を知ったのは私もBOARDが壊滅した後だ。
BOARDの動きに疑問を感じた私は独自に彼の事を調べ上げた。
そして、彼が連合軍すらも自由に動かせる地位に居ることを知るに至った」
「それじゃ……あの怪人はやっぱりアンデッドの研究の産物なんですか?」
「まず、間違いないだろうね。その特性を見てもアンデッドに類似している。
彼が何故、自分の組織のBOARDを襲撃させ、その後にアンデッドとホムンクルスに協力を行ったのかは分からないが……」
「でも、そいつが黒幕なら連合に協力するのは危険ではないですか?」
「何故だい?」
「え……だって、奴らは人を襲うような奴らに手を貸して……」
「それは……君も同じではないかね?」
デュランダルの思いがけない問いかけにシンは呼吸を忘れる。
「すまない。意地の悪い質問だったね。
だが、アンデッドもホムンクルスも妖怪も……
何故、彼らが敵として認識されているのか……
それは彼らが人を襲うからだ。
もし、それに手を貸しているということで敵になるのなら。
君もまた、その敵の一人という事になる」
「そんな!俺は人の敵になんて……。
それに幻想郷の妖怪は望んでその姿を現した訳じゃないんです!
人を襲ったのも事情があって……」
「事情ならばアンデッドにもホムンクルスにもあるのではないかね?
彼らもまた、決して知能を持たない獣という訳ではなかった筈だ」
「それは……」
「何を持って敵と判断するのか……それは難しい問題だね。
人を襲う、殺すのなら敵になるというのなら……また、人間も人間の敵という事になる」
「……そうかも知れません」
シンは静かに頷く。
それを見て議長は薄く笑ったように見えた。
だが、シンは直ぐに顔を上げる。
その顔にうろたえなどは無い。
「俺は二年前の戦争で家族を亡くしました。
家族を救えなかったこと……その無力が俺は許せなかった。
だから、俺は力を求めました。
もう、二度とあんな気持ちを味合わないために……オレと同じような人間を作らないようにって。
でも、誰かを失って悲しむのは人間だけじゃないんだってあの街に行って知ったんです。
人間も妖怪もアンデッドもホムンクルスも関係ない。
皆、大切な誰かと一緒に居たいだけだって……」
「それを妖怪に襲われた人間に言えるのかね?」
「いえます。あいつらはもう、戦うつもりなんて無いんだ。
今回も誰も殺さないように戦った。
誰かに乗せられて殺しあうなんて馬鹿げてる。
討つべきなのは妖怪だとかじゃない。
戦いを望み、それを起こそうとしてるものです!」
シンはデュランダルに対して言い切る。
その態度はとてもではないが上の相手への物言いではない。
「……和平会談で仕組まれた事件。それが妖怪側のものではないというのは分かった。
だが、証拠が無い……これだけでは連合を止めるのは難しいだろう」
「……」
「だが、連合に不審な点は多い。それを追求することで時間は稼げる」
「それって!」
「あぁ……その間に調査を進めよう。だが、もし妖怪が攻撃を仕掛ければもはや止めることは出来なくなるがね」
「はい!それなら大丈夫です!あいつらはもう、戦うつもりなんて無い」
シンはデュランダルの言葉を受けて笑顔を見せる。
自分の想いが通じたのだと喜びを隠そうともしない。


その後、シンは退室した。
ザフトはこれから中立の立場となる。
議長は改めてシンの持ってきた調書に目を通す。
議長の目は仮面ライダーブレイドのキングフォームについての項目で止まっていた。
13体のアンデッドと同時融合した状態。
ライダーシステムについて少し知識がある程度だがデュランダルにもその異常さが良く分かった。
「……彼に運命の番人がつとまるのかしら?」
突如、何処からとも無く声が聞こえる。
それにデュランダルは驚きもせずに答える。
「シン・アスカ以外にそれが勤まるものは居ない。
SEEDを持ち、更に高い戦士の資質を持ち合わせている。
事実としてデスティニーを乗った彼はレミリア・スカーレットすらも敵にしなかった」
「……神を討つ程の資質を持つ者となると彼とキラ・ヤマトしか存在しないのは分かっているわ。
だけど、彼をBOARDに出向させたのは間違いだった」
「なに、問題は無いよ。彼は間違いなく我々の力となってくれる。
何故なら、彼は戦いを望む者を許さないのだからね」
デュランダルは笑う。














AnotherPlayer
第四十五話「集いし英雄」







紅魔館は殆ど廃墟同然となっていた。
トライアルシリーズとの戦いでも損傷は広がっていたが最後にフランドールが暴れたのと
ロイヤルストレートフラッシュとエクスカリバーのぶつかり合いがトドメになった。
もはや、地上部分は使い物にならなくなっている。
比較的、被害の少なかった図書館に紅魔館の住人は移っている。

「剣崎さんはまだ、目覚めないのか?」
士郎は寝かされている剣崎を見てその看病をしていたユーノに尋ねる。
「はい。顔色もよくなってきてますから問題は無いかと思いますがまだ、時間はかかるでしょうね」
それにユーノが答える。
「むしろ、その程度で済んでいると言った方が良いわ」
そんな彼らに永琳が声をかける。
あの戦闘の後、剣崎は変身を解くとそのまま糸が切れたように倒れて昏睡した。
すぐさまに治療しようと永遠亭に運ぶ前に彼女はこの紅魔館に現れた。
そして、彼女の指示の元で無事だった図書館に寝台を作り、そこで剣崎の治療が行われた。
永琳曰く、全身の魔力体力共に全てを使い切っているという。
アンデッド13体同時融合という奇跡の様な力。
その代償を考えればそれは非常に安価だ。
使い切ったと言えども回復しない訳では無く。
永琳特性の栄養剤により一日でも眠っていれば眼が覚めるという。
「医者の身としてはこれ以上、この力を使うのは止めておいた方が良いと思うわ」
永琳は眠る剣崎の顔を見下ろしながら呟く。
「やっぱり、相当に影響が大きいんですか?」
「詳しい検査結果は出ていないから分からないけど……
一人の人間の体の中に13のアンデッドを融合させる。
それが彼の体にどんな影響を与えるのかは計り知れない」
真剣な面持ちで永琳が告げる。
「それは一人の人間に背負わせるには余りにも大きな業よ」
永琳の表情が陰る。
それに士郎は何も言えなかった。

「確かに一人では重過ぎるな」
そこにセイバーが現れる。
その体には生気が溢れ、かつて士郎に召還された少女と相違ない。
汚染された体は因果を分断され、剣王の剣にて消滅した。
「セイバー、もう大丈夫なのか?」
士郎が心配そうに彼女に声をかける。
その手には令呪が刻み込まれている。
破滅の存在と間桐桜により強制的に召還された彼女は再び元の時代に帰りかけた。
だが、彼女自身が士郎に懇願した。
再び契約し、この地にて共に戦う事を。
「えぇ、今回は正常にパスが繋がっていますので……
ですが、破滅の存在が絡んだこのイレギュラーな事態では聖杯の魔力を当てにするというのも危険ですが」
サーヴァントはマスターを通じ、聖杯からの魔力で仮初の肉体を得る。
だが、今回は余りにもイレギュラーな事態。
本当に正式な聖杯戦争と考えて良いのかも不明だ。
令呪が機能しているということとアルトリアにセイバーのクラスが割り当てられているという事からその辺のルールに問題は無いのだろう。
だが、何の企みも無しに聖杯の魔力が使えるのかも怪しい。
イリヤや凛は問題ないと言っているがセイバーにはその言葉を信じきることは出来なかった。
「そうだな」
それに士郎は頷く。
それを見てセイバーは改めて視線を永琳へと向けた。
「もし貴方が剣崎一真という人間にこの力を使うなと提案しても彼は聞き及ばないでしょう」
セイバーは確信を持って告げる。
「……自らを犠牲に出来る人間。所謂、英雄という者ね」
「そうです。彼はその力が必要であるのならば使う。
人を、世界を救う為に……だが、それも必要でないのならば無理をする事も無い。
彼一人で届かないのなら私も彼の振るう一振りの剣となる。
士郎……私は彼を助けるために力を使いたい」
セイバーは士郎を見る。
「今更、何を言ってるんだ?俺だって同じ気持ちだ。
だから、力が欲しかった。
剣崎さんと共に並び立てるだけの力が……だから、セイバーと契約したんだ。
アンデッドを全て封印して、破滅の存在を倒す。
それが俺の願いだ」
「やはり、貴方は私のマスターだ」
セイバーはその言葉に微笑む。
一度は失われ、二度と戻らない筈の命だった。
だが、それは奇跡により繋げられた。
それを為したのは二振りの剣。
そして、セイバーは騎士として、剣として、共に戦う事を誓う。


翌日
シン・アスカがザフトの決定を告げる為に紅魔館を訪れた。
久しぶりの仲間達との再会。
皆は彼の帰りを歓迎する。
だが、何時までも再開を喜んでいる訳には行かない。
話し合わなければならない事、決めなければならない事。
今はそれが多すぎる。

「今回の戦いで新しく分かったことがあるわ」
纏め役として凛が話し合いを進行する。
彼女自体は今回の戦いに参加していない。
新たなサーヴァントを呼び出すための儀式を行っていたためだ。
サーヴァントなしでは足手まといになると自ら辞退した。
だが、その事を彼女は今、後悔している。
「間桐桜……聖杯戦争を立ち上げた三つの魔術師の家系の一つ。
間桐家の人間である彼女は破滅の存在と契約した。
そして、彼女はこの戦争の隙に乗じて黒い核鉄を手に入れようとした」
桜が敵としてこの場に現れたこと。
それを聞いた時、彼女は愕然とした。
しかし、その理由は誰にも話していない。
「まぁ、これは単純に力が必要だったんでしょうね。
破滅の存在という破格な力を借り受けても足りなかった。
いえ、破滅の存在自体もダメージが完全に回復しきっていない。
それを補うために生物であれば無差別に取り込み力に変えられるヴィクターは効率が良い。
自ら止められないのを無視すれば儀式で一般人を生贄に捧げるよりも手っ取り早いもの」
イリヤが凛の話につなげて推論を展開する。
これに間違いは無いだろう。
「後は俺……ジョーカーも取り込むつもりだったんだろうな。
既に俺が封印しているアンデッドも含めれば以前に聖杯で広げた以上の穴は期待できる」
それに始が補足する。
「取り込まれそうになってたしそれは間違いないよな……
でも、バーサーカーは一瞬で取り込めてたのに相川さんは時間がかかってたけど」
士郎が疑問を感じて発言する。
バーサーカーは闇に一瞬にして引きずり込まれた。
だが、カリスは闇に沈むまでに相当に余裕があった。
そして、ブレイドにより救出もされている。
「それは桜が聖杯だからよ」
その疑問にイリヤが答える。
「どういうことだ?」
「聖杯は召還されたサーヴァントを純粋な魔力にして溜めておくための器。
それは毎回、アインツベルンが用意するんだけど。
前回の聖杯戦争の際に間桐家は聖杯の一部を回収していた。
そして、それを桜に埋め込んだのよ」
「人間を聖杯に……まさか、そんな事が出来るのか?」
「出来るわ。何せ私も聖杯だもの」
その言葉に始以外の全員が驚き彼女を見る。
いや、セイバーも驚いてはいない。
「まぁ、正真正銘の人間って訳じゃないけどね。
私は母体に居る時から調整を受けて誕生したんだから。
響きだけならコーディネイターのようだけど私は遺伝子以外にも色々いじられている。
アインツベルン家謹製のホムンクルスよ」
「ホムンクルスだって!?」
その言葉にカズキが驚く。
彼ほどではないが他の者も衝撃を受けているようだ。
「安心しなさい。錬金の戦士が排除している寄生型ホムンクルスではないわ。
何かを犠牲にして生まれてもいないし、人を食べることも無い。
とは言え、パワーでは完全に寄生型に負けているけどね」
「寄生型……?良く分からないけどイリヤは人を襲わないって事か」
「襲わないわけじゃないわ。衝動が存在しないだけよ。
まぁ、その話にそれても仕方ないわね。
聖杯の機能はホムンクルスに乗せることが出来る」
「ちょっと待ちなさいよ!それだったら桜が聖杯であるのはおかしいわ」
凛がイリヤの言葉に反論する。
「貴方が知る桜は人間だった。でも、知っているわよね。人間がホムンクルスになることはあるわ」
イリヤの言葉に凛が青ざめる。
「寄生……それじゃ……」
「えぇ、寄生型ホムンクルスを用いて桜は聖杯へと改造された。
その実験にはドクトル・バタフライも参加した。
アインツベルンから援助を受けながら間桐にも手を貸していたって事ね。
これは最近、パピヨンが持ち込んだ資料を調査して分かった事実だけどね」
「それじゃ桜は……人間を襲っていたのか?」
その言葉に士郎は顔を青くして尋ねる。
「所謂、人間型ホムンクルスとは微妙に違うみたいね。
聖杯の欠片を埋め込んだホムンクルスがどう作用したのかは分からないけど食人衝動は無かったみたい。
それに身体能力も常人と変化が無かった。」
その言葉に士郎は胸をなでおろす。
「でも、彼女は既に真っ当な人間ではないわ。
あそこまで侵食されていては元に戻せるかは……」
そこまで言ってイリヤは視線を翔へと向ける。
「……元に戻せるという確証は無い」
それを受けて翔が口を開く。
「だけど、お前は桜に取り込まれたレミリアとセイバーをその闇から引き剥がしたじゃないか」
そんな翔にシンが尋ねる。
「……それが出来る条件が整っていたとしか良い用が無いな。
それを俺は認識でき、因果を切り裂く事が出来た」
「条件って……それは分からないのか?」
「済まないが俺も全てを思い出した訳じゃない」
翔は無理だの一点張りである。
「そう言えば、何でお前の剣は形が変わったんだ?」
シンは今は鞘に収められている剣を指差す。
「あの時は無我夢中だったけど……俺たちの力でその剣は変わったんだよな?」
カズキはあの時の事を思い出す。
絶望的な戦いの最中。
翔は何か確信を持って彼らに力を借りた。
「運命の剣は文字通りに運命で出来た剣だ」
翔は鞘から剣を抜く。
白銀に輝く刀身。
その刀身は鏡面のように周囲を写す。
「人の命の軌跡は力を持つ。特に英雄の軌跡は何者にも変えがたき大きな力になる」
翔はそう言いながら運命の剣を傾け、刀身にシンを写す。
「それは周囲の運命すらも巻き込んで大きなうねりになる」
次に剣崎を
「運命の剣はその運命の持つ力と共鳴し、一つの運命として刃を作る」
カズキをなのはを
「七つの運命を選び、あの時、共鳴は完了した」
士郎を霊夢を真紅をその刀身に写し終えた。
「俺が選んだ七つの運命は各々に運命を掴んだ。
響きあう七つの運命が鋼を鍛え、刃を為した。
世界の運命の終焉……破滅を切り裂き、世界を切り開くために」
そして、翔は剣を鞘へとしまう。
「……運命。翔、聞きたいのだけど。貴方と破滅の存在が口にしていたシステム・アカシャとは何のことかしら?」
真紅が翔に尋ねる。
翔は少し考え、口を開いた。
「人の……いや、全ての生命の心に枝を伸ばし、その情報を管理するシステム。
その情報を元に世界のありとあらゆる事象を観測、計算する。
過去も未来も、含めてそこに記録されていない情報などはありはしない」
「全ての生命の心に枝を……それってまさか!?」
真紅はそのような存在に聞き覚えがあった。
そして、翔はその問いかけに頷く。
「その存在の名はシステム・アカシャ。そして、またの名を世界樹。
全ての運命が記録された存在」
世界樹はnのフィールドに存在する大樹。
その枝はありとあらゆる生命の精神世界へと伸びている。
「盲点だったわね。あれは確かに記憶の海へと繋がっている」
「そもそも記憶の海は世界樹から漏れでた一部にしか過ぎない」
「それじゃ、アーチャーの言ってた運命って世界樹のことなの?」
凛が翔に尋ねる。
「それは分からない。俺が知っているのはシステム・アカシャが生命の記憶を統括し、ありとあらゆる事象を計測できるということだ。
それはすなわち運命がそのシステムに記されていると言っても良い」
「なるほど……破滅の存在が私をシステム・アカシャに接続する者と言っていた。
つまり、私の運命を操る程度の能力はシステム・アカシャに干渉することで行われていたってことね」
レミリアがその話を聞いてどこか納得している。
「世界樹への外部からの干渉を行える存在なんてほぼ居ないからな。
破滅の存在もシステムの極一部に干渉できるが流石に全ては掌握していない。
俺も条件が整わなければ接続できないしな」
「だから、破滅の存在はレミリアを狙ったのか」
シンが頷く。
あの戦いは破滅の存在にとってレミリアを取り込むことも計画の一部だったのだろう。
「正確には破滅の存在は外部からの干渉ではないから、外部干渉を行えるのは今の所4人だけだろうな」
「あなた達二人以外に誰か居るの?」
凛が翔に尋ねる。
「翠星石と蒼星石ね」
その問いに真紅が答える。
翔はその言葉に頷いた。
「ローゼンメイデンがどうしてそんな能力を持っているのかは知らないけど……
ほぼ確実に破滅の存在はその二人を狙うだろうな」
「でしょうね……」
真紅は今は行方不明の翠星石の身を案じる。
蒼星石については現在、動けないので案じる必要は無いがどこかひっかかるものがあった。
機会があれば体の様子を見に行く必要もありそうだ。
「それで破滅の存在はどうして世界樹の操作が行えるの?
正確には外部干渉ではないと言っていたけれど」
イリヤが先ほどの翔の言葉から気になる部分を尋ねる。
「システム・アカシャの一部が破滅の存在に乗っ取られているからだ」
大した重みも無くあっけらかんと翔が告げる。
「乗っ取られてるって!一部でも危険なんじゃないのか!?」
その言葉に誰もが驚く。
「もしそれでどうにかなるなら世界はとっくに終わっているさ。
どうにか操れる範囲を増やしたくてレミリアを狙ったぐらいだしな。
ただ、確実に影響は受けている。
人が負へと傾き死へと至るのは破滅の存在の影響だからな」
「それって当然のことなんじゃないのか?」
誰しもが気落ちし、精神を病めば、死にたい気分になる。
それを跳ね除ける強い者も居るがそうでないものも大勢に居るはずだ。
「そもそも、そういう状況が破滅の存在の影響だからな。
破滅の存在がシステム・アカシャを乗っ取ったのは人間が生まれるよりも前だから」
翔の言葉に全員が息を呑んだ。
アンデッドと敵対していたのだから当然だが改めて聞かされれば途方も無い話である。
「橘さんの精神世界が世界樹から漏れ出た破滅の存在で侵されていたのはそれが原因だ。
システム・アカシャの内部には奴の意思が流れ込んでいる」
「そう言えばあの時か……あいつと初めて戦ったのは」
剣崎は思い返す。
橘朔也の精神世界で立ち向かったあの邪悪な存在のことを。
「俺に記録されている記憶の全てが正しいのか。それが全てなのか。それすらも分からない。
だけど、破滅の存在は強力だ。いや、そんなものじゃすまないだろう」
翔はゆっくりとその場に居る人たちを見る。
「だけど、あれは人が生きていくうえで居ちゃいけない存在なんだ。
俺はあいつを倒すために作られた。
だけど、俺一人じゃ無理なんだ……だから」
「何を今更、改まってるんだよ」
翔の言葉を遮ってシンが告げる。
「あいつが憎いのはお前一人じゃない。あいつのせいで多くの人が泣いてるんだ。
世界を滅ぼすために争いを起こすような存在を倒すのに意義なんてあるものか。
俺は絶対にあいつを倒す。この世界を平和にするためにも。必ず」
シンが宣言する。
「そうだな。アンデッドは俺に破滅の存在と戦うなら力を貸すって言ってきた。
だけど、もし、アンデッドが俺に力を貸してくれなくたって俺は破滅の存在と戦った。
戦えない全ての人たちの代わりに戦う。それが仮面ライダーだから」
剣崎が
「このまま、あいつを野放しにしてたら世界が終わるって言うのに黙ってるはず無いだろ。
俺たち一人ひとりは弱くても、力を合わせれば超えられないものなんてない」
カズキが
「私は世界を終わらせたくなんて無い。皆と出会ってようやく仲良く慣れたのにこんなところで終わらせたくなんかない。
それに自分の都合だけで人を利用して暴れるようなやり方は認められない」
なのはが
「当然だ。正義の味方として世界滅亡なんて悪事を黙って見過ごす訳無いだろ。
こんなことで怖気づいてたんじゃあいつに顔向けできないしな」
士郎が
「あいつは博麗大結界を破壊して幻想郷を潰したような奴だから絶対に退治するわよ。
よりにもよって私の代で活動しやがって……眼にものみせてやるわ」
霊夢が
「破滅の先を行くのは操り人形の世界じゃない……自分で立ち、強く生きる人間達が作るものだわ。
だから、この世界を本当の明日にする為に破滅は超える」
真紅が告げる。
翔が選んだ七人の英雄はその思いに答えた。
一度はばらばらになった運命は一つにまとまり、破滅を切り裂く剣となる。
「……そう、言ってくれると信じていた。だから、俺はお前達を選んだんだ。
力ない俺に力を貸してくれ」
翔は嬉しそうに微笑む。
今までの戦いから彼らが誰かを見捨てられる存在でないと分かっていた。
確証していた。
だが、言葉で表されたことは考えているよりも嬉しいのだと翔は感じた。


話し合いは終わった。
問題は多い。だが、世界の破滅を防ぐために戦うことを改めて決意することになる。
その為の力は揃いつつある。

そして、激戦の中、少しの休息の時間が訪れる。

図書館の一角で咲夜によって皆にお茶が振舞われていた。
張っていた気も一時だけでも緩めて穏やかな時間が流れる。
「また、こうして貴方と同じテーブルに着くことになるなんて思わなかったわ」
レミリアが隣に座るシンに視線を送りながら告げる。
「俺もさ。幻想郷から妖怪があふれてザフトが出動することになって、もう戦うしかないって思ってた」
シンは紅茶に視線を落とす。
赤い液体に自分の顔が映る。
その顔には安堵が表れていた。
「人と妖怪はやっぱり殺しあうしかないのかって、それが運命なのかって思った」
「まぁ、それは間違ってないんじゃない」
そんなシンの独白に霊夢が答える。
「人と妖怪の関係なんてそうあるべきものだもの。
でも、だからって何も全部がそれに従う理由なんか無いわ」
肯定しつつも否定する。
人と妖怪、陰と陽。
だが、それが交わりあう世界があっても良いのだろう。
幻想郷とはそういう自由な場所でもあった筈だ。
「運命か……レミリアは運命が見えるんだよな?」
剣崎がレミリアに尋ねる。
今回の話し合いでしったレミリアの能力。
システム・アカシャと呼ばれる全ての生命の情報を統括し、全ての過去と未来を知る演算装置。
それを用いてレミリアは運命を見、操るという。
「そうよ。はっきりと何もかもが分かるわけではないけど」
レミリアはその問いに肯定で返す。
「それじゃ、レミリアは今回のことを知っていた訳じゃないのか」
「もちろん、この戦いについて知っていたわけじゃあ無いわ。
でも、今回かは分かっていた訳じゃないけど、いつかは起きると分かっていたことはあったわ」
レミリアはシンを見る。
シンもレミリアのことを見ていた。
シンの赤い瞳にレミリアの顔が映し出される。
「私はシン・アスカに退治される」
「え?」
シンはその言葉を聞いて呆気にとられる。
「退治されるって……あんた生きてるじゃない」
霊夢が呆れた様子でレミリアにツッコミを入れる。
「そうね。でも、私の能力はシンと出会った時、私とシンの行き着く果てを見せた。
でも、現実としてそうはならなかったわ」
「運命が……変わった?」
剣崎がレミリアに尋ねるとレミリアは頷く。
「どんな要因で運命が変わったのかなんて私には分からない。
だけど……意外と運命なんて簡単に変わってしまうものなのかも知れないわね」
何処か達観した様子でレミリアが呟く。

「運命……か」
剣崎はキングフォームとなった時、精神世界でキングの告げた言葉を思い出す。
自分自身の運命。
平行世界にて剣崎一真は必ず同じ存在に殺されてきた。
もはやそれは因果として刻み込まれている。
屈するつもりなど無かったがレミリアの言葉で何処か気持ちが楽になっていた。
「どうしたんですか?」
シンがそんな剣崎に声をかける。
神妙な顔をしていたことで心配をかけたのだろう。
「いや、何でもないよ」
剣崎は明るく答えて見せた。
これは自分自身の問題だからと心の内にしまう。
その時、剣崎には何処かでキングの笑っている声が聞こえた気がした。


「そういえば蝶野はどうしたんだ?」
カズキがイリヤに尋ねる。
カズキとイリヤは戦闘の際に荒れてしまったアレキサンドリアの研究資料の片づけを手伝っていた。
その作業中のちょっとした雑談のネタとして共通の知り合いでもあるパピヨンについて尋ねたのだ。
彼の記憶ではパピヨンは現在、アインツベルンの屋敷に居るはずだ。
「さぁね。一応、声をかけたんだけど馴れ合うつもりは無いって断られたわ」
イリヤは不満そうに答える。
「あいつらしいな」
その答えにカズキは笑って答える。
「まぁ、それも口だけよ。桜が聖杯であることを突き止めて教えたのはあいつだし。
多分、今頃、あいつもあいつなりに桜の動向を探ってるんじゃないかしら」
「そっか……でも、今この街には再殺部隊も居るし、遭遇してなければ良いけど」
カズキは自分の命を狙っている錬金戦団の特殊部隊のことを思い出す。
命令がカズキの再殺だとはいえ、ホムンクルスであるパピヨンを狙わないとは限らない。
「そう言えば命を狙われているんだったわね。
錬金戦団からすれば貴方もパピヨンも桜も等しく敵か……厄介なことにならなければ良いけど」
イリヤは嫌な予感を感じ顔をしかめる。
「今は人間同士で争っている場合じゃないし、戦団ともどうにか和解したいけど……」
「生憎だけど私はその役に立つことは出来ないわ。
アインツベルンも戦団の決定を覆すほどの権力がある訳じゃないもの。
特に戦士長……よりにもよって火渡が相手じゃ聞き入れられないでしょうしね」
「知ってるの?」
「噂だけはね。実力だけで癖の強い部下を幾つも抱え込んでいる狂犬。
攻撃力なら戦団最強だと聞いているわ。
貴方の師であるキャプテンブラボーと双璧を為す人物よ」
「ブラボーと……」
その話を聞いてカズキはブラボーのことを思い出す。
ブラボーはカズキを人に戻す唯一の可能性である白い核鉄をカズキに使わせるつもりだ。
カズキがどんな答えを出そうとも。
だが、カズキはヴィクターを見殺しにし、ヴィクトリアやアレキサンドリアの悲願を踏みにじる気にはなれなかった。
「今更、私が言うことなんて無いけど……パピヨンも貴方のことを諦めては居ないわよ」
「え?」
「聖杯の研究……それも貴方を人間に戻す手段を考えての行動だからよ。
本人に聞いたわけではないけど今の彼が聖杯を求める理由を考えたならそれしか思いつかないわ」
「ありがとう。やっぱり、君は優しいんだね」
カズキはイリヤの気遣いを感じ笑顔で答える。
イリヤは少し恥ずかしそうに顔をそらした。


「一刻も早く翠星石を見つけ出す必要があるわね」
真紅は今日の話し合いの結果から決断する。
破滅の存在がシステム・アカシャの制御の為にレミリアを狙ったのなら、同じ理由で翠星石が狙われる可能性は高い。
「でも、一体何処に行ったのかしら……翠星石もそうだけど雛苺も」
金糸雀が心配そうに呟く。
「情報は何も無いしね……そう言えば、あいつも大丈夫かしらね」
真紅はこの混乱の中、単独行動をとっている姉妹のことを思い出す。
敵対し、良い感情を持っている訳ではないがこの街に居る以上、心配ではあった。


病院の屋上
そこから水銀燈は遠くの景色を眺めていた。
その視線の先にあるのは幻想郷
「……白薔薇」
水銀燈は深く憎しみの篭った声を絞り出す。

運命は一つの収束を見せた。
そして、再び激流へと分岐する。
新たなる運命を巻き込みながらも

前へ

一覧へ戻る

次へ