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この世界に確かに運命は存在する。
私はその事象を垣間見ることが出来たし、介入することさえも出来た。
一人の少女の運命に介入し、自分の従者にもした。
だけど、全てが思い通りに出来るほどに便利なものじゃない。
垣間見える運命は断片的なものでその全てが分かる訳じゃない。
運命の全てを変質させることも出来ないし、介入するにも大きな魔力を使う。
それに強力な因果を逆転させる事だって出来はしない。
そして、何よりも……
運命の果てを見通すことは出来なかった。
気づいたのは最近だった。
垣間見た運命のその果てが黒く塗りつぶされていた。
それは黒い靄のようであり、その先を見ることは出来ない。
私はそれを運命の果てと呼んだ。
誰も突破することの出来ない限界点。
それが私の能力の限界なのか……それとも世界の終わりなのか。
それは判別できないけれど。
最初に気づいたのは博麗の巫女と出会った時。
気まぐれで覗き込んだ運命の先、そこが黒く塗りつぶされていた。
それで自分はどうなのだろうと自分の運命を覗き込んだ。
余りしたくは無かった。
だが、気になって仕方が無かった。

私の運命の最後は明確だった。
運命の果ての少し手前……
光の翼を持ち、光の剣を持つ、血涙を流す悪魔のような顔をした鋼の騎士。
その剣に刺し殺され、私の運命は終焉を迎える。
そして、それは紅魔館の終わりも示していた。
瓦礫と変わる屋敷。
そこには無数の妖怪達の死骸が横たわる。

終わりがあるなんて分かっていた。
その運命だって変えるつもりだった。
運命など変えるものであり、気に食わなければ壊してしまえば良い。
しかし、その因果を掴むことさえも出来なかった。

あの日が来るまでは……
結界に綻びが生じ、外の世界から迷い込んできた人間が紅魔館に現れた。
最初はそんな彼らに興味など無かった。
適当に博麗の巫女に引き渡して外に返せば良いと思っていた。
だが、彼を一目見た時、直感する。
自分を殺す相手なんだと













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第四十四話「覚醒する運命」







「くっ……」
揺れる視界は赤に染まっている。
それは濃霧だけの問題ではない。
全身が血が逆流しているようだった。
その最中で過去のことを思い出す。
自分を殺す運命を持った相手。
それと相対し、戦い。
勝利した。
後はトドメを刺せば、それだけで運命が変わるはずだった。
「……」
目の前で金色のアンデッドが封印されるが見える。
自分の全力でも適わなかった相手を目の前の騎士は妥当して見せた。
仲間と協力したとは言え、それは人間として当然の行為だ。
たった二人で協力し合っただけで神話の怪人を打倒した彼らは正に英雄と呼ぶに相応しい存在だろう。
「怪物を退治するのは人間……か」
レミリアは改めて人間の持つ力を目の当たりにする。

「大丈夫か?」
剣崎は変身を解除し、レミリアに手を差し伸べる。
「大丈夫よ……一人で立てるわ」
だが、レミリアはその手を取らない。
そのまま立ち上がる。
切り裂かれた傷も再生していた。
血は足りないが体が維持できないほどじゃない。

「お嬢様!」
そこにパチュリーの使い魔である小悪魔が飛び出してくる。
「どうしたの?」
「た、大変です!図書館に侵入者が現れてパチュリー様と翔さんが戦ってるんですけど……」
「侵入者……このタイミングに何が狙いか分からないけど、パチェが戦ってるんだったら……」
「いえ、それがパチュリー様が早く助けを呼んでこいと……あのパチュリー様が焦っているようでしたから、相当に危険な相手やも」
その言葉にレミリアは驚く。
「こんな時に……」
レミリアは自由に動かない体を恨む。
トライアルシリーズとコーカサスアンデッドとの戦い。
それで随分と消耗していた。
「場所は図書館だな」
剣崎が改めて確認するように言葉を出す。
「あ、はい!」
それに小悪魔が頷いた。
「剣崎さん!でも、カードが……」
士郎は先ほどキングに吹き飛ばされたカードを思い出す。
屋敷の外へとばら撒かれたカード。
それを回収するのは容易じゃないだろう。
「今はそんな時間は無いって。レミリア、このことは俺達に任せてくれ」
剣崎はレミリアの現状を察してそう告げた。
「……分かったわ」
レミリアはその提案を受け入れた。
その力は既に承知している。
人類最高峰と言って良いほどの戦士だ。
そんな彼なら任せられる。


「嘘だろ……」
図書館で翔は最強最悪の敵と対峙していた。
その鮮やかな金髪に見覚えがあった。
顔は黒い仮面に覆われて分からないがその雰囲気は彼女以外にありえない。
「セイバー……」
衛宮士郎のサーヴァントとして聖杯戦争を戦った剣の英霊。
聖杯戦争終結と共にあるべき世界へと帰ったはずの彼女は今、敵として立ちはだかっていた。
「前は先輩のサーヴァントとして戦っていたんですよね。
でも、今は私のサーヴァントです」
間桐桜はその驚愕に歪む表情を見て笑みを浮かべる。
「その魔力……貴方、世界を滅ぼしたいの?」
パチュリーはその姿を見てあからさまに嫌悪の感情を向ける。
「今のこの世界を……という意味でならそうですね。
この間違った世界を滅ぼして望む世界に変える」
それに対して桜は答える。
「随分と頭が軽いのね。アレがそんな都合の良い存在な訳が無いでしょ」
パチュリーが嘲笑する。
その態度に桜は怒りを通り越し殺意をパチュリーへと向けた。
それと同時に黒い影が伸び、パチュリーを掴み取ろうとする。
「!?」
パチュリーは咄嗟に空中に逃れようとするがそれでも影は伸びる。
しかし、影はパチュリーを掴むことは無かった。
「好きにはさせない」
翔は命の剣を振るい、桜を指す。
「影を切った……!?」
桜はその光景に驚く。
魔力で破壊するや防御するでもなく。
目の前の男は単純に剣を振るい、影を切り裂いた。
「それが破滅の存在の力なら……運が無かったな。
俺は対破滅の存在特化だ」
翔は桜に対して駆け出す。
疾風の踏み込み。
それは正に風。
だが、それはより速い剣に阻まれる。
「!」
刹那の間に割り込んできたセイバーが翔を弾き飛ばす。
「ふふ……影を斬れたからってどうだって言うんですか?
貴方程度じゃ最強の騎士は倒せはしません」
桜は冷や汗を掻きながらもそう言い放つ。
彼女の言うとおり、セイバーという巨大な壁を突破しなければ桜を倒す事は出来ない。
だが、翔の実力でそれを成す事はほぼ不可能と言って良いだろう。
歴史に刻まれし騎士王の実力はそれほどまでに高い。

余裕の笑みを浮かべる桜。
そんな彼女を竜巻が襲い掛かる。
「!?」
それに気づいてセイバーが咄嗟に桜との間にその体を滑り込ませる。
そして、その剣にて風を切り裂き、無効化する。
「サーヴァントを完全に制御している……いえ、取り込んでるのかしら」
乱雑に積み上げられた本の隙間からイリヤは現れる。
その横には仮面ライダーカリスとバーサーカーの姿もあった。
「イリヤスフィール……どうしてここに!?」
桜は驚いた様子で彼女を見る。
「悪いけど監視させてもらっていたわ。
もう一つの聖杯である貴方のことをね」
イリヤの言葉に桜は目を見開く。
「聖杯?」
翔はその言葉に疑問を感じ呟く。
「その事は後で話させてもらうわ。
それよりも今はこいつを止めるほうが先決よ」
イリヤがそう告げるとバーサーカーとカリスは駆け出す。
襲撃者を葬るために。

「馬鹿な人……」
桜はセイバーにカリスの相手をさせるとバーサーカーを相手に身構える。
しかし、その表情は余裕そのものであり、サーヴァントが相手だというのに全く怖気づきもしていない。
それもその筈だ。
「さぁ……来なさい」
桜から広がる闇。
それがバーサーカーへと到達する。
「まずい!下がりなさいバーサーカー!!」
何かに気づきイリヤが叫ぶ。
だが、遅い。
バーサーカーの体は見る見るうちに影へと飲み込まれる。
「私の能力も知らずに戦いを挑むなんて……これで敵はもう居ない」
桜はあざ笑う。
バーサーカーは闇へと消え、それと同時に再び闇より出でる。
だが、その姿は黒く染まっていた。
「……サーヴァントを取り込んだ」
イリヤはバーサーカーとの繋がりが途絶えたのを認識する。
目の前の怪物は既にイリヤの制御下には存在しない。
「貴方は私に戦力を渡しに来ただけ……もう一人も奪ってあげる」
黒いバーサーカーがカリスへと襲い掛かる。
「くっ!」
カリスは咄嗟に振り下ろされる石斧から身を遠ざける。
だが、その隙に黒いセイバーが黒く輝くエクスカリバーにてカリスに斬りかかった。
その一撃はカリスの外皮を切り裂き、血を吹き出させる。
「強い!」
始は最強クラスのサーヴァントを二体相手にし、その力を感じる。
人の英雄の強さ。
例え闇に侵されていようとも敵に回すには余りに強大。
「終わりです。仮面ライダーといえども私の敵じゃない」
桜は勝利を確信する。

「させるか!」
ブレイドは現れるやいなやセイバーの剣を受け止める。
ぶつかり合う剣と剣。
「剣崎一真……!?」
その姿を見てセイバーの表情が険しくなる。
「セイバー……その姿は……」
剣崎はその姿に驚く。
だが、友を襲う敵を隙には出来ない。
二つの剣は刃を押し付け合い、拮抗する。

そこに現れたのは剣崎だけじゃない。
「セイバー……それに桜なのか!?」
士郎は困惑する。
その二人の姿は彼が知っている姿とは違い。
そして、彼の記憶ではこの場にいる筈が無いのだから。
「先輩……」
桜は士郎の姿を確認して動揺する。
「そんな……なんで桜がこんな所に……それに」
それは士郎も同様だ。
信じられない事態に士郎はパニックを起こす。
「落ち着きなさい!」
そんな士郎をイリヤが叱咤する。
「イリヤ……何か知ってるのか?」
「えぇ……そうね。そろそろ姿を現しても良いんじゃないかしら。
既に感づいてる人も多いんだし。
ねぇ、破滅の存在?」
イリヤの言葉と共に図書室を黒い風が包み込む。

「白の聖杯……いい加減に貴方は邪魔ね」
桜の真横に風は収束し、黄金の羽根と金色の髪をもつ少女が現れる。
その姿は紛れもない。
聖杯により、この世界に受肉し、現れたあの姿だ。
一度は消滅間際まで追い込んだが逃げられた。
「破滅の存在!」
翔は剣を構えて叫ぶ。
その姿を破滅の存在は見て嬉しそうに笑う。
「フィアよ。そう呼びなさい」
そして、そう彼女は名乗った。
「お前が……お前が桜を操っているのか!?」
士郎が彼女に対して叫ぶ。
だが、フィアはその問いに首を横に振った。
「違うわ。操ってなんか居ない。私はこの娘に力を貸しているだけよ」
フィアは桜の肩に手を置く。
「そうですよ。先輩。私がこうしているのは全部、私の意志です。
フィアはその為の力を私に貸してくれた」
桜は迷いの無い様子で士郎を見つめる。
「桜……何故だ。何故、こんな事をする。
分かっているのか!?そいつは世界を破壊するんだぞ!」
「知っていますよ……良いじゃないですか。こんな世界……一度、滅んでしまえば良いんです」
桜の瞳は陰を映す。
その憎悪と憤怒に満ちた声に士郎は凍りつく。
「フィアは私に力をくれた……でも、まだ足りないんです。
この世界に彼女を生み出すためにはもっと多くの力が要るんです。
その為に黒い核鉄が欲しかったんですけど……」
桜の視線がカリスへと向かう。
「でも、もっと良いものがありました」
影がカリスへと向かう。
そして、その体を飲み込もうとした。
「なっ!」
カリスはその闇から必死に逃れようとする。
「ジョーカー……アンデッドを集める聖杯のような存在。
貴方を取り込めばそれだけで破滅の存在を生み出せる」
桜は笑う。

「始!」
剣崎は始を助けに行こうとする。
だが、それをセイバーが邪魔をする。
「止めろ!何で君が奴らの言いなりになっているんだ!」
剣崎が叫ぶ。
だが、セイバーは答えない。
ブレイドを倒そうとその剣を振るう。
「無駄よ。既に騎士王は私の制御下にある。
星の剣は厄介だったもの……でも、その担い手をシステムに保護させずに放置しているなんて間抜けね。
その存在ごと取り込んで上げたわ」
それに対してフィアが答える。
「お前が……!」
「過去の英雄などシステム・アカシャの一部を制御する私にとってはどうにでもなる存在。
さぁ、現代の剣の英雄よ。過去の剣によって切り裂かれなさい!」
フィアの言葉と共にセイバーがブレイドへと向かう。
「セイバー……もう君はあの時の君じゃ無いのか……」
剣崎はその剣を受けつつも動きは鈍る。
仲間だったはずの彼女を本気で斬ることなど出来はしない。
「ぬるいな……」
そんな剣崎に対してセイバーが言葉を発する。
「何!?」
「お前の剣はその程度か……護るのではなかったのかこの世界の全てを?」
「セイバー……君は意識があるのか?」
セイバーの声は冷たさを含むが確かにはっきりと伝えられる。
そのことに対して剣崎は驚きを隠せない。
「元よりな。だが、今の私は世界を破壊する者。
全ての過去も今も未来も……破滅の存在の名の下に破壊する」
「くっ……だったら、眼を覚ませ!
お前はあんな奴の良いなりになるような奴じゃなかった筈だ!
人を愛し、自分を捨てて戦える。
そんな英雄だった筈だろ!?」
振るわれるブレイドの剣。
だが、セイバーはその剣を弾き飛ばす。
「無意味だな。人など救う価値も無い。
どれだけつくそうが邪魔になれば排除し、潰そうとする。
求めるのはただ、自分の幸福ばかり。
その為に血を流す存在などに眼もくれずもっと欲しいと喚き散らす。
私も貴様も……使い潰されているだけだ」
セイバーの剣がブレイドの装甲を切り裂く。
その一撃にブレイドは膝を付いた。
「終わりだ……今、ここで死ぬ事が貴方にとって最善なのだ」
振り下ろされる黒の刃。
だが、それはブレイドには届かない。

「……その姿でそんな言葉を口にするな!」
衛宮士郎の体は胴体の中ほどまで切り裂かれている。
その肉体には深く剣が切り込まれていた。
「士郎!」
それに驚き剣崎が叫ぶ。
間違いなく致命傷。
だが、士郎の傷は高速で再生して行く。
「確かに俺たちがどんだけ頑張ったって分かってくれない人は居る。
今だって人間を相手に戦うなんて事態になってる。
だけど、だからって人を……世界を滅ぼすなんて間違ってる!
この世界はずっと繋がってきた今なんだ。
人の命が結び合って生まれた世界なんだよ……だから、簡単に手放すなんて出来ない!」
士郎は恐れも屈指もせずにセイバーに告げる。
「……強くなったな」
その姿を見てセイバーが呟く。
そして、その剣を引き抜いた。
「だが……護るというのなら力を見せてみろ。
必然を覆す力を……それが出来なければ死ぬだけだ」
セイバーは再び剣を構える。
幾ら一撃を防いでもセイバーを倒せなければ同じことだ。
言葉で止まらないなら力を示さなければならない。

「くそ……」
剣崎は悔しさに舌打ちする。
士郎が繋いでくれた命を生かすだけの力が湧かない。
彼女を倒すということに強い抵抗を感じる。
何か救う方法は無いのかと頭を駆け巡る。
だが、剣崎の知る力の中にそんな方法は無い。

その時、一枚のカードが投げ込まれる。
「!」
剣崎はそれを掴み取った。
それはスペードのQ。
「クイーンのカード……!?」
キングとの戦いの際に吹き飛ばされ行方知れずとなったカード。
それは唐突に投げ渡された。
だが、それはこの事態を突破する切り札となる。
「誰だか分からないけど感謝する!」
剣崎はアブゾーバーにQのカードをセットする。
そして、もう一つ持ち合わせているカードを取り出した。
「……キング、お前の力を貸してもらうぞ」
封印されしカテゴリーKの力。
それを覚醒させる。

【エヴォリューションキング】

それは進化の力。
世界が生命に与えた抗うための武器。
より強く生きようとする存在は新たなる力へと目覚める。

「うおおおおおおおおお!!!」
金色の光がブレイドより発せられる。
それと同時に周囲に突如、黄金に輝くカードが出現した。
その枚数は13。
それはスペードスートに属するアンデッドのラウズカード。
失われていた筈のそれらすらも出現し、ブレイドの頭上に輝く。


剣崎一真の精神世界
剣崎の世界は草原と青空の広がる世界だった。
その中心には巨大な樹が聳え立つ。
そして、その前に13体のアンデッドが並び立っていた。
その全てが剣崎を見ている。
「剣崎一真……世界に選ばれし英雄よ」
その奥に立つアンデッドが剣崎に語りかける。
「ビートルアンデッド……なのか?」
剣崎が彼に尋ねるとアンデッドは頷いた。
「良くぞ。我ら13体のアンデッドを破滅の存在から解放し、封印してくれた」
「破滅の存在からの解放?」
「そうだ。我々アンデッドは一万年前のバトルファイトでジョーカーにより倒され、一時的にでもその支配下に置かれた。
ヒューマンアンデッドにより解放されたがその影響は色濃く残っていた。
無闇に闘争本能は刺激され、人を襲う怪物へと成り果てていた」
「そんな……それじゃ、お前たちが人を襲っていたのは自らの意思じゃ無かったのか!?」
剣崎はその言葉に驚く。
「いや、上級アンデッドは殆どがその意思で戦っていた」
それに対してコーカサスアンデッドが答える。
「今の人間は見るに耐えなかったですからね。それがどうなろうとも気にしてませんでした」
「それに仮面ライダーなんていう存在にバトルファイトが邪魔されてるのも気に入らなかった」
イーグルとカプリコーンもそれに答える。
その言葉に剣崎は顔をしかめる。
「だが……貴方が破滅の存在と戦うというのなら話は別だ。
剣崎一真……アンデッドと融合していたとは言え、お前は我々を打ち倒した勝者だ」
「敗者は勝者の言葉に従う者……今のお前になら世界から四つに分けられた力の一つを託せる」
アンデッドが次々と光へと変わって行く。
そして、それらは剣崎の体の中へと吸い込まれていった。
最後に残ったのはキング唯一人。
「僕は君を完全に認めては居ない」
「隙があれば乗っ取るって事か」
「……だけど、もし君が運命を超えられるのならその時は認めよう」
「運命……そうだ。お前もその言葉を使う。
運命とは何だ?一体、この世界は何に支配されている!?」
剣崎はキングに質問をぶつける。
今までの態度からキングは他のアンデッドでも知りえない何かを知っている。
そんな気がしたからだ。
「……まずは君自身の運命を超えて見せろ。それが出来たなら教えてあげるよ」
「オレの運命……!?」
「そうだ。平行世界で君を殺した存在。
あれは君を殺す因果を持って存在している。
どの世界でも必ず君はあれに殺されてきたんだ。
英雄が持つ宿命とも言うべきものでね」
「オレを殺す運命?」
「その登場はもうすぐだ。破滅の存在が活動し、世界の事象が破滅へと収束する今。
人の持つ最も愚かな運命は完成する。
乗り越えてみなよ……仮面ライダー」
キングはそう告げると光になり、剣崎の体へと吸い込まれた。


剣崎の意識が覚醒する。
13枚のアンデッドの力はブレイドへと融合し、その鎧を金色へと輝かせていく。
鎧に浮かび上がる13のレリーフ。
それはアンデッドの力をその体を漲らせる証。
その姿は王であった。
生物の始祖13体を支配し、その剣にて敵を平伏させる。
世界に与えられし力の四分の一を扱う者。
それは森羅万象すらも揺るがす絶対の力。

仮面ライダーブレイド・キングフォーム

それは不死の剣王。
その手に握られし、黄金の輝きを持つ重剣を軽々と振るい構える。
その漲る魔力と闘志に黒き騎士王はたじろいだ。

「これがブレイドの……キングフォームなのか?」
士郎はその姿を見て驚きと疑問を感じる。
ジャックフォームがカテゴリーJと融合しただけだったのに対してキングフォームは全てのアンデッドと融合している。
そんな事が本当にありえると言うのか?
「13のアンデッドをその体全てに収めたって言うの……!?一体だけでも計り知れない力だって言うのに……
人間にそんな容量が存在するはずが無いわ。
あるとすれば……それじゃ、ジョーカーと何も変わらない。
アンデッドと融合するために生まれてきたとしか言い用がない」
イリヤはその存在の異様さに気づく。
人という脆弱な固体が神に生み出された13の神話の怪物をその体に宿すことなど出来るはずがない。
「守護者や英雄なんかじゃ済まない……神々すらも超える存在よ」

ブレイドはゆっくりとセイバーに対して前進する。
「……面白い。だが、どれだけアンデッドと融合しようとも元が剣崎一真なら!」
セイバーはブレイドが近づくよりも早く先手を打つ。
振り下ろされるエクスカリバー。
だが、その刃はブレイドの鎧に阻まれ止る。
「なっ!?」
どんな金属すらも易々と切り裂いてきた。
神話の騎士の鎧もそれごろ切り裂き、貫いてきた聖剣はブレイドの鎧に傷一つ付けない。
「ふん!」
自信が砕かれ動きの止まるセイバーに対してブレイドは拳を振るう。
それと同時に右篭手のレリーフからアンデッドの力がブレイドへと流れ込んだ。
ビート
脈打つライオンの始祖の力がブレイドの右拳に宿り、セイバーの体を貫く。
その衝撃は彼女の鎧を貫き、その体を吹き飛ばした。
本棚をぶち抜いていき、その姿が見えなくなる。

「……なんなの?」
桜はその姿に震える。
英霊を体に取り込み、力に変えてる自分になら分かる。
アンデッドほどの存在を取り込んでそれを使役するのではなく纏って戦うその異常さが。
「バーサーカー!そいつを足止めして!」
桜は叫ぶ。
あれをどうにかするには同等の力が必要になる。
この場においてそれを手にするにはジョーカーを吸収するしかない。
だが、ジョーカーほどの存在を吸収するには時間がかかる。
彼らが神話の存在とは言え、実際の肉体を持つ存在。
それを吸収するのは瞬間では不可能だ。

ブレイドの前にバーサーカーが立ちふさがる。
「邪魔だ!」
ブレイドはそれを前にしても歩みを止めない。
取り込まれようとする友人を助けるために歩を進める。
バーサーカーは一心不乱にその斧を振るう。
だが、その衝撃にブレイドはびくともしない。
「そこをどけ!」
ブレイドは手にした剣。キングラウザーの一振りでバーサーカーの腕を切り裂く。
「ウェイ!」
そして、その体にキックを叩き込む。
流れ込むローカストアンデッドの力はバーサーカーの巨体を貫き、沈黙させた。

「間違いない……あのブレイドは融合しているアンデッドの能力を無条件で引き出せる」
イリヤはその姿を見て確信する。
下級アンデッドの持つ特殊能力をブレイド・キングフォームはラウズを必要とせずに引き出せる。
当然といえば当然だ。
何故ならば目覚めさせる必要など無いのだ。
その力はブレイドと融合し一体となっているのだから。

「この場は退くわよ」
フィアが桜に告げる。
「くっ……分かりました」
それに桜も従う。
二人の体は影へと沈んでいった。
「待て!」
ブレイドはディアーアンデッドのレリーフから雷を呼び起こし放つ。
だが、それが届くよりも先に二人の姿は消えていた。
バーサーカーとセイバーの姿も同様に無い。
「逃げられたか……」
危機は去り、防衛には成功したがやりきれなさが残る。

その時、上のほうから大きな音が鳴り響いた。
それと同時に屋敷全体が激しく揺れ動く。
「何だ!?」
剣崎は驚き頭上を見上げる。


時間は少し遡る。
剣崎たちが図書館へ向かった頃
レミリアは連合軍に包囲されていた。
「貴様が妖怪の代表、レミリア・スカーレットだな!」
一機のウィンダムがレミリアにビームライフルを向けつつ告げる。
「えぇ、そうよ」
それにレミリアが答える。
「人に仇なす化け物め!ここで貴様を倒し、この土地の人間を解放する!」
その言葉と共に一斉にウィンダムはビームライフルのトリガーを引く。
放たれるビーム。
だが、着弾よりも先にレミリアは真正面のウィンダムに飛び掛った。
そして、その爪で装甲を切り裂く。
「化け物がぁ!」
ウィンダムはビームサーベルを引き抜くとレミリアを切り裂く。
だが、それよりも早くレミリアは無数の蝙蝠へとその姿を変えた。
「なっ!?」
それには仲間を救出しようと近寄った他のウィンダムのパイロットも目を丸くする。
「集まったわね」
レミリアは再び人型に姿を変えると全身の魔力を一気に体から解き放った。
「紅符【不夜城レッド】」
その魔力は赤く、十字の形に展開される。
その衝撃にウィンダムは吹き飛ばされ、機能を停止した。

「ふぅ……雑魚でもこうも連戦すると辛いわね」
レミリアは倒れている手近なウィンダムへと近づく。
そして、力ずくでその装甲を引き剥がした。
「ぐっ……や、やめろ……!」
パイロットは恐ろしさに振るえている。
見た目は唯の少女だが……
いや、ただの少女ゆえに恐ろしい。
ありえないという恐怖がパイロットを支配する。
「良いわね……」
レミリアは口を開くとパイロットの喉下へと近づく。

「!」
だが、吸血を行うよりも先にレミリアはその場から飛び降りた。
それと同時にシールドがその場に突き刺さる。
「止めろぉ!!」
そして、上空より赤い濃霧を抜けてモビルスーツが舞い降りる。
「遂に来たか……シン・アスカ!」
レミリアはそのモビルスーツを確認して叫ぶ。
インパルスは屋上へと着地するとビームサーベルを引き抜いてレミリアに向ける。
「何でこんな事を……そんなに戦争がしたいのか!あんたは!?」
「戦争……違うわ。これはただの虐殺よ。
驕り高ぶった人間に私たち妖怪の力を示すためのね」
「お前は……本気で言っているのか!?」
その言葉にシンは驚く。
「本気よ。大結界が無くなったのは意図することではなかった。
だけど、だからと言って人間と手を組む気なんて無いの」
「……それじゃ、何で剣崎さんはお前と手を組んでるんだ!?」
「人間と人間を戦わせるのも一興と言うことよ。
お人よしの人間は弱者のふりをすればそれだけで動かせる。
本当に単純だったわ」
レミリアの言葉にシンは押し黙る。
モビルスーツ越しでもシンが怒りに震えていることが分かった。
「……そうかよ。俺は何か誤解があると思ってた。
お前も望まない戦いをしてるんじゃないのかって……」
「何を勘違いしているのか分からないけど……妖怪は人を襲うものよ」
「だったら……あんたはオレが倒す!今日、ここで!!」
シンはインパルスのバーニアをふかして一気に加速する。

レミリアの能力は運命を操る程度の能力である。
だが、その力は万能ではない。
自由に何かを予知できるわけではないし、他人の全てを操れるわけでもない。
出来るのだとしたらこのような望まぬ戦争など起こしはしない。
この最中、一つだけはっきりと感じていることがあった。
自分はシン・アスカによって倒されるのだと。
だが、そんな未来を望んでいるわけが無い。
故に倒さなければならない。
どうにかして懐柔できないのかと考えていた。
何度かの巡り合わせの中でそれを試みてきた。
だが、それらは失敗に終わり、争いあう今へと繋がった。
故にレミリアはそれを諦めていた。
元より倒してしまえばそれで良いのだと。
幸いにも目の前に現れたシンはあの力を手にしていない。
悪魔にも悪魔と思わせるほどの力をまだ。
運命を覆せるチャンスがあるのだとしたらこの時をおいて他には無い。
故にレミリアはシンを挑発する。
彼の感情を逆なでにして戦いを誘発する。

「その程度の速度で!」
レミリアはレッドシュートでインパルスを撃墜しようとする。
だが、インパルスはそれを回避し、レミリアの後方へと回り込む。
そして、一気に切りかかる。
だが、それをレミリアはスピアで受け止める。
インパルスはそれと同時にCIWSを撃つ。
「くっ!」
レミリアはその衝撃に怯む。
「もらった!」
シンはレミリアを蹴り飛ばし、倒れた彼女にビームサーベルを振り下ろす。
「なめるなッ!」
レミリアは魔力を爆発させインパルスに体当たりをする。
「うわああああああ!!
その衝撃にインパルスは吹き飛ばされ上空へと舞った。
「はっ!」
レミリアは浮かぶインパルスに対して魔力の弾を放つ。
「このっ!」
シンは空中で態勢を立て直すとそれらを回避しレミリアに向かってフォールディングレイザーを投げつける。
レミリアはそれを叩き落し、インパルスに向かい巨大な魔力弾を放つ。
シンはそれをすれすれで回避しつつ、レミリアへと接近する。
振るわれるビームサーベル。
だが、レミリアはそれを無数の蝙蝠になり回避し、即座にインパルスの後方へと移動する。
「もらった!」
そして、叩き落すべくレミリアはその翼に爪を振り下ろす。
だが、それよりも先にインパルスはフォースシルエットを分離させ、離脱する。
残されたフォースシルエットはレミリアに叩き落されるがその隙にソードシルエットへと換装したインパルスがレミリアに対しフラッシュエッジを投擲する。
光の刃は弧の軌跡を描き、レミリアに襲い掛かる。
レミリアはその一撃に服を切り裂かれるが直前で回避する。
「はあああ!!」
そこにシンは連結したエクスカリバーで切りかかる。
レミリアはそれを生成したスピア・ザ・グングニルで受け止めた。
ぶつかり合う力。
「何でだ……俺は何処かでお前と分かり合えると思ってた!」
シンがレミリアに対して叫ぶ。
「甘いわね……たかが、外の人間が、私たちの何が分かるって言うの!?」
それに対してレミリアも叫ぶ。
「分かるかよ……いや、俺はあの時、分かろうともしなかった」
「そうね。貴方はお茶の誘いも無粋な態度をとり続けた」
「人を殺そうとした相手に……ましてや吸血鬼を相手に警戒するなって方が無理だろ」
「そうかもね……でも、貴方は同じように敵対した冥界の庭師と永遠亭の兎と仲良くしてたわよね?」
「それは妖怪にも色々あるって咲夜が言ってたから。だから、理解しようとしたんだ」
「あの時とは違うって事ね。でも、貴方は何も変わっていない。
何も分かっちゃいない」
「……そうだよ。俺は何も分からない。
お前がどうして戦いを始めたのかだって……」
「言った筈よ。人と馴れ合うつもりなんて……」
「嘘なんか吐くなよ。俺は嘘を吐かない。
俺は……お前のことが嫌いじゃない!
いや、違う。お前のことをもっと知りたいんだ!」
「えっ!?」
レミリアはその言葉に対して驚き動きが止まる。
シンはその隙に拳をレミリアに叩きつける。
その衝撃にレミリアは落下した。

「いたた……」
顔面から落ちたレミリアは顔をさすりながら起き上がる。
そこにインパルスが着地する。
「オレの勝ちだな」
そして、レミリアに告げる。
「ちょっと待ちなさい!別に負けてないわよ!
って、言うか何よ!?あんなこと言っておいて、普通、殴る!?」
それに対してレミリアは顔を真っ赤にして講義する。
「はいはい。それよりも、話してくれるよな。
何でこんなことになったのかって」
シンはインパルスを降りる。
そして、レミリアの前に立った。
「……戦争の途中で武装を解除するなんて殺されても文句言えないわよ」
「さっき、聞いたばっかりだけど今、死者の数は0らしいな」
「……へぇ、本当?運が良かったわね」
「何でも気づいたら助かってた人が居るらしいな。まるで瞬間移動したみたいに。
咲夜の仕業なんだろ。あいつの能力だったら問題ないしな」
「ぐ、偶然じゃないの?」
「……ここまで来て白を切る意味なんてあるのか?
戦争は止められないけど出来るだけ被害を無くそうとしてくれたんだろ?
あの日、俺たちが始めて幻想郷に来た時だってお前は俺たちを殺す事だって出来た。
オレなんか、お前に負けたぐらいだからな。
そのまま食事として食べても良かったはずだ」
「それは私が血を吸いきれないから……」
「でも、本当だったら妹にも行く筈だったんだろ。
でも、そうしなかった。お前は自分で言ってるほど悪い奴じゃない」
「うぅ……」
レミリアは罰が悪そうに俯く。
「俺はお前に感謝してるんだ。敵にも敵の事情があるって知れたから。
そうでなかった俺は剣崎さんやカズキ、なのはのしたことの何も理解できなかったかもしれない。
俺は……お前と敵になんてなりたくない」
「……別に本当に助けたいわけじゃなかったわよ。
でも、被害が少なければ咲夜は人間の元に帰れるかもって思っただけよ。
それにこんな私たちの事情に付き合ってくれたお人よし達が罪悪感を背負うのも嫌だった。
でも、第一に考えたのはこの屋敷と住人の安全よ」
「だったら、屋敷を放棄して逃げても良かっただろ」
「私はこれ以上、逃げ惑うようなことはしたくなかったのよ。この紅魔館は私の最後の尊厳……
それが踏みにじられるぐらいなら死を選ぶわ」
「……それに他の住人は納得したのか?」
「もちろん聞いたわよ。今も残ってるのはそれに賛同した者だけ。
逃げてきてた大半の妖怪はもう、妖怪の山まで逃げてて最初からここに住んでた奴らしか残らなかったけど」
「そっか……」
シンは何処か安心したように呟いた。
「でも、良いのかしら?貴方がどう思おうとも今は妖怪と人間が敵対している。
それともシン。貴方は妖怪を裏切って私の下に下るというのかしら?」
レミリアは先ほどまでの項垂れていた様子を切り替えてシンに尋ねる。
心なしか何処か嬉しそうにも見えた。
「いや、俺はザフトを裏切らない」
だが、シンはその言葉を拒絶する。
その言葉にレミリアは眼を丸くして驚いている。
「でも、俺はザフトとしてお前に協力する。
いや、違う……人と妖怪を争わせてその影に隠れて目的を遂げようとする黒幕を倒す!」
しかし、そんなレミリアに対してシンはそう告げた。


時は遡りシン出撃前
ミネルバの格納庫内にて
シンが出撃を前にデスティニーを見つめている。
最終調整の為に今しばらく時間がかかるということだった。
既にレイとルナマリアは先に出撃している。
シンはデスティニーの調整が終了するまで居残ることになっていた。
その時、突如として格納庫が慌しくなる。
何事かとシンがそちらに駆けつけると聞き覚えのある声が聞こえた。
「シンは何処に居るの!緊急の要件よ!」
真紅とそれにアリスと金糸雀を作業員が取り押さえようとしている。
アリスが人形で作業員を牽制しているが目隠ししたりと傷つけないようにしている。
「真紅!?」
それに気づいたシンが叫ぶ。
「居たわね!」
真紅はシンに気づくと駆け出し、シンの頬を殴り飛ばした。
「いたっ!何するんだ!?」
シンはそれに驚いて声を上げる。
「シン、貴方。この戦争を止めなさい!」
そんなシンに対して真紅が命令口調で叫ぶ。
「はぁ!?何を言って……」
「この戦争は仕組まれたものよ。私の妹、雪華綺晶によってね」
「どういうことだよ?」
シンはその言葉に驚き、真紅の言葉を真剣に聞く。
「雪華綺晶は人間と妖怪を戦争させて妖怪を滅ぼすつもりよ。
人に害を為す存在を抹消し、世界をより、管理しやすくするために」
「それは良いことじゃないのか?あいつらは人を襲う。そういう存在なんだろ?」
「なら……あなたは幻想郷で見た彼女たちが全て滅ぼされなきゃならないと思っているの?
だとしたら……貴方はやっぱり彼らの仲間では無かったって事ね?」
「何を……!?オレだってあいつらがそんな事をしたって信じたくなんか無い!
でも、戦いは起きてしまった……」
「だから、それは仕組まれたことよ。証拠を出してあげましょうか?
人間側に死者は出ていないわ」
「そんなまさか……」
「だって、全力で助けてる奴らが居るもの。前に出てる彼らだけじゃないのよ協力してるのは」
「……」
「それに和平会談。あれを壊したのが雪華綺晶よ」
「なっ!?」
「シン。どうにか人間側に妖怪も本当は争うつもりが無いって事を伝えて頂戴」
「……俺は真紅の言葉だけで全てを決められない」
「シン!」
「だけど……あいつの、レミリアの真意を聞いてくる。それで決める。
あいつらが本当に敵じゃないのか……今度こそ答えを出す!」
シンは真っ直ぐに前を向いて答えた。
「えぇ、分かったわ」
真紅はその言葉に頷いた。


「あの人形……そう言うことは私にも伝えなさいよ」
レミリアはシンの話を聞いて勝手なことに腹を立てる。
「オレがどうにかザフトを止める」
「一介の兵士の貴方に何が出来るのかしらね?」
「確かにオレに権限なんて無い。だけど、議長は話せば分かってくれるさ」
「……まぁ、期待はしないで待つわ。
とりあえず、人間側が撤退してくれるなら戦いは中断になるもの」
シンから既に連合とザフトの軍隊が撤退を開始していると聞き、レミリアに余裕が戻っている。
とは言え、シンが人間を止めてくれると楽観しているわけでもない。
「……まだ、その時じゃなかったという事かしら」
レミリアはシンの横顔を見上げて呟く。
「どうしたんだ?」
それに気づいてシンは彼女を見下ろした。
「なんでもないわ」
レミリアは視線をそらして答える。

戦いは終わった。
そんな安堵が彼女を油断させた。
影より湧き出る闇が突如としてレミリアを飲み込む。
「なっ!?」
レミリアは驚き叫ぶ。
その体は闇の手に掴まれていた。
「システム・アカシャに接続する能力の持ち主……
数奇なる力を持ちし吸血鬼よ。
その力に免じて私と一つになることを許すわ」
レミリアの耳元で囁かれる声。
「破滅の存在!」
それに対してシンが叫ぶ。
「さぁ、運命よ。加速しよう」
フィアは一気にその闇の中へとレミリアを引きずり込む。
シンは手を伸ばすがそれはレミリアの手を掴むことは無かった。
「あ……」
空を掴む腕にシンは力ない声を漏らす。
「良い表情ね。これで目的は達した……だけど、貴方は今、この場で潰させてもらうわ」
破滅の存在は闇の炎を放つ。
それはシンではなくインパルスを飲み込んだ。
「くっ!」
搭乗者の居ないインパルスは炎に呑まれ溶けて行く。
「さぁ……死の始まりよ」
愉快そうに破滅の存在は笑う。

「うわああああああ!!」
そこに突如として光の弾が落下する。
それは破滅の存在が居る地点を爆撃し、光が屋敷を打ち壊して行く。
シンはその衝撃に巻き込まれ吹き飛ばされた。
「破壊の方か」
フィアは涼しい表情でその攻撃を放った人物を見やる。
「よくもお姉さまを!」
フランドールは目を血走らせ周囲に幾つ物、魔力弾を生成する。
「狂った魂でも肉親を失うのは悲しいのね。
だけど、貴方は要らない。残念だけど姉と同じ場所にはいけないわ」
フィアはフランに笑いかける。
だが、フランはその言葉を聞かず一気に魔力弾を解き放った。
光は空間を破壊しつつフィアへと向かう。
だが、それらをフィアは全て回避する。
「なら、感動の対面と行きましょうか」
破滅の存在がそう言うと影より何かが現れる。
それはレミリア・スカーレットだったもの。
黒いドレスに身を包んだ少女が現れる。
「お姉さま……?」
フランはそれを見て動きを止める。
だが、黒いレミリアは特に何の感情も無く漆黒のスピアを生成し、フランに投擲する。
それは無慈悲にフランの体を貫いた。

「何が起きたんだ……!?」
衝撃に気づきやってきたカズキ、なのは、霊夢。
「あれは……レミリアなの?」
霊夢は変わり果てたレミリアの姿に困惑する。
「そんな……どうなってるの?」
その事態が飲み込めないなのはは混乱する。

「セイバーと同じだ」
そこに剣崎、士郎、翔も駆けつける。
「剣崎さんなのか?」
カズキはブレイドのキングフォームを見て驚く。
「あぁ、それよりもまずい事態になったな」
「あいつ……逃げたんじゃなかったのか!」
士郎は憎しみの篭った目でフィアを睨む。

「私に抗う英雄がこんなにも……ここで一気に決着といきましょうか」
フィアは影よりセイバーを呼び出す。
「セイバー!?」
「あぁ、彼女は破滅の存在に取り込まれた」
「それじゃ本物なのか……何か助ける手段は?」
「分からない……だけど、俺たちも手加減してどうにかなる相手じゃない」
剣崎はキングラウザーを構える。
その様子に苦々しげにカズキたちも武器を構えた。


「くっ!」
カズキはレミリアの一撃に倒れる。
それはなのはも士郎も霊夢も同じだった。
ずっと戦い詰めで殆ど力を使い果たしている。
そんな彼らにレミリアは無慈悲にトドメを刺そうと魔力を収束させる。

「皆!」
剣崎はセイバーの剣を受け止めつつ、彼らの元へと移動する。
ジャガーアンデッドの力によりブレイドは音速で駆け寄ると盾になるようにその身を晒した。
放たれる魔力の弾丸をブレイドはその体で受け止める。
「この程度で!」
ブレイドはトリロバイトアンデッドの力で金属化し、完全にその一撃を防ぎきった。
「強い……だけど」
その強さは圧倒的だ。
だが、それも無限だとは思えない。
フィア、セイバー、レミリア。
その三人を相手に戦い続けられると言うのか?

「あはは!今この場でお前たちを倒せば全ては終わる。
私に抗えるような存在など居ないのだから!」
フィアは勝利を確信する。
剣崎を倒せるのならば配下のセイバーもレミリアも惜しくは無い。
「そこまでだ!」
だが、そこに割ってはいる者が居た。

シン・アスカはその赤き瞳に怒りを映し、フィアを睨み付ける。
「レミリア……それにセイバーも……」
「二人は破滅の存在に取り込まれている」
シンに剣崎が語りかける。
「剣崎さん……助ける方法はあるんですか?」
「……パチュリーもイリヤも不可能だと言っていた。
あれは破滅の存在が作り出した形が同じモノに過ぎないと……」
「そうですか……でも、だからって諦めてるわけじゃ無いんですよね?」
シンは剣崎に問いかける。
それに剣崎は頷いた。
「あぁ、助けるぞ。俺たちの全てを賭けて!」
「はい!」
シンはそういうと転送機を掲げる。

「貴方のモビルスーツは破壊した筈よ!」
フィアはそれを見て叫ぶ。
「あぁ……インパルスは無くなった。だけど、オレには新しい力がある!
コール・デスティニー!!」
シンは新たなるガンダムを呼び寄せる。
それは運命の名を冠したガンダム。
シンの体は光に包まれ、転送されたデスティニーガンダムへと搭乗する。
それは運命の魔剣。
赤き翼を持つ青き騎士は血涙を流す悪魔のような相貌をしていた。
「このデスティニーで……全てを薙ぎ払う!」
シンはそう叫ぶと翼を、ヴォワチュール・リミュエールを展開する。
光の翼がデスティニーの体を加速させる。
その速度はインパルスの比では無い。
凄まじい速度で瞬く間にレミリアへと接近する。
「お前を助ける……絶対に!」
シンは双肩につけられたフラッシュエッジ2を引き抜くとビームサーベルとして振るう。
レミリアはそれをスピアで受け止めた。


レミリアの意識は闇に揺れていた。
眼に映るはシンと邂逅した日に垣間見た運命の断片。
それと同じ光景。
「結局……何一つ変えることなんて出来ていなかった」
あの日、自分が見た光景は間違いなく再現されるだろう。
あの力に貫かれ、自身の存在は終わりを告げる。
もはや逃れえぬ運命。
抗うことなど何一つ出来なかったのだ。

「泣いて……居るのか?」
シンは切り結びながらレミリアの双眸から涙が零れるのに気づく。
「再構成した肉の挙動が気になる?
まだ、意識が完全に塗りつぶせていない事による誤動作に過ぎないわ」
それにフィアが答える。
「まだ、レミリアの意思が残ってるのか」
それにシンは希望を見出す。
「意識は残っていても肉も心も全て私の支配化。何一つ逃れ出ることは出来ない。
ましてや、その少女は吸血鬼。
私の眷属とも言える闇の存在。
助かる見込みなど何一つ存在しないわ」
しかし、フィアはそれを否定する。
だが、そんな言葉はシンには届かない。
「レミリア……俺はお前のこと、まだ、何一つ分かってない。
なのにこんなことで終わりなんて認められるか!
眼を覚ませ!お前はあんなのに屈服するような奴じゃないだろ!?」
シンは必死にレミリアへと語りかける。

「破滅の存在に取り込まれても意識があるのか……!?」
剣崎もその言葉に驚く。
だが、ならばあの時にセイバーが剣崎に語りかけてきたのも納得は行く。
「淡い希望を抱いているのか?」
セイバーが剣崎に声をかける。
「何!?」
「残念だがそれは無意味だ。魂は闇へと染まり変質している。
もはや、戻るという概念は存在しない。
私もあの少女も、貴様たちの知っていた昔に戻る事は無い。
言っていたはずだ。過去を変えることなど出来ないとな」
セイバーは黒き魔力光を携えながらブレイドと切り結ぶ。
セイバーのあふれ出る強力な魔力はブレイドの鎧に傷を付けた。
「くっ!」
「幾ら強力とは言え、破滅の存在のバックアップを受ける私の魔力量で勝るものは居ない!」
セイバーは無尽蔵とも言える魔力をフルに活用し剣崎を追い詰めて行く。

「……破滅の存在を倒せば元に戻るんじゃないのか?」
カズキが士郎に尋ねる。
「いや、無意味らしい。支配下といっても元々の意識を乗っ取っているんじゃなくて
その存在そのものを変質させて指示を出しているに過ぎないから」
それに士郎が答える。
「指示を出していること事態は魔法じゃないって事ですか?」
なのはも合わせて質問する。
「あぁ、奪われた肉体と魂をどうにかして元に戻さないといけないらしいんだけど……」

「もはや、闇と完全に結合したそれを切り離す手段なんて存在しない」
それに破滅の存在が答える。
「元々あった存在をぐちゃぐちゃにして、それを似た形にしてるだけだもの。
そんな事、論じるだけ無駄よ」
フィアは愉快そうに告げた。
彼女は無謀なことに挑戦しているこの戦いを見て喜んでいるのだ。
絶対に助かりはしないと知りながらも果敢に戦う二人を見て嘲笑う。
その為だけにこの茶番を興じている。

「ふざけるな!何もかもがお前の思い通りになると思うな!」
シンが叫ぶ。
「それはこっちの台詞よ。今までしてらやられたけど……
それもここで終わり。
人の力で私に打ち勝つことなど不可能よ」
しかし、フィアはそれすらも無意味だと吐き捨てる。
「いや、不可能なんかじゃない!」
それに翔が反論した。
「……天翔。残念だけど貴方じゃ何も出来ないわ」
「何かが開く……あの時と同じだ。シン、剣崎さん……あんた達なら!」
翔は二人を見て叫ぶ。

「言われなくたって!」
シンは距離をとってフラッシュエッジ2を投擲する。
レミリアはそれを叩き落し、シンへと接近した。
「もう諦めなさい……結局、私達は殺しあう運命なのよ」
レミリアの拳がデスティニーの装甲を打つ。
「なら、何でお前は泣いてるんだ?
本当は助かりたいんだろ!?」
「当たり前じゃない!助かりたくも無かったら抗いなんてしない。
八雲紫に妖怪の前線を押し付けられても、和平会談が上手くいかなくても……
生きたいって……皆と一緒にまだ、楽しいことがしたいって思ったから。
だけど、無理よ……闇と同化した私の意識は消える」
レミリアは無数の魔力弾を放つ。
デスティニーはそれを全てビームシールドで受け止める。
「だから、殺しなさい。破滅の存在なんて馬鹿げた存在に使われるぐらいなら貴方の手で終わらせて」
レミリアはスピア・ザ・グングニルを投擲した。
デスティニーのビームシールドはそれすらも受け止める。
「何でそんなことを言うんだ……
誰かを失うってのは凄く辛いんだ。
残された人たちはその悲しみを何処に向けろって言うんだ」
シンはかつて失った家族を思い起こす。
「何処にも失って良い命なんて無い!だから、俺は!!」
シンの奥底で何かが目覚める。
人が進化する可能性。
闇を払い、光指す未来への道しるべ。
その名はSEED。
その力が覚醒する。

「そうだ!その命の輝きが闇を払う力になる!」
翔は剣を構える。
彼の持つ剣は胎動していた。
「翔?」
士郎はそんな彼に問いかける。
「カズキ、なのは、士郎、霊夢、真紅。力を貸してくれ」
翔は仲間達に声をかける。
その問いに五人は頷いた。
「今こそ、真の目覚め。定めし七つの英雄目覚めし時。
覚醒しろ!運命の剣!!」
翔は剣を頭上へと掲げる。
シン、剣崎、カズキ、なのは、士郎、霊夢、真紅から光が放たれ運命の剣へと注がれる。
その刀身は変化し真剣へと変わる。
一振りの日本刀。
それこそが運命の剣の真の姿。
「七つの英雄の運命よ……破滅を払う力になれ!
システム・アカシャ・フルアクセス!!」
翔は運命の剣を空間に突き刺す。

「何!?システム・アカシャへのアクセス権限を持っているって言うの!?」
フィアは翔の力を見て慌て始める。
「セイバー、彼を消滅させて!」
フィアが命じ、セイバーが動く。
「させるか!」
それを護るようにブレイドが対峙する。
「ならば、不死の王ごと斬り伏せるのみ!」
「闇に染まったその剣でオレを超えることは出来ない!」
セイバーは黒き極光の魔力を刀身へと漲らせる。
ブレイドはレリーフから五つの黄金のカードを呼び起こした。

   エクスカリバー
【約束された勝利の剣】

放たれる黒き極光の斬撃。
それは真っ直ぐにブレイドを、そして、背後の翔を狙う。
―スペード10、J、Q、K、A―
キングラウザーにギルドラウズカードがラウズされる。
呼び起こされるスペードスート最上位の五体のアンデッドの力。
それはブレイドの前方の力の象徴たるディアマンテゴールドのエレメントを出現させる。

【ロイヤルストレートフラッシュ】

ブレイドはそのエレメントに対して剣を振るった。
その力はエレメントを飲み込み、黄金の輝きを持つ斬撃へと変換される。

ぶつかり合う二つの剣の一撃。
その衝撃を大地を吹き飛ばし、木々をなぎ倒し、雲を払い、空を割る。


「破滅に飲み込まれし、その運命を取り戻す!
運命の切り札は今、オレの手に!」
翔は空間から運命の剣を引き抜く。
そして、真っ直ぐに破滅の存在に対して駆ける。
「翔!?」
「天魔流剣術最終奥義【虚空】」
翔はその眼に移りし、因果を切り裂く。
フィアが握りし二つの運命の因果は解き放たれた。

「!?」
レミリアの体が慟哭する。
黒き体と赤き体が分断される。
「レミリア!」
それを見てシンが叫ぶ。
「その影を切り裂け!シン!!」
翔が叫びシンは頷く。
「デスティニー……この力で運命を切り開く!」
シンはデスティニーに装備された剣を引き抜く。
二つに折れたそれは展開し、一振りの巨大な剣へと変貌する。
デスティニーの全長すら超える長刀を構え、デスティニーは加速した。
「いけえええええ!!!」
シンは分かたれた黒きレミリアを切り裂く。

エクスカリバーとロイヤルストレートフラッシュ
ぶつかり合った閃光を超えてブレイドが躍り出る。
「なっ!?」
セイバーはその眼を丸くする。
「影さえ切り裂け!ブレイド!」
翔が叫ぶ。
だが、ブレイドは無意識にそれを狙っていた。
「見えた!そこだ!!」
剣崎はセイバーより分断された影を切り裂く。



運命を変えるのは策謀や知恵なんかじゃない。
衝撃的な出会いがそれを為しえるのだ。

レミリアはデスティニー……その中に隠されし、シンの顔を見る。
「どうしたんだ?」
シンがレミリアに語りかける。
「……運命も悪いことばかりじゃないと思っただけよ」
シンの腕に抱きかかえながらレミリアは思う。
あの日、シンと出会い、その運命を垣間見た。
そして、彼と戦い、倒しても尚、殺さずに吸血だけに留めた。
その時に既に運命は変わっていたのだ。
あの時の直感に間違いは無かったとレミリアはようやく確信に至る。
「シン、貴方は私の事を知りたいと言ったわよね」
「あぁ」
「なら、教えてあげるわ。私の全てをね」
レミリアはそう言うとデスティニーの頬に軽い口付けをした。

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