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この世界は間違っている。
人々は何もかも決まった生き方しかする事が出来ない。
何もかもが壊れたのは五年前
ブレイク・ザ・ワールドを切欠に始まった連合とザフトの二度目の戦争。
その勝者にザフトが立ち、デュランダル議長の発案により施行されたデスティニープラン。
人の遺伝子を調査し、最も適正のあう職業が斡旋される。
法的な強制力は無いと言う話だが世間的にそれに背くのははばかられた。
その為に斡旋されてない職に付くものは爪弾きにされる。
例えば僕のように……
「はぁ……」
少年は深いため息を吐く。
大学生ぐらいの何処にでもいそうな男性。
気弱そうで表情は暗い。
彼の名は桜田ジュン。
彼は現在、大学に通っている。
だが、専行はデスティニープランで示されたものとは違う。
運命は彼を服飾のデザイナーにしようとした。
だが、それを受け入れられず彼は無理やり、大学に進んだ。
その為に周囲から浮いてしまい、教授たちからの評判も悪い。
「何がデスティニープランだ……」
ジュンの胸中に怒りが湧き上がる。
思い起こすのは五年前。
昔に住んでいた土地で起こった凄惨なる戦いの記憶。
五年前、日本は戦争に対して中立だった。
だが、ロゴスの首魁が日本に居座っていた。
そして、それを打倒するためにザフトが攻め込んだ時期に彼の住んでいた土地に異変が起きた。
ありえざる土地の出現とそこから這い出る物の怪の群れ。
ロゴス首魁打倒後、人命救助という名の下にザフトは日本に協力した。
それが絶望的な人間と妖怪の戦争の幕開けになる。
「あんな奴らの言いなりになんてなってたまるか……」
ジュンは決意と怨念を込めて歯を噛み締める。
体を起こし、隣においてあった箱を手に取る。
週間【少女の作り方】
今、自分の心を落ち着かせられるのはこれを造っている時だけだった。
ローゼンメイデンという人形を完成させる。
それが今の自分の運命に抗う唯一つの事だと感じていた。
AnotherPlayer
第四十話「絶望の平行世界」
ローゼンメイデンの作成は困難を極めた。
携帯電話から送られてくる過去の自分のメールを頼りに、第七ドールである雪華綺晶の妨害を退けながらどうにか真紅を完成させる。
完成させた真紅は美しく可憐であったが
その見た目とは裏腹に非常に苛烈な性格であった。
そして、彼女は一つの質問をする。
「どうしてここで一人で暮らしているの?」
真紅の何気ない質問。
それに対し、ジュンは表情を落とし、呟くように告げる。
「前の家は無くなった……人間と妖怪の戦争のせいで」
その言葉に真紅は言葉を失う。
「妖怪と戦争ですって……まさか、幻想郷のことを言っているの?」
「そうか、知ってるんだな。そうだよ。
突然現れた幻想郷とそこに住んでいた妖怪。
それを退治する為にザフトが軍隊を送ってきた。
酷い戦いだったよ。
僕が生き残ったのは運が良いだけだ
仮面ライダーが助けてくれなかったら今、こうしていることすら出来なかった……」
辛い表情でジュンは語る。
それを真紅は真っ直ぐに見つめていた。
「仮面ライダー……剣崎一真ね」
「そうだよ……だけど、剣崎さんはもう居ない。殺された」
「えっ?」
そのジュンの言葉に真紅は絶句する。
「ザフトがやったんだ……だから、僕はあいつらが許せない!」
「どうして、真紅は平行世界なんかに居るんだ?」
nのフィールド。
そこで士郎は金糸雀に尋ねる。
彼女の先導でここまで来たが詳しい説明はまだだった。
「私たちの末妹……第七ドールの策略に嵌められたかしら。
どうにか抜け出せた翠星石の人工精霊がカナの所に来たから状況が分かったかしら。
真紅は状況を打開するべくローザミスティカをある平行世界に送り込んだ。
今、私たちが居た世界と強い繋がりをもった別の世界へと」
「それにどうして俺たちの力が必要なんだ?」
「カナたちでも平行世界の移動は難しいわ。
世界はありえない異物を拒む……でも、貴方たち二人はその平行世界に対して強い因果を持っているかしら」
金糸雀のその言葉に士郎と凛は顔を見合わせる。
だが、二人とも思い当たる節は無い。
「何かの間違いじゃないのか?」
「それはないかしら。理由は分からないけど確かに二人からその世界に繋がる強い因果を持っているかしら」
「とにかく、手伝うさ。真紅にはカズキたちが助けてもらったらしいからな」
士郎と凛は金糸雀に導かれ扉を開く。
その先に続く世界が絶望の闇に染まっているなどと知らずに……
黒い輝きが夜空を貫く。
それはザフトの量産型モビルスーツであるグフを貫いた。
装甲は容易く貫通され、爆散し、瓦礫が地面へと降り注ぐ。
それを為したのは宙に浮かぶ黒き魔人だった。
蛍火の髪と黒曜石の如き肉体を持ったそれは激しき怒りをその眼に湛え、強烈な殺意を持って攻撃を仕掛ける。
それを迎撃するために基地のモビルスーツは総員で迎撃に映る。
降り注ぐビームの弾幕。
それを物ともせずに魔人はその手にした黒き輝きを放つ槍を持って突撃する。
その一撃は地面を穿ち、粉砕する。
ただの一撃で建物は倒壊し、地面は断裂した。
人知を超えたその力の前にモビルスーツたちはたじろぎ狼狽する。
幾らその身に鎧を纏おうとも目の前の化け物に立ち向かえる気がしなかった。
それほどまでにその姿と強さは圧倒的だった。
魔人はそんな怯え竦むモビルスーツに対して躊躇無くその殺意を向ける。
だが、その肉体に何かが打ち込まれた。
それと同時に着弾した物体は爆発し、魔人を飲み込む。
「そこまでだ。カズキ!」
燃え滾る炎と煙を潜り抜け、赤い外套の男が魔人の前にその姿を現す。
魔人は晴れた煙の中からその男を睨みつける。
「また、邪魔をしに来たのか……士郎」
黒き魔人……カズキは睨みつけはするが襲い掛かりはしない。
「お前を元に戻すまで……何度だって抗ってみせる!」
赤い外套の男……士郎は二本の短刀を投影し、その手に握る。
そして、真っ直ぐにカズキに向かって駆け出した。
「もう、戻る場所なんて無い……この世界の何処にもそんな場所などありはしない!」
それに対してカズキは武装錬金を構え受けてたった。
昼間
桜田ジュンは大学の講義を休んで久々に帰郷した。
忌まわしき因縁の地。
運命を呪い、絶望したあの日から踏み入れていなかった場所。
真紅の強い要望を受け入れて彼は冬木の地を訪れる。
「ここが博麗神社があった場所だ」
そこでジュンはカバンの中から真紅を取り出す。
ジュンに抱き上げられた真紅の視線に収まったのは何も無い山頂だった。
かつて、建物があったという痕跡すら無い。
そこに神社の存在を感じさせるものなど何一つとして残っていなかった。
「話に聞いていたけれど……」
真紅はジュンから顛末を聞いていて事実だけは知っていた。
博麗神社は五年前の地震での倒壊から建て直されることは無く、妖怪との戦争後に国に取り潰されたという。
管理者である博麗の巫女も妖怪との戦争で既に亡くなっているとも
「納得してくれたか……もう、幻想郷の痕跡なんて殆ど無い。
その殆どは戦争の際にザフトの攻撃で吹き飛んだ。
今じゃ復興作業も進んで完全に人間の土地になっているよ」
ジュンは足を進めかつて幻想郷だった土地を一望できる場所に立つ。
そこは既に文明の手が入っていた。
広い土地の殆どはコンクリートで覆われ、その上に幾つもの施設が建っている。
その殆どは柵で囲われており、住宅には見えなかった。
「あそこにあるのはなんなの?」
それを真紅がジュンに尋ねる。
「ザフトの駐屯地だ……あいつらは自分が攻め立てた土地を日本から奪い取ったんだ」
忌々しげにジュンは呟く。
「ザフトの勢力化で、ザフトの糾弾とは中々、命知らずだな」
そんなジュンの背中に声がかけられる。
その言葉に驚き、ジュンは顔面を蒼白にし、勢い良く振り向いた。
だが、振り向いてその声の主を確認すると安堵の息を吐く。
「驚かさないで下さいよ。士郎さん」
ジュンの目の前には赤い外套の男が立っていた。
士郎はそのジュンの様子を笑いながら彼へと歩み寄る。
「久しぶりだな、ジュン。何でこんな所に居るんだ?」
「それはこっちの台詞ですよ。俺は真紅に頼まれて来たんです」
「真紅?」
ジュンの言葉に士郎が問い返す。
「私のことよ。衛宮士郎」
それに対して士郎の胸に抱かれていた真紅が応えた。
「人形がしゃべった!?まさか、妖怪の生き残りか!?」
それに対して士郎は驚く。
妖怪はかつての戦争以降に見ることは出来なくなっているからだ。
「違うわ」
そんな士郎に対して真紅はきっぱりと言い放つ。
「そうなのか……というか、何が違うんだ?」
そんな真紅に対してジュンが尋ねる。
「全然違うのだわ!」
それに対して噛み付くように真紅は叫ぶ。
「まぁ、それより。あまり、ここに近づかないほうが良いぞ」
士郎は話題を逸らし話を進める。
「何かあるんですか?」
「今夜にでもカズキがあの基地を攻撃する」
士郎は視線をザフトの基地に移す。
その言葉にジュンと真紅は驚愕した。
「カズキさんは……まだ」
「あぁ、許せていないんだ。大切な全てを奪ったあいつらのことを……」
士郎は悲しそうに告げる。
「……でも、許せないって気持ち……分かります。
あいつらが皆を奪って作った世界は本当にくだらない」
ジュンは破棄捨てるように言う。
「だが、あいつがしてることはただの破壊だよ。
ザフトの人間を無差別に殺したからって何も元には戻りはしない」
それに対してどこか達観したように士郎が告げる。
「そうね。何も元には戻らないわ。
だけど、憎いものを破壊して何が悪いのかしら?
狂った運命なら壊すしかないじゃない」
士郎たちに語りかけながら山頂へと一人の少女が姿を現す。
その姿に士郎は即座に短刀を投影し、身構えた。
「ヴィクトリアか……先に俺から倒すつもりか?
こんな所で仕掛ければザフトに気づかれるぞ?」
少女に殺意を向け、士郎が尋ねる。
「えぇ、有象無象の雑兵よりも貴方の方が危険だもの。
この時代の英雄、衛宮士郎」
「俺はそんなモノじゃないさ。
セイバーや剣崎さんには遠く及ばない……だが、お前たちに負けるつもりも無い!」
士郎は駆け出す。
だが、それを阻むように地面よりムーンフェイスが飛び出した。
「邪魔だ!カズキに群がる蛾のなりぞこないが!」
それに対して特に驚きもせずにムーンフェイスの体を切り裂く。
だが、それよりも先にムーンフェイスは30に分裂し、一気に士郎へと襲い掛かった。
「おいおい、酷い言い草だな」
「何を言う。貴様はかつてのヴィクターの代わりをカズキに押し付けているに過ぎない。
バタフライのように信奉するでもなく。利用しようとしか考えていない!」
士郎は攻め来るムーンフェイスたちを的確に一体一体を切り裂いていく。
その身のこなしは洗練されており、ムーンフェイスの攻撃の殆どは届きもしていない。
「流石だね……だけど、私にだけ集中しすぎじゃないかな?」
最後の一体となったムーンフェイスが士郎に尋ねる。
「なに?」
その言葉に何かを感じ、動きを止める士郎。
「はっ!」
そして、即座に後ろを振り向いた。
そこにはホムンクルス調整体に拘束されるジュンと真紅の姿があった。
「状況が飲み込めたならその武器を落としなさい」
何時の間にかジュンたちの傍に移動していたヴィクトリアが士郎に命ずる。
その言葉に従い士郎は短刀を手放した。
「くそっ!放せよ!」
ジュンは必死にもがくがただの人間である彼の腕力で振りほどけるほどにホムンクルスは脆弱ではない。
「貴方がローゼンメイデンね?」
そんなジュンを無視してヴィクトリアはホムンクルス調整体に掴まれた真紅に問いかける。
「……どうして、この世界の貴方がローゼンメイデンのことを知っているのかしら?」
真紅がヴィクトリアに問いかける。
ジュンが真紅の螺子を”まかない”と選択した時点でローゼンメイデンはこの世界に存在していない。
ヴィクトリアと真紅が出会った事が無いはずなのだ。
「貴方の妹に聞いたのよ」
「妹……雪華綺晶ね」
「そう名乗っていたわね。平行世界にすら干渉できる別世界の錬金術が生み出した至高……
その技術は賢者の石に通じるかもしれない」
「賢者の石ね……それを求めてどうしようというのかしら?」
「究極の存在……ムトウカズキを神へと至らせる」
「神……そんな事をしてどうするというの?世界を支配するザフトを排除し、全てを支配をしようというの?」
「それはこの世界の運命を人の手に取り戻すためさ」
真紅とヴィクトリアの問答にムーンフェイスが割り込む。
「運命を取り戻す……それはデスティニープランの否定って事じゃないのか!?」
そのムーンフェイスの言葉にジュンが食いつく。
それに対してムーンフェイスは指を振って否定する。
「彼らは運命など手にしていない。本当に運命を支配しているものは他に居るのさ。
人の手に生きる自由を。それが私たちの正義だよ」
ムーンフェイスは笑ってみせる。
その笑顔はジュンには不快にしか映らなかった。
「何が正義だ!人喰いの化け物が!」
ジュンがムーンフェイスに対して叫ぶ。
「む~ん……私は本当のことしか言っていないんだけどね」
ムーンフェイスは困ったという表情を作るがその動作は非常に演技臭かった。
「別に理解なんて必要ないわ。真紅の持つローザミスティカを取り出してしまえばそれで良いのだから」
ヴィクトリアはその手を真紅へと向ける。
「残念だけど、そうはさせないよ」
しかし、その手は真紅に届く前に切り裂かれる。
「なに!?」
それは気づけばヴィクトリアの目の前に居た。
そして、その姿を見て眼を丸くする。
「仮面ライダー!?」
その姿はかつて、人を救うためにアンデッド……そして、ザフトと戦った仮面ライダーのそれに似ていた。
だが、かつてのそれよりもその鎧は整然としていて、完成度は高く感じられた。
「そうだ……仮面ライダーグレイブ。貴様たち、悪を倒す者だ!」
グレイブはそう名乗ると手にしていた剣でヴィクトリアに斬りかかる。
ヴィクトリアはそれをかろうじて回避するがその表情は狼狽していた。
「こっちには人質が……」
そして、切り札である人質のジュンを切る。
だが、ジュンを拘束していたホムンクルス調整体は何かの射撃を受けて貫かれ、地面に倒れ伏せる。
「人質なんてせこい手を使ってるんじゃないわよ」
そして、弓を携えた新たな仮面ライダーが出現する。
「二人目!?」
それにヴィクトリアは驚愕し、眼を見開く。
「残念だが」
更に何者かがムーンフェイスに襲い掛かった。
それは手にした槍でムーンフェイスの体を貫通した。
「こっちにも居るぜ!」
そして、ムーンフェイスの体をヴィクトリアに向かって放り投げる。
「くっ!」
それを見てヴィクトリアは咄嗟に地面に穴を開いて、そこへと逃げ込んでいった。
「逃げちゃったわよ?」
それを見て弓を持つ仮面ライダーがグレイブに尋ねる。
「後を追うよりも先にそこのホムンクルスを倒すぞ」
グレイブは残ったムーンフェイスに視線を向ける。
「まさか、新しい仮面ライダーが居たとはね……だけど、私のサテライト30の分身は全て実体。
どれだけ、倒そうとも一体でも居れば……」
そう言って、彼は手にした月牙の武装錬金の特性を発動させる。
即座にその体は30体に増殖した。
「ちっ、面倒な奴だな」
槍を持った仮面ライダーが悪態を吐く。
「何、一人10体。奴が分裂する隙無く攻撃すれば倒せる」
グレイブは特に気にする様子も無くムーンフェイスの群れへと駆け出す。
「それもそうね」
「へっ、やってやるか!」
それに二人の仮面ライダーも続いた。
仮面ライダーたちはカードを取り出すとそれを武器にラウズする。
―――マイティ―――
覚醒した力は単純に武器へと吸い込まれ、その力を増幅させる。
その剣は敵をなぎ払い、その弓は敵を打ち砕き、その槍は敵を刺し貫いた。
その速度、威力は凄まじく。
瞬く間にムーンフェイスたちは破壊されていく。
「強い!?」
それにムーンフェイスは驚愕する。
その強さはかつて存在していた仮面ライダーとなんら遜色は無かった。
いや、それ以上に感じられた。
ムーンフェイスは勝ち目がないと感じると逃走を開始しようとする。
だが、
「偽・螺旋剣」
それに対して士郎は投影した宝具を投射する。
「ブロークン・ファンタズム」
そして、宝具を爆破させ、ムーンフェイスを完全に破壊した。
戦いは瞬く間に決着した。
「流石ですね」
グレイブは変身を解き、士郎に駆け寄る。
「君は仮面ライダーなのか?」
士郎は困惑した様子で彼に尋ねる。
「はい、仮面ライダーグレイブ。志村純一です」
志村と名乗った男は笑顔で士郎に手を差し出した。
「そうか。俺は衛宮士郎だ」
士郎は差し出された手を取り、握手を交わす。
「話は聞いています。何でも凄腕の魔術師だとか」
「そうでもないさ。今日も君たちが来なければ負けていただろうからな」
士郎は自嘲気味に笑う。
「そう謙遜するな。お前ならあの状況でも潜り抜けられたさ」
そんな士郎に新たな人物が現れ声をかける。
士郎はその姿を見て驚愕する。
「橘さんなのか!?」
士郎は驚き、橘に駆け寄る。
「あぁ。久しぶりだな」
「はい……なるほど、新しいライダーシステムは橘さんが開発したんですね」
「そうだ。カズキに対抗するためには新たなライダーが必要だと思ってな。
時間はかかったがかつての仮面ライダーよりも強力になった」
「見ましたよ。ムーンフェイスほどのホムンクルスを敵ともしなかった。
そして、やっぱり、橘さんもカズキを倒そうというんですね?」
「あぁ……今のカズキはかつての彼じゃない。
剣崎もあいつのあんな姿を望んでは居ないはずだ」
「……そうですね」
「事情は知っている。三人の仮面ライダーはお前に託す。
カズキを倒すために有効に使ってくれ」
橘は士郎の肩に手を置き、告げた。
「良いんですか。俺は仲間も護れないような男ですよ」
士郎はその橘の提案に躊躇いを見せる。
「事情は知っていると言っただろう。お前が悪いわけじゃない。
そんな事を言えば俺だって剣崎も睦月も助けることは出来なかった」
「……分かりました。新しい仮面ライダーの力。当てにさせてもらいます」
士郎は橘の提案を受け入れる。
「よろしくお願いします」
そんな士郎に志村は頭を下げた。
だが、後ろの二人はどこか納得のいっていない様子で士郎を睨みつけている。
「士郎、私も連れて行ってもらえないかしら?」
真紅が士郎にお願いする。
「君をか……」
その提案に士郎は戸惑う。
「私は雪華綺晶を倒さなければならない。
ヴィクトリアと雪華綺晶に関係があるならそこから辿れるはずよ」
「なるほどな……だが、命の保障は出来ないぞ」
「自分の身ぐらい、自分で護るわ」
「分かった。こちらも出来るだけヴィクトリアを生け捕りに出来るよう協力しよう」
士郎は毅然とした真紅の態度に頷く。
作戦の決行は夜間だという。
それまで、真紅はジュンと過ごすこととなった。
「聞いていなかったけど。貴方と士郎はどういう関係だったのかしら?」
「ん……そうか、まだ、過去の僕は妖怪との戦争を体験してないんだったな。
天涯孤独になった僕を支えてくれたのが剣崎さんだった。
その繋がりから士郎さん、カズキさん、なのはと出会った」
「こっちの世界でも彼らは共に戦っていたのね」
「最初は皆、妖怪と戦っていたよ。だけど、幻想郷側にも事情があると知って次第に幻想郷を元に戻そうと活動方針を変更した」
「ちょっと待って。最初は彼らは幻想郷について知らなかったというの?」
「そうだけど、そっちじゃ違ったのか?」
「えぇ、幻想郷が外の世界に現れるよりも先に幻想郷へと行ったことがあるわ。私も含めてね」
「決行違うんだな。ローゼンメイデンが居ないってだけで」
「いえ、私たちの存在がそこまで彼らの行動に影響を与えるとは思えないわ」
真紅はこの世界の過去について違和感を感じる。
既に起こってしまったこと。
元の世界においては未来にあたる出来事である故にそこまで深く追求するつもりは無かった。
だが、何か見落としてはいけないことがこの世界の過去にあるような気がする。
「ジュン……五年前のこと、詳しく話してもらえないかしら。
貴方にとっては辛い出来事だとは思うけど」
「……大丈夫だ。この事が過去の僕……そして、別世界とは言え剣崎さんたちを救うことになるのなら」
ジュンは決意し、話を始める。
五年前に起こった悲劇について
アンデッドの復活、パピヨンのホムンクルス事件、ジュエルシードを巡るプレシア事件。
その戦いの最中、剣崎はカズキ、なのは、士郎と出会った。
彼らは共に戦い、それぞれの事件を解決へと導く。
そして、LXEとの戦い、聖杯戦争へと続いていった。
驚くべきことにアンデッドとの戦いは妖怪との戦争の前に決着が着き、全てのアンデッドは封印されていた。
そう、ジョーカーアンデッドである相川始も含めて52体のアンデッドは完全に封印されたのだ。
そして、時期を同じくして闇の書事件と武藤カズキの再殺が発生する。
だが、どちらも和解を持って事件は解決した。
全ての戦いを終わらせ。
ヴィクターの件だけは残っていたものの一時的に平和な日々へと戻っていた。
そこで後に最大の禍根を残す妖怪との戦争が勃発する。
最初は彼らは妖怪から人を護るために戦い続けた。
だが、強大な力を持つ妖怪により、町を蹂躙され、彼らは町を護りきることが出来なかった。
事態を重く見た日本政府は自衛隊を派遣する。
だが、その戦力も返り討ちに合い、その頃、既に居座っていたザフトに支援を要請した。
既に疲弊していた連合と異なり余力を残していたザフトはこの戦いに最大の戦力を投入する。
特に二機の最新鋭のモビルスーツの性能は凄まじく数多くの妖怪を退治したと言う。
だが、その頃、幻想郷側の状況を理解した剣崎たちはどうにか人間との和解を勧めるべく活動を開始した。
しかし、それは受け入れられなかった。
「ザフトのモビルスーツ……光の羽根を持った悪魔のような奴は変身することも出来ない剣崎さんを殺したんだ。
何のためらいも無く。停戦を求めていたあの人を……」
ジュンは話しているうちに憤りを覚え、涙を流す。
「何で平和を願って……人類のために大切な友人すら封印した剣崎さんが死ななくちゃならなかったんだ」
「ジュン……もう良いわ」
真紅は優しくジュンの頬に触れる。
「いや、話させてくれ……せめて、そっちの世界が平和になるかも知れないなら。僕が知っている全てを……」
ジュンは話を続ける。
妖怪との戦争は人類の勝利で終わった。
ザフトも相当に疲弊したが完全な物量で押し切ってしまったのだ。
そして、それは武藤カズキが人間に戻るための手段を破壊することになってしまった。
アレキサンドリアの作成していた白い核鉄は完成に至らず、資料は完全に焼失した。
そして、カズキは自分の残りの生をヴィクターとの決着までと決めて戦いを挑んだ。
戦いの最中、カズキはヴィクターを連れて月へと至り、そこで勝利を収めた。
だが、カズキは死ぬことは無く。
月から自力で帰還し、突如としてザフト、連合、錬金戦団、魔術協会に戦いを仕掛けた。
「そこから詳しい話は知らない。そもそも、僕は戦いに参加していないから士郎さんやなのはから聞いただけなんだ」
ジュンは話を終える。
「それでは、カズキが心変わりをした理由は分からないの?」
「……いや、それは何となく分かるよ。カズキさんが帰還した時。
既にパピヨンは戦団に倒され、斗貴子さんは自害していた。
友人とも呼べるようなライバルと恋人が死んでいたんだ。
自暴自棄になってもしょうがない」
「……本当にそうなのかしら」
真紅はそのジュンの推測が引っかかった。
そもそも、何故、帰還したのだろう。
元の存在に戻れないと知り、ヴィクターも倒したというのに生命の溢れる地球に戻ってきたというカズキが信じられなかった。
「それと気になるのだけど、ザフトと敵対していた時、シンはどうしていたの?」
そして、真紅はザフトに所属しながら剣崎と共に戦っていたシンの事が気にかかっていた。
彼が剣崎たちの敵に回ることなど考えられないが幻想郷を経験していない彼が妖怪を護る意思を固めたのかも怪しいとも考えていた。
「シン……誰のことなんだ?」
しかし、ジュンの返答は意外だった。
真紅は呆気に取られる。
剣崎たちと共に行動していたのなら彼と出会わなかったとは思えない。
「ザフトの兵士でアンデッド封印の為に一真と協力していたはずよ!?」
「ザフトの!?そんな事、あるわけ無いだろ。
ザフトは妖怪との戦争までは連合と戦争状態だったんだ。
そんな余裕がある訳無い」
その言葉に真紅はようやく合点が行く。
「戦争……それじゃ、最初から彼はここにきていない。一真たちの仲間じゃなかった」
真紅が居た世界とこの世界の大きな相違点の一つ。
それが連合とザフトの二度目の戦争。
確かにそれならばシンがこの日本に来ていないのは仕方ない。
ザフトにそんな余裕が存在しないのだ。
「そっちじゃ、ザフトが協力してるのか……何だか不思議だな」
ジュンがその真紅の話に感想を漏らす。
「そうね……幾多もの運命の交差。その違いだけで世界はこうも有り様を変えるのね」
真紅たちローゼンメイデンが居ない。幻想郷との接点が薄かった。ザフトが協力していない。
大きな三つの相違。
それがどのように世界を変えていくのか分からない。
だが、それでも行くしかないのだろう。
真紅はジュンと別れ、士郎についてザフトの基地を見張っていた。
「士郎……貴方はカズキと親友だったのかしら?」
その最中で真紅が士郎に尋ねる。
「あぁ、唯一無二の友人だ。あいつの強さに心惹かれ、そして同時に嫉妬をしたこともあるよ」
それに対して士郎は素直に応える。
昔を懐かしむように。
「私は貴方達に告げるような言葉を持たないわ。
そして、そんな悲劇的な戦いに挑む貴方の前で自分勝手な目的を遂げようとしている」
「その為にこの世界に来たんだろ。だったら、気にする必要は無いよ。
それにこの戦いは俺じゃなきゃダメなんだ。
もう、この世界には居ないなのはとの約束でもある」
「高町なのははミッドチルダに移住したのだったわね」
「あぁ、そして、管理局はこの世界への干渉を完全に中止した。
もう、会うことは無いだろうな」
「……」
「哀れに思うか?」
「いえ。この世界も全て貴方たちの意思が決めた事。
それを哀れむ必要などないのだわ」
「そうか」
士郎は自嘲気味に笑う。
そして、程なくして黒き輝きがザフトの基地に突き刺さった。
燃え盛る基地の中。
武藤カズキはグフを串刺しにする。
「止めろ!カズキ!!」
そこに士郎が駆けつける。
「士郎か……毎度毎度、飽きないな。お前も」
カズキはゆっくりと士郎に視線を向ける。
「当然だ。友人を止めるのは友人の役目だからな」
「言った筈だ。俺たちはもう、友では無いと」
「オレは……オレたちは何時までもお前のことを親友だと思っている」
真っ直ぐに士郎は弓をカズキに向ける。
「何故だ。オレはお前の大切なものを幾つも奪った。
遠坂を手にかけたのだって俺だ!」
カズキが叫ぶ。
それに対して士郎は一切、動じない。
真っ直ぐにその矢はカズキを指している。
「あれは事故だった。お前だって殺すつもりなんか無かったんだろ?」
「そんなわけは無い。オレがどれだけの命を奪っていると思っているんだ?
魔術師というだけで。それだけでオレにとっては殺す対象なんだ。
お前も例外ではない!」
「なら、何で何時もオレを殺さない。殺そうと思えば殺せるはずだ。
どんだけ戦おうともお前はオレにトドメを刺さずに帰るだけだった。
お前はどんだけ言葉で繕うとも変わっちゃいないんだ。
友人を大切にし、それを助けるためなら命だってかけるお人よしの大馬鹿野郎からな!」
「もう、オレは昔のオレなんかじゃない!」
駆け出すカズキ。
それに対して士郎はその弓を引いた。
真紅は戦場となっている基地を一人歩く。
ザフトの兵士に見つからない様にと。
その最中、彼女の足元が開かれた。
真紅はそれに動じることなくその穴の中へと落下して行く。
そして、着地した先で再開を果たした。
「一人でのうのうと現れるなんてね」
ヴィクトリアは真紅を見てあざ笑う。
だが、真紅は涼しい顔をしていた。
「ヴィクトリア……母を失い、父を失い。それで何をしようというのかしら?
錬金術に対する復讐?」
「そうね……確かに錬金術は憎いわ……だけど、それ以上に憎いものが出来たのよ。
私はこの世界の運命に対して復讐するの。
その為なら何だって利用するわ。
憎い錬金術の結晶も、パパを殺したムトウカズキだってね」
「運命を憎んで何になるというの!?
確かに世界は貴方に優しくはなかった。
だからと言って復讐のために罪も無き人々を殺すことは正しくはない」
「ふふふ」
真紅の強い思いに対してヴィクトリアは笑う。
「あはははははははははははは!」
まるで壊れたかのように笑った。
「貴方は何も知らないのね。雪華綺晶は全てを知っているというのに」
「雪華綺晶が何を知っていると言うの?」
「この世界の運命のことよ。ローゼンメイデンの生み出された理由。その本懐。貴方は何も知らない。知りはしない。
それなのに私と戦うというの?」
ヴィクトリアのその眼はどこか虚ろだった。
「……操られているのね。雪華綺晶。そこに居るんでしょ?」
真紅はそんなヴィクトリアに対して告げる。
いや、彼女にではない。
その背後にかけられた鏡。
その中に映る白薔薇の妹に対して。
「見つかってしまいましたわね。赤薔薇のお姉さま」
雪華綺晶は鏡越しに話しかける。
「隠れる気も無かったのではなくて?最初から貴方の目的は私を誘い込むことだった」
「さて、どうでしょう……」
「まぁ、どうでも良いわ。貴方が何を知っていると言うのか……教えてもらいましょうか?」
「それは無粋すぎますわ。私はこんなにもヒントを出しているというのに答えを貰おうだなんて」
「ヒント……ね。なら、最初に問題を出すべきだわ。
有象無象の言葉の羅列では何も解き明かせはしないもの」
真紅は雪華綺晶を睨みつける。
士郎とカズキの戦いは苛烈を極めた。
士郎を援護する仮面ライダーグレイブ、ランス、ラルクの三人も果敢にカズキに挑むもその能力、経験。
どれも彼に届くことは無い。
「この化け物がとっとくたばれよ!」
ランスはマイティをラウズし、カズキへと挑む。
「その程度か!」
カズキはその槍に対してサンライトハートを合わせる。
ぶつかり合う槍と槍は一方的にサンライトハートが貫く結果となった。
「なっ!?」
必殺技ごと武器が破壊されたことにランスは驚愕する。
そして、間髪を居れずにカズキはランスの胴体にサンライトハートを刺し貫く。
放出された黒き生体エネルギーは完全にランスを飲み込み、その肉体を消し飛ばした。
「ランスをよくも!」
ラルクはマイティをラウズして光の矢を射出する。
その一撃はカズキの胴体を貫通する。
「これで!」
通常なら致命傷。
勝利を確信するラルクだがカズキはその傷を意にも返さずにラルクに突撃する。
「なっ!?」
「残念だがオレはアンデッド並に死ねないんだ」
カズキはラルクのバックルを素手で貫く。
その一撃はラルクの体を貫通し、その変身を解除する。
だが、その前に彼女は絶命していた。
「ふん!」
その遺体を分解し、カズキは肉体の再構成に使用した。
「強すぎる……」
グレイブはそのカズキの強さに戦慄していた。
「下がっていろ。お前まで死に急ぐ必要は無い」
そんなグレイブに士郎は告げる。
士郎は何となくこのような結末を予想していた。
古くからの付き合いならばともかくただの人間にカズキは躊躇いを見せない。
そして、かつてのライダーシステムよりも高性能になっていようとも変身する者の資質までは補えない。
「いえ、仲間をやられておいておめおめと逃げられません。
それにここで彼を逃せばまた、多くの人々が死んでしまう。
それは避けなければならない!」
グレイブは果敢にカズキに向かっていく。
「次はブレイドもどきか……その程度で仮面ライダーを名乗るな!」
カズキはグレイブの剣をサンライトハートで受ける。
だが、グレイブの剣はカズキを圧倒した。
「うおおおお!!」
グレイブの決死の勢いにカズキは眼を見張る。
「なるほど……少しはましみたいだな」
カズキはそう言うとサンライトハートのエネルギーを増幅させる。
その余波にグレイブの体は吹き飛ばされた。
「なら、一撃で消し飛ばす!」
漲るサンライトハートのエネルギーはプロミネンスのように燃え盛る。
そして、それをグレイブ目掛けて一気に放射した。
カズキの体に蓄えられた膨大なエネルギーが一気に解放され、グレイブの体を飲み込み、跡形も無く消し飛ばす。
「くそ……」
それに対して士郎は何も出来はしなかった。
「次はお前だ。士郎!」
カズキは士郎に対して身構える。
「もはや……殺しあうしかないのか」
士郎は苦渋の表情で呟く。
そして、詠唱を開始した。
――体は剣で出来ている。
血潮は鉄で、心は硝子。
幾たびの戦場を越えて不敗。
ただ一度の敗走はなく、
ただの一度も理解されない。
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
故に、生涯に意味はなく。
その体はきっと、剣で出来ていた。
士郎の詠唱が完了すると同時に世界が塗りつぶされる。
自身の心象風景で世界を塗りつぶす士郎の奥義。
固有結界・無限の剣製【アンリミテッド・ブレイド・ワークス】
その世界は無数の剣が突き刺さる丘だった。
空には歯車が回り、無機質で荒涼とした世界が広がる。
「固有結界か……だが、それで勝てるか!?」
カズキは士郎に向かいサンライトハートのエネルギーを放射する。
グレイブすらも一撃で消滅させた狂えるエネルギーの奔流。
それを直撃すれば士郎とて無事では済まない。
だが
「その力はオレには届かない」
士郎はその手にした日本刀でそのエネルギーを受け止める。
刀身に当たったエネルギーは日本刀についた飾り緒から放出される。
「それはソードサムライX!」
その剣を見てカズキは驚愕する。
「こと、それが剣であればオレに投影できないものは無い。
例え、それが武装錬金であろうとも例外ではない!」
士郎はカズキに対して駆け出す。
士郎は幾つもの武器を投影し、繰り出す。
しかし、そのどれもが尽く、破壊され、塵へと帰っていく。
だが、それでも士郎は諦めなかった。
「諦めろ!」
しかし、カズキは圧倒的な力で蹂躙しようとする。
その力の差は絶大だった。
届く様子など皆無だった。
「まだ……まだ!」
だが、それでも士郎は諦めない。
諦めきれない。
これ以上、親友が傷ついていく姿を見ないためにもその力を振るう。
その最中、一つの声が士郎に聞こえた。
それは契約を求める。
未来永劫、人類の為に戦うことを条件に、届かない境地へと届けると。
出来ないはずのことをさせると囁いた。
士郎は躊躇わずその契約を受け入れる。
「投影開始」
士郎の魔術回路は限界を超えて作動する。
それは生み出しえない力を士郎に授けた。
士郎は脳裏にある強く気高き剣を強く意識する。
不死生物の王が授けた強大にして、圧倒的なる剣。
その力を持って士郎はカズキへと斬りかかった。
その一撃にサンライトハートは軋む。
だが、砕けはしない。
「……ブロークン・ファンタズム!」
そして、士郎は叫んだ。
自分が最も近くで接し、憧れた幻想を破壊する。
強烈な破壊のエネルギーが迸り、サンライトハートを完全に破壊した。
士郎の固有結界も消え、燃え盛る炎の中へと舞い戻る。
「はぁはぁ……」
士郎は膝を着き、息を乱す。
「……士郎」
そんな士郎に対してカズキが話しかける。
「ありがとう」
その体は元の人間に戻っていた。
何も変わらない人の肉体。
唯一違いがあるのならば……
その心臓が存在しないということ。
カズキは命とも言える黒い核鉄を失い。
その場に倒れた。
その眼は閉じられ、息は無い。
「……カズキ」
士郎は永遠に覚める事のない眠りについた親友を抱き上げる。
そして、静かに歩き出した。
nのフィールド
「これが……起こりえたかもしれない未来なのか」
士郎……
真紅たちが元々居た世界の。
高校生の士郎が水晶に映っていた世界を見つめながら呟いた。
そこに映し出されていた光景は真紅が逃げ込んだ平行世界で起きた出来事。
自分とカズキの救いの無い戦いの映像。
「それは違うな」
そんな士郎に対して声がかけられる。
士郎が振り向けばそこに立っていたのは赤い外套の男だった。
その手には真紅が抱きかかえられている。
「アーチャー……」
士郎はその姿を見て全てを理解する。
その姿はその映像で見せられた衛宮士郎そのものだった。
「起こりえたかもしれない未来ではない。起こってしまった現実だ」
「それじゃ、お前はあの世界のオレなのか?」
士郎の問いにアーチャーは頷く。
「そうだ。運命に抗おうと戦っていた男を討つ為に運命の軍門に下った哀れな男がオレだ」
「運命……ヴィクトリアも言っていたがそれは何なんだ?
概念的なものというわけじゃないんだろ?」
「……残念だがオレはその事を直接、お前に伝えることは出来はしない。それが契約だ。
だが、一つ言える……お前の世界なら運命に抗える可能性がある」
「運命に……抗える?」
「そうだ。オレにしてみればあの世界は奇跡が起きた世界だ。
もしかしたら、カズキも剣崎さんも死なない未来を掴み取れるかもしれない」
「そっか……ようやく分かったよ。お前が何で命をかけてカズキを救ったのか」
「親友の為に命をかける……当然の行為だ」
「オレはお前のようにはならないよ。アーチャー……俺自身は弱いかも知れない。
だけど、救ってみせる、カズキを……運命に負けるつもりは無い」
士郎は真っ直ぐにアーチャーを見つめる。
アーチャーはその表情を見て笑い。
彼の元へと歩み寄り、そして、真紅を差し出した。
「ローゼンメイデンは運命に抗うための鍵だ。
故にこの無限の世界において彼女たちは唯一無二の存在だ。
全てのローゼンメイデンを失うことは避けるんだ」
「ローゼンメイデンが……それでお前はどうなるんだ?」
「オレは再び世界に呼び出されるまで座へと帰る」
「……ありがとな」
「お前に感謝される筋合いは無い」
アーチャーはそう告げるとその姿は消えていった。
垣間見たのは絶望の未来。
だが、それは士郎がいる世界とは大きな相違点を持っていた。
その相違の全てが良いほうに作用しているのかは分からない。
だが、それでも希望があるように思えたのは士郎の気の間違いではないだろう。