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高町なのはは目を覚ます。
それは既に気絶してから二日が経った後の事だった。
なのははそこで現在の状態について知らされる。
幻想郷の出現とその事による妖怪の襲撃事件について。
レミリアの号令により、行き場を失った妖怪が紅魔館に集まっている。
だが、それに乗らなかった一部の妖怪は幻想郷の人里や冬木に対して襲撃を仕掛けている。
その襲撃は散発的で群れでは行われていない。
だが、それでも俄かに冬木も今回の事件で騒がしくなり始めている。
その影響の一つにキングの活動もあった。
それにより妖怪の襲撃と今までのアンデッド、そして、ホムンクルス事件が結び付けられ始めている。
今まで、潜在的に溜まっていた化け物に対する恐怖がここで膨れ上がっている。
何時、爆発してもおかしくは無い。
これまでは仮面ライダーの都市伝説により、まるで御伽噺のように語られていたことも
今では事実として受け入れられつつあった。
警察の動きの活発化もそれに拍車をかけていた。
そして、博麗霊夢は妖怪の山に入ってから帰還していない。
「私が寝てる間に……」
なのはは暗い表情を作る。
彼女の家族や友人が安全であることは報告されている。
それでも街の人間がこうまでも明白な脅威に晒されていること。
それも本来なら出会うはずの無い世界同士の話。
アンデッドやホムンクルスなどの目に見えなかった恐怖。
妖怪もその中の一つだが幻想郷という突如として出現したという謎の土地により、
それは目に見えてしまっている。
それに加えて、更に闇の書についても対応しなければならない。
「思いつめてもしょうがない。今は魔力を回復させることを第一に考えるんだ。
君のレイジングハートの修復と改造もまだ、終わってないしな」
そんななのはにクロノが言葉をかける。
「レイジングハートの改造……」
「あぁ、レイジングハート自身が言い出した事だ。改造が完了すればヴォルケンリッターとも戦いになるだろう」
「そっか……やっぱり、レイジングハートは私の気持ちを分かってくれてる」
あの戦いでなのは自身も力の差を痛感していた。
それを少しでも埋めようとレイジングハートも考えていたのだろう。
そのことがなのはには嬉しかった。
「フェイトのバルディッシュも改造が進んでいる……今は歯がゆいかも知れないが耐えてくれ」
クロノの言葉になのはは頷く。
今のなのはでは戦うことはままならないだろう。
だからこそ、ここで無茶を言い出すべきではないと彼女は考えていた。
なのはに割り当てられたアースラの部屋
そこでなのははフェイトとの再開を喜んでいた。
「あの時はありがとう。助けに来てくれて」
ヴォルケンリッターとの戦いの最中、フェイトが助けに来てくれたことを改めてなのはは感謝の言葉にする。
「友達だから……なのはがピンチだって聞いたら、言っても立ってもいられなくなって」
フェイトははにかみながら答える。
その言葉がなのはにはとても嬉しかった。
久方ぶりの再開。
だが、それは予想よりもずっと早い再開だった。
「フェイトちゃんは今、時空管理局の魔導師になったんだよね」
「うん、罪を償う代わりに任務をこなすの。今回の事件は一緒に戦えるね」
「そうだね」
「できれば、なのはの仲間のことも教えてくれないかな?」
フェイトは敵対していた時に出会ったなのはの仲間のことを尋ねる。
「うん、皆、凄く良い人たちだから直ぐに仲良くなれるよ」
彼らなら間違いなくフェイトを受け入れてくれるとなのはは確信している。
戦いの中で強い絆で結ばれた仲間たちなのだから。
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第三十九話「勇気の心」
「武藤カズキって言うんだ」
フェイトはなのはから説明された仲間の中でカズキの話題の時にそう呟いた。
「カズキさんがどうしたの?」
そんなフェイトになのはが問い返す。
「あの人が執着していたからどんな人なのかなって思って」
「あの人……パピヨンのこと?」
「うん、あの人……パピヨンには良く助けてもらったから」
「助けてくれた……想像し辛いな」
なのはは自分の印象にあるパピヨンを思い浮かべる。
彼はどう考えても他人を助けるようなタイプには見えなかった。
「あの人がどう考えてるかなんて分からなかったけど、私はそう感じたから。
だから、あの人が強く思っていた人に会いたいって思って。
なのはが私を助けてくれたように、そのカズキって人はパピヨンを助けたから」
フェイトはどこかパピヨンに自分を重ねていた。
孤独に生き、親に愛されていなかった彼がどこか似ていると感じたから。
「そっか……丁度、カズキさんもアースラに居るみたいだし会いに行こうか」
なのははそう提案する。
カズキに割り当てられた部屋
そこでカズキはベッドに腰をかけて自分の武装錬金を見ていた。
小さくなった本体。
その強度も威力も以前と遜色は無い。
だが、その特性を掴むことが出来なかった。
以前のサインライトハートが持っていた特性を担う飾り布は存在しない。
その事から完全に特性は変わっていることは明白だった。
「これじゃ、戦えない!」
カズキは強く柄を握り締める。
特性の判明しない武装錬金では同じ錬金の戦士と戦うことなど出来はしない。
そうでなくては戦いの場に出ることは出来ない。
剣崎も士郎もそれをカズキに許してくれなかい。
「俺は……変わってしまったのか?」
カズキは武装錬金を元に戻し、自分の胸に手を当てる。
そこに埋め込まれた黒い核鉄は存在を変質させる。
だとすれば、今の自分は昔の自分ではないのか。
そんな恐怖が生まれてきていた。
部屋のインターホンが鳴る。
「どうぞ」
カズキが声をかけるとドアが開いた。
「こんにちは、カズキさん」
なのはが部屋に入ってくる。
「なのは!よかった、目を覚ましたんだ」
カズキは元気そうな彼女の顔を見て顔をほころばせる。
自分の無茶を彼女が無茶をして止めたのだ。
そのことが気がかりでしょうがなかった。
「ごめんなさい。迷惑をかけちゃって」
「こっちこそ、あの時、なのはが止めてくれなかったら戻れなくなっていたかも知れなかったし」
逆に謝るなのはにカズキも謝る。
「それじゃ、おあいこですね……あっ、でも、もうああいう無茶をしないで下さい。
カズキさんが戻れなくなることは誰も望んでないんですから。
多分、斗貴子さんもそう思ってると思います」
「斗貴子さんか……」
カズキは一ヶ月ほど前に錬金戦団に戻った彼女の事を思い出す。
彼女も自分を裏切ったのかと暗い思いが過ぎるが直ぐにそれを振り払う。
「あっ、すいません」
その様子に気づいてなのはが謝る。
「いや、気にしないで……それよりも、後ろの子ってフェイトちゃんだよね?」
カズキがなのはの後ろでおどおどとしているフェイトの話題を振る。
「あっ、そうだった!ごめんね、フェイトちゃん」
なのははそういうとフェイトの手を繋いで部屋の中に招き入れる。
そして、彼女の背中を押してカズキの前に立たせた。
「あ、あの……フェイト・テスタロッサです」
そう言ってフェイトはお辞儀をする。
「俺は武藤カズキ。何回か戦ってる時に会ってるけど、こうやって落ち着いて話すのは初めてだね」
「はい……えっと、あの時、あの人を……パピヨンを止めてくれてありがとうございました」
フェイトはそう言って改めて頭を下げる。
「あの時……蝶野がホムンクルスに成った日のこと?」
カズキの問いかけにフェイトは頷く。
あの日、フェイトもその現場に立ち会っていた。
カズキが気づいた頃にはその姿は無かったが彼女もパピヨンに何かを告げようとしていた。
「蝶野……あの人はパピヨンって名前じゃ?」
「あぁ、蝶野攻爵って言うのがあいつの本名なんだ。
でも、ホムンクルスに生まれ変わってその名前は捨てたみたいだからパピヨンって呼んだほうが良いよ」
「でも、カズキはパピヨンって呼ばないんですか?」
「誰もあいつの本当の名前を呼んでやらないのは寂しいだろ。
それにあいつは俺がそう呼ぶことを嫌がりはしないからな」
「そうなんですか……」
フェイトはどこか寂しそうにする。
「どうしたの?」
「いえ……私も友達になりかたったって思って」
フェイトのその言葉にカズキとなのはは驚く。
「あいつと友達って……やめておいたほうが良いと思うけど」
「何でですか?」
「何でって言われても……」
特に理由は無いがパピヨンとフェイトが友達になれるとは何となく想像し辛いと二人は感じている。
だが、どう説明すれば良いのか分からずに苦笑いをしていた。
しばらく、カズキとなのは、フェイトは雑談をし、二人は帰っていた。
カズキは一人になり、ベッドに横たわる。
するとしばらくしてドアが開いた。
「誰?」
カズキは上半身を起こしてドアの方を見る。
そこにはなのはが立っていた。
「なのは、どうしたんだ?」
さっき帰ったばかりだというのにとカズキは怪訝とする。
「ちょっと、お話があって」
なのははそう言うとそのまま部屋に入ってきた。
「話?」
カズキは話ならさっきすれば良かったのにと思いながらベッドから立ち上がる。
「カズキさん、また悩んでますよね」
「!?」
なのはの言葉にカズキは驚く。
この幼い少女は人の心の機微には敏感だ。
敵対していたフェイトの悲しみすら見抜いて友達になろうとするほどに。
そして、どれだけ良い訳しようが真正面からぶち抜いてくるほどに真っ直ぐでもある。
それが分かっていたからカズキは素直に肯定した。
「あぁ」
「それって、胸の黒い核鉄の事ですよね」
「そうだよ。俺は俺の命を終わらせたほうが良いのかなって……」
そこまでカズキが言った瞬間、その頬をなのはの拳が打つ。
「えっ!?」
カズキは突然のことに驚き困惑する。
だが、次になのはの頬を伝う涙を見て、声を失った。
「自分の命が無くなった方が良いなんて言わないで!」
なのはは涙を流し訴えかける。
「だけど……俺かヴィクター、助かる命は一つだけなんだ……
だったら!ヴィクターが助かる道を選べば、多くの命が救える……救えるんだ」
カズキはそこまで告げて、辛そうに顔を歪ませる。
「確かにそうかも知れない……だけど、それじゃ、カズキさんが救われないじゃないですか!」
「そうだよ……だけど、俺は皆を救いたい……」
カズキはそこで言葉を詰まらせる。
最初の力を手にしたのは親友を救うためだった。
そして、街に危機が迫っていると知り、大切な人たちを救うために戦いを始めた。
何時も誰かを救うために頑張り続けてきた。
痛いのも、恐いのも嫌だけど。
それ以上に、誰かが痛いのも、恐いのも、嫌だったから。
だけど、だからと言って自分が死ぬのも嫌だった。
「……俺が皆を護るから……誰か俺を護ってくれ……」
自分の運命に対し、弱音を吐く。
それを誰が責められる。
今の彼の境遇は彼自身の責任ではない。
確かに一度、失った命なれど、だからと言って失って良い命などではありはしない。
そんなカズキをなのはは抱きしめていた。
「私が……ううん、私たちが救ってみせる。
士郎さんも、剣崎さんも居る。
今ここに居ないけど、斗貴子さんやシンさんだって居る。
カズキさんは一人なんかじゃない!」
密着した体からなのはの鼓動が聞こえる。
小さいけど、確かに強く生きる力を讃えた音が伝わる。
そして、知る。思い知る。
自分は今までずっと救われてきたのだと。
カズキもその小さな体を抱きしめる。
「ありがとう、なのは……屈しそうな俺を救ってくれて」
カズキはそう告げて、なのはの体を離す。
カズキは笑っていた。
その笑顔を見て、なのはも笑顔になる。
「私だってカズキさんが太陽のように明るくて強いから頑張れたから、お相子ですよ」
翌日
なのはがレイジングハートについての説明を受ける。
レイジングハートエクセリオン
それが新たなレイジングハートの名前だった。
ベルカ式のカートリッジシステムにより、瞬間的に使える魔力と魔力総量が上昇する。
これにより、力でヴォルケンリッターにも立ち向かえる筈だ。
だが、まだフレームの強度不足であり、最大出力での運用は禁じられていた。
同様にフェイトのバルディッシュも改造され、バルディッシュアサルトとして蘇っていた。
こちらも同様にカートリッジシステムにより性能が向上している。
二人は生まれ変わった自身の相棒との再会を喜んでいた。
そんな、彼女たちの元にヴォルケンリッター出現の報告が入る。
「奴らはどうやら、幻想郷の妖怪を狙っているらしい。
まだ、紅魔館に合流していないそれなりに力のある奴らを狙っているようだが、
博麗の巫女と紅魔の主との約束もある。
妖怪をヴォルケンリッターに討たせる訳には行かない」
クロノが二人に報告する。
幻想郷を元に戻すには妖怪たちは必須であるという。
十六夜咲夜からそう、報告されて防衛対象として妖怪も加わっていた。
流石に人を襲う者に対しては適用されないが。
「それと最悪な事態だがヴォルケンリッターは二人とも離れた場所に現れた。
そして、同時にアンデッドが出現している。
剣崎さんと相川さんはそちらに向かっている。
再殺部隊もそっちに行くと思うからそこは安心できるが仮面ライダーの援護は無いと思ってくれ」
そのクロノの言葉になのはとフェイトは互いに頷きあう。
「大丈夫だよ。前みたいに簡単に負けたりなんかしない」
なのはは力強く宣言する。
レイジングハートも強化された。
ただ、それだけで余裕を持ったわけではない。
魔力も全開とは言えないが、どこか心が軽く感じられていた。
「その言葉、期待しておくよ」
そんななのはの表情を感じてクロノも自信をもって彼女たちを送り出す。
「現在、ヴォルケンリッターを魔理沙と咲夜がそれぞれ迎撃している。
彼女たちも強力な使い手だが相手はそれを上回っている、到着しだい協力して戦ってくれ」
幻想郷の竹林の上空
ヴィータは逃げる夜雀に向かいハンマーを構える。
「悪く思うなよ……」
苦々しげにそう呟きながら手にした玉を空中に放り投げた。
それをハンマーで打ち出し、夜雀にぶつけようとしているのだろう。
だが、それは成されない。
「!?」
更に上空より放出された魔力の奔流がヴィータを撃つ。
「動くと撃つ……いや、撃つと動くぜ、私が」
箒に乗り、黒衣と白いエプロンに身を包んだ魔理沙がその場に駆けつける。
「撃ってから言うことじゃねぇだろ!」
それに対し間一髪で回避していたヴィータが叫んだ。
「そりゃそうだろ。言ってからじゃかわされる」
それに対し魔理沙は軽い調子で受け流した。
「はっ!言わなくても避けられたら意味ねぇだろ」
「そうだな。それじゃ、次は避けないでくれ、当てづらい」
「素直に言うこと聞くと思ってるのか?」
「いや、流石に馬鹿でも動くな」
「そりゃそうだろ」
「何せ言っている意味が分かってないからな」
「そう言うわけじゃねぇよ!なんなんだ、お前は!?」
ヴィータは要領を得ないというよりも会話しているようでしていない魔理沙に対してブチぎれる。
「普通の魔法使いだぜ。まぁ、あんまり妖怪の数を減らされるのはこっちも困るのさ」
魔理沙はヴィータに対し魔力のレーザーを放つ。
「そうかよ。だったら、力ずくで止めてみな!」
ヴィータはそれを回避し、魔理沙に接近する。
魔理沙はそれを回避し、旋回しながらレーザーを放つ。
「おせぇ!」
だが、それに対し、ヴィータはカートリッジの魔力を解放し、爆発的に加速し、魔理沙へと迫る。
「なっ!?」
その速度に魔理沙は呆気にとられ、そのまま、体にグラーフアイゼンを打ち付けられる。
そして、箒から放り出され、そのまま竹林へと落下していった。
「悪いな」
その姿を見てヴィータがぼそりと呟く。
「お前の魔力も蒐集させてもらう」
ヴィータは魔理沙の元へと近づこうと下降を開始する。
だが、進行を一本の魔力砲が遮った。
「おわっ!?」
それに驚き、ヴィータは前進を止めて、その方向に顔を向ける。
「魔理沙さんから、魔力は奪わせない!」
そこにはレイジングハートエクセリオンの砲身モードを構えるなのはの姿があった。
「お前はこの前の……散々、やられたってのにもう、邪魔しに来たのか」
ヴィータはその姿を見て苦々しげに呟く。
なのはが到着した瞬間に魔理沙はやられてしまっていた。
一対一の形になるがそれでも戦いをやめるわけにはいかない。
この為にレイジングハートを強化したのだ。
後れを取るわけには行かない。
「前のようにはいかない。幻想郷の人たちの為にも妖怪から魔力を奪わせる訳にはいかないから!」
なのははレイジングハートエクセリオンのモードをアクセルへと変化させる。
「人間の癖に化け物の味方をするのか?こいつらも人を襲ってるんだぞ?」
ヴィータが怪訝な表情で問いかける。
「これには事情があるの。妖怪だって、消滅してしまうからやってるだけ。
確かに人を襲ってしまうものは見過ごせないけど、まだ、それをしてない妖怪まで倒す必要は無いの」
「消滅……いや、お前と話す必要なんかない。あくまで邪魔するって言うなら今度は徹底的に叩く!」
ヴィータは会話を切り上げてなのはへと玉を飛ばす。
「待って!」
なのははそれを迎撃するために魔力弾を生成する。
「アクセルシューター!」
それは加速し、ヴィータの玉を相殺した。
「前より強くなってる?」
ヴィータはそれに対し、驚く。
「どうして、話を聞いてくれないの?」
「うるせぇ!先に仕掛けたのはそっちだろ!
それに人を襲って殺すような化け物を放っておいて、私たちを止めるって言うのかよ!」
「それには事情が……」
「そんなもの私たちにだってある!」
ヴィータは圧縮魔力を解放し、なのはに対し一気に加速する。
噴射された魔力を加速と回転に利用し、一気になのはに向かって突撃した。
「ラケーテン・ハンマー!」
それは以前になのはを一撃で戦闘不能にした攻撃。
だが、それに対し、なのはは落ち着いて身構える。
「プロテクション・パワード!」
なのははカートリッジを使用し、魔力のバリアを展開する。
それはヴィータのラケーテン・ハンマーを受け止めた。
拮抗する力と力。
だが、それは直後になのはのプロテクションが爆発し、ヴィータを吹き飛ばす。
「うわっ!」
ヴィータは投げ出された体を空中で固定する。
「アクセルシューター!」
なのははそれを目掛けて一気に12個の魔力弾を生成し、ヴィータに向かって発射した。
それは四方を囲むようにヴィータに向かう。
「この!」
それをヴィータは魔力の壁を生成し、防いだ。
その頃、紅魔館
「余り数が集まらないわね」
レミリアは紅魔館に集まった妖怪たちを見て呟く。
そこに居るのは本当に小物だらけで名前もあるのか定かではないものが多い。
「ある程度、力がある妖怪は皆、自分勝手だもの。
その一部が今、異世界の魔法使いに攻撃されてるみたいだけど」
その呟きを聞いて傍に立っていたパチュリーが答える。
「今、咲夜が戦ってるんだったわね」
咲夜は現在、シグナムと戦っているはずだ。
「あの子、この前、外の世界に行ってから変わったわね」
パチュリーが話題を変える。
それに対しレミリアは答えない。
「咲夜は余りに人と接しなさ過ぎた……それは人として余りに不安定だった。
だけど、外の英雄と出会い、人の道を歩き始めたわ。
このまま、私たちと共に倒れるぐらいなら人間として生きてもらおうと言うことかしら?」
パチュリーの問いかけにレミリアはパチュリーの顔を見る。
「違うわ。あれの体の全ては私の物。ただ、これから先の戦いのために動いてもらっているだけよ。
咲夜があの、原初の不死を束ねし剣をこちら側に招き入れてくれれば考えただけ」
そのレミリアの様子を見てパチュリーは一笑する。
「そう言うことにしておくわ」
「な、何を言ってるのよ!嘘なんかついてないわ。真実を言っただけよ」
レミリアは顔を赤くしてとりつくろう。
そんな様子を見てパチュリーは愉快そうに楽しそうに笑う。
そんな、談笑をしていると突如として、屋敷全体が揺れた。
「なに!?」
その衝撃にレミリアとパチュリーの二人が慌てる。
「人間側の攻撃?予想よりもずっと早いわよ」
それに対しレミリアは人間に仕掛けられたと感じた。
幻想郷出現から余り時間もたっておらず、人間側も表立って警戒をしてきていない。
とは言え、裏で何をしているとも限らないのだ。
「まさか……」
だが、紅魔館の知恵であるパチュリーはそれに懐疑的だった。
理由は単純に速すぎるからだ。
幻想郷の妖怪について知らなければここが狙われる理由は分からない。
味方だと思っていた人間が裏切っていなければだが。
二人が慌てているとその直ぐ近くの床に穴が開き、そこからヴィクトリアが飛び出す。
「大変よ。フランドールが外に飛び出したわ」
そして、その言葉を聞いて二人は蒼白になる。
「フランが!?でも、今は昼よ?」
フランドールはレミリアの妹。
レミリアと同じ吸血鬼であり、太陽の下には出れない。
昼間のこの時間に外出するなどありえない筈だ。
「今、外の太陽は隠されてるわ」
しかし、ヴィクトリアがそう告げる。
「隠されてる?」
「空全体が暗幕に覆われてるようになってるのよ」
「どういうこと?」
「破滅の存在よ。あいつが突然、現れてフランドールを示唆し、空を暗闇で覆った」
ヴィクトリアのその言葉を聞いてレミリアは近くの壁を殴り壊した。
「あいつめ!何処まで私たちの世界を壊せば気が済むの」
その瞳は怒りに燃えている。
「妹様を使って人間に対して妖怪の脅威を伝えるつもりなのね」
パチュリーは逆に静かな様子で呟く。
「そうでしょうね。フランドールの力はとても分かりやすく脅威になる。
どうしても、人間と妖怪を戦い合わせたいらしいわね」
ヴィクトリアも落ち着いた様子で見解を述べた。
「連れ戻しにいくわよ」
レミリアが飛び出そうとする。
「ダメよ」
だが、それをパチュリーが制止する。
「どうしてよ?」
「破滅の存在が介入している以上、妹様は正気じゃないわ。
貴方で勝てるの?」
「それは……」
「もし、貴方がここで倒れれば妖怪は行き場を失う。レミィが行くべきじゃない」
「じゃあ、どうしろと言うの!?
このままじゃフランは近くの人間を皆殺しにする。
そうなれば人間と戦うことになるのはもちろん、味方を失うことにもなるわ」
「その味方を使えば良いのよ。妖怪を退治するのは何時だって人間よ」
パチュリーの言葉にレミリアは唖然とする。
なのはとヴィータの戦い。
それに突如として横入りが入る。
「禁忌【レーヴァテイン】」
巨大な炎の剣が上空より竹林をなぎ払った。
それは大地を抉り、そのものすらも燃やして行く。
「何!?」
なのははその突然の攻撃に驚き、上空を見上げる。
そこには赤い服に金髪、そして、奇妙な翼を広げた小さな少女の姿があった。
「子供……?」
その姿を見てなのはは驚く。
見た目はなのはよりも更に下だ。
「アハハハ……人間だ。ねぇ、遊ぼうよ」
少女はなのはに対して問いかける。
その笑顔が、言葉が、なのはの背筋を凍りつかせる。
何せ、その全てに驚異的な殺気が含まれていた。
いや、これは殺気と呼べるのか?
それは殺意ではなくもっと、おぞましい何かに感じられた。
「貴方は誰?妖怪なの?」
なのはは少女に問いかける。
「私?私はフランドール・スカーレット。
今なら、人間は壊し放題なんだよね?だって、世界中にたくさん居るんだもん。
幻想郷みたいに少ないから居なくなっちゃうなんてことないんだもんね?」
フランドールは無邪気になのはに問いかける。
「何を言ってるの?それにスカーレットって、もしかしてレミリアの妹?」
なのははその姓に聞き覚えがあった。
「そうだよ。お姉さまのことを知ってるんだ。
だったら、強いのかな?霊夢や魔理沙みたいに私を楽しませてよ!
今度はゲームじゃなくてさ!」
フランドールはその周囲に魔力の弾丸を形成する。
「禁忌【グランベリートラップ】」
それは縦横無尽に襲い掛かり、なのはとヴィータすらもまとめて襲い掛かった。
「ちょっと待って!」
なのははそれをプロテクションで防ぎながら叫ぶ。
「レミリアさんは人間と戦う気は無いんじゃないの!?」
「お姉さまのことは知らないよ?私は遊びたいから遊ぶだけ」
フランドールは特に気にする様子も無く無尽蔵に魔力の塊を生成する。
「そんな……」
その返答になのはは言葉を詰まらせる。
「むぅ……さっきから、それで防いでるだけじゃ面白くない。
壊れちゃえ」
フランドールは手を握るとそれだけで突如としてなのはのプロテクションが破壊される。
「えっ!?」
それになのはは呆然とする。
何かが飛んできて壊れたとかではない。
突如としてそれは破壊された。
理由は不明だが危機的状況なのは変わらない。
何故なら、体を護るのは無くなり、フランドールの放った魔力の塊は迫ってきているからだ。
「きゃあ!」
なのははそれを回避できずに直撃し、地面へと落下して行く。
「何なんだよ?」
ヴィータも魔力の塊を防ぎながら呟く。
言っていることもやってることも滅茶苦茶だ。
そして、性質が悪いことにその力は圧倒的だった。
放っておいて良いような存在じゃない。
「だったら、黙らせて蒐集させてもらう!」
ヴィータは圧縮魔力を解放し、加速する。
その勢いでフランドールの魔力の塊を突破しながら、フランドールへと迫った。
「ラケーテン・ハンマー!」
それはなのはに気が向いていたフランドールに直撃する。
その一撃にフランドールは空中を吹き飛んで行く。
だが、それは突如として急激に停止した。
「へぇ……こっちの方が面白そう」
フランドールは新しい標的を見つけて笑顔になる。
打ち付けられた傷は急速に再生して行く。
「化け物め!」
ヴィータは更に追撃に出ようとする。
だが、その行く手を魔力の炎が遮った。
「こんなもの!」
ヴィータはそれをグラーフアイゼンで叩き割り、突破する。
だが、その炎は幾重にも折り重なり、進路を阻んできた。
「うざってぇ!」
その全てをヴィータは突き破り、フランドールへと接近する。
「これも突破して来るんだ」
フランドールは迫り来るヴィータのグラーフアイゼンを手に作り出した炎の剣で受け止める。
その様子はとても嬉しそうであり、楽しそうだった。
「お前の遊びに付き合う積もりは無いんだ。さっさとけりをつけさせてもらう!」
ヴィータはカートリッジを消費し、均衡を打ち破ろうとする。
その一撃にフランドールの体は吹き飛ばされる。
だが、それでも即座に空中に停止し、特に苦しむ様子も無くヴィータを見た。
「そうなんだ……それじゃ、これで終わらせてあげる」
フランドールがそう呟くと彼女の周囲に幾十もの魔力の塊が出現する。
それらは色とりどりに輝き、まるで星空のように瞬いていた。
「壊れちゃえ。禁弾【スターボウブレイク】」
フランドールが手をかざすと彼女の周囲の星星がヴィータ目掛けて加速する。
その速度は凄まじく、魔力球の軌跡はまるで線のように空間を貫いていく。
光線の雨が降り注ぎ、それはヴィータを飲み込み、そして、地表へと激突してその大地を抉る。
凄まじいまでの爆発が巻き起こり、衝撃の余波が竹林をなぎ倒していった。
光線が止み、地表から舞い上がった土煙が晴れ、攻撃に巻き込まれたヴィータが姿を現す。
その体は攻撃により傷つき、体から血は流れ、鎧も破損していた。
その表情は驚きに目を見開いていた。
だが、それは攻撃に対する感想ではない。
「お前……」
ヴィータの目の前に飛ぶなのはに視線が固定されていた。
「何とか、大丈夫そうだね」
なのははヴィータへと笑いかける。
彼女もバリアジャケットを破損しているがそこまで酷い傷はない様子だ。
「何で助けに入ったんだ!?お前にとって私は敵だろ!?」
ヴィータは当然の疑問をなのはに投げかける。
身を挺して敵を護るなど馬鹿でもしない行為だ。
「そうかもしれないけど……でも、悪い子には見えなかったから、見殺しになんか出来ないよ」
なのはは笑いながら答える。
あの攻撃からヴィータを護るために矢面に立ったのだ。
病み上がりの体に相当なダメージだろうにそれを顔にも出しはしない。
そんななのはにヴィータは呆然とする。
「そんなことで……」
「すごーい!」
ヴィータが言葉をつむごうとするとそれに割り込むようにフランドールが歓喜の声を上げる。
その瞳は爛々と輝いているように見えた。
「それも耐えられるんだ。だったら、全力でやっても大丈夫だよね」
フランドールのその無邪気な言葉になのはとヴィータは戦慄を覚える。
地形を変えるほどの大魔法を使用しておいて涼しい顔に加え、それが全力ではないと言い放った。
その先に待ち構える彼女の全力に対し否応なく恐れが募る。
「ねぇ、フランちゃん。今、幻想郷が、紅魔館が、あなたのお姉ちゃんがどういう状況なのか分かってるの?」
だが、なのはは驚くほどに冷静な様子でフランドールに問いかける。
「知ってるよ?人間と戦うんだよね。人間は数が多いから少し今の内に数を減らしておいたほうが良いって聞いたからこうしてお姉さまの為に戦ってるわ」
「それは誰に言われたの?」
「フィアって言ってたわ。破壊の目が見えない変な妖怪だったけど」
「そうなんだ」
なのはは少しほっとする。
もしかしたら、レミリアや紅魔館の住人が話とは違う行動に出たのかもと思ったがその名に聞き覚えはなかった。
「それなら、その話は間違ってる。人間の命は数じゃない、どんなに多くてもその一つ一つに価値があるの。
無闇に人を殺しちゃいけない。それにそれは貴方のお姉ちゃんであるレミリアさんの望むことじゃない」
「そうなんだ」
フランドールはなのはの言葉を聞いて感心するように頷いた。
その様子になのはは安堵する。
「だけど、遊ぶのは止めないよ」
だが、フランドールはなのはの言葉を受け入れてもなお、今の自分の行動を止めるには至らなかった。
「私のしたいことがお姉さまの為になるならそれも良いかなって思ったけど。
別に関係ないならないで全然構わないわ」
フランドールは笑う。
所詮、理由付けなど方便に過ぎなかった。
ただ、好き勝手にやりたいだけなのだ。
その様子になのはは改めて口をつむぎ、フランドールをにらみつけた。
「だったら、力ずくでも止めさせてもらう。貴方が人を脅かす悪魔であり続けるなら」
その戦意を受けて、フランドールは嬉しそうに大きく口を開いた。
「始めからそういってるじゃない。それじゃ、もう一度、はじめよ!」
再び、なのはとフランドールの戦いが始まる。
「おい!そんな体であんな化け物の相手をするのか!?」
ヴィータがなのはの様子を見て驚く。
どう考えても無謀にしか感じられなかった。
「大丈夫だよ。それよりもヴィータちゃんの方が傷ついてる。
あの子は多分、見境なんて無いから、今の内に逃げて」
「見逃すって言うのか!?」
「今回は横入りが入っちゃったから。でも、次は逃がさないよ」
「……死ぬんじゃねぇぞ」
ヴィータはそう言い残して転送されていく。
それに対してなのはは笑顔で答えた。
戦いは一方的にフランドールが攻撃を仕掛ける形になる。
「禁弾【カタディオブトリック】」
巨大な魔力の弾丸をフランドールはなのはに向かって浴びせかける。
その無数の弾丸は不規則な動きでなのはを攻め立てる。
「くっ!」
それをどうにかかいくぐろうとしても速度と反射が追いつかない。
それに回避行動に専念していては得意の魔砲を撃つ隙もなかった。
牽制用のアクセルシューターもこの巨大な魔力の塊を相殺し切れるとも思えない。
「あんなに自信満々だった癖にもう降参なの?やっぱり、人間は弱いね」
フランドールは攻撃の手を休めることなく嘲笑う。
「そんな事ない!」
なのははプロテクションを発動し、魔力弾を受け止める。
一発、二発と耐えるが段々と減衰するのを感じていた。
その一つ一つの攻撃の威力の高さを物語っている。
「バリアバースト!」
だが、それを逸らすようにプロテクションを爆発させる。
それにより出来た弾幕の隙間。
即座になのははレイジングハートエクセリオンをバスターモードへと変形させる。
新たなる砲を構え、その照準にフランドールを捕らえた。
そして、カートリッジを消費し、内蔵された圧縮魔力で魔砲を構築する。
「ディバインバスター・エクステンション!」
砲身より発射される魔力の砲撃。
それは以前のディバインバスターを凌駕する。
弾幕をぶち抜き、そのままフランドール目掛けて駆け抜けた。
「!?」
それに驚きフランドールは咄嗟に回避行動をとるもその一撃に腕が奪い取られる。
「すごい……そうでなきゃ、遊びがいがないわ!」
一瞬、呆けるがフランドールは即座に笑う。
その笑みには狂気が溢れていた。
その様子になのははぞっとする。
「禁弾【過去を刻む時計】」
フランドールがスペルカードを宣言する。
その瞬間、なのはの体に衝撃が走る。
「なに!?」
驚き確認するとバリアジャケットの胸部が破壊されていた。
そして、自分の周囲に魔力で出来た回転する刃を見つける。
それはまるで前からそこにあったかのように反時計回りに回転し、なのはに迫った。
なのはが回避行動を取ろうとするよりも早く、それはなのはに向かって飛来する。
プロテクションを発動するがそれも突き破り、なのはを切り裂こうとそれは襲い掛かった。
「うおおおおおおお!!」
だが、それはなのはに届くことは無かった。
回転する魔力の刃。
それをカズキはサンライトハートで弾き飛ばす。
「カズキさん!」
なのははカズキに向かって手を伸ばす。
カズキはその手をとって、二人はゆっくりと地上へと降りた。
「何で出てきたんですか!?再殺部隊が見てるかも知れないんですよ!?」
なのははカズキを下ろして糾弾する。
「何でってそれはなのはが危なかったからだよ」
それに対して素直にカズキは答えた。
「助けてくれたのは嬉しいですけど……でも、今のカズキさんは武装錬金の特性だって分からないじゃないですか」
武装錬金の最大の武器とも言える特性が判明していない状態で吸血鬼を相手にするのは危険すぎる。
「そうかも知れない……だけど、俺は皆が戦っているのを眺めて、それでただ戦えないで歯噛みをしているのは嫌なんだ。
俺が弱いから迷惑をかけちゃうかもしれないけど……それでも皆を助けたい。
それが俺が戦う理由なんだ。
ヴィクターになったってそれは変わらない。変わっちゃいない。
それに一人じゃ無理でもなのはが居るじゃないか。
俺がなのはを護るから、なのはも俺を護ってくれ」
「カズキさん……うん、そうだね。私たちは仲間なんだ。救ってあげるだけの関係じゃない。
一緒に戦いましょう。再殺部隊とも妖怪とも……この世界に迫る闇の全てと!」
「あぁ!なのはが一緒なら負ける気はしない!」
カズキはサンライトハートを構える。
そして、再び襲い掛かる過去を刻む時計と切り結んだ。
凄まじい速度と威力を持つが防げないほどではない。
その刃の動きを止めている間になのはがフランドールに狙いをつける。
だが、それよりも先になのはに対してもう一つの過去を刻む時計が迫る。
「二つ!?」
それをなのはは回避するがその後を追うようにそれは迫る。
「撃たせてなんてあげないよ。貴方たちは私の攻撃を耐えてれば良いだけなんだから」
フランドールは狂気に染まった笑みを見せる。
一方的な殺戮と破壊。
それを楽しむその様子を見てカズキはフランドールをにらみつける。
「負けられない……こんな所で負けられるか!俺が皆を護るんだ!!」
圧倒的な強者を相手にカズキの心が高まる。
初めてサンライトハートの特性を発現させた時の事を思い出す。
あの時もなのはを……命の危機に迫った少女を助けたいという一心がその引き金となった。
そうだ。
何も変わってなどいない。
何時だってこの心が強くなるのは誰かを護りたいからなんだ。
いや、その想いはあの頃よりも遥かに強い。
共に戦いの場に立ち、共に歩み、命を共にした、仲間の為なら更に強く輝ける。
「うおおおおおおおおお!!応えろ!サンライトハート!!」
カズキの闘争本能に反応し、サンライトハートの刀身が展開する。
そして、その内部に充満していたカズキの生体エネルギーがその姿を現した。
それは太陽の輝き。
この世界に生きる者を暖かく包み込む陽光の如き暖かさと
あふれ出る生命の苛烈なる威力を併せ持った力。
武装錬金の形状が変化しようともその本質は変わらない。
カズキという少年の持つ心の暖かさと強さは何一つ変わらない。
「うおおおおおお!!」
カズキは展開したエネルギーの威力を持って過去を刻む時計を破壊する。
そして、その穂先をフランドールに対して伸ばした。
内蔵された生体エネルギーの伸縮は自在。
カズキ自身のエネルギーが続く限り、何処までも突き進む。
「きゃっ!」
フランドールはその穂先を回避する。
「熱い!!」
だが、回避した筈のフランドールは突如として痛がる。
現にその皮膚は焼かれたようにただれていた。
「効いてる!?」
その様子にカズキ自身も驚く。
直撃してもいないはずなのにそのダメージは確かなようで展開していた過去を刻む時計は解けていた。
「もしかして、サンライトハートの光を受けたから?」
その様子に対してなのはが呟く。
「生体エネルギー自体にも破壊力はあるけど、それもエネルギーを直撃させなければ意味が無いはずなんだけど」
「吸血鬼って太陽光に弱いらしいですから、もしかしたらサンライトハートの光は本物の太陽光と同じ効力なのかも……」
「まさか、俺の武装錬金にそんな隠された効力があるとは!
だけど、これなら有利に戦える!」
カズキはサンライトハートを構え、その刀身を広く展開する。
そして、発する生体エネルギーを強めた。
強力な輝きが暗闇の世界を照らして行く。
「ひっ!」
それに感じてフランドールは後ずさる。
ある程度、影響を受けるだけでその体から煙が湧き上がっていた。
その怯える様子にカズキは戸惑いを感じる。
あれだけ暴虐の限りを尽くそうとも見た目は小さな少女なのだ。
普通の人間の感性を持つカズキでは罪悪感を感じてしまう。
「もう、こんな事を止めて紅魔館に帰るって言うなら、これ以上、戦うつもりは無い」
カズキはそうフランドールに提案した。
だが、その言葉はフランドールの耳に届いている様子は無い。
「何で壊れないの……人間の癖に……壊れてよ!!」
フランドールは身を庇うように自分自身を抱きしめて絶叫する。
それと同時にフランドールの体から凄まじいまでの魔力が放射された。
それは拒絶と破壊の力。
自分以外の周囲の存在を否定し、それを壊していく。
フランドールの放った力は大地を抉り、周辺に見えていたその全てを破壊しようと伸びていった。
「うおおおおお!!」
それにカズキは吹き飛ばされるがなのはがその手を掴み、展開したプロテクション・パワードの庇護下へと招き入れる。
「大丈夫ですか?」
「何とか……だけど、このままじゃまずい」
破壊の力の塊と化したフランドールを見て呟く。
単純な破壊力なら今までよりも低い。
だが、これは完全に全周囲を無差別に破壊している。
「そうですね」
「あぁ、それじゃ」
「正面突破しましょう」
「正面突破しよう」
二人は互いの武器を構える。
発射態勢に入るなのは。
それと同時にプロテクションは解除されるがその代わりにカズキはサンライトハートを展開して盾とする。
その背後でなのはは魔砲を構えた。
カートリッジがロードされ、圧縮魔力を魔法へと変換する。
発射シークエンスが整い。
それと同時にカズキはサンライトハートのエネルギーを更に上昇させる。
「貫け!俺の武装錬金!!」
破壊の衝撃に向かってサンライトハートの穂先が突き進む。
凄まじい衝撃に武装錬金は軋むがそれでも真っ直ぐにフランドールに届いた。
その輝きを受けてフランドールの放つ衝撃が鈍る。
だが、トドメには遠い。
しかし、それに追従するようになのはは狙いをつけた。
「ディバインバスター!!」
放たれた桜色の魔力は鈍った衝撃を突き破り、フランドールを撃ち抜く。
その一撃に魔法は消散し、それと同時にフランドールは意識を失い大地に倒れた。
「やった!」
それを見てボロボロの二人は勝利を喜ぶ。
恐ろしいまでの強敵だった。
遊びではなく全力での殺し合いでは勝てたかも危うい。
だが、それでも勝利し、命を繋ぐことが出来たことは喜ばしいことだった。
「とりあえず、彼女を紅魔館に連れて行こう」
カズキはフランドールへと歩み寄ろうとする。
だが、その時、突如としてカズキの影から何者かが這い上がってきた。
「危ない!」
なのはは咄嗟にカズキとの間に入り、その襲撃者の刃を受ける。
「なのは!?」
カズキは驚き、なのはの体を抱きとめた。
「大丈夫です」
それに対してなのはは普通に返答する。
一撃はバリアジャケットに阻まれ傷になっていない。
「完全に油断したところを突いたが……幼子とは思えない機転と行動力だな」
影から現れた襲撃者はなのはの行動に感心した様子で呟く。
その手には忍者刀が握られていた。
「再殺部隊か!?」
カズキがその姿を見て叫ぶ。
「如何にも。再殺部隊、根来。消耗した貴様の命をもらい受けよう」
襲撃者は刀を構える。
それに対してカズキとなのはも身構えた。
だが、それよりも先に突如として二人の足元が開く。
「えっ!?」
二人は反応すらままならずそのまま下へと落下していった。
「何!?」
根来はそれを追うように飛び出すがそれよりも先に地面に開いた穴は閉じられる。
「取り逃がしたか……」
根来はそう呟くと地面を刀で切りつけ、そのままその傷の間に飛び込んだ。
「あたた……」
なのはは打ったお尻をさすりながら立ち上がる。
「ここは?」
カズキも立ち上がり周囲を見渡す。
「私の武装錬金の中よ」
それに応えたのはヴィクトリアだった。
その背中にはフランドールが背負われている。
「ヴィクトリア!?それじゃ、君が俺たちを助けてくれたのか?」
「フランを取りに来たついでよ。被害を出す前に止めてくれたしね」
ヴィクトリアはそっぽを向いて歩き出す。
「待って!何でフランちゃんは暴れだしたんですか?フィアって人が何かした見たいですけど」
なのはがヴィクトリアの背中に話しかける。
「フィアね……そう名乗ったのは貴方たちが取り逃がした破滅の存在よ」
その言葉に二人は驚く。
博麗大結界の破壊を行ったとされるが全く、所在の掴めなかった相手だ。
それがよもや紅魔館に現れていようとは思わなかった。
「詳しい話なら紅魔館についてからしてあげるわ」
ヴィクトリアは立ち止まりもせずにそのまま進んで行く。
カズキとなのははそのままその後を追った。
紅魔館
「すまなかったわね。私たちの不祥事を解決してもらって」
レミリアがそう、カズキとなのはに切り出す。
「それは構わないんですけど……破滅の存在は?」
なのはがレミリアに尋ねる。
「……所在は不明よ。紫の奴も結局、位置が分かってないみたい。
本当に役立たずね」
レミリアは辛らつな言葉を吐く。
「ごめん、俺たちが倒せなかったせいで」
カズキがそんなレミリアに対して謝る。
「あなたが謝る必要なんて無いでしょ。
端末とは言え、その力は神に匹敵してるは勝てなくて当然よ」
それに対してレミリアは特に気にしている様子は無い。
「問題はフランの力を人間が見てしまったこと……」
レミリアの呟きにカズキとなのはも苦々しい表情になる。
フランの圧倒的な破壊力は遠く離れた街にも余波が伝わっているだろう。
そのような規格外な存在が明らかになった以上、人間の動きは性急になるに違いない。
「貴方たちのおかげで死者が出なかったのは不幸中の幸いよ。
まさか、人間である貴方たち二人だけで倒せるなんて思いもしてなかったけど」
レミリアは憂いの表情で目の前のティーカップに入った紅茶を見る。
その頃、人里
慧音と共に動いていた士郎と凛の前にアリスが現れる。
「貴方たちが衛宮士郎と遠坂凛ね」
アリスは突然、二人に問いかけた。
「そうだけど……あんたは?」
士郎がアリスに問いかける。
「アリス・マーガトロイド。人形使いよ。霊夢と魔理沙の知り合いと言った方が話は進みやすいかしら」
「霊夢と魔理沙の……それが何の用なんだ?」
二人の知り合いが士郎に用があると思わなかった。
「それは貴方たちに真紅たちを救う協力をして欲しいからかしら」
アリスに代わり、その横に立っていた人形が応えた。
「ローゼンメイデンか。真紅がピンチって何があったんだ?」
接点はほぼ無かったがシンやカズキから話を聞いていた士郎はすんなりと話を受け入れる。
「今、真紅たちは平行世界に居るかしら」
この呼びかけにより、士郎は己の持つ運命と対峙する事となる。