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幻想郷
そこは世界で唯一、妖怪がのびのびと暮らすことが出来る楽園。
世界に失われていく幻想を一手に引き受けて、その世界は構成される。
それは忘れ去られた夢のたどり着く先。
未来への代償に支払われた過去の残滓。

世界の変容はその最後の楽園さえも逃しはしない。


「随分と暑くなってきたわね」
霊夢は照りつける太陽を腕の影で見上げて呟く。
じっとしているだけで汗がにじみ出てくる様だ。
だが、それだけに吹き抜ける風の涼しさを実感できる。
「よう!もう、調子は良いのか?」
そこに魔理沙がやってくる。
黒ずくめの服で暑くないのかと霊夢が問いかけると魔理沙は笑って応えた。
「傷はとっくに良いわよ。何だかんだ言っても腕は良いのよね」
霊夢は後遺症も無く完治している。
「それは良かった。それじゃ、完治祝いに今日は宴会でもするか?」
「完治は前からだって言ってるでしょ。でも、こうも暑いなら、偶には騒いで忘れるとしますか」
「そうそう。紅魔館や白玉楼、永遠亭の連中も呼んで豪勢にやろうぜ」
和気藹々と二人は今日の予定について話し合う。

宴会の計画も終わり、魔理沙は温くなった麦茶を飲み干す。
「そう言えば今頃、どうしてるかな?」
魔理沙が突然、話題を変える。
「誰が?」
「外の世界の奴らだよ。ちゃんと異変は解決できたのかなってさ」
「さぁね。本当ならもう関わることなんて無いはずだけど……」
霊夢はため息を吐く。
外とは隔絶し、関係を断ち切っているはずだというのに何度も邂逅している。
世界としてそれは喜ばしい事態ではない。
「少し心配ね」
それでも霊夢は嫌な気分では無かった。
その言葉に魔理沙は驚き口を大きく開ける。
「珍しいな、霊夢……お前が誰かを心配だなんて言うなんて」
「別に良いでしょ。それに破滅の存在の件だって片付いてる訳じゃないんだし……」
幻想郷で逃げた破滅の存在の端末。
その行方は今も分っていない。
紫がそれについて調査をしているというが動きが見えないのでサボっている可能性もある。
「それにしたってなぁ……明日は大雨か、もしくは大地震でも起きるんじゃないか?」
魔理沙が茶化してそう告げると
突如として地面が揺れ始めた。
「はぁ!?」
それに二人は驚いて立ち上がる。
「あんた、何したのよ!?」
霊夢が魔理沙に掴みかかる。
「何もして無いって!それより早く逃げないと!」
魔理沙は慌てて弁解する。
ここで問答をしてても仕方がないと二人は空へと逃げた。

空から見下ろす博麗神社は地震に揺られて、その形を崩していく。
「あぁ……神社が……」
倒壊していくそれを見ながら霊夢は悲嘆にくれる。
「おいおい、完全に崩壊してるじゃないか。とんだ、欠陥住宅だったんじゃないか」
綺麗に崩れていくそれに魔理沙は何処か呆れていた。
その中、何か空が揺れるのを感じる。
「ん……?」
それはまるで空を震わせているかのように雲が揺らぎ、空の濃淡が変化する。
「おい、霊夢……あれ」
魔理沙は項垂れる霊夢の肩を叩いて、目の前を指す。
「何よ……って!?」
霊夢もその現象に目を丸くした。
目の前の空間にヒビが入っていく。
まるでガラスに亀裂を入れたように、空が割れ始める。
「……まさか、結界が壊れた?」
青ざめた様子で霊夢が呟く。
そうこうしている間に亀裂は広がり、空は剥がれ、その先を映し出して行く。
その先に広がる光景に霊夢と魔理沙は見覚えがあった。
「……外の世界じゃないか?」
魔理沙が搾り出すように呟く。
そう、少しの間だけ過ごしたあの町並みがそこには広がっていた。
それは徐々に空が割れ落ちる事で広がっていく。
「……博麗大結界が破壊された……まさか、神社が崩れたから?」
「そんなにあの神社は重要だったのか!?」
「分らないわよ……管理って言ったって全てを知ってるわけじゃ……
でも、まずいわよ。結界が全部無くなったら……」
「どうなるんだ?」
「幻想が失われ、外の理が押し寄せる。
そうすれば弱い妖怪は存在できない……」
「妖怪が……」
「いえ、それならまだ、良いわ……消えようとする妖怪がその体を保つために人間を襲うかもしれない」
「幻想郷の妖怪がか!?」
「それも外の人間にね……実際に人を襲い、その恐怖と存在を世界に知らしめる」
「まずいな。それは……」
「えぇ、そんな事をされて人間が黙っているはずが無い……人間と妖怪の戦争が始まるわよ」
霊夢は苦々しげに現れる現実世界を見る。
魔理沙は何も言えなかった。






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第三十七話「暴かれる幻想」






剣崎たちがブリッジに緊急招集される。
「何があったんだ!?」
剣崎はリンディに問いかける。
「これを見て」
そして、リンディが告げるとブリッジのモニターに映像が映し出された。
それは冬木の町並み……とは少し違う。
「山の向こうに広い盆地が出来てる」
凛が逸早く違和感に気づく。
「何も無い……いや、あの湖とその真ん中の島に立ってる紅い屋敷って」
士郎も違和感に気づいた。
「竹林もあるな……間違いない。あれは幻想郷だ」
剣崎も気づいた。
そこに広がる土地の名を。
あれはあそこにありえてはいけない場所。
「幻想郷……貴方達に心当たりがあるのね?」
リンディが尋ねると剣崎は頷いた。
「あぁ、あそこは結界で遮られた世界だった……妖怪が住まう楽園……それが何で?」
「原因は分らないけど、先ほど、突如としてあの土地は出現したわ」
アースラで再殺部隊の動きを見張るために観察していたために気づけた事だ。
「……俺を博麗神社……あの山の上にある建物まで送ってくれませんか?」
剣崎がリンディに尋ねる。
「それは可能だけど……一人で行くつもりなの?」
「大勢で動いて再殺部隊に見つかっても危険だ。俺なら一人でも何とかなる」
「……そうね。適任としては貴方でしょうね。了解したわ」
リンディは剣崎の進言を受け入れる。
「そんな!一人じゃ危なすぎる!」
士郎は剣崎に食い下がる。
「ダメだ。何があったのかも分らないんだぞ」
「だったら、なおさらだ」
「もし、他に何かあったら誰が動くんだ?なのはやフェイトは動けない……それにカズキも」
剣崎はカズキを見る。
「……俺なら大丈夫ですよ」
カズキはそう応えるがいつもの快活さは何処か鳴りを潜めている。
「俺にはそう見えないんだ。安心しろ、危険だったら逃げるだけだ」
「……分りました」
剣崎の言葉にようやく士郎は納得する。
「それじゃ、お願いします」
そして、改めて剣崎はリンディに頼む。


剣崎は博麗神社へと転送で送られる。
そして、直ぐに崩れた神社へと駆け寄った。
「霊夢、魔理沙!」
そして、そこに居た二人の少女に声をかける。
「剣崎さん!」
その姿に二人は驚く。
「神社はどうしたんだ?それに……」
「幻想郷が姿を現した件についてね?」
霊夢の言葉に剣崎は頷く。
「原因は分らないわ。いきなり、大きな地震があって神社が崩れたと思ったら……いきなり、結界が壊れたの」
霊夢自身も不安げにそう告げる。
「結界が……それでどうするんだ?」
「結界を修復しようと思ったわ。でも、ダメ……完全に壊れてて修復ってやり方じゃどうにもならない。
新しく作り直すぐらいしないと……」
「それは今すぐには無理なのか?」
「……私は博麗大結界の張り方なんて知らないわ……紫なら何か知ってるかもしれないけど」
「……そういや、あいつ出てこないな。こんな事態なら直ぐにでも飛んできそうなのに」
魔理沙は紫が今もこの場に来ていないことに疑問を感じる。
「こっちから出向くしかないか……でも、居場所も知らないし……」
霊夢は苦々しげに呟く。
「……」
剣崎は何も言えずにその姿を見守るしかなかった。

その時、剣崎の携帯電話に着信が入る。
「はい」
その相手はクロノからだった。
「剣崎さんですか……まずい事態です。その幻想郷という土地から魔力の反応が街へと移動しています」
「魔力反応……まさか、妖怪か?」
剣崎のその言葉に霊夢と魔理沙が反応する。
「妖怪が外の街に向かったの!?」
「ちょっと待ってくれ……それは確かなのか?」
剣崎は詰め寄る霊夢を抑えて通話を続ける。
「妖怪かどうかの判別はつかないですが……その土地からかなりの数が外へと向かっているのは事実です。
その一つ一つもそれなりに大きな魔力反応で……多分、普通の人間じゃどうにもならないと思います」
「かなりの数が……」
剣崎は息を呑む。
「もう良いわ。場所を教えて!」
霊夢ががなりたてる。
「とにかく、危険だと思う。俺達も向かう。位置を教えてくれ」
剣崎も感じる。
戦いの予感……その予感は何時もより暗く、焦燥を駆らせる。


大地を照らす太陽が暗雲に隠される。
その雲は誰が呼んだのか分らないが、人の世に闇をもたらす為にそれは行われたのだろう。
暗雲に隠された世界はまるで闇夜のように暗くなる。
突然の異常事態に外を行きかっていた人々は空を見上げた。
不気味なほどに黒い雲。
それは未来を遮る暗雲なのかと、人々は無闇に不安に駆られる。
「あ……」
誰かがポツリと呟いた声。
それは闇の雲から飛来した何かによって潰される。
その発声器官、その元から……
大地に血が滴り、人は絶叫する。
だが、恐怖はそれだけではない。
無数の言い知れぬ何かが襲来する。
闇に紛れるでも、這いよるでも無く。
それは暴力的に、渇望し、下品に差し出された食事を貪るかの如く、始まった。


「何だよ……これ!」
転送を終えて、見えた景色に士郎が叫ぶ。
魑魅魍魎が跋扈し、人を貪り食らう。
人々は阿鼻叫喚とし、恐怖だけが世界を支配する。
まるで地獄であるかのように人々は逃げ惑う。
「止めよう!」
翔が叫び、駆け出す。
それに釣られて士郎も凛も飛び出した。

翔は有象無象の闇の獣を切り払う。
それがどんな存在なのか分りはしない。
既に形を保てて居ないのか、それはまるで闇の固まりにしか見えなかった。
「……妖怪なのか?」
翔が知る妖怪はもっとはっきりとした姿を持っていた。
知性があった。
だが、目の前のそれは何だ?
呻き叫び、人を襲い、食らい、ただそれだけだ。
何かを示すなどとはとても思えない。
何者にもなりはしない。
「幻想郷から来てるなら妖怪の筈だ……」
翔には答えが導けない。
だが、それが人を襲うなら倒さなければならない。
今、ここに居ない友人も同じ立場ならそうした筈だ。
「強くない……俺でも問題は無い!」
翔は一気に踏み込み、人を追い掛け回していた闇を切り裂く。
切り裂かれた闇は霧散し、消えて行く。
弱い……余りにもそれは存在として脆弱すぎた。


「霊符【夢想封印】」
霊夢は霊力を放射して、一気に複数の闇を払う。
その場に溜まっていた闇はそれだけで消えうせた。
「こいつらは妖怪なのか?」
剣崎が霊夢に尋ねる。
「……妖怪よ。だけど、忘れ去られ存在が希薄になり、認識できなくなっているだけで」
「認識できない?」
「外の人間は妖怪をただの御伽噺……いえ、迷信だと思っているんでしょ?
妖怪は元々、人の恐怖から生まれたもの……それが無ければ世界に居場所が無いの。
博麗大結界はそんな妖怪達を保護していた。
それが無ければ力の無い妖怪なんて消滅するしかない」
「だから、人を襲っているのか?自己を確立するために」
「そうよ……だけど、このやり方じゃ犠牲が増えすぎる。
そして、犠牲が増えれば人間は反撃するわ……」
「人間と妖怪の戦争になるって言うのか!?」
「そうよ……だけど、出来ることと言えばこうして払うだけ……それも時間稼ぎにもならないでしょうけど」
霊夢は苦々しげに呟く。
流れ出した大きな運命に人間に出来ることなど限られている。
霊夢はそれを知っていてそう告げた。
「……とにかく、人を助けよう!」
剣崎もそれしかないと思い駆け出す。


戦い……いや、駆除は直ぐに終わった。
傷跡はそれなりに大きいが数から考えればホムンクルスやアンデッドの被害に比べれば微々たる物だった。
剣崎や士郎たちの他にも始なども力を貸して街に分散していた妖怪のなれの果てを駆逐し終わる。
剣崎と霊夢、魔理沙も協力してその全てを倒し終え、一息を吐いていた。
「一旦、沈静化は出来た……けど、本番はこれからね」
霊夢が呟く。
「本番?」
それに気づいて魔理沙が尋ねた。
「こいつらは本当に下級の妖怪よ。頭も何もあったもんじゃないね。
でも、力のある妖怪は動いてない……でも、時間の問題よ。
時間が経つにつれて力は減少し、次第に人を襲い始める。
助かるためにね……」
「なるほどな……だが、どうする?弱体化してるとは言え、一気に来られると私達だけじゃ抑えきれないぜ?」
魔理沙の言葉に霊夢も腕を組み考える。
「とりあえず、一度、ここを離れないか?」
剣崎が霊夢と魔理沙に声をかける。
「どうして?」
「今、ちょっと見つかるとやばい奴らが……」
剣崎が話をしていると突如、機械で出来た犬のような何かが二体がかりで襲い掛かる。
「!」
剣崎はそれに即座に反応し、回避してみせる。

「僕のキラーレイビーズをかわすとは。変身していなくても意外とやるもんだね」
笛を持つ優男が現れる。
その制服に見覚えがあった。
再殺部隊……
カズキの命を狙う錬金戦団の部隊。
「俺達を狙ってきたのか」
剣崎は身構える。
相手の狙いがカズキである以上、それを保護する味方も敵ということだろうか。
「お前を倒し、ターゲットを引きずり出す」
戦士が剣崎をにらみつける。
その目には明確な殺意が抱かれていた。
「何でカズキを殺そうとする……あいつには助かる手段があるのに!」
しかし、そんな彼に向かって剣崎は叫んだ。
「隊長が言ってたと思うけどね。そんな話は信じられないのさ……
それに僕としてはどっちでも良いけどね」
戦士は愉快そうに笑った。
その様子は指令をこなすだけの兵士ではなく。
ただ、目標を倒す事に喜びを見出す感情が見える。
「何でだ……今は人間同士で争ってる場合じゃないのが分らないのか!?」
剣崎はそれに対して悲しみ叫ぶ。
妖怪による人間攻撃が始まろうかという時期。
そんな状態だというのに彼は気にする素振りを見せない。
「あぁ、あれね……一応、目に付いたのは対峙したさ。一応、これでも人々の為にホムンクルスを狩っていた訳だし。
だけど、本来の目的はもっと大物だからね。余り雑魚には構っていられないのさ」
戦士は告げる。
そして、その手にしていた笛を吹き鳴らした。
それと同時に先ほど襲い掛かってきた機械の犬が二体で襲い掛かる。
これこそが彼の武装錬金。
「やるしかないのかよ!変身!」
戦いをやめようとしないなら戦うしかないと剣崎は変身する。
ブレイドとなりブレイラウザーでキラーレイビーズの牙を腕で受け止める。
「うおおおお!」
そして、そのまま腕の力でキラーレイビーズを放り投げた。
「噂以上に規格外な力だな!?」
戦士はその力に焦り始める。
かみつきを行ってもまるでその装甲を打ち破れていない。
キャプテンブラボーから報告されていた調書を読んでいたとは言え、それ以上の力に感じられた。

「外の人間にはこの状況が理解できないみたいね」
霊夢は渋い顔で呟く。
「ごめん……君達をこんなことに巻き込んでしまって」
剣崎がそんな霊夢に謝る。
距離からして既に戦いに巻き込まれるのは確定だろう。
「剣崎さんが謝る必要は無いわ……馬鹿なのはあの男よ」
霊夢は戦士を睨み付けると彼に向かい針を投げつける。
しかし、それをキラーレイビーズが空中で叩き落す。
「へぇ……奇妙なコスプレした子供だと思ってたけど……君達も戦うつもりなのか?」
戦士はあざ笑うように霊夢を見る。
「おいおい、手を貸すのか?」
魔理沙が意外だという様子で霊夢に問いかける。
「この手の手合いは力を見せ付けて黙らせた方が早いでしょ」
霊夢は既に戦う気まんまんという様子で告げる。
人と人の戦いが始まろうとしていた。

だが、それに介入者が現れる。
「剣崎一真……貴様は許されない!」
それは突如として現れるとコードのようなものを飛ばし、剣崎に攻撃する。
「何!?」
その奇襲に剣崎の体はコードに巻き取られ、引っ張られる。
「お前は……この前の!」
剣崎はその攻撃の主を見て叫ぶ。
それは以前に衛宮家で襲撃を仕掛けてきた謎の敵だった。
「こんなタイミングで!」
剣崎はどうにかコードを抜け出そうとするが余りに頑丈で引きちぎるのは難しかった。

「ちょっと……」
霊夢は剣崎を助けるために、謎の怪人に対して攻撃を仕掛けようとする。
だが、それを邪魔するようにキラーレイビーズが襲い掛かる。
「悪いけどこのチャンスを逃しはしないよ」
戦士は怪人の襲撃の漁夫の利を突いて攻撃を激化させる。
「仕方ない。魔理沙、二人で一気にあいつを黙らせて、剣崎さんを助けるわよ」
「OK」
魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、戦士へと向ける。
だが、その直後、上空から何かが奇襲し、魔理沙の体を弾き飛ばした。

「犬飼、抜け駆けなんて酷いわね」
魔理沙に体当たりしたそれはまるで大きなボールだった。
それは地面に一度バウンドすると空中で手足を伸ばして地面に着地する。
「円山!貴様、尾けていたのか?」
犬飼と呼ばれた戦士はその巨大なボールを睨み付ける。
「当然……貴方なら一番、大きな獲物を狙うと思ってたわ」
ボールのような丸い体型で中世的な声で円山はしゃべる。
「それにこんなに可愛い娘が相手ならなおさらね……良いコレクションになりそうだわ」
円山は笑う。その表情は仮面で分らないが余り良い感じの笑顔では無いだろう。

「いてて……奇襲とは卑怯だな」
魔理沙はエプロンについた埃を払い、地面に落ちた帽子をかぶり直す。
「相手も二人か……魔理沙はそっちの犬使いを相手にしなさい」
「別に構わないが何でだ?」
「その方が戦い易い気がするのよ」
「勘か……なら、信じるぜ!」
霊夢と魔理沙はそれぞれの狙いに向けて加速する。

「まずは小手調べだ!」
魔理沙は先ほど、大技を潰されたので小技から攻めることにする。
魔力で作った弾丸を犬飼に向けて放った。
「魔術師か……その年にしては意外と出来るようだな」
犬飼はキラーレイビーズを魔理沙に差し向ける。
二体のキラーレイビーズはマジックミサイルを回避しながら魔理沙に突き進む。
「おっと!」
魔理沙は箒に跨ると直角に上空へと飛び上がる。
「飛んだ!?」
それに犬飼は驚く。
「何だ?外の魔法使いは飛ばないのか?」
魔理沙は知らないが魔術師で飛行できるものはかなり限られている。
かなりの使い手でなければ不可能な魔術なのだ。
「まるで魔女だな……だが、キラーレイビーズを相手に空へ逃れたところで無駄だ」
犬飼は命令を送る。
キラーレイビーズの足から推進剤を噴出し、上空へと駆け出した。
まるで空を翔るように魔理沙へと襲い掛かる。
「そう簡単にはいかないか」
魔理沙はそれから逃げるように加速する。
風を突き抜けるように加速し、ビルの間を駆け抜けて行く。
それをキラーレイビーズが追いかける。
速度ではほぼ互角。
「追ってきたな」
だが、魔理沙は追いかけてきてるのを確認するとスペルカードを解き放つ。
「魔符【スターダストレヴァリエ】」
魔理沙の箒から星型の魔力の固まりが吐き出される。
それは追いかけてくるキラーレイビーズの行く手を遮る。
キラーレイビーズは加速がついた体でそれを回避することが出来ずに星屑の中に突っ込んで行く。
「これでどうだ」
魔理沙は更に上空へと昇り、その姿を見下ろす。
「あまいなぁ」
それを何時の間にかビルの屋上に立っていた犬飼が笑う。
「あん?」
魔理沙は怪訝に思うと同時に星屑の中から無傷のキラーレイビーズが襲い掛かった。
「おわっ!」
魔理沙はそれをギリギリで回避して、直下へと加速する。
「武装錬金をその程度の魔術で破壊し様なんてお笑いだな」
最初から分っていたという様子で犬飼は笑う。
「なら……これでどうだ!」
魔理沙は地面に届くギリギリで斜めに方向を変えると箒を乗り捨てて空中で回転し、地面に滑り込むように着地する。
その間に再びミニ八卦炉を取り出すとそれをキラーレイビーズへと向けた。
「何をしようが無駄!魔術ごときで武装錬金は破壊できない!」
犬飼が叫ぶ。
「恋符【マスタースパーク】」
魔理沙の持つミニ八卦炉が高速で回転し、周囲の魔力を取り込んで行く。
そして、その中心の穴から増幅された魔力が放射された。
それは虹色の輝きを持つ閃光。
空を突き破るように放たれた魔力の光はキラーレイビーズを飲み込む。

閃光がつきぬけ、消えた後
キラーレイビーズはボロボロになり、地面に落ちた。
「これでも幻想郷じゃ火力の高さで通ってるんだ」
魔理沙は余波で吹き飛ばされた帽子を拾い上げ、被り直す。
「へぇ……意外とやるじゃないか」
犬飼はビルから飛び降りて着地する。
「これに懲りて降参しな」
魔理沙が犬飼に告げる。
だが、勝利を確信した彼女にキラーレイビーズが襲い掛かった。
「!?」
キラーレイビーズの牙が魔理沙の肩口を切り裂き、服と一部の肉を抉る。
「何を勝った気になってるんだ?キラーレイビーズはその程度で武装は解除されない。
完全に死に絶えるまでこの犬笛を持つ者以外に襲い掛かる!」
犬飼は嘲笑う。
手足をもがれ、ボロボロになろうともキラーレイビーズは襲い掛かることを止めはしない。
生物ではない。武器だからこそ出来る荒業だ。
「ちっ……油断したな」
魔理沙は肩の傷を押さえる。
それほど深くは無いのが幸いだ。
しかし、そんな事もお構い無しにキラーレイビーズは魔理沙に襲い掛かった。
「一撃で倒せないとはな……ここから先、ちょっと火力不足か……」
魔理沙はそれを意にも返さずボソボソと呟く。
その姿を見て犬飼は少女が諦めたのだと思った。
そして、勝利を確信し、笑みを浮かべる。
「嫌だね……負け行く者の勘違いの笑みがこうも見ていて愉快だとは」
魔理沙はミニ八卦炉を両手で持ち、構える。
そして、犬飼に背を向けた。
「私のその姿も見られてたとはね!」
そして、魔力を一気に集中して、放射する。
その勢いを利用して魔理沙の体が加速する。
その速度についていけずにキラーレイビーズの牙は空を切った。
「何!?」
それを見て犬飼は驚く。
何せ、魔理沙の体は一直線に犬飼に向かってきているのだ。
「全力全開?エネルギー全開だったか?」
魔理沙はマスタースパークの出力を加速へと転用して突き進む中で態勢を切り替える。
そして、真正面に犬飼を捉えて、更に加速した。
「とりあえず、全壊だ!」
まるで閃光の如き加速で犬飼を突き飛ばす。
その衝撃に犬飼の体は吹き飛ばされ、ビルの壁に激突する。

「ぐっ……何て無茶をするんだ……」
犬飼は衝撃に朦朧とする意識を振り切り、立ち上がる。
「だが、そんなヤケッパチの戦法が何度も通じると思うな。
キラーレイビーズ!容赦なく奴を食い散らかせ!」
犬飼は叫ぶ。
だが、キラーレイビーズは魔理沙ではなく犬飼に向かって飛んできた。
そして、その体に食いかかる。
「何故!?」
激しい痛みに薄れ行く意識の中で犬飼は叫ぶ。
そして、その視線の先で見えたのは犬笛を持って手で遊ぶ魔理沙の姿だった。

「あぁ、これか?死ぬまで借りておくぜ。
……あぁ、お前がな」
魔理沙は犬飼が必死に手を伸ばす姿を見て告げる。
先ほどの突撃。
それは別に犬飼にダメージを与えるのが目的ではなかった。
奴から犬笛を奪うための特攻だった。
見事に犬笛を盗み、その標的から逃れることに成功した。
「意外に使えそうだな……そうだな、彗星【ブレイジングスター】とでも、名づけておくか」


「さっさと倒れなさい!妖怪変化!」
霊夢は円山に向かい、針を投げつける。
だが、針は体には突き刺さらず、体に跳ね返された。
「酷いわね。私は人間よ」
円山は霊夢の言葉に憤慨する。
「その見た目の何処が人間なのよ」
霊夢は次にお札を投げつける。
だが、それも対して効いていないようで霊夢に向かって丸山が突進した。
「いやねぇ……こんなのフェイクよ」
近づいた円山の服が開き、破裂音と共にそこから無数の玉が飛び出す。
霊夢はそれを後方へと飛行しながら全て回避した。
「風船?」
そして、解き放たれたそれが宙に浮かぶ姿を見て呟く。
「そう、風船爆弾の武装錬金バブルケイジ。それが私の武器よ」
球体のような体型の中から細身の人間が姿を現した。
中性的な容姿を持つ美人だったが、その視線は鋭く殺気を放っている。
「風船爆弾ね……全く妙な武器ね」
既に霊夢の周囲を取り囲むようにその武装錬金は展開されている。
逃げ場など無いように密集しながら。
「逃げられないわよ。私に攻撃したかったら被弾は覚悟しないとね」
安全圏から円山は笑う。
「避けれないなら……全部、消しちゃえば良いでしょ」
霊夢は札を取り出し、それを地面に貼り付けた。
「夢符【封魔陣】」
霊夢の周囲に結界が張られ、その中にあった風船爆弾を全て爆発させる。
「えっ!?」
それを見て円山は目を丸くする。
「当たってやる気なんて無いわ……全力で叩き潰す!」
霊夢は開けた視界に円山を捉え、自身の霊力を高める。
「神霊【夢想封印-瞬-】」
霊夢の姿が消えた。
いや、丸山にはそうとしか捕らえられなかった。
事実は違う、凄まじい速度で霊夢が動いただけだ。
とは言え、それも霊夢視点での話に過ぎない。
人の認識できない世界を駆け抜けた霊夢は通常世界の視点では瞬間移動したようにしか見えない。
円山の周囲に瞬間移動を繰り返し、発生させた霊力の塊を配置する。
それは霊夢の持つ霊力を固めただけに過ぎない。
しかし、それでも普通の妖怪程度なら一発で封印できるだけの威力を持つ。
それを周囲に展開し、一気に円山に向かって解き放って。
「ちょっと!」
それは回避する隙間など無かった。
円山の取った戦法に対する意趣返しである。
だが、円山にそれを防ぐ手立てが無いことが違う。
「きゃああああああ!!」
霊力をぶつけられ丸山が断末魔を上げる。
妖怪ではないとは言え、衝撃は十分だ。
「まっ、時と場合と相手を選んで喧嘩を売るのね」


霊夢は早々に決着をつけると剣崎の元へと駆けつける。
「霊符【夢想封印-集-】」
霊夢は霊力の塊を生成し、一点に集中させるとその巨大な玉を怪人に向かって投げつける。
その巨大な玉は怪人に直撃し、その瞬間に緩まったコードから剣崎は抜け出した。
「助かった!」
剣崎は霊夢に礼を述べる。
「今は良いわ。それよりも……」
霊夢は怪人を見る。
夢想封印の直撃を受けたにも関わらずそれはピンピンしていた。
「相変わらず頑丈ね」
霊夢はそれに対して呟く。
「ここは俺に任せてくれ」
剣崎はラウズアブゾーバーにクイーンをセットし、ジャックをラウズする。
【フュージョンジャック】
覚醒したイーグルアンデッドと融合し、ジャックフォームへと超変身を遂げる。
そして、即座にスラッシュとサンダーをラウズする。
【ライトニングスラッシュ】
紫電を纏いし、ブレイラウザーを振るい、ブレイドは上空へと昇る。
そして、凄まじい速度で急降下し、ブレイラウザーの一撃を怪人へと叩き込んだ。
その一撃はまるで落雷。
強烈なその一撃に怪人の体は切り裂かれ、地面に倒れる。
「やるじゃないの」
それを見て霊夢が戦いは終わったと剣崎へと駆け寄る。
しかし、剣崎は警戒を解かない。
「いや、まだだ……」
剣崎はプロパーブランクを怪人に投げつける。
だが、やはり、カードは怪人を封印せずに飲み込まれてしまった。
目の前で怪人の体は見る見るうちに再生して行く。
そして、むくりと立ち上がった。
「再生した……封印できないの?」
その姿を見て霊夢が驚く。
「あぁ、前にも倒したんだけどこいつは封印できないんだ……
アンデッドじゃないのか……でも、こうして死にはしない」
「面倒ね。死なないにしてもあの再生力じゃどうしようも無いわよ」
霊夢も死なない相手は何度か会った事がある。
だが、それでもここまで問答無用で再生するものではなかった。

「剣崎一真、お前は許されない……」
怪人は再びそう告げると今度は逃走して行く。
「追いかけないの?」
「今、倒す手段が無い以上、追いかけても仕方ない……
それに他にもやらないといけない事はあるしな」
倒せないとは言え、敵は剣崎しか狙ってこない。
それはまだ幸いな事だ。
それ故に今はまだ、先送りに出来はする。
「とりあえず、戻ろう」
剣崎は霊夢と魔理沙に告げる。


アースラ
作戦会議室を使って今起こっていることについて霊夢から皆へと報告された。
幻想郷を形作っていた博麗大結界が何らかの理由により破壊されたこと。
それにより自己を保てなくなった妖怪が人を襲ったこと。
そして、妖怪の襲撃はこれからも起こり、その強さは上がるだろうと言う事が伝えられた。
「私から言えることは以上よ。どうにか、騒動を起こさないように話に行くつもりだけど……」
「話に行くって妖怪の所にか?」
剣崎が質問すると霊夢は頷く。
「とりあえず、紅魔館と妖怪の山に行ってみるわ。それ以外になると私は把握してないのよね」
霊夢自身も幻想郷の妖怪を全て把握している訳ではない。
「そう言えば、人里は大丈夫だったのか?」
魔理沙が質問する。
「幻想郷の人里のことだな?今のところはここから見る限り襲われた様子は無いけど……
流石に断言できかねるな」
「慧音や妹紅が居るからある程度は大丈夫だと思うけど……」
剣崎は以前にあった彼女たちのことを思い出す。
妖怪に対して戦う力を持っていただけに今、暴れている程度の妖怪なら大丈夫だと思うが。
「でも、人間は相当混乱してるでしょうね……でも、先に妖怪の所にいくか……
魔理沙と剣崎さん、ちょっと人里まで行って慧音あたりに事情を話してきてもらえる?」
霊夢が二人にお願いする。
「俺は構わないけど……俺で大丈夫か?」
「私以外は誰が行っても対して変わらなよ。私との関係を知ってる慧音が居るから説明はし易いでしょ。
魔理沙は慧音を知らないし、人里に良い顔される人間でも無いしね」
霊夢の言葉に剣崎が頷く。
「なぁ、永遠亭の人たちに協力してもらえないかな」
士郎がそこで提案する。
「そうね。あいつらは基本的には人間だし、良い案かも」
「とりあえず、事情を説明するぐらいだったら俺でも大丈夫だと思うんだけど」
「良いんじゃない?まぁ、迷子にはならないように一度、人里で妹紅に会ったほうが良いかも知れないけど」
「そうだな……それじゃ、俺も剣崎さんたちと一緒に人里に行って、それから竹林に行くか」
永遠亭に対するメッセンジャーは士郎に決まる。
それほど親しくは無いが顔見知りではあるので話を通すことぐらいは出来るだろう。
「衛宮君だけだと心配だから私もついていくわ」
そんな士郎の話に凛が提案する。
「それって、俺だけじゃ不安って事?」
「その通りよ。失礼なことを仕出かさないか見張っておかないと」
「人を何だと思ってるんだ……」
士郎は苦笑いを浮かべる。
「俺も連れて行ってくれ!」
その話にカズキが叫ぶ。
その表情は焦燥感で酷いものだった。
それに対して剣崎や士郎は何も言い出すことが出来ない。
カズキを連れて行くことなどできはしない。
カズキの命が狙われているのだ。
餌をほいほいと目の前に連れて行く訳にはいかない。
それに裏切られたと感じ、消沈していた。
だが、それも限界に達したようだ。
「カズキ、気持ちは分かるが抑えるんだ」
士郎がカズキのフォローに入る。
「だけど、俺はもう、俺の責で誰かが傷つくのは嫌なんだよ!
霊夢や魔理沙だって関係ないのにあいつらは襲ってきた!」
剣崎は仲間と認識しているはずだがそうでもない霊夢や魔理沙も再殺部隊は躊躇無く攻撃した。
そのことがカズキには許せなかったし、危機感を煽った。
「それくらいにしておきなさい」
それに対して霊夢が声をかける。
「別に私も魔理沙も気にしてないわよ。降りかかる火の粉を払っただけに過ぎない」
「でも、その原因は……」
「そりゃ、迷惑よ。だけど、あんたが動いたらもっと迷惑だって皆、そう言ってるわよ」
「!」
霊夢の容赦ない言葉にカズキは声を詰まらせる。
「時間も惜しいわ。もう、行きたいんだけど」
霊夢の言葉で会議は終了する。


「俺は……何をしてるんだ」
カズキは貸し出された個室のベッドに座り呟く。
焦燥に駆られ、空回って……結局、皆の足を引っ張っただけだった。
後悔に流されそうになる。
それが更にカズキの心を上滑りさせる。
「大丈夫か?」
そんなカズキを翔が尋ねる。
「翔……すまない」
「何もしてない俺に謝っても仕方ないと思うが……」
「俺は間違ってるのかな……?」
「何が間違いなんて俺には分からないが……今のカズキはらしくない気がするな」
「俺らしくない?」
「まるでシンみたいだな。苛立って、当り散らす」
「シンか……」
「でも、あいつの怒りは何時も無力さや仲間に対するままならない気持ちの発露だった」
「俺だってそうだ……皆が戦ってるのに俺だけ何も出来ない」
「でも、あいつは怒るがそれだけじゃなかった。何かをしようとしていた。
動いてそれで何かを掴もうとしていた」
「……」
「別にカズキにそうしろって訳でも無いんだが。
というよりも、お前はお前で違うだろ」
「俺……」
「カズキが最初に戦ったときの気持ち、それを思い出せば良いんじゃないか?
自分が背負った力なんて気にしないでさ」
「……それやって翔も振り切ったのか?」
「そうだな。意外と答えなんて、最初から自分の中にあるかもしれないぜ」
翔はそう言ってその場から離れていく。
「俺の中に……」
カズキは自身の心臓の上に手を当てる。
脈動するは黒い核鉄。
だが、その鼓動は熱く、血潮は体を駆け巡る。


「珍しいわね。あんたがここに来るなんて」
椅子に座った幼い吸血鬼は客人を招き入れる。
「貴方に頼みがあって来ました」
客人……八雲紫は真剣な面持ちでレミリアを見る。
「今回の不始末の件かしら?」
「そう……まさか、博麗大結界をあんな方法で破壊するなんて考えても居なかったわ」
紫の言葉にレミリアは言葉を失う。
飄々と全てを悟った風の彼女がこうも容易く失敗を認めるとは思ってもいなかったからだ。
「……予想以上に危険な状態なのかしら?」
「侮っていたわけではない……とは言え、確かに全力では無かったとも言えます。
あの時点で直ぐにでも彼らを戦わせていれば結果は変わったかも……
いえ、その時は彼らも全て失い、未来は完全に閉ざされていた……」
「貴方は私に懺悔をしに来たの?違うでしょ?同じ幻想郷の住民としてして欲しいことがあるから来たのでしょう?」
そんな紫をレミリアが叱咤する。
「そうね。今、後悔をしても仕方ない……やるべきは如何に幻想郷を護りながら終焉の日を超えるか」
「終焉の日……全ての運命の収束地点」
「貴方に説明は不要ですね。数少ないシステム・アカシャへの干渉能力を持っている貴方なら」
「そうね……それでどうして欲しいのかしら?」
「簡単な話です。妖怪を保護して欲しい」
「それはこの紅魔館を人間との最前線にしろって事かしら?」
「そうなります」
「舐められたものね」
「いえ、逆に評価しているのですよ。幻想郷中を探しても貴方にしか務まらない大役です」
「……貴方が何を言いたいのか分るわ……。
良いわ、乗ってあげる……」
レミリアはその言葉に頷く。
「ありがとう。貴方ならそう言ってくれると思っていましたわ」
「心にも無い感謝の言葉なんて要らないわ。さっさと失せなさい」
「それでは、健闘を祈ります」
紫はそう告げてスキマの中へと消える。

「咲夜……」
レミリアが呼ぶと最初から居たように横に咲夜が現れる。
「本当によろしいのですか?人がそれほど脅威になるとも思えませんが……」
咲夜は言葉を濁らせる。
「心にも無い事を言うのね?ある程度、外の戦力については分っているでしょう。
たかが、一つの里で人間の総力に適う筈は無い。
負け戦よこれは……」
「お嬢様……」
「でも、負けるつもりは無いわ。運命は私の手の内にある……
たとえ、か細くとも掴んで見せる。運命の切り札を……
その為に貴方にやってもらうことがあるわ」
「はい」
咲夜は頷く。

咲夜も去り、レミリアは一人、椅子に座り宙を眺める。
「運命の日も近いわね……」
呟きは闇へと消えていく。


人と妖怪の戦いへと着々と時は進んでいく。
誰もそれを止めることは出来ない。

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