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なのはの体はシャマルの腕に貫かれた。
だが、それは物理的に貫いているわけではない。
なのはの精神とも言うべきものに干渉し、その身に宿るものを奪い取る。
それはシャマルの手に収まっていた。
「リンカーコアが!」
それを見てユーノが叫ぶ。
桜色の輝きを湛えた球体。
「リンカーコア……?」
カズキがユーノに尋ねる。
「魔力の核と呼べるようなものです!」
「とにかく、大切なものなんだな!」
カズキは良く理解できなかったがその手からリンカーコアを奪い取ろうと手を伸ばす。

「もう、遅いわ」
しかし、それよりも早くシャマルの腕は引っ込んでしまう。
「蒐集は完了したわ。シグナム、ここは一旦、退きましょう」
シャマルがシグナムに進言する。
「そうだな。これ以上、やり合えば互いに退けなくなるか……」
シグナムはそれを受け入れる。
それと同時に彼女達の姿が透過されるように消えていく。
「逃がすか!」
それをカズキが追おうとする。
「待ってください!あれは転移魔法です。追いかけるのは無理です」
それをユーノが制止する。
その言葉を聞いて、カズキは駆け出すのを止めた。


「ここまでか……」
睦月はヴォルケンリッターが転移を開始すると共に彼自身の体も消えて行く。
「睦月!」
それに対して剣崎が叫ぶ。
レンゲルとブレイド。
互いにその体は傷つき、戦いの凄惨さだけが残されている。
「今日は倒しきれなかったけど……次は倒します」
「睦月……嶋さんを知らないか?」
「嶋……あぁ、あのアンデッドですか。あの人なら封印しましたよ」
睦月の言葉に剣崎は歯を噛み締める。
予想できたことだが事実と分れば悔しさが募る。
「また、会いましょう」
そして、睦月は消えていった。
「……あいつ、あんなに強かったか?」
息も絶え絶えという様子で翔が呟く。
「……俺達ももっと強くならないと」
剣崎は力不足を感じる。


「なのはは大丈夫なのか?」
カズキがユーノに尋ねる。
「命に別状は無いと思います。でも、傷だらけで強引にスターライトブレイカーを使って、
それにリンカーコアから直接、魔力を奪われたみたいで、しばらくは意識を取り戻さないかも」
ユーノがなのはの現状を診断し、告げる。
「なのは……」
フェイトもなのはの事を心配そうに見守る。
「そう言えば、どうやって君はここに?」
カズキがフェイトに尋ねる。
「時空管理局の嘱託魔導師になって、それでなのはが戦ってるって聞いたから」
「嘱託魔導師になったのか、それでアースラに居たんだね」
ユーノはフェイトの言葉からある程度、事情を察する。
「とりあえず、なのはをアースラに連れていこう。あそこなら治療できると思う」
「そうだね。ここじゃ、何も出来ないし」
フェイトの提案にユーノが納得する。
「それなら、俺達も連れて行けないかな?」
カズキがフェイトに尋ねる。
そこに士郎を抱えた凛と剣崎と翔もやってくる。
「貴方達なら多分、問題ないと思う。それに無関係じゃないし」
フェイトはその提案に対して頷く。

「それは少し待ってくれないか?」
それをブラボーが制止する。
「ブラボー?どうしたんだ?」
意外な言葉にカズキが尋ね返す。
「すまないが、戦士・カズキ……お前に話がある」
真面目な調子の言葉にカズキが身構える。
「それって、アースラじゃダメなのか?なのはも治療しないとだし、それに皆も随分と傷ついている」
それぞれにダメージは大きい。
戦闘後の休息も必要だ。
「カズキ以外は行ってもらって構わない」
それにブラボーが告げる。
「武藤くんにだけ話……それは私達に話したくない内容って事かしら?」
凛がブラボーに尋ねる。
「遠坂、何を言ってるんだ?」
カズキは凛に問いかける。
凛の言葉の調子は何処か剣呑としていた。
戦いも終わったというのに警戒を解こうとしない。
「武藤君は黙ってて、今、私は錬金戦団の戦士長に尋ねているの」
凛はブラボーを睨み付ける。
「……」
しかし、ブラボーは何もしゃべらない。
「言えない……それは肯定と受け取るわよ」
凛はそんなブラボーに対して身構えた。

「おいおい、まだ、始末してなかったのか?」
突如、そこに声が投げかけられる。
その声の主はゆっくりと暗い夜道を歩いてい来る。
彼が加えている燃え上がるタバコの火が彼の顔だけをはっきりと照らしていた。
威圧的な表情で彼はブラボーを睨み付ける。
「火渡。俺が話をつけると言った筈だ」
ブラボーがその声の主に話しかける。
「うるせぇな。手前がちんたらやってるのが悪いんだろ」
火渡が不機嫌そうに応える。

「始末……って、どういうことだ。ブラボー?」
カズキがブラボーに問いかける。
その声は震えていた。
「……カズキ。人を殺す可能性のある者は排除しなければならない」
ブラボーは顔をカズキに向けて告げる。
「武藤カズキを再殺する。それが錬金戦団の出した答えだ」
ブラボーは告げる。
カズキの敵となることを。







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第三十六話「崩れる現実」






「待ってくれ!カズキは人間に戻る手段がある!殺す必要なんて無い!」
その間に剣崎が割ってはいる。
「その話は戦士・斗貴子から聞いている。
だが、その話が本当だという確証は無い」
「カズキが嘘を吐いてるって言うのか!?そんな奴じゃないってあんたなら分るはずだ!」
剣崎が激昂する。
助かりたいが為に嘘にすがりつくような人物である筈が無い。
それは酷い侮辱だと剣崎は叫ぶ。
「俺もその話は信じているさ。だが……」
「んな、都合の良い話を戦団が信じるわけが無い」
言いよどむブラボーの代わりに火渡が続ける。
「正体不明の化け物になって、その直ぐ後に治す手段が見つかりました。
それは人が入れない異世界にあって、裏切りの戦士の妻と子がそれを元に戻すためにずっと研究をしていました……
そんな、話を誰が信じるっていうんだ?」
「何だと!」
火渡の言葉に剣崎が叫ぶ。
「確かに都合が良すぎるわね。それに証拠を出せといわれても入れないとあっちゃ、確認の使用が無い。
組織として信じろって言う方が無理よ」
しかし、凛はその火渡の言葉を肯定する。
「流石に魔術師様は話が分るようだな」
火渡は皮肉交じりに告げる。
「それに裏切りの戦士の家族は戦団の記録では既に死亡が確認されている。そんな感じかしら?」
凛の言葉に火渡はあざ笑うのをやめる。
「その通りだ。良く分ってるな……」
「聞いた話だけだとヴィクターの暴走の件は完全に不祥事。
ヴィクターが裏切りと呼ばれている理由も戦団の都合でしかない。
大方、その存在を抹消しようと追い立てたんでしょ。
今のこの状況と同じようにね」
凛の言葉に火渡は興味深げに凛を見る。
「なるほどな。大方、その通りだと思うぜ。
だがな、そこの坊主もヴィクターも、存在するだけで人を殺すことに変わりはない」
しかし、火渡はその言葉を飲み込んでも尚、告げる。
自分たちの行いは間違いではないのだと。
「だから、それは治せるって言っているじゃないか!」
剣崎が声を荒げる。
人を殺す化け物になるから殺すなら、治せれば殺す必要は無い。
当然の権利だ。
「……だが、その治す為の手段。白い核鉄はたった一つだったな」
ブラボーがここで口を開く。
その表情は相変わらず見えないが顔はカズキに向いていた。
「あぁ、新しく作る方法は存在しない。たった一度のチャンスだ」
その言葉をカズキは肯定する。
「その使い道を託されたとして、お前はそれを使えるか?」
ブラボーの質問にカズキは言葉を詰まらせる。
その様子に剣崎も凛も何も言えない。
それは正真正銘、カズキの問題であり、カズキ以外に出せる答えは無い。
「正直に言おう。俺はお前を殺したくは無い」
ブラボーの言葉にカズキは驚く。
だが、驚いたのは火渡も同じだった。
「あぁ!何を言ってるんだ!?」
「本気だ。こいつは嘘を吐きはしない。その仲間もな。なら、事実として治す手段はあるんだろう」
「ブラボー……それじゃ」
カズキは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「だが、お前はヴィクターにその核鉄を使いたいんじゃないのか?」
しかし、ブラボーのその言葉にカズキは固まる。
「今は答えが出せないとしても、そう決める可能性はある。
だが、俺はお前を死なせたくは無い。お前の決めた決断だろうとそれを許す気は無い」
「それじゃ、ブラボーは強引にでもカズキに白い核鉄を使うって言うのか!?」
剣崎が言葉を挟む。
「そうだ。たとえ、カズキが拒絶しようとも、俺はカズキを人間に戻す」
ブラボーは告げる。
「それじゃ、ヴィクターは殺すって言うのか?」
剣崎が尋ねるとブラボーは頷いた。
「彼自身に大きな非は無いのは分っている。だが、掴める命が一つしかないのなら、俺はカズキを選ぶ。
剣崎一真、君は違うのか?君は俺よりも長くカズキと苦楽を共にしたはずだ。
彼がここで死んで良い命だなんて思わないだろう?」
ブラボーが剣崎に問いかける。
「俺はどっちかが助かって、どっちが助からないなんていう答えは出したくない。
だけど、本当に選ばなければならないなら。俺はカズキが出した答えを尊重する」
剣崎は一切の躊躇も無く断言した。
それはブラボーの考えと相反すると言う事。
「全てを救うなど出来はしない……そこまで世界は優しくは無い」
「そうかもしれない!だけど!自分の運命を決めるのは自分の筈だ!」
剣崎はブラボーの考えを真っ向から否定する。
その問答の中でもカズキは答えを出せずに居た。

「ちっ……それは戦団を裏切るって事か?」
火渡がブラボーに尋ねる。
「そうなるかもしれない。だが、探るチャンスはある筈だ」
ブラボーの言葉に火渡は舌打ちする。
「そうかい。なら、お前はその為に行動しな。あるかも知れない楽園を探し回ってろ。
俺達はより確実な方法を取らせてもらう」
火渡が手から炎を飛ばし、上空へと打ち上げる。
それは上空で爆発し、周囲を照らした。
それと同時に周囲を取り囲むように車が現れ、停車する。
そして、中から統一された制服の部隊が現れた。
「用意周到ね……戦士長二人だけじゃ飽き足らず、部隊を編成していたなんて。
大規模なホムンクルスの軍勢を相手でもそうはしないでしょうに」
凛はその様子に苦笑いを浮かべる。
「つまり……こいつら全員が武装錬金持ちか?」
翔が凛に尋ねる。
「その通りだ。こいつらは俺が選んだ再殺部隊。
まぁ、正確が厄介すぎて対ヴィクターに選べなかった爪弾き者でもあるがな」
それに代わりに火渡が応える。
「いつもどおりとは言え、分が悪すぎるわね」
凛がその様子に壁辞した様子で呟く。
「ここは一旦、退きましょう」
ユーノが剣崎に進言する。
「退くってどうやって……?」
剣崎がユーノに尋ねる。
「方法はあります。カズキさん、それで良いですか?」
ユーノが呆然とするカズキに尋ねる。
「……うん」
それに力なくカズキは頷いた。
「クロノ!」
それを聞いてユーノが叫ぶ。
それと同時に全員の体が転送されていく。
「逃がすか!」
それを見て火渡が炎を放つ。
「壁よ!」
だが、それをユーノが魔法の障壁を展開して防御する。
炎は防がれ、転送は妨害されずに達成された。

「ちっ!やつら、物質転送なんて出来るのか。それもあの数をよ。
千歳が知ったら悔しがるな」
火渡は消えた後を見て呟く。
「あいつらに協力する別世界の組織の技術だ」
ブラボーがそれに応える。
「追う方法は?」
「無い。おそらく、次元世界にある船に帰還したんだろう。俺達の技術でその後を追うことは不可能だ」
「ちっ……嘘を吐いてるんじゃないだろうな」
「知っているだろう。俺は嘘が嫌いだ」
「そうだったな……仕方ねぇな。奴らの家を張るか……」
火渡は面倒そうに頭を掻き揚げる。
「カズキ……お前が迷い答えを出せないのなら……俺が代わりに答えを出そう。
例え、お前に恨まれたとしても……」
ブラボーは独り呟く。


時空航行艦アースラ
その医療室でなのはが眠らされていた。
ついでに他の皆も治療を受けている。

「それにしてもヴォルケンリッターを追っていたと思ったら、まさか、地球の組織のごたごたに付き合わされるとはな」
会議室に集まり、クロノが苦言を呈する。
「それはすまないと思うけど……切迫してたんだ」
ユーノがそれに応える。
「詳しい事情は聞かないが……その状態で戦えるのか?」
クロノがカズキを見て尋ねる。
目に見えて落ち込んでいた。
「……衛宮君。武藤君と一緒に外に出てもらえる?」
凛が士郎に告げる。
「あぁ、分かった」
凛が何を言いたいのか察し、士郎がカズキを連れて部屋を後にする。
「……随分と酷いな」
「仲間に裏切られたんだ……今は士郎に任せよう」
剣崎がそのフォローをする。
「それなのに君達は落ち着いているんだな」
「武藤君にとっては師匠とも言える存在だったのよ。随分と慕ってたみたいだし、ショックも大きいでしょうね。
それを乗り越えて戦う気概を取り戻せるか、それは分らないけど」
凛が告げる。
「これ以上の詮索は無粋よ。クロノ、本題に入りましょう」
静観していたリンディが話を切り替える。
それにクロノが頷いた。
凛も剣崎も了承する。
「ヴォルケンリッター……彼女達についてか?」
剣崎が尋ねるとリンディとクロノは頷いた。
「えぇ、彼女達は強力なロストロギア、闇の書のマスターを護るために生み出される守護騎士よ」
「そう言えば、そんな事言ってたけど、闇の書ってどういうものなの?」
「闇の書は魔導師の魔力を蒐集する為に造られた。数多くの魔導師の持つ魔法をその手に収める。
それが多くの魔導師にとってどれだけ魅力的なのか……」
「分るわ。一応、私も地球では魔術師ってのをやってるし」
凛がそれに応える。
「つまり、蒐集すると強くなれるって感じなのか?」
剣崎は良く分っていないようで質問する。
「まぁ、それに近いわね。多くの魔法が使えればどのような事態にも対応できる」
「それでその蒐集方法があのヴォルケンリッターがなのはに行った方法って事ね?」
「そうよ。魔導師を襲い、直接、そのリンカーコアから魔力を集める。
最近、魔導師の連続襲撃事件があって、それを追っていたんだけど……」
「それで地球に辿り着いた。そこでヴォルケンリッターと戦う私達が居たと」
「その通りよ。何となく予想はしていたけどね」
「予想が出来たってことは過去にも同じ事件があったって事?」
「えぇ、闇の書は持ち主が倒された時に自己防衛として次の持ち主の元に跳躍する。
十一年前に、どうにか一度、回収に成功したけど、防衛プログラムによって回収した船は大破。
結局、闇の書にも逃げられたわ」
「倒しても結局、別の持ち主の所へ逃げられ、こうして再び人に被害を出すか……厄介な特性ね」
凛はその話を聞いてため息を漏らす。
「逃げられるって言うなら、封印する方法とかは無いのか?」
剣崎がリンディに質問する。
「その対策についても研究は進んでいるわ。それでもとりあえずは持ち主を見つけないと」
「その持ち主は地球に居るの?」
「これまでの襲撃事件からその可能性は高いと思うわ。現れた範囲の中心には地球が存在している」
リンディが説明すると凛は頷いた。
「それでその調査に私達が協力すれば良いのかしら?」
「無理強いはしないわ。身をもって経験したと思うけど、ヴォルケンリッターは強力な魔導師よ。
管理局でもあれを倒せるものは少ないわ」
「そうね……まともにぶつかれば私では倒せないか」
凛は今宵の戦いで力の差を痛感した。
あれと戦おうとすれば英雄クラスの力は必要となる。
「いや、協力させてくれ……あいつらと一緒に睦月が……仮面ライダーレンゲルが活動している」
剣崎がむしろ頼み込むという様子で告げる。
「仮面ライダー……アンデッドという不死生物と融合して力を使う者か。
確か、君も仮面ライダーだった筈だが?」
クロノが疑問を剣崎に尋ねる。
「あぁ、だが、あいつは変身する為に融合するアンデッドに支配されている。
どういう事情で睦月がヴォルケンリッターと協力しているのかは分らないけど、止めなければならないんだ」
「事情は分ったわ。そちらとしてもヴォルケンリッターと戦う必然がある。
なら、共に協力することに異存は無いわ」
リンディはその話を承認する。
こうして、再び、時空管理局と共闘関係になった。


話し合いが行われている頃、アースラの休憩室でカズキと士郎は椅子に座っていた。
「カズキ……辛いかも知れないけど、ブラボーは別にお前の敵になった訳じゃないじゃないか」
士郎が言葉をかける。
強引な手段をとろうとしているが彼はカズキを生かそうとしている。
その点で再殺部隊とは大きく違う。
「うん……それは分ってる。それに俺自身もまだ、決められていないから……」
カズキはずっと悩み続けていた。
どうすれば良いのか。
どう、白い核鉄を使うべきなのか。
「でも、問題は他の錬金の戦士か……まさか、カズキ自身を殺そうとしてくるなんて」
斗貴子やブラボーが所属していた組織がこういう手段に出てくるとは士郎は予想していなかった。
だが、それは甘い考えだったのだろう。
現に凛はこの展開をある程度、予想はしていたようだった。
「とにかく、俺はカズキに死んで欲しくない。助かって欲しいと思う。
だけど、その命の使い方はお前自身が選ぶべきだ」
「……分ってる。それは分ってるんだ。俺も折角、こうしてもらえた命を簡単に手放す気なんて無い!」
カズキはそう告げるが、その心が揺れているのは分った。
助かる命が一つしかないのなら。最も犠牲が少ない手段は一つだ。
ヴィクターを相手に犠牲をなくして勝つ手段など無いだろう。
彼が人間に戻り、家族は再会し、戦いが無くなる。
そして、それを呑んでカズキが自決すれば犠牲は一人で済む。
それが一番、何も失わないで済む手段。
だが、そんな事を呑める筈が無い。
士郎にとって親友を失いたくは無い。
それにそんな残酷な決断をカズキに出して欲しくもない。
それでも、答えを待つしか無い。
何処までも行こうと決断を下すのはカズキ自身でしか無いのだから。


翌日
結局、剣崎たちはアースラに泊まっていった。
「君の家と宿舎は完全に見張られてる」
クロノが調査結果を剣崎に告げる。
再殺部隊が帰ってくるのを待っているのだろう。
こうなればノコノコと戻ることは出来ない。
「まぁ、戻るのは愚作でしょうね。何処かに隠れ家を作るのが良いんでしょうけど……
それでも、奴らの監視をずっと逃れて活動するのは難しいわ」
「それと奴らは家捜ししてパソコンを弄ってるようだったけど」
「パソコンを……?」
凛はその言葉に困惑する。
剣崎はそれを受けて考える。
「もしかして、アンデッドサーチャーかも」
「アンデッドが戦うと発する信号を受け取って居場所を特定する装置だったかな?」
「そうだ。アンデッドが現れれば俺は戦わないといけないから、そこから居場所を割り出すつもりなんだ」
「後をつけるってのは不可能だと分ってるだろうから、君達の誰かを捕獲して人質と考えてるのか」
再殺部隊はアースラに来ることは不可能だ。
なら、出てきた所を叩くしかない。
その為にその場所を知るためにアンデッドサーチャーを手にしたのは確実だろう。
「厄介ね……再殺部隊は仮にも錬金の戦士よ。幾ら剣崎さんが強いって言っても数人を相手にするのは危険ね」
「言っては何だけど、彼らに仮面ライダーを相手に戦うだけの能力はあるのか?」
クロノが疑問に思い尋ねる。
錬金の戦士であった斗貴子はアンデッドを相手に単独で勝つことは出来なかった。
恐らくはそこまで実力に差が無いであろう他の戦士が上級アンデッドですら単独で撃破する剣崎を倒しえるのか。
その疑問がある。
「武装錬金には特性がある。常識的な範囲から中にはインチキ臭いものまでね。
津村さんや武藤君の武装錬金の特性なんて凄く大人しい方よ。
まぁ、私も話しに聞いただけで詳しくは知らないんだけど……
それに実力にしても今回は二人の戦士長が居るのよ。
単独での戦闘力は彼らは郡を抜いてるって聞くわ。
ホムンクルス以上の化け物……戦士だった時から彼らに対して使われていた言葉よ」
「戦士長か……ヴォルケンリッターとも一対一で優勢に立っていたって言うけど……」
「キャプテンブラボーの武装錬金シルバースキンの特性は完全防御。
昨日、彼自身が言っていたけど、生半可な攻撃じゃ無意味でしょうね。
昨日のヴォルケンリッターも必殺の一撃でなければその防御を突破することも出来ていなかった」
その化け物的な強さは昨日の攻防で分っていた。
それでも彼がそこまで本気であったかと言われれば疑問が残る。
昨日のブラボーは戦いに消極的だった。
「警戒は十分にした方が良いと言う事か……こうなると戦力が減っているのは厳しいな。
なのはもフェイトもしばらくは戦えないだろうし」
クロノは頭を悩ます。
「デバイスの修理か……昨日の戦いで破壊されたからな」
ヴォルケンリッターとの戦いでレイジングハートとバルディッシュの二つのインテリジェンスデバイスは大破。
現在修理中である。
「それがインテリジェンスデバイス自身からの提案で強化することになった」
「強化?」
「今のままだと対抗できないと判断したんだろう。その為に彼らはヴォルケンリッターの使っていたアームドデバイスと同じようにカートリッジシステムを取り付けるように要請した」
「カートリッジ……?」
直接の対峙をしていない剣崎には想像がつかない。
「もしかして、彼女達の魔力が一時的に爆発的な上昇をしたこと?」
凛は記憶を辿り、質問する。
「おそらく、それだな。カートリッジに圧縮された魔力を開放することで自身が使用できる魔力総量を上げることが目的としたシステムだ。
だが、このシステムはインテリジェンスデバイスと相性が悪くてな……完成したとしても使いこなせるかは未知数だが……」
改良による強化。
だが、その結果が想を効すのかは不明な部分がある。
「インテリジェンスデバイスか……意思があるとは聞いてたけど、自らそんな進言をするものなのね」
「なのはが相棒と言ってたぐらいだからな。しかし、凄い技術だな」
凛と剣崎は感嘆の声を漏らす。
「成功すればなのはとフェイトの二人もヴォルケンリッターと対抗できるだけの力を手にするだろう」
「戦力の底上げにはなるか……ヴォルケンリッターとレンゲル、それに再殺部隊を相手にするには少し心許ないけど……」
それでも戦いは大いに楽になるだろう。
「そういえば、他にも仲間が居たと思ったけど?」
クロノが尋ねる。
「シンとアスランは自分の国に帰ったよ」
「召集命令か……それは仕方ないな」
プレシアの次元城攻略でも多大な戦果を上げていた二人が居ないことにクロノは少し落胆する。
彼らが居ればもっと戦況は良かっただろう。
「始にも事情を話して協力してもらおう」
剣崎が提案する。
「彼が人間同士のいざこざに手を貸すかしらね?」
「今のあいつなら大丈夫だ」
凛の心配をよそに剣崎は信じきっている様子だった。
「相川始……仮面ライダーカリスか。確かに彼も強力な戦力だな」
クロノもその話に賛成する。
再び、動き出した戦いに戦士たちはその力を集めようとしていた。


廃工場
既に打ち捨てられ無人となった場所
そこで上城睦月はシグナムに厳しい視線を浴びせられる。
「何か文句でもあるのか?」
睦月は悪びれた様子も無く尋ねる。
「友人だったものに対してのあの暴言……いささか行き過ぎじゃないのか?」
シグナムは睦月がカズキに浴びせた言葉に対して文句があるようだった。
「あぁ、あれですか……カズキのあの力は危険だった。
だから、使わないようにどうにか手を打てないかと思ったんですよ。
現にあなた方もカズキには苦戦していたじゃないですか」
「それは……確かにそうだが……
しかし、良いのか?あれでは君はもはや元の関係に戻ることは出来ないだろう」
「それこそ今更じゃないんですか?既に俺は仲間を売った身です」
「そうだったな……その事については感謝している。
あれほどの魔力を持った人間はそうはいない。おかげで蒐集も大分、はかどった」
「それは良かった。それで彼女の他に対象になりえる奴は居たんですか?」
「そうだな……リンカーコアを持つ者が一人、リンカーコアとは違うが蒐集が出来そうなものが二人居た。
一人は彼らを相手にしてまで蒐集するのはリスクに合わないが、後の二人はそれだけの価値がありそうだ」
「それは良かった。頑張りましょう。あの子の為にもね」
「言われなくても分っている……感謝はしているんだ。私達の事情を知り、手を貸してくれたことに……」
「命を護るのもヒーローの務めですよ」
そうして話は終わり、シグナムは帰還する。
それを見届けると睦月は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
「ちっ!もう少し使えるかと思ったけど……上手くいかないな」
睦月は呟く。


八神家
そこには八神はやてという少女とヴォルケンリッターたちが暮らしていた。
「ただいま」
私服姿のシグナムが玄関を開けて帰宅する。
「おかえり、シグナム」
それを車椅子の少女、はやてが出迎える。
「動いて大丈夫なのですか?」
シグナムはその姿を見て驚く。
「今日は調子がええんや」
はやてが笑顔で答える。
「それなら良いのですが……」
心配そうにシグナムははやてを見守る。

ロビーでシグナムとシャマルは目配せをし、念話を始める。
「(睦月くんはどうでしたか?)」
「(あれは演技だと言っていた……だが、やはり余り信用できないな)」
「(……昨日の様子。どう考えても睦月君は彼らと敵対していた)」
「(あぁ、戦いに躊躇いがなかった。それも双方にだ。仲間だと言っていたが嘘かもな。
彼らを倒したいから私達を利用しているのかも知れない)」
「(……そうですか)」
「(仲間に引き入れたお前の判断を疑いたくは無いが……)」
「(いえ……でも、あの時の彼は本気で助けたいと思っているように見えたから)」

睦月を他のヴォルケンリッターと引き合わせのはシャマルだった。
一ヶ月ほど前、突然、はやてが闇の書の力により苦しみだした日の後、
しばらくしてはやてを病院に連れて行ったときに彼と再会した。
以前にも会った事はあった。
見た目は親切な少年だったが纏う気配が邪悪に感じられた。
だが、その日に会った彼は以前に感じた邪悪な気配を感じなかった。
彼はシャマルが一人の時に挨拶を交わし、こう告げてきた。
「あの子を助ける手伝い……俺にもさせてくれませんか?」
その突然の申し出にシャマルは当初は困惑し、警戒したが彼の真剣な面持ちに納得した。
事情をある程度、知っているなら協力してもらえると、してもらっても大丈夫なのだと。

「(強さとしては申し分ない……それにこれからは時空管理局に狙われるだろう。
目的を遂行するためなら彼を頼る必要もある……)」
「(もう少し、信じてみませんか……もう少しだけでも)」
シャマルの言葉に最終的にシグナムが折れることになる。
敵が多い以上、協力してもらうメリットが多いのも原因の一つだが。


桜田家
そこにはローゼンメイデンが三体住んでいる。
彼女達はあの日から平和な日常を過ごしていた。
「あの子はどうしてるかしらね」
真紅はティータイムの途中でぼそりと呟く。
「あの子ですか?」
翠星石はそれに心当たりが無く尋ね返す。
「前に話した幻想郷に居た人形の妖怪の話よ」
「あぁ、言ってましたね。新入りの癖に勝手に人形代表面して人間と戦うなんていってた無謀者の事ですね」
翠星石は以前に聞いた話を思い出す。
その時にもこうしてメディスンの事を呆れていた。
「お前たち以外にも動いたりする人形が居るんだな」
ジュンはその言葉に青ざめる。
「人形には意思があるもの。それが恨みなんかの負の感情で満たされれば妖怪になるわ。
まぁ、彼女はそれとも少し違うみたいだったけれど」
「少し違う?」
「毒を体に溜め込んでそれを媒介にして体を動かしていたみたいね」
「そんな事ありえるのか?」
「幻想郷のお医者さんはありえると言っていたわ」
真紅はあの後、メディスンを実に来た永琳と出会っている。
彼女もメディスンを興味深げに観察していた。
人間の体も毒で動いてるようなものだからありえると彼女は言っていたが多くは理解できない。
「しかし、お前たちみたいなのがねぇ……」
「それは聞き捨てならねぇですね。そこらの人形と誇り高きローゼンメイデンを一緒にしてもらっては困るです」
翠星石は頬を膨らませて怒る。
「えぇ、でも、お話できるお友達が増えるなら楽しいと思うの」
逆に雛苺はメディスンの話を聞いて嬉しそうだった。
動ける人形なら友達になれると思ったのかも知れない。
「これだからチビ苺は……」
翠星石は呆れている。

何時も通りの日。
代わり映えの無い午後の一コマ。
それを一つのチャイムが終わらせる。

「なんだ?」
チャイムに気づいてジュンは立ち上がる。
「何か頼んだっけ……こういう時に姉さんも居ないし……」
ジュンは億劫という様子で玄関へと歩いていく。
そして、玄関を開けた。
そこには金髪の少女が立っていた。
その冷たい視線にジュンはびくりと震える。
「……あの、何のようですか?」
どうにか口から言葉を紡いで尋ねる。
「桜田ジュン……?」
少女は問いかける。
その機械的な言葉にジュンの背筋が寒くなる。
「……そうですけど、あんたは何者なんだ?」
ジュンは警戒した面持ちで尋ね返す。
「ローゼンメイデンの真紅と翠星石のマスター……拘束する!」
少女は突然、ジュンに襲い掛かる。
「させないわ」
だが、その体をバラの花弁が拘束する。
「な、な!?」
ジュンは困惑した様子で慌てふためく。
彼女の手にはナイフが握られて、それがジュンの手に小さな切り傷を負わせている。
真紅が来なかったどうなっていたのか……
「ジュンが私達のマスターだと知って来るなんて……貴方は何者?」
真紅が少女を睨み付ける。
「ステラ!」
だが、予想外にも少女を見て声を上げたのは雛苺だった。
「ステラ?雛苺は彼女が何者なのか知っているの?」
「うん、化け物に捕まってた時に一緒に遊んでくれたのよ」
「化け物……LXEの残党?」
雛苺が捕まっていたのはLXEの時だ。
そこに居た人間なら信奉者である可能性が高い。

「大人しく話してる場合じゃねぇですよ!」
そこに翠星石が駆け込んでくる。
その背後から二人の男が現れた。
その手には拳銃が握られている。
「抵抗するなよ。こっちは生かして連れて来いって言われてるんだ」
先頭に立つ緑髪の男がジュンに狙いをつけて告げる。
「拳銃!?本物なのか!?」
平和な日本で目にすることはほぼないそれにジュンは困惑する。
「スティングにアウルも……どうしたの?」
雛苺は彼らの険しい表情に怯える。
「ローゼンメイデンを捕獲して、戦力とするつもりなのかしら?」
真紅がスティングに尋ねる。
「さぁな。俺達はお前たちを捕獲しろと言われているだけなんでね。
大人しく従えば手荒な真似はしないさ」
「手荒な真似ね……この状況は手荒と呼ばないのかしら?」
「あぁ、呼ばないね。別に足の一つぐらい撃ち抜いたぐらいで死にはしねぇよ」
スティングの言葉にジュンは青ざめる。
「そう……どうやら、貴方達と私達の価値観は違うようね!」
真紅はバラの花弁を放ち、スティングの目を隠す。
「ちっ!」
それにアウルが反応して拳銃でジュンを撃とうとするが
「させねぇですよ!」
翠星石が如雨露の水を放つと、地中から植物の根が伸びてその動きを拘束する。
「今の内に逃げるわよ!」
真紅が叫ぶ。
「逃げるって!?」
「nのフィールドを使うわ!」
真紅の言葉にジュンは頷いて直ぐ近くの扉を開いた。
そこは物置部屋。
その中にはひときわ大きな古い鏡がある。
鏡の中にジュンとローゼンメイデンたちは飛び込んだ。

「予定通りか……」
スティングは無人の部屋を見て呟く。
「nのフィールドね。前にもアンデッドが使ってたけど、鏡の中はどうなってるんだろうね」
アウルが鏡を覗き込んで呟く。
「雛苺……行っちゃった」
ステラは寂しそうに呟く。
「まぁ、仕方ないさ。とにかく、撤収だ。後は勝手にやるだろうさ」


nのフィールド
無数の扉が広がる虚無の世界を真紅たちは行く。
「あいつらは一体、何なんだ!?」
ジュンが叫ぶ。
突然、命の危機に晒されたことで混乱していた。
「落ち着きなさい……前にも話したと思うけど、街に潜んでた悪い奴らの仲間よ」
「でも、そいつらは全員倒したんじゃなかったのか?」
「生き残りが居たんでしょうね」
「生き残りって、そんなのに狙われるなんて聞いてないぞ!」
「諦めなさい。もはや、後戻りなんて出来ないわ」
「……それでどうするんだ?もう、家に戻れないだろ」
「そうね……どうにか、カズキや剣崎に連絡をとりましょう」
「それって、お前が一緒に戦ってた仲間か?」
「えぇ、とても頼りになるわ」
そう話して急いでいると突如、その体が拘束される。
「!?」
動かなくなった体に四人は驚く。
「しまった!」
真紅は逸早く、足元にある蜘蛛の巣状に広がった茨に気づいた。
それが動きを縛っている。
「可哀想な駒鳥さん……だぁれが殺した駒鳥さん……」
歌を口ずさみ何かが近づく。
四人は一斉にその方向を見た。
そこに居たのは白い人形。
白い髪、白いドレス、白い薔薇……
真っ白な人形が蜘蛛の巣茨を伝ってやってくる。
「それは私……私なの」
人形は笑いかける。
それは悪辣なものだった。
「白薔薇!」
それを見て真紅は叫ぶ。


平和な日常は仮初だったのかと崩れ去っていく。
始まるのは戦いの日々。
現実はその様相を変えて行く。
だが、変わり行くのは表だけでは無い。
表が変われば裏も変わる。
だが、果たして、その形は同じなのか?
歪に歪んだ世界は裏表の境界を失っていく……

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