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「システム・アカシャに問題は無いか?」
虚無の世界の中、仮面の男が少女に尋ねる。
その少女の目の前には巨大な樹の幹が聳え立っていた。
いや、樹の幹と言えるのはそれを遠くから眺めた場合だけだ。
それは余りにも巨大でその麓ではただの巨大な壁にしか見えない。
端も映らなければ、その頂上など見えるはずも無いほどにそれは大きかった。
もし、これが地球にあるなら半球を覆うほどに葉を茂らせ、その根は大地の全てを覆うだろう。
「問題なく稼動していますわ。一部のシステムに不正な介入がありますけど」
少女は向き直り、仮面の男に告げる。
「それは気にしていない。ただ、以前の点検の時と同じように動いていてくれればそれでな」
その回答に満足したのか仮面の男の声が少し弾む。
「そんなに気にする必要は無いのではないですか?このシステムはかつて、世界が一つだった頃に神々が作り上げたもの。
この程度の介入で不調になるとも思えませんけど」
「このシステムも絶対な訳ではない。故に一万年前に破滅の存在の介入を許してしまった」
仮面の男の言葉に少女は沈黙する。
「……そうでしたわね。あの方もその事については嘆いておられた」
少女はそう考え直し、仮面の男を見る。
「しかし、何故、この時期に確認を?普段はここに姿を見せもしないのに」
そして、少女は疑問を投げかける。
「終焉の日……もうすぐ、そこへ至る」
仮面の男は物憂げな様子でそう応える。
「終焉の日?それは破滅の存在の復活と言う事ですか?」
「そうだ……生ある戦いの終わりと共に破滅は目覚める」
仮面の男は目の前の樹を見上げる。
生命全ての魂に枝を伸ばし、その心を読み取り、命を管理するシステム。
システム・アカシャ……
またの名を世界樹。
それは運命を記す絶対普遍の存在。


「君は運命を信じるかね?」
ギルバート・デュランダルはシンに質問を投げかける。
ここはプラントの議長の部屋。
シンは呼び出され、緊張した面持ちでその言葉を聞いていた。
「運命があると……感じることはあります」
シンはその質問に対して答える。
どうしようもない抗えない現実。
それを目の当たりにした時、シンは運命という存在を感じてきた。
自分達では変えることの出来ない大きな流れ。
「私もさ。この世界はままならない事ばかりだ。
だが、逆に全ての人々が自分の運命を知り、己が何者なのかを知ることが出来たのなら。
その時、世界から争いがなくなる。
そう思わないかね?」
「自分が何者なのか……ですか?」
議長の言葉の真意が分からずシンは尋ね返す。
「人は生を受けた時、何を為すのか決まっている。
だが、多くの人はそれを知らずに手探りで進んでいく。
その為に衝突が生まれ、争いへと発展していく」
「……自分の気持ちで決めた事が争いの引き金になる」
「そうだ。最初から何もかもが分かっていれば悲しみも憎しみも生まれない。
亡くなる命は無くなる」
「……そうかも、知れません」
シンはその言葉に頷く。
だが、その表情は何処か暗い。
「何の為に生まれてきたのか、自分の存在が何を示すのか……
それを知らないことは不幸だ。
それは自分自身だけでなく、周りの人間すらも巻き込んでいくのだからね」
デュランダルはシンではなく、自分の目の前にあるモニターを見て呟く。
そのモニターには剣崎一真と仮面ライダーブレイドのデータが表示されていた。
そこにはこう記されている。

【剣崎一真の融合係数はライダーシステムに想定されていた数値の上限を超えている。
これ以上の数値の上昇が何をもたらすのかは不明。
即刻、ライダーシステムの使用を中止させる。
その存在は余りにも危険過ぎる】





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第三十五話「変わり行く世界」






「最近、アンデッドも出ないし暇だな」
剣崎が居間でくつろぎながら呟いた。
破滅の存在の復活、聖杯戦争の終結……
そして、シン・アスカを始めとした数人の仲間との別れから早くも一ヶ月が経とうとしていた。
季節は夏。
セミの鳴き声が聞こえ始め、天に輝く太陽がその力を高めている。
「何もありませんでしたからね」
そんな剣崎に対して士郎が麦茶を差し出す。
あれから、アンデッドが暴れることも無く、何事も無く日々が過ぎていた。
とは言え、キングなどの何を企んでいるのか分からないアンデッドも多い。
「睦月は結局、見つからないのか?」
剣崎が士郎に尋ねると士郎は首を振る。
「カズキや遠坂と一緒に知り合いとか色々と声をかけてるんですけど……
やっぱり、終業式にも顔だしませんでしたし」
この一ヶ月の間で行った当面の活動は睦月の行方探しだった。
方々手を伸ばし、睦月の友人や自分たちの友人などに目撃情報などを募ったが一向に手がかりが見つからない。
学校は色々な騒動のせいで結局、一学期中の再開はならず、終業式だけが行われて夏休みに突入していた。
それも昨日の話である。
「最後に姿を見たのは結局、あの子……間桐慎二の妹の桜ちゃんだっけ?」
「えぇ……慎二と協力してたときにあいつの家を拠点にしてたみたいで……」
慎二と一緒に倒された次の日、桜とであった睦月が辿れた最後の日だった。
「それに嶋さんも姿を見せない……」
睦月の失踪と同じくして嶋昇の姿も見えない。
睦月に対して何か案があるという感じだった為に期待していたが一ヶ月も姿を現さないとその期待もなくなっていた。
「手詰まりですね」
士郎が呟く。
あれ程の激動の後だと何も無かったこの一ヶ月がまるで無限のように感じられた。
停滞する空気
決して平和な訳じゃない。
その裏では多くの悪意が渦巻いている。
だというのに、それを白日の下に晒すことが出来ない。
もどかしさだけが募っていく。

だが、時間は確実に進んでいる。
何も無い時などは無い。
そして、それは突如として牙を向き、それを思い出させる。

突如として、窓を打ち破り何者かが部屋へと飛び込んでくる。
「何!?」
それに驚きながらも剣崎と士郎は即座に立ち上がり、迎え撃つ準備を整える。
「変身!」
剣崎は即座に変身すると襲い掛かる謎の怪人をオリハルコンエレメンタルで吹き飛ばす。
その衝撃に怪人は外へと放り出された。
「アンデッド!?」
士郎は一瞬、見えた怪人の姿に叫ぶ。
だが、その怪人はアンデッドに通じる部分を感じたが神々しさは無かった。
不死生物にして生物の始祖であるアンデッド。
それが持つ神秘性が目の前の怪人には感じられない。
何処か機械に通じる印象を受ける。
「分からない……だけど、どんな目的があっても襲ってくるなら相手になるだけだ!」
剣崎はブレイラウザーを抜き、構える。
その敵もブレイドに対して身構えた。
「……剣崎一真、貴様は許されない」
そして、はっきりと剣崎に対して言葉を告げた。
「何!?」
その言葉に剣崎は戸惑う。
話しかけられたこともそうだが、告げられた言葉の意味が剣崎を困惑させる。
「危ない、剣崎さん!」
そんな剣崎を見て士郎が叫ぶ。
その言葉に剣崎は思考を中断し、襲い掛かってきた怪人の攻撃を回避する。
「すまない」
剣崎は礼を告げるとブレイラウザーでその怪人に斬りかかる。
ブレイドは一方的にその怪人に攻撃を繰り出す。
その強さは下級アンデッドとそこまで変わらない、今のブレイドならば問題ない敵だ。
「これなら!」
剣崎は敵がふらついてきたのを確認すると二枚のカードを取り出し、ラウズする。
―――キック―――
―――サンダー―――
【ライトニングブラスト】
完成するコンボはブレイドの体にアンデッドの力を漲らせる。
帯電する右足を、ブレイドは飛び上がって、怪人に叩き付けた。
衝撃と高電圧に怪人の体は吹き飛ばされ、地面に転がる。
その姿を見て剣崎はコモンブランクを取り出すとその怪人に向かって投げつける。
これで敵がアンデッドであれば封印される筈だ。
だが、刺さったカードはアンデッドを封印するどころか、その怪人の体に吸い込まれた。
「何!?」
その光景に剣崎は驚く。
そして、怪人は目を覚まし、立ち上がった。
既に先ほどの闘いの傷はほぼ、完治している。
「死なないだけじゃなく、封印されない!?」
その事実に士郎は驚愕する。
それはつまり、倒す手段が存在しないということ。
「くっ……」
剣崎はそれに警戒して身構えるが
「剣崎一真、貴様は許されない」
再び、怪人はそう剣崎に告げるとその場から飛び上がり、退散する。
「逃げた……のか」
その様子を見て剣崎は変身を解除した。
今から追いかけても危険がある上に、倒せる手段が無いのだ。
「あれってアンデッドなんですか?」
士郎が剣崎に尋ねる。
「多分、違う……だけど、あいつは死ななかった。あれだけの傷が一瞬で治ったんだ。
生半可な攻撃じゃあいつは倒すことは出来ない」
剣崎はその特異性に警戒を示す。


そして、その事は直ぐに仲間へと報告され、対応策を立てるべく衛宮家へと集まった。
「こうして、ここに集まるのは久しぶりですね」
なのはは少し嬉しそうに話す。
「最近はそんな理由が無かったからね……って、この子も呼んだの?」
凛がなのはを見て士郎に尋ねる。
「そりゃ当然、仲間だからじゃないか」
士郎が平然とした様子で応えた。
「ジュエルシードの件は片付いたんでしょ、だったら、戦う理由なんて無いじゃないの?」
凛がなのはに尋ねる。
「最初はそうでしたけど、アンデッドが皆を悲しませるのは知ってますから。
何か出来るなら手伝いたいって、言って、皆さんには一緒に戦わせて貰ってるんです」
なのはが遠坂に対して告げる。
「そうそう、なのはとは一緒にアンデッドやホムンクルスと一緒に戦った仲間!
子供だと思って侮っちゃ駄目だよ」
カズキがなのはのフォローをする。
「まぁ、それならいいけど……確かに、アンデッドと一対一で倒せるぐらいに強いんだし、気にする必要も無いか」
凛と協力関係にあった時、なのははジュエルシードの事件に集中していて、聖杯戦争には殆ど関係しなかった。
共に戦ったのはジョーカーを止めにいくときのみ。
あの時は緊急性が高かったために話す機会もほぼ無かった。
「それよりも橘さんは居ないんですか?」
ユーノが重要な人物の不在に気づいて剣崎に尋ねる。
「それが連絡がとれなくて……」
剣崎の言葉に遠坂以外の全員が不安そうな顔を浮かべる。
「都合が悪い……って、だけじゃなさそうね。何か心当たりでもあるの?」
それに気づいて凛が士郎に尋ねる。
「いや、前に橘さんが連絡取れなくなったとき、LXEに洗脳されて敵に回ったことがあったから」
「なるほど……今回も敵に攻撃を受けてるかもって事ね。
確かに、今回の正体不明の怪人が剣崎さんを狙ってきたのなら、同じ仮面ライダーの橘さんも狙われている可能性は高いわね」
凛が推論を語る。
「謎の怪人……今回、集まった理由ですよね。アンデッドとは違うけど殺せない、そして、封印することも出来ない。
それが事実ならかなりの強敵ですが」
ユーノが話を怪人へと切り替える。
これが今回の主題でもあるからだ。
「倒せないって言っても俺のライトニングブラストじゃ無理だってだけだったから。
もしかしたら、ライトニングソニックやジャックフォームを使えば倒せたかも知れない」
剣崎がユーノの推論に対して応える。
「単純に破壊力が足りなかったって言うなら次はもっと強い攻撃をぶつければ良いってことか」
「復活するまでに時間も空いてたみたいですし、やれる可能性はありますね」
その案にカズキとなのはが賛成する。
「ま、まぁ、確かにその可能性はあるけど……もし別の方法で不死だったらどうするの?」
ユーノが若干、呆れながら三人に尋ねる。
「……」
しかし、三人は何も応えられない。
「清清しいまでに脳筋ね」
凛は呆れ気味にため息を吐いた。
「でも、そもそも本当に殺せないんだったらどうすることも出来ないんじゃないか?」
士郎が逆にユーノと凛に問いかける。
「そうですね。話を聞いた限りでは判断しようがないですけど……次に来たら一度、拘束してみて調べてみるのもいいかもしれませんね」
「確保して研究するってことか……敵の実力が剣崎さんが言っている程度なら剣崎さんと武藤くんになのはちゃんが協力すれば負ける可能性なんて無いわね」
戦闘力が下級アンデッド程度だというのなら一対一でそれを倒せるだけの実力を持つ三人なら問題は無いはずだ。
「まぁ、研究や解析は本来の分野じゃないので答えが出るのかと聞かれれば分かりませんけど」
ユーノの言葉を聞いて剣崎を思案する。
「本来の分野か……こんな時に橘さんが居てくれればな」
剣崎の言葉に他の全員が不思議そうな表情をする。
どうして、ここで橘の名前が出るのだろうと。
「……橘さんは元々、BOARDの研究員でそこから仮面ライダーに転向してるだけだからな。
アンデッドについてだったら烏丸所長の次に詳しいぐらいで」
剣崎の言葉に他の全員が驚く。
そんな印象を誰一人として持っていなかったようだ。
「橘さんが研究か……想像しづらいな。それよりも、だったらもっと詳しい人が居るじゃないですか。
烏丸所長に連絡はとれないんですか?」
士郎が剣崎に尋ねる。
「もちろん、既に質問済みだよ。だけど、最近、所長からメールの返信が無いんだ」
剣崎が浮かない顔で応える。
「何かあったのかな?」
カズキが呟く。
「分からない……アンデッドも居ないと思うんだけど」
剣崎が応える。
「でも、嶋って人はチベットに居たのよね。他のアンデッドも方々に散ってる可能性はあるんじゃないの?」
凛が疑問に感じて尋ねる。
「アンデッドは戦いあうようになってるから自然と同じような場所に来るらしい。
嶋さんみたいな上級アンデッドはそこまでそれに縛られないみたいだけど。
この地には始が居るからそれに釣られて多くのアンデッドが来るんだ」
「戦いを避けるアンデッドは基本的にありえない以上、ずっとアンデッドの戦場になっていたこの街に出現するのは道理か……
だとして、他に考えられる脅威なんてある?」
凛は剣崎の質問に納得し、他の脅威に対して質問する。
「……人間かも」
士郎がぼそりと呟く。
「人間って……どういうこと?」
カズキが驚き士郎に尋ねる。
「話に聞いただろ、BOARDに襲撃し、LXEと協力していたモビルスーツがいたって」
「あぁ……そっか。シンが言ってたな。ザフトに対して戦闘行為を仕掛けた所属不明の組織がいるって」
カズキはその話で思い出す。
「確かにあいつらはBOARDに対して攻撃を仕掛けてきたぐらいだ。烏丸所長に対して何か行っていてもおかしくは無いか」
剣崎もその士郎の推論に頷く。
「人間が敵……か。人類起源に関するような超生命体を相手にしてるって言うのに嫌な話ね。
まぁ、人間である以上、仕方ないか」
凛はそれに感想を漏らす。
「その人たちもアンデッドを研究して永遠の命を手に入れようとしてるのかな」
なのはは呟く。
フェイトの母親であるプレシアが娘を蘇らせる為にアンデッドを研究していたように
アンデッドの持つ無限の命は限りある命を持つ人間にとって渇望するほどの物に映る。
「そうかもね。永遠の命って響きは多くの人を迷わせるには確かに十分だ」
ユーノがなのはの呟きに答える。
「蝶野もそうだったな」
カズキは実感の篭った声で呟く。
方法は違えど、彼も生きながらえるために新たな命を手にしようとしていた。
「魔術師にも多いわ。古今東西、そんな話や逸話は腐るほどにある。
この前に戦ったギルガメッシュも神話の中では永遠の命を求めていた。
最古の人間ですらそれを願っている。人間の望む物の中でも最も多いものの一つでしょうね」
凛も例を挙げて話す。
アンデッドという存在を知っている人間ならば誰しもが手を伸ばしかねない話なのだ。
故に人間がそのアンデッドの謎を多く知る烏丸所長を狙ったとしてもありえない話ではない。

妙な緊張感に全員の声が静まる。
もしかしたら、これから多くの人間とも争うのかもしれない。
そんな不安が流れていた。
それを一つのアラームが崩す。
「アンデッド!?」
それはアンデッドサーチャーによるアンデッドの反応。
全員は目配せし頷くと駆け出した。


夜の街
その真ん中で仮面ライダーと一体のアンデッドが戦っていた。
それはレンゲル。
スパイダーアンデッドの邪悪な意思に支配され、剣崎たちを裏切った仮面ライダー。
彼はジェリーフィッシュアンデッドに対し、レンゲルラウザーを振るう。
人々は恐怖で逃げ惑う。
それでも興味を引かれて観戦する者もいた。
それに対してレンゲルは動作の合間に道路を砕くなどの威嚇をし、彼らを散らす。
既に人々の姿は無くなり、夜の街には二つの影しかない。
レンゲルはそれを確認すると動作を小さくし、正確に敵の動きを封じていく。
「どうした?その程度か?」
睦月は執拗に攻撃を繰り返す。
大技を決めず、小さな攻撃の積み重ねで敵の体力を削っていく。
長引く戦い。
「睦月!」
そこに剣崎が到着する。

睦月をその顔を確認するとアンデッドから離れて、剣崎の方を見る。
「久しぶりですね」
「今まで何処にいた?」
剣崎はブレイドバックルを装着し、尋ねる。
「何処だって良いでしょう?貴方には関係ない!」
レンゲルは声を荒げる。
その隙を突いて、ジェリーフィッシュアンデッドは逃走しようとした。
だが、レンゲルはその姿を確認せずにカードをラウズする。
―――ブリザード―――
レンゲルは振り向きざまに冷気をジェリーフィッシュアンデッドに放射した。
その冷気にジェリーフィッシュアンデッドの体は凍りつく。
「逃がしはしない」
続けざまにカードをラウズする。
―――ブリザード―――
―――バイト―――
【ブリザードクラッシュ】
二体のアンデッドの力を覚醒させ、強烈な一撃でジェリーフィッシュアンデッドを粉砕する。
たちどころに封印を完了させた。

「強い」
その姿に剣崎は感嘆の言葉を漏らす。
その動作は以前の彼とは比べ物にならなかった。
「どうです?強くなったでしょ……橘みたいなぬるい人の下にそのまま付いてたらこうはならなかった」
睦月は顔だけを剣崎に向ける。
その視線には敵意が込められていた。
「つまり、他の誰かの特訓を受けたのか……それでお前はその力をどうする?」
剣崎は尋ねる。
「決まってるでしょう。アンデッドを封印するんですよ……だけど、その為に他の仮面ライダーは必要ありませんよね?」
睦月は真っ直ぐに剣崎に向かって駆け出した。
「変身!」
しかし、睦月が駆け出すよりも速く剣崎は変身する。
繰り出されるオリハルコンエレメンタル。
だが、睦月はそれを跳躍し、頭上を越える事で回避する。
「何!?」
剣崎はオリハルコンエレメンタルを通り抜け、即座に振り向く。
だが、それよりも速くレンゲルラウザーが突き出された。
その一撃にブレイドの体は弾かれる。
「くっ!?」
「遅いですよ……やっぱり、俺が最強だ」
睦月は自分に言い聞かせるようにそう呟くとブレイドへと向かう。
それに対してブレイドはブレイラウザーを引き抜いて応戦した。

「止めろ!」
そこにカズキたちが辿りつき、叫ぶ。
「武藤に衛宮か。今も変わらず仲良しの正義の味方ごっこしてるのか?」
その姿を見て睦月が言葉を返す。
「ごっこじゃない!俺達は真剣に戦って……!」
士郎がそれに反応して叫ぶ。
「サーヴァントも居ないお前に何が出来るって言うんだ?」
「なっ!」
睦月の挑発に士郎は怒る。
「それに武藤も何でのうのうとしてるんだ?」
「えっ?」
そして、次に矛先をカズキへと変える。
「学校を、同じ学校の仲間達を滅茶苦茶にした化け物と同じ存在なんだろ?
それなのになんでのうのうと生きていられるんだ?」
その言葉はカズキの芯を抉る。
「それは……」
言いよどむカズキ。
「カズキさんは化け物じゃありません。それに元に戻る方法だって分かってるんです!」
それに対して代わりになのはが反論する。
「へぇ、でも、元に戻ってないのは何でだ?なぁ、武藤。
お前も人を超えた力を手放すのが惜しくなったのか?」
「違う!」
それに対してカズキは即座に反論する。
ヴィクター化は強力だがそれを望んで得ているのでは無い。
「だったら、さっさと人間に戻れよ」
「今は出来ないけど……いつかは……」
カズキは言葉を詰まらせる。
実際に白い核鉄は完成していない。
それにもし、完成していても一つだけ。
その使用方法についての覚悟も決まっては居ない。
その迷う心がカズキの言葉を淀ませる。
「そんな言葉は信用できないな。どう、信用しろって言うんだ?
人を超え、生きてるだけで人を殺せるような化け物の言葉を?」
それを踏まえて睦月は言葉を吐く。
それは更にカズキの心を動揺させた。
邪悪に支配されているとは言え、友人だった人間からの不信の言葉。
それはカズキの心を蹂躙していこうとする。

その時、空より何かが飛来し、地面に衝突した。
それはアスファルトの大地を引き裂き、生の大地を露出させる。
巻き上がる粉塵。
それを一払いし、その者は大地に立つ。
「話は終わりだ」
赤いドレスのような鎧に身を包んだ小さな少女はその肩にハンマーを担いで告げる。
その視線はレンゲルに向かっていた。
「ヴィータ……予定と違うぞ」
それに睦月は困惑した様子で応える。
「うっせぇ!こういう、ネチネチとしたやり方は嫌いなんだよ!」
ヴィータと呼ばれた少女は一喝し、ハンマーを振り上げる。
そして、それを振り下げ、なのはに向かって突き出した。
「お前!そこのウジウジしてる奴よりは良さそうだ」
そして、挑発的な視線でなのはを睨み付ける。
「わ、私……!?」
なのはは突然の事態に困惑する。
「さっさと準備しな。でないと、大怪我するぜ!」
ヴィータはなのはに向かって突撃する。
なのはは咄嗟に変身し、プロテクションを展開するがそれに対してハンマーを振り下ろされた。
ぶつかり合う衝撃。
魔力の壁はもろくも破壊され、なのはの体は吹き飛ばされる。

「なのは!?」
余りの事態にカズキは反応すら出来なかった。
直ぐに援護に向かおうとする。
だが、その目前に剣が突きたてられた。
それに反応して、動きを止める。
「生憎だが加勢させはしない」
空中より飛来し、彼女は地面に降り立つ。
ピンク髪のポニーテールをした甲冑姿の少女。
それは地面に突き刺さった剣を抜き、構える。
「あんたらは何者なんだ!?睦月の仲間なのか?」
カズキは右胸に手を当て叫ぶ。
「我らはヴォルケンリッター。闇の書の主を護る守護騎士。
我が名はシグナム。お前達に個人的な恨みは無いが……我が主の為に斬らせてもらう!」
少女は剣を持って、カズキへと斬りかかる。
「武装錬金!」
カズキは即座にサンライトハートを顕現させるその一撃を受け止める。
「重い!」
だが、その一撃に手を痺れさせた。
「受け止めるか……この世界の戦士の実力、見せてもらおう!」
それを見てシグナムは笑みを浮かべる。

戦いが始まる。
「援護をする」
翔が初めに剣崎の援護をするべくレンゲルへと向かう。
「そうね。衛宮君は武藤君の援護を、私はなのはちゃんを助けるわ」
凛の指示に士郎は頷く。

ぶつかり合う力
だが、レンゲル、ヴィータ、シグナム……
そのどれもが強敵だった。
二人がかりという数の恩恵をもっても有効打を……
いや、攻勢に回れない。


「くっ、ディバインシューター!」
なのはは魔力弾をヴィータに向かって放つ。
だが、それをヴィータは小さな鉄球を取り出し、ハンマーを使って飛ばすことで迎撃する。
いや、違う。
なのはは撃ち負け、ヴィータの魔力弾がなのはの体に突き刺さる。
バリアジャケットが衝撃を防御するも、それすらも超えて体に痛みが走る。
「その程度か?」
ヴィータはハンマー状の自身のデバイスを構える。
そして、怯んだなのはに対して、突進し、そのハンマーで彼女の体を吹き飛ばす。
なのはの体は斜め上へと弾き飛ばされ、ビルに激突し、コンクリートの壁を粉砕して、内部へと埋もれた。
「あんな小柄でなんて力よ」
凛はその力に戦慄しながらもガントをヴィータに向かって放つ。
「はっ!」
ヴィータはそれをハンマーで弾き、鉄球を一つ取り出し、それを凛に向かってハンマーで射出する。
「シュワルベフリーゲン!」
それは一直線に凛へと向かう。
凛はそれをバックステップで回避しようとするが着弾した鉄球は爆発し、その衝撃に彼女は吹き飛ばされた。
「お前の相手はあいつが終わった後にさせてもらうよ」
ヴィータはなのはに追い討ちをかけようと空を飛び、上空へと向かう。

「させない!」
だが、それを上空から放たれた金色の光が遮る。
「なっ!?」
ヴィータはそれに撃墜され、地面へと落とされる。
だが、対して効いていないのか直ぐに立ち上がり、上空を見上げた。
「何だ、お前は?」
そして、上空に佇む影に問いかける。
「フェイト・テスタロッサ」
フェイトはマントを翻し、バルディッシュを構える。
バルディッシュは形状を変化させ、鎌のような魔力刃を生成する。
「魔導師か……こいつらの仲間か」
ヴィータはフェイトを敵として認識し、ハンマーを掲げる。
「私はなのはの友達。友達を傷つける人は許さない!」
フェイトは戦意をヴィータに向ける。


一方、カズキと士郎はシグナムに翻弄されていた。
「サンライトスラッシャー!」
突撃を行うもシグナムはそれを回避し、すれ違いざまにカズキの体を切り裂く。
「ぐっ!」
だが、それでもカズキは倒れずに踏ん張る。
「カズキ……くそッ!」
士郎は投影したブレイラウザーで斬りかかるも剣の腕前、速度、どちらも歯が立たない。
切り結ぶことも出来ずに剣を弾かれてしまう。
「この程度か、地球の戦士の実力は」
シグナムは落胆したという様子で呟く。
「まだだ!」
だが、カズキも士郎も諦めたわけではない。
各々の武器を握り、シグナムに挑みかかる。
「お前達を叩き潰す意味は無いが……向かってくるなら蹴散らすだけだ!」
シグナムは向かってくるカズキに向かって剣を振るう。
その刃は変形し、分割され、カズキに向かって伸びる。
その様相はさながら蛇。
「なっ!?」
その変則的な動きに対応できず、カズキはそのまま切り付けられようとしていた。

「シルバースキン!」
だが、それを飛来して銀の防壁が防ぐ。
「この武装錬金は!?」
それを見てカズキは驚く。
その武装に見覚えがあった。
あらゆる脅威からその身を護る鉄壁の護り。
防護服の武装錬金・シルバースキン。
その使い手である戦士長キャプテンブラボーがカズキとシグナムの間に降り立つ。
「戦士・カズキをお前の手で倒させるわけには行かない」
ブラボーは何時もどおりにシルバースキンに身を包み、その表情を見せずにシグナムを睨み付ける。
「増援か……そこの槍使いよりは出来そうだな」
シグナムはブラボーの佇まいを見て身構える。
「お前達が何者かは知らないが……ここは退いてもらおう」
ブラボーもシグナムに対し構えをとる。
「はっ!」
シグナムはブラボーに対して、魔力で発生させた風の刃をぶつける。
だが、その刃はブラボーのシルバースキンに傷を付けることが出来ない。
風をまるでそよ風のように受け流し、ブラボーは真っ直ぐにシグナムへと歩み寄る。
「ならば、これなら!」
シグナムは再び、刃を蛇腹状に変化させ、鞭のごとく振るい立て、ブラボーを斬りつける。
だが、その一撃一撃はシルバースキンの一部を損壊させるが、次の一撃が決まるよりも先にシルバースキンの修復が完了する。
「このシルバースキンは無敵。いかなる攻撃も通しはしない!」
ブラボーはこれまで一切の回避動作も、防御動作も取らない。
その全てがまるで無駄だとでも言うかのごとく。ただ、超然とそこに立ち尽くす。
「面白い……ならば、我が最高の一撃のもって、その鎧を切り裂いてみせる!」
シグナムはデバイスを元の剣に戻すとその刃に魔力を圧縮させていく。
その魔力は炎のように燃え上がり、灼熱の刃を形成する。
「紫電一閃!」
そして、轟きと共に踏み込み、ブラボーへと斬りかかる。
その刹那、ブラボーはその一撃を紙一重で回避し、その手刀をシグナムの体に叩き込んだ。
「両断!ブラボチョップ!」
その一撃はまるで居合い。
抜き放たれた拳の刃はシグナムの甲冑を切り裂き、その肉を裂いて、鮮血を撒き散らさせる。
「ぐっ……」
その一撃にシグナムは膝を付く。
「熱くなりすぎだな。生憎だが俺はシルバースキンの防御力に頼った戦いしか出来無い訳ではない」
シグナムに振り向かずにブラボーは告げる。
極一点とも取れるほどに防御に特化した能力。
故に見誤る。
ブラボーの本質はそこではない。
たとえ素手ですらホムンクルスを打ち砕くほどに鍛え抜かれた肉体。
それこそがキャプテンブラボーの本領。
「だが、避けきったと思ったがやるものだ」
ブラボーは肩を抑える。
刹那の見切りによる回避。
だが、反応は極僅かに遅れ、シグナムの刃はシルバースキンを突き破り、ブラボーに体に傷を付けた。
故にブラボーの一撃はずれ、シグナムを両断することが適わなかった。
「このような、辺境の世界にこれほどの使い手が居るとはな……」
シグナムはよろよろと立ち上がる。
しかし、ダメージは大きく、戦いを続行できるようには見えない。
「辺境の世界……その言い草だとお前達は別世界の人間か」
ブラボーは言葉尻から判断する。
そもそも、彼女の持つ武器や能力は地球には存在しない。
系統とすればなのはたちの持つ能力に近かった。
「そうだ。正確には違うが……貴様達には関係ないことだ」
シグナムは会話を拒絶する。
その横にヴィータが降り立つ。
「おい、シグナム!何やられてるんだよ。こっちは二人を相手にしてて面倒だって言うのに」
ヴィータの甲冑はボロボロになっている。
だが、それを追ってやってきたなのはとフェイトのほうが更にボロボロだった。
バリアジャケットは破損し、その小さな体にも無数の傷がついている。

「大丈夫か?」
カズキがなのはに尋ねる。
「はい……なんとか。だけど、あの子、強い」
なのはは息も絶え絶えという様子で応える。
それはフェイトも同じような様子だった。
だが、ヴィータは傷は負っているものの息切れは感じさせない。

「脅威となるのはあの変な服の奴だけって感じだな」
ヴィータが様子を見て呟く。
言葉通り、キャプテンブラボー以外はシグナムとヴィータに一対一で勝てる見込みがある者は居ない。
「だが、奴は強い……全力でいかねばやられるのは私達だ」
シグナムはブラボーを警戒する。
彼女が戦うだけの力を持たないのなら、ヴィータ一人でブラボーを含む全員を相手にしなければならない。
そうなれば勝ち目が無いのはシグナムとヴィータの方だ。
「だったら、行くのか?」
「あぁ……我が主の為に、ヴォルケンリッターの全力を持って奴らを潰す」
シグナムの言葉と共に彼女達、二人の背後に金髪の女性と銀髪に浅黒い肌を持つ男性が出現する。
「こんなに早く全員で戦うことになるなんてね」
「……それだけ、敵が強大だということだ」
二人は思い思いに言葉を口にする。
「ここからは本気でいくぞ……ここで負けるわけにはいかないのだからな!」
シグナムは剣を構える。

「凄い気迫だ……それに本気じゃ無かったってのか」
カズキは彼女達の持つ威圧感に気おされ息を呑む。
「譲れない何かがあるのだろうな」
ブラボーが呟く。
「譲れないもの……」
なのははその言葉を反芻し呟く。
確かに彼女達は信念を持って戦いに挑んでいるように感じられる。
睦月の仲間としか認識していなかったが、彼とは別の意思が感じられた。

なのはたちが増援で困惑しているうちに金髪の女性……シャマルの魔法でシグナムとヴィータの傷が癒される。
「これで仕切りなおしだ」
癒されるやいなや、シグナムとヴィータが向かってくる。

「回復されたか……厄介だな」
ブラボーはシャマルを見る。
彼女は武器らしい武器を持っていないがそれには理由があるということだ。
「最初に彼女を倒さなければこちらがジリ貧になるな」
ブラボーを狙いをシャマルに定める。
だが、それよりも先にシグナムがブラボーに襲い掛かった。
「させはしない!こちらは貴様さえどうにかすれば勝てる戦いだ!」
シグナムはブラボーを最大の難関だと確信し、その全力を持って襲い掛かる。
「さて、どうかな?」
ブラボーはシグナムの剣を白羽取りする。
シグナムはそれに驚くも咄嗟にブラボーの腕を蹴り飛ばし、強引にそれを外す。
「むっ」
ブラボーは即座に後方へと距離をとる。
「離れたところで……」
シグナムは即座に距離をつめようとする。
だが、それを側面から突っ込んできたフェイトに阻まれる。
フェイトのアークセイバーをシグナムは剣で受け止める。
「貴方の相手は私がする!」
「ほう……なかなか、良い目をしている。だが!」
シグナムは刃の拮抗を力で弾き、距離を空ける。
それと同時に連結刃を展開させ、フェイトを切りつける。
「くっ!」
フェイトはそれをどうにか回避するも避けきれずに無数の傷を負う。
「それなりにやるようだが」
シグナムは攻撃しつつもブラボーを警戒する。
だが、ブラボーは動かず、二人の戦いを静観していた。
策があるのかもしれないと大技を使わずにフェイトを攻撃していく。
それでもフェイトはシグナムの連結刃の結界に対応しきれずに次第に傷を負っていた。

一方、カズキたちはシャマルに対して攻撃を仕掛けていた。
「最初に倒してしまえば!」
カズキは一撃を決めるべく、サンライトハートの飾り布のエネルギーを開放して加速する。
だが、その目の前に浅黒い皮膚の男性が現れ、目の前に魔力の壁を生成し、サンライトハートを受け止める。
「サンライトスラッシャーを止めた!?」
その光景に士郎は驚き叫ぶ。
カズキの突破力の凄まじさは今までの戦いで証明されている。
それをこうも簡単に防ぐとは防御能力の高さが伺えた。
「盾の守護獣ザフィーラ……俺が居る限りシャマルに手出しはさせん!」
男は叫ぶ。
その自信を証明するようにその壁は厚く、カズキの力を持ってしてもびくともしない。
「強い!」
カズキはこのままでは突破は無理だと距離をとる。
「だけど、その全てを護りきれる訳じゃ無いはずだ。俺達、全員で立ち向かえば……」
士郎はそう、カズキと凛に提案する。
「そうはさせん!」
しかし、攻めるよりも先にザフィーラは動き出す。
その動きは獣の如く素早く、一気に士郎へと詰め寄る。
「くっ!」
士郎はそれをブレイラウザーで迎撃しようとするがそれよりもザフィーラの動きは速い。
拳の一撃をくらい、その場に倒れる。
「士郎!」
凛は咄嗟にガントをザフィーラに対して連射する。
だが、それを前方に展開した魔力壁で防ぎ、凛に襲い掛かる。
「させるか!」
それをカズキが迎撃するべくサンライトハートを突き出す。
だが、それをザフィーラは飛び越え、凛に接近した。
「これで二人」
「そう簡単、やられっぱなしにはいかないのよ」
凛は懐から宝石を取り出すと同時にザフィーラに放り投げる。
それは爆発し、虚をつかれたザフィーラはたじろぐ。
「今なら、サンライトクラッシャー!」
カズキは飾り布を槍に巻きつけ、サンライトクラッシャーを実行する。
生体エネルギーを展開し、自身すら傷つけるほどの威力の塊となり、ザフィーラを強襲する。
「ぬん!」
それに対してザフィーラは的確に防御壁を展開し、防ぐ。
ぶつかり合う二つの力。
「うおおおおおお!!エネルギー全開!!」
だが、それでカズキは止まらない。
自身に残る生体エネルギーを更に燃やして加速させる。
それは推進力、威力、どちらも飛躍的に上昇させて、ザフィーラの防御を突破した。
「何!?」
ザフィーラは驚くがそれをどうにか回避する。
防壁により防がれたことでスピードが思うように乗らずに遅かったことがザフィーラに幸いした。
「くそ!」
カズキは生体エネルギーの展開を解除し、再びサンライトハートを構える。

「魔力を純粋にエネルギーとして加速と攻撃に併用する……
魔法なんて呼べない単純な方法だけど、それ故に強力か……
睦月君が仮面ライダーに次いで脅威だと呼ぶだけあるわね」
シャマルはその戦いを見て呟く。
戦闘技術としては稚拙だが、そのもてる力はかなり高度だ。
「彼がリンカーコアを持たないのは残念ね」
シャマルは何処か落胆したように呟く。


他の激闘と同じようになのはもヴィータと熾烈な戦いを繰り広げていた。
自分よりも格上の存在。
それとの一対一の戦い。
続けざまの戦いになのはの体力、魔力ともに相当に消耗している。
「はぁはぁ……」
息も絶え絶えという様子でなのははヴィータと相対する。
「いい加減、諦めな」
ヴィータは鉄球を打ち出し、なのはに放つ。
それをなのははラウンドシールドで受け止めるが体勢が崩れた。
「貴方達に負けるわけにはいかない!」
しかし、なのはは気力をもって立ち向かう。
「……だったら、徹底的に叩いて。諦めさせてやるよ!」
そのしぶとさにヴィータは一気に勝負を決めようとする。
ヴィータの持つデバイス、グラーフアイゼンの持つ、カートリッジを起動させる。
そこに溜められた圧縮魔力が開放され、それを用いて術式を展開する。
「ラケーテンハンマー!」
ハンマーから放出された魔力を推進力として、ヴィータは回転する。
まるで独楽のように回転し、その力を持ってなのはに襲い掛かる。
「くっ!」
なのははそれも防ごうとラウンドシールドを展開する。
だが、ヴィータの一撃はラウンドシールドを粉砕し、プロテクションをも突き破り、レイジングハートを粉砕した。
「レイジングハート!」
なのはは相棒の壊れ行く姿を見ながら叫ぶ。
だが、一撃はまだ終わらない。
ハンマーはなのは自身に突き刺さる。
その衝撃になのはは吹き飛ばされ、道路を高速で回転するように転がっていく。
勢いが無くなり数十メートルの距離の果てになのははアスファルトの上に倒れた。
バリアジャケットすらも粉砕され、満身創痍の状態で倒れ付す。

「なのは!」
それを見てフェイトは気を取られる。
「余所見とは余裕だな!」
シグナムはその隙に一気にフェイトに距離をつめる。
そして、剣を持ってバルディッシュを両断する。
「そんな!?」
その損傷にバルディッシュは形態維持が出来ず、スタンバイモードに移行する。


「よくもなのはを!」
カズキはその光景に激情し、ヴィータに向かって飛翔する。
仲間を奪われたという気持ちがカズキの気持ちを荒ぶらせ、高まらせる。
激しい怒りにその身と心を任せて、力を解き放つ。
「飛べもしない奴が何を……」
ヴィータはその姿を見て、上昇する。
それで彼の突進は回避できるはずだった。
「うおおおおお!」
だが、カズキはその姿を変える。
危険な力、人で無くなり、命を食らう化け物となる。
だが、怒りに心は支配され、求めた力がその発動を決めさせる。
ヴィクター化……錬金の魔人に己の姿を変えてヴィータに襲い掛かる。
その力は重力の楔から解き放たれ、全ての生命を捕食する。
その変貌にヴィータは目を丸くする。
「なっ!?」
肉体の変貌もそうだが、強制的に自身を構成する魔力を奪い取られるという感覚。
直接、命を蝕むその力に驚愕する。
「人間じゃないってのか!?」
ヴィータはサンライトハートをグラーフアイゼンで受け止める。

「あれがヴィクター化か……」
ブラボーは変貌したカズキを見上げて呟く。
帽子に隠された彼の表情は誰にも伺えない。
「何者なんだあいつは!?」
その姿にシグナムは叫ぶ。
既にその場もカズキのエネルギードレインの圏内。
凄まじい勢いで命とも言える魔力が吸収されていく。
「錬金術の生み出した魔人……人が死に抗い、生み出した禁断の力の一つだ」
「死に抗い……」
「良いのか?あれは命を奪わぬように戦って倒せるような生半可な存在じゃないぞ」
「お前は……気づいていたのか」
「こう見えても目は良い方だ」
「……その助言に従ってやる!」
シグナムはブラボーとの問答を止めて、ヴィータの救援に向かうべく飛び上がった。
「そんな……あの人、一人で戦える相手じゃ……」
その様子を見てフェイトがブラボーに告げる。
「何、彼女達は殺しはしない。倒せないとなれば帰っていくだろう……
問題はカズキだ」
ブラボーの言葉にフェイトは困惑する。
「かつてのヴィクターは最初の変調として武装錬金が変化した。
使用者の本質を読み取り、その形を決定する武装錬金の変化。
それは黒い核鉄がその存在の本質すらも改変するという事。
時期としてはそろそろ……この戦いは呼び水となるか」


「うおおおおおおおお!!」
カズキは集めたエネルギーを強引に飾り布から放射する。
太陽光の輝きは光線となり、ヴィータとシグナムに襲い掛かる。
「くっ……こうなれば、武器を破壊する!」
「分ってる!」
ヴィータはカートリッジを起動させ、回転し、カズキへと突っ込んでいく。
「ラケーテンハンマー!」
なのはを打ち砕いた一撃。
それをサンライトハートに直接叩き込む。
だが、武装錬金の中でも最高クラスの硬度と耐久性を持つサンライトハートは砕けない。
「これは俺の命だ。その程度で壊せるものか!」
カズキは直接、ヴィータの服を掴む。
「このっ!離せ!」
その力に拘束されて、ヴィータは身動きをとれない。
そんなヴィータに対してカズキはサンライトハートを突きたてようとする。
「させるか!」
それに対してシグナムは腕を切り裂いて、攻撃を止めさせる。
切断はしていないものの腕の腱が切れたのか指が動かない。
「すまない……だが、そのぐらいなら後で治し……」
シグナムは苦渋という様子で呟く。
だが、カズキの傷を見て驚愕する。
その部分は高速で治癒されていく。
いや、治癒などという速度ではない。
それは再構築。
まるで自らの肉体を作り変えているかのようだった。
「……その程度の傷はものともしないか……」
シグナムは剣を展開し、連結刃を形成させる。
「なら、再生の追いつかない速度で攻撃するだけだ!」
周囲に展開する刃がカズキの動きを阻害し、それと同時に斬りつけていく。
「くっ……!」
カズキはそれをサンライトハートで受け止めようとするが取り回しの難しいサンライトハートでは対応しきれない。
「よし、このまま一気に……」
シグナムは好機だと攻め立てようとする。


ヴィクターと同種の存在になる度に気持ちが高ぶっていく。
武藤カズキはそう感じていた。
いや、これまでの三度に変化。
そのどれもが大切な仲間を救う為、自分の力じゃ届かない強敵と戦うために使ってきた。
最初はヴィクター。
次はランサー。
そして、今はヴォルケンリッターと名乗るヴィータという少女。
そのどれもに仲間は危機に晒され、自分は無力を感じていた。
この力がどれだけ危険なのかという意識もある。
存在するだけで生命を食らうということは仲間すらも命の危機に陥れるということ。
だが、それでも願えば近く、この力はある。
ただ、一度、気持ちを切り替えるだけで変質する。
圧倒的な暴力。
それに飲み込まれてしまいそうで……
それが恐ろしかった。
自分という本質さえも変わっていく。
戦いに飲まれ、自身を満たしていた、暖かい気持ちすらも消えうせて行く。
強大な力は人を蝕み、変えて行く。

「届かない……なら!」
カズキは何かが変わるのを感じる。
自身を構成する精神、魂。
何かが切り替わり、新しく生まれて行く。
それは魂を元にその姿を決定する武装錬金に現れた。
巨大な槍はまるで剣のような小さな姿へと変わり、飾り布が無くなる。
生まれ変わったサンライトハート。
それを手にし、カズキは連結刃を弾き飛ばした。
「なっ!?」
その一撃の重さにシグナムは驚愕する。
簡単に振り回せる片手剣ほどの大きさだというのに、受けた衝撃は先ほど微塵も変わらない。
いや、圧縮された分だけ重く感じられた。
「これで戦える!」
カズキは刃の間を縫って、シグナムに接近する。
飾り布の加速は無くともヴィクターとして持ち合わせる飛行速度でそれは事足りた。
シグナムの甲冑にその穂先を突きたてる。
その一撃は鎧の装甲を突き破る。
「ぐっ!」
だが、ダメージは浅い。
硬度がどれほどあろうともエネルギーの放射が無ければ絶対的な威力は低下する。
それではシグナムの甲冑を完全に貫くにはいたらなかった。
「てめえ!!」
ヴィータはカズキにハンマーを振り下ろす。
それをカズキはサンライトハートで受け止めた。
その大きさは変わってもサンライトハートはその力を変えない。
「お前達は許さない……なのはを、皆を傷つけたお前達は……絶対に!」
カズキは怒りに任せてその刃を振るう。
ヴィータはそれをどうにか受け止めるが、動きは確実に鈍くなっていた。
魔力を直接、奪われているということは時間がかかればそれだけで消耗するということ。
それにあわせて魔法を使っていれば消耗は更に激しくなる。
だが、カズキは魔力を奪い、それを元に自らの肉体すらも回復させていく。
このままの状態が続けば勝利するのは間違いなくカズキだ。


「ダメだよ……カズキさん……」
なのはは薄れる意識の中で立ち上がり、その光景を見上げた。
「なのは!動いちゃダメだ!傷が深すぎる!」
それをユーノが止める。
なのはは大破したレイジングハートを持って、歩み出る。
足も引きずり、腕も殆ど動かなくても。
それでも
「カズキさんを止めないと……」
「止めるって……優勢に戦っている。彼に任せれば彼女達を倒せるんだよ?」
「ダメ……それじゃ、ダメなんだ……
あのまま、ヴィクター化して戦って、相手を倒してしまったら……カズキさんはもう戻れなくなる」
「戻れなくなる?」
「強い力に強い力で対抗するのは……そんな事で強くなるのはカズキさんじゃない。
あの人が強いのは誰かを照らすから……排除してそれで良しとしたなら……その輝きは曇ってしまう……」
なのははレイジングハートを構え、それをカズキに向ける。
「星の輝きよ……」
なのははスターライトブレイカーを放つためにその魔力を収束させていく。
周囲に漂う、無数のマナ。
それはまるで夜空の星星のように瞬き、なのはのレイジングハートへと収束して行く。
「スターライト……ブレイカー!!」
そして、収束された魔力を圧縮し、解き放つ。
それは桜色の閃光となり、夜空を貫くように昇る。

「なっ!?」
その輝きはカズキの体を貫いた。
困惑したカズキは何もせずにその閃光に飲み込まれ、力尽き、地面へと落下する。
「は……なんで?」
ヴィータはその光景に困惑する。
「私達を助けたのか……?」
シグナムも完全に状況が飲み込めない。

「なんで……」
地面に落ちたカズキは上半身を起こす。
そこになのはがユーノに肩を貸してもらいながらヨタヨタと歩いてきた。
「なのは……さっきのは君が?」
呆然とした様子でカズキが尋ねる。
頭が理解に追いつかない。
「そうです」
「なんで!?」
叫ぶカズキ。
その頬をなのはは握り拳で殴りつけた。
カズキは頬を押さえ、その痛みに困惑する。
「その力を……相手を傷つけて倒すためだけに使わないで下さい」
なのはは涙を流していた。
その表情を見てカズキは自然とヴィクター化を解除した。
その力が彼女を悲しませているのだと気づいたから。
「でも……この力を使わなかったら……」
助けられなかった、と告げようとするがそれよりも先になのはがカズキを抱きしめる。
「それはありがとうございます。
私の為に怒ってくれた事。それは凄く嬉しかったから……
でも、怒りに囚われて誰かを倒すことしか考えられなくなっちゃったら……
もう、カズキさんは前までの貴方に戻れない。
そんな気がしたんです」
「……そっか、俺はまた、あの時と同じ間違いを……」
カズキは初めてヴィクターと同質の存在になった時を思い出す。
あの時も怒りに我を忘れ、ただ、戦うだけの存在となっていた。
それを止めてくれて、こうして人間でいさせてくれたのは親友の士郎だった。
今もまた、親友のなのはにこうして、引き止められて、人間として引き返せる位置に立っていられている。
「ありがとう」
カズキがそう告げるとなのははカズキから離れて、涙を拭う。
そして、笑いかけようとして……

「ごめんなさい。貴方達に事情があるように……私達にも事情があるんです」
シャマルは謝罪の言葉を送る。
彼女は空間転移の魔法を用いて、腕を伸ばして、なのはの体を貫通させる。


カズキはただ、呆然と目の前の光景を眺めることしか出来なかった。
貫かれるなのはの体。
なのはは苦悶の表情を浮かべる。

世界は変わっていく。
人の魂が運命を進めるごとに、剣が球体を削るように傷跡を増やして行く。
切り替えられた軌跡、世界の有り様を変革させ、望む景色を変化させる。
その姿は人の数ごとで、見える景色も人の数ごとで

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