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ジョーカー……
それはバトルファイトという名のゲームにおいて、あってはならない筈のカードだ。
封印したアンデッドの姿と力を借りて、他者に紛れて戦う。
それは破壊の使途。
生きる為に、自分の眷属たちをこの星の覇者として君臨させるために戦うアンデッド違い、
ジョーカーには繁栄させるべき眷属を持たない。
故に彼の優勝はどの生物の反映をもたらさない。
それは死を望む者。
無限の生命を持ちながら、彼は生を否定する。
月夜にジョーカーは慟哭する。
それは憎悪、それは憤怒、それは破壊。
全ての生命を否定するように彼は吼え、そして、目の前に立つ紫紺の剣士へと襲い掛かる。
「始!」
剣崎が叫ぶがジョーカーは丸で聞く耳も持たずにその腕の鎌を持ってブレイドに斬りかかる。
ブレイドはそれをブレイラウザーで受け止めるがその体は次第に押され始める。
「目を覚ませ!お前はその姿になるのが嫌だったんだろ!」
剣崎はそれでも必死に呼びかける。
しかし、それは届かない。
ジョーカーはただ、獲物を狩るが為にその力を上げていく。
「止めろ!」
シンはジョーカーを止めるべく、ビームサーベルで斬りかかる。
だが、その前にキングが身を晒した。
するとキングの眼前より突如として盾が出現し、ビームサーベルを受け止める。
「おいおい、折角、一対一の真剣勝負をしているんだ。邪魔なんて無粋な真似は止めろよ」
「何が一対一だ!お前は相川始に何をした!?」
「ジョーカーはカードの力でジョーカーの本能を抑え込んでいた。
だから、奪ってやったんだよ。奴が持つカードの全てを」
「なるほど。だったら、お前を倒してカードを取り返せば元に戻るって訳か!」
シンはキングに対して連続してビームサーベルを振るう。
だが、その全てはキングの盾に防がれてしまう。
「出来ればね。やってみなよ、ただの人間が武器を持ったところでアンデッドには適わない」
「大した自信だな……だけど、俺だって色んな敵と戦ってきた。
インパルスならアンデッドにだって負けはしない!」
シンはシルエットをソードに変更する。
そして、背中のエクスカリバーを引き抜くと連結し、キングに斬りかかる。
だが、それも盾を突破することは出来ない。
「無理だよ。お前じゃ僕の盾を突破することは不可能だ」
「どうかな!」
シンは一気呵成にエクスカリバーを振るう。
その剣戟に空中を浮く、盾は反応が間に合わない。
そして、一つの剣線がキングの頬を切り裂く。
それは薄い一筋の緑の線をつけるだけだった。
しかし、それでもまるっきりシンの力が通じないという訳ではない。
「なるほど……少しは本気を出してあげるよ」
キングはそういうとアンデッドへと変身する。
金色の鎧に身を包み、巨大な角を持つアンデッド。
コーカサスビートルアンデッド。
それこそがスペードのキングの正体。
その威圧感にシンは息を呑む。
だが、それでも果敢に斬りかかった。
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第三十二話「終焉の欠片」
「シン!剣崎さん!」
士郎は石段を登りきり、境内へと身を晒す。
そして、その眼前に広がる光景に息を呑んだ。
息も荒く、ブレイラウザーを杖に膝を付くブレイド。
二本のエクスカリバーも折れ、その装甲に無数の傷を負うインパルス。
それとは対照的にジョーカーもコーカサスアンデッドもどちらも無傷だった。
「これは……」
士郎は絶句する。
シンと剣崎ほどの力をもってしても、その目の前の存在には太刀打ちできていない。
それがどれほどの脅威なのか考えなくても分かる。
「士郎は下がっていてください。彼らを相手に貴方を護りながら戦うことは不可能だ」
セイバーは前へと歩み出てインビジブル・エアを構える。
「増援か。しかし、たった二人。それも一人は戦えるほどの力が無いみたいだし。これは君たちに勝ち目は無いかもね」
キングは剣崎たちを嘲笑う。
「くっ……士郎、他の皆は?」
シンが士郎に尋ねる。
「今、山の麓で橘さんたちと一緒にアンデッドと戦ってる」
「そうか……」
シンはそれを聞くと顔を上げる。
仲間が来てくれたという事実が彼の心を後押しする。
「増援が来るのか……それじゃ、さっさと第一陣には退場してもらおうか」
キングはそういうと一気にシンへと駆け出す。
「させはしない!」
しかし、それにセイバーが割り込み、キングの剣を防ぐ。
「ふ~ん、君がセイバーか」
「そうだ。私はセイバーのサーヴァント。人の世を無くそうとする貴様たち、アンデッドにはもう一度、眠りについてもらおう!」
「それじゃ、見せてみてよ。騎士の王ってものの力をさ」
キングは力を込める。
セイバーはその加重に耐えるが地面には亀裂が走り、石畳は砕け散ろうとしていた。
「止めろ」
突如としてキングに向かって無数の剣が飛来する。
キングはそれに反応して盾でその全てを弾き飛ばした。
それと同時に剣に対する力は緩み、その隙にセイバーはキングの間合いから離れる。
「邪魔をしないでもらえるかな」
キングは恨めしそうに神社の社から歩み出る人物を見る。
それは非常に神社には不釣合いな存在。
金色の鎧に身を包んだ、金髪の青年。
彼はゆっくりと歩み出る。
「ギルガメッシュ!」
その姿を見てセイバーが叫ぶ。
「ほう、俺の真名に気づいたか」
ギルガメッシュは意外だと目を開く。
「アーチャーの言葉は事実だったか……」
「アーチャー?今回の聖杯戦争のサーヴァントのことか。
姿を現した覚えも無いのに俺のことを知っているとは不思議だが、まぁ、今は気にすることでもないか」
ギルガメッシュはそう言うと更にセイバーへと歩み寄る。
「何をしにきたんだ?君は僕のやることに興味は無くなったはずだ」
キングがギルガメッシュに質問を投げかける。
「貴様のやる事に口出しをするつもりはない。
俺はただ、セイバーと話があるだけだ」
ギルガメッシュはそう言うとセイバーを見据える。
「さて、セイバーよ。我の妻になる気にはなったか?」
ギルガメッシュの言葉に士郎とシン、剣崎は驚く。
「妻!?一体、何を言い出してるんだ!?」
シンは驚愕に叫ぶ。
だが、ギルガメッシュは意にも返さない。
「以前にも言った筈だ。私はお前の妻になるつもりなど無い」
セイバーはインビジブル・エアを構える。
「ふん、ならば力ずくで奪わせてもらう」
ギルガメッシュがそう告げると彼は何も無い空間から一つの剣を取り出す。
「何者も王である我に刃向かう事は出来ん」
そして、セイバーへと斬りかかった。
「結局、君は一人だ」
キングは始まったセイバーとギルガメッシュの戦いを横目にシンへと近づく。
「くっ……まだだ!」
シンはシルエットをブラストに換装すると腰に装備された二門のビーム砲をキングに向ける。
「ケルベロスの火力なら!」
そして、躊躇いも無くトリガーを引いた。
強力なビームが空間を貫き、キングへと襲い掛かる。
「まだ、分からないかな」
しかし、それもキングは盾で防ぐ。
ビームは盾の表層で弾かれて、霧散した。
「くっ……まだまだ!」
次にシンはミサイルを一斉に発射する。
無数の弾がキングに降り注ぎ、一斉に爆発する。
その衝撃により、石畳は砕け、破片となり、周囲へと散らばる。
そして、紅蓮の炎が立ち上がり、周囲を赤く染め上げた。
膨れ上がる、黒い煙。
シンは緊張の面持ちでその爆心地を見つめる。
だが、それはシンの願いは裏腹な事実を伝えた。
煙を切り裂き、現れる金色のアンデッド。
彼は鎧に焦げた後こそあるものの問題ないという様子でシンへと斬りかかる。
「うわあああああ!」
シンは絶叫と共にデリュージーを放つ。
電磁力により加速された弾丸が真っ直ぐにキングに向かうがそれは空中で二分された。
振るわれるキングの剣、オールオーバー。
それは弾丸を切り裂き、そのままその砲身すらも分割する。
「くっ!」
シンはすぐさまにケルベロスの砲身に装備されているビームジャベリンを取り出そうとする。
だが、それよりも先にキングはケルベロスの砲身を根元から切り裂いた。
落ちる、主砲。
それによりブラストシルエットの装備の殆どが無効化される。
「!」
焦るシンは直ぐにその場から飛び去ろうとする。
だが、余りの恐怖と威圧感に身が凍る。
それは一瞬の躊躇。
だが、それでもキングがインパルスを串刺しにするには十分な時間だ。
シンは死を直感する。
だが、それは防がれた。
眼前に広がる赤き花弁。
それはインパルスを包み込み、その体を浮かせ、引っ張る。
「うわっ!」
シンは突然の事態に驚く。
「全く、不甲斐ないわね」
その言葉はシンを叱咤する。
「なっ!真紅!?」
シンはその姿を見て驚く。
そこに居たのはローゼンメイデンの第五ドール・真紅。
LXEとは共に戦っていたが聖杯戦争やアンデッドとは係わり合いが無い為に共に行動はしていなかった。
故に今回の件も彼女に話しては居ない。
「何でお前がここに居るんだ?」
だから、ここで彼女が助けに来るのは想定外だった。
「あら、助けてあげたのに随分な言い草ね。まぁ、いいでしょ。
ラプラスの魔にはめられたって所ね。
こんな場所に来るつもりは無かったけど」
「ラプラスの魔?」
「性悪な兎よ。
彼は今日、ここが歴史の分岐点になると言っていたわ。
それが何を意味するのか分からなかったけど。
貴方たちが関係しているのは何となく分かっていたわ」
真紅はシンを見上げる。
「歴史の分岐……だとしたら、それはジョーカーの復活のことかも」
「ジョーカー?」
「アンデッドだよ。それも他のとは違うイレギュラー」
「そいつを封印するのが今回の目的って訳ね」
「いや、違う。ジョーカーは……相川始は助ける。
その為にはあいつを封印しないといけない」
シンはキングを指す。
「詳しい事情は分からないけれど余裕はなさそうね。
手伝うわ。アンデッドという存在は気に食わないもの」
真紅は花弁を集めて、キングに向かって放つ。
だが、それはキングの盾に阻まれ、霧散し、その周囲に散った。
「生きた人形ね……そのまがい物の命でアンデッドは倒せない」
「さて、どうかしらね」
真紅は笑みを浮かべる。
それと同時に散っていたバラの花弁は渦を作るように舞いだした。
「その程度で!」
キングは手に持つ剣、オールオーバーで花弁の渦を切り裂く。
その衝撃に渦は立ち消え、花弁は一気に吹き飛ばされた。
「もらった!」
そこにシンがビームジャベリンを構えて一気に飛び込む。
ビームの穂先がキングの体を貫くべく加速する。
だが、その一撃はキングの装甲の表層を溶かすに留まった。
「いい連携だ。だけど、力が足りないな!」
キングの拳がインパルスの胸部装甲をぶち破る。
フェイズシフト装甲は強引に破壊され、装甲部分の金属片が宙に舞う。
そして、インパルス本体はその衝撃に弾き飛ばされ、境内を転がる。
「がっ……」
シンはその衝撃に目を回しながら呻く。
「シン!」
真紅はそんな彼に駆け寄る。
「目隠しからの一撃は良いけどさ……通用しないよ。その程度の攻撃じゃ」
ゆっくりとキングはシンへと歩み寄る。
「ぐっ……うぅ……」
シンはそれでも必死に立ち上がる。
「もう、諦めなよ」
「誰が……」
「まずは一人」
キングは剣を大きく振りかぶる。
「やらせはしない!」
その時、ビームがキングの居る地点に降り注いだ。
「!?」
キングはその攻撃に怯んだ。
その隙に一機のモビルスーツがキングに接近する。
「これで!」
そして、両手にもってビームサーベルでキングを切りつける。
無数の斬撃がキングの装甲を傷つける。
「誰だ!」
だが、それに怯まずキングはそのモビルスーツに剣を振るう。
その一閃をモビルスーツは瞬時に回避し、後退する。
「あれは……フリーダム」
シンは朦朧とする意識で空に浮かぶ白いモビルスーツを見上げた。
それと同時に意識を失う。
「大丈夫?」
キラはインパルスの近くに移動すると真紅に尋ねる。
「えぇ、意識を失ったみたいだけど……それよりも貴方は?」
「僕は破滅の存在を倒すためにここに来ました」
「破滅の存在ね……。貴方は味方と思っていいのかしら?」
「はい。だから、ここは僕に任せて君はそこのモビルスーツを連れて離れてください」
「そうさせてもらうわ」
真紅はローズテイルでインパルスを引っ張り、そこから離脱しようとする。
「君はアンデッドか……封印することは出来なくても時間稼ぎは出来る」
「……やれやれ、時間切れか」
構えるフリーダム。
だが、キングは身構えずにそう呟いた。
「キラ!」
そこにアスランが駆けつける。
それだけではない。
橘たちは山の下でアンデッドを封印し、剣崎たちの増援へと駆けつけた。
「知り合いか?」
橘がアスランに尋ねる。
「はい、俺の友人です」
橘の問いにアスランが答えた。
「こちら、フリーダム。キラ・ヤマトです」
「俺は橘、ギャレンだ。ザフトの応援ってところか?」
「いえ、違います……だけど、彼らを倒さなければならない。その目的は同じです」
「ザフトではない……だが、今は気にしている場合ではないか」
橘は襲い掛かるキングの攻撃を回避する。
「そのようですね」
キラはキングに向かってビームライフルを撃つ。
だが、キングはそれを無視して、一直線に走り抜けていく。
「このッ!」
カズキはそれを止めようとサンライトハートを突き出す。
だが、その一撃はオールオーバーにより弾かれる。
「ディバインバスター!」
なのはが魔砲を放つもキングはそれを盾で防いだ。
彼らを抜けて、キングは最後尾へと向かう。
その先には負傷したアーチャーとそのマスターの凛が居た。
「こっちに来た!?」
凛は驚きながらも宝石を取り出そうとする。
だが、アーチャーはそれよりも速く凛の前へと飛び出した。
「危ない!」
「残念だけど。目的は君だよ」
キングのオールオーバーがアーチャーの体を引き裂く。
「ぐあああああ!!」
アーチャーはその痛みに叫び声を上げる。
「アーチャー!!」
凛は悲鳴に近い声を上げる。
「貴様ッ!」
カズキがサンライトハートで突撃を仕掛けるがそれをキングは盾で防ぐ。
ぶつかり逸らされるサンライトハート。
そんなカズキを尻目にキングは一人呟く。
「これで目的は達成された」
「目的だと?」
アーチャーは薄れ行く意識の中でキングに問いかける。
「そうだ。これで聖杯は完成する」
「聖杯狙いだなんて……それでバトルファイトの勝利でも願うつもりなの?」
凛がキングを睨み付け尋ねる。
既にショックから立ち直り、キングから情報を聞きだそうとにらみつける。
「あの聖杯でそれは無理だ。それにそんなことでゲームに勝てても面白くない。
僕の望みはね、このゲームを面白くすることさ」
「何をしようとしている……!?貴様らアンデッドがここまで聖杯戦争に介入することなど無かったはずだ!」
アーチャーが叫ぶ。
「その言い草……もしかして、君は……
なるほどね。だったら、君に免じて教えてあげるよ。
僕はさ。もう、飽き飽きしてるのさ。この終わりの無いゲームに……
だから、全部を終わらせるんだ」
「貴様、まさか……」
「ゲームにはさ。ラスボスってのが必要なんだって、だから、出てきてもらおうよ。
この終わりの無いゲームに終わりをつけるために!」
キングはそういうとアーチャーの体を切り裂き、両断する。
そして、アーチャーは魔力へと変換された。
聖杯戦争の七人のサーヴァントの内、六人が倒された。
最後の勝者が決定し、それと同時に聖杯が誕生する。
それは膨大な魔力の渦だった。
黒く汚染されたそれは上空に佇み、全ての人を圧倒する。
「聖杯……だと?」
ギルガメッシュは上空に出現したそれを見上げ、呟く。
「何!?何故だ……アーチャーがやられたのか」
セイバーもそれを見上げる。
「あ、あぁ!!ああああああああああああああああああああああああ!!」
士郎はそれを見上げ、絶叫する。
「これが聖杯……なんて禍々しいの」
なのはは聖杯の放つ魔力を感じ取り呟く。
「聖杯を手に入れて何を望むの?バトルファイトの終わらせる為に何を?」
凛がキングに問いかける。
「世界を壊すうってつけの存在が居るじゃないか」
「まさか、破滅の存在?」
「そうだ。彼女を復活させる」
キングは両手を広げ、天を仰ぐ。
その頭上には禍々しき炎の球体が浮かび上がっていた。
「させるか!」
カズキは再びキングに攻撃を仕掛ける。
だが、それすらもキングは盾で防ぎ、そのままカズキの体ごとランスを弾き飛ばす。
「僕を攻撃したところで止まらないよ。
この場にジョーカーが存在し、聖杯が完成する。
それだけで目的は達成する」
キングはそう告げる。
「何を!」
倒れていたカズキは立ち上がり、更に攻撃を仕掛けようとするが次の瞬間、キングの姿はなくなっていた。
「消えた?」
カズキはあたりをキョロキョロと見回すが痕跡すら見当たらない。
「それよりもあいつの言葉が本当ならジョーカーを封印しないと」
「それは始さんを封印するって事じゃないか!」
凛の言葉にカズキは驚き声を上げる。
「仕方ないわ。破滅の存在ってモノの強さは良く分からないけど危険なんでしょう。
それにカードを持っていたキングは居なくなってしまったんだし……」
「そんな……」
カズキは未だに死闘を繰り広げるブレイドとジョーカーを見る。
完成した聖杯は周囲の魔力をくみ上げて蠢く。
「破滅の存在を復活させるだと……よもや、アンデッドがそのような企みをしているとはな」
ギルガメッシュは聖杯を見上げ、呟く。
「お前はそれを知って協力していた訳ではないのか?」
セイバーがギルガメッシュに問う。
「馬鹿を言うな。世界は我の物だ。どうして、自ら壊そうとする理由がある。
だが、キングが本当に破滅の存在を復活させるというならもはや、お前の相手をしている暇は無い」
ギルガメッシュの目には既にセイバーは映っていない。
「お前は破滅の存在について知っているのか?」
「当然だ。あれは我の国を破壊した」
「貴方の国を?」
セイバーはその言葉に驚く。
「待ってくれ、ギルガメッシュの国が破滅の存在に滅ぼされたって……そんな伝承は存在しないはずだ」
士郎がギルガメッシュに問いかける。
「表の歴史ではな……全ての歴史がこの星に繋がっているという訳ではない。
特に破滅の存在が起こした破壊は因果や運命すらも破壊する」
ギルガメッシュは空間を捻じ曲げ、そこより繋がる宝物庫に手を伸ばす。
そして、その中から一振りの剣を取り出した。
いや、それは剣と呼べるような形状をしていない。
まるでドリルのようなそれをギルガメッシュは聖杯に向ける。
「神の思惑に従うのは業腹だが……奴を野放しにする事に比べればマシか……」
ギルガメッシュは静かに意識を集中させる。
「乖離剣エア」
ギルガメッシュが名前を呼ぶとドリルは回転する。
それは空間を巻き込み、軋みを上げて、回転していく。
「天地乖離す、開闢の星【エヌマ・エリシュ】」
振るわれたエアの一撃は世界を切り裂き、空中に浮かぶ聖杯を破壊する。
その一撃は凄まじく、余波で周囲の木々をなぎ倒し、空中の雲も全て散らす。
後に残ったのは満天の星空のみだった。
「聖杯は消えたか……」
ギルガメッシュは空を見上げ呟く。
その背後より、突如として黒い影が浮かび上がった。
それに反応して咄嗟にギルガメッシュはその場から飛び去る。
だが、反応が間に合わずにその鎧の一部が切り裂かれ、破片が飛んだ。
「なっ!?」
その姿を見てギルガメッシュは絶句する。
「終に……終に来た。
星明りも、通り抜ける風も、むせ返るような緑と土の匂いも、全て懐かしい」
金髪に黄金の瞳を持つ、黒いドレスに身を包んだ少女がそこに立つ。
その背中には三対の黄金の翼が広がっていた。
「全部が全部。壊されるために、終わるために存在している。
これほどまでに素晴らしい世界はありはしない」
ゆっくりと彼女は言葉を紡ぐ。
だが、その間にも放たれる。
おぞましき魔力が世界に伝播していく。
それだけで大地は崩れ、砂へと変わっていく。
「破滅の存在……既に受肉は完了していたのか!?」
ギルガメッシュがその存在に対し、吼える。
「懐かしいね、英雄王。神々の期待を一身に背負い、人の世を束ねし過去の王よ。
今一度、私に敗北するためにここで待っていてくれたの?
かつて、世界の全てを支配していた因果すら破壊された王よ。
配下の聖王も魔王も無くした君に何が出来るの?教えてよ?」
金髪の少女はあざ笑う。
「ゲート・オブ・バビロン【王の財宝】」
だが、ギルガメッシュはその嘲笑を意にも返さずに戦闘態勢を作る。
「貴様を滅ぼすために貯蔵された武器は未だに健在だ。
それに端末ごときに遅れを取る我ではない!」
ギルガメッシュの叫びと共に背後の空間に展開された宝具の数々が飛ばされる。
それは一点に破滅の存在に向かい。
その存在を消し去るために古の武器たちはその力を振るう。
「あはははは!」
破滅の存在はその手を振るう。
無造作に振るわれた手は空間を破壊し、漆黒の魔力へと変換させ、王の財宝の大半を消し飛ばす。
だが、それでも数個の宝具はそれを突破し、破滅の存在の体に突き刺さった。
傷口より鮮血が噴出す。
「へぇ……伝説になることで制限を消したのかな」
破滅の存在は突き刺さった剣を引き抜き、粉々に砕く。
「ぬかせ、元より我の方が上だっただけだ!」
ギルガメッシュは次々に武器を斉射する。
破滅の存在はそれをただ、受け入れるようにその身で受け止めた。
その肉が爆ぜ、血が飛び散り、羽は落ちる。
それでもギルガメッシュは容赦をしない。
原型をなくなって、何も見えなくなるまで射出を止めない。
最終的に武器の山が出来上がり、ギルガメッシュは射出を止めた。
「なんて量だ……これだけやれば生きている者など……」
セイバーはその様子を見て呟く。
明らかなオーバーキルだと感じていた。
「いや……可笑しい」
しかし、士郎は警戒を解かない。
「雑種にしては勘が良いな。この程度で倒せるほど、気楽な存在なら我もここまで気にかけはしない」
ギルガメッシュは油断無く周囲を見渡す。
その中で見つける異変
「始!」
ジョーカーは突如として苦しみだす。
両手で自分の体を護るように抱きしめると空を見上げて吼える。
月明かりに照らされ、伸びた影。
そこから手が伸び、血しぶきを舞い上げながら、何かが這い出てくる。
まるで肉を裂き、生まれ出でるように
「英雄王は容赦が無い。折角の器が一つ、消えてしまった」
血で真っ赤に染まった金色の少女はその全身を再び地上に晒す。
「破滅の存在!どうして、始の影の中から……」
剣崎はそれを見据えて尋ねる。
「ジョーカーはこの地上に存在する唯一無二の私の眷属だ。
魔力の塵の塵にしか過ぎない影の獣とは違う。
この星に封じられた私が通れる唯一の穴なんだよ」
ゆっくりと破滅の存在は剣崎へと近づく。
「贋い物の聖杯で出来た体は余りにも窮屈だった。
だから、這い出るための穴を作ったんだ」
そして、無造作にブレイドに対して腕を振るう。
空間を破壊して襲い掛かる黒い風。
剣崎はそれを腕で防御するがその体は吹き飛ばされ、地面に転がる。
「剣崎!」
それを見て橘が破滅の存在に襲い掛かる。
「待て、橘さん!一人じゃ無理だ!」
それにアスランも追従する。
「援護を頼む!」
ギャレンはそう言うとギャレンラウザーを放つ。
「了解!」
アスランは破滅の存在に対してアムフォルタスを放つ。
高出力のプラズマビームが破滅の存在に降り注ぐ。
だが、その二つの攻撃を破滅の存在は翼を盾に防ぐ。
――――アブゾーブクイーン――――
――――フュージョンジャック――――
ギャレンはその隙に先ほど手に入れたクイーンの力を使う。
「伊坂……貴様の力を遣わしてもらう」
そして、憎き敵であるピーコックアンデッドと融合する。
背中に孔雀のような翼を手に、ギャレンは空へと舞う。
――――ファイア――――
――――バレット――――
――――ラピッド――――
【バーニングショット】
炎と弾丸と連射の力を受けて、ギャレンラウザーが火を噴く。
それは文字通りに炎の弾丸を無数に発射した。
巨大な破壊の炎は無数に破滅の存在に降り注ぐ。
だが、その一撃は翼の一振りで跳ね飛ばされた。
「何だと!?」
その光景に橘は絶句する。
二体のアンデッドとの融合により手にした力。
更に三対のアンデッドの力を束ねて放った一撃。
それすらも一蹴する。
その絶望的力の差。
「アンデッドをそれだけ使ってその程度?」
破滅の存在は翼をはためかせて空へと上昇する。
そして、ギャレンに肉薄するとその拳で殴りつけ、ギャレンを地面へと叩き落す。
その一撃に音を超えて、ギャレンは地面にクレーターを作り、埋もれた。
それと同時に橘の変身は解けて気絶する。
「橘さん!」
アスランはたった一撃でやられた事に絶句する。
「次は……」
そんなアスランに破滅の存在は近づこうとする。
「やらせはしない!」
それを妨害するようにフリーダムが全ての火気を破滅の存在に向けて発射する。
ハイマットフルバースト
フリーダムガンダムの最大の攻撃。
破滅の存在はその光の嵐を回避するとフリーダムに対して手を掲げる。
「邪魔よ」
それと同時に背中の羽から金色の光線を無数に発射した。
「くっ!?」
キラはそれを回避しようと機動するがハイマットフルバーストの為に横に展開した羽を撃ち抜かれてしまう。
その為に飛行能力を失い、地面へと落ちる。
「キラをよくも!!」
アスランはビームサーベルを構えて破滅の存在に斬りかかる。
破滅の存在はビームサーベルの刃を手で掴むと肉薄したセイバーガンダムの腹部に手を当てる。
「貴方も要らない」
零距離から魔力を直接叩き込み、セイバーガンダムを吹き飛ばす。
「強い……強すぎる」
カズキはあっという間に四人を倒した破滅の存在に絶句する。
「そんな、でも、シンさんや剣崎さんは破滅の存在を倒していた筈ですよ」
なのはは過去に聞かされた話を思い出す。
厄介だと聞いていたがここまで圧倒的な強さだとは思っていなかった。
更にそのころに比べて彼らも強くなっているはずなのに。
「封印の度合いなんだろうな。今までは殆ど封印されている状態で戦っていた。
だが、今はその封印が解除されている」
斗貴子がそんななのはに告げる。
そして、改めて二人を見る。
「君たちはシンを連れて逃げろ」
斗貴子は何かを覚悟して二人に告げる。
「何を!?」
「今の私たちで奴を倒せるとは思えない。だから、君たちは逃げ延び、戦団と管理局に応援を要請してくれ。
どちらもこいつを相手に戦力を出し渋るはずも無いからな」
「何を言ってるんだ!俺たちも一緒に戦う!その方が生き残る可能性は……」
「へぇ、逃げられると思っているんだ」
冷たい声が直ぐ近くから聞こえる。
その言葉にカズキは身が凍るのを感じた。
それだけで体は動かない。
死への恐怖。
他者の為に命を投げ出すこともいとわないカズキですらも動くことはできない。
何故なら、これから与えられる死は何も齎さない。
何も繋がない。伝えられる遺志は無く。
ただ、無残に屍を晒すのみ。
そんな無意味な死への恐怖が彼の体を凍らせる。
「つまらない。これならまだ、英雄王の時のほうがやりがいがあった」
破滅の存在は黄金の翼を広げて邪悪なる魔力を解き放つ。
それは彼女の眷属が持ちえた恐怖と同じ効力を持っていた。
いや、それよりもより強力な死への恐怖。
それにカズキも斗貴子もなのはも動けない。
「な……なんなんだ!?」
士郎はまるで動かない体でただ、黄金の少女だけを見つめる。
仄かに光るその身は美しかった。
視線はそこに固定されて身動きすら取れない。
「……馬鹿な、動けないだと……」
セイバーも身動きがとれずにただ、呟くばかりだ。
「セイバー……貴様、正規の英霊ではないのか?」
ギルガメッシュは平然とした様子でセイバーに尋ねる。
「何のことだ?」
「世界樹と契約し、座に登録された英霊は破滅の存在の恐怖に対する耐性を得る。
それが無いなら、貴様は契約していないのか?」
「その事か……なるほどな。世界が何故、戦力を欲していたのか知らなかったが……
奴と対峙する為、ということか」
「そうだ……だが、貴様が役に立たないならやはり、俺一人で片をつける他無いか」
ギルガメッシュは再び、エアを手にすると破滅の存在へと歩を進める。
「そのようね。英雄王」
破滅の存在はギルガメッシュに向き直る。
「今一度、貴様を冥府に帰す」
ギルガメッシュはエアを構える。
「世界を切り裂く剣……それで破滅を切り裂けると思っているの?」
「ほざけ、貴様とて世界に囚われた存在であることに変わりは無い!」
ギルガメッシュはエアの魔力を開放する。
「乖離剣、天地乖離す、開闢の星【エア・エヌマ・エリシュ】!!」
闇に閉ざされし、世界を切り裂き、世界に光を与える。
原初の英雄が持ちえし、創世の力。
それは終焉である破滅の存在を切り裂く。
「ふん、やはり……」
ギルガメッシュは勝利を確信する。
だが
「!?」
その体を真赤な腕が貫いていた。
それは空間の破壊の中を這いより、訪れた死の象徴。
その皮と肉は剥がされ、奇怪なオブジェとなりながらも、確かな意思で襲い掛かる。
全てに死を、全てに破壊を、全てに終焉を
原初の英雄にも等しく、終わりを迎えさせるために。
「エアの中を……潜り抜けるだと!?」
「世界の開闢は別に始めてじゃないんだよ……痛いけど、耐えられないほどじゃない」
蠢く赤い肉塊になりながら、それは囁く。
「だから……どうした!」
ギルガメッシュはその赤い腕を掴んで引き抜く。
それと同時に鮮血が散る。
「これは貴様という闇を払い、新たな世界の創世へと導く一撃だ。
我の前に立ちふさがれると思うなよ。【死】程度が!」
破滅の存在に対して、直接、エアをぶつける。
回転する刃が、肉を抉り、その闇を開いていく。
「消えろ!穢れよ!この世界は我の物だ!」
ギルガメッシュは全ての力を賭して、破滅の存在を粉砕する。
飛び散る肉片。
それは意思を持つようにギルガメッシュへと襲い掛かる。
そして、それは彼の鎧を砕き、その体を貪った。
「ぐっ……」
ギルガメッシュはエアを取り落とし、膝を付く。
「ギルガメッシュ!」
そんな彼に士郎とセイバーが駆け寄る。
「我が相打ちとはな……」
「貴方が破滅の存在と率先して戦うとは……」
「勘違いするな。お前たちを護った訳ではない。
世界は我の物であり、それを破壊されるのは我慢なら無かっただけだ」
そういうと彼は財宝の中からカードを取り出す。
そして、セイバーに差し出した。
「これは……」
「ジョーカーが持っていたカードだ。トランプの原典とも言える代物だったからな。
流石にアレを野放しにする訳にはいかん」
「……ありがとうございます。ギルガメッシュ。
貴方は間違いなく英雄だった」
「よせ……我をそのように呼ぶな。
では、我は座に帰らせてもらおう」
ギルガメッシュはそう告げるとその体は消失する。
「英雄王……流石に破滅を切り裂き、世界に光をもたらすために生み出されただけはある」
闇の囁きが聞こえる。
それに士郎とセイバーは絶句する。
彼女はジョーカーの肩に座り、セイバーを見据えていた。
「馬鹿な……お前はギルガメッシュが倒したはずだ……」
彼が全てを賭して引き裂いた。
空間ごと、その肉体は消失した筈だ。
「ここにジョーカーが居る限り、私は何度でも生み出せる。
とは言え、この程度の穴ではたかが知れているけど」
破滅の存在はそう告げて地面へと降り立った。
それは先ほどの姿と何ら変わりは無い。
何も変わらない。
傷も無ければ、消耗も無い。
完全な状態。
「士郎……覚悟を決めましょう」
「だけど、あいつの言葉通りならジョーカーをどうにかしないと……」
ジョーカーが居る限り、彼女はこの世界に生み出される。
だとすれば、その見える肉体を倒したところで何の意味があるのか。
「だったら、始の意識を戻せば良い」
傷だらけの体を押して、剣崎一真がセイバーの横に立つ。
「一真!?大丈夫なのですか?」
「あぁ、まだ、戦える!」
剣崎は消耗は激しいがその瞳に闘志が燃え上がっている。
意思は十分。
「なら、私たちが足止めをしましょう。貴方は相川始にカードを!」
セイバーは剣崎にラウズカードを渡す。
「あぁ……任せろ!」
剣崎はそれを受け取るとポケットにしまい、バックルに手を掛ける。
「変身!」
そして、再び仮面ライダーブレイドへと変身する。
「英雄王が居ない君たちに私が止められる?」
破滅の存在は魔力を放つ。
それは人の生存本能に訴えかけ、死への恐怖を与える。
命ある者は抗えぬ絶対的な恐怖。
それに対して、士郎とセイバーは動きを止める。
「くっ……ギルガメッシュに出来て私に出来ないと言うのか……」
セイバーは動かない腕を必死に動かそうとする。
だが、手は震え、動こうともしない。
「大丈夫……俺が決着をつける!」
剣崎は士郎とセイバーの前に立つ。
そして、ラウズアブゾーバーにクイーンとジャックのカードをセットする。
【フュージョンジャック】
二体のアンデッドとの融合。
その力を用いて剣崎は恐怖の存在に立ち向かう。
「私を前にして立ち向かう。何故なのか分かったわ。
貴方はアンデッドね?」
「違う!俺は仮面ライダーだ!」
剣崎は翼を広げて破滅の存在に斬りかかる。
それを破滅の存在は手で受け止めた。
「違いはしない。その融合……肉体だけでなく魂まで融合しているわ。
無限の生命と。だから、貴方は死への恐怖を克服できる」
「だとしたら、俺はお前と戦えるこの力でお前を倒す!」
ブレイドはキックで破滅の存在を蹴り飛ばし、距離をとる。
「無駄よ!貴方では私には勝てない!」
破滅の存在は手をブレイドにかざすとその翼から無数の光線を飛ばす。
「ぐっ!」
ブレイドはその一撃に装甲を削られる。
オリハルコンプラチナの翼も破壊され、破片が地面へと落ちた。
だが、それでも剣崎は前進を止めない。
「うおおおお!」
ブレイラウザーを掲げ、破滅の存在に斬りかかる。
「無茶だ!」
その状況にセイバーが叫ぶ。
だが、それでも剣崎は逃げ出さない。
「ここでお前を止められるのは俺だけだ!」
「なら、貴方を倒して全てを終わらせる」
破滅の存在はブレイドを倒すべく、腕に魔力を集中させる。
空間ごと破壊する一振り、ブレイドに変身解除のダメージを与えた一撃。
それをもってトドメを刺す。
「そこまでよ!」
破滅の存在が襲い掛かろうとした瞬間、その足元に陣が形成される。
それは邪悪なる者を封じる聖なる結界。
「なっ!?」
その一撃に破滅の存在を身動きを止める。
「あんた達はどんだけ結界を破壊するのが好きなのよ。
折角、直したのにまた、壊されたんじゃたまんないわよ」
神社の社の方角
剣崎から見れば破滅の存在の背後からその少女は歩み出る。
紅白衣装の巫女
楽園の守護者
博麗霊夢
「だから、手伝ってあげるわ。剣崎さん」
彼女はいつものように気楽な様子で微笑んでみせる。
「霊夢!?」
その登場に剣崎は驚く。
「驚いてる暇は無いわよ。結界は長く続かな……」
霊夢が言い終わるよりも先に破滅の存在は結界を強引に破壊する。
「そう言えば居たわね。狂人」
「誰が狂人よ。その声は冥界で異変を起こした奴ね!?今回こそ封印してやるわ!」
霊夢はそう言うとスペルカードを掲げる。
「神霊【夢想封印】」
霊夢は霊力の塊を最大レベルで放出し、破滅の存在に向かってぶつける。
「この程度」
破滅の存在はそれを翼で受け止め、弾きかえす。
「そこだ!」
【ライトニングスラッシュ】
その隙にブレイドは背後から破滅の存在に斬りかかる。
雷撃の刃を破滅の存在は翼の一枚で受け止める。
「ウェーーイ!!」
それを気合と共に剣崎は切り裂く。
翼は切り飛ばされ、地面へと落ちて黒い影となりて消えていく。
「何よ、やっぱり大したことないわね」
そこに霊夢は追撃とばかりに無数のお札を投げつける。
だが、その札は破滅の存在に届く前に黒い炎によって燃え尽きた。
「!」
そして、炎の隙間から破滅の存在は霊夢をにらみつける。
それに悪寒を感じ、霊夢は結界を自分の前方に張る。
だが、破滅の存在はそれを貫いて霊夢に肉薄する。
霊夢はそれを瞬間移動で回避する。
だが、その脇腹の服は破かれ、そこから夥しい量の血液が流れ落ちる。
「ぐっ……嘘でしょ」
霊夢は結界が足止めにもならなかった事に絶句する。
「遊びは終わり。私に抗える存在を残すわけにはいかない」
先ほどまでと変わり、破滅の存在の声のトーンが落ちる。
少女の声はまるで怨嗟の囁きのように響く。
「下がっていろ、霊夢!」
剣崎は霊夢を護るように身を出すが破滅の存在はその胸部装甲を掴む。
強引に装甲部分に指で穴を開けて、そのまま握るように装甲を破壊した。
「邪魔」
そして、握られた拳からノーモーションで拳を繰り出し、ブレイドを弾き飛ばす。
ブレイドの体は凄まじい勢いで地面を転がり、木に激突して止まった。
「そんな……剣崎さんと霊夢でも相手にならないってのか……」
士郎は更なる恐怖に身を凍らせる。
「何故だ……何故、私は動けない……新たな仲間を護る事も出来ないのか……」
セイバーは動かない手に慟哭する。
その目に涙を溜めていた。
「さぁ、死を与えましょう。貴方たちは輪廻に変えることは出来ない。
行き着く先は私と同じ、無、何も無い、何も感じることはできない。
未来無き、終焉へ……」
霊夢と剣崎を直線状に捕らえ、破滅の存在は手をかざす。
その手のひらには圧縮された魔力が黒い闇を作り出す。
それは漆黒
全てを染める絶対の色
彼女が伝えるようにそれは絶対なる終焉を与えるだろう。
そして、命あるものはそれから逃れることは出来ない。
それを前にして霊夢も剣崎も動くことが出来ない。
余りのダメージに何も出来ない。
絶望の運命が決定しようとしていた。
だが、果たして運命は全てを見放しているのか?
否、違う。
運命は彼らの死など望みはしない。
故にそれは否定される。
「やらせるかぁッ!!」
鋼鉄の拳が破滅の存在の顔面を打ち抜く。
その衝撃に魔力の収束は霧散する。
「何……?」
破滅の存在は驚く。
「俺の仲間はやらせない……やらせてたまるかぁッ!!」
シンは叫ぶ。
シルエットを装着しないただのインパルスガンダム。
だが、その魂は怒りに燃えていた。
終焉をもたらす存在
絶対に許せない存在
それに対してシンは覚醒する。
「人が何故……そうだ。お前も私に刃向かった」
破滅の存在はシンを思い出す。
彼がかつて、冥界で彼女の端末を倒したことを。
「人は死に絶望するだけじゃない……お前が世界を壊すって言うなら。
俺はこのインパルスでお前を破壊する!」
シンは破滅の存在に対して宣戦布告を発する。
その言葉に破滅の存在は薄い笑みを浮かべた。
「貴方程度が何の障害になるというの?
砂の壁を崩すように、散らせて上げる」
破滅の存在は光線をシンに向かって放つ。
シンはそれを紙一重で回避し、破滅の存在に接近する。
それに対して破滅の存在は空間を抉り、その破片から生成された黒炎をインパルスに向ける。
シンはそれをサイドステップで回避するとそのまま破滅の存在の懐に潜り込む。
そして、再びその顔面に拳を叩き付けた。
しかし、今度は破滅の存在は怯まない。
黒い炎がインパルスの拳を侵食しようとする。
シンはそれに気づいて直ぐに拳を引っ込めた。
「武器も無しに挑むなんて無謀ね」
破滅の存在は嬉しそうに呟く。
その言葉にシンは身の毛がよだつのを感じる。
弱者を一方的に食い物にしようとする邪悪な意思。
だが、シンはそれを払いのける。
「例え生身になろうともお前には屈しない!
お前を野放しにすれば大勢の人が不幸になる。
それだけはさせる訳にはいかないんだ!」
シンは再び拳を構える。
「貴方に何が出来るの?その機械の鎧は私を打ち破ることは出来はしない」
破滅の存在はあざ笑う。
弱気存在の遠吠えと……
だが、戦いの意思を捨てていないものは他にも居た。
「もし、シンだけじゃ届かないなら……俺も一緒に戦う!」
カズキがサンライトハートを構える。
「私たちの光は一つ一つ弱くても……皆で集まれば貴方の闇なんか照らし出せる!」
なのははレイジングハートを構える。
「余り人間を甘く見ないことね。破滅の存在などという無粋な存在はここで消えてもらうわ」
真紅もシンと共に立ち上がった。
死の恐怖を乗り越え、生きるための抗う意志を見せる。
勇気の光は確かに繋がった。
「カズキ、なのは……それに人形すらも戦っている……なのに私は……」
セイバーは歯がゆそうに彼らの戦いを見つめる。
カズキもなのはも真紅も戦っている。
だが、立ちふさがることで出来るだけだ。
破滅の存在の力の前に防戦を強いられている。
ただでさえ、連続の戦いで消耗が激しい現状、彼らに勝機は薄い。
「セイバー……俺は行くよ」
士郎は重い足取り一歩、確実に前へと踏み出す。
「士郎!?」
その光景にセイバーは目を丸くする。
マスターである少年はサーヴァントよりも先に恐怖を脱していた。
「皆が戦っているんだ。見ているだけなんて出来ない」
「それは私も同じ気持ちです……ですが!」
「良いんだよ。セイバー。怖いなら戦わなくたって良い。後は俺たちに任せてくれ」
「ですが、相手は強い……いや、強すぎる。ギルガメッシュですら相打ちに持ち込むしかなかった相手だ。
貴方たちだけで勝てるはずが……」
「もし……勝てないとしても。俺は諦めたくない。
この命が繋がっている限り、俺たちに出来ることはある筈だ。
未来を……俺たちの運命を掴み取るために!」
士郎はそう告げると駆け出した。
「もう、いい加減にしてよ」
破滅の存在は翼を大きく広げると黄金の光を地表へと放射する。
巨大な閃光が大地を抉り、境内を根こそぎ吹き飛ばしていく。
山頂の社は完全に破壊され、その一部は消し飛んだ。
残ったのは残骸のみ。
木々や草も全て消え去り、砂となった大地だけが残される。
消えた、と破滅の存在は考える。
だが、そんな彼女に山吹色の閃光が襲い掛かる。
「サンライトクラッシャー!!」
蛍火の髪を振り乱し、赤銅色の戦士が山吹色の突撃槍で破滅の存在にぶつかる。
だが、それは破滅の存在の腕に受けとめられる。
「他者の命を強制的に奪い力に変える……か。一歩間違えればこちら側に落ちる程に危険な存在ね」
それを見て破滅の存在は呟く。
「確かにこの力は呪われてる……その為に泣いている人たちも居る。
だけど、この力を使ってでもお前を倒してみせる!」
カズキは侵食してくる黒い炎を自らの命を燃やした光で吹き飛ばしていく。
死を拒絶する強い生命の力。
その輝きに破滅の存在の腕は掻き消える。
「生命を束ね力に変える?」
その力に破滅の存在は驚愕する。
「今だ!」
カズキは叫ぶとその場から離脱する。
「全力全開!」
カズキが攻撃を仕掛けている隙になのはは持てる魔力の全てを賭して巨大な魔力の塊を生み出す。
なのはの持つ最大最強の砲撃魔法。
その限界を超える。
「スターライトブレイカー!!」
圧縮された桜色の魔力光が破滅の存在目掛けて放たれる。
その光は破滅の存在の体を全て飲み込んだ。
そして、そのまま地面に激突し、巨大な爆発を生み出す。
砂の大地は吹き飛ばされ、四方八方へと飛散した。
「人間が……ここまで進化した?」
爆心地の後、焼け爛れた黄金の翼を振り下ろして破滅の存在が呟く。
三対の翼は三枚破壊され、既に残り三枚になっていた。
「人の持つ心……その輝きは無限よ。
戦うだけじゃない。生きる人はそれだけで強いの」
真紅がローズテイルで破滅の存在を拘束する。
「人形が……」
「人形だからこそ分かることもあるわ。全力で生きる者を否定させはしない」
真紅は力を込めて破滅の存在を拘束しようとするが破滅の存在はそれを強引に突破する。
そして、真紅に襲い掛かる。
しかし、それを二つの影が阻む。
「通しはしない……お前はここで終わるんだ!」
「世界は破壊させはしない!」
ブレイラウザーを構えたインパルスガンダムと士郎が破滅の存在と切り結ぶ。
「生きる……か」
セイバーは戦う彼らの姿をまぶしいと感じていた。
ただひたむきに戦うその姿。
例え、目の前の存在が強大であろうとも臆さずに立ち向かう勇気。
それは過去の英雄たちと比べても遜色の無い武勇だった。
「何時からだ……私は忘れていたのかもな。
生きる熱さを……」
そして、彼女はゆっくりと歩みだした。
「終わりよ」
破滅の存在は周囲の空間を一斉に砕き、その破片でインパルスガンダムの装甲をズタズタに引き裂く。
「うわああああ!」
そのダメージにインパルスの機能は停止し、フェイズシフトダウンを起こした。
「シン!」
士郎が駆け寄るが、それよりも先に破滅の存在の放つ光線が彼の体を貫く。
「ぐっ……」
腹には大穴が開き、そこから止めどない血が流れ落ちた。
「このぉ!」
カズキが追撃を仕掛けるが破滅の存在はランスを掴むとカズキの体を直接、手で抉る。
「がは……」
口から血を吐き出し、カズキの意識は途絶える。
「はああ!」
なのははカズキを助け出そうとレイジングハートで直接、破滅の存在に殴りかかる。
だが、それも破滅の存在は手で受け止めた。
容赦なく拳が叩きつけられるがバリアジャケットが破壊されるだけでなのはの体には達しない。
だが、そのダメージの量と魔力の酷使の為に変身は解け、なのはも意識を失った。
「そんな……ここまでやったというのに……」
真紅はその絶望的な状況に歯噛みする。
あれほどまでに攻撃を畳み掛けたのに完全に倒すまでに至らなかった。
全員の持てる力をとしても地上に顕現しているその端末の破壊すらままならない。
「まだだ……まだ!」
インパルスを脱ぎ捨ててシンが立ちふさがる。
だが、その体も全身から血を流し、意識も朦朧としていた。
そもそも、インパルスガンダムを持たないシンに戦う術はない。
だが、それでも諦め切れなかった。
「そうだ……この命がある限り、戦う!」
士郎は再びブレイラウザーを投影し、構える。
その腹に開いていた傷は既に無くなっていた。
「……アンデッドシステムの副産物がこんな所にあるとはな」
それを見て破滅の存在が呟く。
「何を言ってるんだ?」
士郎がその言葉に対して尋ねる。
思い当たる節がない。
ライダーシステムは持っていないし、他にアンデッドに関連するものなど持ち合わせては居ない。
「気にするな……理想郷ごと破壊する」
破滅の存在はそこで更に魔力を高める。
それは先ほど剣崎と霊夢に対して放とうとしていた巨大な魔力。
それは存在するだけで周囲の空間を破壊していく。
「残念だが……お前に未来を破壊させるわけにはいかない」
その前にセイバーが立つ。
その手には聖剣が握られていた。
「星の剣……」
それを見て破滅の存在は呟く。
「そうだ……この剣はお前のような存在を切り裂くために存在している。
これは闇を払い、人に勝利を約束する剣……お前ごときに破壊することなどできはしない!」
セイバーはエクスカリバーを構えた。
「セイバー……」
士郎はセイバーに微笑みかける。
「ようやく、覚悟が決まりました。私にとってここは遥か未来ですが、確実に繋がっている明日です。
それをあのような輩の好きにさせるのは我慢ならない!」
「あぁ……セイバー、あいつを倒せ!」
士郎は礼呪を発動させる。
それは強制的にセイバーの魔力を爆発的に高めた。
黄金の光が闇を引き裂き、世界を照らす。
エクスカリバー
【約束された勝利の剣】
光は闇を切り裂いた。
闇は半身を失いながらも地面を這いずる。
「英雄王でも無い存在にここまで良い様にやられるなんて……
でも、全ては無駄なこと……ジョーカーが居る限り私は……」
その少女の前に一つの影が立ちふさがる。
「ジョーカーとは俺の事か?」
その男は破滅の存在を見下ろし、尋ねる。
それは相川始……ジョーカーアンデッドが自らにつけた名。
「……どこまで私に立ちふさがるというの……人間が」
それを見上げて破滅の存在は悔しそうに呟く。
そして、自らの体を黒い泥のようなものに変えると再び、人型へと整形しなおす。
だが、その姿が持つ力は先ほどまでとは比べ物にならないほど小さかった。
「まだ、その体でも戦いを続けるのか?」
「当然よ。折角、開いた穴から伸ばせた触角。ここで失うわけには……」
破滅の存在はこのような状況でも諦めずに戦いを継続しようとした。
だが、その体に背後から何者かが斬りかかる。
破滅の存在はそれに咄嗟に反応し、腕でそれを防ぐ。
腕に食い込む刃。
そして、その持ち主と破滅の存在の目が会う。
「だったら、ここでトドメを刺す」
天翔はようやくこの場に到着し、発見と共に破滅の存在に斬りかかった。
だが、それも防がれ、視線と視線がぶつかる。
殺意を持って睨む翔。
だが、破滅の存在は翔の姿を見て目を丸くしていた。
「天……翔?」
そして、翔の名を呟く。
「知っているのか?そうだ、俺がお前を倒すために……」
「あは、あはははは……翔だ。翔だ……約束どおり殺しに来てくれたんだね。
でも、駄目だよ……私、止められないの」
破滅の存在は嬉しそうに笑顔を作ると涙を流す。
その光景に翔は呆然とする。
その隙に破滅の存在は飛び上がった。
「ここは逃げさせてもらうね……今の貴方たちじゃ私を追うことも出来ないでしょ。
今日は引き分けだった……次は壊してあげるよ。最後の英雄たち」
破滅の存在は傷つき佇む英雄たちに別れを告げると空へと消えていった。
それと同時に、空は白み、東の空から太陽が上る。
闇の侵略は防がれ、新たな日が昇った。
だが、全ては終わってなど居ない。
始まっただけだった。