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病院での死闘、その翌日。
仲間たちは話し合いをするべく集まっている。
用件は睦月について。
「あいつが裏切っただなんてなんかの間違いじゃないのか!?」
カズキはその話を聞いて半信半疑の様子だった。
この中では付き合いが士郎についで長いのだ。
彼の人となりもそれなりに知っているつもりだっただけに受け入れられずにいる。
「だが、奴が間桐慎二と共謀し、俺たちを罠に嵌めたのは事実だ」
そんなカズキに橘が冷静に告げる。
とは言え、そんなものは表面上のものでしかない。
彼もまた、その裏切りにショックを受けている。
「まさか、慎二がマスターだったなんてね……一番、怪しいから最初に調べたのに」
凛は睦月の事ではなく慎二について言及する。
「そいつも士郎とカズキの同級生なんだろ?そっちについてはどうなんだ?」
シンが士郎とカズキに尋ねる。
「まさか、あいつがあんな行動に出るとは思ってなかった」
「余り話さないけどそこまで悪い奴には思ってなかったけど……」
二人の言葉に凛ははぁとため息を漏らす。
「二人とも本気なの?」
二人の反応が信じられないという様子だった。
「二人とも人が良い……悪く言えば間抜けだからな。あまり、他人に対してそう言う目を向けないのだろう」
斗貴子が凛に大してフォローともいえないフォローを入れる。
「まぁ、でも、その慎二さんって人のサーヴァントは倒したんですから気にしなくても良いんじゃないですか?
今は上城さんがどうして、そんな事をしたのかの方が重要だと思います」
なのはがそれてしまった話題を修正する。
同じ学園に通う生徒として馴染みがある士郎たちはともかく、学園に通っていない他の者たちからしたら慎二に対して思うところは無い。
今まで通りに敵の一人にしか過ぎないからだ。
だが、睦月は違う。
共に戦った経験がある者は少ないがそれなりに話しもしているし、仲間だと認識していた。
表面上の様子からもそんなに悪い印象はなかったのだ。
それがどうしてと言う気持ちも強い。
思い空気が部屋に流れる。
「本気で彼が裏切った訳ではない」
その空気を払うように嶋が発言する。
「どういうことですか?」
剣崎が彼に質問をする。
昨日の一件から剣崎は完全に嶋の事を信用していた。
ライダーとの戦いでベルレ・フォーンにより病院の外へと放り出された剣崎を救い、アブゾーバーを渡したのは彼だからだ。
そして、彼は密かに病院の患者の救出を行っていた。
その為に犠牲者は0となっている。
「おそらく彼はスパイダーアンデッドに操られている」
「スパイダーアンデッド?それはどういう事ですか?」
「……スパイダーアンデッドはその体をほぼ完全に破滅の存在に汚染されているんだ」
その言葉に翔が目を見開く。
「汚染?それはどういう状態なんだ?」
「破滅の存在の邪気に肉体が支配された状態。それはほぼ眷属と言ってもいい状態になっている」
「なるほど……だから、スパイダーアンデッドはジュエルシードを使って破滅の存在に近い性質の思念体を生み出せたのか」
翔はかつて、スパイダーアンデッド封印の際に奴が呼び出した巨大な黒い蜘蛛を思い出す。
「そういえば、橘さんの精神世界で出会った破滅の存在の端末もスパイダーアンデッドを支配下に置いているって言っていたな」
剣崎は橘の精神世界で邂逅した破滅の存在の端末の言葉を思い出す。
その言葉通りならいくつかのアンデッドは破滅の存在の命令で動いていると言える。
「その影響は封印されても尚、続いているのだろう。
そして、封印されたアンデッドは仮面ライダーの精神世界に封印される。
スパイダーアンデッドは今、睦月の精神世界に居ると言う事だ」
「それじゃ、そのスパイダーアンデッドの影響で睦月は俺たちを裏切ったということですか?」
剣崎の言葉に嶋は頷く。
「ちょっと待って下さい。封印されたアンデッドは仮面ライダーの精神世界に封印されるんですよね。
でも、封印したのは橘さんだった筈です」
ユーノが疑問を投げかける。
「それについて詳しいことは分からない。
だが、おそらくはライダーシステムによる融合が鍵になっているんだと思う。
そもそも、仮面ライダーにアンデッドが封印されること事態がイレギュラーなんだ。
故に今まで一度もこのようなケースは存在していなかった」
「……昔、烏丸所長はライダーシステムに不備は無いって言ってましたけど……
こう考えると不備だらけじゃないですか」
シンが話を聞いていて思ったことを口にする。
橘はアンデッド経由で破滅の存在の進入を許し、睦月は破滅の存在に操られている。
想定外の事態だとは言え、非常に危険な事態だ。
「アンデッドと破滅の存在の汚染は記録には残っていない。
そもそも、この事を知っているのはカテゴリーKとAだけだ」
嶋の言葉に剣崎と橘が驚く。
「何でそんな重要な事態をアンデッドは知らないんだ?」
「いや、逆に何故、KとAだけは知っているのかが気になるな。
そのカテゴリーは他のアンデッドと何か違うのか?」
「……バトルファイトに置いてAとKは特別な意味を持つ。
君たちは知らないだろうがAとKはスート毎にほぼ、同じ種族だ。
俺はクラブのカテゴリーK・タランチュラアンデッドだ」
「どういうことですか?」
剣崎が嶋に尋ねる。
「もし、私かスパイダーアンデッドのどちらが優勝しようとも地球に反映するのは蜘蛛とその亜種だ」
「それって不公平じゃ無いですか?」
剣崎がその答えに不満を表す。
「そうかも知れない。だが、それだけ我々の種族が強力な生命になる可能性を持っていたというだけに過ぎない。
そもそも、全てのアンデッドはカテゴリーとスートに別れ、それぞれに別々の能力を有している。
その時点で公平不平もありはしない」
「そうかも知れないですけど……」
なおも食い下がろうとする剣崎を橘が制止する。
「今はそのことを話している場合じゃない。それよりも話し合うべきは睦月をどうやって元に戻すかだ」
橘の言葉を受けて剣崎は黙る。
そして、皆も考え始める。
「その事だが私に考えがある」
「考えって?」
「何、私に任せてくれ」
嶋はそう告げるとそのまま部屋を去っていってしまう。
「行っちゃった……一体、何をするつもりなんだ?」
剣崎は頭をひねる。
「……そうだ。橘さんの時と同じ方法って使えませんか?」
シンが何かを思いついて提案する。
「俺のときと同じ方法……精神世界に入り、そのままスパイダーアンデッドを倒すということか」
「はい。原因が破滅の存在だって言うならその方法でいけると思うんですけど」
「確かに良い案ではあるが……」
橘は少し躊躇いを見せる。
それは翠星石を危険にあわせるということだ。
しかも、蒼星石が命を落とす切欠となった方法と言っても良い。
「やれる可能性は高いと思うな。俺と剣崎さんなら、精神世界で破滅の存在を倒せるはずだ」
翔がその案に賛成を示す。
「珍しくやる気だな」
そんな翔にシンが意外だと反応する。
「こういう時に役に立っておかないと一緒に居る意味も無い。
破滅の存在の端末ぐらいなら以前にも倒した実績はあるんだ。
問題は無いだろう」
翔の言葉を聞いて橘は考え込む。
「……分かった。翠星石には俺から話を通してみる」
「それなら、俺も一緒に行って良いですか?」
カズキが橘に申し出る。
「別に構いはしないが何をしに行くつもりだ?」
「ちょっと、真紅に話したいことがあるんです」
「真紅に……なるほどな。分かった。時間も惜しい、今すぐに行くぞ」
「はい!」
そう言って橘とカズキも部屋を出て行く。
「それじゃ、とりあえず今回はこれで解散かな」
剣崎がそう言ってアスランの方を見る。
大体の方向性は決まったようなものだ。
これ以上、残りでここに集まって話すような事も無いだろう。
「ん?あぁ、そうだな。それじゃ、解散にしよう」
アスランの号令で話し合いは終了する。

「剣崎さん、シン。すまないけどちょっと話があるんだ」
士郎が部屋を出て行こうとする二人を呼び止める。
「何かあったのか?」
シンが尋ね返す。
「セイバーについて何だけど」
「セイバーの?」
シンはそう言って部屋でまだ、正座をしたままの少女を見る。
「士郎と話し合い、貴方たち三人に伝えたいことがあります」
セイバーがそう告げると三人は部屋の中心へと戻ってくる。
「話って何だ?」
剣崎が切り出す。
「私の真名、それについて明かしておきたいと思います」
その言葉に二人は驚く。
英霊はその正体が知られることは弱点を知られることも同義。
その為に今まで士郎にすらその正体を明かしたことは無かった。
それが聖杯戦争と関係ない二人に明かそうとしている。
その事に二人は疑問を感じた。
「何で俺たちに?そういう相談だったら凛の方が良いんじゃないのか?」
剣崎が尋ねるとセイバーは首を横に振る。
「俺もそう言ったんだけど一応、マスターの一人だから出来るだけ話さないでおくって話になった」
士郎が事情を説明する。
「それは納得できるけど……なんで、俺たち二人なんだ?」
シンは更に質問をする。
共に戦うと言え、それなら他の仲間も当てはまる。
この二人だけに告げる理由にはならない。
「一真……それにシンに知っておいて欲しいと思ったんです。
私の戦う理由を……」
「セイバーの戦う理由。昨日、聞いたときは答えられないって言ってたけど」
「はい。ですが、貴方が答えを出した。だから、教えておきたいと思ったんです。
かつて、英雄として戦った身として、この時代の英雄である貴方に」
セイバーは剣崎の目を真っ直ぐに見る。
「でも、だったら俺は必要ないんじゃないか?」
シンがそう答えるとセイバーはシンの方を見る。
「いえ、シンにも聞いて欲しい。私が見た限り、貴方は剣崎の最も信頼する戦士だ」
「いや、それは違うんじゃ。橘さんとかも居るし……」
シンはその言葉に驚く。
「ん~……いや、セイバーの言ってることは間違いじゃない。
そりゃ、作戦とか決めるときは橘さんを頼るけど、一緒に戦って背中を任せられるとしたらやっぱり、シンだと思う」
「えぇ!そんな……でも、ありがとうございます!そう言ってくれて嬉しいです」
シンは素直に喜び言葉に表す。
その表情も凄く嬉しそうだった。
その様子に士郎は驚いているがセイバーは納得しているようだった。
「だから、聞いて欲しい。私が生前に何の為に戦い。そして、今、何を求め戦っているのかを」








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第三十話「王の威光」






「私の真名はアルトリア・ペンドラゴン。現代ではアーサーと言った方が通りが良いでしょう。
かつて、イングランドを統治していたアーサー王こそが私です」
セイバーが話を始める。
「アーサー……確か聞いた覚えはあるけど。男性じゃなかったのか?」
剣崎が驚き尋ね返す。
伝わっている話ではアーサー王は男性だったはずだ。
「男性として振舞っていましたから。王が女性では権威に関わる」
「なるほど……伝えられた歴史が事実とは限らないって事か」
剣崎は納得する。
「私は選定の剣を引き抜いたことで王となりました。
私が戦っていた理由は国を護るため。
国民を護り、彼らに幸せを与えるために尽力しました。
その人生の全てを捧げた。
その為に数多くの戦に赴き、勝利を収めてきた」
「国の為に王自身が戦うか……今じゃ考えられないな」
シンがセイバーの言葉に感想を漏らす。
「あの時代は統治するものが自ら力を示さなければならなかった。
王とは民を護る剣ですから」
「民の為か……凄いなセイバーは」
「確かに統治や政治的な話はありますが動機として人を護るために戦う貴方たちと変わらないと思います。
私が王として民を護ることも、貴方が仮面ライダーとして人々を護る事も、違いは無い。
だが、聞いておきたいことがあります。
貴方はあの戦いでアブゾーバーを使っていた。
という事はあのアンデッドの問いに貴方は答えられた筈。
貴方の出した答えを聞かせて欲しい」
セイバーが真っ直ぐに剣崎を見る。
「俺は……俺は人を愛している。人という種族がどうしようも無く好きなんだ。
些細な事で喧嘩もする。平気で人を裏切ったりもする。
戦争なんかして多くの命を奪ってしまう……
だけど、俺はそれでも人は素晴らしい存在だって思ってる」
「本気ですか?貴方が言ったように人は裏切る。
それがどんなに親しい人物であったとしても剣を向ける」
「そういう事もあるかも知れない。俺だって何回も裏切られ続けた。
だけど、昨日、自分が人質にとられて、いつ、命を失ってもおかしくない状況でも俺を心配してくれた子が居た。
その時に気づいたんだ。いや、自覚したんだ人の素晴らしさを。
戦いあい、争いあう状態で出会っても相手の悲しみに気づけて手をさし伸ばせる人も居る。
人を食らう化け物になったとしても、それを止められず倒さなければならなかった事に涙する人も居る。
自分の不幸を呪うではなく、同じような人を作らないように戦おうとする人も居る。
俺の近くの人間だけでも色々な人が居る。
それだけじゃない。
なんてこと無いことで笑いあったりしている。それだけで良い。
それだけで俺にとって人間は護る価値がある。
いや、そうじゃない。護りたいんだ。
人の平和を、この世界を……他のどの種族にも、破滅の存在にも渡したくは無い」
剣崎は自分の気持ちを吐露する。
それは無自覚に紡がれたものではない。
自分の心、気持ちを形作り、言葉としたもの。
「……貴方は優しい。いや、優しすぎる」
「そんなんじゃない。俺はただ、わがままなだけだ」
「だが、そんな貴方だから私は自分のことを話すことが出来る」
「自分のこと?」
「そう、私が何故、聖杯を求めるのか……」
「聖杯を求める理由」
「私の最後は裏切りによるものでした。
信頼していた騎士の裏切りに倒れた。
私は民を幸せにするために戦い続けた。
その結果は私は王にふさわしくないという烙印だった」
セイバーの言葉に全員は押し黙る。
「だから、私は私が王ではなかった世界を求める。
私が王でなければ民はもっと平和だったかもしれない」
「それって過去を変えるって事か?」
剣崎が問い返すとセイバーは頷く。
「私は民を平和に、幸福に出来なかった。
私でなければもっとうまくやれたかもしれない。
それだけが心残りなのです」
その言葉を受けて剣崎とシンは黙ってしまう。
だが、士郎はその言葉に強く反発した。
「それは間違っているよ。セイバー」
「何故ですか?」
「過去を変えるだなんて間違ってる。
過去を改変してそれで自分がしたことが全て否定するなんて」
「そうだな。俺もあまり、正しいとは思えない」
剣崎も士郎の言葉に追随する。
「一真も……どうして。分かってくれないのですか?
私は王の器では無かった。
その為に国を救うことは出来なかった。
もし、私が王で無ければ……それだけでどれだけの民が救われたのか」
「セイバー……」
剣崎は責める言葉は言わない。
だが、彼女の考えを肯定する気にはなれなかった。
「気持ちは分かるさ。俺ももし、過去を変えられるって言うなら手にしてしまうかもしれない」
「シン……」
シンの言葉に意外だという表情でセイバーはきょとんとしている。
「でも、セイバーにとって自分のしてきた行いは全部、無くなっても良い程度のものなのか?」
「自分の足跡を残すよりも、多くの民の幸せの方が大事です」
「俺は嫌だ。凄く辛くてずっと後悔してる。今だって失った家族の顔を夢に見るよ。
だけど、過去を塗り替えてそれで本当に幸せなのか?」
「私、個人の気持ちは関係ない。言わせてもらえば、貴方とは立場が違う」
セイバーの言葉にシンの表情が険しくなる。
「なら、俺も言わせて貰うよ。過去を変えれば確実に国は幸せになるだろうさ。
勝手な判断を国民に押し付けて血を流させるような奴も許せないけど。
自分で決めて、それで引き起こした事態を無かったことにしたいだなんて泣き言を言ってるような奴よりはマシだ!
あんたの決めた事の一つ一つの全てが軽いんだよ!
その程度の覚悟で国を動かしていたから滅んだんだ!」
「何を!貴方に何が分かる!私がどれだけ苦しんで決めてきたと思っている!」
「分かるかよ!だけど、俺も滅んだ国の人間だ。上のそんな身勝手な考えで焼かれるのは俺たちなんだ!」
「だから、私は変えると言っている。平和な国にする為に!」
「だから、それがおかしいんだよ!失敗しましたから無かったことにするんで許してくださいってそう言ってるようにしか聞こえない!
かわいそうだよ。お前を王としていた国の人間が……そんなちっぽけだなんて」
シンとセイバーの問答は白熱していく。
互いに言葉を譲らずない。
「止めろ!二人とも!」
その間に剣崎と士郎が割ってはいる。
「邪魔をするな!あの男の言葉を許すわけには行かない!」
「上等だよ。弱虫の騎士王さまが俺をどうやって処罰するって言うのか、見せてもらおうじゃないか!」
「良いでしょう。貴方を仲間だと思っていた私が愚かだった!」
「それはこっちの台詞だ!」
二人の怒鳴りあいに部屋を離れていた他の皆も集まりだした。
「一体、何をしているんだ。シン!」
アスランはそれに気づいてシンを一括する。
「あんたには関係ない!」
だが、シンは取り付く島を見せない。
どうにか、二人を引き離そうとするが二人とも話しも聞こうとしなかった。
「どいて」
橘もアスランも手をこまねいていると酷く静かな声でそう告げられた。
二人は目を向けるとバリアジャケットに身を包み、レイジングハートを構えるなのはの姿があった。
「な、なのは!?」
それに驚いて皆は射線から離れる。
「ディバインバスター!」
躊躇無くなのははそのトリガーを引く。
魔力の火線がシンとセイバーを貫いた。
光が引いた後に残ったのは気絶する二人の姿だった。
「喧嘩は両成敗。これで少しは落ち着くと思います」
なのはは変身を解除してそう告げる。
その遠慮ない方法と手腕に一同は唖然とした。


夕暮れ時の縁側
セイバーは一人、佇んでいた。
「落ち着いたか?」
その横に剣崎が座る。
「はい……すいません。取り乱してしまって……」
セイバーは恥ずかしそうに俯く。
「まぁ、それだけセイバーにとって大切で真剣だったって事だろ」
「はい。彼の言葉はとうてい許せるものではなかった」
「それってさ。自分がしてきた事に誇りを持ってるからじゃないのか?」
「それは当然です。真剣に挑んできた……妥協したことなんてありません」
「なのに、セイバーは過去を変えようとしている」
「それは……私では無理だったからです」
「俺も他の人にやってくれって思ったことはある」
「……仮面ライダーをですか?」
「あぁ、組織が壊滅したときにな。その時もシンが怒ってたな。
俺が変わりにやるって。まぁ、考えてみればシンは適合してないから変身できないんだけどさ」
「ふふ……なるほど。彼は真っ直ぐですね。いえ、真っ直ぐすぎる」
「あの言葉は……あの性格だから本心だと思うけど。
だけど、シンは本当にどうでも良い事では怒ったりしない」
「そうなのですか?話を聞いた限りではよく怒っていると……」
「まぁ、沸点は確実に低いと思う。でも、そう言うときはいつだって真剣だった」
「それは彼が私の事を真剣に考えてくれているということですか?」
「う~ん……セイバーは強いだろ」
「まぁ、戦闘技術ならシンよりも上でしょうね」
「そう言う人が弱気になってたり、頼りならないと感じると怒るな」
「……頼りないのでしょうか。私は」
「俺にとってはそうでもないな。むしろ、頼りにしてるよ。何体かアンデッドの封印もしてもらってるしな」
「そういえば、彼も国を失っていると言っていましたが……日本人ではないのですか?」
「いや、違う。今ではプラントの人間だけど出身はオーブって言ってたな。
二年前の戦争で中立を貫いていたために連合に攻め落とされたって聞いてる。
何でも、連合でもザフトでも無い、第三勢力を匿っていた為にそれを理由に撃たれたって。
その時の戦いでシンは家族を全員失った」
「統治者による判断ミスによる犠牲者か……なら、尚のこと民を平和に導く為に過去を変えることを認めても良いはずだ」
「シンはそうは思わなかったんだろ」
「彼の気持ちは理解できない」
「俺も全部、分かってる訳じゃない。憶測もあるし……でも、そう言うものだと思ってる。
俺はシンの事を信頼している。それは間違いじゃない。
だけど、その気持ちの全てを知る必要はないんじゃないか」
「だが、気持ちが分からなければ。きちんと理解できていなければ裏切られることもある」
「聞いたけど、アーサー王の最後は部下の騎士に裏切られたからだったんだな」
「はい。私は彼を信頼していた。だが、彼は違っていた。
こう、言われたことがあります。
アーサー王は人の気持ちが分からないと……
そうなのかも知れない。私にはシンの気持ちが分からない」
「俺にも分からないよ。人の気持ちなんて」
剣崎は落ちる太陽を見上げる。


時は少し遡り、昼過ぎ。
間桐家にて。
慎二は部屋に引きこもり、睦月は途方に暮れていた。
作戦の失敗。
慎二はサーヴァントを失い、睦月は裏切りを露呈してしまった。
この状態で下手に勝負を挑むのは下策だ。
だが、睦月は諦めていたなかった。
「貴方はまだ、諦めていないんですか?」
桜が睦月に尋ねる。
「五月蝿い。俺は最強の仮面ライダーだ。今回は負けたけどもっと多くのアンデッドを封印してカードを集めれば……」
睦月はそう言う。
「……どうして、他の人たちと敵対してるんですか。別に無理に兄に協力する必要なんて無かったはずです」
「俺が一番、強くなきゃいけないんだ。剣崎さんにも橘さんにも負けたくなかった」
「それで足を引っ張ろうとしたんですか?」
「引っ張るだけじゃない。あいつらだけパワーアップアイテムを手に入れやがった。
ここで何かをしなければ俺は不利になるだけだ」
「そんな事をして何になるんですか?」
「俺は!俺はな!光が掴みたい。いや、俺自身が光になりたいんだ。
なのにあいつらは勝手に強くなって、勝手に人を救っていく。
俺が入る隙間なんてありはしなかった!
俺と同じだと思ってた衛宮だって、セイバーのサーヴァントなんて強い力を手に入れやがった。
俺が光になるにはあいつらを倒さなきゃ駄目なんだ」
「……光を浴びてる人を引き摺り下ろしたって、貴方がその立場に代われる訳ないじゃないですか」
「なっ!」
睦月は桜の言葉に目を見開く。
「羨ましいって手を伸ばしたって届くはず無い。
貴方の望みは適う分けない」
「お前に何が分かる!」
「貴方こそ!普通にのうのうと生きてきて、それで望みが適わないくらいで拗ねてる様な人に何が分かるんです!?」
桜の言葉に睦月は気圧される。
「何を……」
「……今の言葉は忘れてください。それと別に何時までも居て良いですよ。
おじい様も了承してますから……それじゃ」
桜はそう告げると睦月の傍から離れていく。
「……あいつも色々とあるのか」
睦月は考えを巡らせる。
見た感じ、桜と慎二の仲は良くはない。というか、悪いぐらいだ。
しかし、表面上は不自由なく暮らしているように見える。
「一応、魔術師の家系だし色々とあるんだろ」
睦月はそう決め付けて立ち上がった。

睦月は特に考えもなしに道を歩いていた。
そんな風にふらついていれば剣崎やその仲間と遭遇する危険性はある。
だが、怯えて過ごすのは負けた気がして出来なかった。
そして、ただ、歩いていると気づけば聖サンジェルマン病院の前に立っていた。
昨日の戦いの傷跡が痛々しく残っている。
医者や看護婦たちはそんな中、急いで駆け回っていた。
警察の姿もあるので睦月はそれを遠巻きにだけ眺めている。
「あっ、この前のお兄さん」
そんな睦月に声をかけてくる存在があった。
それに驚いて睦月が振り向くとそこには車椅子に座った少女の姿がある。
「君は……」
睦月は少女を思い出す。
聖サンジェルマン病院で出会った少女。
名前ははやてと呼ばれていた。
「お兄さんも昨日の事件に巻き込まれたんですか?」
「いや、俺は……」
睦月は口ごもる。
まさか、自分が昨日の事件の犯人の片割れなどと言える筈も無い。
「それじゃ、事件を聞いて野次馬て感じですか」
「まぁ、そんな所かな。何か酷いことになってるみたいだし」
白々しい限りだが睦月はそう答える。
何せ、病院の患者の命を全て奪おうとしたのだ。
「そうなんですよ。丁度、私、検査入院してたんですけど酷い目にあってもうて……
犯人と思わしき人に人質に取られたり、銀髪の人形に助けてもらったり。
そうそう、昨日、仮面ライダーに助けてもらったんですよ」
はやての言葉に睦月の心臓が跳ね上がる。
昨日の中でそんな事態を睦月は知らない。
つまり、剣崎がそれを行ったのだろう。
「都市伝説は聞いたことあったけど、本当に居たんですね。
あ、でも、信じられませんよね。こんな話」
はやては笑っている。
余りにも荒唐無稽な話だと。
だが、それよりも昨日、命を失うような事件があったのに何故、笑っていられるのか。
睦月にはそれが信じがたかった。
「それで大丈夫だったのか?」
「あぁ、はい。結構、危なかったけど助けてもらえて。
でも、犯人は何がしたかったんやろな……病院なんか破壊して、人の心が無いわ」
はやての言葉が睦月に突き刺さる。
「……ごめん」
睦月は小声でそう呟いていた。
「何か言いました?」
しかし、はやてには聞こえなかったのか聞き返される。
だが、睦月は突然、走り出した。
その場から逃げたかった。
「ちょ、お兄さん!」
それにはやては唖然とする。
「何やったんやろ……」
「何か思いつめたような顔をしてたわね」
はやての呟きにシャマルが答える。
「あまり、会わないほうが良いかもしれないわ。
あの人、嫌な気配を纏っていたもの」
シャマルは睦月に言い知れぬ悪寒を感じて警告する。
「そうかな?私は凄く優しそうな人に見えたけど」
しかし、はやてはそれとは全く違う感想を感じていた。


「はぁはぁ……」
睦月は無我夢中に走って、息を切らして立ち止まる。
そこは公園だった。
他に誰もいない。
いや、一人だけ、男性が立っていた。
「上城睦月……」
その男、嶋昇は睦月に声をかける。
「お前は!俺を捕まえに来たのか!?」
睦月はバックルとを取り出して身構える。
「そのつもりだ。いや、だったと言うべきか……
どうやら、完全に邪悪な意思に支配されている訳じゃないみたいだな」
「邪悪な意思だって……俺はそんなものに操られては居ない」
「厄介だな。支配ではなく示唆ということか……
だが、自分のしでかしたことに罪悪感を感じているんだろう?
今なら間に合う。そのバックルを捨てるんだ。
そうすれば助かる。その手に罪を重ねる必要は無い」
嶋は睦月に近づいていく。
「俺は……俺は!」
睦月はバックルを装着する。
――――OPEN UP――――
そして、クラブのエースの力を解放する。
その力は変身。
人を、生命を強き姿へと変える力。
オリハルコンエレメンタルは展開され、自動的に睦月の体を包み込む。
「お前を封印してより、強くなる!誰にも負けない!剣崎さんにも橘さんにも!誰にも!」
睦月はレンゲルラウザーを振るい、嶋に襲い掛かる。
嶋はアンデッドの姿に変身するとレンゲルラウザーを受け止めた。
その姿はタランチュラアンデッド。
スパイダーアンデッドに良く似た姿をしたアンデッド。
「それが君の答えか……なら!」
タランチュラアンデッドはレンゲルのラウザーをさばいて風を放ち、レンゲルを吹き飛ばす。
「ぐっ……」
睦月は倒れても直ぐに立ち上がる。
「君の力を……強さを見せてみろ!」
「言われなくても!」
レンゲルは果敢に立ち向かう。
だが、完全にレンゲルは動きを見切られている。
「くそっ!」
睦月は悔しそうに叫ぶ。
届かない。
「どうした、お前の気持ちはその程度か!?」
「五月蝿い!お前も!皆も!」
「どうして、そこまで力に固執する。
そして、力を手に入れてどうする?」
「決まっている!俺は光が欲しいんだ!
あの闇に染まった俺の心を救ってくれた光が……!」
「なら、その心の闇に負けるな!」
「俺は負けていない!」
「なら、味方を手にかけるのは違うというのか?」
「それはあいつらが勝手にどんどん強くなるから。
俺が欲しかった光を掴んでいく。
同じ、力を掴んでも届かない!
ただでさえ、俺はあの人たちよりも弱いのに……そうなったら届かないじゃないか!」
睦月は気迫に任せてタランチュラアンデッドを弾き飛ばす。
「それは間違いだ。睦月」
「何が違うんだ!?だったら、俺にも渡せラウズアブゾーバーを!」
「それは出来ない。今の君ではあの力を正しく使いこなすことは出来はしない」
「だったら、力ずくでも奪う!お前を封印して、その力を使って剣崎か橘からな!」
襲いかかるレンゲル。
タランチュラアンデッドはそれを糸を放射して拘束する。
「力が無ければ人を救えないのか?そうじゃない筈だ。
お前にしか救えない。お前の救いを待っている人が居るはずだ」
「そんなもの!」
「ある!君は選ばれたんだ。この終焉の時代に英雄となる為に……
この世界に誕生した三人の仮面ライダー。それには意味がある筈だ」
「だったら……封印されろ!」
睦月は強引に拘束を解くと一心不乱にレンゲルラウザーを振るう。
タランチュラアンデッドはそれを受けた。
睦月の心を受け止めるかのようにその攻撃の全てを受けきる。
しかし、それによりタランチュラアンデッドはふらつく。
余りの攻撃にその体勢が崩れた。
「今だ!」
睦月はラウズカードを引き抜く。
――――ブリザード――――
――――バイト――――
二体のアンデッドの力が覚醒し、レンゲルの体に宿る。
【ブリザードクラッシュ】
レンゲルを冷気を放出し、タランチュラアンデッドを凍結させ、それを両足で挟み、砕く!
「そうだ。このバトルファイトの勝者は人間でなければならない……」
タランチュラアンデッドはその一撃でバックルを開いた。
それを確認すると睦月はプライムベスタにタランチュラアンデッドを封印する。
「やった……カテゴリーKを封印した。俺が最強のライダーだ!」
睦月は勝利に歓喜する。
それも最強と目されるカテゴリーK。
その勝利は格別に睦月の心を滾らせる。


その夜
アインツベルンの屋敷
そこを襲撃するものが居た。
「始!バーサーカー!」
イリヤは叫ぶ。
目の前では二人の狂戦士が傷つき倒れていた。
それに対峙するのは二つの王。
金色の鎧に身を包む荘厳なる存在。
それが二人……
一人は人間に見えた。
そして、一人はアンデッドだった。
「無様だな。狂い、戦うだけの英雄など」
黄金の存在は目の前のバーサーカーを見下す。
バーサーカーの体は幾つ物、武器に穿たれ、穴だらけだった。
だが、即座に再生し、再び目の前の存在に襲い掛かろうとする。
「ふん、興が殺がれた……おい、キング。後はお前が相手にしろ」
黄金の存在はそういうと後ろへと下がっていく。
「君は本当に人間の癖に偉そうだね……まぁ、良いか。
別にこんなの幾ら相手にしても僕には勝てないしね」
黄金のアンデッドは愉快そうに笑う。
そして、迫りくるバーサーカーの石斧を左手の盾で防ぐ。
バーサーカーの怪力をもってしても、その盾はびくともしなかった。
まるで巨大な壁を殴っているかのようにアンデッドは動かない。
「逃げろ、イリヤちゃん!」
カリスがイリヤに告げる。
「何を言ってるの?」
「分かっているはずだ……俺とバーサーカーではあいつらに勝てない」
始はイリヤに告げる。
「そうそう、物分りが良いね。伝説のアンデッド……いや、ジョーカー」
キングと呼ばれたアンデッドは愉快そうに始に向かって告げる。
「俺をその名で呼ぶな!」
始は怒りを露にする。
「ふぅん……意外だな。それに自分よりもその子供を大切にするなんて。
アンデッドらしからない。どうして、君はそこまで人間に肩入れするんだ?」
「俺の勝手だ!」
そう告げてカリスはキングに斬りかかる。
だが、その一撃も盾に防がれ、反撃としてキングの持つ剣がカリスの体を抉る。
その一撃に血飛沫が舞い、カリスの体は直線状に吹き飛ばされた。
「君もそろそろ、五月蝿いよ」
そして、先ほどから一心不乱に猛打を繰り返すバーサーカーもその剣で斬りつける。
その一撃でバーサーカーの胸の肉を粉砕し、カリスと同じように弾き飛ばした。
「化け物……」
イリヤは愕然とする。
今まで、数多くのアンデッドを見てきた。
どれもこれも強力な力を持っていた。
だが、そのどれに比べても目の前の存在は一線を画していた。
別次元の存在。
まるで本物の神と対峙しているかのような絶望感。
何をもってしても手詰まりになっているかのような錯覚を受ける。
障害を排除し、キングは真っ直ぐにイリヤに向かって歩み出る。
イリヤは後ずさる。
その目の前の怪物。
それを遮る様に黒い蝶が舞い、キングを取り囲む。
そして、それは一斉に爆発した。

爆発はキングの視界を完全に遮断する。
だが、その攻撃はキングの体に傷を付ける程では無かった。
しかし、爆発の光と煙が晴れた時、キングの眼前にはイリヤの姿は無かった。
「逃げられたか……」
キングは呟く。
だが、その態度に焦りは無い。
「当ては外れたようだな」
カリスは瓦礫を払いのけて立ち上がる。
「何が?」
「イリヤは逃がした」
「あぁ、その事……僕としては彼女に興味は無いんだけどな。
追ったほうが良いかな?」
キングは後ろに控えている黄金の存在に尋ねる。
「かまわん。聖杯に興味が無い訳ではないが……今はお前の言った言葉が正しいのかを確かめるほうが先決だ」
「そうか……だったら、問題は無いな」
キングは再び、カリスを睨み付ける。
「何?」
「僕の狙いは最初から一つだよ。お前だけだ!ジョーカー!」
キングは一気にカリスに接近するとその剣で切り裂く。
緑色の血を噴出しながら、カリスはその場に倒れた。
それを見て、飛び出すようにバーサーカーがキングに斬りかかる。
「主も居ないのにまだ、敵に飛び掛るか……それともその狂った心でもこいつを仲間だと思っていたのかい?」
キングは交差と同時にバーサーカーの体を両断する。
頭上から股下にかけて、その体は二つに分かれた。
それと同時にバーサーカーの肉体は消滅し、純粋な魔力へと還元される。
「大した力だな……サーヴァントの宝具すらも力でねじ伏せるとは」
その様子を見ていた黄金の存在は愉快そうに話しかける。
「人間にしては……まぁ、純粋な人間じゃないけど。大した力だったよ。
だけど、僕たち王には届きはしない。どんな、生命もね」
「ほう、なら、やりあうか?」
黄金の存在は不適な笑みを見せる。
あれほどの力を見せられても尚、彼の態度は一切変わらない。
目の前の存在をなんとも思ってすらいない。
そう、自分は絶対の強者だと知っているから。
その余裕がある。
「冗談。君とは流石にやりあうつもりは無い。
君だけはその人間の枠組みを超えている」
「当然だ。そもそも、我は雑種とは違う。
お前も雑種ではない。故に近くに置いてやっているが余り、不遜な態度は許さんぞ」
「分かっているさ。王様」
そう言ってキングはその姿を人間へと変える。
金髪の少年。
軽い感じのする態度。
それはキングという名には余りにも不釣合い。
だが、それ故に不気味さを持っている。
「しかし、これが本当に貴様が言っていた存在なのか?
まるで戦いになっていた無かったが」
黄金の存在はカリスを見下ろす。
その姿は依然としてカリスのままであり、変身は解けない。
「それは仕方ないさ。彼はその力の殆どを封印している。
その本能に枷をかけているのさ。そんなアンデッドが力を振るえる訳が無い」
キングはそう言ってカリスの体を掴んで肩に背負う。
「さて……後はメッセンジャーが邪魔者を呼び寄せる前に全部、終えるとするか」
「あぁ、世界の変革……見せてもらおう。お前の変える世界をな」
キングと黄金の存在は笑いあう。


夜間の道
剣崎と橘はバイクで道を走っていた。
「アンデッドの反応が消えた」
剣崎はサーチャーからの反応が消えた事に気づく。
「カリスがアンデッドを封印したか」
それに橘が応える。
二人はアンデッドサーチャーの反応があった地点から戦闘場所がアインツベルンの屋敷だと知っている。
その時、前方に突如として何者かが上空から飛び降り、着地する。
それに気づいて二人はブレーキをかけて停車させる。
「誰だ!?」
そして、バイクから降りて身構える。
「丁度良い、お前たちのところに行くつもりだった」
バイクのライトに照らされながら蝶々覆面の怪人はその視線を二人に向ける。
そして、肩に担いでいた者を地面に落とした。
「いたっ!」
それは声を上げ、打ったお尻をさすりながら立ち上がる。
そして、涙目で剣崎と橘を睨み付ける。
「遅すぎる!」
その一方的な非難の声に二人は驚く。
「一体、どうしたんだ?」
剣崎は尋常ならざる様子のイリヤに尋ねる。
「アンデッドとサーヴァントが現れたわ……そして、私たちは何も出来ずに敗北した」
「負けた……って、始がか!?」
剣崎は驚く。
始の力は剣崎自身が良く知っている。
それを負かす相手など余り、想像が付かなかった。
「そうなるとサーヴァントも失ったのか」
「えぇ、そうよ」
「そうなると残りのサーヴァントはセイバーとアーチャー……それにランサーか」
橘は七人の中から残ったサーヴァントのクラスを数える。
「違うわ」
「何?」
しかし、その橘の推測はイリヤに否定される。
「八番目のサーヴァント……私たちを襲ったのはそいつよ。
そいつがバーサーカーと始を倒した」
イリヤは悔しそうに呟く。
「八番目のサーヴァント……」

終焉を迎えるかと思われた聖杯戦争。
その前に新たなる敵が現れた。
戦いは、世界は、新たなる場面に移ろうとしている。

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