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幾多の戦いを経てきただろうか……
人々を救うため、幸福にするために、その身を犠牲にし、剣を担い敵を倒す。
どれほどの血を流し、どれほどの涙を越えれば辿り着けるのか。
その遥かなる勝利という名の果てに。
未だにその果ては見えない。
誰が為に行くその道、何も見えはしない。

英雄はまだ、それを知らなかった。
自らが行く道が果てしなき荒野で救いなど何もないなどという事を。
そう、遥か遠く理想の果てだけを見据えていてもそれの手綱を握らねば届くはずもないのだ。
踏み込む大地がぬかるんでいれば前に進む筈も無い。
どんなにがむしゃらに走ってみても、足がきちんと踏みしめられなければ何も変わりはしない。
それを悟ることになるのは一人の来訪者によってだった。

「私は嶋昇。烏丸所長の友人でカテゴリーKのアンデッドだ」
無限の生命を持ち、生物の始祖たる存在であるアンデッド。
その中でも最上級に属するキングが彼らの前に現れた。
一見では凛々しい中年の男性に過ぎない。
だが、上級アンデッドが人間の体に擬態できるという事実がある以上、その見た目など何の意味も持ちはしない。
それを出迎えた士郎は身構えた。
当然だ。アンデッドは人類の敵。
彼らアンデッドにとって人類は自分たちの眷属を虐げ、地球を支配している天敵でしかないのだ。
故に生存競争というなの闘争は必然。
だが、彼は、嶋昇という男は戦う意思を見せなかった。
今までのアンデッドと違い。
野性の本能とも言うべき闘争本能を見せない。
むしろ、一般的な人間よりもそこに闘志は感じられなかった。
故に士郎は彼を家の中に招きいれ、剣崎を紹介する事になった。

嶋昇という男の話の審議は彼が見せた烏丸所長との写真で完結した。
物的証拠もあり、節々から感じさせる彼の態度からして敵ではないと剣崎と橘、アスランは判断した。
シンは完全に敵視を止めた訳では無いが警戒をしている。
それは凛もセイバーも同じだった。
言葉で信用を得たとしてもそれは完全な信頼にはなりはしない。
それは嶋も了承していた。
むしろ、それが出来る人間が味方内に居ることは有益であるとも語る。
そして、前フリは終わり、嶋は本題を切り出す。

「烏丸所長からブレイドとギャレンに渡して欲しいと頼まれた物がある」
嶋はそう言い、持っていたバックからあるものを取り出した。
それはプレートに見えた。
それには腕に固定するための部品が装着されており、プレート部分には丁度、ラウズカードサイズのスロットが備えられている。
それを剣崎と橘は興味津々とという様子で見つめる。
「これはラウズアブゾーバー。烏丸所長がこれから激化するであろう戦いに備えて開発した装備だ。
これを使えば上級アンデッド……J、Q、Kの力を使うことが出来るようになる」
「上級アンデッドの力を……」
その言葉に剣崎はごくりと唾を飲み込む。
それが何を意味するかは明白だ。
下級アンデッドですら絶大な力を発揮するラウズカード。
その上級を使用できるなら目に見えたパワーアップが可能となる。
「これはQのアブゾーブの力を基点とし、JかKと更に融合することが可能となる装置だ。
ライダーシステムはこれを使用することにより今までのAだけでなくJかKと更に融合することが出来るようになる」
その嶋の説明にその場に居た全員は戦慄する。
ライダーシステムのパワーは今までの戦いで全員が知っている。
それが更に今まで苦戦していたカテゴリーJの力が上乗せされる。
更にKを封印できればカテゴリーKとの融合も可能となるのだ。
「神下ろしなんてレベルじゃないわね。神霊にも匹敵するアンデッドとの融合。それを二体も同時にだなんて……」
凛は少し青ざめた様子で呟く。
アンデッドの持つ魔力量はそれだけでサーヴァントと比較にならないほどに高い。
遥かなる太古に生み出され、永遠の命を持ち、生物の始祖となる生命体。
現代で確認できる最大規模の神秘であり、その力は超常現象は引き起こす。
その力の利用。その力との対峙。
幾多の魔術師たちが渇望すると同時に絶望するような事態だ。
ただ、そのアンデッドの力を利用するだけでも相当な影響がある。
凛自身もアンデッドという存在に興味が無い訳ではない。
だが、分野が違い、今は聖杯戦争の最中と言う事もあり、そこまで意識は向けては居ない。
それでもアンデッドの価値は分かっている。
故に警戒と緊張を覚える。
目の前に提示された道具が持つその力。その意味に。
「やりましたね!橘さん!」
だが、それを受け取る人物である剣崎はその渡された力をただ喜び、享受しようとした。
その様子に少なからず凛は落胆する。
伝え聞いていた話から歴戦の戦士を感じていたが何てことは無いただの人間だ。
自らが持つ力の危険さを認識していない。
「あぁ、そうだな」
橘もそれを受けて答えるが何処かしらに緊張を感じさせる。
それは力を手にしたことに対する感覚ではない。
橘の内心にあるのはカテゴリーJと融合するという言葉。
伊坂……ドクトル・バタフライと共に橘に苦い経験を刻んだ仇敵。
その力を借り受けねばならないという事。
「……この力はありがたく受け取ります。だが、俺はカテゴリーQをまだ、封印していない」
橘が答える。
ダイヤのカテゴリーQは未だに出現していない。
今までに倒した上級アンデッドはスペードのJとQ、ハートのJとQ、ダイヤのJの五体だ。
目の前の嶋がカテゴリーKなので残る上級アンデッドは6体である。
「そうだったな。それではアブゾーバーは使えないが何れ奴とも戦う日が来るだろう。
その時にはこれを役立ててくれ」
「はい!」
嶋の言葉に橘は力強く頷きラウズアブゾーバーを手にする。
それと一緒に剣崎もまた、ラウズアブゾーバーを手にしようとした。
だが、剣崎の手が届くよりも先にそれは嶋により奪われる。
「え?」
困惑した様子で剣崎が嶋を見る。
「まだ、これは君には渡せない」
「どうしてですか!?」
嶋の言葉に剣崎は立ち上がる。
「では、質問しよう。君は何故、戦っている?」
嶋は真っ直ぐに剣崎の目を見て尋ねる。
嶋の質問、それに対してその場の全員の視線が剣崎に集中する。
「それは俺が仮面ライダーだから。人を助けるのが仕事だから戦っている」
剣崎は何の躊躇いもなく答えた。
嘘偽りの無い本心から出た言葉だろう。
だが、その言葉を受けて嶋はバックにラウズアブゾーバーをしまう。
「それでは君にこれを渡すことは出来ない」
そう言い、嶋は立ち上がる。
「何でですか!?」
剣崎はそれに驚き叫ぶ。
「それを見つけるのは君自身だ。私が納得できる答えを見つけ出せたならラウズアブゾーバーは渡そう。
それでは私はやる事があるので出かけさせてもらう」
嶋はそう告げてそのまま部屋を出て行ってしまう。
「何がいけないって言うんだ?」
残された剣崎は一人呟く。

剣の英雄は揺れる。
自らが選んだ道、志した戦いの道、人を救うという職業。
その誇り、その誉れ、その為に戦う。
その何が悪いというのか。
初めて剣崎は自らの道に疑問を返し、歩んできた道を辿る事になる。
その果てに手にすることは出来るのは……?










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第二十九話「勝利の剣」






「橘さんはどうして戦っているんですか?」
嶋から提示された難問。
その回答を得るために剣崎は仲間に質問をしていた。
「俺も剣崎と大して変わらない。これが仕事だからだ。
アンデッド開放という不始末。それを自らぬぐわなければならない失敗だからな」
剣崎の質問に答える橘だが彼も嶋の質問の意図がうまく汲み取れてなかった。
剣崎の理由に問題があるとは思えない。
「ですよね」
その言葉を受けて剣崎は納得する。
「だが、彼がただの意地悪でこんな事を聞いてるわけでは無いだろう。
俺では良くてお前では駄目な理由があるかも知れん。
例えば俺は事件の当事者だ。だが、お前はスカウトされただけに過ぎない。
そこの覚悟の違いがあるのかもな」
「そんな!俺はこの仕事を投げ出したりしないですよ!」
その言葉に剣崎は憤慨する。
「そう怒鳴るな。俺もお前の覚悟を疑っているわけではない」
橘はそんな剣崎を宥める。
「良く言いますよ。BOARDが壊滅して直ぐの時は止めるって喚いていたのは誰ですか?」
そんな剣崎にシンが茶々を入れる。
「そ、それは……」
その言葉に剣崎は勢いを無くす。
今でこそは立派に戦っているが流石に最初からだった訳じゃない。
新人だったというのにBOARDは壊滅し、橘も居なくなったときは完全に自暴自棄になっていた。
状況を鑑みて仕方ない事態ではあったと言える。
「お前はそうやって人を怒らせるような事ばかり言って……」
それを聴いていたアスランがシンを嗜める。
「別にもう、これぐらいじゃ剣崎さんも怒りませんよ」
だが、逆にシンはその言葉に反抗する。
「あぁ、事実は事実だしな。それにあの時はシンにも迷惑をかけたしな」
剣崎は怒ることも無く受け入れる。
もう、些細なことで衝突する二人は居なかった。
「でしょ」
得意げにシンは告げる。
「やれやれ……全く、仲が良いな」
アスランはそんな二人を見て微笑む。
「時間は短いですけど大変な戦いを一緒に潜り抜けた仲ですから」
「そうだな。BOARD壊滅からずっと一緒に戦ってきたからな。
もう、何年も前から一緒に戦ってるような気分だよ」
そう言って剣崎とシンは互いに笑いあう。
幾多の困難を幾多の強敵を共に同じ戦場で潜り抜けて来た。
戦場で繋がる絆なら彼らはこの仲間たちの中で最も強い物だろう。
「なら、シンには質問しないのか?」
橘が剣崎に訪ねる。
「シンが戦う理由はもう、知ってますから。力が無くて戦えない誰かの為に戦う。それがシンの戦う理由だよな」
「えぇ。もう、俺みたいな思いをする人を作りたくない。だから、俺はザフトに入った。
俺にとって一番、強く見えたのがモビルスーツでしたからね」
シンが答える。
「なるほどな……お前たちは似ているな。自分の無力を悲しむだけでなく、それを許さず力を求め、それにより人を救おうとする。
あの日、シンがBOARDに派遣されてきたのは運命だったのかも知れないな」
「運命ですか?」
橘の言葉をシンは問い返す。
「あぁ、お前たちを見ているとそんな感じがするよ」
「運命……か」
シンはその言葉にどこか嬉しそうだった。
「運命……簡単な言葉だけどこれだけ重い言葉も無いな」
そこに翔が会話に入って来る。
その言葉を聴いてシンは少しむっとする。
「どういう意味だ?」
「決まった道なんて意味があるのかな?」
翔の言葉を受けてシンと剣崎は同時に口を開いた。

「決まった道でもそれが幸せなら良いだろ」
「何もかも決められてるって言うのは嫌だな」

相反する言葉。
それを聞いて二人は驚く。
だが、翔は何処か納得した様に頷き、その場を後にした。


「戦う理由ですか?」
士郎に稽古をつけていたセイバーに剣崎が尋ねる。
現在は休憩中だ。
暇があればセイバーはこうして士郎に剣術を教えていた。
剣崎やシンもセイバーと模擬戦をしたことがあるが誰も勝った者はいない。
セイバーは質問に対して真剣に悩んでいる。
「いや、答え辛いなら別に良いんだけど」
その様子に剣崎がそう言うがそれをセイバーは制す。
「いえ……もし、私の言葉が貴方の道を示せるのなら話しましょう。
出来れば、士郎も聞いて欲しいのですが」
道場の隅で休んでいた士郎がその言葉に顔を上げる。
「私が戦う理由……それは真名に通じることなので詳しくは言えませんが
私は与えられた役目を全うするために……人々を幸せにする為に戦っていました」
「与えられた役目?」
「それについては詳しく言えません。ですが、与えられたとは言え、その役目を全うしました。
ですから、貴方が仮面ライダーと言う役割を全うし戦っているという言葉、それが悪いとは私には思えない」
「それは君がそうだったから?」 
「はい。とは言え、私はその与えられた役割を完全にこなせた訳ではないですが……」
そう言い、セイバーは顔をしかめる。
悔しそうにその口元を歪める。
「セイバー?」
「いえ、何でもありません。今の言葉は忘れてください。
ですが、あの男が貴方を否定したとしてそれが正しいとは限らない。
必要なのは自分の決めた事を全うすることだと思います」
「自分の決めた事か……」
剣崎はそう呟くと空を見上げるかのように顔を上げる。
「俺は剣崎さんの決めた仕事。凄くカッコいいと思いますよ」
士郎がそんな剣崎に言葉をかける。
「人を助けたいって思ってその仕事についてそれをこなしてる。
出来る人なんて殆ど居ないと思います」
「ありがとう。そう言えば、士郎はどうして戦っているんだ?
聖杯戦争には巻き込まれたとは言え、それよりも前から俺たちにこの家を貸してくれたり色々としてくれてるけど。
俺は今まで単純に良い奴だって思ってたけど、実際に何か理由があるのか?」
「俺は……正義の味方になりたいんです。人を救うヒーローに。
それで剣崎さん達はそういう俺が望んでいたヒーローそのものだったからそう言う人たちの手伝いが出来れば俺も正義の味方に近づけるって思って。
今はまだまだ、全然ですけど俺も皆の役に立つようになりたいんです」
「ヒーローか。俺もそうなりたいって思ってたな」
「何を言ってるんですか。剣崎さんはヒーローですよ!」
士郎の言葉に剣崎は少し困ったような笑みを見せる。
「ありがとう。それじゃ、二人とも俺は行くよ。特訓の邪魔して悪かったな」
剣崎は二人に礼を言うとその場を後にした。


夕焼け空が広がる。
今日は特に問題も無く一日が終わろうとしていた。
縁側で一人、剣崎はスペードのAを手にし眺める。
「まだ、答えは見つかりません?」
その横にセイバーが正座で座る。
「セイバーか?珍しいな君から話しかけてくるなんて」
どちらかというと起きている事の方が珍しいのだがそうは言わない。
「私たちの他にも色々と聞いていたようですね。
自分の出した答えに疑問があるのですか?」
「いや、俺の言った言葉は本音だ。それを偽るつもりも無い。
だけど、こうして色々と皆の戦う理由ってのを聞いてみて俺たちは一緒に戦ってるけど違うんだなって思ってさ。
シンは自分のように戦争で家族を失い泣く人たちを作りたくないから。
カズキは大切な人たちを護りたいから、なのはは自分の力で誰かの力になれるから。
聞けなかったけど霊夢や真紅もそれぞれ戦う理由があるんだよな。
俺たちは一緒にずっと戦ってきた。だけど、それぞれに抱えている物は違う」
「それで貴方は不安になりましたか?」
「いや、全然、そんな事は無いんだ。
俺が皆の戦う理由を聞いて分かったことは結局、自分の理由を他人から求めることなんて出来ないって事だし。
それに結局、俺たちは根本的な所では同じだしな。誰かを救いたい助けたいって。
俺たちは人間だから……助け合い協力するのは当然の事だし」
「人間だから……一真、貴方に一つ聞きたいことがある」
「俺に?」
「もし……そうですね。
シン・アスカが貴方を裏切り反旗を翻したなら……貴方ならどうしますか?」
「シンが俺たちと敵対するなんてある訳が……」
「これは仮定の話です。それに絶対なんて無い。
人はそれぞれに抱えるものがある。護るべきものがある。
そして、人は変わっていく生き物だ。
今は共に同じ道を歩んでいるとしてもそれが永遠に続くとは限らない。
何れ道は別れ、二度と友と呼べなくなるかも知れない。
その時、貴方はどうする、剣崎一真」
「……その時は俺もシンもどっちも幸せになれる道を探したい。
もし、そういう風になってしまったとしても諦めたくない」
「貴方は傲慢だ。全てを救う道などありはしない」
「そうかも知れない……だけど、諦めたらそこで終わってしまうから」
剣崎は臆面もなくそう答える。
その言葉に嘘偽りは無い。
「……何となくあの男が言いたい事が分かった気がします」
セイバーは彼の強い意志を感じ呟くように紡ぐ。
「それは?」
「貴方は嘘を言っているわけではない。だが、気づいていない。
その強い気持ちが折れぬことを私は願います」
セイバーはそう言うと立ち上がる。
「セイバー?」
「答えは貴方自身で見つければ良い。大丈夫ですよ、貴方なら絶対に見つけられる」
セイバーの表情は何処か嬉しそうでもあり、何処か悲しそうでもあった。


深夜
真っ暗な空が世界を包み込む。
空は大きな雲が完全に多い、空に星も月も何も見えなかった。
街頭とビルの光、人の作り出した光はそんな闇の世界も照らし出す。
闇を恐れぬ人の夜。
だが、その中で人にあだなす闇が蠢く。

衛宮家の電話が鳴り、士郎がそれに出る。
「もしもし」
「士郎か?丁度、良かった。話したいことがあるんだ。
ちょっと、聖サンジェルマン病院まで来てくれないか?」
「睦月か……病院に来てくれって何があったんだ?」
「……慎二、居るだろ。見ちゃったんだ。あいつが自分の妹に酷いことしてるのを……
それでかっとなって……」
「妹って桜の事か……ひどいことってあいつ何したんだ」
「俺の口からは……とにかく、お前には相談したいんだ」
「わ、分かった!」
電話越しからただ事ではないと士郎は感じると了承し受話器を置く。
そして、直ぐに身支度を整えて家を飛び出す。
「何処に行くんだ?」
丁度、入れ違い家に入ってきた翔が士郎に尋ねる。
「あ、ちょっと用事が出来てさ。夕食は食卓にラップかけて置いてあるからすまないが勝手に食べててくれ!」
そう言って士郎は慌てて走っていった。
その後姿を翔は不思議そうに眺めていて。

病院の前で士郎は睦月と合流する。
「ぜぇぜぇ……一体、何があったんだ?」
「どうしよう士郎。慎二の奴、意識が戻らないんだ」
「意識が……そんなに強く殴ったのか」
「いや、でも倒れたときに当たり所が悪かったらしくて……とにかく、中に入ろう」
「あ、あぁ……」
慌てている睦月。
士郎はその言葉に従って案内されるように病院へと歩いていく。

病院内に入って士郎は違和感を感じる。
不思議なほどに病院内は静としていた。
いくら夜間だとは言え、人の気配が無さ過ぎた。
「睦月、何か可笑しくないか?」
士郎は睦月に声をかける。
だが、睦月は答えない。
「睦月?」
違和感が膨れ上がっていく。
だが、もう既に遅い。
そこは既に大蛇の内部。
逃れる術は無い。


それから数時間後。
日が入れ替わる時刻。
剣崎、橘は病院にやってきた。
睦月からの連絡を受けて。
「ここか……」
「何で睦月はこんな事を……?」
剣崎が橘に尋ねる。
睦月からの連絡はこうだった。
今すぐに病院に剣崎と橘の二人だけで来い。
もし、他の人物が確認されれば士郎の命は無いと思え。
剣崎と橘はそれぞれにその連絡を受けて誰にも告げずにここにやってきていた。
「分からない……危ういとは感じていたがこうも直接的に敵対をしてくるとは思っていなかった」
「やっぱり、レンゲルのライダーシステムは危険だったんじゃ。元々、伊坂が作ったものですし」
「それは分からない。烏丸所長も詳細を把握していた訳では無かったからな。
だが、こうなった以上、どうにかしてでも睦月からライダーシステムを奪わなければならない」
「はい……でも、それよりも士郎を助けないと」
「分かっている。あまり直情的になるなよ」
二人はお互いに気を引き締めると病院内に踏み込んだ。

病院内は完全に真っ暗だった。
それだけではない。
人の生気を一切感じず、そして、二人は体に違和感を感じた。
まるで溶かされるかのような感覚。
「何が起こっている?これも睦月の仕業なのか?」
剣崎は焼かれるような痛みに耐えながらあたりを見回す。
「さぁ?どうでしょうね?」
闇の奥から乾いた音と共にレンゲルが歩み出る。
その手には鎖が握られ、その先には士郎が拘束されていた。
士郎は気絶しているのか引きずられるままになっている。
「睦月!士郎!」
それに気づいて剣崎が叫び駆け出す。
だが、士郎の頭にレンゲルラウザーが向けられる。
その動作に剣崎は立ち止まった。
「それで良い。こっちは士郎の命を握ってるんだ。変な動きを見せたらどうなるか分かっているな?」
睦月の言葉に剣崎は憤る。
「睦月!何でこんな真似をする!」
「理由は簡単だ……あんた達を倒すためだよ!
ラウズアブゾーバーだったな。そんな物でパワーアップされると面倒なんだ。
だから、今のうちに仕留めさせて貰う」
レンゲルは鎖を離すと前へと歩み出る。
その行動に剣崎と橘は身構える。
「そうだな……変身はしても良い。生身のお前たちを嬲ったところで直ぐに終わってしまうからな。
仮面ライダーのお前たちを倒して俺が最強だと証明してやる!」
「人質をとっておいて何が最強だ!」
剣崎が睦月の言葉に吼えるが橘はそんな彼を制止させる。
「止めろ。気持ちは分かるが従うしかない……」
橘はそう言うとギャレンバックルを装着し、ギャレンへと変身する。
剣崎も同じようにブレイドへと変身した。
「そうだ。それで良い。そうでなければ……倒し甲斐は無い!」
レンゲルはレンゲルラウザーを容赦なくギャレンに振り下ろす。
その一撃にギャレンはたじろぐ。
そして、始まるのは一方的な暴力。
何も出来ない者への一方的な攻撃。
それは戦いなどではない。
「良い気味だな、橘!」
嬉しそうに声を上げて、自らの力を振り回して睦月は行為を加速させていく。
橘はそれを一方的に受け入れるしかなかった。

その様子を悔しそうに見ながら剣崎は次第に士郎へと距離を詰めようとする。
睦月は橘を攻撃しながら次第に士郎から距離を空けていっている。
その隙を突こうとしていたが
「それ以上は近づくなよ」
闇夜から少年の声が聞こえた。
「仲間が居たのか!」
その姿を確認して剣崎は驚く。
その少年、慎二は士郎の喉下にナイフを突きつけながら息を漏らすように笑う。
「まさか、人質を完全に放り出すほど馬鹿じゃないんだよ」
「よせ!何でそんな事をするんだ!?」
「何で?それはお前たちが邪魔だからだよ。仮面ライダーだかなんだか知らないけどな。
勝手に聖杯戦争に入ってきて、その全てをぶち壊そうとしてるんだからな」
「聖杯戦争……君はマスターなのか」
「まぁ、そうなるな。もちろん、士郎がマスターなのは知っている。
当然、こいつは殺さなきゃならない。とは言え、こいつも一応、友達だしなお前たちが死んでくれて、こいつも聖杯戦争から降りるって言うなら生かしておいてやる。
正義の味方が協力者を見殺しにするなんて事はしないよな?」
慎二の言葉に剣崎は即決して頷いた。
「当たり前だ。士郎は絶対に死なせはしない!」
きっぱりと言い切る。
その悩みの無い言葉に慎二は驚く。
「狂ってるのか?こいつを死なせないためにはお前は死ななきゃならないんだぞ?」
「あぁ、死なせない。それに死ぬつもりも無い。
敵だった相手を救うよりもよっぽど簡単だ。
それぐらい出来なければ俺はあいつらに顔向け出来ないからな」

「剣崎も状況を理解してないようだな。お前たちに選択肢なんてないんだよ!」
ギャレンをいたぶりつつ睦月は剣崎の言葉に反応する。
その視線はその瞬間、ブレイドに向けられていた。
その隙を突いて橘はギャレンラウザーを取り出す。
「剣崎!今だ!」
橘は振り向きざまに即座に狙いを定めてギャレンラウザーを発砲する。
狙いは慎二の持つナイフ。
その位置はレンゲルの腋を抜けねば狙えない位置だ。
そして、距離は遠く、視界も悪い。
悪条件の中、たった一瞬、写った景色から判断して引き金を引く。
その弾丸は真っ直ぐに慎二のナイフだけを撃ち抜いた。

橘の声と同時に剣崎は走り出していた。
だが、それを迎撃しようと天井の陰から何かが飛び出してくる。
剣崎はそれを左の腕で受けると右手でブレイラウザーを抜き、振るう。
その剣閃は士郎を捕らえていた鎖だけを綺麗に切り離す。
そして、その勢いを利用して天井に潜む何かに対してブレイラウザーを投げつけた。
それを避けるように天井から何かが飛び降りてくる。
紫色の長い髪に両目をバイザーで覆った長身の美女が降りてくる。
騎兵の英雄ライダー。
それは顔をブレイドへ向けている。
「お前がサーヴァントか……」
剣崎は拳を構える。

「な……」
その一連の出来事に睦月は唖然とする。
たった一瞬の隙。
それだけで人質は奪還されてしまった。
戦況としては完全に五分となっている。
恐るべきは橘と剣崎の戦闘技術だった。
完全に見誤っていたのだ。
その実力を……
彼らが強いのはライダーシステムのおかげだけではない。
その技量もその力を持つものとして相応しいものを有していた。
それを見抜けなかった事。
そもそも、人質を取っていて完全に気が大きくなり変身を許してしまった。
それが最大の失敗だと言える。

「睦月!どうするんだよ?」
慎二はそそくさと壁際に退避して叫ぶ。
その表情に余裕など無く怯えている。
「五月蝿い!まだ、一対一なんだ!そっちはどうにかしろ」
睦月はレンゲルラウザーを握りなおす。
確かに人質は奪還されたが相手は同数。
それに先ほどまでのダメージを考えれば確実に睦月が有利なのだ。
だが、その均衡を破るように乱入者が現れる。
しかし、それは睦月にとって僥倖とも言える事態だった。

「やれやれ……折角、労せずに仮面ライダーを一気に倒せると思ったんだけどなぁ。
てめぇ、詰めが甘すぎるな」
それは一体のアンデッドだった。
その手には巨大な槌を持つ、見るからにパワー型のアンデッドだ。
「アンデッドだと!?」
その登場に橘は驚く。
完全に予想外だった。
「まぁ、今なら確実に倒せる。今までの戦いは見させてもらったからな」
そう言うとエレファントアンデッドは真っ直ぐにギャレンへと向かう。
「なっ!?」
容赦ないその槌の一撃にギャレンの体は大きく弾き飛ばされた。
その体は宙に舞い、柱に激突してその柱を粉々に砕く。
「ぐっ……」
ギャレンは破片の中からどうにか起き上がるがそのダメージはかなり大きかったのは見て取れる。

「ど、どうするんだよ!?」
慎二はその事態を見てパニックを引き起こしている。
だが、睦月は逆に笑っていた。
「これは良いぞ。あいつを利用して確実にあいつらを倒すんだ」
「あいつはこっちも狙ってくるんじゃないのか?」
そうかも知れないが最初に狙われたのはギャレンだ。
なら、確実にあいつだけは潰せる。
お前はライダーを使ってブレイドの足止めをしろ!」
そう告げると睦月はギャレンへと向かっていく。
「そうはさせない!」
しかし、それを止めようとブレイドが立ちふさがる。
「どいて下さいよ。剣崎さん」
「お前を先に行かせる訳にはいかない」
「そうですか……それじゃ、良いことを教えてあげますよ。
剣崎さん、ここに入ったとき何だか違和感を感じませんでしたか?」
「焼けるような痛みを感じたけど……」
「それはそこのサーヴァント・ライダーの宝具の力ですよ。
結界内の人間を溶かして自分の魔力に還元する。
結界は病院全体を覆っています。一般的な人間でも完全に死ぬまでには時間がかかるらしいですけど……
病人はどれぐらい耐えられるんでしょうね?」
その言葉に剣崎は驚愕する。
士郎を人質にとっていただけでなく病院内の人間全てを殺そうとしている。
それも自分の私利私欲の為だけに。
激しい怒りが剣崎を襲う。
だが、それ以上に人を救わなければならないという気持ちが強くなる。
そして、自然と視線はライダーに向けられた。
「そうですよ。彼女を倒せば止められる」
睦月がそう言うと慎二は慌てふためく。
「睦月、お前は裏切ったのか!?」
「馬鹿か、こうなったらブレイドはライダーを倒さなければならない。
時間を稼げ、その間にギャレンを倒したら援護しに行く」
「な、なるほど……ライダー、僕を連れて逃げろ。距離を開くんだ」
慎二が命令するとライダーは慎二を抱えて逃げ出す。
「待て!」
剣崎は後を追おうとするが橘の方を見る。
ここでライダーを追えば橘はエレファントアンデッドとレンゲルの二人を相手にしなければならない。
「追え!剣崎!ここは俺一人でどうにかなる!」
橘はどうにかエレファントアンデッドの攻撃を回避しながら叫ぶ。
とてもではないが防戦一方で勝てる様子は無い。
「……分かりました!」
しかし、それを受けて剣崎は走り出す。
「格好をつけてますけど……本当にどうにかなると思ってるんですか?」
睦月は苛立たしげに橘に声を投げかける。
「さぁな……」
ギャレンは不意に食らったハンマーの一撃に弾かれて床に転がる。
だが、それでもまだ、立ち上がる。
「しかし、ここには大勢の患者が居る。その中に早坂桜花もな。
もし、彼女を死なせてしまえば俺は蒼星石に会わせる顔が無い。
なら、命がけでも護って見せるさ」
ギャレンラウザーをレンゲルへと向ける。
しかし、傷つきふらつく腕では明確に狙いがつけられない。
レンゲルは銃撃を回避しながらギャレンへと接近する。
ギャレンはレンゲルラウザーを回避して距離を空ける。
だが、そこに割り込むようにエレファントアンデッドが割り込んできた。
「まずは一人目だ!」
そして、トドメとばかりに大きくハンマーが振り上げられた。
「ここまでか……」
その様子を目の当たりにしても橘の体は動かない。
傷つきすぎた体を突き動かすには時間が足りなかった。
確殺の一撃、それが突き刺さろうとする。
しかし、それは届かない。
見えない刃が槌を食い止める。
白銀の鎧に蒼い衣に身を包んだ、金髪の美少女がその一撃を食い止める。
「諦めが早いのでないですか、朔也?」
セイバーはギャレンを護るようにエレファントアンデッドの間に入り込み攻撃を受け止めていた。
「セイバーだと!?連れてきていたのか!?」
その登場に睦月は驚く。
伏兵の存在は懸念していた。
だから、先にライダーに周囲の確認を行わせていた。
だが、何の報告も無かった。
だから、本当に剣崎と橘は二人でここに来ていたと思っていた。
「それは違うよ。睦月」
その言葉に睦月は振り向く。
その先には真っ直ぐに立つ士郎の姿があった。
そして、その手の甲を睦月に見せる。
士郎の手に刻印されている聖杯戦争のマスターの証である令呪。
輝きを放つその一つが消えていた。
聖杯の力を借りてサーヴァントに強制的な命令を行えるその力が行使されたことを示す。
「お前が呼んだって言うのか!?」
「あぁ……睦月、お前がどうしてこんな事をしでかしたのかは分からない。
だけど、お前が剣崎さんや橘さんを殺そうって言うなら。
俺が戦ってやる!」
士郎はそういうと意識を集中する。
魔力回路に魔力を流す。
焼けるような痛み。
だが、それで集中は乱しはしない。
戦うために、共に戦場で戦うために、魔術師として研鑽してきた力を解き放つ。
「投影、開始―――」
士郎の持つ魔術。それは投影と呼ばれる術。
魔力によりイメージした物体を作り出す。
士郎はその魔術に特化した回路をもち、その中でもとりわけ、剣の投影を得意とした。
士郎の脳裏がイメージする剣は決まっていた。
目の前の相手と戦うのに最も適した剣。
それはひとつしか思い浮かばない。
そして、それをイメージするには容易いほどにその勇姿を見続けていた。
この短期間の間に焼き付けるほどに見続けていた。
それは不死生物を切り裂く、現代の技術の粋を集められ作られた剣。
地上の物質に切れぬ物は無いオリハルコンプラチナを研鑽したオリハルコンエッジの刃。
士郎が手にしたのは現代の英雄が振るいし、醒剣ブレイラウザー!
「ブレイラウザー……それがお前の魔術か、士郎!」
レンゲルは士郎に襲い掛かる。
士郎はブレイラウザーでレンゲルラウザーを受け止める。
だが、根本的な力の差からその体は吹き飛ばされる。
「いくら、武器を握ろうと……扱うのが人間ならそんなものか」
睦月はその手ごたえの無さに笑う。
士郎はブレイラウザーを杖代わりに立ち上がる。
ブレイラウザーは先ほどの一撃で既にヒビが入っていた。
「ラウズ機能だけじゃなくて剣自体も完全にコピーできないか……でも!」
士郎は新たなブレイラウザーを投影する。
そして、先ほどのブレイラウザーは投げ捨てた。
「お前に届くまで何度だってやってみせる!睦月、お前は俺が止める!」
士郎はブレイラウザーの切っ先を睦月に向けた。

「士郎!」
その姿を見てセイバーは不安そうにしている。
「余所見をしてるならそのまま潰すぞ!」
エレファントアンデッドは荒々しく槌を振り下ろす。
セイバーはそれを何とか弾いて凌いでいるが次第に消耗していくのを感じていた。
その体格こそバーサーカーに比べれば小柄だとはいえ、そのパワーはほぼ対等と言っても良いだろう。
そして、何より厄介なのが狂っているバーサーカーと比べて……
いや、今まで戦ってきた上級アンデッドと比べてですらその敵の技量は上だった。
力強く振るう槌も攻撃に隙は無い。
そして、極僅かな隙を突いたところでセイバーの剣はエレファントアンデッドの重装甲に阻まれ致命傷には限りなく遠い。
「強い……」
セイバーは素直に感心していた。
これほどまでの強敵は殆ど居ないだろう。
「人間とは何か違うな」
エレファントアンデッドは攻撃を少し緩めそう呟いた。
「私は英霊……ただの人間と侮っているなら確実に足元を救われますよ」
セイバーは不適に笑う。
だが、余裕からの言葉ではない。
余裕など完全に無いのだから。
だが、それでも気持ちを強く持つために弱音は見せはしない。
「英霊……なるほどな。つまり、順調に計画は動いてるって訳か」
しかし、その言葉にセイバーは驚く。
「計画?何のことを言っている?」
「何だ。知らされてないのか……となると、完全に決めた訳じゃないのかもな。
なら、ここで力を示せば神々も人間を見限る可能性はある訳だ」
「神々……お前は英霊についても知っていると言うのか!?」
「説明するのはめんどくせぇな。てめえはここで潰れるんだ。さっさと座に帰っちまいな。
まぁ、直ぐにその座もお前たち、人間の物じゃ無くなるけどな!」
エレファントアンデッドは再び攻撃の手を開始する。
「まさか、アンデッドの統率者と英霊の座の意思は同一のものなのか?」
セイバーはそれでも再び問いかける。
「何か知りたいなら他の上級アンデッドにでも尋ねてみるんだな!
奇特な奴なら答えてくれるかもな!」
「なるほど……それは良いことが聞けた!」
セイバーはその言葉を聞いて再び戦いに身を入れる。


病院の廊下でブレイドとライダーは戦っていた。
飛んでくる鎖をブレイドはブレイラウザーで叩き切る。
「お前の宝具がこの結界を作り出してるって言うなら、お前さえ倒せれば!」
ブレイドは一気に攻め立てる。
ライダーは完全に防戦に回っていた。
ブレイドはライダーのどの攻撃も全て真正面から叩き潰した。
剣崎は今までに無い程に力の高まりを感じていた。
人の生気を吸収するという結界も全く問題としない。
「うおおおおお!!」
ブレイドの拳がライダーに突き刺さる。
その一撃にライダーの体は吹き飛ぶ。
「ぐっ……強い……アンデッドと融合しているとは言え、これが人間の力だと言うのか」
ライダーはそのブレイドの力を感じ、呟く。
今のブレイドに太刀打ちできる存在がこの世界にどれほど居ると言うのか。
その全てを開放しなければ英霊と言えども太刀打ちできる相手ではない。
「お前たちが人を道具として利用するのなら。容赦をするつもりは無い!」
ブレイドはトドメを刺そうとカードホルダーを展開する。
「止めろ!」
だが、それを制止する声が聞こえ、ブレイドは動きを止める。
その目には少女に割れたガラスの破片を突きつける慎二の姿があった。
「俺の言いたい事は分かるだろ」
ブレイドはブレイラウザーから手を離す。
「そうだ。それで良い。ライダー!」
慎二が叫ぶ。
「……流石に貴様の存在を見過ごす訳にはいかない」
ライダーはブレイドに接近するとその拳を叩き込む。
だが、ブレイドはひるみはするが倒れない。
それを見るとライダーはブレイドの仮面を掴むとそのまま壁に叩きつけた。
「ははは……最初からこうすれば……」
慎二は笑う。
だが、余裕などは無い。
相手をしてみて分かる。
その強さを。
都市伝説の英雄。
それは英霊にも勝るとも劣らない強さを持っている。
自らが使役するサーヴァントでは勝てないという事も悟っていた。
だから、小細工をする。
真正面からのぶつかり合いでブレイドを制することが出来るサーヴァントがいるならセイバーだけだろう。
だが、それも目の前で一方的にいたぶれる。
どんな存在も完璧ではない。
「や、止めてください……なんでそんな酷い事が出来るんですか?」
慎二に拘束される少女が涙を流しながら訴えかける。
目の前で繰り広げられる一方的な暴力。
その原因が自分のせいだと分かっている。
その罪悪感と無力感、彼女に涙を流させる。
「五月蝿いな。あんな化け物に勝てるわけが無いだろ」
「……攻撃してください!私はどうなっても大丈夫やから!」
少女は叫んでいた。
足を引っ張り、何も出来ないぐらいならと。
「心配しないで。大丈夫だから。君は必ず助けてみせる」
剣崎はふらつきながらも立ち上がりそう応えた。
その言葉は力強く。
自然と少女は安心できた。
「……お前は何なんだ!何でそんな事が出来る!」
慎二は信じがたい物を見たように動揺する。
目の前の存在は果たして人だと言うのか……

剣崎は慎二の言葉と態度を受けて痛みの中で思考する。
嶋の問いにそれは似ていた。
何故、戦っているのか?
仕事だとすればそれは可笑しい。
仮面ライダーの仕事はアンデッドを封印することだ。
だとしたらサーヴァントは関係ない。
そうだ。
そもそも、前提として可笑しい。
戦いの動機として仕事が当てはまるはずが無いのだ。
なぜなら、そもそも、人を救うためにこの仕事に就いたというのに。
戦っているのは業務だからかも知れない。
だが、戦う業務を選んだのは何故か?
遠い日に家族を火事から救えなかったことか?
確かにその無力感は刻み込まれている。
だけど、違う気がした。
これまでずっと生きてきて、何度も騙され酷い目にあっても変わらなかった。
信じているから……いや、知っているから。
人は素晴らしい生物だと。
この地球に生きていく尊い存在なのだと。
だから、この職業を選んで……
そして、その中でその思いは前よりもずっとずっと強くなっていた。

「俺は人を愛している。だから、戦っているんだ。
仕事だとか義務感だとかじゃない。
俺の魂が人を救いたいと願っている。想っている!
だから、俺は決して倒れたりはしない!」
剣崎は自分の魂のあるべき場所、根源を探し当てる。
嘘偽りが無いだけじゃない。
真実が乗った言葉としてそう告げる。

「だ、だから何だって言うんだ!人を救いたいって言うなら、人の為に死ね!」
慎二が叫ぶ。
理解が出来ない、それは恐怖へと変わる。
「確かに理解できないわぁ」
そんな慎二の目の前に漆黒の羽が舞い降りる。
唐突な事態に慎二は目を見開き上を見上げる。
そこには巨大な翼を広げた美しい人形が浮かんでいた。
その姿にまるで魂を吸い取られたように慎二は見とれる。
「だけど、明確に邪魔なあんたよりはマシよ!」
水銀燈はその羽で慎二の手を切りつける。
その衝撃にガラス片は離れ、少女は解放された。
少女は懸命に上半身で這いずり、前へと出て叫ぶ。
「やってまえ!仮面ライダー!」

「!」
ライダーはその事態を見て、マスターを助けに出ようと考える。
だが、ライダーの体は動かない。
その腕はブレイドに掴まれていた。
「もう、お前たちに誰も傷つけさせはしない。貴様の吸血結界を破壊する!」
ブレイドはその拳を顔面に叩き込んだ。
その衝撃にライダーは弾き飛ばされ廊下の端の壁へと突き刺さる。
その隙に剣崎はブレイラウザーを拾い上げた。
そして、即座に飛びかかろうとする。
だが、目の前のライダーの眼前に血で描かれた魔方陣が浮かんでいた。
その魔力の高まりを異様な威圧感で感じ取り剣崎は立ち止まる。
単純に向かい合っては駄目だと本能が告げる。
「魔力は殆ど無いですが……ここで切らねば貴方を倒すことは出来ない!」
ライダーのバイザーは解き放たれその両の眼が剣崎を睨み付ける。
それと同時に剣崎の体が重くなっていく。
「やはり、石化の効きはほぼ無いか……だが、足止めになった」
ライダーは覚悟を決めるとその魔力を開放しようとする。
剣崎はその場から飛びのこうと考えたが背後に居る少女を見る。
少女は逃げようとしているが足が動かないのか殆ど動いていない。
水銀燈がそんな少女を引っ張り出そうとしているが間に合いそうに無かった。
それを見て剣崎は一つのカードを取り出しラウズする。
それと同時にライダーは宝具の真名を解放した。
「ベルレ・フォーン!」
魔方陣から閃光のようなものが放たれる。
そうとしか剣崎には認識できなかった。
そして、それは即座に剣崎の視界を多い、その体に強烈な衝撃を浴びせる。


階下で戦っていたセイバーと士郎はその衝撃を感じ頭上を見上げる。
「決着はついたみたいだな……だが、結界は解かれていない。
つまり、ライダーは生きている。どうやら、俺たちの勝ちらしいな」
レンゲルは勝ち誇ったように告げる。
その眼前には慢心相違の士郎の姿があった。
橘はダメージの限界から倒れている。
「馬鹿を言うな!剣崎さんが負ける筈が無い!」
士郎は叫ぶ。
だが、確証は無い。
状況だけでは余り好ましい状況には感じなかった。
「その通りだ……あの者がそう簡単に敗れるはずが無い!」
セイバーも士郎の言葉を肯定する。
その彼女もエレファントアンデッドの戦いで疲労の色は濃かった。
「だけど、現にあの男は死んだ」
そこに慎二が戻ってくる。
その登場に士郎とセイバーの動揺が大きくなる。
「やったな、慎二!」
「あぁ、睦月。俺たちの勝利だ。一気に止めを刺す。そいつらを全員、外に放り出せ!」
「了解した。そこのアンデッドも協力しろ!確実に勝利したいんならな!」
レンゲルは一気に士郎との距離を詰めるとそのまま外へと向かって弾き飛ばす。
「やれやれ……仕方ない」
エレファントアンデッドもそれが妥当だと判断し、地面に槌を叩き付けた衝撃波でセイバーを弾く。

「ぐっ……」
セイバーと士郎はそのまま病院の外まで押し出される。
「何が狙いだ?」
セイバーは即座に外を見渡す。
そして、上空にそれを見つけた。
曇天の夜空に映える純白の毛並みのペガサスが上空を飛んでいる。
その背中にライダーが騎乗していた。
「あれがライダーの乗騎。先ほどの衝撃はライダーの宝具の発動だったのか」
セイバーは事態を飲み込むと即座に士郎へと視線を移す。
「そんな……剣崎さんが……」
ショックの隠せない士郎は意識を集中していない。
セイバーは直ぐに士郎へと飛び掛ろうとする。
だが、その前にエレファントアンデッドが立ちふさがる。
「邪魔をするな!」
セイバーは強引に突破しようとするがエレファントアンデッドの護りは鉄壁だ。
それを抜くことは容易くない。
「今だ!先にマスターを仕留めろ!ライダー!」
慎二はそれを確認して叫ぶ。
するとライダーは士郎に向かいペガサスを向ける。
「!」
士郎はそこでライダーに気づくが遅すぎる。

―――ベルレ・フォーン―――

強力な魔力の障壁を纏ったペガサスは驚異的な速度で士郎、目掛けて降下突撃を実行する。
「士郎!」
セイバーが叫ぶが士郎の足では回避は不可能。
そして、閃光が地面に炸裂する。
地面は抉れ、巨大なクレーターが出来上がる。

「やったか!」
慎二は叫ぶが土煙が晴れて見えた中に士郎の姿があった。
「あれを回避したのか……なっ!?」
その姿を見て驚愕する慎二だが直ぐに原因に気づく。
だが、それは更なる驚愕をもたらした。

士郎は衝撃に目を回していたが直ぐに意識を取り戻す。
「くっ……生きてるのか?」
士郎は腕の痛みを感じるがそれ以外に傷を感じなかった。
だが、直ぐに気づく。
何もなくここまで軽症である筈が無いということに。
「あ……あぁ!」
士郎は目を見開く。
その横に立つ姿を見て士郎は自然と涙を流していた。
「大丈夫か、士郎?」
紫紺の鎧に身を包みし剣の仮面ライダー。
その男の姿がそこにあった。

「お前はライダーの宝具の直撃を受けて死んだはずだ!?」
慎二は叫ぶ。
「確かに普通のブレイドだったらあの攻撃には耐えられなかったと思う。
だけど、あの時、俺はメタルのカードをラウズして攻撃を防御したんだ」
剣崎はそう告げながら前へと歩み出る。
「だけど、お前の攻撃はライダーへは届かない!どうやって対処するつもりだ!?」
慎二は吼える。
剣崎は上空を飛ぶペガサスを確認する。
「なら、この力を使わせてもらう」
剣崎は左腕に装着されたラウズアブゾーバーを見せる。
「それは!?」
それを見て士郎が驚く。
「イーグル、カプリコーン……お前たちの力を使わせてもらうぞ!」
ブレイドはラウズアブゾーバーにスペードのQ・アブゾーブカプリコーンを挿入する。
そして、スリットにスペードのJ・フュージョンイーグルをスラッシュした。

――――アブゾーブクイーン――――
――――フュージョンジャック――――

それと同時にブレイドの眼前に黄金のイーグルのエレメントが出現する。
それはブレイドの体を通過した。


それと同時に剣崎の意識は白い空間に飛ばされる。
そこは真っ白な世界だった。
目前は大きな木が立っている。
それ以外には何もない。
余りにも殺風景な世界だった。
「ここは……?」
剣崎はあたりを見回す。
すると何もなかった空間に突如として二体のアンデッドが出現した。
「やれやれ……少し前までの貴方だったらこの瞬間にその体を奪い取っていたんですが」
「今じゃ無理になっちまったがな」
イーグルとカプリコーンがそれぞれに声をかける。
「やっぱり、お前たちも俺の心の中に封印されているのか」
剣崎は過去に入った橘の夢の世界を思い出す。
「正確には違いますがそれに近いことです。
今はアブゾーバーの力で融合したことで貴方の精神に語りかけている状態ですが」
「お前に言いたい事があってな」
二人の様子に剣崎は身構える。
「アンデッドと融合しその力を行使する事。その意味を知って欲しい。
私たちはかつて、全ての生命が一つだったころに52に分割された存在」
「それを使うって事は地球に存在する生命。その力と意思を背負うって事だ。
人間だけでなくな」
「流石に全ての生命を尊び、何も殺すなとまでは言いません。
ですが、一つだけ約束して欲しい」
「アンデッドが……いや、生命が最も望むこと。生きる事。
この世界に無意味な死をもたらすな」
イーグルとアンデッドは剣崎を見つめる。
「無意味な死?」
剣崎は問い返す。
「貴方はもう、知っているはずです。破滅の存在、それこそが我々、アンデッドの真の敵」
「その復活を許すな。そして、その影響の全てを討て。
それが無限の生命の力を持ったお前の運命だ。
破滅の存在の痕跡の全てを討て!」
それだけ告げると彼らの姿は消える。


剣崎の意識が戻る。
それと同時にブレイドの変身は完了していた。
ブレイドアーマーのいくつかがディアマンテゴールドの装甲に包まれ、背中にオリハルコンプラチナの翼が装着されている。
仮面ライダーブレイドにイーグルアンデッドの力が融合した姿。
それが仮面ライダーブレイド・ジャックフォーム!
「一撃で決める!」
それと同時にブレイドは翼を展開し、飛行する。
すさまじいスピードで一気にライダーに向かって上昇する。
「空の領域に踏み込むか……だが、そのような脆弱な翼で私の盾は貫けない!」
ライダーはそれを向かい討とうと魔力を高める。
「俺は多くの人を救うために……お前を討つ!ライダーのサーヴァント!」
ブレイドは上昇途中でカードバックルを展開しラウズする。
――――スラッシュ――――
――――サンダー――――
スラッシュリザードとサンダーディアーの力がブレイドに流れ込む。
ビートル、イーグル、カプリコーン、リザード、ディアーの五つのアンデッドの力が剣崎の中で融合する。
生命の力、魔力はブレイドの持つブレイラウザーに流れ込んだ。

【ライトニングスラッシュ】
【騎英の手綱-ベルレ・フォーン-】

電撃の剣と魔力の障壁が激突する。
ぶつかり合う二つの魔力と魔力。
それは空を輝かせ、無数の稲妻が周囲に散る。
押し合う力と力。
剣崎はそれを断ち切るように気合を入れた。
「ウェェーーイッ!!」
それと共にブレイラウザーはベルレ・フォーン毎、ペガサスとライダーを切り裂く。


「そんな……ライダーが……」
慎二はその場に膝をつく。
「逃げるぞ!」
睦月は慎二を連れてその場から撤退していく。
「待て!」
士郎はそれを追おうと思ったがセイバーの方を向いた。
セイバーはまだ、エレファントアンデッドと戦っている。
「やれやれ……使えると思ったがやはり、人間から派生した存在ではたかが知れているという事か……」
エレファントはあきれた様子で呟く。
「人間を侮っているようだがお前もその人間一人を倒せていないぞ。像の始祖よ」
そんなエレファントアンデッドをセイバーは挑発する。
「確かにそれなりにやるみたいだが……」
エレファントアンデッドも決定打を与えられずに完全に封殺されていた。

そこに剣崎が降りてくる。
だが、それと同時に変身は解除された。
「剣崎さん!」
士郎が駆け寄り、倒れる剣崎の体を支えた。
「大丈夫ですか?」
「すまない。だけど、流石に力を使いすぎた……」
そう告げると剣崎はそのまま眠りについてしまう。

その様子を見てエレファントアンデッドは笑みを浮かべる。
「なるほど……勝機はまだあるか!」
エレファントアンデッドは即座に狙いを剣崎に変えると突っ込んでいく。
「貴様ッ!」
セイバーは神速の踏み込みでそれを追い越すと剣崎と士郎を護るように身をさらす。
剣で弾こうとしたが間に合わなかった。
その鎧に槌は叩きつけられ、その体を弾き飛ばされる。
その余波で士郎と剣崎も弾かれた。
「セイバー!」
士郎が叫ぶ。
セイバーはどうにか剣を杖代わりに立ち上がるが鎧の胸部は完全に破壊されていた。
そこから血が流れ出ている。
「まだ、大丈夫です……」
セイバーはエレファントアンデッドを見据える。
「意外と頑丈だな。だが、次は無い。
流石にその仮面ライダーは危険すぎる。今、処分しなければ必ず脅威になる」
エレファントアンデッドはトドメを刺そうと近づいてくる。

「士郎……宝具を使います」
セイバーは士郎に告げる。
「それしかないか……それであいつを倒せるのか?」
「はい、必ず。やつらが永遠の命を持つとしても倒れない訳じゃない。
なら、私の宝具は必ず奴を切り捨てます」
「分かった。セイバー!」
士郎の叫び声と共にセイバーはインビジブル・エアの結界を解く。
それと同時にすさまじい突風が発生し、エレファントアンデッドの動きを止めた。
そして、透明だった刃は姿を現す。
それは神々しさを持った剣だった。
士郎はその刀身の輝きに目を奪われる。
人造ではありえない神秘的な意匠。
「彼らはこの世界に必要な人間だ……お前に殺させるわけにはいかない!
諦めろ、像の始祖生物よ。ここは人の世界だ!」
セイバーは自身の剣を肩にかける様に構える。

  エクス
【約束された―――

刀身から眩い光があふれ出る。
それは夜の世界を照らし出す

             カリバー
        ―――勝利の剣】

そして、振りぬかれた刃は膨大な光と熱を放射した。
それは一直線に突き進みエレファントアンデッドの体を切り裂き、飲み込む。
「うおおおおおおお!!」
エレファントアンデッドはそれを食い止めようとした。
だが、それはエレファントアンデッドの体を完全に飲み込む。

光が引いた後に残ったのは完全な消し炭となったエレファントアンデッドの体だけだった。
「……エクスカリバー」
士郎はその宝具の真名を聞いて驚く。
それだけでその英霊の真名を導き出せた。
だが、それは士郎を困惑させる。
「私の正体については帰ってから話しましょう。
まずは封印をしなければ」
セイバーはそう言うと剣崎の懐からプライムベスタを取り出し、エレファントアンデッドに投げつける。
だが、封印されない。
「むっ?このカードがあれば封印できるものだと思っていましたが」
セイバーはその事態に怪訝そうな表情を浮かべる。
「やっぱり、仮面ライダーじゃないと駄目なのか……」
士郎はどうにか剣崎を起こして封印してもらう。
そして、橘を回収し、警察と他の病院に連絡をしてこの場を離れた。


心の木
その根元でビートルアンデッドは佇む。
「破滅の足音は近い……お前が全ての生命の剣になるというなら。
俺はお前に勝利をもたらそう。
この死に穢れてしまった星の覇者。その英雄に」
彼は静かな世界を見据える。
彼は感じていた。
絶望の扉が開く日は近いのだと……
そう、知っていた。
自らの半身ともいえる存在が開くのだから。
この世界に破滅をもたらし、剣崎に絶望をもたらす扉が開く日が近いということを……

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