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博麗神社
幻想郷での役目を終えて剣崎たちは帰還すべく集まっていた。
カズキたちもそこに合流している。
黒い核鉄について、カズキの体に何が起こっているのかを剣崎たちに説明された。
「それでカズキはどうするつもりなんだ?」
剣崎がカズキに尋ねる。
「……今はまだ、答えは出ていません」
カズキは暗い顔で答える。
「そうか。もし、何か俺たちに出来ることがあったら遠慮なく言ってくれ。
俺たちは仲間なんだから」
剣崎はそう言いカズキの肩を叩く。
「はい、ありがとうございます」
カズキは笑って答えるがその笑顔に力は無い。
その姿にそれ以上は誰も何も言えなかった。
「それじゃ、さっさと帰りなさい」
霊夢はそう言うと外の世界と幻想郷を隔てる結界に穴を開ける。
「そういや、キチンと霊夢に帰されるのは初めてか」
シンがその穴を見て呟く。
「こう、ぽんぽん、外とやり取りが出来るものでは無いんだけどね。
一体、何のための大結界なのよって感じよ」
霊夢は今までの事を思い出してぼやく。
「ここまで来るとまだ、ここに来ることになりそうだな」
三度も邂逅したのだ。
彼らと幻想郷は宿縁で結ばれていると言っても良いだろう。
「こっちとしてはこれ以上、外でのイザコザを持ち出されるのは嫌なんだけどね」
「そんな風に言う必要は無いだろ。
俺たちはもう、仲間なんだからさ」
剣崎はそういうと霊夢はその言葉に驚く。
「はいはい!あんまり頼りにされても困るのよ。私は力が無い人の助けはするけど
あんた達みたいに強いのと肩を並べて戦う気は無いの!
というか、あんた達が助けを求めてくるような事態、もう殆ど無いんじゃない?」
「まぁ、俺たちも随分と強くなったし、他に仲間も増えたしな。
確かにそれでも霊夢たちに助けを求めないといけない事態は嫌だな」
剣崎はそれに同意して笑って答える。
「それじゃ、さっさといきなさい。これ以上、居座られると本当に腐れ縁になりそうよ」
霊夢に急かされて剣崎たちは幻想郷を後にする。
それを見届けてから霊夢は扉を閉じる。
「……?」
霊夢は何かを感じて辺りをキョロキョロと見回す。
「何か通ったような……気のせいよね」
霊夢は何か違和感を感じたが気にせずに扉を閉じてそのまま日常へと戻る。
AnotherPlayer
第二十八話「不確定の残滓」
衛宮家に戻り、幻想郷にて上級アンデッド一体の封印とサーヴァント二体の撃破を報告する。
そして、カズキの黒い核鉄についても。
黒い核鉄については錬金戦団にもその事が報告された。
「……錬金戦団か」
カズキは黒い核鉄の報告が終わった後に呟く。
その脳裏には別れ際のヴィクトリアの顔が浮かぶ。
錬金術の全てを憎んでいるという彼女。
そして、錬金の戦士に対してあからさまな敵意を向けていた。
最後に彼女はカズキにだけこう告げた。
戦団の全てを信用するな。死にたくないのなら……
その言葉が引っ掛かっていた。
「どうしたんだ?」
斗貴子がそれに気づいて尋ねる。
「いや、大丈夫。ブラボーはどうしてるかなって考えただけだから」
カズキはその問いに対して素直に答えなかった。
錬金戦団に所属している彼女に今、自分が感じている疑問を打ち明ける気にはならなかったからだ。
その日の夜
夕食も終えた頃、士郎が洗い物をしているとチャイムが鳴る。
「誰か出てくれ」
それに気づいて士郎が居間に向かって声をかける。
「仕方ないな」
それに答えてシンが廊下を歩いて玄関へと向かっていった。
シンが玄関を開けるとそこにはカズキが立っていた。
「カズキか、どうしたんだ?」
カズキが夜分に訪れるのは珍しい。
というよりも門限がある寮生活のカズキが夜間にただ、尋ねてくるのはほぼ無い。
「ちょっと、士郎と話がしたくて……士郎は?」
「今、洗い物してる。とりあえず、上がったら?」
シンがそういうとカズキはそれに応えて家の中に上がりこむ。
土蔵
士郎がセイバーの召喚を行い、毎日の魔術を特訓していた場所。
「それで話って?」
月明かりだけの薄暗い場所に士郎とカズキだけが立っている。
「うん……実は錬金術について気になる事があって」
「そういう事だったら斗貴子さんに聞いたらどうだ。それかもしくは遠坂にさ。
あいつも錬金術についてある程度、知識があるみたいだし」
士郎の答えにカズキは首を横に振る。
「知識として気になる事があるんじゃないんだ。
ただ、戦団っていう組織自体に気になる事があって」
「気になる事?」
「俺に黒い核鉄を教えてくれた子。ヴィクトリアって子が居るんだ。
彼女が戦団の全てを信じるなって言ってきた。
だけど、戦団は斗貴子さんやブラボーが居る」
「だから、疑えないって事か……
だけど、戦団っていうぐらいだからそれなりに大きな組織なんだろ。
だったら、やっぱり一枚岩じゃないんじゃないか」
「うん、そういうことだと思うけど……」
「……とりあえず、斗貴子さんとブラボーを信じるしかないんじゃないか?
それにもし、何かあっても俺や皆が居るだろ。
俺は何があってもお前の味方だ」
「士郎……ありがとう。おかげで楽になったよ」
カズキは少し気持ちが楽になった。
自分が感じている不安。それを友人と共有できたことで重荷が分割される。
「俺とお前の仲じゃないか。それにカズキには今まで、色々と助けられっぱなしだしな」
士郎も嬉しそうに答えた。
一人、先を良く友人の背中に少しでも近づく事が出来た。
そう、思えたから。
士郎はカズキを見送り、再び土蔵へと戻る道を行く。
何時も通りに魔術の訓練をする為に。
その目の前に白髪の赤い外套を着た男が立っていた。
その男に士郎は見覚えがあった。
遠坂凜のサーヴァント、アーチャー。
セイバーが手傷を負わせてしまった為に回復のために今まで戦闘には参加していない。
「何があってもお前の味方……か。
言葉にするだけならこれほど容易いことも無いな」
すれ違う瞬間、アーチャーは士郎に聞こえる程度の音量でそう言った。
その言葉に士郎は驚き振り返る。
「何が言いたいんだ?」
先ほどの会話を聞いていた事もそうだが、その言葉が聞き捨てならなかった。
「衛宮士郎。お前は本当に言葉の意味、重さに気づいているのか?
あいつは話どおりなら生きているだけで星の生命、全てを喰らうような化け物になるかも知れないんだぞ。
星の天敵と言ってもいい存在だ。
お前はその可能性も加味してその言葉をあいつに告げたんだろうな?」
「!?確かにそういう可能性もある。だけど、あいつが化け物になるはずが無いだろ。
体が変異したところでカズキはカズキだ!敵になりはしない」
「それは訪れるかもしれない最悪の想定から逃げているだけだ。
今、訪れるかもしれない最悪の想定を常に頭から離すな。
あいつと友人だと言うのならな。
そうで無いというなら……お前はこの場に居るべきではない」
一方的にそう告げるとアーチャーはその姿を消す。
実体化を解き、幽体となったのだろう。
「何が最悪の事態だ……あいつが、カズキが化け物になるわけないだろ!」
士郎はその言葉に反発する。
吐き出した言葉の通りの意味ではない。
もし、カズキがあのヴィクターと同じ化け物になってしまう可能性を考えたくないからだ。
あの日に見た夢の光景が脳髄を焼ききるかのように映し出される。
最悪の未来……それは直視に耐えがたき残酷な運命。
土蔵に戻ると遠坂が床に転がっている物を見ている。
「遠坂!?」
それに気づいて士郎は驚く。
「武藤くんとの話は終わってるわよね。それじゃ、始めましょうか。
貴方だけの魔術。投影の練習を」
士郎は魔術の訓練を凜に施してもらっていた。
その中で士郎は投影という特殊な魔術に関してのみ才能を有している事に気づく。
投影魔術……簡単に言ってしまえばイメージした物体を魔術で生成する魔術。
その構造の全て、製作者の意図や意思、までも要するものだが士郎はそれをやり遂げてみせる。
そして、彼によって作成された物体は彼の手から離れ、完全に現実世界に固定される。
その力は士郎にとって希望だった。
セイバーの力でなく自分自身の力で仲間と共に肩を並べる為に。
この投影を究める道以外に見入だす事は出来ない。
「あぁ、今夜も頼む。あいつと一緒に戦う為に!」
士郎は決意も新たに叫ぶ。
それは最悪の未来に対する逃避か、それとも運命を突破するための勇気か、
それは士郎自身にも分からなかった。
翌日
剣崎はブルースペイダーに乗り、日課である見回りを行っていた。
その途中、見覚えのある後姿を発見し、停車する。
「こんな所で何をしてるんだ?」
剣崎はメットのバイザーを上げる。
「お前には関係ない」
そんな剣崎を無視して始はその横を通り過ぎようとした。
それを剣崎は強引に引き止める。
「まぁまぁ、そう言うなって。お前にはこの前、助けてもらった恩もあるし……
そこで話していかないか?」
剣崎は強引に始を喫茶店へと連れて行く。
喫茶店で二人はホットコーヒーを飲み、会話をする。
敵対と協力を繰り返してきた奇妙な関係。
それも人間ではなくアンデッドという完全な敵。
それでも剣崎は始のことを何処か憎めなかった。
イリヤを助けようとして本気で戦っていたこと。
イリヤと共に敵対した時も手を抜いて、まるで彼女を止めてほしいかのように行った行動。
その中で剣崎は始と協力し合える仲間になれるのではないかと感じていた。
「この前……アリシアの城に突入した時、手を貸してくれてありがとう」
「アンデッドがいたから戦っただけだ。手を貸した訳じゃない」
「だけど、アンデッドを封印した後も直ぐに帰らずにいたじゃないか」
「人間の親子の絆、それを確かめたかっただけだ。
まぁ、結局、分かり合うことなど出来はしなかった。
どれだけ心配しようともその心が通じ合うことは無かった」
「本当にそうかな?俺はあの最後の瞬間、プレシアはフェイトちゃんの事を大切だって思ったと思う」
「何処がだ?彼女は言葉を受け入れず、一人で次元の穴へと落ちていった」
「それはあのままじゃフェイトちゃんも飲み込まれたからだと思う。
大切な娘を道ずれにさせないためにあえて手を離したんじゃないかな」
「他人を助ける為に命を捨てたと言いたいのか?」
「多分、事実は違うかも知れないけど……でも、居なくなってしまった人の気持ちなんてのは誰も分からない。
だったら、少しでも前向きに遺していった物を受け止めれば良いんじゃないかな」
「遺した物?」
「あぁ、プレシア・テスタロッサは命がけでフェイトちゃんを遺したんだ」
「そういう……考え方もあるのか」
始はそう呟くとコーヒーを一口、飲む。
そして、何処か遠くを見るように視線を空へと上げた。
「人間の全てがそんな生き物なのか?」
「……全てかどうかなんて断言は出来ない。けど、俺はそうだと良いと思ってる。
何かをきっかけでそうじゃなくなってしまってる人も居るかもしれない。
だけど、人間はお互いに愛し合い、分かり合えるって思ってるから」
「……アンデッドである俺には理解できない言葉だな……だが、参考にはなった」
始はそう言うと立ち上がる。
「何処に行くんだ?」
「イリヤの所に戻る」
始はそう言い、さっさと出て行こうとする。
「ちょっと、待てって!」
剣崎は慌てて、支払いを行うと始の後を追いかけた。
冬木の近郊にある深い森。
「ここって、LXEのアジトがあった森か」
剣崎は見覚えのある風景に呟く。
「ここらへん一帯はアインツベルンが所有している土地だとイリヤちゃんは言っていた。
LXEはその土地の一部を借り受けて使用していた」
「そう言えば、お前たちは伊坂やLXEとも協力関係にあったんだよな」
「一方的に向こうから裏切ってきたがな。そもそも、俺はあいつらを仲間と思ったことは無い」
「お前の仲間はイリヤちゃんだけだもんな」
「……そうだ。俺はイリヤちゃんを護らなければならない」
「前から気になってたんだけど、お前はどうしてイリヤちゃんに協力しているんだ?
お前だってアンデッドだ。人間は憎い筈だろ?」
「あぁ、そうだ。俺は人間が好きな訳じゃない……
ただ、どうしても彼女は護らなければならない……そんな気がするんだ」
始はそれだけ言うと口を閉じた。
剣崎もそれ以上は追及できなかった。
ただ、相川始というアンデッドはただの怪物ではない。
その思いが更に強まるのだけは剣崎には分かった。
森の奥に建つ大きな洋館。
その前に始と剣崎はバイクを降りて、立つ。
「でっかい、屋敷だなぁ……こんな所に住んでたのか」
剣崎はその巨大さに唖然とする。
始は扉に手をかけ、開けようとする。
そこで中から何やら声が聞こえてきた。
屋敷のエントランス
そこでイリヤは紳士風な男性と口論をしていた。
「だから、言っているでしょう。ここにカリスなんて人は居ないって」
語気を強くしてイリヤが叫ぶ。
その背後にはバーサーカーが控えている。
イリヤの表情も何処か冷静で無く、怒りを感じているようだった。
それもその筈だ。
屋敷の階段の付近では彼女の世話をしているメイドが二人、倒れている。
それを行ったのは全て目の前のこの人物。
「その筈は無い。カリスがこの屋敷を出入りしているのは聞いているんです」
「誰から聞いたって言うのよ」
「ちょっと、私の眷属にね。発見から数日経って居ますが……その間に移動した可能性もあります。
だが、その存在自体を知らない。
そんな筈はないでしょう?」
男はあくまでも落ち着いた様子でその表情を一切、崩さない。
その眼前に血走った眼で視線をぶつけるバーサーカーが居ても意にも返さない。
「知らないって言ってるでしょ……貴方が何者か知らないけど、魔術師の家に押し入ったことを後悔させてあげるわ!」
イリヤはそう言うとバーサーカーに命令をだす。
それと同時にバーサーカーは駆け出してその手に持つ巨大な石斧を男に向けて振り下ろした。
だが、それが男に当たることは無かった。
彼は瞬時にその体を異形へと変化させると、その背中にある翼で天上付近へと上昇する。
その姿を見て、イリヤは驚く。
「アンデッド……!」
「その存在を知っている。やはり、カリスはここに居た筈だ」
そう呟くとイーグルアンデッドはイリヤの傍に一気に距離をつめる。
だが、それを防ぐように光の矢が放たれた。
それに驚いてイーグルアンデッドの動きが止まる。
「そこまでだ。イリヤちゃんから離れろ!」
開け放たれた扉から仮面ライダーカリスがその姿を露す。
「始!」
その姿にイリヤが叫ぶ。
「カリス!」
だが、それに多いかぶさるようにイーグルアンデッドが叫んだ。
そして、そのままカリスの目前まで近づいていく。
「探しましたよ。私です」
イーグルアンデッドの声は非常に嬉しそうだった。
その出会いに感謝しているように。
「貴様は何者だ?」
その様子に始はうろたえて尋ねる。
「忘れたのですか?貴方の友人である私を。
一万年前に約束したでは無いですか、バトルファイトの最後、一対一で決着をつけると!
あの時は約束を果たせませんでしたが今回こそはその約束を果たそう。
その為に一度、会いに来たというのに……」
イーグルアンデッドはショックに声が震える。
「知らん!」
しかし、始はその言葉を切り捨てるかのようにカリスラウザーを振るった。
その一撃はイーグルアンデッドの皮膚に傷を負わせる。
「くっ……どういうことだ?この一万年の間に忘れてしまったというのか……?」
イーグルアンデッドは混乱する。
だが、そんなイーグルアンデッドを気にする様子も無くカリスは続けざまに攻撃を続ける。
「貴様の事は知らないが、イリヤちゃんに危害を加えた事を許す訳にはいかない!」
怒涛の攻撃を受けてイーグルアンデッドはふらつく。
「何故だ……どうして?」
イーグルアンデッドはそう呟くと隙をついて外へと逃げ出し、大空へと昇っていった。
「逃げたか……」
それを確認すると始はバックルのスリットにハートの2を通して、変身を解除する。
「始!」
それと同時にイリヤが始の腰に飛びつき、抱きついた。
「イリヤちゃん!」
始はそれを驚いて受け止める。
「何処に行ってたのよ!本当に出てちゃって何日も帰ってこないなんて」
涙ぐむイリヤ、始はそんなイリヤの頭を優しくなでる。
「すまない。だけど、もう何処にも行きはしない。俺は君を護る。何があっても……」
まるで我が子を慈しむ父親のように優しげに始は笑った。
「……相川始か」
剣崎はそんな始の姿を見て確信する。
彼は倒すべき敵ではなく、同じく何かを護るために戦う仲間なのだと。
「なぁ、始」
剣崎が始に話しかける。
「なんだ、まだ、居たのか?」
「居たよ!ずっと。それより、ちょっといいか?」
剣崎はそう言うと始を屋敷の外へと連れだす。
「なんだ?」
始は不機嫌そうに尋ねる。
「なぁ、さっきのアンデッドだけど。お前は何も知らないのか?」
「その事か……俺は知らない……」
始はそう言い、一枚のカードを取りだす。
そのカードはハートのA.チェンジマンティス。
「ハートのA……そう言えば、気になっていたんだけどお前もライダーシステムと同じようにAのカードで変身してるんだよな」
「……そうなるな」
「なら、あの姿がお前のアンデッドとしての姿じゃないってことか?」
「あぁ、あの姿はマンティスアンデッドだ。俺が持っているカードの中では最も強力なアンデッドだ」
「だから、あの姿に変身してるのか……ん?それって他のカードでも変身できるって事なのか?」
「あぁ、どのカードでもその姿に変身する事は出来る。ラウズで力を引き出せる以上、下級アンデッドに変身する価値は殆ど無いがな」
「それじゃ、お前の本当の姿って……」
剣崎が尋ねようとした時、突如として突風が襲い掛かる。
その風は始の手にあったハートのAを吹き飛ばした。
「なるほど……道理でカリスが私の事を覚えていなかった訳だ。
いや、カリスではなかった。その姿を盗んでいたという事ですか……」
イーグルアンデッドはハートのAを手に取る。
そして、始を見下ろす。
「我が親友の姿を無断で使ったこと……許しがたい事ですが。貴方への報復は後日としましょう」
そう言うとイーグルアンデッドはそのまま飛翔し、飛び去っていく。
「くそっ!追いかけるぞ、始!」
剣崎は急いでブルースペイダーに乗り込む。
だが、始はその場にうずくまって動こうとしない。
「どうしたんだ?」
その姿を見て剣崎が尋ねる。
「大丈夫だ……だが、ハートのAがとられた以上、手持ちのカードであいつの相手するのは無理だ」
「ハートのQがあるじゃないか」
「Qでは難しいだろうな。基本的にJの方が戦闘能力は高かった筈だ。同じ、JかKがあればどうにかなったかも知れないが」
始のその言葉で剣崎は幻想郷で封印してきたウルフアンデッドの事を思いだす。
ウルフアンデッドはハートのJ。ハートスートを使用していた始にも会う筈だ。
「始!これを!」
剣崎はハートのJを始に投げて渡す。
「これは……俺はアンデッドだぞ?」
「そうかも知れない。だけど、俺はお前を信じたんだ」
「……分かった」
始は立ち上がるとシャドーチェイサーに乗り込む。
二人はイーグルアンデッドを追ってバイクを発信させた。
空を飛翔するイーグルアンデッド。
それをフォースインパルスガンダムとセイバーガンダムが追いかける。
「逃がしはしない!」
インパルスガンダムとセイバーガンダムの火線がイーグルアンデッドに襲い掛かる。
「しつこいですね。人間風情が!」
イーグルアンデッドはそれを巧みな機動で回避すると突風を放つ。
急激な風圧に機体が煽られ、インパルスガンダムとセイバーガンダムは大きく揺れる。
「くっ……」
シンはそれを制御しきれずに大きくイーグルアンデッドから離れてしまう。
だが、セイバーガンダムはMA形態に変形するとそれを乗り越えて、イーグルアンデッドの上空をとる。
「貰った!」
アスランは照準を定めてハイパーフォルティスビーム砲を撃つ。
太い火線がイーグルアンデッドの体に浴びせられる。
セイバーガンダムの最大火力、インパルスのケルベロスには劣るもののその一撃はアンデッドにも大きなダメージを与える。
「ぐぅ!!」
その一撃にイーグルアンデッドは落下した。
海外線
岩肌だらけのそこにイーグルアンデッドは墜落する。
「人間如きに追い詰められるとは……」
イーグルアンデッドはふらふらと立ち上がる。
ビームの直撃と高高度からの墜落によりダメージは蓄積されている。
とはいえ、まだまだ封印には程遠い。
逃げに徹すれば問題ないと彼は思う。
だが、それは許されない。
「そこまでだ!」
イーグルアンデッドの前に仮面ライダーブレイドとウルフアンデッドが立ちふさがる。
「仮面ライダーとカリスの姿を盗んでいた者か……」
イーグルアンデッドは身構える。
「ハートのAは返してもらう!」
ウルフアンデッドとなった始がイーグルアンデッドに襲い掛かる。
二つのJの戦い、それはほぼ互角の力量。
だが、地上戦においてはウルフの方に分がある。
そして、更に仮面ライダーブレイドが助力したのであればイーグルアンデッドに勝ち目などは無かった。
「くっ……ここまでだと言うのか……!」
無数の傷から緑色の血を噴出し、慢心相違の状態でイーグルアンデッドは呟く。
「これでトドメだ!」
ブレイドは三つのカードを取りだす。
「奴が言った通りですか……滑稽ですね。仮面ライダー」
イーグルアンデッドはブレイドを見て告げる。
「何がだ?」
その言葉に剣崎は動きを止める。
「信じたくありませんでしたが全て、奴の言った通り……
選んだのは貴方です。貴方に全ての生命が背負えると言うのなら突き進んで見せなさい。
封印の座にて全てを見守らせてもらいます」
イーグルアンデッドはそういうと観念したのか腕から力を抜いて、だらんと立ち尽くす。
「……お前が何を言っているのかは分からない。だけど、俺は自分のしたことに後悔なんてしていない!」
剣崎は意を決するとカードをラウズする。
【ライトニングソニック】
音速の一撃がイーグルアンデッドの体を貫き、爆散させる。
剣崎はその体に向けてプライムベスタを投げつけて封印を完了させた。
「……」
始はハートのAを回収する。
その表情は何処か安堵が感じられた。
「大丈夫か、始」
剣崎が彼の元へと駆け寄る。
「あぁ、問題ない。今回の件、また、借りが出来たな」
「気にするな。俺たちは仲間だろ」
「……そうか」
始はそう言うとシャドーチェイサーに乗り込み、去っていく。
「あっ、おい!」
剣崎はさっさと去っていってしまった始の後姿を見て立ち尽くす。
「もう、行っちゃったんですか?」
インパルスガンダムとセイバーガンダムがその場に降りてくる。
「あぁ……だけど、問題ない。あいつは信用できる」
「本気ですか?相手はアンデッドですよ?」
剣崎の言葉にシンは驚く。
「それでもあいつがイリヤちゃんを大切に思ってるのは本当だ」
「そのイリヤだって今じゃ敵じゃないですか。何時、また襲ってくるのか分からないんですよ」
「そうかも知れない……だけど、大丈夫だってそんな気がするんだ」
「……お人よしですね」
シンは呆れた様子で呟く。
「その選択の意味は本当に分かってるんですね」
アスランが厳しい目つきで剣崎を見る。
「……別にあいつを優勝させる気は無い。だけど、今、戦う必要がある訳でも無い。まだまだ、アンデッドの数は多いんだ」
「それが先延ばしで無いと言うなら俺に言う事はありません」
アスランは苦虫は噛み潰したような表情で告げる。
「あぁ」
剣崎は寂しげな表情で頷いた。
「アレが仮面ライダー……でも、幻想郷に来ていた剣崎一真って人とあの相川始って人が使っているライダーシステムってのは全然、違う物なのね。
読み込んだカードに封印されたアンデッドの体に変身する……か。
でも、そうするとあの人間の姿も封印されたアンデッドの姿って事よね。
ハートの2、スピリットか……まさか、ヒューマンアンデッドなんて事は……無いわよね。
それって最悪の事態……というか、未来なんて無いじゃない。
とりあえず、調査は継続しないと……」
鈴仙は一人、呟いて外の博麗神社をうろうろと歩き回る。
そして、ふと立ち止まって空に浮かぶ月を見上げた。
「仮面ライダーの監視をしろって言われて来たけど……どうやって、幻想郷に戻れば良いのよ!?」
鈴仙は帰る手段を持たず、途方にくれていた。
彼女の叫びは夜の闇に飲み込まれていった。