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「復活したアンデッドとそれを封印する存在、仮面ライダー……。
予想通りなら最悪の事態ね」
永琳は重い溜息を吐く。
「私達が永遠に引きこもっている間に随分な様変わりをしているみたいね」
輝夜は何処か楽しそうにしている。
「あのライダーシステムはどう考えてもジョーカーの力を参考にしている。
確かにジョーカーの力ならアンデッドの封印も可能よ。
だけど、人間がジョーカーの力を使って戦っている。
その目的が世界の平和の為……とんだ、皮肉だわ。全く、笑えない」
「別に構わないんじゃない。どんな手段を使おうとも」
「……人間の体にアンデッドを強引に融合させる。
どんな、悪影響が起きてもおかしくは無いわ。
最悪、私や貴方のような業を背負うことになる」
「……確かにそれは笑えないわね」
「とにかく、おそらくはジョーカーも活動しているはず、まずはどうにかその存在を見つけないとね
とりあえず、うどんげに外に行ってもらって監視させましょう」
「監視?誰を?」
「あの仮面ライダーを、よ。アンデッドと戦うならジョーカーともかち合うはずよ」
「まぁ、それは良いけど。あのイナバで大丈夫なの?」
「他のイナバに比べれば優秀よ。少し、臆病だけど」
「逃げ出さないことを祈るわ」
「えぇ……それにしても、結果として外の状態が分かったから収穫はあったけど。
ハートのJ、ウルフアンデッドはどうやってここを知ったのかしら?」
「鼻が利いたんじゃないの?狼の始祖なんだし」
「そうかしらね。私も直接、対面したことなんて無いのだけど。
それにしてあの男は何をしているのかしら……
依姫と豊姫の二人に連絡が取れれば月の現状も分かるんでしょうけど」
「そういえば、昨日の話にも出てたけど技術の一部を月に来た人間に渡したんでしょう?
何でそんなことしたのかしらね。あの地上人の一人が使ってた兵器からして随分と色々、渡したみたいだけど」
「渡した技術事態はそこまで大したものじゃないわよ。
そもそも、あの兵器は月には無かった技術だから外の人間が発展させたと考えるべきね。
渡されたものをそのまま、使うんじゃなくて発展させているのは良いわね。
だけど、技術力をどれだけ発展させても意味が無い」
「まぁね……そういう点ではどんな感じなの?」
「さぁね。だけど、博麗の巫女と時間を操作する人間には興味が惹かれるわ。
でも、それは確証にならない。人間がこの時間の中でどれだけの新化を遂げているのかは分からないわ」
AnotherPlayer
第二十七話「闇の領域」
剣崎たちが幻想郷へ、旅立ったのと同じ時間。
橘は睦月と訓練をしていた。
偶然にもレンゲルのライダーシステムを手にしてしまった人間。
それは非常に危うい存在だ。
偶然手にした力。それを全ての人間が正しく使えるわけではない。
カズキやなのは、士郎などは例外と考えても良い筈だ。
手にした力は人を救う為にあるのだと確信し、それを行使する。
大人にだってそんなことできるものなど限られている。
士郎からの話では彼も正義の為に戦いたいと言っていた。
初めて睦月の下を訪れた橘は彼に質問をした。
「その力をどう扱う?」
寮のベッドに腰をかけて睦月は答える。
「……俺、昔、誘拐された事があって。
コインロッカーの中に隠されたんですよ。
暗くてまるで闇の中……凄く心細かった気がします。
それで助けられる時、開いたドアから見えた光が凄く眩しくて。
俺はずっとその光を探していた。
でも、全然、見つからなくてどうしていいか分からなくて。
そんな時にカズキと士郎……それに仮面ライダーに助けられて。
その姿が凄く印象に残ったんです。
そして、あの日、学校が化け物に襲われた日。
あの日に見た戦っている皆の姿が光に見えたんです。
凄く眩しくて……
俺は光を掴みたいんです。
俺も皆みたいに戦えたら光を掴める。そんな気がするんです」
睦月の言葉を受けて橘は覚悟を決めた。
その志はカズキたちに近い。
だが、彼の最初の行動は士郎に対してその力を見せ付けることだった。
橘はその行動が引っかかった。
だから、彼を見極めるために、そして、一人前の仮面ライダーにする為に特訓を課している。
特訓内容は橘や剣崎が仮面ライダーとなるためにこなしたものだ。
とはいえ、専用の施設がある訳ではないので代用となるが。
基礎体力、動体視力、判断力……
必要な事を教えていく。
そして、実戦にはそのまま連れて行く。
その中で彼の本質を見極めていく。
それが橘の出した答えだった。
特訓を開始する前に橘は睦月を病院へと連れて行く事にした。
「あの俺、別に調子は悪く無いんですけど……」
橘の後ろをついていきながら睦月が告げる。
「一見では分からない所で影響が出ている可能性はある。
そうでなくても一度、検査は受けておいたほうが良い。
何かしらの問題があっては戦いのときに命とりになることがあるからな」
「そうかも知れませんけど。そんなの普通の病院でわかるんですか?」
「大丈夫だ。ここは普通の病院ではない。
ここは錬金戦団の配下だからな。機器も中々のものが揃っている」
「錬金戦団ってカズキが所属している……」
「そうだ。これから協力してくれる組織になる。覚えておけ」
橘は睦月に現状の説明を殆ど行っている。
最初に話を聞いた睦月は笑い飛ばしていたが今では信じている。
「それはそうと……検査だけじゃなく、誰かのお見舞いにきたんですか?」
睦月が橘のもつフルーツの盛り合わせを指差して訪ねる。
「あぁ、ちょっとした知人が入院していてな。睦月が検査をしている間に寄ろうと思っている」
病院の個室、そこのネームプレートには早坂桜花と書かれている。
病室のベッドから遠くを見ている桜花。
あの日……秋水の怪我を怪我を肩代わりした桜花の傷はまだ、完全に癒えてはいない。
だが、それでもある程度の身動きを取れるぐらいに回復していた。
「失礼する」
橘が病室に入る。
「あら、また来て下さったんですか?」
桜花はそれに気づいて橘を出迎える。
「あぁ、病院に来る用事があったんでついでにな」
橘はそう言うと持ってきた果物を棚の上に置く。
そして、視線を桜花ではなく、その横の椅子に座っている一体の人形に向けた。
蒼い服に大きな帽子をかぶったボーイッシュな人形。
まるで生きているかのよう人形はまるで眠っているかのようにたたずんでいる。
かつて、橘を洗脳から解くために命をかけて戦った人形の少女。
ローゼンメイデンの第四ドール、蒼星石。
彼女はその命であるローザミスティカを抜かれてただの人形となっている。
あの夜に傷ついた服は修復されて綺麗な姿でいた。
「蒼星石……」
橘は彼女の姿を見て呟く。
彼女との面識は洗脳されていたためにほぼ無い。
だが、その命をとして洗脳と破滅に侵された心を救い、命をつなげてくれた彼女に感謝してもしきれない。
そう、橘は思っている。
ふと、橘の視界の端に翠色のドレスが見える。
それは棚の影に隠れているようだったが隠れきれていないようだ。
「翠星石も来ていたのか」
その姿を見て橘が声をかけるとそのドレスの主は驚き、棚を揺らす。
そして、そっと棚の影から顔を覗かせた。
「……なんですかヘタレ人間」
翠星石は睨みつけるように橘を見る。
「手痛いな……」
その言葉を受けて橘は何も言い返さない。
「お前があんな大変なモノを心の中に侵入されるから……」
「返す言葉もないな」
橘はそういうと静かに病室を後にした。
「橘さん……翠星石、私が言える事じゃないけれど、あの人が悪い訳じゃない」
桜花がさとすように翠星石に話しかける。
「そんなことは分かってるですよ!あいつを助けるのが蒼星石が望んだ事だって……
だけど、だからって全てを許せるわけじゃねぇです……」
翠星石は悲しそうに俯く。
その姿に桜花はそれ以上、何かを言えずに居た。
「俺もまだまだだな……」
橘は廊下の窓から空を見上げて呟く。
翠星石に対して言える言葉を持たない事が彼の心を咎める。
そんな調子で睦月を論す事など出来るのか。
ぼうっと空を見上げているとその視界に突如として黒い羽根が見えた。
それに驚き橘は視線をそちらへ向ける。
その羽根の持ち主は黒いドレスに身を包んだ銀髪の少女。
いや、人形だった。
その人形は病室に窓から入っていった。
橘はその病室の前に立ち、そのドアをノックした。
「誰です?」
ドアの向こうから声が聞こえる。
その性質から女性。それも少女といっても良い若さだろう。
どこかその声は不機嫌そうだった。
「すまない。この病室に先ほど、黒い羽根をもった人形が入ってこなかったか?」
橘が単刀直入に尋ねる。
「……何を言っているんですか?人形が自由に動けるはずが無いじゃない。
変なことを言ってると人を呼びますよ」
一拍をおいてドアの向こうの声が明らかな拒絶を見せる。
「いや、すまない」
その言葉を聴いて橘は一旦、その場を離れる。
「あの姿は間違いなく水銀燈だった……」
橘は屋上に上り、空を見上げながら先ほど見た姿を思いかえす。
蒼星石のローザミスティカを奪い去ったローゼンメイデンの一体。
七体のローゼンメイデンの中で最も攻撃的だと言われている。
そして、彼女だけが唯一、マスターを持たず、契約という形式をとらずに人間からその力を吸収するという。
ローゼンメイデンの力の行使は人間を衰弱させる。
ローゼンメイデン自体は魔力を余り多く持っていない。
その為に最大限に能力を発揮するには契約したマスターが必要となる。
真紅は桜田ジュンという中学生と契約している。
蒼星石は早坂桜花と契約していた。
雛苺はそのマスターをLXEに誘拐されたために彼らの命令を聞いていた。
その関係はマスターとサーヴァントに近い。
ただ、ローゼンメイデンはマスターが必ず存在しなければならない訳ではない。
現に翠星石はマスターを持たずに動いている。
その中で一際、異彩なのが水銀燈だ。
彼女は周囲の人間から魔力を吸収できる。
汲み取る魔力の量は水銀燈自身が操作できる。
そう、彼女が望むのなら一人の人間から魔力を吸収しつくし殺すことだって出来る。
「蒼星石のこともそうだが……この病院で奴を野放しにするのは危険か」
蒼星石のことでの復讐も無い訳ではない。
だが、病人がその毒牙にかからんとしている可能性もある。
そう、思案している橘の視界に黒い羽根が舞い落ちる。
それに気づき橘が視線を向けるとその先に水銀燈が立っていた。
「何をかぎまわっているのかしら?」
水銀燈はあからさまな敵意を向けて尋ねる。
「貴様が人に危害を加えないかをだ」
橘はそう答え警戒する。
いつでも変身できるようにポケットの中のバックルを掴んだ。
「なるほどねぇ……どこかで見た事のある奴だと思ったけど。
貴方、ローゼンメイデンの関係者かしら?マスターではないみたいだけど」
水銀燈は橘の指を見る。
契約の証である指輪を確認したのだろう。
「そんな所だ。君達、姉妹の戦いにあまり干渉するなと言われているが貴様が人に手をだすなら黙ってる訳にはいかない」
「……たかが、人間が私をどうにか出来ると思ってるのぉ?」
水銀燈の殺気が膨れ上がる。
「出来るさ……真紅や翠星石には悪いが、貴様をここで野放しにする訳にはいかない!」
橘は意を決するとバックルを腰に装着する。
「ちぃ!」
それを見て水銀燈は黒い羽根を橘に向けて放った。
「変身!」
だが、それよりも速く橘はレバーを引き、カードを反転させる。
バックルより放出されたオリハルコンエレメントが形成され、黒い羽根を弾き飛ばした。
そして、橘はそれを通過し、仮面ライダーギャレンへと変身する。
「変身した!?」
水銀燈は驚き空中へと飛び上がる。
それに対してギャレンはラウザーでそれを撃つ。
水銀燈は空中で軽く身をこなしその射撃を回避する。
「誰かと思えば蒼星石のローザミスティカを手に入れた時にいた人間だったのねぇ。
相手をするのも面倒ねぇ」
水銀燈は一筋縄で勝てないことを悟るとそのまま翼を広げて大空へと羽ばたいていった。
飛行が出来ないギャレンではそれを追う事は出来ない。
「逃がしたか……」
そう呟くと変身を解除する。
検査を終えた睦月は橘が戻ってくるまでの間、待合室でボーっとテレビを眺めていた。
ニュースではこの前の穂群原学園集団昏睡事件について報じられていた。
直前の謎の濃霧とあわせて不可解な現象とされているが特に具体的な話は無い。
症状の軽かった生徒からの証言で化け物が現れたと語ってみても幻覚の類だと決め付けられている。
一般的な人間の世界はこの街を襲っている事件の殆どを否定している。
そこにどれだけそのような事件を隠したいと思っている組織の思惑が絡んでいるのかは想像もつかない。
「誰も知る事も出来ない。俺も少し違えばあんな立場だったんだな」
睦月は感慨深げに呟く。
偶然、手に入ったこの力が無ければ、この街に住んでいなければ、一生、日常と呼ばれる世界の裏側について知る事もなかっただろう。
そんな事を考えていると近くで何かが落ちた音が聞こえた。
視線を上げると目の前で車椅子の少女が床に落ちた本を取ろうとしている。
だが、上手く拾えずに難儀しているようだった。
睦月は立ち上がるとその本を拾い上げ、少女に手渡す。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
少女はその本を受け取ると丁寧にお辞儀をした。
「気をつけるんだよ」
「すいません。ちょっと気が緩んでたみたいで。
この本、図書館の借り物なんですけど傷はついてないみたいでよかったです」
少女は苦笑いを浮かべながらそう応えた。
「はやてちゃん」
そこに金髪の睦月よりも少し上ぐらいの妙齢の女性が駆け寄ってくる。
「あぁ、シャマル。先生からの話は終わったんか?」
それに気づいてはやては振り向いて応えた。
「えぇ……その人は?」
「ちょっと困ってた所を助けて貰ったんや」
「まぁ、そうですか。ありがとうございます」
シャマルはそういうと頭を下げた。
「いえ、ちょっと落し物を拾っただけで……お二人は姉妹ですか?あまり、似てないみたいですけど」
睦月は少し顔を赤くしてはにかみながら応えた。
「あぁ、まぁ、お姉ちゃんみたいなもんかな。血はつながってはおらんのやけど」
「なるほど。あっ、すいません、なんか詮索みたいな事しちゃって……」
睦月は初対面の人間に対して不躾だったと俯く。
「いえ、全然気にしてないんで、逆に何も無しではい、それじゃよりも全然、こっちとしても嬉しいくらいやし」
そんな睦月をみて逆にはやてが慌てる。
「そうですよ。それじゃ、逆にこっちからも何か聞いちゃいましょうか?」
シャマルが冗談めかしにそういうと睦月は苦笑いを浮かべる。
和やかなムード……それを破るかのように橘が早足で現れる。
そして、睦月に小声で耳打ちをした。
それを聞いて、睦月の表情が先ほどと打って変わり緊張と不安の色が現れる。
「すいません、急用が出来たんでこれで……」
「いえ、別に気にせんで下さい」
早々に別れの挨拶を済ませると橘を追いかけて、睦月は病院の出口へと向かった。
橘と睦月はアンデッドサーチャーの反応があった場所へと急行した。
外の世界の博霊神社がある山中。
アンデッドが反応があったポイントには大きな穴が空いていた。
「アンデッドは何処だ……?」
周囲を警戒するがそれらしい姿は無い。
「この穴の中なんでしょうか?」
睦月が深い穴を指差して尋ねる。
「分からないがその可能性は高いな」
未だに反応はこの場所を示しており、大きな移動は無い。
となると残りは地下、それもおあつらえ向きに奇妙な穴が開いているのだから間違いないだろう。
「今日は剣崎もシンも居ない。だが、フォローはキッチリと行う。安心して戦え」
橘がギャレンバックルを装着する。
「大丈夫ですよ。やれます!」
睦月もレンゲルバックルを装着した。
そして、二人は変身と同時にその穴の中へと飛び込む。
地面の下に巨大な空洞が開いていた。
その中でモールアンデッドと一人の女性が戦いを繰り広げている。
その長身の美女は奇妙なことにその両目をバイザーで覆っている。
彼女は鎖の付いた鉄杭を操り、モールアンデッドを攻撃するがその硬度に阻まれ上手く決まっていない。
だが、モールアンデッドもその女性の身のこなしについていけずに翻弄されていた。
「何をやっているんだ、ライダー!」
岩の陰に身を隠し、奇妙な本をその手にもった少年がイラついた様子で叫ぶ。
その声に女性は反応する。
「いえ、この怪物。どうやら、一筋縄ではいかないようです」
「お前はサーヴァント。最強の兵器じゃないのか!?
どうして、都市伝説の化け物も倒せない。お前は神話の化け物だろう!?」
「ただの妖怪とは違うようです。魔力量もおそらくはサーヴァントよりも遥かに上」
「なっ!?そんな訳があるか、こいつらは都市伝説通りだったら仮面ライダーなんていう奴が倒してるって話だぞ」
「仮面……ライダーですか?」
その言葉にライダーは反応する。
口論の間もライダーは絶え間なく攻撃を加えているがモールアンデッドのシールドは硬く打ち破るに至らない。
更にドリル状のミサイルを放つため、上手い具合にマスターに被害を出さないように立ち回らねばならなかった。
「攻撃をくらい、更にアレだけ暴れながら全く疲れた様子を見せないとは……予想以上にタフですね」
ライダーは次第に自分の息が上がるのを感じる。
持久戦になればそれだけ不利となる。
だとすれば、相手の防御を貫く一撃をもって早々に戦いに決着をつけねばならない。
そう、思案していると天井より二つの影が落下してきた。
ギャレンとレンゲルは開いた空洞の天井から飛びだすとそのまま地面に着地する。
「大丈夫か!?」
橘はアンデッドと戦う存在に気づき、言葉をかける。
「新手!?奇妙な鎧を着ていますが、貴方達は何者です?」
ライダーはギャレンとレンゲルに警戒する。
その姿と運動能力からただの人間でありえないのは即座に感化できる。
故に警戒する。口封じが出来るほどの相手なのかと。
「仮面ライダーだ。その怪物……アンデッドを封印する仕事をしている。
ここは俺たちに任せて君達は逃げるんだ」
ギャレンはそういうとギャレンラウザーを撃ちながら接近戦を仕掛ける。
銃撃は悉く盾に阻まれるがその隙にクロスレンジに近づき、格闘緒仕掛ける。
「あれと互角に打ち合うか……」
ライダーはそれを見てギャレンが強者だと悟る。
「ライダー、ここはあいつらに任せろ」
それを見てマスターの少年は好機だと姿を現し逃げようとする。
「ん、お前は間桐慎二か?」
睦月はその姿を見て尋ねる。
「何だ?何で俺の名前を知っている?」
慎二は驚き、後ずさる。
「同じクラスの上城睦月だ。お前が教われてたなんてな。
それにこっちの人は……」
睦月は改めてライダーを見て訝しむ。
服装からして普通の人間ではない。
そもそも、生身でアンデッドと戦える人間なんて限られている。
睦月が知る限りでは錬金の戦士と……
「……まさか、その人はサーヴァントか?」
夜の学校で一度対峙したランサー。
それに近い雰囲気をライダーから感じる。
それは強者の余裕。
自分が絶対的な格上だという雰囲気。
それをその女性……ライダーから感じられた。
「なっ!?聖杯戦争についても知ってるのか?まさか、お前も魔術師だったのか!?」
慎二はあからさまに警戒する。
聖杯戦争を知る者は魔術師のみ。
「それじゃ、あの赤いのがお前のサーヴァントなのか?」
「違う!俺は魔術師でもマスターでもない。
だけど、お前が聖杯戦争に参加しているマスターだとしたら……」
睦月は言いよどむ。
聖杯戦争については聞かされている。
仮面ライダーとして活動する上で剣崎が居候をしている士郎の現状について隠しきれる事では無いからだ。
その事から衛宮士郎と遠坂凜の二人がマスターとしてその儀式に参加していると聞いた。
そして、マスター同士はお互いに殺しあう関係であるとも。
だとすれば、この目の前の同級生は同じ同級生と戦うことになる。
ただ、それを安易に教えるわけにはいかない。
一つは口止めされていること。
そして、もう一つは目の前の間桐慎二という人間を信用しきれないこと。
今、この場で答えをだす訳にはいかない。
「この事はあいつを封印したら……」
答えの先延ばしをしようとする。
「危ない、睦月!」
だが、そこにアンデッドの攻撃が襲い掛かる。
爆風がレンゲルを吹き飛ばした。
「い、今の内に逃げるぞ!」
その隙に慎二とライダーはその場を後にした。
「どうしたんだ?」
橘が睦月の元に駆け寄り、その体をおこす。
「すいません。さっき助けた奴がクラスメイトで……
詳しいことは後で話します」
レンゲルはレンゲルラウザーを構え、モールアンデッドに向かっていく。
相手は下級アンデッド。
その力は上級よりも遥かに下だ。
そして、レンゲルはギャレンとブレイドよりも更に発展した性能を持つ新型。
その力はモールアンデッドを圧倒する。
「いける!」
自らが振るう力。
それに睦月は興奮する。
人を襲う化け物を一方的に討ちたおすその様はまるで自分が神にでもなった気分だった。
闘争心は加速し、魂が震える。
「はああああ!」
レンゲルラウザーの一突きで距離を開ける。
その隙にカードスロットルを展開し、カードを取りだす。
「カードは慎重に選ぶんだ!」
その様子を見て橘が忠告する。
だが、睦月はそれを無視してカードを選び、ラウズした。
―――バイト―――
―――ブリザード―――
バイトコブラとブリザードポーラーの力が覚醒し、レンゲルに宿る。
レンゲルはモールアンデッドに向かって飛び上がると冷気を放出し、瞬時に凍結させる。
そして、凍りついたその肉体を両の足で挟み込み粉砕した。
モールアンデッドはその衝撃に爆発し、沈黙する。
「今だ!アンデッドを封印しろ!」
それを見て橘が指示する。
睦月はそれに従い、プライムベスタを取り出し、モールアンデッドに投げつけ封印した。
封印されたラウズカードにはクローバーの3と描かれている。
「良くやったな睦月!」
橘が変身を解除し、駆け寄る。
「いえ」
それに対して睦月も変身を解除し、そっけなく答える。
「それでさっきの彼がどうしたんだ?」
橘が睦月に尋ねる。
「いえ、クラスメイトだったんで驚いただけです。
あいつも俺が仮面ライダーだって知って驚いていたみたいですし」
「そうか。だが、彼を護っていたあの女性は何者なんだ?」
「それは分かりません。俺が聞いておきますよ。不確定要素は確認しておかないと物騒ですからね」
「そうか……だが、もし、危険だと感じたら直ぐに俺に連絡してくれ。
一人で動くと危険も多い」
「分かってますよ」
睦月は答える。
その顔は何処か無表情で生気を余り感じさせなかった。
「くそっ!もう、おしまいだ!!」
間桐家で慎二は暴れる。
正体がばれた。
相手がマスターでは無いとしてもその事情を知り、なおかつ都市伝説の仮面ライダーだというのが問題だ。
何処とどうつながっているかも分からない。
「落ち着いてください。彼がそのまま敵になるとも限りません」
ライダーが慎二を宥めようとする。
「だけど、あいつの様子からして協力的であるはずが無い。こうなったら先に消すしかない」
慎二は魔術師として徹底した手段に出ようとする。
彼が決断と下したと同時にチャイムが鳴った。
「ひっ!ま、まさか……あっちから先に来たのか?」
怯えた様子で慎二は頭を抱える。
そして、何かを思いつきかけだす。
妹である間桐桜の部屋に入り、部屋に居た桜に詰め寄る。
「兄さん……ど、どうしたんですか?」
桜は鬼気迫る兄の様子に怯え後ずさる。
「来客だ。もし、そいつが俺を訪ねてきたら俺は居ないと伝えろ」
「何で……?」
「俺がマスターであることがクラスメイトにばれた」
「それって……衛宮先輩ですか?」
「奴じゃない。上城睦月、ぱっとしない奴だが所属的に衛宮側だ」
「その人も魔術師なんですか?」
「いや、違う。だが、厄介な奴だ。それに仲間もつれてきてる可能性がある。
ライダーで戦おうにも数が多いとそれだけで不利だ」
「……分かりました。とりあえず、お引取り願うように伝えてきます」
桜が承諾すると慎二は笑みを浮かべる。
「その必要は無い」
だが、彼の背後。部屋の入り口に睦月が立っていた。
「!」
それい気づき、ライダーが鉄杭を睦月に向けて放つ。
それを睦月は容易く掴んで見せた。
「手荒な歓迎だな。別に俺はお前達を倒しに来た訳じゃない。安心しろ」
そう言いながら睦月は部屋の中に歩み寄る。
「な、何しに来た!?」
慎二は桜の陰に隠れながら尋ねる。
「妹に隠れるなんて情けない奴だな……」
睦月は慎二に軽蔑の視線を向けつつも、警戒するライダーを見る。
そして、笑みを造る。
「まぁ、いい。さっき言ったとおり俺はお前を倒しに来た訳じゃない。
それに士郎や遠坂にもお前の事は話していない」
その言葉に桜は驚く。
「何で先輩の名前が?」
「ん……あぁ、そう言えば衛宮は間桐の妹と仲がいいんだったな。
理由は簡単だ。あいつも聖杯戦争のマスターだからだ」
「せ、先輩が……」
その言葉に桜は息を呑む。
「あいつだけじゃない。カズキやその他の仲間にもお前の事は話していない」
「他の仲間?」
「あぁ、あいつらは色々な仲間を持っているのさ。一人一人がサーヴァントと互角に戦えるぐらいの強さをもったな」
その言葉に慎二は息を呑む。
事実だとしたらそんな集団を相手に勝ち目などは無い。
「それを裏切って俺と協力するだって……流石にそんな話は信じられないな」
勝ち馬を捨てて、負け馬に乗る輩は居ないと慎二は言う。
「戦力的にはな。だが、俺はあいつらのやり方が気に喰わないのさ」
睦月はそういい慎二をにらむ。
その迫力に慎二は完全に飲み込まれている。
「貴方は……人間ではない……いや、とりついているのか?」
ライダーが睦月を見て尋ねる。
「流石だなサーヴァント。英霊というだけある……と言っても、その魔力の質、英雄とは言い難い。
どちらかと言えばこちらに近い性質を感じるな」
「私のことはどうでもいいでしょう。ともかく、貴方は何者です?」
「アンデッド……さっき、お前達が戦っていたのと同等の存在だ」
睦月は慎二たちにアンデッドについてとその目的を語る。
そして、睦月の精神はスパイダーアンデッドが乗っ取っている事を告げる。
「生物の祖にして不死生物……なるほど、道理で強いはずだ。
幻想としては英霊よりも遥かに格上にあたる」
ライダーはモールアンデッドに感じて奇妙な手ごたえに納得する。
魔力の塊である英霊は更に上位の魔力の塊には通用しづらい。
そもそもの性質の問題になってしまう。
「納得してくれたか。俺は仮面ライダーを倒したい。
仮面ライダーは俺一人で十分だからだ
そして、お前達は聖杯戦争を勝ち残りたい。
だが、あいては強大だ。
だから、手を組みたいと言っている」
睦月はそう言い、慎二を見る。
「……分かったよ。このままじゃ勝ち目は薄いからな」
慎二はその提案に乗ることにする。
そして、睦月はその視線を桜に向けた。
「言っておくが他言無用だ。もし、士郎に知らせてみろ、その時はお前を殺す」
睦月は桜を睨みつける。
「……大丈夫です。元々、私は関わらないという約束ですから」
桜は感情の篭らない言葉で答える。
それは偽りではなく虚無だった。
「良い眼だ。この世界に生きる事は必要ない。全ては死に絶え、終焉する。
それがこの地球の運命だ」
睦月は桜の表情に喜ぶ。
スパイダーアンデッドに操られた睦月と聖杯戦争のマスターである慎二は手を結んだ。
隠された闇が動き出そうとしている。