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霊夢、シン、剣崎が屋敷の廊下を進んでいく。
異様に長い廊下
その行く手を阻むように骨で出来た怪物が襲い掛かってきた。
「何だこいつらは!?」
ブレイドがブレイラウザーでその骨の兵士……竜牙兵を打ち倒す。
「邪魔者でしょ。こういうところでは付き物よ」
霊夢もお札を投げてそれを払う。
「そんなに強くないようだし一気に進もう!」
シンもビームサーベルで敵を両断する。
行く手を阻む程度にしかならない。
敵を蹴散らして廊下を進んでいく。

「しかし、長い廊下だな」
行けども行けども突き当たりにつかない。
「横の襖は開けられないし……こっちの結界を門に張っておきなさいよね」
霊夢は試しに襖に手をかけるが開かない。
「まさか、ここも空間がいじってあるのか」
シンは紅魔館を思い出す。
あそこはメイド長の能力により見た名以上の広さを持っていた。
この屋敷もそれと似たような状態なのではないのかとシンは考える。
「ともかく先に進むしかないわね」
霊夢は躊躇せずに先へと進んでいく。
だが、しばらくすると気配が後ろからついてこないことに気づき振り向いた。
既にシンと剣崎の姿はそこに無かった。
「何処行ったのよ。もう」
霊夢は文句を呟く。
それと同時に少し不安に感じた自分に気づいた。
だが、それを気の迷いだと首を振る。
「あいつらが何処でどうなろうと別に関係ないじゃない」
霊夢はそう呟くと先に進んでいく。

霊夢がしばらく、進むと目の前に襖が現れた。
ここが突き当たりのようだ。
霊夢は迷わずその襖を開ける。
その部屋は奇妙な匂いがした。
「薬品…・・・?」
霊夢は顔をしかめてあたりを見回す。
「ふふふ、いらっしゃい」
暗闇の中から声が聞こえる。
その方向に対して霊夢は咄嗟に針を投げつけた。
だが、その針はその人物に当たる前に弾かれる。
「いきなり、危ないわね」
紫のローブをきた人物がいる。
声からして女性のようだが深くかぶったフードのため、顔が分からない。
「あなたがここの屋敷の主かしら?だったら、とっととアンデッドを出しなさい」
霊夢がその人物に尋ねる。
「残念だけど違うわ。ここの屋敷の主人ではない。
客分と言った所かしらね」
「あっ、そう。それならそれでどうでもいいけど。
あなたはアンデッドを見なかったの?見たの?」
「神々が生み出した進化の可能性を持った生物の始祖。
そして、無限の生命と果て無き闘争本能を持つ。
命の生み出された理を体現する存在。
貴方が求めるアンデッドとはそのことかしら?」
「さぁ?私は死なないから封印しないといけない程度の妖怪としか認識して無いけど」
「だとすれば悲しいわね。一体、自分が何を倒しているのか知らないなんて。
仮面ライダーと呼ばれる存在も同じなのかしら?」
「何が言いたいのかしら?」
「知る必要は無いわ。博麗の巫女……妖怪を退治し、現実と幻想を区別する結界の管理を担当する存在。
幻想郷の要となる重要人物。
それは別としても……非常に強い魔力を持っているわね。貴方は本当に人間なのかしら?」
「人を妖怪扱いするつもり?」
「いえ、そのはずは無いわね。その魔力の質は完全なる人間のそれだもの。
その力を見せてもらうわ」
「やっぱり、戦うのね。だったら、さっさとそう言えば良いのよ」
霊夢は札を取り出す。それが戦いの合図となる。


「何処だここは?」
シンはあたりを見回す。
気づけば部屋の中に居るようだった。
近くに剣崎と霊夢の反応は無い。
「孤立したのか。だけど、意識を失った様子も無いし……まさか、あのスキマが」
シンは紫のことを思い出すがすぐに思い直す。
ここで彼女が自分達を孤立させたところで利益は無い。
「とりあえず、進むか……」
シンは歩き出そうとするが瞬間、殺気に気づきその場から離れる。
それと同時に先ほどまでシンが居た場所に銃弾のようなものが打ち込まれた。
「敵か!?」
シンは即座にビームライフルを抜くと構える。
そして、射撃のあった方角を向いた。
そこには兎の耳のようなものを生やしたブレザーを着た少女が飛んでいた。
「良い反応速度ね。外の世界の住人といえども流石は軍人と言ったところかしら」
少女がシンに話しかける。
「妖怪か。邪魔をするな。俺たちはここに来ているアンデッドの封印に来ただけだ」
シンはそれがアンデッドでは無いと判断すると声をかける。
「知ってるわ。だけど、お師匠様から貴方の撃退を命令されてるのよ」
「撃退って、アンデッドを野放しにしたら危険なんだぞ」
「生憎と私はアンデッドについて詳しくないの。
だけど、お師匠様の命令は絶対。
さぁ、月の技術を外の人間がどれだけ使いこなせているのか見せてもらうわよ!」
問答無用といわんばかりに少女は手から魔力の弾丸を放つ。
シンはそれをシールドで防御する。
「聞く耳もたずって訳かよ。だったら、やってやる!いくら、人に近い姿でも妖怪だったら手加減はいらないんだからな!」
シンもビームライフルの引き金を引いた。


「シン!霊夢!」
剣崎は二人の名前を叫んで歩き回る。
完全に見失ってしまい、焦りが募る。
周辺を見渡していると廊下の先で知った顔を見つける。
暗闇で揺れるは真白な髪。
それは純然たる高温で焼かれた灰のように鮮やかな白さを持つ。
「君は……確か、妹紅って名前だったね」
剣崎は目の前でたたずむ白髪の少女に話しかける。
少女はつぶっていた目を開けると真っ直ぐに剣崎に向かって飛んだ。
その体に炎を纏いながら。
紅蓮の炎に包まれた拳がブレイドの装甲を殴りつける。
「!?」
剣崎はその衝撃に吹き飛ばされ、床に転がる。
「何をするんだ!?」
剣崎は即座に立ち上がり叫んだ。
「無傷……か。凄い頑丈ね。
まぁ、それはいいわ。ともかく、貴方に恨みは無いけど倒させてもらうわよ」
妹紅の体から炎が湧き上がる。
その背中で燃えている炎はまるで翼のようだった。
炎の翼……それは伝説の不死鳥のようだ。
「どういうことだ……お前、まさかアンデッドと手を組んでいるのか!?」
「……想像に任せるわ。だけど、私は貴方を本気で殺すつもりで行く。
貴方も殺すつもりでかかってきなさい。そうでなければ貴方は必ず死ぬわ。
いえ、本気で来たとしても死ぬのは貴方。私は死なない」
妹紅は炎を纏った手を強く握る。
その眼は本気だった。
「君も霊夢と同じでただの人間じゃないようだ。
だけど、仮面ライダーを甘く見ないほうがいい。
この力は……」
「アンデッドと融合して人間を遥かに超える力を持っている。
知っている。さっき聞いたもの。
だったら、見せてみなさい。不死を倒すその力を!」
妹紅は炎を翼をはためかせてブレイドに突進する。
ブレイドは振りかざされた拳目掛けて拳を振るった。
二つの拳が激突する。


「始まったようだな」
ウルフアンデッドが呟く。
「人間が作り出したアンデッドと融合する技術。ライダーシステム……
まさか、人間がアンデッドの封印を解いた挙句にそんなものを作り出すなんて」
「それも一つの意味での進化なんだろうな。
人間の持つ技術とその応用力には俺も感心させられた」
「そして、博麗の巫女と外の技術を使う人間の戦士……
私達が永遠に停滞している間に世界がどうなったのか教えてもらうわ」
永琳は険しい顔を作る。

巫女と魔術師
人の兵士と月の兵士
永遠の命を力として使う者と永遠の命を持つ者
それぞれの戦いが始まる。










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第二十六話「永遠の命」






「うおおおお!」
ぶつかり合うブレイドと妹紅の拳。
その拳のぶつかり合いはブレイドに軍配があがる。
弾き飛ばされる妹紅の手。
「くっ!」
その痛みに妹紅は顔をゆがめ、動きが硬直する。
その隙を見て剣崎は妹紅のもう片方の腕を掴んだ。
「放せッ!」
妹紅はつかまれた腕から炎を噴出させる。
その炎の勢いにブレイドは腕を放して距離をとった。
「炎を操る……魔法の力なのか」
剣崎は妹紅の放つ炎を見て呟く。
紅に染まるその炎は美しく、そして、儚げだった。
揺らめく炎の向こうに見える妹紅は美しく見とれてしまいそうになる。
「長い時間を生きていれば色々と出来るようになる。
この力は妖怪を倒すために鍛え上げた妖術。
死しても灰から蘇る不死鳥の炎の力よ!
不死【火の鳥-鳳翼天翔-】」
妹紅は腕をブレイドに向けて伸ばす。
その手から湧き出る炎が鳥の形を作り上げ、妹紅の腕から羽ばたいた。
紅蓮が形作る炎の鳥がブレイドを飲み込もうと襲い掛かる。
ブレイドはそれに対して腕を交差させて身構える。
その体を炎の鳥は包み込み、ブレイドの鎧を焼き上げる。
強力な炎。
だが、その温度はブレイドアーマーを溶かすには至らない。
「うおおおお!」
ブレイドは気合と共に炎を振り払い、妹紅へと飛び掛る。
繰り出される拳が妹紅の顔を打つ。
その衝撃に妹紅は弾き飛ばされ、床に倒れた。
倒れる妹紅をブレイドが見下ろす。
無造作に白髪が床に広がる。
「……!」
妹紅は体をバネにして飛び上がり、立ち上がる。
「追撃もしてこない……手加減してるわね」
妹紅は真っ直ぐにブレイドを見て尋ねる。
その問いに剣崎は頷いて答えた。
妹紅のその姿に対して静かに見つめる。
「命を狙われても人を殺せない……その甘さがお前を殺す!」
妹紅は体勢を低くして一気にブレイドの懐に飛び込む。
剣崎はそれに反応できずに取り付かれる。
「燃え尽きろ……
蓬莱【凱風快晴-フジヤマヴォルケイノ-】」
紅蓮の炎が噴火の如く、吹き上がる。
豪炎が屋敷の床と天上を突き破り、満月の空へと立ち上る。
その火柱はまるで空を貫くが如く湧き上がった。
その炎は灼熱。
一瞬にして妹紅の体を焼き尽くす。
そして、ブレイドの体も焼き尽くしていく。


「遅いんだよ!」
シンはビームライフルで兎耳の少女を狙い撃つ。
兎耳の少女……鈴仙の体がビームに貫かれた。
そう、シンの眼には見えた。
だが、次の瞬間、その姿が掻き消える。
ビームにより蒸発した訳ではない。
ビームライフルのビームは少女の体を包み込めるほどに面積が広くは無い。
その光景にシンは眼を疑った。
戸惑うシン、その体を衝撃が襲う。
「!?」
シンはその衝撃で周囲を策敵する。
すると背後から鈴仙が魔力の弾丸をシンに撃ち込んでいる。
「何時の間に!」
シンはそこに向かってビームを放つ。
だが、ビームはただ、空を切るだけだった。
「消えた!?」
再び鈴仙の体が消える。
夢か幻か……シンはその不可思議な感覚に似たものを思い出す。
LXEの首魁、ドクトル・バタフライの武装錬金アリス・イン・ワンダーランド。
光を操作し、対象の脳に偽の情報を送りつける策謀を得意とするバタフライにお似合いの武装錬金。
それを相手にしたなのはの言葉を思い出す。
居たと思った場所が虚像であり、真実は虚実の中にある。
同質の能力かは分からない。
だが、同系統の効果を及ぼしているのなら目に見えるものを信じることは出来ない。
「(相手の動きを読んで……)」
シンが考えている間に攻撃が飛んでくる。
その衝撃にシンはその場を退避した。
そして、魔力弾が飛んでくる方向にビームライフルを撃つ。
だが、やはり、そこに居た鈴仙の体は消えた。
「……なら、そこだ!」
シンはその位置から自分の背後に回れる位置に対してビームをばら撒く。
「きゃっ!」
すると何も無い場所から転んだ鈴仙が現れた。
それはシンの側面。
「何で私の居場所が!?」
鈴仙は自分に向かってビームが飛んできたことに驚愕している。
「相手の姿が見えないからって戦い方ぐらいなら幾らでもある!」
シンは続けざまに鈴仙に向かってビームを撃つ。
「ちょ、ちょっと!」
鈴仙は急いで飛びのき、その攻撃を回避する。
見た目どおりに素早く動き回る。
だが、直ぐにその体をビームが捉え、貫く。
だが、やはりそれは幻。
実体はいずこかへと移動している。
「(あいつも今度は動きが慎重になるはず……)」
シンはビームライフルの残弾を確認する。
弾幕を張ったおかげで既に心もとない。
先ほどからの鈴仙の動きを見て格闘戦に持ち込んでも戦えると判断したからだ。
だが、まずは捉えるところから始まる。
シンは周辺を見ることを止め心を落ち着かせる。
戦闘中にリラックスなど出来るはずも無いが無理やりに行う。
いつもどおりに気持ちを高ぶらせてもこの手の相手には通用しない。
バタフライ戦を鑑みて分かっていることだ。
これから強くなっていくためにはこの手の敵ともやりあえる実力が必要になる。
そう判断してシンは対バタフライを想定しての戦闘案を考えていた。
それが早速、実戦で試せるということである。
シンは意識を集中してカウントする。
相手が自分ならどう攻めるか……
見えないという利点、虚像で相手の視覚をだませるという利点。
その経路を一度見破られ攻撃されたという恐怖。
先ほどは攻撃を当てた瞬間に背後に回れる経路に攻撃を仕掛けた。
とはいえ、相手が飛べる以上、その経路は果てしなく多い。
たまたま、その一つに弾幕をばら撒いて当たっただけに過ぎない。
だが、相手には的確に捉えられたという恐怖心が生まれる。
もう一度、見破られ攻撃を受けたなら……
姿を消して攻撃を仕掛けられる利点は精神的な弱点へとかわることがある。
攻められないという安堵が崩れたとき、それが脆さを露呈する。
攻撃が中々、来ないのは相手も警戒をしているから。
攻撃を当てても問題ない場所は何処なのか。
飛び道具同士ではこの狭い空間内では距離など利点にはならない。
とはいえ、クロスレンジが安全な訳じゃない。
逃げても予測で当ててくるなら……
「(来る……攻撃が……!)」
シンは張り詰めた緊張感の中、半ば未来予測が如くに飛び出す。
それと同時に魔力の弾丸が放出された。
そこ目掛けてシンは突進する。
そして、シールドを前方に突き出してそのまま、弾丸を弾き飛ばしながら現れた鈴仙目掛けて体当たりをする。
「!?」
弾き飛ばされた鈴仙は眼を白黒とさせている。
シンは心の中で勝利を確信する。
今まで実体を攻撃しても消えていた。
実体は本体じゃないという思い込み。
それを逆手にとって相手が実体を保ったまま攻撃を行った。
それに賭けた。
相手がもっと臆病だったり、破られた戦法をそのまま使ってくるなら当てられはしなかった。
だが、相手もそれなりに戦闘に自負を持っていた。
ならばという考えが当たったのだ。
シンは弾き飛ばされる鈴仙に向かってビームサーベルを抜いて斬りかかる。
「終わりだ!」
振り下ろされるビームサーベル。
勝利を確信したシンが見たのは鈴仙の赤い瞳が輝くところだった。
その眼を見た瞬間、シンの体が硬直する。
体の動きが急激に止まる。
赤い瞳に睨まれているとシンの心がかき乱される。
そして、意識が闇に包まれていく。
「懶惰【生神停止(マインドストッパー)】」
鈴仙は動かなくなったインパルスから距離をとる。
「感覚を狂わせた程度だとここまでやれるなんてね……私の他にもこの手の能力者と戦ったことがあるのかしら。
それでも人間の神経では私の狂気の瞳からは逃げられない。
残念だけど貴方はここで終わりよ」
鈴仙は重い息を吐き出す。
その額からは大量の冷や汗が流れ出ていた。


「夢符【封魔陣】」
霊夢は霊力の陣を張り、結界を作り出す。
その結界は霊夢を取り囲んでいた竜牙兵を取り囲み、浄化の力がその身を砕いていく。
「即席での陣の形成、霊気放出だけで妖怪すら封印する力、重力の楔を感じさせない飛行能力、そして、空間跳躍。
現在の人間の魔術師を遥かに超える……いえ、英霊の中でも中々に見られないほどに強力な術者のようね」
キャスターは霊夢の戦いぶりを見て呟く。
先ほどからキャスターは召喚した竜牙兵をけしかけるだけで自らは打って出ていない。
「ボス戦に雑魚キャラを入れてくるのはやめて欲しいんだけど」
霊夢は空間を飛び越えてキャスターの目の前に現れる。
そして、勢いよくその顔面に目掛けて脚を繰り出した。
だが、それをキャスターは空間跳躍で回避する。
「直ぐに飛び回って……厄介ね」
「そっくりそのまま返すわ」
霊夢は距離が空いたキャスター目掛けて札を投げつける。
だが、キャスターはそれを魔力で焼き払うように放出する。
まるでビームのように降り注ぐ魔力光。
だが、霊夢はそれを全てギリギリのところを潜り抜けてキャスターに接近する。
「逃がさないわ。夢境【二重結界】」
霊夢は自身とキャスターの居る空間を結界で区切る。
「空間を拘束……」
キャスターは空間跳躍を試みるが失敗する。
霊夢はそんなキャスター目掛けて無数の針を投げつける。
針は完全にキャスターの体を捕らえる。
だが、キャスターはそれをローブの一振りだけで全て弾き返す。
「生半可な攻撃は通用しないって訳ね」
霊夢はその様子を見て呟く。
「大体の貴方の能力は分かったわ……
もう、終わりにしましょう」
キャスターは魔力のレーザーを無数に放出する。
霊夢はそれを回避するがレーザーは結界を破壊する。
「!」
霊夢はそれを見て驚く。
キャスターが無造作に放った魔術で霊夢の結界は紙のように破れた。
アレが直撃していれば霊夢の体など簡単に貫かれる。
「何時まで逃げ切れるかしら……?」
キャスターは連続で魔力の弾丸を放つ。
霊夢はそれを必死に回避するしかなかった。
「速い!」
しかし、次第に霊夢の体が捉えられていく。
回避する空間が足りない、旋回も次第に小さくなり、遂に霊夢の体目掛けて一つの魔力弾が突き刺さろうとする。
一つの直撃はそれだけで体勢を崩す、そうなれば一瞬で蜂の巣だ。
しかし、霊夢の表情に絶望は無い。
目の前の脅威に対して霊夢は死を意識しない。
それは確信だった。
自分がこんな所で死ぬはずが無いという。
予感にも似た直感
それと同時に霊夢とキャスターの間に一つの影が割り込む。
そして、それは霊気の渦を作り上げると魔力弾をそのまま反射した。
反射された魔力弾はそのままキャスターの下へとかえっていく。
だが、キャスターはそれを自ら打ち消した。
「まだ、邪魔者が紛れ込んでいたみたいね」
キャスターはその姿を見て呟く。

「あんたは……誰だっけ?」
霊夢がその後姿を見て尋ねる。
「わ、私ですよ!妖夢です!」
妖夢はそんな霊夢に驚いて自分を指差して叫ぶ。
霊夢はそういわれてようやく思い出しているようだった。
「折角、助けに来たのにこの巫女は……」
妖夢は忘れられたのが不満だったらしく口を尖らせてすねている。
「はいはい、それにしても冥界の住人のあんたがどうしてこんな所に居るのよ?」
「幽々子様が鳥肉が食べたいと仰るので捕りに着たら途中で連れて来られたんですよ」
「連れて来られた?」
「はい、彼女に……」
妖夢が指で指し示した方向から突如として魔力の閃光が駆け抜ける。
それはキャスターが居た空間を焼き払っていった。
「……」
霊夢はそれを見て誰が妖夢を連れてきたのか納得する。
「あいつには作法というものが無いのかしらね」
ロングレンジからの奇襲攻撃。
戦法としては非常に正しいのだがそれゆえに非難されがちな攻撃である。
「ピンチを助けたんだ。それぐらいは大目に見ようぜ」
箒にまたがって魔理沙がやってくる。
「まぁ、助かったわよ。正直、やばかったもの……
それにしてもこんな所に良く来たわね」
霊夢が魔理沙に尋ねる。
あまりにも都合の良い増援。
勘ぐりたい気持ちもある。
「ん、あぁ、別に私はこんな所に来るつもりは無かったんだが妙な客が来てな。
無理やり連れて来られた」
魔理沙は緩んだ様子で話を続ける。
先ほどの攻撃
それで完全に決着が付いた。
そう、確信していた。
だが、それが大きな油断となる。
魔理沙の上空に出現する黒いローブの影
それが紫色の魔力のレーザーを解き放つ。
「魔理沙!」
気づいた霊夢が叫ぶ。
だが、その時には既にレーザーは床を貫いていた。

「ふふふ……この時代にこれほどの術者がこんなにも居るなんてね」
キャスターは何処か嬉しそうに笑っている。
「よくもッ!」
妖夢は楼観剣を構え、キャスターを睨みつける。
キャスターのレーザーが焼き払った空間に魔理沙の姿は無い。
「あんなのでも人間。死んでしまったらそれで終わりだというのに」
怒気を孕んだ口調で叫び、殺気の篭った瞳で睨みつける。
「あんなので悪かったな」
だが、そんな彼女の頭に背後から箒が直撃した。
「みょん!」
妖夢は驚いて振り返る。
するとそこには何と魔理沙の姿があった。
「アレ?どうみても直撃してたはずなのに……」
妖夢は困惑した様子で尋ねる。
「その刹那の前に私が時を止めたのよ」
魔理沙の背後から咲夜が現れる。
「咲夜、あんたまで……どうして、あんたらは集まってくるのよ」
霊夢は少し頬を膨らませる。
「私はお嬢様の命令に従っているだけよ。今日、ここで面白いことが起こると仰っていたわ」
咲夜が霊夢に伝える。
「レミリアが?運命を見るだなんていう能力ね……面白いことが起きるって言う割にはあのお子様は来てないのね」
「流石にお嬢様も気まずいみたいよ」
「……なるほど」
咲夜の言葉に霊夢が納得する。
「何だ、霊夢。レミリアと喧嘩でもしたのか?」
魔理沙がそこに突っかかってくる。
「私はしてない。あいつと喧嘩になるのはもっと精神年齢の低い奴よ」
「ん~……あぁ、まさか、あいつら来てるのか?」
魔理沙が嬉しそうに霊夢に尋ねる。
「言っておくけどなのはは来てないし、あんたを外に出す気は無いわよ」
「なんだ、それじゃ意味が無いじゃないか」
あからさまに魔理沙は肩を落とす。

「随分と余裕ね」
キャスターが談笑する少女達に魔力のレーザーを降り注がせる。
少女達はそれに反応すると四方へと散った。
「まずはこいつを黙らせないとな。
それにしても幻想郷にこんな凄腕の魔法使いが居たとはな」
魔理沙は上空へと上るとキャスター目掛けてレーザーを放つ。
だが、キャスターはそれを空間を跳躍して回避する。
しかし、キャスターが出現した空間に一瞬にしてナイフが設置された。
キャスターを囲むように二次元上に配置され取り囲むナイフ。
それは瞬間的に円の中心……キャスター目掛けて加速した。
キャスターはそれもどうにか空間跳躍で回避する。
「そこよ!」
それに反応して次は霊夢が霊力の塊を放出する。
キャスターはそれも寸前のところで空間跳躍による回避を行う。
だが、出現と同時に妖夢が真っ直ぐにキャスターに向かって突撃する。
「人符【現世斬】」
常人の目では捉えられない速度に加速した妖夢が楼観剣でキャスターに切りかかる。
キャスターはそれも回避しようと試みるが反応が間に合わず一太刀を浴びることになってしまう。
溢れ出る鮮血にキャスターはうめく。
「くっ……流石に四人を同時には不可能のようね」
「諦めなさい。幾ら、魔法使いでもそれ以上の傷は命に関わるわよ」
霊夢がキャスターに宣告する。
自分達の勝利を。
事実としてキャスターには既に少女達全てを打尽にする力など残っていなかった。
「そうね……私の負けだわ。それで良いでしょう。輝夜」
「そうね。それで良いわ。メディア」
閉じられていた襖が開き、その奥から漆黒の髪を持つ美しい女性が現れた。
凛とした出で立ちに気品すら感じさせる。
「私としては何も問題ないわ。聖杯に興味なんて無いもの。
でも、貴方はそれで良いのかしら?」
「私も興味ないわ……たまたま、この幻想郷にやってきて、たまたま、貴方に会わなければもっと早く脱落していただけだもの」
キャスターは輝夜と呼んだ少女の下へと降り立つ。
「結局、貴方の難題には答えられなかったわね」
「そうね。だけど、楽しい一時だったわ。同じ罪人として、姫として。貴方と出会えたことに感謝するわ」
楽しげに輝夜はキャスターに話しかける。
「貴方がここのボスね」
そんな二人の間に割りいるように霊夢が告げる。
その言葉に輝夜は頷いた。
「その通りよ。ようこそ永遠亭に」
「挨拶はどうでも良いわ。それよりもさっさとアンデッドを出しなさい。匿ってても良いことは無いわよ」
「そうね。もう良いでしょう。確かめるべきものは確かめられたしね」
輝夜は不適な笑みを浮かべる。
その姿に霊夢は困惑とした表情を返すしかなかった。


「……!?」
鈴仙は自らの体を熱い何かが貫いている感触は感じる。
熱い?そんな生易しいものではない。
自らの肉体が溶け、気化している。
溢れ出る鮮血は蒸発し、傷口は焼かれて閉じる。
「そんな……意識は完全に断ったはず……」
鈴仙は自らを刺し貫く光の剣とそれを持つ鋼鉄の騎士を見て呟く。
「こんなところで俺は……!」
シンは真っ直ぐに鈴仙を睨みつける。
覚醒……
レミリア、西行妖との戦いで見せたシンの隠された力。
その発現が彼の心をつなぎとめた。
そして、クリアになった思考は明確に敵である鈴仙を排除するべく動く。
ビームサーベルを引き抜き、上段に構える。
そして、一気に振り下ろす。
だが、それよりも先にインパルスのビームサーベルが矢によって弾かれた。
「誰だ!?」
シンは即座にその方向に向かってCIWSを発射する。
無数の弾丸が弓の射手を捉えるがその肉体よりも先に存在する不可視の壁により遮られる。
「やめなさい。これ以上、敵対するつもりは無いわ」
銀髪と赤と青の二色が左右で分かれた印象的な衣装の女性が告げる。
彼女はそれと同時に持っていた弓を投げ捨てた。
そして、両手を挙げる。
その姿を見てシンは敵対を行動を止める。
それと同時に意識も通常状態へと戻った。
「どうやら、納得してくれたようね」
女性は安堵の息を漏らす。
「殺気は無いようだしな……だけど、この妖怪を庇ったって事は仲間なんだろ?」
「えぇ、その子は私の弟子よ。出来れば治療したいんだけど」
「なら、先にどうして俺を襲った。その理由を教えろ」
「力を試したかったからよ。モビルスーツ……人間が月の技術から生み出した科学の力。
それが人類の剣として相応しいものなのかをね」
「月の技術?人類の剣?何を言ってるんだ?」
シンは女性の言葉の意図が分からず困惑する。
「その事については後で教えるわ。それよりも優曇華の治療をさせて頂戴」
女性は焦っているのか威圧的な態度になる。
その様子にシンは思わず頷いていた。


空に月が浮かぶ。
大きく開いた屋敷の天上からそれは見えた。
「何故だ……どうして、自分ごと!?」
剣崎は空を見上げた叫ぶ。
彼の装着しているブレイドアーマーは所々が溶けて損傷しているがまだ、その機能を保っていた。
それとは違い、妹紅の姿は完全に消えている。
あの灼熱の炎は妹紅の体を完全に燃やし尽くしたのだ。
「俺を倒すためだけに自分の命を投げ出したって言うのか!?」
剣崎は力なく膝を突く。
そして、そのまま、前のめりになり、床を拳で叩いた。
一人の少女が命を懸けた理由は分からない。
だが、自分の責で一つの命が失われたこと。
その事に対する憤りが剣崎の心をかきむしる。


「やはり、人間一人の力ではこの程度か……」
剣崎の元に一体のアンデッドが歩み寄る。
その気配に剣崎は即座に立ち上がり、ブレイラウザーを構えた。
視線の先に映るその姿は狼。
人里で対峙した狼人間とは一目で別次元だと分かる。
その存在感からして有象無象のそれとは違う唯一の存在。
ウルフアンデッドが居た。
「お前が……お前が原因か!」
剣崎は切りかかろうとするがそれよりも先にウルフアンデッドは片手で掴んでいた人間を前面に押しやる。
その姿に剣崎は足を止めた。
「慧音さん!?」
慧音はウルフアンデッドの手にその首を後ろから押さえ付けられ盾とされている。
「その声は剣崎さんか……すまない。捕まってしまった」
申し訳なさと苦痛の音を慧音は漏らす。
「それじゃ、妹紅は君を助ける為に……」
「人間にしては力があるようだったからな。利用させてもらった訳だ。
倒すまでには至らなかったがそこまでの損傷を与えたのは僥倖だ」
「貴様ッ!!」
剣崎は頭に血が上り、飛び出そうとする。
だが、それに反応してウルフアンデッドはほんの少し指に力を込めた。
ただ、それだけでウルフアンデッドの指が慧音の首に食い込む。
その痛みに慧音は声を漏らした。
それに反応して剣崎は体を止める。
「分かっている。お前が人間を見捨てられない存在だということを……
そして、味方から孤立し、その損傷でどう戦う?」
ウルフアンデッドは慧音の体を下ろし、引きずりながら剣崎へと歩み寄る。
そして、残った腕でブレイドの装甲を引き裂く。
「うあっ!」
その痛みに剣崎は声を上げながら転がる。
そして、倒れたブレイドにウルフアンデッドは容赦なく追い討ちをかける。
地面を転がる玉を蹴り飛ばすようにウルフアンデッドはブレイドを蹴り抜いた。
ブレイドの体は宙に舞い、壁に激突して地面に落ちる。
それと同時にダメージの蓄積に耐えられず変身が解除された。
「変身が解けたか……こうなってしまえば貴様はただの人間。
俺が優勝者となる為に貴様には死んでもらう!」
ウルフアンデッドは変身が解けた剣崎にトドメを刺そうと近寄る。
だが、その時、紅蓮の炎が舞い上がり、ウルフアンデッドの体を包み込んだ。
「なっ!?」
突然の炎にウルフアンデッドは驚きたじろぐ。
その炎の中、白髪の少女が生まれ出でた。
不死鳥がその伝承のように灰から復活するように
「慧音は返してもらうわよ」
そして、その隙を突いて慧音を奪い取り、妹紅は距離をとる。
「何だと!?この再生……お前も無限の命を持つというのか?」
不死生物であるアンデッドは驚く。
人間が……いや、ヒューマンアンデッド以外の人間が不死身であるはずが無い。
「私の能力は決して死なない程度の能力。斬ろうが、刺そうが、たとえこの体を炎で完全に燃やし尽くそうとも私は死なない」
慧音を抱え、紅蓮の翼を広げながら妹紅は告げる。
「バカな、そんなはずは無い。無限の命を持つのは俺たちアンデッドだけだ」
うろたえるウルフアンデッド。
「……いや、今はそんな事はどうでもいい。今の目的はライダーを倒すこと」
しかし、直ぐに彼は自分の目的を思い出す。
そして、今も無防備な剣崎にトドメを刺そうとする。
「やめろ!」
妹紅は炎を飛ばし、ウルフアンデッドの気を引こうとする。
だが、ウルフアンデッドはそれを意にも返さずに突き進む。
「まずは一人だ!」
振り下ろされるウルフアンデッドの足。
それは間違いなく剣崎の体をへし折り、真っ二つにするだろう。
だが、それを邪魔するものが現れる。
「カズマをやらせるわけには行きません!」
音速の踏み込みでセイバーがウルフアンデッドに肉薄する。
その衝撃にウルフアンデッドの体を後ろへと吹き飛ぶ。
「人間!?いや、英霊か!」
ウルフアンデッドは踏みとどまり叫ぶ。
「お前がアンデッド……なるほど、伊達に生物の始祖にして不死生物などという存在ではないようだな」
セイバーは剣崎を守るように前に立つ。
「大丈夫ですか?」
その後から士郎が剣崎に駆け寄り、その体を起こす。
「士郎……それにセイバー。助かったよ」
剣崎は息も絶え絶えという様子で告げる。
「こちらこそ遅れてすみません。あのアサシンは予想以上の強者でしたので……まぁ、横槍が入ってちゃんとした決着にはなりませんでしたが」
セイバーはアサシンとの戦いを思い起こし不満そうな表情を浮かべる。
「それよりもセイバー。相手は上級アンデッドだけど大丈夫か?」
「問題ありません……と、言いたい所ですが正直、倒しきる自信はありません」
何時に無く弱気なセイバーの発言。
それに士郎は驚く。
「彼の戦闘技術は戦ってみていないのでなんともいえませんがアンデッドという存在。
それだけで強大な魔力の塊です。それこそ一体で聖杯を満たしかねないほどに」
「なっ!?」
セイバーの言葉に士郎は驚く。
どんな願いも適えるという願望機。
それを賄うだけの膨大な魔力をたった一体で満たせるというのだ。
どれほどまでに純粋で強力な生命の力を持つというのか。
「ただ、勝ち目が無いわけではない。
カズマやシンが立ち向かい倒したというのなら私に出来ないはずは無い」
なまじ、魔力を判別できるだけにその存在の強大さに気持ちが圧される。
だが、それでもアンデッドという存在がその魔力、存在に見合うだけの力があるとは考えていない。
何故なら、上級アンデッドという存在が以前にカズキとなのはにより倒されているという事を知っている。
武装錬金と異世界の魔法技術、確かに常識では測れない力ではある。
だが、それはセイバーとて同じ。
そして、戦いの世界に身を投じて数ヶ月という若輩者でも力を合わせて打ち倒せる存在なのなら。
伝説に記されし英霊が倒せない道理などはない。
セイバーは不可視の剣を構え、一気に斬りかかる。
その刹那に一気に間合いはゼロとなり、ウルフアンデッドの胸が切り裂かれる。
吹き出る緑の鮮血。
だが、その刃は肉に阻まれ勢いをなくす。
「!?」
セイバーはそれに驚き引き抜こうとするがそれよりも先にウルフアンデッドの拳がセイバーの鎧に叩き込まれる。
その衝撃にセイバーは弾き飛ばされ床に倒れる。
そして、その魔力で織り込んだ鎧にもヒビが見えた。
「セイバー!」
士郎が驚いて駆け寄るがセイバーはそれを静止して立ち上がる。
「大丈夫です……」
セイバーはそういうがダメージはかなり大きいようだ。
明らかにふらついている。
「どうした英霊?やはり、その程度か。たかが、ヒューマンアンデッドの眷属が上級アンデッドである俺に適うはずは無い」
それに比べてウルフアンデッドはその傷を気にも止めていないようだった。
「予想よりも頑丈なようですね。カズキのランスで貫けたという話ですから切断できると踏んでいたのですが……」
セイバーは相手に対する認識を改める。
一撃で勝負を決することが出来るような生ぬるい存在ではない。
ならば、数でいくしかないとウルフアンデッドへと近づく。
放たれるセイバーの剣。
だが、それをウルフアンデッドは腕の刃で受け止める。
「見えない刃か、小賢しいな」
「先ほどの一撃、わざと受けたのか?」
「あぁ、そうだ。お前の力は俺に届かない。それを見せ付けるためにな」
ウルフアンデッドは腕の刃と爪を駆使してセイバーに攻撃を仕掛ける。
先に攻めたのはセイバーだったが何時の間にか形勢は逆転し、セイバーは護る側となっていた。
「不死【火の鳥-鳳翼天翔-】」
妹紅は援護しようと炎の鳥を呼び起こし、ウルフアンデッドに向けて放つ。
ウルフアンデッドは飛んでくるそれを爪で切り裂く。
「はっ!」
セイバーはその隙をつき、腕を切り裂く。
血が吹き出るが切断には程遠い。
「ちっ!」
ウルフアンデッドは跳躍し、セイバーとの距離をとる。
「逃がしはしない!」
しかし、セイバーはそれを許さない。
踏み込みにより距離をつめて、インビジブル・エアにてその身を切り裂く。
「ぐっ!」
その一撃は胸を切り裂き、体の中ほどまで切り裂いている。
「これ程の傷を負えばアンデッドと言えども……」
セイバーはウルフアンデッドの顔を見る。
だが、その眼はまだ、死んでいない。
セイバーはそれに気づき距離をとろうとする。
だが、それよりも早くウルフアンデッドの手がセイバーの首を掴んだ。
凄まじい力がセイバーの首を締め上げる。
それは絞めるなどという生易しいものではない。
呼吸を止めるでも、骨を折るでもない。
そのまま、潰さんと手は閉じられていく。
「これで終わりだ。英霊!」
ウルフアンデッドの腕が更に力を込めようとする。
だが、それよりも先にその腕が切り裂かれた。
それと同時に締め上げられていたセイバーの体は床に倒れる。
「終わるのはお前だ。アンデッド!」
ブレイラウザーを降りおろすブレイド。
返す刃でその胴を薙ぎ払う。
その一撃にウルフアンデッドの体が爆発し、倒れる。


ウルフアンデッドの封印をもって今宵の異変は終結した。
その後、その屋敷の主である蓬莱山輝夜に異変の解決に動いた人間達は集められた。
「此度は私の屋敷を占拠した賊の退治、良くやってくれたわ」
輝夜が労いの言葉を送る。
「占拠した賊ねぇ。それじゃ、あんたはあのアンデッドに脅されたから協力して私達に攻撃を仕掛けたって言いたい訳?」
霊夢が輝夜に尋ねる。
今回の戦いの中でこの永遠亭の客分と手下に攻撃された。
その事に対して霊夢は憤慨している。
その問いに輝夜は素直に頷いた。
「そうよ。アンデッドとまともに戦ったら勝ち目なんて無いもの。それに人質もいたしね」
仕方が無いことだと輝夜は弁明する。
「そう言ってもね。こっちは危うく死に掛けたのよ」
「本気でいかなければこちらも危なかったのよ。それに誰も死ななかったから良かったじゃない。
被害としてはこちらは門番を一人失い。イナバの一人が重体。
そっちは二人が怪我した程度。被害ならこっちの方が大きいのよ」
「自業自得でしょ!」
輝夜の言い分に霊夢が噛み付く。
「まぁ、その事についてはもう良いんじゃないか?あっちにだって事情があったんだし」
そんな霊夢を剣崎が宥める。
「……まぁ、納得いかないけど終わったことだしね。水に流してあげるわ」
霊夢はどうにか落ち着きを取り戻してそう告げる。
「そう言ってくれるとありがたいわ。それじゃ、今日はもう、遅いし貴方達は泊まっていきなさい。
部屋の方はイナバに案内させるわ」
輝夜がそういい会話を終えようとする。
「ちょっと待ってくれ。その前にどうして、あのアンデッドはこの屋敷に来たのか。その理由を教えて欲しい」
会話を止められそうになり慌てて剣崎が質問する。
「それは私が案内したからよ」
だが、その質問に対して答えたのは妹紅だった。
「案内、君が?」
「えぇ、里の近くで待機していた私の前にあいつが慧音を人質にして現れた。
そして、八意永琳が居る場所に案内しろって言われたからそうしたのよ」
「それじゃ、ウルフアンデッドの目的はその八意永琳って人なのか」
剣崎はそういい、輝夜とその横にいる永琳を見る。
「……流石に事情を話さない訳にはいかないみたいね」
永琳はそうして重い口を開く。
「貴方が……どうして、アンデッドは貴方の所に来たんですか?」
剣崎は追求する。
「彼は私の持つ技術を求めてやってきた。
そう、この地上よりも遥かに優れた月の技術。それを求めて来たのよ」
永琳は淡々とした様子で告げる。
「月の技術?」
剣崎が反芻する。
「そう、私と姫はこの地上の人間ではない。
元々は月の都に住んでいたの」
「……それって月の基地に所属していたって意味じゃないですよね?」
シンが永琳に尋ねる。
「もちろん、違うわ。地上の人間が月に足を踏みしめるよりも遥かに前から……
そう、コーディネイターの始祖であるジョージ・グレンがアポロ計画により月に足を踏み入れるよりも遥かに先。
あの土地には私達、月の人間が住んでいた」
「何をバカなって言いたいけど……」
シンはこれまでの色々な経験からそれを冗談と笑えない。
「懸命ね。いえ、コーディネイターというのは他の地上人に比べて理解が早いのかしら」
「そういうことは無いと思うけど……」
シンがそういうと剣崎と霊夢が確かにと頷く。
「それでウルフアンデッドが求めた月の技術ってどういうこと何ですか?」
剣崎が続けて質問する。
「月の文明は地上に比べて遥かに高度に発展している。
科学と魔術、そのどちらをとってもね。
まぁ、月人にとってその二つにはそれほど差異があるものではないけれど」
その言葉にシンは少し苛立ちを覚える。
「随分と自信満々のようですけど、外の世界も知らないのによくそんな風に断言できますね」
「もちろん根拠はあるわ。先ほど、ジョージ・グレンの名を出したけど。彼に月の技術を提供したのは月の都よ。
それも最新のものではなく既に廃れてしまったようのものだったけど」
その言葉にシンを始めといて外に住んでいた剣崎と士郎が押し黙る。
「その事が事実ならジョージ・グレンが月から帰還して急速に科学が発展していったのは月の技術を提供されたからって言うのか……」
コーディネイターや人間の優れた科学者たちによって進められた宇宙開発。
その切欠は月にある文明の廃れた技術が元だというのだ。
宇宙にあるプラントで過ごしたことのあるシンにとってその話は余りに荒唐無稽に感じられた。
だが、その歴史を知る上で彼女の言い分が正しいのではないかと思える部分もある。
アポロ計画成功からの宇宙開発の発展ぶりは凄まじいを通り越して奇妙だからだ。
単純に新発見が成功したというよりも何かを参考にしたと言われた方が納得できる。
何せ地上の文明の発展を遥かに通り越して宇宙開発だけ進んでいるからだ
「だけど、提供した技術は話を聞く限りではそこまで大した物では無かったはず。
たかが、数十年であれ程に小型化した武装システムへと発展してるなんてね」
永琳は純粋に遭遇したインパルスの戦闘データから評価する。
「上級アンデッドたちはバトルファイトを勝ち残るために色んな勢力と共闘していた。
確かに月の文明が優れているならウルフアンデッドがそれを求めるのも分かる。
だけど、何故、ウルフアンデッドは貴方達の事を知っていたんだ?」
剣崎が尋ねると永琳は首を横に振る。
「それについては分からないわ。
私達はここに移り住んでから殆ど外部との接触を持っていない。
あの存在が私たちの事を何処で知りえたのか皆目検討が付かないわ。
むしろ、こちらが教えて欲しいものね」
「自力で探し当てたのか……?」
しかし、幻想郷のそれも住人ですらもほぼ知らないこのような場所をどうやって聞きつけたのか。
だが、既にウルフアンデッドは封印されてしまっている。
その真相への糸口すら見つからない状態だった。


永い話が終わり、屋敷で休んでいく事となった。
お開きとなりそれぞれの部屋に案内される段となったとき。
シンは部屋から出ようとしている永琳を呼び止める。
「あの……」
「貴方は……どうか、したの?」
「あいつは……俺を襲ってきた妖怪の娘は大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫よ。あれでもそれなりに鍛えてるもの。人間よりも丈夫だしね。
でも、流石にまだ、意識は取り戻してないから話は出来ないけど」
「いえ、大丈夫だったら良いんです」
シンがそう言うと永琳はそのまま、さっていく。
「相手のことを気にするなんて珍しいな」
そんなシンの背後から剣崎が肩に腕を回して話しかける。
「剣崎さん!」
「その娘の事が気になるのか?」
「まぁ、戦闘での事で不可抗力というかどうしようもない事でしたけど。
あっち側も不本意な戦いだったみたいですし、それで死なれたら目覚めが悪いなって」
「……いや、そういう意味じゃなかったんだけど」
「それ意外に何かあるんですか?」
シンはきょとんとした様子で尋ねる。
その様子に剣崎は苦笑いを浮かべる。
「カズマ、少しいいですか?」
そんな剣崎にセイバーが声をかける。
剣崎はその声を聞いてシンから離れてセイバーに向き直る。
「どうしたんだ?」
「いえ、先ほどは助かりました。貴方が居なければ私は敗北していたでしょうから」
「あぁ、その事か。それだったら、俺もセイバーと士郎が助けに来てくれなかったらやられてたろうしお互い様だろ」
「そう言ってくれると助かる。これからも頼りにさせてもらいますよ。仮面ライダーブレイド」
「こっちこそ」
セイバーと剣崎は互いに笑みを浮かべる。
「俺たちも居るんだけど」
シンが少し不満そうに言うとセイバーは微笑を浮かべる。
「貴方にも期待していますよ、シン。それはカズキやなのは、霊夢も同じです」
セイバーが笑みを浮かべたまま答える。
「ちょっと!私をまた、勝手に数に入れないでよ」
その声が聞こえたのか霊夢が文句を言ってくる。
「何だよ。俺たちはもう、仲間だろ」
「私の仕事は幻想郷の異変解決よ。外の世界までは知らないの」
剣崎はそういうが霊夢はにべも無く断る。
だが、何処か少し嬉しそうに見えた。



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