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「俺たちが休んでる間にそんな事があったなんて」
衛宮邸でカズキはシンから昨日のプレシアとの戦いの話を聴いている。
「私のほうから断っておいたからな。他の者もダメージは大きいとはいえ、君はその中でも郡を抜いている」
斗貴子がカズキに告げる。
「もう大丈夫だって!核鉄の治癒があるんだから、そんなに問題ないよ!」
カズキはそういって胸を叩いて見せるがその衝撃で傷が痛み悶える。
「言わんこっちゃ無い。そんな状態で戦わせられるものか。
それに君はその胸の核鉄も良く分かっていない状態なんだ」
斗貴子はカズキの胸を指差す。
そこまで言われてカズキは何もいえなかった。
「でも、俺が休んでる間に士郎が聖杯戦争ってのに参加してジュエルシードの争奪戦が終わった。
たった二日なのに本当に目まぐるしいな」
カズキは襖を見る。
その向こうではセイバーが眠っている。
「目まぐるしいのは何時も通りだけど……本当に異常なぐらいに色々と起きるからな」
シンは少しうんざりとした様子で呟く。
「確かにそれには同意せざるを得ないな」
斗貴子もその言葉を肯定する。
「それでフェイトちゃんはどうなったの?」
カズキがシンに尋ねる。
「あぁ、命じられてやってたことだし、実被害もそこまで出してないからな。
リンディ艦長も減刑してもらえるように努力するって言ってたし、そこまで重い罪にはならないんじゃないかな。
流石に向こうの法律とか知らないからなんとも言えないけど」
「そっか……でも、そうなるとなのははフェイトちゃんと離れ離れになっちゃうんだな」
「それは仕方ないけど、罪を清算すればまた会えるだろ」
「そうだな」
カズキも少し寂しそうだった。
それはなのはの気持ちを考えて表情に出てしまっているのだろう。

「ちょっと、衛宮君、これは何かしら?」
「そ、それは!?そういえば、いきなり帰ってったから……」
「身に覚えがあるのね!?」
「え、えっと……」
廊下の方から慌しい声が聞こえてくる。
その声に惹かれてカズキは廊下の方へと顔を出した。
「どうしたんだ?士郎と遠坂」
カズキは凄まじい剣幕の凜とそれに圧倒されている士郎の下へと歩いて行く。
「どうしたじゃないわよ。これ!」
そういうと凜はカズキの前にそれを突き出した。
「そ、それは!?」
カズキはそれを見て眼を丸くする。
そして、一瞬で理解する。
そう、目の前にあるそれはドロワーズと呼ばれる下着だ。
「霊夢か魔理沙のか、そう言えば二人とも急に帰ることになったから荷物とか纏めてる暇なかったもんな」
カズキはうんうんと頷く。
「霊夢?魔理沙?そいつらは何者よ?」
「何者って女の子だよ。巫女と魔法使いの」
「巫女!?魔法使い!?一体どういう……」
凜は話の要領がつかめずに混乱している。
「あぁ……とりあえず落ち着け、それについては私が説明する。
とりあえず、カズキは黙っていろ」
そこに斗貴子がやってきてどうにかこうにか場を取りまとめた。


斗貴子が凜に霊夢と魔理沙について説明する。
「幻想郷……まさか、実在していたとはね」
凜は斗貴子の説明で納得している。
「知ってるのか、遠坂?」
「名前だけはね。元々はここの土地の一部だったんだけど神秘の存在を守秘する為に結界を張って隔離したって家の本に書いてあったわ。
まぁ、元々ここの管理は遠坂が行ってるんだから当然ね。
とはいえ、あまり信じてなかったんだけど、妖怪なんて見たことも無いしね」
「私も話を聴いたことがあるだけだが。そういえば、その幻想郷に黒い核鉄の秘密を知る者が居るんだったな」
斗貴子がカズキに視線を送る。
「うん、紅魔館の図書館で出会ったヴィクトリア・パワード。裏切りの戦士ヴィクターの娘で真紅の友人。
俺が最初に幻想郷に行った時から俺の核鉄を警戒してた」
カズキは思い返す、最初にヴィクトリアと出会ったときの事を。
今なら何故、彼女が自分の核鉄を警戒していたのかが良く分かる。
「幻想郷か……」
シンは重い表情で呟く。
「あら、ザフトのパイロットも妖怪は苦手なのかしら?」
凜がその様子を面白がりつつく。
「別に……」
それに対してシンはうっとうしそうに一言だけ返して無視する。
その様子に凜は笑っていない笑顔を作る。
「ちょっと、落ち着けって……シンはそういえば誰かと喧嘩したんだっけ?」
士郎がフォローしようと話を進める。
「そうそう、レミリア・スカーレットって言う吸血鬼の女の子と喧嘩しててさ。
まぁ、気持ちは分からなくも……」
「吸血鬼!?」
カズキの言葉を遮って凜が悲鳴にも近い声を上げる。
「吸血鬼って言ったの!?幻想郷には吸血鬼も居るって事!?」
「うん、その紅魔館って所の主人が吸血鬼なんだけど」
「吸血鬼と喧嘩ってどういうことよ。あんた、吸血鬼とまともに戦ったの?」
凜は半信半疑の様子でシンに詰め寄る。
「うるさいな、どうだっていいだろ!」
シンはぶっきらぼうに話を遮る。
「シンはレミリアに負けてるからな。あんまり話したくないんだよ」
「吸血鬼に負けたって……そりゃ、しょうがないでしょうね。英霊でもそんな化け物に勝てる奴が何人いるか……
それにしても吸血鬼に負けてあんたはよく無事ね。もしかして、もう吸血鬼になってるなんてオチは無いでしょうね?」
「……血は吸われたけどなってない」
「……はい?ありえないでしょ、吸血鬼に血を吸われて眷族になってないって!?」
「事実だから仕方ないだろ。あいつは小さいから人間一人の血も吸いきれないんだとさ。
あいつのメイドが言ってた」
「小さいって……どれくらい?」
「さぁな、5,6歳ぐらいじゃないか?」
シンのその言葉を聴いて凜はお腹を抱えて笑い始める。
「5,6歳って幼稚園児じゃない。いくら、吸血鬼が相手でもそんな子供に……」
「うるさいな!」
「いや、ごめん。見た目じゃ分からないってのは分かってるんだけど……
あんたが幼稚園児にモビルスーツまで持ち出してボコボコにされて血を吸われてるの想像したら」
凜の言葉にシンのイライラは見るからにつのっていく。
その様子に士郎は頭を抱えていた。
むしろ、気が短いシンがよく耐えてるものだと感心してるぐらい。

「おやおや、幻想郷について口外しないって約束じゃなかったかな」
突然、部屋に声が響く。
聞き覚えの無い幼い声。
それに驚きその場に居た全員が立ち上がりあたりを警戒する。
「何事です!?」
横の部屋に居たセイバーも襖を開けて飛び出てくる。
その姿は既に鎧を着て戦闘態勢に入っていた。
「誰だ!?」
シンが手に転送機を握り締めて叫ぶ。
「ごめんごめん、驚かせちゃったかな」
声が聞こえたと思った瞬間、突如として、霧がテーブルの上に集まる。
そして、霧は一人の小さな少女の体を形作った。
だが、それはただの少女ではない。
その頭に大きな角が二本生えている。
「女……の子?」
凜はその姿を見て呟く。
だが、それがただの女の子ではないことなど当に分かっている。
「久しぶりだね。遠坂。と言っても私達の事は上手く伝わって無かったみたいだけどね」
少女は凜に話しかける。
「遠坂を知ってる……もしかして、貴方は妖怪……?」
「そうだよ。妖怪も妖怪。その中でも最強の鬼の一人さ」
その言葉を聴いて凜は顔を蒼くする。
「鬼って昔話とかに出てくる?」
そんな様子も気に返さずカズキが尋ねる。
「まぁね。私も人間の本に載るぐらい色々とやってたんだけどね……
それでもやっぱり、外だとあんまり力が出ないね」
少女はカズキの様子に残念そうだった。
「それで鬼が何用ですか?もし、この場にいる人間を攫おうなどと言うのなら私が相手になります」
セイバーが真っ直ぐに少女を睨みつける。
「良い眼だね。惜しいのは今の人間じゃないって所ぐらいか。
あんたにとっちゃ、私みたいなのもあんまり珍しい訳じゃないんだろ?」
「鬼とは初対面ですが妖怪の類との戦闘経験はあります」
「だよねー……まぁ、今日は別にそういうことをしに来た訳じゃないから安心してよ」
少女はテーブルの上に横になる。
そして、その腰に下がっていた瓢箪の蓋を開けて中身を飲んだ。
「酒?」
離れているのにアルコールの匂いが漂ってくる。
「そうそう、まぁ、それは置いといて……
実はあんた達……厳密には仮面ライダーって奴に幻想郷に来て欲しいんだよね」
「幻想郷に来て欲しいって……俺たちはそこの管理者って奴に入ることを禁止されてるんだぞ」
「知ってるよ。むしろ、そいつからの依頼さ。
仮面ライダーとあんた達にやって欲しいのさ。
永遠の命を持つ者の退治をね」










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第二十五話「月下の狂騒」






「何であんた達がここに居るのよ?」
幻想郷の人里
そこの寺小屋で霊夢が外来者たちに向かって言葉を放つ。
「俺たちは呼ばれたから来ただけだ」
それにシンが答える。
今生の別れだと思っていたがたった数日であっけなく再会したことに大してシンはばつが悪そうだった。
「呼んだ?誰が?」
霊夢がそのままシンの隣に座る。
特に霊夢は気にしていないらしく普段通りに接する。
「私だよー、でも、私が呼んだのは仮面ライダーとついでに英霊だけなんだけどね。
後のは勝手についてきたおまけだろ」
床に寝転がって酒を煽っている鬼の少女が答える。
「萃香!?どうして、あんたがこいつらを呼んだの?」
霊夢がその少女に驚く。
どうやら、二人は顔見知りのようだった。
「紫から頼まれてね」
「あいつが直接、行けばいいじゃない」
「自分から二度と来るなって行った手前、自分から言い出すのが辛かったんじゃないかな?
変なところでプライドがあるし」
「そういうものかしらね……」
霊夢は何処か納得が行っていないようだった。
「それで幻想郷に来たのはシンと剣崎さんと士郎と……誰?」
霊夢はセイバーを見てシンに尋ねる。
「あぁ、あいつはセイバー。士郎の使い魔だよ」
「使い魔ねぇ……あそこに居たのはどいつもこいつも変な奴らだと思ってたけどやっぱり家主も変人だったみたいね」
霊夢はしみじみと納得している。
「どういう意味だよ。というか、そんな眼で俺たちを見てたのか」
士郎が霊夢の言葉にあきれている。
「意外と少ないのね。カズキやなのははどうしたの?」
「カズキと斗貴子さんと真紅も来てるよ。そっちはそっちで別件で紅魔館に行ったけど。
なのはは昨日の戦いのダメージもあるし、いつもみたいに帰れないと色々と不都合だから来てない。
それに外もまだまだ問題も多いし今回は俺たちだけでって事になったんだよ」
シンが霊夢の問いに答える。
「だけと言ってもね。さっきも言ったけど別にあんたが来る必要は無いんだよ」
萃香がシンに告げる。
「別にいいだろ。剣崎さんや士郎だけだと不安だし」
シンはそういうが萃香は不服そうだった。
「まぁ、いいさ。それじゃ、後は頑張りな」
萃香はそれだけ言うとその姿を霧へと変える。
そして、いずこかへと消えていった。
「相変わらず神出鬼没ね」
霊夢がその様子を見て呟く。
「それでどうして俺たちは呼ばれたんだ?」
シンが霊夢に尋ねる。
「あいつらの考えてることなんて私には分からないわよ」
しかし、霊夢も知らないようだ。
「それについては私から説明しよう」
教室に新たな人物が入ってくる。
頭に奇妙な帽子をかぶった銀髪の少女だ。
「私は上白沢慧音。貴方達に集まってもらったのは他でもない。
最近、人里に現れる狼人間の退治をしてもらいたい」
「狼人間?」


紅魔館
そこにある図書館でパチュリー・ノーレッジはいつもどおり、薄暗い中で本を読んでいる。
そんな主人の下に小悪魔がせっせとやってくる。
「パチュリー様、お客様です」
「お客様?私にちゃんと正面からやってくるような客がいたかしら?」
パチュリーは首をかしげる。
何時も来る黒白は勝手にやってきて勝手に本を盗んで行くぐらいで他に客は来ない。
レミリアの場合は客ではないのでそれに該当しない。
「以前にいらっしゃった武藤カズキさんです」
「まだ、幻想郷に居たのね……いいわ、どうせあの事でしょう」
パチュリーは一人納得すると小悪魔は頷いてその場から離れていく。
カズキたちを迎えにいったのだろう。
「これで三度目の来訪ね……果たして何かしらの進展があるのかしら」
パチュリーは静かに溜息を漏らす。

小悪魔に案内されてカズキたちはパチュリーの前までやってくる。
「ありがと」
カズキは小悪魔に礼を言う。
小悪魔はそれに会釈で返してそのまま去っていった。
「彼女が君が言っていた黒い核鉄のことを知る人型ホムンクルスか?」
斗貴子がカズキに尋ねる。
「いや、違うよ。彼女はパチュリー。ヴィクトリアの友人でここの図書館の主なんだ」
カズキが斗貴子に説明をする。
「それで貴方達は何をしに来たのかしら?」
「ヴィクトリアに用があってきたんだ。この俺の心臓にある黒い核鉄について……それを聞く為に」
カズキの言葉を聴いてパチュリーは本をテーブルの上に置いて閉じる。
「それを知っているということは……なってしまったのね。錬金の魔人に」
パチュリーの言葉にカズキは頷く。
「カズキは変貌してしまった。裏切りの戦士ヴィクターと同じ存在に……」
斗貴子がカズキの代わりに答える。
「裏切りの戦士だなんてよく言えるわね。裏切ったのは貴方達の方だと言うのに!」
そこに剣幕が割り込んでくる。
その方向にはヴィクトリアの姿があった。
「ヴィクトリア!」
その姿を見て真紅が駆け出す。
「来ないで真紅。貴方とは決別したはずよ」
「何故、そんな事を言うの。ヴィクターも私の事を錬金術の産物と言い壊そうとした。
どうしてなの?錬金術は貴方達家族の絆とも言うべきものだったのに」
真紅の言葉にヴィクトリアの視線は更に冷たく鋭くなる。
全てを拒絶するその眼に真紅は何もいえなくなる。
「余計な詮索はしないで。一つだけ教えてあげるわ。
私は錬金術の全てが嫌いなの。ホムンクルスもローゼンメイデンも錬金の戦士も……
全部、消えてしまえば良い」
ヴィクトリアのその言葉に真紅はその場に崩れ落ちる。
「ヴィクトリア!」
その様子を見てカズキが飛び出し叫ぶ。
「何?」
「真紅は君の事をずっと心配してたんだ。それなのに消えろだなんて彼女だって生きてるんだぞ」
「生きてると言ってもそれは人形。賢者の石の試作品、それを入れるだけの器。
それがローゼンメイデンよ。そんなものを生きてるだなんて言うの?」
「生きてる。それだけは否定させない」
「……勝手にしなさい。
それはそうとムトウカズキ、貴方は自分の体について聞きに来たんじゃなかったのかしら?」
ヴィクトリアがそう尋ねるとカズキは険しい表情を一瞬で解いていつもどおりの抜けた表情に戻る。
「そうそう。それについて聞きに来たんだった」
「……気楽なものね。まぁ、傍に錬金の戦士が居る以上、まだそこまで広まっていないのかしらね」
「何が?」
「……嫌でも分かるわ。いずれね。ともかく、行くわよ」
ヴィクトリアはきびす返して歩き出す。
「何処に?」
「私の母親……そして、黒い核鉄の製作者の下よ」


紅魔館の地下
そこはヴィクトリア・パワードの武装錬金で作られた隠れ家が存在していた。
「こんな武装錬金もありなのか……」
カズキは通路の壁を見ながら呟く。
武装の定義がここまで広かったとは思いもよらなかった。
「それにしてもアレキサンドリアが生きてるなんて……」
真紅は呟く。
ヴィクトリアと同じようにアレキサンドリアもホムンクルスになっているというのか。
ヴィクトリアはその事について何も説明しない。
「早くしない」
一足先に部屋に着いていたヴィクトリアが呼びかける。
カズキたちは部屋へと立ち入った。

そして、辺りを見て驚愕する。
「なっ!?」
一面のガラス張りの水槽。
その中に人間の脳みそが陳列されていたからだ。
「ようこそ、武藤カズキくん。そして、真紅」
ガラスが震え声が響く。
「その声……まさか、アレキサンドリアなの?」
真紅は愕然とした様子で呟く。
「その通りよ。まさか、貴方と再会するなんて思いもよらなかったわ」
「それはこちらの台詞よ……それもこんな姿に……」
「ごめんなさいね。私の肉体は既に朽ち果ててしまっていて。
どうにか脳細胞のクローンを作って生きながらえているという状態なの」
その言葉に真紅は何も返せない。
「幻想郷で最もオカルトじみた姿よね」
穴を通って出てきたパチュリーが呟く。
「ちょっと、それは失礼なんじゃ」
カズキがそんなパチュリーに驚く。
「いいのよ。事実だもの。
それに彼女は私にとって大切な友人よ」
「一緒に紅茶を楽しめないのは悲しいけどね。
まぁ、私よりも経験の長い学者なんて他に知らないし色々と参考になることが多いわ」
パチュリーは椅子に座ってくつろぎ始める。
「紅茶をお持ちしましたよ」
そこにトレイにお茶のセットを持って小悪魔がやってくる。
「ヴィクトリア、テーブルを用意しなさい」
アレキサンドリアがヴィクトリアに要求する。
「そこまで歓迎する必要はないでしょ」
そう言いながらもヴィクトリアは中心部にテーブルを作り出す。
そこに小悪魔がカップを置いていった。
「貴方達に説明をしなければならないと思うんだけど」
アレキサンドリアがそう言うとヴィクトリアが黒いメットを取り出す。
「何これ?」
「これは私の武装錬金よ。かぶった人を操作できるんだけど。
このままガラスを共振させてしゃべるのは非常に疲れるから誰かにかぶってもらいたいんだけど」
受け取ったカズキはそのまま固まる。
「それじゃ、俺が」
そして、かぶろうと高々と掲げる。
「武藤くんは当事者だから聞いてほしいんだけど」
そうすると自然に視線が斗貴子に集中した。
「わ、私か……」
斗貴子は拒絶しようとするが周囲を見回し観念する。
客人の中で適当な人物は斗貴子しか居なかった。

そして、斗貴子の体を通してアレキサンドリアの話しが始まる。
それは100年前
ヴィクターが大戦士として活躍し、錬金術師であるアレキサンドリアもその研究を進めていた。
そして、娘のヴィクトリアにも笑顔があった時代。
そこで黒い核鉄は作られた。
賢者の石
その試作品として。
真紅を作り出したローゼンも同じ錬金戦団の錬金術師として賢者の石の研究を行っていた。
永遠の命……完全なる存在の誕生。
それが全ての錬金術師の望みであり、錬金術の行き着く果てである。
だが、その研究で生み出された黒い核鉄が悲劇を起こすことになる。
当時のホムンクルスの最大勢力との戦いでヴィクターは致命傷を負ってしまった。
そして、失われた心臓の代わりとして黒い核鉄を移植する事が決定される。
移植された黒い核鉄
その瞬間、アレキサンドリアの意識は完全に途切れた。
そして、気づいた時には変わり果てた姿となったヴィクターが自分を抱きしめ泣いている光景だったという。
その後、直ぐに気を失い次に気づいた時はホムンクルスと化したヴィクトリアが自分の世話をしている光景だった。
ヴィクターは錬金戦団を壊滅させ、裏切り者と呼ばれ日本へと逃げた。
その後を追ってアレキサンドリアとヴィクトリアも日本に渡った。
だが、その後、幻想郷に紛れてしまい外へと出ることが敵わなくなる。
当時の博麗の巫女にホムンクルスであるヴィクトリアを外界に出すことは出来ないと突っぱねられたのだ。
仕方なく幻想郷でヴィクターを元に戻すための研究を行い続けた。
そして、研究に行き詰っていた時にパチュリーと出会い、研究の手伝いをしてもらうことになった。

「ヴィクターを元に戻す研究……それじゃ、それがあれば俺も人間に戻れるのか?」
カズキが尋ねるとアレキサンドリアは頷く。
「残念だけど世の中、そんなに甘くないわよ」
だが、パチュリーが口を挟む。
「えっ、それって?」
「黒い核鉄を元に戻すための材料として黒い核鉄を使ったの。
黒い核鉄はシリアルナンバーⅠ~Ⅲの核鉄を元にして作り上げたもの。
既にその生成方法は失われているわ。
そして、最初に作り上げたのは黒い核鉄の力を抑止して通常の核鉄にしたもの。
それは今、武藤くんの心臓の替わりになっている核鉄ね。
そして、今、黒い核鉄を抑止し、人間に戻す力を持った白い核鉄の生成を行っている」
「それじゃ……白い核鉄はたった一つしか無い?」
「残念だけどそうなるわ」
二人のヴィクターに対して白い核鉄は一つ。
人間に戻れるのはたった一人。
そして、それを自分の為に使おうと言えるほどカズキは自分勝手ではなかった。
長い時をかけて最愛の人を助けようとしていた親子。
その姿を見てカズキは何も言い出すことなど出来なかった。


寺小屋
「貴方達に来てもらったのは他でもない。
この人里を襲っている狼人間の退治をお願いしたいんだ」
慧音が霊夢たちに説明する。
「狼人間……そいつがアンデッドなのか?」
剣崎が慧音に尋ねる。
「アンデッド?いや、よくは知らないんだが。
それはどういった意味なんだ?」
慧音が逆に質問を返す。
「アンデッドは不死生物の事だ。
俺はそのアンデッドを封印する事を仕事にしている。
萃香がアンデッドが居るから封印してくれと頼まれてきたからその狼人間がアンデッドだと思ったんだけど」
剣崎が説明すると慧音は少し眼を丸くしている。
「不死生物……永遠の命を持つ存在」
「その話、興味があるわね」
突如、そこに第三者が割り込んでくる。
剣崎たちが振り向くと教室の壁に背をかけた銀髪の長い髪と赤いリボンが特徴的な少女が立っていた。
「妹紅!?どうして、ここに?」
慧音がその少女に対して声をかける。
「厄介な化け物が現れたって言うから退治しに来たのよ。
まぁ、私の話はおいておきましょうか。
その不死生物ってのは何者なのかしら?ただの妖怪も死にはしないけどそれとは違うの?」
「妖怪について詳しくないからよくは分からないけどアンデッドは絶対に死にはしない。
どんなに強く打ち砕いてもその肉体は復活し、無限の寿命を持っている」
「無限の生命……ね。それで貴方はそれを封印する。
専属の退魔師か何かなのかしら?」
「まぁ、そんなところかな。どうして君はそんなことを聞くんだ?」
「私も妖怪退治を専門としてるのよ。ちょっと、気になっただけ」
妹紅は意味ありげに笑う。
「妖怪退治ってあんたも人間でしょ。そういうのは私に任せておきなさいよ」
そんな妹紅に霊夢が突っかかっていく。
「博麗の巫女か。お前が仕事をしないから私のような奴が居るんだろ」
「失礼ね。キチンと仕事はしてるわよ」
「異変の解決はね。だけど、人里の人間が妖怪で賑わう神社の巫女を頼るのかしら?」
「それはあいつらが勝手に……」
「だが、事実。仕事をとられたくないって言うならもう少ししっかりするのね」
妹紅はそう言うときびすを返してそのまま教室を出て行く。
「妹紅、もう行ってしまうのか?」
「これだけ雁首揃ってるんだし私の出る幕は無いでしょ」
妹紅はそのまま去っていってしまう。
「霊夢や魔理沙以外にも妖怪と戦える人間が居るんだな」
シンが妹紅の後姿を見送りながら呟く。
「彼女は特別だ。幻想郷といえども普通の人間は妖怪に太刀打ちできない。
だから、巫女を頼る」
「こんな巫女に頼らないといけないなんて幻想郷の人間も大変だな」
シンは横目で霊夢を見る。
「喧嘩売ってるの?」
「別に」
怒りを露にする霊夢だがシンは特に何か感じていったわけでは無さそうだった。
「……あの娘。なんか、不思議な感じだったな」
剣崎は妹紅の年相応とは思えない雰囲気を思い出し呟く。
まるで自分よりも遥かに年上を相手にしているような気分だったからだ。



日が落ち、満月が空に輝き始めている。
「狼人間……か」
剣崎は慧音から受けた説明を思い出す。
最初に目撃された狼人間は一人だった。
だが、その狼人間に襲われた被害者が狼人間に変貌したのだ。
狼人間となった人間は人間を襲う。
「むやみやたらに人間を襲わない……幻想郷でのルールを逸脱するなんてね」
霊夢は腹立たしそうに呟く。
何時に無くやる気が漲っているようだった。
「元々は人間か……助けてやることは出来ないのかな」
士郎が呟く。
「どのような方法で変化させているか分からないとどうしようもないでしょうね。
被害が広がることを考えれば直ぐに退治するしかないでしょう」
セイバーがそれに答える。
「それで大本の狼人間がアンデッドなのか。ウルフアンデッドってところか」
「ウルフアンデッドなら確かに狼人間だな。
だけど、どうしてアンデッドが幻想郷に?」
「まぁ、伊坂も幻想郷について知ってたみたいだし、案外、アンデッドは幻想郷に入る力があるのかも」
「確かに妖怪変化は受け付けてるけどね……
外でも平然と生きていけるなら外で生きていけばいいのよ。
中で暴れるなら私が出ないとならないんだから」
霊夢は面倒そうに呟く。
先ほどのやる気は何処へ行ったのか。
「博麗の巫女がそれでは困るわね」
突如としてスキマが現れ、そこから紫が顔を出す。
「ちょっと、いきなり出てこないでよ!」
霊夢が驚いて声を荒げる。
「お前か……良くもまぁ、俺たちをまた幻想郷に入れる許可なんて出したな」
シンが敵対心を隠さずに紫に話しかける。
「私でもアンデッドの封印は不可能ですから。
アンデッドを封印する適役にお越しいただいただけですわ」
「前に俺たちにやったように外に放り出せば良いんじゃないのか?」
「それで解決するような問題なら呼びません。
貴方達の推測どおりにアンデッドは博麗大結界を無視して自由に移動できます。
死と恐怖で造られた妖怪とは正反対の無限の生命を持つアンデッドと言えども幻想は幻想。
幻想郷は彼らを拒むことは出来ないのです」
「……とにかく、放り出しても戻ってくるからどうにかしろって事か」
理解を放棄してシンが答える。
その言葉に紫はニコニコとして頷く。
「ですので、期待してますわ。無限の生命を持つ騎士。
貴方なら永遠の命を持つ者たちを退治してくれると」
紫は剣崎を見る。
胡散臭そうな顔だった。
「アンデッドを封印するのが俺の仕事だからな。任せておいてくれ」
だが、剣崎は何も気にせずに答える。
「えぇ、期待してます」
「ちょっと待ってくれ」
セイバーが紫に話しかける。
「何用でしょうか?騎士王よ」
「その呼び方はやめてくれ……というか、お前は私の正体を知っているのか?」
「長い間、私はこの土地に住んでいます。そして、外との行き来も自由ですから。
聖杯戦争は最初から今まで全てのサーヴァントについて知ってますわ」
「なるほどな。だが、公言は避けてほしい」
「そう言われるなら仕方ありませんね。騎士の英霊。
それで何ようです?」
「鬼の話では私達も必要な様子だったが何故だ?
アンデッドという存在については聞き及んだが封印するのであればカズマ。
それにシンが居れば問題ないだろう」
「そうですね。アンデッドだけであれば。
ですが、幻想郷に最近、迷い込んだ者が居ましてね」
「まさか、サーヴァントとマスターか」
「えぇ。ですが、聖杯戦争のルールとして幻想郷を戦場にするのは違法行為。
直接的に私が手を下すのは簡単ですがそれでは聖杯戦争の運営に支障がきたします。
ですので、幻想郷と縁がある人物と縁がある貴方達に来てもらったのです」
「なるほど……しかし、幻想郷を聖杯戦争の戦場にしてはいけないなどというルールは聞いたことが無いが」
「そうでしょうね。本来ならサーヴァントが幻想郷に紛れ込むことなど不可能。
ですが、ジュエルシードのせいで空間の歪みが酷くなっているため、何かの拍子で紛れ込む者が多いのです」
紫の言葉を聴いてシンと剣崎は最初に幻想郷にやってきた要因を思い出す。
アレは紛れも無くジュエルシードのせいであった。
ジュエルシードの完全封印が終了してもその爪あとは残っていると言う事だろう。
「では、後は任せましたよ」
そう告げると紫はスキマを通って去っていく。
「さて、慧音の話じゃそろそろ出てくるはずよ」
霊夢が手を打ち鳴らす。
満月は静かに空へと上っていく。

それから少しの時を置く。
人里の方々に散り、警戒をしている。
霊夢が空を漂いながら警戒をしているとその視線の先に毛深い人型の化け物が映った。
「居たわね」
霊夢はそれを確認すると真っ直ぐにその化け物に向かう。
「おとなしくやられなさい」
霊夢は空中からその化け物に向かい針を投げつける。
針が突き刺さり狼人間は鮮血を噴出す。
「一気にトドメよ!」
霊夢はスペルカードを取り出す。
「霊符【夢想封印】」
霊夢の体から霊力の塊が飛び出し狼人間に襲い掛かる。
その一撃に狼人間は倒れふした。
そして、その姿が人間へと変化する。
「アンデッドじゃなくてその眷属か……でも、相当に弱いみたいね」
一瞬でけりがつき霊夢は呆気にとられる。
アンデッドは夢想封印程度の攻撃ではほぼ怯むことは無かった。
それが眷属とはいえたった一撃で倒せたのだ。
「下級なのかしら……いえ、眷属はおまけみたいなものなのかも」
霊夢は言い知れぬ不安を感じていた。

満月が天辺に輝く頃
人里の中心で霊夢たちは集結していた。
「アンデッドは!?」
シンが合流した霊夢に尋ねる。
「見てないわ。この様子だと全員、そう見たいね」
「あぁ、狼人間は何人も倒したんだけど肝心のアンデッドが現れない」
「アンデッドサーチャーが使えればいいんだけど……こっちでも反応するのか?」
シンは携帯を取り出す。
アンデッドの反応があったとしても幻想郷では反応することは無いだろう。
以前に幻想郷に閉じ込められていたとき、外では何度かアンデッドとの戦闘があったというが反応は一切無かった。
そのとき、突然、アンデッドサーチャーが作動する。
「何だ!?ここから北東の方角に反応がある」
突然の反応にシンは驚く。
「その機械が受信する電波を届くようにスキマを開けておきました」
そこに紫が現れる。
「いきなり、現れるなって言ったでしょ。それより、この方角にアンデッドが居るの?」
霊夢が紫に尋ねる。
「外の人間の技術が正しいのなら。そうでしょうね」
「間違いない。それにしてもこの方向って実際の地図上だと山奥も山奥なんだけど……」
「幻想郷は外の地図には示されていません。
その地図のそこが博麗神社ならその位置はちょうど、竹林になりますわね」
「竹林……なんでそんな所に?」
「そんな問答は後だ。反応はドンドン離れていっている。
今から追いかけないと追いつけないぞ」
剣崎が叫ぶ。
「それもそうね」
霊夢もその言葉に従う。
剣崎たちは反応を追いかけて走り出した。

「さぁ、行きなさい。この偽りの月が輝く夜を。
不死生物の存在が永遠の存在の時を動かす」
その様子を見送り紫が呟く。


ブルースペイダーが夜の闇を切り裂くように駆け抜ける。
その背にはセイバーと士郎が無理やりに乗っていた。
「絶対に手を放してはダメです」
セイバーの手と士郎の手が握られている。
そのおかげで士郎はどうにかブルースペイダーの殺人的な速度に振り落とされずにすんでいる。
その上空ではフォースインパルスが空を駆けていた。
そこから少し遅れて霊夢がついてきている。
「にしても、霊夢の飛行速度は遅いとはいえその短距離の空間跳躍は何の意味があるんだ?」
シンが霊夢に尋ねる。
「空間跳躍?何を言ってるの。私はただ真っ直ぐ飛んでるだけよ。
貴方達こそどうしてそんなに蛇行しているのか理解に苦しむわね」
霊夢の言葉にシンは怪訝な表情を浮かべる。
「どうやら、彼女の認識する世界と私達の認識する世界でずれがあるようですね。
彼女は彼女に最適化された世界を認識し、そこを進むだけで私にとっては空間を跳躍しているように認識される。
このような不可思議な人間は初めて目にしました」
セイバーが霊夢についての感想を述べる。
「意味が分からないけど霊夢は凄いって事だな」
「まぁ、それで良いでしょう。理解しようとして出来るものではありません」
セイバーはそう言うとアンデッドサーチャーに目を通す。
「どうやら、敵は停止したようです」
「本当か!?これで追いつけるな」
剣崎は叫ぶ。
アンデッドの動きは思いのほか速く、距離をそこまで詰められなかった。
だが、停止したのならそこに乗り込めばよい。


アンデッドサーチャーの指し示した先、そこには大きな屋敷が立っていた。
「ここにアンデッドが……」
その屋敷の前で剣崎はブルースペイダーを止める。
「何とむごい」
「ひどいな……」
周辺には無数の兎が倒れていた。
「アンデッドがやったのか?それにしても何で兎が……
狼だから狩っただけなのか」
シンも屋敷の前に着陸する。
「それは分からないけど……その前に随分なのが待ち受けてるわね」
霊夢が門の方を見る。
「そのようです。捜索はアンデッド退治の後を考えていましたがどうやら一石二鳥のようですね」
セイバーは見えない剣を構える。
「まさか……居るのか?」
士郎が尋ねる。
「はい、そこの門に……」
セイバーがそう言うと門のところに先ほどまで居なかった着物姿の男性が現れる。

「また、侵入者か……同じ夜にこれで二度目だな」
その背中に恐ろしく長い刀を背負う男。
その男は手傷を負っているようだった。
「アンデッドと戦ったのか?」
剣崎が尋ねると男は頷く。
「侵入者を返り討ちにしろというのが命令だったのでな。
だが、かような物の怪と蓬莱人が相手では流石に押し通られてしまった。
とはいえ、強引に抜けられただけで殆ど戦いもしなかったのだが」
「物の怪と……蓬莱人?」
「左様、ここの姫の好敵手にして高貴なる血筋の者だ。
よもや藤原の血筋の者とこの時代で出会うとは思いもよらなかったが」
男性は何処か感慨深げに呟く。
「アンデッドは一人じゃないのか。誰かと手を組んでいる……
それだけの知性が有る存在。まさか、上級アンデッドなのか」
ピーコック、カプリコーン、オーキッド……
今までに戦った上級アンデッドは他の勢力と手を組み何かしらの目的を達しようと動いていた。
ウルフアンデッドも彼らと同じで何かを達しようとする上級アンデッドだと言うのだろうか。
「ともかく、ここから先に進むというのなら私を倒してからにしてもらおう」
男性は刀を抜き構える。
「私が相手になろう」
セイバーが前に出る。
「私はアサシンのサーヴァント。その立ち振る舞い。おそらくはセイバーのサーヴァントか」
「アサシン……暗殺者に見えぬが」
「その通りだ。私は暗殺者ではない。適せぬクラスに下ろされた名も無き存在。
だが、ここを一歩も譲る気は無い」
アサシンはその刀を構える。

「盛り上がってるところ悪いけど私は先に進むわよ」
霊夢は二人を無視して塀の上を飛び越えようとする。
「無駄だ。この屋敷に結界が張られている。
この門意外からの侵入は……」
アサシンはそういうが霊夢は何事もなかったかのように塀を飛び越えていく。
「あぁ、何かあったみたいね。でも、触れば壊れる程度じゃ結界だなんて言わないわよ」
霊夢が塀の後ろに着地してアサシンに告げる。
「何と……術に詳しくは無いが姫ほど手だれの術者が張った結界をこうも容易く破壊するとは……
ただの人間ではないな」
「博麗の巫女よ。サーヴァントだか何だか知らないけれどね。へんな厄介ごとは持ち込まないでほしいわ」
霊夢はそう告げると先へと進んでいく。

「いいのか……」
「だけど、アンデッドを封印しないといけないからな」
シンと剣崎も霊夢の後を追って塀を飛び越えて中に侵入する。
「仲間は行ったがお前達は追わないのか?」
アサシンがセイバーに尋ねる。
「確かに進むだけならお前の相手をする必要はないだろう。
だが、私の目的はサーヴァントを倒すことだ。
貴様と戦わないで進む理由は無い!」
セイバーはインヴィジブル・エアを構える。
「なるほどな。当然であったな。サーヴァント同士が出会えば戦うのが必然」
アサシンもその刀を構えなおす。
幻想郷にて二人の英霊の戦いが始まろうとしていた。


屋敷の奥
「やっと見つけた……お前の名を聞いた時は耳を疑ったが本当にこんな所に居るとはな」
ウルフアンデッドが無限の宇宙空間の如き世界でその先に居る者に声をかける。
「アンデッド……まさか、あのシステムは封印されていたはずよ。
何故、ここに居ると言うの?」
銀髪を三つ編みにした女性がウルフアンデッドを見て驚く。
「なるほど……今回のバトルファイトは例外的と言う訳か……道理で可笑しいと思った。
なら、貴様の力も貸してもらおう」
ウルフアンデッドは獰猛な牙をむき出しにする。
銀髪の女性はただ、その顔を見ていた。


「永遠を生み出した神々の叡智。
無限が永遠を脅かす時、時間は動き出す。
永劫の破滅……その直前で止められ凍り付いていた時が……
破滅を前に傍観は許されない。世界はそのように造られている」
歪な月を背に八雲紫は笑う。
幻想の世界の戦いは月の光を受けて加速する。



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