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「餌があれば釣れると思っていたぜ」
その荘厳な姿とは程遠いほどに軽い口調でカプリコーンアンデッドが言葉を放つ。
それは彼らの目の前に居る一人の少女に向けられていた。
フェイト・テスタロッサは黄金の魔力の刃を生み出すバルディッシュを構えて二人に対峙する。
「ジュエルシードを渡してもらう」
覚悟を決めたようにフェイトは二人を睨みつける。
いつものように表情を崩さない。
「怯えないで。別に私達は貴方と敵対するつもりは無いわ」
しかし、そんなフェイトとの覚悟とは裏腹にオーキッドアンデッドが意外な言葉を放つ。
「何?」
しかし、フェイトは警戒を解かない。
人とは根本的に違う種族であるアンデッド。
彼らのいう事を鵜呑みに信じることは出来ない。
「私達の目的はただ一つよ。プレシア・テスタロッサに会わせなさい」
「母さんに!?」
フェイトは驚き眼を見開く。
何故、地球で封印されていた怪物が自分の母の名を知っていると言うのか。
管理局に関連する存在でもなければその名を知るはずも無い。
プレシアはこのジュエルシードが地球に落下するまでこの世界に接点は無いはずだ。
「そう、彼女の目的の達成。それに私達も協力させて貰うわ」
「母さんの目的……知っているというの?」
「アルハザード……それがプレシアの目的。そうでしょう?」
オーキッドアンデッドの言葉にフェイトは愕然とする。
それが答えだ。

「フェイトちゃん!」
立ちすくむフェイトに上空からなのはが呼びかける。
その声に反応してフェイトは空を見上げた。
なのはは魔法の羽を広げて地面にふわりと着地する。
そして、フェイトの顔を真っ直ぐ見つめる。
「フェイトちゃん。ダメだよ。アンデッドの言う事を聞いちゃ!」
先ほどの言葉からなのははフェイトが揺れ動いてることは分かった。
目の前の六つのジュエルシード。
必死に集めていた宝。
それを今すぐに掴めそうなのだ。
「……貴方には関係ない!」
しかし、フェイトはその言葉を拒絶する。
アンデッドの所業。
伊坂の行っていた悪事も知っている。
彼らが人間以上の力と知能を持ち合わせている怪物だと分かっている。
それでも譲れなかった。
危険だと分かっていても手に入れるしかない。
「人間のガキが大人しくしてろよ」
話を妨害するなのはにカプリコーンアンデッドが怒る。
「フォオウッ!!」
そして、その口から光弾を放った。
光の弾は真っ直ぐになのはに向かう。
しかし、なのははそれを魔力の壁で防ぐ。
「貴方達は何が目的なの?
アンデッドはアンデッド同士で戦うことが使命のはず」
なのはがカプリコーンを見て尋ねる。
上級アンデッドを前にしてもなのはは一切の恐怖も無かった。
伊坂やバタフライとの戦いが彼女の心を更に強くし、
そして、強くならなければならないという意識さえも強めた。
これからの戦いを潜り抜けるには上級アンデッドを相手にしても怯む訳にはいかない。
「嫌な眼だぜ」
その眼にカプリコーンは苛立ちを覚える。
人間のくせにという思いがこみ上げる。
ひ弱なはずの存在が強がる姿を踏みにじりたい衝動に駆られる。
「そう、アンデッドの使命。それを果たすために私達は彼女に接触したのよ」
だが、そんなカプリコーンをよそにオーキッドが会話を始める。
「おい!あんな奴に言う必要なんて無いだろ!」
カプリコーンはオーキッドに怒鳴る。
そう、親切に説明する義理も無い。
だが、オーキッドの視線はなのはに向いていなかった。
「でも、この事は貴方には関係ないことでしょうね?」
オーキッドの視線の先。
そこには相川始の姿があった。
彼は何処か苛立った様子で真っ直ぐに彼らに向かって歩いてくる。
「相川さん!」
なのは彼の姿を見て叫ぶ。
アンデッドが居るならば彼が来るのは当然だろう。
「邪魔だ、どけ!」
始はなのはを睨みつけると怒鳴る。
その眼には殺気が漲っていた。
「嫌です。私もアンデッドの封印を手伝います!」
しかし、なのははひかずに叫んだ。
その言葉に始の表情は更に険しさを増す。
「邪魔をするなと言っている!」
「だけど、相手は二人です。それに話が通じるから上級アンデッドだと思います。
いくら、相川さんでも勝てるか分かりませんよ」
「俺が負けるはずが無い。それにお前らにとって俺は敵のはずだ」
「……剣崎さんから聞いてます。
相川さんがイリアちゃんを助ける為に剣崎さんたちと協力したこと。
誰かを護る為に力を合わせられるなら相川さんなら敵じゃありません」
「俺が……敵じゃない?」
「はい。信じてみたいんです。話が通じる……分かり合えるって」
なのははフェイトの眼を見る。
その強い視線にフェイトは一瞬、たじろぐ。
「なら、私達も信じてくれても良いんじゃない?」
オーキッドがそんななのはに尋ねる。
「話し合いで解決できるならそれで良い。
だけど、貴方達は伊坂と同じ眼をしてる。
人を利用しようとしてるだけの冷たい眼。
貴方たちはフェイトちゃんを都合の良い道具にしか見てない」
なのははきっぱりと二人を否定する。
「随分と言い切るわね。たかが小娘が。
まぁ、カリスが出てきたのなら大人しく話し合う必要もない」
オーキッドが始に向かってツタを伸ばす。
「そのとおりだ。アンデッドは戦うための存在……
分かりあう必要など無い!!」
始はそのツタを回避すると変身する。
仮面ライダーカリス。
聖杯の名を冠する孤独な戦士はその刃をアンデッドに向ける。
「戦いだけが俺を満たす!」











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第二十三話「命の閃光」






「ディバインバスター!」
なのはは先制攻撃として魔砲をぶちかます。
桜色の魔力の閃光がカプリコーンを飲み込もうと奔る。
だが、その攻撃にフェイトが割り込む。
フェイトの展開する魔法の障壁がディバインバスターを阻害し、霧散させた。
「フェイトちゃん!?」
その行動になのはは驚く。
「邪魔をしないで!」
フェイトはなのはに向かって一気に駆け出す。
魔力により加速される少女の体。
閃光のような速度でフェイトはなのはに肉薄する。
「!」
なのははそれにどうにか反応してレイジングハートでバルディッシュを受け止める。
二つの杖に流れる魔力が火花を散らして二人の体を照らす。
「もう止めて!あの二人は何かを企んでる。
それはきっとフェイトちゃんを傷つける!」
「そんなことは分かってる!」
フェイトは力ずくでなのはを弾き飛ばす。
吹き飛ばされるなのはの体。
その体が岩に激突する。
「だけど、ジュエルシードを集めるのが私の役目。
それを果たせないのなら……」
フェイトはバルディッシュを振るいその刃を放つ。
回転する黄金の刃がなのは目掛けて飛来する。
なのははそれを左腕を構えてプロテクションを張りかき消す。
「またその眼……どうして、あなたはそんな悲しそうな眼をしてるの?」
なのははフェイトの眼を見て呟く。
その眼は悲しみ揺れ動いている。
なのはにはそう感じられた。


フェイトの眼を見てからずっと気になっていた。
そう、直感だった。
そして、その気持ちが何なのかずっと分からなかった。
客観的にはずっと分からなかった。
だけど、カズキとパピヨンの姿を見て何かに近づいて。
剣崎と始の姿を見てようやく自分はフェイトに対して何を感じたのか気づいた。
「友達になりたいんだ」
単純な理由だった。
もっと相手の事が知りたいという気持ち。
それは仲良くなりたいということ。
お互いに知り合い。お互いが思いやれる。
そんな関係になりたいんだ。
だから、気にかけて干渉する。
カズキとパピヨンはそれとは違うかもしれない。
だけど、剣崎が始を気にし始めた姿を見て剣崎の気持ちに気づけた。
そして、それを自分に当てはめて初めて分かる。
その事をなのははカズキに相談した。

「蝶野が俺と友達になりたいのか……」
カズキは不思議そうな顔をしている。
「あはは……やっぱり、可笑しいと思いますか?私の考えは?」
なのはは我ながらに突拍子の無いことを言ったと苦笑いを浮かべる。
「いや……多分、そんなに違わないのかも。
よく分からないけどあいつが俺を特別視してるってのは分かってるから。
そうだな。多分、俺と蝶野は友達になれると思う。
岡村や士郎とは違うけど……多分、気兼ねなく話せて、些細なことで笑ったりも出来るようになる気がするよ」
カズキは少し嬉しそうに答える。
「そうですね……それで、あの」
なのはは話を戻そうとする。
話したいのはそこではない。
「なのはちゃんがフェイトちゃんと友達になれるかだよね。
俺は大丈夫だと思う。
なのはちゃんの気持ちは通じると思うよ」
カズキは笑いながら答える。
「もう少し、真面目に答えてください!」
だが、その様子が不真面目に感じられてなのはは怒ってしまう。
だが、そんななのはにカズキは笑みを変えずに謝る。
「ごめん、だけど、俺は大丈夫だと思う。
今のフェイトちゃんは早坂先輩たちと同じだよ。
目指す目標。それに囚われて周りが見えてない。
だから、それが解消されれば気づいてくれると思う」
「だけど、ジュエルシードを悪用されるわけには……」
フェイトの目的はジュエルシードの回収。
何を行うかはわからないが封印されなければならないそれを集めさせるわけにはいかない。
そして、フェイトに命じているプレシアは強引にジュエルシードを奪おうとしていた。
とても穏便な使い道とは思えない。
「そうだよね。だから、眼を覚まさせてあげないと。
取り返しがつかなくなる前に止めないとダメなんだ。
俺は間に合わなかったけど……なのはちゃんなら出来るって信じてる」
蝶野のホムンクルス化を止める事が敵わなかった。
だが、フェイトはまだ、手をさし伸ばせる距離にいる。
「カズキさん……大丈夫です。カズキさんがそう言ってくれるなら」
信頼する仲間からの言葉は何よりの力となる。
そう、なのはには感じられた。


「絶対に止めて見せる!」
なのはは決意を新たにフェイトに向かう。
「!」
その強い視線にフェイトは驚く。
何故、そこまで頑張れるというのか。
フェイトはなのはが理解できずに拒絶する。
無数の魔力の誘導弾をなのはに向かって放った。
なのははそれを旋回を繰り返しながら回避する。
今までずっと繰り返してきた飛行訓練。
それが身を結んだ。
なのははフェイトの攻撃を全て回避すると魔力弾を放つ。
フェイトもそれを飛行して回避する。
二人の少女は大空を飛び、激突する。
それは幻想的な光景だった。

「何を手間取ってる」
カプリコーンはその戦いに苛立ちを覚える。
オーキッドとの共闘でカリスはどうにか封じ込めている。
だが、時間をかけるわけにはいかない。
下手に時間をかければ仮面ライダーが横槍を入れてくるだろう。
それは避けねばならなかった。
「おい!こいつを使うぞ」
カプリコーンは手にある六つのジュエルシードを握り締める。
「そうね。時間も無いし、こいつらを倒すぐらいならそんなに消耗もしないでしょう」
オーキッドはその提案に頷く。
「なら、とっとと適えてもらうぜ」
カプリコーンが力を込めるとジュエルシードの輝きが増す。

「何!?」
なのははその光に眼を奪われる。
空中に飛び出す六つのジュエルシード。
それに引かれる様に空に暗雲が立ち込め始める。
「寒気がする……」
なのはは体の芯をなぞるような悪寒を感じた。
言い知れぬ不安が襲い掛かる。
スパイダーアンデッドはたった一つのジュエルシードで強大な邪気を持つ巨大な蜘蛛の化け物を生み出した。
ならば、カプリコーンは六つのジュエルシードで何を生み出すというのか。
「まさか、破滅の存在の眷属を呼び出すのか?」
近くで成り行きを見守っていたユーノがカプリコーンに問いかける。
「破滅の存在だぁ?何を言ってるんだ。俺たちアンデッドがあんな奴の力を借りるわけが無いだろ。
それにこいつは純粋な願いに反応するもんだ」
「純粋な願い?」
「そうだ。生物が持つもっとも純粋な願い。
生への渇望。それこそジュエルシードが反応する源」
「生きようとする意志……だけど、ジュエルシードは取り付いた生物を化け物に変える」
「強ければ生き残れる単純なことだろ。
ジュエルシードは他の生物を圧倒できる存在に脆弱な命を進化させる。
アンデッドのような強すぎる存在を進化させることは不可能だがな」
「生き残るための進化……だから、ジュエルシードはホムンクルスたちを強化した。
そして、生きようとする強い意志……不治の病で余命が短く。
それでもなお、生き残るために他の全てを犠牲にしてでも助かろうとした蝶野攻爵の元に集まった。
彼がこの街で誰よりも強く生き残ろうとしていたから」
ユーノは鷲尾がジュエルシードに取り込まれた後の言葉を思い返す。
彼も言っていた生き残ろうとする本能こそが生物が持つ唯一純粋な願い。
「翔の推測は当たっていたのか……。
だけど、何故だ。あれはこの世界とは違う遺跡で発見されたロストロギア。
この地球に封印されていた君達が何故、ジュエルシードの事を知っている!?」
地球文明は次元世界に進出していない。
更に太古の昔に封印された彼らが次元世界を知るはずも無い。
「別にお前に説明してやる義理は無いな。
大人しくそこで見ていろ。面白いものが見れるぞ」
カプリコーンは空を見上げる。

ジュエルシードは無数の雲のようなものを取り込んで行く。
しかし、それは雲ではない。
雲ならばうめき声など上げるはずは無いからだ。
「悲鳴……泣いてる」
雲は生きたいと呪詛を呟いてより集まって行く。
「何が起こってるって言うんだ……」
ユーノも空を見上げることしか出来ない。
不安に見つめる二人の前でそれは姿をなす。
それはゴリラのような屈強な体躯を持ち、大鷲のような巨大な翼を持っていた。
その腕には幾つもの茨のツタが生え、口からは蛙のような長い舌を持っている。
そして、尾は蛇のような形をしていた。
「この姿って……」
その姿を見てなのはは思い出す。
「これはパピヨン製のホムンクルス……!
それが融合しているかのようだ」
見覚えがあるのも当然である。
その姿はこの街を襲った人造の怪物ホムンクルスが合わさったかのような化け物だからだ。
その化け物は空中に浮かびながら怨念めいた声を撒き散らす。
「お前がそのジュエルシードを使って復活させたって言うのか?」
「復活?俺はこの化け物が何なのか知らないけどな。
一つだけ言えるのは人間ってのは意外にもしぶとく、そして、救い難い存在ってだけだ」
カプリコーンは笑う。
その化け物を見て嘲笑う。
人が愚かだと見下し声を上げる。

「ダメだ。あんなの許しておけない!」
なのはは周囲を震わす嘆きの絶叫に叫びを上げる。
化け物は鳴いていた。
幾数もの声で、多種多様な言葉で、悲鳴を上げている。
聞いてるだけで気が狂いそうな悲痛な叫び。
「止めてみせる!」
なのはは目標を合体ホムンクルスに変えて、ディバインバスターを放つ。
だが、魔力の砲は合体ホムンクルスを通過した。
「えっ!?」
実体がないかのように合体ホムンクルスは攻撃を透過し、なのはに向かって腕の茨を伸ばす。
無数の茨がなのはの逃げ場を塞ぐように大きく広がり、襲い掛かる。
なのははそれを回避しようと唯一の逃げ場となる後方へと下がるが間に合わない。
ひとつの茨がなのはの腕を拘束する。
それと同時に無数の茨が彼女の体を抱きしめた。
バリアジャケットのおかげで直接、肉体にダメージは通らないが身動きが取れない。
なのはは力を込めて脱出しようとするがその高速は頑丈で簡単に抜け出せそうには無かった。

「あっ……」
その姿を見てフェイトは躊躇う。
目標はジュエルシードでなのはは邪魔な敵のはずだ。
だが、それでも目の前で苦しむなのはにフェイトは意を決してバルディッシュを構える。
「もしかして、救おうとしてるのかしら?」
そんなフェイトにオーキッドが尋ねる。
「それは……ジュエルシードが発動したのなら封印しないと」
「大丈夫よ。意図的に使っているだけだもの。
あのぐらいなら私達の手で封印できる」
「でも!」
「彼女を救おうというのなら取引は不成立よ。ジュエルシードは私達がもっていくわ」
オーキッドの言葉にフェイトは動揺する。
取引が成立しないのであればジュエルシードを手にするためには二体の上級アンデッドを相手にしなければならない。
それは非常に危険だ。
伊坂から推し量った上級アンデッドの強さは次元が違う。
あれだけ成長したなのはやカズキでも真紅と力をあわせて更に油断したところでなければ勝てはしなかった。
最初からピーコックが全力だったのなら二人では適うことは無かった。
そうフェイトは考えている。
「私達に敵対することの愚かしさ。理解してるみたいね。
ならいいわ。大人しくしていなさい。そうすれば貴方は目的を達成できる」
オーキッドは揺れるフェイトの心に忍び寄り操ろうとする。
フェイトはそれから逃れることが出来なかった。

「このまま……じゃ」
なのははどうにか抜け出そうともがくが圧倒的に力の差がありすぎる。
みるみるうちに合体ホムンクルスの元へと引きずられていく。
なのはの目の前では蛙のような口を大きく開く合体ホムンクルスの姿が見えた。
絶体絶命の時。
なのはの目の前に漆黒の蝶が舞った。

爆発が起きる。
黒色火薬の引き起こす炎の破壊。
それは合体ホムンクルスの茨を吹き飛ばし、焼き払う。
「助かったの?」
なのはは炎に巻かれながら空へと戻る。
なのはを拘束していた茨の全てが本体との途中で千切れている。
「やれやれ……また、随分と悪趣味な姿じゃないか」
不意の声になのはは顔を向ける。
そこには巨大な黒い蝶の羽根を広げ、空に浮かぶ一人の男の姿があった。
「パピヨンさん!」
その意外な救援になのはは驚く。
そんななのはを無視してパピヨンは合体ホムンクルスを見る。
合体ホムンクルスはパピヨンの姿を確認すると更に大きな声を放った。
怨念は空間を揺さぶるように拡散する。
そのあまりの大音量になのはは耳を押さえる。
「恨んでいるか……当然だな」
パピヨンは苦々しそうな表情を浮かべると一人で何かを納得する。
「あれが何かわかるんですか?」
なのはがパピヨンに尋ねる。
「あれは俺と俺の生み出したホムンクルスに殺された人間の怨念。
その塊だな。ジュエルシードは邪気も力に変える。
無数に漂う怨霊を吸収して力に変えた。
そんなところだろ?」
パピヨンはカプリコーンに尋ねる。
「その通りだ。もう死んだってのに未練がましい人間の霊どもを素材にジュエルシードの体にした」
そう言うとカプリコーンは爆笑する。
「酷い……」
その姿になのはが呟く。
死者の気持ちを踏みにじり、利用する。
あまつさえその気持ちを笑いものにする。
なのはは純粋に怒りが込み上げた。
「確かにな」
しかし、パピヨンはカプリコーンを肯定した。
「そんなッ!元はといえば貴方が!」
なのははそんな他人事なパピヨンに怒りの矛先を変える。
だが、パピヨンはそんななのはに濁った瞳を向けた。
混沌とした黒の瞳。
そこから感情が読み取れない。
「俺は俺のしたことに後悔などない。奴らは力が無いから死んだだけだ。
お前達が俺の目の前に立ちふさがるというなら……
その怨念の全てを焼き払って俺は更に羽撃たく!」
パピヨンは二アデスハピネスを無数の蝶に変えて合体ホムンクルスへと放つ。
取り囲んだ蝶は一気に爆発し、合体ホムンクルスを炎に包み込む。
だが、それを意にも返さず合体ホムンクルスは炎を超えてパピヨンに肉薄する。
「お前が!お前さえ居なければ!!」
合体ホムンクルスの巨大な拳がパピヨンの体を打つ。
打撃にパピヨンは吹き飛ばされ地面に激突した。
「俺が……俺たちが何をした!」
そんなパピヨンに追い討ちをかけるように合体ホムンクルスが襲い掛かる。
そして、何度も何度も拳を打ち鳴らす。

「あ……」
なのはは黙ってみていることしか出来なかった。
パピヨンの処遇は自業自得と言っても良い。
彼が蒔いた種だ。
多くの人々の犠牲の果て。
それが彼の今、立っている場所。
生きることに執着し続け、その他の全てを犠牲にした。
だが、その光景は余りにも痛々しすぎて。
なのははその光景を直視できなかった。

「……その程度か」
爆発がおき、合体ホムンクルスの腕が吹き飛ばす。
そして、ようやくパピヨンが起き上がる。
腕と足は捻じ曲がり、ありえない方を向いている。
口から吐血し、服も破れている。
だが、パピヨンはいつものように不適な笑みを崩していない。
「ジュエルシード六つ。五つのホムンクルスの長所を合わせてもこの程度か……
実にくだらない。哀れだな」
パピヨンは口元を吊り上げて笑う。
その言葉に激昂したように合体ホムンクルスは叫ぶ。
それと同時に雲が形を作るように吹き飛ばされた腕が再生する。
怨霊を基にしたその体に実体などは無い。
無尽蔵の力であるジュエルシードを体内に持つ限り再生は瞬間だった。
そして、そのまま力任せに拳を振るう。
だが、それを目の前にしてパピヨンは微動だにしない。

「やっぱり、ダメ。こんなの間違ってる!」
なのははプロテクションを最大にしてパピヨンの盾になる。
その光景にパピヨンは怪訝な視線をなのはに送る。
「俺を庇ったつもりか?どういう心境の変化だ?
……そういえばお前も偽善者だったな」
その姿にパピヨンはカズキの姿を重ねる。
何故、他人のために命をはろうなどと考えるのか。
「うん……偽善者だって構わない。
貴方が殴られて痛い思いをするのは確かにあなたのせい。
だけど、こんなことは死んでしまった人たちの思いを踏みにじるだけ」
「お前に何が分かるんだ?
現にその化け物は明確に俺を恨んでいる。
仇を討つのはとってもシンプルな考えだと思うがな」
「そうかもしれない。私も大切な誰かが傷つけられたら凄く怒ると思う。
だけど、貴方もその気持ちが分かるから……あえて攻撃を受けたんだよね?」
「考えすぎだな。奴の本質は雲のようなもの。だが、こちらを殴るときは実体化している。
そこを狙っただけに過ぎん」
「意地っ張り」
なのはは笑ってみせる。
その顔にパピヨンは怪訝な表情を浮かべる。
彼にとってなのはの行動は理解しかねた。
「それに俺がここで死ぬことがあれば武藤カズキは狙われることはなくなるぞ」
「そうかも知れない。
だけど、カズキさんはそんな事になったら絶対に悲しむから。
その時、私は多分、凄く辛いと思う。
だから、それだけでも私は貴方を助ける意味があるの」
なのははパピヨンを抱え挙げてその場を飛び立つ。
それと同時にその場に合体ホムンクルスの拳が叩きつけられた。

「ユーノくん。お願い」
なのははユーノの元にパピヨンを連れて行く。
そして、彼の前にパピヨンを下ろす。
ユーノは人間に戻ると彼を支えた。
「お願いって……勝算はあるの?」
ユーノがなのはに尋ねる。
「大丈夫だよ……負けるわけにはいかないから」
なのははそう言うと上空へと飛び上がる。
だが、そんななのはを無視して合体ホムンクルスはパピヨンに攻撃をしかけようとする。
それをユーノがプロテクションを展開して防ぐ。
「ほぉ、見捨てられたかと思ったがこれはいいな」
パピヨンはその障壁を見て呟く。
「僕は……ホムンクルスの創造主を救うべきだなんて思えません」
ユーノは視線をパピヨンに向ける。
「正直者だな」
「だけど、なのはの言った言葉も凄く分かります。
貴方はあの日に死んで生まれかわった」
「そうだ。俺は脆弱な人間からホムンクルスに生まれかわった……」
「いえ、違います。あの日、ホムンクルスになった貴方は結局は人間、蝶野攻爵の延長に過ぎなかった。
だけど、カズキさんに負けて再会した貴方は変わっていた。
貴方はあの時、カズキさんに負けて本当の意味で死んで生まれかわったんです。
そんな貴方……パピヨンなら助ける価値があるって思います」
「……」
パピヨンはユーノの言葉に答えない。

「ディバインバスターは通じなかった……
だけど、元を辿ればあれはジュエルシード。
それを全て封印するだけの魔力をぶつければ!」
なのはは上空に上ると魔法を展開する。
「特訓で編み出した奥の手……使うなら今しかない!」
なのはは自らの魔力を収束させていく。
いや、それだけじゃない。
周囲の空間に漂うマナ。
更には周辺に存在する合体ホムンクルスやアンデッド、フェイトやパピヨンからすらもその魔力を吸い上げて行く。
魔力はまるで星の輝きのようになのはの周囲に浮かび上がった。

「まるでエネルギードレインだな。あれに比べれば微々たるものだが」
パピヨンはその光景を見上げて呟く。
合体ホムンクルスは拳を振るうのを止めて輝きを見上げる。
そして、合体ホムンクルスはなのは目掛けて飛び上がった。

「こっちに気づいた……でも、もう遅い!」
なのははレイジングハートを合体ホムンクルスに向ける。
「スターライト……」
周囲の星の輝きを吸い込み、巨大な魔力の塊が出現する。
圧倒的な力の顕現。
それを
「ブレイカー!!」
解き放つ。
魔砲を得意とするなのはの最大最強の砲撃。
桜色の光が地上目掛けて放射される。
その光はまるで地面に聳え立つ光の柱のようだ。
光は合体ホムンクルスを飲み込み、その体を崩壊させていく。
怨念と悲しみで造られた体は強い意思に生み出された力に打ち消される。
そして、その力を封じられたジュエルシードだけがそこに残った。

「ミッドチルダ式魔術……それをあの年であれだけ使いこなすとは
人間にしてはやるようね」
オーキッドはその光景を見て呟く。
「冗談じゃない。あんなの直撃したら幾ら俺たちでも……」
カプリコーンはその光景に驚き警戒する。
「……あの巨大な怨念も人の心。
だが、それを消したのも人の心……か」
カリスも視線をなのはに向ける。

空に浮かぶジュエルシードを眺めてなのはは空中に留まる。
「ごめん」
ただ、一言、消えて言った魂に言葉を送る。
後は封印されたジュエルシードを回収するだけ。
なのははジュエルシードに近づいて行く。
だが、その彼女に突如、上空より雷が降り注ぐ。
「!?」
なのははそれに反応することが出来ず雷に打たれた。
その体に電撃が流れ込み、一瞬、その意識を断ち切る。
なのはの体はそのまま重力に引かれて地面へと落下していった。

「なのは!」
ユーノが飛び出し、なのはの体を受け止める。
「う……ユーノくん」
「大丈夫?」
「なんとか……でも……」
なのはは朦朧とする意識で上空を見上げた。

「この魔法はお母さん!?」
フェイトはなのはに直撃した雷を見て震える。
あの魔法に見覚えがあった。
あれはフェイトの母であるプレシアのもの。
ジュエルシードの回収をフェイトに任せていた筈のプレシアが直接、介入を行った。
その意味
「!」
雷が再び落ちる。
それはフェイトを直撃した。
その一撃にフェイトは抗うことが出来ず落下する。
その体をパピヨンが受け止めた。
「これも魔法か……だが、術者は何処だ?」
パピヨンが周辺を視認するがそれらしき姿は無い。
その時、声が響いた。
直接、脳に語りかけるような言葉。
「フェイト、どうして貴方は私の言いつけを護れないのかしら」
非常に険悪な冷たい言葉がフェイトに浴びせられる。
「貴方なんてもう要らない」
そして、続けざまに拒絶の言葉が告げられる。
それと同時に雷がフェイトの体を撃つ。
落下するフェイトの体。
意識を失っているのか真っ直ぐにただ、落下して行く。

「ちっ」
それをパピヨンが空中で受け止める。
意識を失っているだけで命に別状は無いようだ。
「役立たずの子供は切り捨てる……か」
パピヨンは悲しげにフェイトの顔を見下ろす。

空中に漂っていたジュエルシード。
それをオーキッドアンデッドの触手が回収する。
「プレシア・テスタロッサ。聞こえているんでしょう?」
そして、空に向けて語りかける。
「聞こえているわ。上級アンデッドが何のよう?」
それにプレシアが返答する。
「私達は貴方に協力したい。
それがどれほどの価値を持つのか貴方なら分かるはずよ?」
「良いわ。アンデッドの知識なら確かに役立つ」
オーキッドの提案にプレシアは即答する。
そして、それと同時に二人のアンデッドの姿が消えた。
「転移したか……」
その様子を見てカリスが呟く。


アースラ
その内部の会議室で話し合いが行われていた。
出席者はシン、アスラン、剣崎、橘、そしてリンディとクロノ。
「アンデッドと協力するだなんて……一体、どうなってるんだ!?」
剣崎は報告を受けて驚く。
まさか、アンデッドが異世界の魔導師と手を組むなど考えても居なかったからだ。
「それに関しては私達も知りたいくらいだわ。
アンデッドがプレシア・テスタロッサと手を組むだなんて……」
リンディとしても想定外の事態だった。
「それについて俺から少し話すことがある」
だが、そんな事態に対して解明の糸口を示したのは意外にも橘だった。
「この際だからどんな些細なことでも良いわ。教えてください」
リンディが橘に尋ねる。
橘は呼んでいたプレシアに関する資料を机の上に置いた。
「単刀直入に言おう。俺はプレシア・テスタロッサと面識がある」
その言葉に橘以外のその場の全員が驚き、それぞれにリアクションをとる。
「なっ!ちょっと待ってください。彼女はミッドチルダの人間なんですよ。
それは何かの間違いじゃ!?」
クロノが驚き声を張り上げる。
橘はそんな彼に向き直り冷静に口を開いた。
「俺も名前を聞いたときは半信半疑だった。
だが、資料に映っているこの顔写真。確かに見覚えがある。
それはまだ、BOARDが健在だったころ。そして、アンデッドの封印が解かれてなかったときだ。
理事長からの紹介で彼女は研究所にやってきた。
永遠の命……その研究を行うために」
「永遠の命……アンデッドの研究を行いそんな事を」
「俺はその研究には関与していなかったから詳しいことは知らない。
ただ、研究は暗礁に乗り上げていた。
そして、彼女はアンデッドを解放した。
ラウズカードからではなく直接的にアンデッドの研究を行うためにな」
「それじゃ!今、アンデッドたちが暴れている原因はそいつにあるんですか!?」
「そういうことになるな。恨みが無いわけではないが今はそんなことを言っている場合ではない。
以前から彼女の目的がかわっていないのならアンデッドを受け入れた理由は一つだ。
アンデッドの研究を行い永遠の命の秘密を解き明かす」
橘が断言する。
だが、
「でも、可笑しくないですか?アンデッドは自分からプレシアの元に向かったはずです。
わざわざやつらが人間に自分達の体を調べさせるために向かうだなんて思えませんけど」
シンが意義を唱える。
「確かにな。プレシアにとっては利益になるがアンデッド側の利益が分からない」
それにアスランが賛同する。
「単純にジュエルシードが欲しかったんじゃないのか?
橘さんの話どおりならプレシアがジュエルシードを求めたのも多分、その永遠の命のため。
それをアンデッドの体を研究して得られるならジュエルシードは必要なくなるはずだし」
剣崎が別の推測を立ち上げる。
「今までのアンデッドの行動を考えるとその線は薄い気がするが……」
やはりその意見にもアスランは懐疑的だ。
結局、明確な目的は分からない状態だった。
「目的は結局、分からないけど今はそれを話し合ってる場合ではないわ。
ここに貴方達を呼んだのはその為じゃない。
アンデッドがプレシアを協力した以上、プレシアの拿捕に貴方達に協力してもらいたいのよ」
リンディが議論を割って本題を切り出す。
「俺たちがアンデッドを封印し、貴方達がプレシアを捕まえる。
それについてこちらに問題はありません。
相手が魔導師ならばこの作戦ではあなた方の指揮下に入ります」
アスランが代表して答える。
「ありがとう助かるわ。勿論、立場を逸脱した指令は送らないから安心して」
「それじゃ、俺たち四人となのはが行くのか?」
「いえ、なのはちゃんは参加しないわ。先ほどの傷も回復しきっていないしね」
「まぁ、仕方ないか……」
「俺もその場所に連れて行け!」
話をしていると突然、ドアが開き始が中に入ってくる。
「始!?どうしてここに?」
剣崎が意外な人物の登場に驚く。
「彼も怪我をしていたので治療のためにアースラに来てもらっていたんです」
始の背後からユーノが説明する。
「奴らは俺の獲物だ。邪魔はさせない!」
「……そうだな。それに相手が上級アンデッドなら戦力は多いほうが良い。
リンディさん、始もこの作戦に参加させてください」
剣崎がリンディに頭を下げる。
「貴方がそう判断したのなら私に異議を唱える権利は無いわ」
「艦長!?彼はアンデッドのはずですよ。それに彼らと作戦行動を共に出来るとは……」
「その彼と敵対していた筈の剣崎くんが問題ないと言っているのよ。
彼の言葉を信じましょう」
驚くクロノにリンディが毅然とした様子で答える。
「ありがとうございます!よかったな、始」
「俺に恩を売ったつもりか?」
「そんなつもりはないよ。ただ、お前の力を当てにしてるだけだ」
「……言っておくがお前達も倒す敵であることに変わりは無い」
始はそういうと再び廊下に出て行く。
「ちょっと!相川さん、勝手に歩き回らないで下さい!」
そんな始の後をユーノが追いかけて行く。
「本当に大丈夫なんですか?」
シンは不信感を露に剣崎に尋ねる。
「大丈夫だ。あいつはいきなり俺たちに攻撃をしてきたりはしない」
「どうしてそう言いきれるんですか!?あいつは昨日、俺たちを攻撃してきたんですよ!?」
「だけど、始が教えてくれなければあの時、士郎を助けることは出来なかった。
あいつは他のアンデッドと違うんだよ」
「俺にはそうは思えませんけど……」
何処か納得がいかない様子のシン。
それとは逆に剣崎は完全に始の事を信じているようだった。

ジュエルシードを巡る戦い……
その最後の戦いが始まろうとしていた。



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