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教会
そこに士郎は凜につれられてやってきていた。
「やぁ、凜か。どうした?
こう見えても私は忙しいのだが」
神父が何か本を読みながら応対する。
「綺礼、新しいマスターを連れて来たわ」
その言葉に神父は士郎の顔を見る。
士郎はその眼に恐怖を覚えた。
なんという冷たい眼だろうか。
「彼が新しいマスターか……」
神父はそう呟くとクックと声を漏らす。
「何が可笑しいのよ」
「何、数奇なものだと想っただけだよ。運命というものは」
神父は感慨深そうに呟き始める。
「運命?」
そんな神父の言葉に士郎は反応する。
「そうだ。大いなる神々が紡ぐ命の行く末。
複雑怪奇なるその糸は思いがけない者と者を結ぶ。
その一見、凡雑に見えるそれも全てに意味を含ませているのだろうな」
「何が言いたいんだ?」
要領を得ない言葉に士郎は苛立つ。
嘲笑われていると感じてならなかった。
「失敬。君は衛宮士郎だったかな」
「何で俺の名前を!?」
「有名だからだよ。
太古の不死生物と融合し、強大なる力を振るう都市伝説の存在。
仮面ライダーを居候させている。
そして、新任錬金の戦士の友人であり、戦団の戦士長とも交友関係を持つ。
それだけではない異世界の魔術師とも知り合いだったな」
その言葉に士郎は愕然とする。
「何でそのことを知っている!?」
誰にも喋ってはいない。
秘密にしていたはずの事を彼は知っていた。
その事に士郎は警戒する。
「落ち着いて衛宮君。綺礼、衛宮君を怯えさせるのは止めて」
そんな士郎を凜が宥める。
「どういうことだ、遠坂?」
「私達があなたの事を知っているのは当然よ。
私達、魔術協会と教会、そして、錬金戦団は同盟関係なのよ」
「どういう意味だ?」
「まぁね。あの戦士長。キャプテン・ブラボーだなんてふざけた奴。
あいつから私達はこの街で起こっていたホムンクルス事件の全貌の報告は受けてるのよ」
「ブラボーから?」
「そう。貴方の事も、仮面ライダーの事も全部。
ブラボーから提出された資料で読んで知っている。
とはいえ、その全てを明かした訳ではないけれどね。
異世界の魔術師については偶然、私も目撃したってだけよ。
それでその事を綺礼にも報告した。だから知っているの」
凜の説明に次第に士郎は落ち着きを取り戻して行く。
「逆にそれしか知らないという事だ。
周辺からの目撃情報や聴取からあのホムンクルス事件には他にも二体のモビルスーツが確認されている。
だが、戦士長はその事を資料に記述しては居ない。
ザフトは我々とは違い表の組織だ。
連係したという記録が残らないように約束をしたのだろう。
そのぐらいの予測はつく」
綺礼が付け加える。
「何で知ってるのかは分かった。
だけど、ブラボーが何で遠坂に?」
「私はこの辺一体の管理者なのよ。
錬金の戦士の対応が遅ければ私も戦ったんでしょうけど。
今回は動きが速かったし、私も聖杯戦争の準備があったから手伝わなかったけど。
一つ言っておくと今、この街に居る戦士、津村斗貴子とは面識があるわよ。
慣例で戦士はその街の管理者に挨拶に来るから」
「そんな話、聞いてないぞ」
「言う必要が無いもの。戦団も協会も秘匿組織。
むやみやたらに情報を漏洩させるわけは無いわ。
武藤君は新任だからその辺の事情は説明されて無いでしょうしね」
ようやく納得する士郎。
「さて、衛宮士郎。
君はマスターとなった訳だが……」
説明も終わり綺礼が話を始める。
「あぁ、衛宮君は聖杯戦争を降りるのよ。
説明は良いからさっさと令呪を取り出して、保護してあげて」
そんな綺礼に凜が告げる。
「ほう、だが、良いのか?」
だが、彼は士郎に意思確認を取る。
「俺は……」
その言葉に士郎は口ごもる。
一度、納得してもやはり何処か心残りがある。
「サーヴァントという強大な力。
仮面ライダーや錬金の戦士と同等。
いや、それ以上の力を手にした。
君はそれを捨てるのか?」
その言葉に士郎は揺れる。
戦う力。
それはずっと欲して居たものだったからだ。
だけど、その動揺は直ぐに消えうせる。
「いや、確かにセイバーは強いかも知れない。
だけど、それは俺の力じゃない」
セイバーの力を傘に着て、それで戦ったとして虚しいだけだろう。
剣崎もカズキも戦う力を得て、それを用いて戦っている。
だが、力を扱うのは彼ら自身だ。
日々の努力によりそれを引き出し人知を超えた存在と戦っている。
人知を超えた力を渡されてその後ろに隠れていたのでは共に戦うとは言わない。
「そうか。では、君は聖杯戦争により犠牲になる者たちを放っておくということか」
「……え?」
綺礼の言葉に士郎は驚く。
戦争の犠牲。そんな事など士郎は考えても居なかった。
「綺礼!」
「やはり、伝えていなかったか。
迷惑な戦士に住居を貸し与えてまで戦いに関わる彼が何の気兼ねも無く立ち去るとは思えなかった」
「どういうことだ?犠牲って……」
「サーヴァントは巨大な魔力の塊だ。それだけで兵器になる。
だが、サーヴァントの中にも力の差というものが存在する。
それを埋めようと、あるいは他との差を開かせる為に他者を犠牲にするマスターは多い。
魔力とは生命の力。人の命でも数百と集まればサーヴァントを強化することも出来る」
「そんな!?戦いあうのはマスター同士じゃないのか!?」
「勿論だ。
だが、他者を犠牲にし勝ち残ろうとするのも事実だ。
過去に何度もそのような事件が起きてるからな」
綺礼の言葉に士郎の記憶がフラッシュバックする。
幼いころ、火事に見舞われたあの日。
禍々しく黒い闇が全てを飲み込んだあの日。
「もっとも凄惨だったのは前回の聖杯戦争だった。
10年前、聖杯を手にしようと苦し紛れに放ったサーヴァントの攻撃が聖杯を破壊し、
未曾有の大災害が起こった」
「それじゃあ!あの災害は聖杯戦争のせいで起こったって言うのか!?」
「まさか、君はあの事件の生き残りか。
やはり、運命は数奇なものだな」
綺礼は一人、納得する。
士郎はその言葉に考えを巡らせる。
人々に危害を加えるマスター。
そんな者が存在するのならばこの街で再び多くの犠牲者が出る。
ホムンクルス事件を乗り越えたばかりだというのに。
「何で……この街ばかり?」
「これ程までの事件が度重なり起きている地点は類を見ないだろう。
だが、更に言うのならばこれ程の事件が起こっていて、その犠牲者の数は非常に少ない。
何故だかわかるか?」
「……皆が護ったからだ。この街とそこに住む人々を」
「そうだ。彼らは現代の英雄と呼んでも良いだろう。
その英雄たちと共に居る君はどうする?
このままマスターとしての権利を放棄し、再び英雄たちの補助に廻るのか?
それとも、マスターとしてサーヴァントを行使し、英雄と共に戦うのか?」
その言葉に士郎は頷いていた。
迷いは既に無く。
あるのは更に深まる闇を払う為に戦うという意思だけだった。












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第二十二話「狂戦士と騎士」






「本当によかったの?」
帰り道、凜が士郎に尋ねる。
「あぁ、本当はずっと迷ってた。
だけど、聖杯戦争が人を傷つけるなら。
俺はそれを止めたい」
迷いがきれたように士郎は頷く。
「そう」
不満そうに凜は告げる。
その様子に士郎は気まずくなり視線をセイバーに移した。
「セイバー。いきなり、意見をころころ変えて申し訳ないけどこれからは頼む」
「いえ、私としてもやる気になってくれたのであればチャンスが増えるので問題はありません。
それに貴方が無闇に犠牲を強いるマスターではなく安心しています。
私にも騎士としての誇りがあります。
他者に犠牲を強いるやり方は許す訳にはいきません」
セイバーとしても士郎の心変わりに文句は無いようだった。

人気の無い道を三人は歩いていく。
街灯の明かりだけが地面を照らす静かな夜。
人の気配はまるで無い。
はずだった。
「こんばんは」
夜の闇から銀髪の少女が現れる。
「女の子……?」
その突然の来訪者に驚き身構えるも眼の前に居るのは可憐な少女。
「はじめまして、お兄ちゃん」
少女は士郎に一礼をする。
「はじめまして……えっと、俺に何か用?」
不思議な少女に士郎は困惑する。
こんな夜更けに一人で歩いているのも変だが
それ以上に彼女の纏う雰囲気は普通ではなかった。
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
もしかしたらカズキやなのはから聞いてるかしら?」
少女の言葉に士郎は何かを思い出す。
「君が相川始と一緒に居る女の子。
話は聞いてるよ。なのはのピンチを教えてくれたりしたって」
アンデッドである始と行動を共にしては居るがカズキやなのはから聞いた限りでは友好的な少女だ。
その為、士郎は自然に警戒を解く。
「油断しちゃダメよ。衛宮君。
アインツベルンは魔術師の家系。
彼女もマスターよ!」
凜はイリヤに警戒する。
「魔術師……まさか」
だが、士郎は今一、信じられない様子だった。
「その通りよ。そして、私の目的はシロウ。貴方一人」
イリヤの赤い瞳が士郎を射殺すように見つめる。
「俺……?」
「そう、私は貴方を殺しに来たの。
ずっとこの日を待っていた。
何度、始をけしかけようと思って止めた事か。
でも、ようやくこの日が来たわ。
聖杯戦争のマスターとしてシロウを殺す」
イリヤが告げると突如として地響きが鳴り響く。
暗闇の中から巨大な影が出現した。
2メートルをゆうに越す巨体。
その体は雄雄しき筋肉に覆われていた。
まさに巨人。
その相貌は赤く輝き、知性と正気が見当たらない。
「■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」
声に成らない声で巨人が吼える。
その威容に士郎と凜は圧倒されていた。
「あれがサーヴァントなのか?」
サーヴァントは人間の英雄の霊だったはずだが。
目の前のそれは人型だが人間を遥かに超えてるように見える。
「ただの英雄じゃないわ。このバーサーカーは英雄ヘラクレス。
他のちっぽけな英雄とは違う大英雄よ」
イリヤの言葉に驚く。
「ヘラクレス!?そんな有名な英雄をサーヴァントにしたって言うの!?
しかもバーサーカーだなんて……」
凜は息を呑む。
バーサーカーは力の足りない英霊を正気を失わせる代わりに強化するためのクラス。
だが、ヘラクレス程の力のある英霊をそのクラスに押し込めれば負担は大きいだろう。
だというのに目の前の少女は平然とバーサーカーを操って見せている。
「これで終わりじゃないよ」
イリヤは続ける。
闇の中から再び、一人の男が現れた。
今度の男は小柄だった。
バーサーカーに比べれば何処にでもいるような人間に見える。
だが、彼の纏う威圧感は決してバーサーカーに負けていない。
「人間……?」
その存在にセイバーは怪訝な表情を浮かべる。
サーヴァントでは無さそうだった。
だが、士郎はその存在に驚く。
「相川始……」
イリヤの横に並び立つ男はいつも彼女と共にいた男。
ブレイドやギャレンと同じようにアンデッドと融合し、その力を使いこなす戦士。
仮面ライダーカリス。
「バーサーカー一人でも十分だけど絶望は大きいほど良いもの。
それじゃ、カズマやシンが来る前に死んでね」
イリヤが無邪気に笑う。
それと同時にバーサーカーが襲い掛かった。
それに反応してセイバーが士郎の前に飛び出る。
そして、バーサーカーの巨大な石の斧を見えない刃で防いだ。
セイバーよりも遥かに巨大な体躯から繰り出される一撃。
だが、セイバーはそれを防いでみせる。
「流石にセイバーね。だけど、二人同時は幾ら貴方でも持ちこたえることは不可能よ」
イリヤが勝利を確信して微笑む。
セイバーに向かってカリスに変身した始が襲い掛かる。
「やめろっ!!」
だが、それを防ぐように闇の中からブレイドが飛び出した。
そして、カリスラウザーの一撃をブレイラウザーで受け止める。
「剣崎さん!」
その姿に士郎が叫ぶ。
「大丈夫か、士郎!」
「はい!でも……」
幾らなんでもやってくるのが速すぎる。
いくら、アンデッドである始が戦っているとはいえ戦いが始まった瞬間ではサーチも反応しないはずだ。
「始が俺たちを呼び出したんだ」
その問いに背後からやってきたシンが答える。
「シン!」
「事情は後で説明する。とにかく二人とも下がれ。巻き込まれるぞ」
シンは士郎と凜の腕をとって距離を開ける。
バーサーカーの大振りの一撃により、粉砕された破片がいつ飛んできても可笑しくはない。
それにセイバーを突破されれば一瞬にして粉砕される間合いだ。
逃げるにしても距離をとる必要があった。
「貴方は戦わないの?」
そんなシンに凜が尋ねる。
「さっきのランサー戦でインパルスは緊急修理中だよ。流石に出撃は出来ない」
悔しそうにシンは告げる。
インパルスがあれば今すぐにでもあの場に加わっているだろう。
流石にインパルスが無ければ自分が足手まといになることは分かっている。
シンはおとなしく戦いを見守るしかなかった。

「うおおおお!!」
剣崎がブレイラウザーを振るうがカリスはそれを悉く弾く。
「どうした。お前の力はその程度か!?」
「まだだ!!」
ブレイドは力押しで立ち向かうがそれをカリスはカウンターをあわせる。
その一撃にブレイドは弾き飛ばされた。
「!?」
その体が近くで戦っていたセイバーに激突する。
「すまない!」
「速くどけ!」
ぶつかったせいで体勢を崩したセイバーが叫ぶ。
その二人の頭上にバーサーカーの石斧が振り下ろされた。
「まずい!」
崩れた体勢での回避は不可能とセイバーは受け止めるべく刃を構える。
だが、それよりも先にブレイドがブレイラウザーで石斧を受け止める。
凄まじい衝撃にアスファルトに亀裂が入り、破片が舞う。
「うおおおお!!」
だが、ブレイドはその一撃を耐え切って見せた。
バーサーカーの腕力を全身の力で撥ね退ける。
「ウェイ!!」
気合と共にバーサーカーの腕が上空へと跳ね上がる。
「なっ!?力ずくで推し戻しただと!?」
その様子にセイバーは驚愕する。
背丈が高いとはいえブレイドの体型はそこまで大柄ではない。
一体、何処からそんな力が発揮されたのかとセイバーは彼を見る。
「大丈夫か?」
「こっちの台詞だ。なんとも無いのか?」
「確かにパワーは凄いけど。耐えられない程じゃない」
「なるほどな。名前はブレイドと言ったな」
「あぁ、そうだ。皆を守れるのは今は俺たちだけだ。よろしく頼むセイバー」
「なるほどな。この時代の騎士と共に戦場を駆けると言うのも悪くは無い!」
ブレイドとセイバーは目配せをすると同時に飛び出した。

「剣崎のあの力。融合係数が上昇しているのか……。
そうでなくては面白くは無い!」
バーサーカーの一撃を防いで見せたブレイドにカリスの闘争本能に火が点く。
しかし、彼へと向かってくるのはブレイドではなかった。
「生憎だが貴様の相手は私だ!」
セイバーは見えない剣でカリスに切りかかる。
カリスはそれをカリスラウザーで防ぐ。
「貴様がサーヴァントか。
たかが人間の英霊如きが!アンデッドに適うものかぁッ!!」
カリスが怒声を上げてセイバーに切りかかる。
その素早い攻撃をセイバーは全て受け流す。
「確かに速く、そして精確だ。だが、パワーではバーサーカーには及ばないな」
セイバーはバーサーカーの攻撃を受けていたときほどの消耗は無い。
幾ら手数が多くても一つ一つは必殺ではない。
故に精神的消耗も抑えられていた。
幾つもの剣筋を防ぎ、その中で隙を見切る。
セイバーの一撃がカリスの胸部を切り裂いた。
「ぐっ!」
緑色の鮮血が飛び出る。

「ウェーーイ!!」
ブレイドのキックがバーサーカーの頭部に炸裂する。
だが、まるで効いた様子も無くブレイドを叩き落とした。
「ぐあっ!」
地面にたたきつけられるブレイド。
その体目掛けてバーサーカーは石斧を振り下ろす。
大地を揺るがす一撃。
それを何度も原型がなくなるまで連続で振り下ろす。
だが、ブレイドはその猛打を受けながら立ち上がる。
「うおお!!」
そして、石斧を弾いてバーサーカーの懐にもぐりこむ。
「ウェイ!」
バーサーカーの体にブレイラウザーをつきたてる。
だが、その刃が肉体を突き刺すことはなく、皮膚で止まってしまう。
「何、なんて堅さなんだ!」
驚くブレイド。
そんな彼にバーサーカーの拳が炸裂する。
吹き飛ばされるがブレイドは受身を取り着地して、回転しながら立ち上がる。
「はぁはぁ……これがサーヴァントか。シンや翔が苦戦したのも頷けるな」
息を整える剣崎。
だが、休み無くバーサーカーはブレイドに襲い掛かる。
「確かに力は強いけど。ぶつかるつもりでいけば耐えられる!
そこに勝機があるはずだ!」
ブレイドは猛スピードで振るわれる石斧をブレイラウザーで防御する。

「凄い……噂には聞いてたけど。
サーヴァントと互角に戦ってるなんて」
凜はブレイドの戦いぶりを見て感嘆の声を上げる。
「強くなってる。確実に……」
シンは剣崎の強さを見て、尊敬と共に嫉妬も覚えた。
確かにライダーシステムは強大だ。
だが、今の剣崎はその強大な力を完全に使いこなしている。
ラウズカードを使わずとも単体能力だけでこれほどなのだ。
それがカードを使いこなしたら……

「ウェイ!ウェーイッ!!」
ブレイドの剣がバーサーカーの体を斬り付けるがその刃が皮膚を抜くことは無い。
その防御はただ単純に硬いというものではない。
「ブレイラウザーが通用しないのか……」
傷つかなくても何度もぶつければいずれはと考えていた剣崎だがどうやらその考えは間違っているようだ。
地球上の物質で断てぬものは存在しないブレイラウザーだが目の前の存在は現代の科学で図れない存在。
「なら、今、以上の攻撃を加えれば……」
剣崎はバーサーカーの攻撃を喰らい、その反動で距離を開ける。
「セイバー!足止めを頼む!」
そして、カリスと戦うセイバーに援護を要請する。
「無茶を言う……勝機はあるんだな?」
セイバーはカリスラウザーを受け払いながら横目で剣崎を見る。
剣崎はそれに頷いて答えた。
「分かった。だが、長くは持たない」
「大丈夫だ。最速で決める!」
剣崎はそう言うと三つのカードを取り出す。
「なるほどな。遂に揃えたか」
それを見たカリスは何かを納得する。
その様子にセイバーは怪訝な表情を浮かべる。
明らかにカリスの攻撃精度が落ちた。
手加減をしているようだ。
だが、それならばバーサーカーに注力できる。
セイバーはバーサーカーの目標を自分に向けさせるべく前に立った。
理性の無いバーサーカーは我武者羅に目の前にいるセイバーを狙う。

「何かを狙ってるようだけど無駄よ。いくらアンデッドの力が強力だって言ってもバーサーカーには通用しない」
イリヤは何かを企む剣崎を見て余裕の表情を浮かべている。
今までのブレイドの戦いからその力はある程度、予想はついていた。
そして、ブレイドの攻撃にバーサーカーに通用するものは存在しない。
そう、彼女は結論付けている。
だが、今のブレイドは彼女が知っているブレイドとは違う。

「今日封印したアンデッド。この力があれば……」
ブレイドは三つのカードをラウズする。
覚醒する三体のアンデッドの力
――――キック――――
アンデッドの力が右足に集中する。
――――サンダー――――
稲妻の力がブレイドの全身を駆け巡り、右足に収束する。
――――マッハ――――
そして、音を超えるスピードがブレイドの全身に駆け巡る。

【ライトニングソニック】

三つの力が剣崎の体に溶け込み融合する。
一つ一つのアンデッドの力を足し合わせるではなく掛け合わせる。
力と力は融合し新たな力へと展開する。
「ウェーーーイ!!」
ブレイドはブレイラウザーを地面に突き刺すと空気の壁を破り加速する。
ソニックブームが発生し、周辺に凄まじい衝撃波が発生した。

「速い!?」
セイバーは瞬間的に見えた姿に叫ぶ。
だが、その姿は次の瞬間には消えていた。
音速の加速を維持したまま跳躍するブレイド。
そして、空間を貫きながらブレイドの一撃がバーサーカーの頭に突き刺さる。
三つのアンデッドの力を右足に集中した一撃。
それはバーサーカーの頭部を粉砕し、貫通した。
射抜かれた矢の如く、ブレイドの体が地面に着地する。

「三枚コンボ!?」
シンはその技に驚嘆して叫ぶ。
今まで、剣崎が使用していた二枚コンボのライトニングブラスト。
それでも一体に用いた場合の単純な破壊力ならインパルスのどの装備も凌駕していた。
あれを超える一撃はカズキのサンライトクラッシャーぐらいのものだっただろう。
だが、今の一撃はそれすらも遥かに超えている。

「嘘……バーサーカーが……」
イリヤはその姿に呆然とする。
だが、次の瞬間には微笑みを戻していた。
「なんてね」
イリヤのつぶやきと同時にバーサーカーの腕がブレイドを掴む。
「なっ!?」
ブレイドは突然の事に何も出来ずその腕に拘束された。
そして、その頭部を見て驚嘆する。
貫き粉砕したはずの頭部が生え変わるように再生していく。
その速度は凄まじく見る見るうちに傷一つ無い姿にかわっていた。
「まさか、バーサーカーを一度殺すなんてね。
でも、そこまでよ。もう、バーサーカーにその技は通用しない」
イリヤが勝ち誇る。
それに呼応するようにバーサーカーが雄叫びを上げながらブレイドを地面に叩きつけた。
その衝撃に剣崎の体は放り出され、変身が解除される。
度重なるダメージについに限界を迎えたのだ。
そして、バーサーカーは生身の剣崎に追撃をしかける。
剣崎は普通の人間だ。
バーサーカーの一撃を喰らえばその肉は弾け、血の塊となるだろう。
「!」
それを見てセイバーが駆け出した。
そして、剣崎を護るようにバーサーカーの石斧を受け止める。
その衝撃にはじける地面。
セイバーと剣崎の体が更に吹き飛ばされる。
だが、バーサーカーの勢いは止まらない。

「剣崎さん!」
その姿を見てシンが飛び出そうとする。
だが、それよりも先に飛び出す影があった。

セイバーに振り下ろされようとする石斧。
その間に士郎の体が割り込まれる。


「………」
士郎は目を覚ます。
窓から朝の光が差し込んでいた。
「ここは……?」
士郎は呟いて周囲を見る。
「良かった。気がついたのですね」
横で座っているセイバーと士郎の目が合う。
その表情は安堵しているようだった。
「セイバー……どうして、俺は寝てるんだ?」
意識を失う前の記憶が無い。
そんな士郎にセイバーは神妙な顔で口を開く。
「覚えていないのですか?
貴方はあの時、私とカズマを庇う為にその身を盾にしたのです」
「盾……!
そうだ、バーサーカーは!?」
「貴方が死んだと思いマスター共々去っていきました」
「そうか……それにしてもよく生きてるな。
遠坂が治してくれたのか?」
「……やはり、覚えていないのですね。
あの時、マスターについた傷は致命傷でした。
まず間違いなく助からない。
ですが、私達の目の前の貴方の体は瞬く間に再生していった」
「再生?何を言ってるんだ?」
「私は嘘をつきません。
カズマもシンも目撃しています。
貴方は致命傷を自分で再生させたのです」

「士郎の再生能力。あいつにあんな力があったのか?」
シンは昨夜の事を思い起こす。
仲間を失ったと思った。
それぐらいに致命的だったのだ。あの一撃は。
胸の殆どを抉られて生きていける生命なんて無い。
「まるでアンデッドだ」
しかし、彼は生きていた。
目の前で傷が治っていくところを見たのだ。
その場に居た誰もがそんな事はしていないし出来ない。
「まさか、士郎がヒューマンアンデッド……なんてことは無いですよね?」
シンが剣崎に尋ねる。
「多分、それは無い。アンデッド特有のバックルも無いし、士郎の血は赤かった。
それにアンデッドもアレだけの傷を受ければ即座に治ったりはしない」
あの傷は封印級だ。
そうなればアンデッドもしばらくは身動きが取れないが士郎のそれはそんなタイムロスは無かった。
「それは本人に聞くしかないとはいえ。
気になることはもう一つありますよ。
相川始は何で俺たちに士郎襲撃を伝えに来たんですか?」
シンが剣崎に別の質問を投げかける。

アレは昨夜、士郎たちが出ていってからしばらくたった時だった。
呼び鈴が突然なったのは。
シンが応対の為に玄関に行くとそこには始の姿があった。
彼は無言でそのまま歩き出す。
シンと剣崎は彼の後を追った。
そして、その先でバーサーカーに襲われている士郎たちを目撃したのだ。

「結局、その後は自分も士郎を殺す為に戦ってたし」
シンは考えが分からないと不服そうな顔をする。
そんな彼の言葉を聴いて剣崎は考え込む。
そして、一つの答えを出した。
「やっぱり、止めて欲しかったんだと思う。
だから、俺たちを呼んだんだ」
「それじゃ、自分も戦う必要なんて無かったんじゃ無いですか?」
「それは分からない。奴なりの考えがあったんだ。
でも、俺たちを纏めて始末しようとしていたとは思えない。
イリヤちゃん自身も俺たちの登場は予想外だったみたいだし」
「相川始……ライダーシステムのようにアンデッドの力を使うアンデッド。
あいつは一体、何者なんだ」
シンは呟く。
彼がアンデッドだとわかってもそれだけだ。
彼が何の生物の始祖なのかも知らない。
そして、何故、ライダーシステムのようにラウズカードが扱えるのかも。


とある洋室でパピヨンは古びた本に目を通していた。
「なるほどな。
元々この土地自体が霊的な力に優れていたということか」
その本はパピヨンの曽祖父であるドクトル・バタフライが残した記録だった。
その中に聖杯戦争についての記述も含まれている。
六十年ほど前に起きた第三回聖杯戦争。
そして、十年前の第四回聖杯戦争。
その様子に関する記録がバタフライの目線でつづられている。
参加者ではなかったらしく詳細は無い。
一部のマスターとそのサーヴァント程度の情報しか書かれていなかった。
「聖杯か……」
その本の中に聖杯についての考察が書かれていた。
「なるほど、聖杯の御付にカリスか……
随分と洒落が利いているな」
その内容を読んでパピヨンは一人、納得する。
「だが、その仲もそろそろ終わりかな」
そう呟くとパピヨンは耳を済ませる。
その耳に下の階から響いてくる声を拾った。

「ハジメ、どうしてカズマとシンを連れて来たの?」
イリヤが始に詰問する。
「呼んだ訳じゃない」
始は短くそれだけ答える。
「貴方があからさまに姿を見せればあの二人が追ってくるってわかってやってたでしょ。
どうして邪魔したの。
あの二人が居ても負ける気は無かったけど」
「……イリヤ、君があの士郎という男を殺したいと思っているように思えなかったからだ」
黙っていた始が口を開く。
「……何を言ってるの?」
その言葉にイリヤは何処か苦しそうに答えた。
「事実、君はあの男を殺さなかった。
気づいていたんだろう。あの傷でも奴が死んでなかったことに」
「……知らないわ。あの傷で生きてるとはとても思えないけど」
「君は見逃したんだ。本当は殺したいとなんて思っていない。
君は本当は優しい子だ」
「出会ってそんなに経ってない貴方に何が分かるの!?
不死生物アンデッド……その力は役に立つと思って飼ってたけど言う事を聞かないのならいらないわ。
出て行って!」
イリヤは始に怒りをぶつける。
始はそれを黙って聞き終えるとそのまま振り向いて歩いていってしまった。
そして、扉を開けてそのまま外へと出て行く。
「あっ……」
その後姿にイリヤは言葉を投げようとするが途中で止めてしまう。
そして、扉は完全に閉まり、その姿は見えなくなってしまった。
「痴話喧嘩か」
そんなイリヤにパピヨンが階段の上から声をかける。
「居候が煩いわよ。黙ってて。
それが嫌なら出て行っても良いわよ」
「どっちも嫌だね。
貴様はホムンクルスだというのにまるで人間だな」
「貴方達寄生型と違って創造型は最初から人間と同じように生まれるもの。当然よ。
それに私は調整されているとはいえちゃんと母体から生まれた人間よ」
「お前が人間とは……冗談が上手いな。聖杯娘」
「っ!なるほどね。バタフライの研究ノートを持ち込んでたみたいだけど。
流石にあたりはつけられてた見たいね」
「大体はな。別に聖杯なんぞに興味も無いが」
「……前から気になっていたけど。貴方はジュエルシードにも興味を示さなかった。
それもホムンクルスになる前から。
その力で病気を治そうとは思わなかったの?」
「何でも願いを適えるなんて嘘っぽいのは信じない主義でね。
俺が信じるものは全て自分が実現できるもののみ。
そのジュエルシードと聖杯も俺が作り出せるのなら信じてやっても良いがな」
「志としては今の聖杯戦争の参加者の誰よりも貴方が最初の三人に近いでしょうね」
「それで折角の戦力を手放してその聖杯戦争に勝ち抜けるのか?
どう考えても奴らは介入してくるぞ」
「そうでしょうね。でも、負ける気は無いわ。
カズマの力には驚いたけどアレが限界よ」
「何故、そういいきれる?」
「いくらアンデッドが強力でもライダーシステムは人が作り出したもの。
限界はあるわ。アレ以上の力を発揮するとは思えないわね。
あの力は神域の一歩手前よ。
アレを超えるというのであればもう、神でもなければ太刀打ちできないわ」
「ほう、意外と神というのも手近な存在なんだな」
「言っておくけど寄生型ホムンクルスでカズマに勝てる存在なんて居ないわよ」
「参考程度に留めておく」
パピヨンはそう告げるとそのまま去って行く。
「永遠の命は錬金術の最終目標。
その実現体を封じて幾つも力に変える存在。
基準からして次元が違うのよ。
ライダーシステムも下級アンデッドもその力の全てを使いこなしては居ない。
だけど……」
イリヤは始の姿を思い出す。
彼の持つ力。
それは全てではない。
彼は全力で戦っているわけではない。
余りにも強すぎる力を抑えるように手加減して力を振るっているに過ぎない。
彼の本気があんなものではないことを彼女は知っている。

雪の深い山の中でイリヤは目撃した。
全力の相川始と……
黄金の鎧を着込んだような強大な上級アンデッドの戦いを。
もし、この世界に神が居たとして彼らの戦いに割り込むことなど不可能だろう。
それほどに圧倒的だった。
後に聞いた話では始が戦っていたのはカテゴリーキングだという。
最上級のアンデッド。
それは下級アンデッドとも、ジャックである伊坂とも次元が違う存在だった。
カテゴリーキングに比べればカテゴリージャックなど取るに足らない。
そして、本気の始は更にその上を行っていた。
アレほどまでに恐ろしいと感じたことは無かった。
この世の全てを食い尽くしても足りないだろう圧倒的な殺意。
全てを滅ぼすために生まれたかのような邪気。
近くに居るだけで魂が消えうせるかのように凶暴だった。

「ハジメは人間に近づいている……
あの姿を嫌っていても人間も嫌っていたけど。
カズマと出会ってハジメはかわってしまった」
イリヤは呟く。
あの日、イリヤを助ける為に剣崎と始が共闘した日。
その日から彼は人間味を帯びてきた。
人という種族に対する嫌悪感が薄れてきているのを感じられた。
「剣崎一真……彼は何者なの?
あなたというカードは何を意味しているというの?」
イリヤは呟く。
ただの人間であるはずの彼の存在が何処か恐ろしく感じられたからだ。


衛宮邸
「まさか、そんな事になっているとはな」
剣崎から連絡を受けて橘とアスランがやってきている。
「聖杯戦争……それにレンゲルか。
レンゲルについては推測されていたことだが」
聖杯戦争について簡単なことは二人に説明されている。
その目的とサーヴァントについて。
そして、士郎が参加することとその儀式が人を犠牲にする危険性があるということを。
「レンゲルの正体。士郎が知っているという話だったな」
まずは既に知られていた情報だったレンゲルについての話が始まる。
橘がその事について士郎に確認をとった。
「あぁ、レンゲルに変身していたのは上城睦月。
俺とカズキのクラスメートだ。
どういう経緯でそれを手に入れたのかは知らないけどあいつは俺の目の前で変身した」
「そうか。だが、士郎を助けようとしていたことやアンデッドと戦っていたことから考えて、敵では無いと思う。
だが、危うい。俺が一度、話をしにいこうと思う」
橘が言うと剣崎が頷いた。
「お願いします。俺はそういうのやっぱり向いてないと思いますし」
後輩を導く先輩としての指導。
剣崎にそれをこなす自身も無かった。
「レンゲルについては橘さんに任せるとしてだ。
聖杯戦争についてはどうする?
士郎以外は部外者という立場だが」
次にアスランが聖杯戦争について切り出す。
「そんなのいつもでしょう。当然、誰かが犠牲になるって言うんなら戦うべきです」
その言葉にシンが直ぐに飛びつく。
「だというと思ったよ。一応、艦長には俺が報告しておく」
アスランは溜息混じりに告げる。
そもそもの主任務であるアンデッド封印と並行しての活動。
普通に考えれば受け入れがたいことである。
それも秘匿組織が行う儀式への干渉となれば色々な弊害も出てくるだろう。
魔術協会……それがどれほどの力があるのかはアスランには分からなかったが
このような市街で人が犠牲になるかもしれない儀式を運用しているのであれば相応の力があるのは事実だ。
「マスターには随分と多くの仲間が居るのですね」
セイバーがその場にいる全員を見て呟く。
「これで全員じゃないけどな。皆、誰かの為に力が使える良い奴らだよ。
それとマスターってのは止めてくれって言っただろう」
「そうでしたね。シロウ。
しかし、サーヴァントを相手に彼らがどれだけ戦えるか」
「でも、剣崎さんはバーサーカーと互角の戦いをしていたじゃないか」
「相性もありますが彼ぐらいの実力なら足手まといにはならないでしょう。
ただ、一対一ではサーヴァントに勝つのは難しいと思います。
いくら強くても彼の戦いは未熟だ」
セイバーは辛らつな意見を告げる。
「なに!」
その言葉に剣崎が反応する。
流石に面と向かって言われれば反発もするだろう。
「確かにな。最近ではマシになってきたとはいえ剣崎の戦いには無駄が多すぎる」
しかし、橘の言葉に剣崎はそのまま何も言えずに黙ってしまう。
「技術という点ではシンの方が上だからな。だが、剣崎はそれを補う力と素質がある。
サーヴァントが強大であるというならそれは大きなプラスになるはずだ」
橘は続けて告げる。
セイバーはその言葉を聴いて眼を瞑る。
「ふむ、確かに彼の今後の成長を考えれば十分とも言えますね。
年齢としては若くは無いのが気になりますが」
「若くないって……それは平均年齢が低すぎるだけというか」
剣崎の年齢は22歳。
日本の一般社会としてはまだまだ新人だがこの戦場では年長者である。
「剣崎は半年前に訓練を開始して、まだ実戦経験も一ヶ月ぐらいだ。
それを考えれば十二分に戦えていると思う」
「戦士となって一年も経っていないのですか。
なるほど、確かにそれなら成長スピードとしては格段に速い」
橘の言葉にセイバーの意見がかわる。
「シンもアカデミーを出たてで実戦経験は同じぐらいだろう。
カズキやなのはなんて訓練もなしにいきなり実戦を始めてあの力量だからな。
うかうかしてると俺が抜かされるのも時間の問題だな」
アスランはどこか嬉しそうに呟く。
「そうだな」
それに橘も同意する。


時空航行船アースラ
そのブリッジで緊張が走っていた。
「ジュエルシード……これだけ捜索して見つからないと思えば……」
クロノが苦々しげな表情でスクリーンを見る。
そこには二体の怪物が立っていた。
その姿は神の生み出した芸術品と言ってもいいだろう。
その洗練された姿と内より発せられる圧倒的な畏怖の力。
無限の命を持つ存在、アンデッド。
その中でも特に強い存在だということが見ただけで分かる。
カプリコーンアンデッドとオーキッドアンデッド。
彼らの手の中にはジュエルシードが握られていた。
それもなのはとフェイトが持っているものを含めれば全てになる。
最後の六つ。
それが彼らの手中にあった。



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