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燃え盛る瓦礫と化した街並み。
それを見下ろすかのように漆黒の空に満月だけが輝いている。
「何故だ……何故、お前がこんなことを!?」
紅き外套に身を包んだ白髪で褐色の肌をした男が両手に剣を携えて叫ぶ。
その視線の指し示す方向
満月を背に漆黒の肌と蛍火のように輝く髪をした男が空中に浮かんでいた。
その手には山吹色に輝く光を内包する巨大な槍が握られている。
「それはお前達が悪だからだ」
断定の言葉を宙に浮かぶ男が口にする。
その眼には怒りしか感じられない。
激しい憤怒が闘気となり、その身を包み込んでいる。
男は穂先を紅き外套の男に指し示す。
「錬金戦団……魔術協会……連合もザフトも!
全てこの世界に生きる人々を破壊し、不幸にする!」
「そんな事は……」
赤き外套の男は反論しようとするが口ごもる。
「無いというのか?
お前も知っているはずだ。
この世界を平和をもたらした男に奴らがした仕打ちを!
ただ、平和に過ごそうとしていた楽園を破壊した事実を!
だから、管理局も俺たちを見限った。
この世界は次元世界に踏み出すには余りにも未熟だと。
失ったものはもう、戻らない……戻らないんだ!」
「そうかも知れない……だけど!
こんなことは無意味だ!
戦団を、協会を、悪だと断定し、そこに所属する全てを皆殺しにするなんて!」
漆黒の男の悪意に飲まれようとする意思を押し戻し、外套の男は叫ぶ。
「お前が破壊を続けるのなら……
俺はお前を倒す……それが俺の正義の味方としての仕事だ」
外套の男は意を決すると魔力を展開する。
そして、世界は書き換えられどこまでも続く荒野が出現した。
その世界の空は歯車がなり、地面には無数の剣が突き刺さっている。
「なら、決着をつけよう……衛宮士郎!」
「望むところだ!武藤カズキ!」
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第二十話「陰る太陽」
「!」
士郎は蔵の中で眼を覚ます。
全身は汗で濡れ、今も尚、鼓動が鳴り響いている。
「今のは夢……?」
今も鮮明に思い出せる。
炎の熱さや血の匂いまでも
そう、変わり果てた姿のカズキが自分に向けてきた殺気まで
「アレはカズキなのか……そして、俺なのか?」
どちらの姿も今とは全く違う。
どうなればああも変わるというのか。
やはり、夢だというのか……
その時、自分の手の甲に熱い感覚を覚える。
驚き、眼を向ければその手に紋様が浮かび上がっていた。
「痣か……?」
不可思議な紋様。
だが、気にしていても仕方が無い。
「とにかく、家に戻るか……」
結論には至らない。
夢にしては生々しすぎるがあのような未来が訪れるなど到底、思えなかった。
屋敷は酷く静かだった。
時間にすれば既にシンや剣崎が起きていても良いはずだ。
カレンダーの日付を士郎は見る。
今日の日付に赤い丸がついていた。
「そうか……今日は……」
そこで思い出す。
今日はLXEのアジトに強襲を掛ける日であったこと。
日付は二日前に遡る。
早坂姉弟との戦いに勝利し、橘を取り戻した翌日。
「LXEのアジトの場所は記憶している。
奴らをこれ以上、野放しにする訳にはいかない」
橘が皆が集まる場で話を切り出す。
「あぁ、これ以上、時間を延ばすのはライダーシステムの開発や裏切りの戦士の復活にただ猶予を与えてしまうだけだ」
「戦力的にも橘朔也やアスラン・ザラが参加してくれている。
博麗霊夢と霧雨魔理沙の両名が居なくなっているとは言え、戦力的には増強されたと言っても良いだろう」
「ちょっと待つのだわ。私と翠星石もこの戦いに参加させてもらうのだわ」
ブラボーの言葉に真紅が口を挟む。
「そうだったな。君達の妹も奴らに捕まっているんだ」
「そうです。それに秋水や桜花を利用していたあいつらを倒さないとあいつらが安心して元の生活にもどれねぇです。
あいつらを普通の生活に戻してやるのが蒼星石の最後の望みだったですから
翠星石はそれを適えてあげてぇんですよ」
翠星石は亡くなった妹の言葉を適えようと考える。
その為にはLXEという存在は邪魔でしかない。
「早坂桜花から聞き出したLXEの残存戦力の情報が確かなら今の俺たちの方が戦力は上」
桜花の話によれば現在の彼らの戦力は
首魁ドクトルバタフライ、その協力者である謎のホムンクルス・ムーンフェイス。
上級アンデッドの伊坂、ザフトの新型を強奪し運用する謎の三人組。
そして、ミーディアムを人質に捕られ戦わせられているローゼンメイデンの雛苺。
パピヨンも参加しているはずだが共に戦っているという様子ではないらしい。
不確定要素は裏切りの戦士。
そして、伊坂が主導で開発しているというライダーシステムだけだ。
「この戦いが終わりさえすれば本当にこの街はホムンクルスの脅威から解放される」
カズキは初めてホムンクルスと出会った日の事を思い出し呟く。
あそこから続いた戦いがまた一つ、決着を迎えようとしている。
願わくば誰の犠牲も出さない勝利を
それはその場の全員が願っていることだった。
時間は戻り、作戦決行日
冬木郊外の森
そこにLXEのアジトの入り口が存在する。
「ここが……」
目の前には扉。
その前に並ぶはこの街を救う為にやってきた戦士達。
「突入するぞ!」
ブラボーの号令と共に彼らは扉を打ち破り内部へと突入した。
衛宮士郎はいつもどおりに学校に登校した。
決戦……
だが、戦う力を持たない士郎はそこに参加させてもらえなかった。
何とか彼らの背中に追いつこうと努力を重ねてもその距離は次第に伸びていく。
「(どうすれば俺はあいつらと肩を並べられる……カズキと一緒に戦えるんだ)」
授業も上の空にそんな事ばかりを考える。
共にあの夜、戦いの世界に足を踏み入れた友人は非日常の世界を突き進んでいく。
本当は自分のほうが先に足を踏み入れていたというのに。
焦りだけが気持ちを揺らしていく。
「士郎!ちゃんと授業を聞いてるの!?」
藤村先生がその様子に感づいて注意する。
だが、その言葉に士郎が反応するよりも早く
「おい、何か霧がドンドン濃くなってきたぞ」
窓際の生徒が騒ぎ始めた。
「ちょっと、どうしたのよ!」
藤村先生がその騒ぎに窓を眺める。
確かに窓の外は濃霧だった。
濃いなんてものじゃない。
校門も全く見えないほどに視界が悪い。
「変ねぇ。天気予報じゃ霧が出るなんて……」
藤村先生が首をかしげていると校内放送が入る。
「至急、先生方は職員室に集合してください」
その放送に生徒達が浮つき始める。
原因不明の濃霧、そして職員の集合。
緊急事態という特殊な状況に気持ちが先走っていく。
「はいはい、皆落ち着いてー。とりあえず、自習にするから。
教室を出るんじゃないわよ」
藤村先生はそう告げると教室を出て行く。
それと同時に生徒達は窓際へと集まっていった。
濃霧により外から完全に遮断された学園。
それが何を意味するのか
分からない無知な輩は危険が甘い蜜だと思い込みはしゃぐ。
「……おかしい」
しかし、士郎は唯一、この状況に危機感を感じていた。
嫌な予感だけが脳裏を過ぎていく。
もし、これが敵の攻撃なのだとしたら。
今、この街に敵と戦えるだけの戦力は無い。
彼らは離れた場所に行ってしまっているからだ。
そう、本拠地襲撃という大作戦を敵が利用したのだとしたら。
早坂姉弟がこちらに掴まり、情報を吐き出す。
それが最初から仕組まれた筋書きなのだとしたら……
士郎の背中を冷たい汗が流れ落ちる。
「おい……あれ!」
生徒の一人が校門の方を指差す。
そこには人影があった。
士郎は前に居た生徒を書き分けて窓辺に躍り出る。
そして、その人影を凝視した。
それは化け物だ。
人の形をして人で無いもの。
無機質な体と鋭利な牙、そして、知性の無い瞳。
その醜悪な容貌に生徒達が悲鳴を上げる。
それは一体ではなかった。
無数の郡体がゆったりとゆっくりと確かに校舎へと向かって歩いてくる。
それを見た瞬間、士郎は反射的に教室を飛び出していた。
「罠だったんだ!カズキたちをおびき寄せて……
あいつらの狙いは学校!?
何でだ。この学校に何故、襲撃をかけてきた!?」
理由が分からない。
混乱する頭で士郎は階段を駆け下りていく。
そして、一階の下駄箱。
靴も変えずにそのまま校庭へと飛び出そうとする。
何が出来るかは分からないがこのまま近づけさせるわけにはいかない。
アレは人を喰う化け物だ。
一体でも取り付かれれば最後。
死傷者が出る。
同じ学校の仲間が食料として食べられてしまう。
言い様も無い不快感が前進を駆け巡る。
それだけは止めなければばならない。
何をどうしようとも。
自分の秘密がばれてしまったとしても。
そんな士郎の腕を誰かが掴む。
「待ちなさい!」
その手は強引に士郎の体を引っ張ると地面へと転がした。
「いてて……何をするんだ!?」
士郎が立ち上がり、掴んだ手の持ち主に怒鳴りかかる。
目の前にはツインテールの美少女が立っていた。
鋭い目つきで士郎を睨みつける。
「何をするはこっちの台詞よ。衛宮君、貴方まさかあの化け物の群れの中に突っ込むつもりなの!?」
その剣幕に士郎は推されてしどろもどろになる。
まさか、自分の目の前に学園のアイドルであろう遠坂凛が現れるとは思っていなかった。
「で、でも……あんなのを近づかせる訳には……」
「それで出て行って貴方に勝算はあるの?」
「それは……無いけど!だけど、黙ってみているわけには」
「止めておきなさい。死ににいくだけよ」
凛は士郎の胸倉を掴み視線を真っ直ぐに合わせて告げる。
有無を言わさぬ迫力。
それに士郎は黙ってしまった。
「くそっ!まんまと俺たちは踊らされたって訳かよ!」
シンはフォースインパルスで冬木の上空を駆ける。
LXEのアジト。
そこで待ち受けていたのは一体のホムンクルスだった。
ムーンフェイス。
その名のとおり月の顔を持つ謎のホムンクルス。
彼以外にLXEには誰もいない。
ドクトルバタフライも裏切りの戦士もライダーシステムも
全ては運び出された後だった。
その落ち度にシンは怒りがこみ上げてくる。
何故、この事態を予測できなかったのか。
早坂姉弟からLXEのアジトの場所が特定できるのは分かりきっていたことだ。
相手が早く動こうにも裏切りの戦士復活までまだ、数日の猶予があるという情報もあった。
だが、それも早坂姉弟からの情報だ。
彼らが騙されていた、あるいはそれ以外の何かで復活の期間を短縮できたのだとしたら……
戦力を一点に集中させてしまった時点でほぼ、敗北は決定している。
だが、だからと言って腑抜ける訳には行かない。
最小限の被害で抑える為に出来ることをしなければならない。
だから、彼らはムーンフェイスの相手をブラボー一人に任せて、他のメンバー全てでバタフライの元へと急ぐ。
復活の儀式のために生贄にされようとしている穂群原学園の生徒達を救う為に。
だが、そんな彼らの行く手を遮るように濃霧が展開していた。
「くそ……なんて範囲だ」
上空からその濃霧を見下ろしながらシンが呟く。
冬木の町はほぼ完全に霧に飲み込まれている。
視界は最悪だろう。
だが、それを気にしている場合ではない。
「穂群原学園上空だ。一気に降下するぞ」
同行するアスランが先に降下を開始する。
「了解!」
シンもそれに続いて降下を開始する。
シンとアスランが降下したポイントは学園の校庭ではなかった。
都市の道路の上、学園からはかなり離れている。
「そんな!?」
シンは周囲を見渡す。
警戒態勢をしいていた警察が驚きこちらを見上げていた。
「アスランさん!どうなってるんだ!?」
シンがアスランに通信を送る。
だが、返答は返ってこない。
そもそも、アスランの姿すら周囲に居ない。
一緒に降りてきたはずなのに霧に紛れた瞬間に見失っていた。
「通信妨害!?まさか、この霧……」
目標ポイントから降下しても降下位置がずれ、モビルスーツ同士の通信も聞かない。
間違いなくこの霧はただの霧じゃなかった。
「最新兵器……いや、武装錬金か。くそっ!センサー類が完全にいかれてる。
これじゃどっちに穂群原学園があるのか分からないじゃないか!」
シンが叫ぶ。
位置情報も分からない上に、真っ直ぐの降下すら分からずにずらされていた。
視覚も頼りにならないと考えて良いだろう。
相手がこちらを誘い入れるとも思えない。
完全に手詰まりと言ってもいい状況だ。
ここで時間だけが過ぎれば学園に犠牲者が出てしまう。
「……何か、何か方法は無いのか?」
シンは考えるが何も浮かばない。
武装錬金を破る方法。
現代科学以上の力。
それは武装錬金かもしくはそれを超える技術。
「なのはの魔法は……」
ミッドチルダという異世界の魔法ならこれを打ち破れるかもしれない。
だが、最高速度の都合からなのはは置いてアスランと二人で先行した。
この状況では合流も絶望的。
他に何かこの事態を変える案など思い浮かびもしない。
「俺たちは無力なのか……」
諦めそうになったとき、
シンの耳元で何か声が聞こえた。
「……呼んでる?こっちから?」
シンは声が聞こえた方に向かってインパルスを進める。
謎の声に導かれシンがたどり着いた先は穂群原学園の校庭だった。
「着いた……でも、何で?」
疑問が頭に浮かぶがそれも直ぐに消し飛ぶ。
何せ、大量の化け物が校舎に向かって進軍している最中だったからだ。
「止めろー!!」
シンは即座にビームサーベルを抜くとその化け物の群れへと突進した。
そして、一体をビームサーベルで斬りつける。
奇襲の一撃。
だが、それで化け物は沈まない。
「なっ!?」
化け物は振り向くとインパルスに対して拳を振る。
シンはそれを回避すると校舎側へと移動する。
「ホムンクルス……それもただの動物型じゃない」
シンが相手を見て呟く。
「そのとおりだ。彼らはホムンクルス調整体。
核鉄を持たない人間型ホムンクルスを錬金の戦士と対等に戦わせる為に作り上げた私の自信作だ」
シンの呟きに上空に浮かぶ白いマントとパピヨンに似た出で立ちの老人が答える。
「なっ……お前が、ドクトルバタフライか!?」
その姿で一瞬で分かる。
こいつはパピヨンの血縁者だと。
「ザフトの最新型か……貴様、どうやってこの場所まで来た。
私の武装錬金、アリス・イン・ワンダーランドの力でありとあらゆるセンサーや感覚は狂っていたはず」
バタフライはインパルスを見下ろし呟く。
バタフライはこの場所にシンが到達した事に驚いている。
「声がする方向へ来ただけだ」
「声……そんな事でこの霧を抜けることなど不可能な筈だが……
まぁ、良い。貴様、一人でこのホムンクルスの群れ。
止められると思うな」
何百ものホムンクルスがゆっくりと進行して来る。
シンはそれを見据えながらふと上空に何かがあるのに気づいた。
それは巨大なフラスコ。
学園の屋上に設置され何か動いている様子だった。
気になりはしたがそれよりも先にしなければならないことがある。
目の前のホムンクルスの掃討。
シンはシルエットをソードに切り替え、エクスカリバーを抜く。
「アレはインパルス!シンが来てくれたのか!」
士郎は下駄箱から校庭を見て叫ぶ。
間に合ってくれたことに安堵しながら。
「衛宮君、あのモビルスーツのこと知ってるの?」
凛が士郎に尋ねる。
「えっ!?いや……ま、まぁ。前に助けて貰った事があって。
ほら、最近、宿舎に化け物が現れたりしてたろ。
俺も一度、襲われた事があってその時にさ」
自分の家に住んでいるという事をあまり触れ回る訳にはいかない。
下手に騒ぎになると色々と活動し辛いからだ。
「へぇ」
凛はそんなしどろもどろな弁解に冷ややかな視線を向ける。
とは言え、士郎の言い訳は嘘ではない。
知り合ったきっかけは確かにホムンクルスに襲われたところを助けてもらったことなのだから。
「これ以上、先に行かせるか!」
エクスカリバーを振り回しホムンクルス調整体を切り裂く。
ビームサーベルでは完全な切断は出来なかったがエクスカリバーの威力なら一撃で真っ二つだ。
巨大な双刃を振り回し周囲の敵をかたっぱしから撃破する。
だが、それでカバーできるのは自分の周囲のみ。
範囲外から進行する群れを止めることは出来ない。
一部が校舎へと迫る。
その反対側も。
シンはどちらかに急ごうとするがそれでは反対側が疎かになる。
絶対に間に合わない。
「くそっ!!」
もっと速く動かないのか。
それともシルエットを変更するか
シンが戸惑っていると一部の突出したホムンクルス調整体が空から降り注ぐビームに焼き払われる。
閃光が地面に突き刺さり、校庭の一部を融解させた。
「シン、遅くなった!」
上空からセイバーガンダムが降下してくる。
アスランは地面に降り立つとビームサーベルを抜き、周囲の調整体に襲い掛かった。
「アスランさん!」
シンは増援に感謝しつつ、反対側へと急ぐ。
これで二人。
だが、それでもまだ進行を止めることは出来ない。
群がる調整体の進行速度を少し遅くする程度だ。
数が足り無い。
絶対的に根本的に数が違いすぎる。
戦略上、攻めるよりも護るほうが難しいといわれている所以をシンは初めて痛感する。
護るべきは無数の命。
その為の剣が圧倒的に不足している。
「善戦しているが無意味だ。お前達にとめることは出来ない。
学園の人間は一人残らず王の復活。その生贄になるのだ」
バタフライが数に推されるインパルスとセイバーを見下ろしながら笑みを浮かべる。
「そんな事はさせない!」
山吹色の閃光が霧を切り裂き、校舎へと突入する。
数体のホムンクルス調整体を貫きながら閃光は校庭の中心に降り立った。
「これ以上、貴方達の好き勝手にはさせない!」
桜色の光が降り注ぎ、ホムンクルス調整体を貫く。
「ホムンクルスは全て殺す!」
四つの刃が閃光の如く振るわれる。
その一閃、一閃が調整体をバラバラに切り裂いていった。
「カズキ、なのは、斗貴子さん!」
シンは皆がたどり着いてくれたことに胸が熱くなる。
絶望的な状況は一瞬で取り除かれた。
「俺たちも居るぞ!」
ブレイドとギャレンが校門付近に点在する調整体を殴り飛ばす。
二人の仮面ライダー。
その圧倒的な力に成す術も無く調整体は吹き飛ばされた。
「ぬぅぅ……錬金の戦士に仮面ライダーだと……
バカな、何故、私の武装錬金を越えてこれた。
奴らの武装錬金に私の特性を破れるものは存在しなかったはず!」
バタフライは予想外の自体に憤りを感じる。
作戦は全て上手くいっていたのだ。
アジトを陽動に使い、ムーンフェイスに足止めをさせ、更に自らの武装錬金による妨害。
これを抜けて奴らがこの学園にたどり着くことは不可能。
そう確信していた。
だが、蓋を開けてみれば戦士長一人居ないものの。
全ての敵がこの学園に集結している。
何百もの調整体もどこまで足止めとして機能するか……
「後もう少し……王の復活は目前なのだ。王さえ復活すれば……」
バタフライは焦る。
このままでは王の復活までに時間が足りない。
「ならば、時間稼ぎぐらいはしてやろう」
屋上のフラスコの下で状況を見守っていた伊坂が校庭を見下ろす。
「伊坂か」
「LXEの本懐だと、偉業だと、俺たちの手を借りないからこんな事態になる」
冷ややかな視線をバタフライに送る伊坂。
その言葉にバタフライは歯軋りをする。
「貴様こそ手ごまのアンデッドは殆ど封印され、最強のアンデッドにも逃げられたでは無いか」
「ふん、そもそもあんなものは俺の手を煩わせるのを省く為に使っていたに過ぎない」
伊坂は話しながら屋上から飛び降りる。
その途中で姿をアンデッドに変化させ、地面に着地した。
「こんな奴らは俺一人で十分だ」
手始めにピーコックアンデッドはその羽根を近くに居たシンとアスランに向かい放つ。
「なっ!」
シンは突然の奇襲に羽根の直撃を受けて弾き飛ばされる。
「伊坂か!?」
アスランはそれを回避するとピーコックアンデッドに向かう。
「人が俺と戦えるなどと思い上がるな!」
セイバーのビームサーベルでピーコックアンデッドは剣で受け止める。
そして、空いた手でセイバーを殴りつけ吹き飛ばす。
咄嗟に体を逆方向へ移動させダメージを軽減させるがその一撃でセイバーのコンディションは一気に悪化する。
「くっ、やはりモビルスーツの装甲じゃアンデッドの力は受け止めきれないのか」
報告で聞いていたその力を目の当たりにしアスランは驚愕する。
ただの拳。
その一撃が小型のミサイルよりも遥かに強力。
機銃の掃射も防ぎきるフェイズシフト装甲のエネルギーを一気に奪っていく。
倒れるアスラン。
そこにピーコックアンデッドがゆっくりと近づいていく。
だが、それを阻むように紅のドレスに身を包んだ人形が一人立つ。
「伊坂……雛苺を返してもらうのだわ!」
「真紅か。ならば、来い雛苺!」
伊坂の声と共に近くの樹の裏側から苺轍が飛び出る。
「させねぇです!」
苺轍を突如、隆起した木の根が邪魔をする。
「えっ?」
突然の邪魔に雛苺は困惑する。
その前に翠星石が降り立った。
「チビ苺!観念しやがれです」
「翠星石!?翠星石も眼を覚ましていたの?」
「そうです。お前に真紅の邪魔はさせねぇです。
真紅!そいつはお前に任せたですよ!」
翠星石が真紅に告げる。
「助かるわ」
真紅は真っ直ぐにピーコックアンデッドを睨みながら告げる。
「まさか、貴様一体で俺に勝つ気か?」
ピーコックアンデッドは鼻で笑う。
ローゼンメイデンとアンデッドでは戦闘力に大きな開きがある。
特殊な力を数多く持つとは言えローゼンメイデンは戦闘用ではない。
戦う為に生み出されたアンデッドと比べるのは酷というもの。
だが、そんな危険な存在を目の前にしても真紅は冷静に佇む。
「まさか、一人では勝てるはずが無い」
真紅の背後から二体の人形が姿を現す。
アリス・マーガトロイドから借り受けた彼女の戦闘用の人形。
「行くわよ!上海、蓬莱!」
上海と蓬莱が一斉に魔力の弾を伊坂に向かい放出する。
「こんな子供だましが!」
伊坂はその弾幕を物ともせずに真紅へと向かう。
そんな伊坂に向かい真紅は薔薇の花弁を放った。
無数の花びらが伊坂の視界を遮る。
「通用すると思ったのか!?」
伊坂はその薔薇を剣で吹き飛ばした。
だが、それと同時に凄まじい衝撃が彼の側面を襲う。
「これはただの眼くらまし。十分に通用したようね」
真紅が伊坂を見据えながら告げる。
「な、なんだと……」
ピーコックアンデッドのわき腹に巨大な金属の塊が突き刺さっている。
山吹色の閃光を発しながら。
「サンライトクラッシャー!!」
一度、止まった勢いを再度加速させ、カズキはピーコックアンデッドの体ごと突き進む。
そして、校舎の壁に叩きつけた。
校舎の壁を突き破り、そのまま廊下へと流れ込む。
その勢いにピーコックアンデッドの肉体にサンライトハートは深く抉りこんだ。
「やっぱり、俺のサンライトハートならお前にもダメージを与えられる!」
かつての対峙で伊坂はサンライトハートを腕で受け止めた。
それは自分の肉体で受けることはダメージに繋がるから。
「うおおおお!!」
ピーコックアンデッドはサンライトハートを引き抜くとそのままカズキごと投げ飛ばす。
完全な油断が招いたダメージだ。
しかもそれは仮面ライダーからではなく人間から受けたものでは伊坂のプライドに付けられた傷は大きい。
「よくもやってくれたな……だが、二度目は無い」
伊坂はカズキと真紅に向けて羽根を飛ばす。
正確無比なその射撃。
カズキはサンライトハートで防ぐが真紅はそれをかわしきれない。
「あの一撃で倒しきれないなんて……」
真紅は羽根をかわしつつピーコックアンデッドを見る。
確かにダメージは大きいがそれで動けなくなるほどではない。
封印するにはまだ、遠い。
「だったら、倒れるまで何度でもやるだけだ!」
「そうね」
真紅はローズテイルを伊坂向けて放つ。
「その手はもう、食わん」
伊坂は炎でローズテイルを焼き払う。
「エネルギー全開……」
飾り布のエネルギーを解放するカズキ。
だが、その無防備な姿に向かい羽根を射出する。
「蓬莱!」
それを防ぐ為に真紅は蓬莱人形に防御に向かわせる。
展開される結界。
だが、それを容易く貫き羽根は蓬莱人形を切り裂いた。
「サンライトクラッシャー!」
だが、それによりカズキはダメージを負わずに突撃する。
「遅い!」
しかし、その突撃を伊坂は手にした剣で迎撃する。
振り下ろされた一撃はサンライトハートに叩きつけられ、サンライトハートは地面に埋もれる。
カズキは急いで引き抜こうとするがそれよりも先に伊坂がカズキの体を蹴り飛ばした。
吹き飛ばされるカズキ。
その体が校庭に転がる。
「カズキ!」
真紅は追撃しようとしている伊坂に上海を向かわせる。
だが、事も無げに伊坂は上海を切り裂く。
「人形遊びは終わりか?」
動きを止めることすら敵わない。
真紅は蓬莱と上海を殺されたことに対する怒りを感じながら伊坂へ向かう。
「よくも!」
放たれるローズテイルはまたしても炎に焼き払われる。
足止めにもならない。
「ディバインバスター!!」
そこに桜色の閃光が放たれ伊坂を襲う。
「ぬうう!!」
伊坂はその一撃に足を止めた。
「なのは!?」
「大丈夫、真紅」
なのはが真紅の隣に降り立つ。
「助かったのだわ」
「うん、ピンチだから来たけど……」
なのははピーコックアンデッドを見る。
ダメージは負っているが戦闘不能には程遠い。
「剣崎と橘は?」
「ダメ、数が多すぎてどこに居るのかも……」
「私達だけで倒さなくてはならないのね」
真紅は不適に佇む伊坂を見る。
真紅となのはではダメージを与えられない。
唯一、ダメージを与えられるカズキも攻撃を防がれてしまっては……
「終わりだ。人間にしては頑張った方だが。所詮は人間。アンデッドには勝てない!」
ピーコックアンデッドが二人に襲い掛かる。
教室では校庭で行われている戦いを生徒達が見守っていた。
「モビルスーツって事は軍が助けに来てくれのか?」
「それじゃ、あの生身の奴らは何なんだ?」
「あれって噂の仮面ライダーだよね」
「あの空を飛んでる女の子は誰だろ?」
思い思いに学校を護る為に戦ってくれている者たちについて話し合う。
「まるで自分達が死とは関係ないような口ぶりね」
その様子を教室の外から眺めながら凛が冷ややかな視線を送る。
生徒達はまるで映画でも見ているかのように窓から外を眺めていることに対する意見だった。
自分達が死ぬことなんて考えもしていない。
「そうかも知れないけど。そんな言い方はないだろ」
隣の士郎が突き放した物言いに文句を言う。
「分かっていないのよ。彼らは外で戦っているのも人間だって事を。
一歩間違えれば死んでしまう。そんな脆弱な存在だって事を」
ヒーローは死なないなどという幻想を抱いているのかも知れない。
マンガやアニメのようなヒーローの存在が現実感を曖昧にさせているのだ。
だが、そんな彼らだって生きているから血を流すし、涙も流す。
そして、死ぬ。
そんな中、睦月は地面に倒れるカズキを見下ろしながら歯を食いしばっていた。
飾り布で顔を隠しているがあの巨大な槍には見覚えがある。
あの時、アンデッドから自分を助けてくれた。
内緒だと言われて皆には話していない。
しかし、知っている。
命がけでこの学校を生徒を護ろうとしているのは自分と同じ学生だということを。
窓の外で異形と戦う戦士は皆、生きた人間であることを。
そして、今まさにそれが倒れて死に絶えようとしている。
自分には何も出来ない。
することなんて出来ない。
そんな無力感。
だけど、何もしないなんて嫌だった。
睦月は窓を開け放つ。
そして、身を乗り出した。
「ガンバレ!立ち上がれ!化け物が近づいてるぞ!!」
倒れているカズキに向かって精一杯の声で叫ぶ。
「そうだ!お前はその程度で倒れるような奴じゃないだろ!」
その言葉に岡倉が続く。
その声に影響されて続々と生徒達が声援を送り始めた。
突然の事態で戸惑っていた彼らの気持ちが一人の声で連鎖的に立ち上がっていく。
頑張ってここを護ろうとしてくれている勇姿。
それを声だけでも後押ししたいという気持ち。
「確かに死ぬなんて考えて無いのかもしれない。
でも、それで良いんだよ。遠坂。
あそこで戦ってくれている奴らはさ、皆。
日常を生きる人々に死ぬなんて恐怖を味あわせたくない。
皆に安心して暮らして欲しい。
そう思ってるから戦ってるんだ。
だから、俺たちがすることは怖がることでも現実を認めることでもない。
幻想に酔ってでも頑張ってくれているあいつらに対して感謝することなんだ」
士郎は凛にそう告げると声援の輪の中に混じっていく。
声が聞こえる。
皆の声が
混濁する意識の中でカズキはそれだけを頼りに立ち上がる。
「カズキさん!?」
なのはがカズキの前に立ち必死にピーコックアンデッドを抑える。
その体は無数に傷つき、バリアジャケットもほころびボロボロになっていた。
小さな体で倒れるカズキを護る為に戦ってくれていた。
「なのは……ありがとう」
カズキは立ち上がりピーコックアンデッドに向かう。
「そのまま寝ていれば楽だったろうに」
「かも知れない……けど!」
カズキはサンライトハートの石突を使いピーコックアンデッドの剣をさばく。
「なにっ!?」
「苦しくたって俺は皆を見捨てて死ぬつもりなんて無い!」
飾り布のエネルギーを解放し、そのままピーコックアンデッドにたたきつける。
そのエネルギーはアンデッドの皮膚を焼き、その痛みに伊坂はのけぞる。
「何だこの力は!?」
確かにカズキのサンライトハートのエネルギーは強力だ。
だが、それ単独でアンデッドに傷を負わせるほどの密度では無かったはず。
眼を覚ましたカズキの力は先ほどの比では無かった。
「カズキさん……」
その力になのはも違和感を覚える。
「なのは!俺に向かってディバインバスターを撃て!」
カズキが伊坂に追い討ちをかけながら叫ぶ。
「えぇ!?」
突然の言葉になのはは困惑する。
「俺が合図したら俺の背中に向かって頼む!」
そして、カズキは伊坂の腹にサンライトハートを突き立てる。
だが、やはりアンデッドの強力な肉体を突き破るには至らない。
「何をしようとしてるのか知らないが……お前に俺を倒しきることは不可能だ!」
伊坂の拳がカズキに襲い掛かる。
カズキはそれをサンライトハートで受け止めるが衝撃にサンライトハートが軋む。
「もう持たない……次が最後!」
カズキは距離を取り、飾り布をサンライトハートに巻きつける。
飾り布のエネルギーを攻撃と推進力のどちらにも転用するカズキ最大の必殺技。
「エネルギー全開!全開!!全開!!!」
自らの闘志を燃やし、全ての生体エネルギーを引き出す。
山吹色の輝きがカズキの全身を包み込んだ。
触れるだけで全てを破壊しうる巨大な弾丸。
「マキシマム!!!今だ、なのは!!」
カズキは叫びながら伊坂に向かって突進する。
「無茶すぎます……けど、今は信じます!
全力全開!!ディバインバスター!!」
なのはは突進するカズキの背中に向けて最大級のディバインバスターを放つ。
「なっ!?」
その光景を見て伊坂は迎撃しようとした腕を止めて回避に移ろうとする。
だが、遅い。
カズキの推進力としているエネルギーとディバインバスターが激突する。
ぶつかり合う二つの魔力。
それは反発しあいなのはの体が反動から後ろへと押されていく。
そして、カズキはその反動を推力にし加速した。
太陽の閃光はそのままピーコックアンデッドの腹に突き刺さる。
「貫け!俺の武装錬金!!」
太陽の如きエネルギーが伊坂の体を突き破った。
上半身と下半身で分断されるピーコックアンデッドの体。
それは地面に落ちる。
完全な戦闘不能。
カズキの勝利……それは人間がアンデッドに負けないという証明でもあった。
「バカな……」
ドクトルバタフライはその事態に驚嘆する。
そりは合わないとは言えピーコックアンデッドの実力は認めていた。
あれを撃破しうる存在はLXEには存在しない。
だが、あの錬金の戦士はそれをやり遂げた。
ただの素人アガリの新人戦士。
そう思って侮っていたがその認識は大きな間違いだ。
仲間からの助力を得ながらとはいえカズキが放った力は武装錬金の常識を超越している。
「強すぎる……」
斗貴子はカズキの発した力を見て呟く。
新人の戦士の武装錬金……
いや、ベテランの戦士ですらアレほどの力を発揮できるはずが無い。
それほどまでにカズキの力は異常だった。
「まるで皆から力を貰っているようだ」
そうとしか言いようが無い。
人間一人の力の限界を遥かに超越しているとしか思えなかった。
「常に人間を見下し、自分を格上だと信じ続けた男の最後には相応しいな」
橘は伊坂が倒れたと知り、その場に駆け寄りカードを投げつけた。
そして、封印されるピーコックアンデッド。
その絵柄はダイヤのジャック。
「あの強さでジャックなの……」
その絵柄を見てなのはが呟く。
裏をかかれいいようにやられ、いざ、戦闘となっても三人がかりでようやく。
それほどまでの力を見せ付けたピーコックアンデッド。
しかし、それでもカテゴリージャック。
つまり、更に上にクイーンとキングが存在するということである。
「ともあれ、後は奴だな」
橘は上空で滞空するバタフライを見上げる。
バタフライもその視線に気づき橘を見下ろした。
「貴様が私の洗脳を打ち破るとはな」
バタフライはマントを翻し不適に笑う。
「その為に命を捨てた者が居る。
失ったものは大きい」
橘は自分のために命を投げ出すことになってしまった蒼星石の顔を思い出す。
殆ど言葉を交わしたことも無い。
そんな相手を救う為に命をかけてくれた彼女の為に
「ドクトルバタフライ!貴様だけは許さん!!」
橘はバタフライに向かいギャレンラウザーを放つ。
しかし、その弾丸はバタフライを大きくはずれあさっての方向へと飛んで行く。
「何処に向かって撃っている?」
バタフライは橘を見下ろし笑う。
その様子を見て橘は怪訝な表情を浮かべる。
「どういうことだ?狙い通りに撃ったはず」
狙いは完璧だったと橘には自信があった。
だが、実際の狙いは大はずれ。
「気づいていないようだな。
既にお前はチャフの武装錬金アリス・イン・ワンダーランドの手中。
その特性はあらゆる知覚の麻痺・撹乱。
既に貴様の感覚は狂っているのだ」
「なるほどな……確かに厄介だが」
橘はギャレンラウザーのカードスロットを展開するとダイヤの8を取り出す。
バットアンデッドの封印されたラウズカード。
それをギャレンラウザーのスリットに差込、その力を覚醒させる。
―――スコープ―――
その力はギャレンラウザーに吸収される。
「何を……?」
「こういうことだ」
橘がギャレンラウザーを放つ。
「無駄な……」
嘲笑うバタフライ。
だが、そんなバタフライの体をギャレンラウザーの弾丸が貫通する。
「なにっ!?」
「ダイヤの8。バット・スコープは自動追尾能力を付与する。
貴様が俺の知覚を撹乱しようともアンデッドの力まで撹乱する事は出来なかったようだな」
続けざまにギャレンはラウザーを発射する。
バタフライはそれを回避しようとするが自動追尾を回避しきれずに次第に体を破損して行く。
「おのれ!脆弱な精神を持つ人間風情が!」
バタフライはギャレンの目の前にチャフを集結させる。
「なに!?」
それと同時に強烈な光が放たれた。
「うわあああああああ!!」
橘は咄嗟に眼をかばうが間に合わずに光の直撃を受ける。
それと同時に橘の動きが止まった。
「ど、どうなったの?」
動きを止めた橘を見てなのはが呟く。
「ふふふ、今頃、奴は悪夢を見ている」
バタフライが地上へと降りてくる。
それになのはが身構えた。
「貴様が異世界の魔法を扱う子供か」
バタフライはゆっくりとなのはへと近づいていく。
「ドクトルバタフライ!次は私が相手!」
なのははレイジングハートを構える。
「では、拝見させて貰おうか。異世界の魔法……それがどれほどのものか?」
余裕綽綽という様子でバタフライは足を止める。
それに対してはなのははディバインシューターを放った。
無数の魔力の弾丸がバタフライに向かっていく。
だが、そのどれもが距離を見誤り、地面に激突した。
「狙ったとおりの場所に行かない……」
橘と同じように知覚が狂わされている。
これではどう狙ってもあたりようが無かった。
「だったら……」
なのははレイジングハートのモードを砲撃モードへとシフトさせる。
そして、それを大まかな範囲でバタフライに向けた。
「全力全開!ディバイン……バスター!!」
そして、残った全ての魔力を費やして一気に全てを放出する。
通常のディバインバスターとは違い、その範囲は膨大。
バタフライが居る空間の殆どを一気に焼き払う。
「うおわっ!?」
シンは突然の砲撃を飛翔して回避する。
「な、なんだ!?」
同じようにいきなりの攻撃に驚いて転がって避けた剣崎が叫んだ。
「なのはの魔法みたいだな……」
丁度、空を飛んでいた翔が砲撃の来た方向を見て呟く。
その先にはなのはの姿があった。
「こ、これなら……」
伊坂との戦闘で既に限界に達していた体に更に力を引き出したために既になのはの意識は半分、消えかけていた。
半分になった視界で前方を見る。
そこにバタフライの姿は無い。
「やった……」
倒せたという安堵の感情になのはは意識を失いそうになる。
「中々に強力な力だ。直撃を受けていればいかなホムンクルスの体とは言え、消滅は免れなかっただろうな」
耳元で声が聞こえる。
それはなのはの意識を休息に緊張へと向かわせた。
咄嗟にレイジングハートを真横に振るう。
だが、それはいとも簡単に受け止められてしまった。
「異世界の魔法。こんな子供が杖をもっただけで扱えるとは侮りがたいものがあるな」
レイジングハートを握ったバタフライはその手の力を強める。
その力にレイジングハートの本体がきしみ始めた。
「そんな……間違いなく範囲内に居たはず……」
なのはの視界に移るバタフライはギャレンに付けられた傷以外は存在しない。
つまり、ディバインバスターを喰らっていないという事である。
「何、単純な事実だ。
君が認識していた私はいわば幻。
虚像を相手に全力を出していたに過ぎない。
完全に無駄だったという訳だ」
その言葉になのはは眼を見開く。
なのはは常にバタフライの動きを見ていた。
ギャレンに攻撃を受けているときから。
それなのにいつ、自分は幻を追っていたというのか。
「嘘……そんな何時の間に?」
「橘を攻撃した瞬間、あの光の中でお前も幻覚を見続けたいのだ。
その力の確認の為に動きを止めない程度にな。
だが、確認はできた。
貴様はもう用済みだ。
このまま王の復活の生贄になってもらう」
そう言うとバタフライは手に更に力を込める。
そのままレイジングハートを破壊し、なのはを無力化しようと考えているようだ。
なのははさせまいとレイジングハートを引き抜こうとするがなのはの力ではホムンクルスから逃れることは出来ない。
「なのは!!」
カズキが倒れそうな体で走り出す。
だが、そこからでは間に合いそうにも無い。
その危機の最中、なのはの周辺が突然、爆発した。
爆風がなのはとバタフライを包み、煙が周囲を囲む。
「なんだ!?」
突然の事態にバタフライが叫ぶ。
その瞬間、上空より光が走り、バタフライの腕を貫いた。
「ぐあああああ!!」
千切れ飛ぶバタフライの腕。
それによりなのははバタフライより解放される。
「な、なに……?」
事態が把握できずになのはは混乱する。
そんななのはの体をカズキが支えた。
「大丈夫?」
「は、はい……カズキさんが助けてくれたんですか?」
「いや、俺じゃない……」
カズキはそう言うと上空を見上げる。
学園の上空
そこに更なる来訪者が現れた。
「折角のパーティだというのに遅れてしまったようだな。
だが、メインには間に合ったようだ」
黒き蝶の羽根を広げパピヨンがうずくまるバタフライを見下ろす。
「本当にここにジュエルシードがあるの?」
その横でバルディッシュを構えるフェイトがパピヨンに尋ねる。
「あぁ、LXEが回収していたジュエルシード。
それは今、王の復活の為の動力として利用されている」
パピヨンが学園の上空に設置されているフラスコを指し示す。
「あそこに……」
フェイトは視線をそちらに移し、口を紡ぐ。
「フェイトちゃん!」
そんなフェイトを呼び止める声がある。
その声にフェイトは動きを止めた。
「フェイトちゃんが私を助けてくれたの?」
なのはは上空のフェイトに話しかける。
「そこの男はジュエルシードを手に入れるのに邪魔になると判断しただけ。
貴方を助けるつもりでは……」
「ほぉ、ここに来るや否やあの砲塔女が捕まってるのを見て大慌てて助けに行こうとしていたのは何処のどいつだったかな?」
「そ、それは!」
「その為に俺にまで協力を求めるとはな。
随分とあの砲塔女に入れ込んでるみたいだな」
パピヨンの言葉にフェイトは顔を真赤にするが否定はしない。
「お前達……何時の間にそんなに仲良くなったんだ?」
カズキが二人の意外な関係に呆れ顔で尋ねる。
「多少の縁という奴だ。以前の事で味を占めたこいつがジュエルシードを求めてやってきたからな。
親切心で教えてやったのさ。
王の復活にジュエルシードを利用していることを」
「王の復活にジュエルシードを?」
「あぁ、予想外にお前達が頑張ったことで時間が足りなくなった。
それを間に合わせる為の苦肉の策という所だ。
そうだろ?ドクトルバタフライ?」
パピヨンが地上のバタフライを見下ろす。
「貴様ぁ……折角、仲間に入れてやったにも関わらず裏切るだと!?」
バタフライが怒りににごる眼でパピヨンを睨みつける。
その形相をパピヨンは鼻で笑った。
「裏切る?生憎だが俺はお前の保護下に入ったつもりは無い!
再生させて貰った事には感謝するが。それはそれだ。
俺は人に見下されるのが嫌いなんだ」
パピヨンが満面の笑みでバタフライを見下ろす。
「許さん。小娘たち共々、皆殺しにしてくれる!!」
バタフライが吼えるがパピヨンはまたも鼻で笑う。
「生憎だが遠慮しよう。
確かにお前を殺したいほど憎いが……
今回ばかりは譲ってやりたい奴がいるんでね」
「譲る?お前ではなくそこの横の小娘が相手するとでも言うのか?」
「ノンノン、お前に恨みを抱えている奴が多いだろうが。
今生きている中でとりわけその恨みが強い奴さ。
頭の中を良い様に書き換え、手下として多くの仕事をさせてきた」
パピヨンの言葉にバタフライは視線を移す。
倒したはず。
精神を破壊し、死に至らしめたはずの男の方向へと。
「な……バカな!?貴様の精神は完全に破壊したはず……」
狼狽するバタフライ。
その視線の先には仮面ライダーギャレンがラウザーを構えていた。
「何度でも立ち上がるさ……そうでなくては彼女に顔向けできない!」
ギャレンラウザーが的確にバタフライの体を貫く。
「ぐぅ!脆弱な人の精神で私の武装錬金を超えたというのか!?
ありえん!ありえん!!」
バタフライは再び、ギャレンの前にチャフを集結させる。
今度こそ完全な精神の破壊。
その為に
だが、
―――ファイア―――
それよりも先にギャレンの放つ炎がチャフを焼き払う。
「もうその手は食わん。バタフライ、貴様の悪行もここまでだ!!」
―――ドロップ―――
ラウズしながらギャレンはバタフライへと駆け寄る。
―――ジェミニ―――
覚醒する三つのアンデッドの力。
それはギャレンの体に宿る。
飛び上がるギャレン。
その体は二つに分かれてバタフライ目掛けて襲い掛かる。
【バーニングディバイド】
「うおおおおおおお!!」
二人のギャレンの一撃がバタフライの体に直撃する。
アンデッドの力と炎が二重になってバタフライの体を叩きつける。
その一撃はその体を一気に破壊し、爆発させた。
「これでLXEは壊滅。残るはホムンクルスの王だけか」
その最後を見届けパピヨンが呟く。
自分の曽祖父の死に対してパピヨンは驚くほどに無関心だった。
戦いが集結へと向かう戦場。
その中、突如、目覚まし時計の音が学園中に鳴り響いた。
その名の如く目覚めを告げる音。
それはホムンクルスの王の目覚め。
フラスコが解放されていく。
「間に合わなかったのか……」
カズキがそれを見上げながらに呟く。
百体以上のホムンクルスの群れ、ピーコックアンデッド、ドクトルバタフライ。
様々な妨害により王の復活の阻止へ赴く事ができなかった。
「ははは……我々の勝ちだな」
髭だけとなったバタフライが言葉を発する。
死に行くものの最後の言葉。
「おはよう、ヴィクター」
「おはよう、バタフライ。
死は錬金術に関わる者、全ての最後だ」
フラスコの中から現れたるは蛍火の髪と赤銅色の皮膚を持った巨漢。
彼は消え行くバタフライに最後の言葉を告げる。
全てを以って彼の復活へと捧げたバタフライに対して余りにも冷静な言葉。
「あれが……王?」
その姿を見てシンが呟く。
確かに髪や皮膚の色は可笑しいがその他は普通の人間と変わらなかった。
だが、それが只者ではないと空気で感じる。
「なんだ……力が……」
シンは自分の肉体から力が抜け出ていくのを感じる。
それはシンだけではなかった。
なのはもカズキも突然の脱力に意識がくらむ。
「これは……大変です。僕達全員の魔力が吸い取られています!」
ユーノがその事態に気づき叫ぶ。
「魔力だって?だけど、俺には魔力なんて無いはずだ」
魔法を使えないシンがユーノに尋ねる。
「魔力とは言い換えれば生命力の事です。
誰であろうとも大小の違いはあれど保有自体はしています。
それを魔法へと返還し扱うことが出来る人は余り多くはありませんが。
ですからシンさんも素養はどうあれ魔力自体は保有しているんです」
「魔力が生命力……だったら、このままだと……」
「はい、死に至るでしょう」
ユーノの言葉にシンは青ざめる。
そして、視線を学園の校舎へと向ける。
そこでは先ほどまでこちらを応援していた生徒達の姿は見えなかった。
「これをしてるのはあいつなんだな?」
シンがヴィクターに視線を向けながらユーノに尋ねる。
「はい、魔力の流れはヴィクターに集中しています。
間違いなく彼がこの一帯の生命、全てから魔力を吸収しているのは間違いありません」
「なら、まずはそれを止めさせる!!」
シンはブーストを吹かして一気に跳躍する。
そして、そのまま屋上に佇むヴィクターに向かって突進した。
「武装錬金か?いや、違うな」
ヴィクターは突進してくるインパルスを見て呟く。
彼の時代には存在していなかった兵器に困惑するが冷静に対処する。
「やめろぉ!!」
シンはエクスカリバーを上段に構えて一気に振り下ろす。
だが、その一撃をヴィクターは腕で掴んで受け止めた。
「なっ!?」
レーザーの刃を受けてもヴィクターの体に傷一つつかない。
その事実にシンは驚愕する。
「生憎だが止める事は出来ん。
エネルギードレインは能力ではなく生態。
自らの意思での停止は不可能だ」
落ち着いた様子でヴィクターが告げる。
その言葉が本当だと言うなら。
彼が存在するだけで人々の生命が脅かされるという事になる。
「なら、お前を倒して止めさせる!!」
シンは近距離からCIWSを発射する。
だが、小さな機銃はヴィクターに皮膚に阻まれダメージを与えることは出来ない。
「これは機械か。まさか、100年のうちにコレほどまでに進歩しているとはな。
だが、それも俺の前では無力!」
ヴィクターは掴んでいたエクスカリバーごとインパルスを投げ飛ばす。
インパルスはそのまま吹き飛ばされ屋上と校舎を繋ぐ階段のある建物に激突した。
「シン!」
入れ替わりに剣崎が屋上へと飛び込んでくる。
「止めておけ、貴様らが錬金術に縁が無いものであるならば。
俺には戦う理由は無い」
その姿を見て静止を促すヴィクター。
だが、剣崎はそんな言葉に耳をかさない。
「お前がホムンクルスというだけで十分だ!」
ブレイラウザーをもってヴィクターに斬りかかる。
我武者羅に振るわれる幾多の太刀筋。
それらを完璧に見切ってヴィクターは全て回避する。
「どうやら勘違いしているようだな」
ヴィクターはブレイドの顔面を殴り飛ばす。
その一撃にブレイドは吹き飛ばされ屋上のフェンスに激突した。
「なに!?」
剣崎はブレイラウザーを杖代わりに立ち上がる。
「バタフライは貴様の事をホムンクルスの王と言っていた。
ならば、お前はホムンクルスじゃないのか?」
今まで知りえたヴィクターの情報。
それはLXEがホムンクルスの王だと言い彼を崇めていたこと。
錬金戦団にとっては裏切りの戦士であり、100年前に戦団を裏切って逃走したということ。
故に剣崎はヴィクターの事をホムンクルスだと思っていた。
ホムンクルスたちが王と崇める存在が人間であるはずが無い。
「何ゆえにバタフライが俺を王と呼んでいたかは知らん。
だが、俺はホムンクルスではない。
もっと、呪われた存在だ」
ヴィクターは剣崎に追撃をかけずに言葉を続ける。
「俺にとって錬金術の全てが敵。
ホムンクルスも錬金の戦士も。
錬金術の全てを葬ることが俺の望みだ。
それ以外に危害を加えるつもりは無い」
故にシンと剣崎に対して追撃を加えない。
攻撃を仕掛けられたので払いのけただけであり、殺さなくてはならない敵ではないのだ。
それは逆に二人とも敵と見なされないほどに力量に差があるとも言える。
「だけど、お前は居るだけで人の命を喰うんだろ。
だったら、見逃すわけには行かない!
お前みたいな奴を野放しにすればどれだけ多くの生命が失われると思ってるんだ!」
ブラストシルエットに変更したインパルスがその二つの砲塔をヴィクターに向ける。
そして、トリガーを引き、狙い定めたヴィクターに二条のビームを放つ。
二つのビームはヴィクターを飲み込もうと直進する。
「武装錬金!」
だが、それをヴィクターは胸に手をあて武装錬金を発動させて防いだ。
ケルベロスのビームはヴィクターの武装錬金に直撃する直前で捻じ曲がり、左右へと別れて消えていく。
「ビームを曲げた……それよりも!」
シンは一瞬の最中で見えたヴィクターの武装錬金の動作を思い出す。
彼が武装錬金を放った直前。
そこから見えた光景。
その動作はカズキが武装錬金を発動させる動作に良く似ていた。
そう、ヴィクターもまた、心臓から核鉄を取り出したのである。
黒い核鉄を……。
「シン!剣崎さん!」
その場にカズキと斗貴子、それにギャレンとアスランがやってくる。
カズキの姿を見てシンが驚く。
「カズキ!」
「どうしたんだシン?」
その様子にカズキが疑問符を浮かべる。
「やはり、この時代にも錬金の戦士は居るか」
だが、そんなカズキにヴィクターが言葉を告げる。
「さっきの言葉は聞こえていた。
お前は錬金の戦士に用があるんだったな。
だったら、今度は俺たちが相手だ!」
「あぁ、ホムンクルスでは無いとは言え、貴様の存在は見過ごせない!」
カズキと斗貴子がそれぞれの武装錬金でヴィクターへと立ち向かう。
「錬金の戦士であれば容赦はしない!
その力に頼ったことを後悔しろ!」
ヴィクターは自らの武装錬金フェイタル・アトラクションを構える。
「私が奴の気を引く」
斗貴子がまず最初にヴィクターへと向かう。
バルキリースカートを用いての高速機動。
瞬間的な速度と機動性ならばモビルスーツを上回る。
その速度を持ってヴィクターの隙を突き、攻撃を仕掛けようとするが。
「遅い!」
ヴィクターは一薙ぎでバルキリースカートの刃四つ全てを破壊する。
「斗貴子さん!?」
飛び出そうとしていたカズキは完全にタイミングを逸する。
「あいつの錬度……並の戦士じゃない」
アスランがヴィクターの立ち回りを見て呟く。
「あの速度でも撹乱は不可能か……」
「一人では無理だな。ギャレン、援護を頼む」
「いや、ここは連係して行くぞ!」
ギャレンとセイバーガンダムが同時に飛び出す。
「錬金の戦士以外の命を盗るつもりは無いと言った。
だが、それでも向かってくるというのなら容赦はしない!」
ヴィクターは錬金の戦士以外に対して初めて殺気をさらす。
その異常なプレッシャーに二人は躊躇しそうになるがそれを振り払い攻撃を仕掛けた。
ギャレンラウザーとビームライフル。
二つの銃撃がヴィクターへと襲い掛かる。
だが、ヴィクターへと当たる前にそれらは全て逸らされてしまう。
「バリアか!?なら!」
遠距離攻撃が通用しないと見ると二人は接近戦へと切り替える。
橘とアスランはヴィクターを挟み込み攻撃を仕掛ける。
だが、それを意にも返さずにヴィクターは二人の攻撃をさばいて見せた。
「先ほどの戦士よりもやるようだが。それでもまだまだ甘い!」
ヴィクターはフェイタル・アトラクションでギャレンの頭部を殴りつける。
その衝撃にギャレンは吹き飛ばされ地面を勢い良く転がっていった。
そして、そのダメージに融合係数を維持できずに遂に変身が解除される。
「この!」
アスランはその一撃の隙にビームサーベルでヴィクターを切り裂く。
だが、その一撃はヴィクターの皮膚を少し焼く程度に留まってしまった。
「なっ!?」
その事態に驚愕するアスラン。
その隙にヴィクターの一撃がセイバーガンダムの胴体に炸裂する。
その一撃にセイバーガンダムは吹き飛ばされ、フェイズシフト装甲がダウンする。
「アンデッドの一撃に耐え切れるように調整されたフェイズシフトが一撃で……」
その威力にアスランは驚愕する。
橘とアスラン。
現状でもっとも腕の立つ二人があっさりとヴィクターの前に敗北する。
その事実は絶望であった。
「どうやら、100年の間に戦士達の質も落ちたようだな」
ヴィクターが静かにカズキへと向かっていく。
ピーコックアンデッド戦の影響から満身創痍のカズキ。
だが、それでもその眼は諦めていない。
「もう、止めて。ヴィクター」
だが、その前に一体の人形が躍り出る。
「お前は……」
その姿を眼に留めてヴィクターの足が止まる。
「錬金戦団の大戦士だった貴方が何故、錬金術を憎むの?」
真紅がヴィクターに尋ねる。
「ローゼンの人形か……確か真紅と言ったか」
ヴィクターは一瞬、懐かしそうに顔を緩ませる。
「やっぱり、二人は顔見知りだったのか」
その様子を見てカズキが呟く。
「教えてヴィクター!私達が眠りについた後に何があったというの?
何故、ヴィクトリアは……ホムンクルスになんてなってしまったの?」
その言葉にヴィクターは眼を見開き動きを止める。
「……娘に会ったのか?」
「えぇ、だけど何も教えてはくれなかった」
「そうか……生き永らえていたか」
苦虫を噛み潰したようにヴィクターは顔を俯かせ首を振るう。
「だが、それはもはや関係の無いこと。
真紅よ……貴様も錬金術により生み出された存在だ。
お前もこの場で破壊する」
ヴィクターはフェイタル・アトラクションを振り上げる。
真紅はただ、呆然とその光景を見上げていた。
何処かそれが夢であると感じているように。
だが、現実は既に目の前に迫っている。
「止めろ!」
それをカズキはサンライトハートで受け止める。
「真紅はお前を心配していたんだぞ!
友達だったヴィクトリアがホムンクルスになってしまった事を心配して!
なのに!」
「貴様には関係の無い事!」
ヴィクターが更に力を込めるとカズキの体はその圧力に耐え切れずに曲がっていく。
「うおおおおお!!エネルギー全開!!」
だが、それに対抗してカズキは飾り布のエネルギーを発動させる。
それを推力にしてどうにか拮抗状態から抜け出す。
しかし、その一撃に殆どの力を使い果たしカズキの視界が霞む。
「このままじゃダメだ……」
カズキは尽きようとしている力にこれ以上の戦闘続行を不可能と感じる。
そして、次の一撃に全てをかけることを決意する。
「エネルギー全開!全開!!全開!!!マキシマム!!!!」
カズキは飾り布を穂先に巻きつけて全ての力をそこへと込める。
「止めなさい!カズキ!!」
真紅がその姿を見て静止する。
だが、カズキはそれを無視して突撃した。
「サンライトクラッシャー!!」
最大の力を込めて突進。
だが、それをヴィクターは斧の一振りで迎撃する。
破壊されるサンライトハート。
度重なるダメージが遂にその耐久性を超えて、残骸へと変えて行く。
サンライトハート
その名の如くそれは心臓。
命を失った武藤カズキの命を繋ぐ、錬金術で出来た心臓。
それを失うことは
死を意味する。
「カズキぃぃぃ!!」
倒れ落ちるカズキ。
「死は錬金術に携わる者全ての最後。
安心しろ、貴様の仲間も直ぐにそちらへと送る」
倒れ落ちるカズキに対してヴィクターが静かに告げる。
「ヴィクターァァァァァァッ!!」
そんなヴィクターに対してシンが突撃を仕掛ける。
目の前で友を失った悲しみ。
それを奪い去った者に対する激しい怒りがシンを覚醒させる。
「まだ立ち向かうか!」
シンはビームジャベリンを用いてヴィクターを執拗に攻撃する。
だが、その全てをさばかれてしまう。
しかし、シンもヴィクターの攻撃を全て紙一重で回避してみせる。
「動きが違う……!?」
その人間の常識を無視した動きにヴィクターは困惑する。
ヴィクターの攻撃の全てが分かっているかのようにシンは攻撃を回避する。
「ヴィクター!貴様が真紅も津村さんも殺すというなら!俺がお前を倒す!」
シンに気をとられるヴィクターに対して剣崎が襲い掛かる。
【ライトニングブラスト】
ローカストキックとディアーサンダーの力を込めたブレイド最大の一撃。
それがヴィクターの背中に突き刺さる。
強力な一撃とともに全身に流れる高圧電流。
「ぐおおおおお!!」
その一撃に遂にヴィクターが苦悶の声を上げる。
「利いた!あいつも無敵じゃないんだ」
その結果に剣崎が叫ぶ。
だが、ヴィクターはその一撃で怯みはしたものの倒れはしない。
「侮っていたか……錬金の戦士以外にもこれほどまでに強い戦士がいるとはな。
もはや、手加減はしない」
ヴィクターはそういうとフェイタル・アトラクションを両手で持つ。
そして、中心の連結部分を開放した。
それと同時にインパルスとブレイドの動きが止まる。
「何だ!?体が!!」
「動かない!?」
見えない力で抑え込まれたかのようにインパルスとブレイドは動くことが出来ない。
全力を出しているにも関わらず身動き一つ取ることが出来なかった。
「友の仇か。だが、戦士ならば死は当然。
それに対して取り乱すとは腕に反して随分と未熟だな」
「確かに戦場で人が死ぬのは当然かもしれない……
だけど、仲間が死ぬことに怒れないで何が仲間だよ!」
「人が人を大事にする思い……それは誰にも否定できない、させはしない!」
シンと剣崎は必死に力を込める。
だが、それでも動くことは敵わない。
白い世界
死に行く間際にカズキは声を聞いた。
自分の死を悲しみ怒りに燃える声。
その声に自分がどれだけ大切に思われていたのかを知る。
皆と共に戦う為に力の限りを尽くした少年。
仲間達はそれを認めて受け入れてくれた。
大切な仲間との別れ。
だが、それ以上に目の前で今まさに殺されようとしている仲間を見捨てることが出来なかった。
動かない自分の体を無理に動かそうとする。
動かなければならない。
ここで動かなければ皆が死んでしまう。
大切な仲間が、大切な友人が、大切な場所が……
戦う
それは生命が持つ生きる為の手段
戦う
それは生命が生へしがみ付く為に持つ本能
戦う
それは死を乗り越える生命全てが持つ進化の手段
戦う
生きる事が戦いならば、闘争本能は生の肯定
フラスコに搭載されていたジュエルシードが輝く。
「ジュエルシードが発動した?」
その光景を見てフェイトが呟く。
「……あれが願望を適える為に存在するならば。
誰かの願いを適えるために動き出したか……」
パピヨンが静かに呟く。
その表情は全てを分かっているかのように。
横で動き出そうとするフェイトをパピヨンは止める。
「止めておけ、生きようとする意志。
それは誰にも止められはしない」
「何だ……?」
ヴィクターは背後の気配に振り返る。
そこにはジュエルシードの力を受けて立ち上がるカズキの姿があった。
「戦う!!」
その言葉と共に残骸となっていたサンライトハートが核鉄に戻り、カズキの手に収まる。
そして、核鉄に広がっていた亀裂が剥がれ落ち、その中から漆黒の本体を露出させた。
「黒い核鉄?」
その禍々しき姿にシンは呆然と呟く。
それはヴィクターが手にした核鉄に似ていた。
「俺と戦え!」
そして、カズキの皮膚の色が赤銅色に染まって行く。
髪も蛍火のように淡く輝いた。
そう、それはまるでヴィクターと同じ姿。
「死ぬのは貴様一人だ!ヴィクター!!」
武藤カズキの姿が人間もホムンクルスも超越した存在へと変化する。
「カズキの姿が……」
「あれはヴィクターと同じ……だから、ヴィクトリアはカズキを気に掛けたの?」
カズキがヴィクターと同じように心臓に核鉄を持っていることを知ったから接触を持った。
ヴィクターと同じ化け物になる可能性を持っていたから。
だと、すればカズキはただ存在するだけで死を撒き散らす化け物に……
「うおおおおお!!」
カズキはヴィクターにとび蹴りをかます。
その勢いにヴィクターは吹き飛ばされた。
「なるほど、俺の他にも黒い核鉄を心臓に移植された者が居たか」
飛ばされながらヴィクターが呟く。
そんなヴィクターにカズキが飛び掛り追撃を掛ける。
放たれる拳。
それをヴィクターは掌で受け止める。
そして、それを武装錬金で切り落とした。
「うおおおおお!!」
それに対してカズキも武装錬金を発動させ、胸からサンライトハートを射出してヴィクターの腕を切り裂く。
舞う二つの腕。
カズキはヴィクターの腕を掴み、力を込める。
するとヴィクターの腕は分解されカズキの体に吸収され、カズキの腕へと再構築される。
ヴィクターもカズキの腕を掴むと同じように体へと返還させた。
その戦いにシンも剣崎も絶句する。
人間やホムンクルス。
いや、アンデッドすらも凌駕する化け物の戦い。
常識を逸した攻防に誰も手を出すことが出来ない。
それほどまでに二人の戦いは別次元だった。
ヴィクターは空中に静止するとそれを見上げるカズキを見下ろす。
「なりたての体では飛行することは出来ないようだな」
ヴィクターはそう呟くと空から見える町並みを見渡す。
自分が知っていた世界とは様変わりした世界。
「100年か……世界も随分と変わったようだ。
まずは世界がどのようになったのかを知る必要がある」
「逃げるつもりか!?」
「同じ存在同士の戦いは決着を付ける事は不可能だ。
そうなれば他の人間達に犠牲が出る」
その言葉にカズキは動きを止める。
「コレから先、貴様には過酷な運命が待っているだろう。
再び出会うとき、貴様がどのような答えを出しているか……」
ヴィクターはそういい残すと空の彼方へと飛んで行く。
「待て!!」
それを追いかけようとカズキは走り出す。
だが、その手を掴んで引きとめる者が居た。
「追っちゃダメだカズキ!行ってしまえばお前はもう、後戻りできない」
それは士郎だった。
息も絶え絶えという様子。
だが、カズキの手だけはしっかりと握られている。
「戦う気持ちそれに塗りつぶされればきっと取り返しのつかない事になる。
俺は……お前に剣を向けたくない。そんな運命にしたくない」
士郎は今朝見た夢を思い出す。
その中で見たカズキに今の姿は良く似ていた。
あれが正夢であるかのように士郎には感じられた。
だから、これ以上、カズキを進ませるわけには行かない。
あの夢の通りになってしまえば自分達はお互いに殺しあうことになる。
それだけは避けなければならないから。
「士郎……」
その必死の呼び止めにカズキは力を緩める。
それと同時にその姿が何時もの人間のカズキへと戻る。
「俺は頭に血が上ってたみたいだな」
カズキの手からジュエルシードが零れ落ちる。
全ての力を使い果たしたのか輝きは消えていた。
「カズキ!」
そこにシンが剣崎が斗貴子が駆け寄る。
「武藤カズキはヴィクターと同じ化け物になった。
ヴィクトリアは何を知っているというの?」
真紅は呟く。
ヴィクターと出会えば何かが分かると思っていた。
だが、結果は余計に謎が増えるだけ。
解決した事柄はあっても全てに決着はついていない。
「やはり、この時間軸は特殊。
まるで全てが終わりに向かっているかのようね」
勝利に喜ぶカズキたち。
だが、真紅は彼らのように一時の勝利を祝う気にはなれなかった。
自分達を包む闇。
その濃度はまだ、増して行く。
そう感じている。
彼女の危惧は正しい。
闇は今も尚、彼を彼女を狙っている。