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「この眼で直接見るまでは正直、虚偽の申告だと思っていたが……」
衛宮家でアスランが今回の件をシンから報告を受ける。
錬金術、異世界の魔法、幻想郷、ローゼンメイデン……
とてもでは無いが一般的な世界の常識としてそれらは受け入れられるものではなかった。
アスランとしても直接の命令を受けて来た以上、頭では理解したつもりでも心から信じていた訳ではない。
ただ、武装錬金やインテリジェンスデバイスを見せられては信用せざるを得なかった。
この二つが真実ならば残る二つも真実なのだと流れとして理解する。
「まぁ、それはしょうがないでしょうね」
その点はシンも認めざるを得ない。
この一連の事件に関わっているからシンもそれが真実だと知っている。
とは言え、それが報告として聞いているだけでは信じられるものではないだろう。
現に未だにシンは悪い夢でも見ているのではないかと錯覚することもある。
特に幻想郷での出来事については。
「今回の件についてだがこれからは直接、俺の下についてもらう事になる」
「はい」
「とは言え、状況が俺には余りにも未知数すぎる。
お前の事を頼りにすることがあると思うが頼むぞ」
「大丈夫ですよ。剣崎さんや皆も居ますから」
「そうか。随分と信頼しているんだな。彼らの事を」
「はい。皆、大事な仲間ですから」
シンは臆面もなくそう答える。
これは本心だった。
共に命を懸けて戦ってきたから培える信頼である。
剣崎もカズキもなのはも皆に自分の背を預けることが出来るとシンは思っている。
「よし、とりあえずこれから艦長への報告は俺が行う。
お前は体を休めておけ、幻想郷では連戦だったんだろう。
インパルス自体の損傷も激しく相当な激戦だったらしいからな」
「えぇ、それでは失礼します」
シンはそう言うと部屋を出て行く。
それを確認してアスランを息を吐く。
「意外と周りと溶け込めるんだな」
アスランは以前にあった時のシンを思い出し呟く。
非常に棘がある人物であるように感じていたが今の様子ではそれも少しは薄らいでいた。
とは言え、何度か衝突があったことは剣崎から聞き及んでいる。
事態も事態であり、致し方ない部分ではあるが。
「しかし、まさか議長が俺をここに送り込むとはな……
俺の思惑を見透かしているのか……」
アスランは呟く。











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第十九話「命の共有者」






桜田家
そこに突如として新たなローゼンメイデンが現れた。
その乱入し真紅は眼を丸くし呆然とする。
「翠星石……一体、どうしたというの?」
だが、そこで完全に思考を停止させる程に呆けてはいない。
真紅は直ぐに冷静さを取り戻すと乱入者……翠星石に尋ねる。
「真紅、蒼星石が……蒼星石が!」
だが、翠星石と呼ばれたドールは酷く慌てた様子で真紅に詰め寄る。
「蒼星石がどうしたというの?」
「蒼星石が変な奴らの仲間になっちまったんですよ!」
「変な奴ら……?話が見えないわ。落ち着いて説明して頂戴」
真紅は取り乱す翠星石を落ち着かせようと声をかけるも翠星石は殆ど錯乱しているような状態だ。
ジュンはその様子を見て頭を抱えるのであった。

数分後
どうにか翠星石は落ち着きを取り戻した。
「聞かせて頂戴。その蒼星石が仲間になった変な奴というのは何者なの?」
「はいです……翠星石を目覚めさせたミーディアムが実はホムンクルスの信奉者だったんです」
「ホムンクルスの信奉者!?という事は蒼星石は協力している組織はLXEなの?」
「真紅はそいつらの事を知ってるんですか!?」
「えぇ、何せ私はLXEと敵対しているのだもの」
「真紅がホムンクルスの事を嫌いなのは知っていましたが。
まさか、あえて敵対行動をとっているとは驚きです」
「それについても理由があるわ。何せあいつらは雛苺を捕まえてその力を利用しているんですもの」
「チビ雛がですか!?あいつも目覚めてるんですか?」
「えぇ、他には水銀燈も……」
「水銀燈まで……七人のローゼンメイデンの内、四人までも目覚めてるだなんて……
一体、何が起こってるですか……」
「それは分からないわ。ともかく、蒼星石のことだけど何故、彼女はLXEに協力なんて」
「私達を目覚めさせたミーディアムが信奉者だったからですよ。
翠星石はあいつらの言う事を聞いて世界樹の調査を行ってるんです」
「世界樹の調査……?何故、そんな事を……?」
「LXEに協力するためと言ってました。LXEに敵対する錬金の戦士とその仲間の心を破壊し殺そうと考えてるんですよ。
蒼星石もその命令に素直に従って……
翠星石はそんなことしたくないと断ったら殺されそうになって命からがら逃げてきたんです」
「蒼星石が!?それよりもかなり危険な事態ね。
そう簡単に特定の人物の精神世界への道を見つけられるとは思えないけれど
普通の人間ではその方法で来られたら対処の使用が無いわ」
真紅は苦い顔をする。
「翠星石は蒼星石にそんなことさせたくねぇです。
でも、翠星石一人じゃあいつらを相手に戦うなんて……」
「それで私の元に来たのね。安心しなさい。蒼星石を止める手伝い。協力するわ」
「真紅……でも、幾らローゼンメイデンが二人揃っていてもホムンクルスのコミュニティを相手取るのは難しいです。
あいつら戦闘力だけはたけぇですから。
それに少なくとも奴らは何個かは核鉄を持ってました。
あの力は所有者次第ではローゼンメイデンに匹敵する力をもってやがるです。
二人だけでは……」
「安心しなさい。翠星石。私には心強い仲間がいるわ」
真紅はにっこりと微笑んだ。
その笑顔には誇りにも似たものを感じられた。

翌日
真紅は翠星石を連れて衛宮邸へとやってきていた。
居間ではシン、剣崎、アスラン、カズキ、斗貴子、そして士郎が座っている。
「その真紅の後ろに隠れてるのが第三ドールなのか?」
シンが真紅の後ろに隠れている翠星石に視線を移す。
その言葉に翠星石はびくっと体を震わせて更に縮こまってしまった。
「姉妹と言っても性格は全然、違うみたいだな」
剣崎がその様子に感想を漏らす。
真紅が威風堂々としているのに対して翠星石は酷い人見知りだった。
「真紅が第五ドールなんだろ。これじゃどっちが姉で妹なのか分からないな」
シンの言葉に翠星石の目つきが鋭くなる。
「うるせーです。人間!」
「人見知りの癖に口は悪いのか」
「まぁまぁ」
険悪な空気を作るシンと翠星石の間にカズキが割って入り場を宥める。
「それで真紅、その君の妹の蒼星石が私達の精神を破壊しようとしているという話だが。
具体的にどうすれば防げるんだ?」
斗貴子が真紅に尋ねる。
「防ぎ方自体はとっても単純ね。蒼星石を直接見つけ出し叩く。それしかないわ」
「とは言っても蒼星石はnのフィールドを潜って精神世界を見つけようとしているんだろう。
そんなものを見つけ出すことは可能なのか?」
「ほぼ不可能でしょうね」
真紅の言葉に一同は言葉を詰まらせる。
nのフィールドの広大な世界を目の当たりにしている以上、あの中から人一人を探し出すのは難しいと分かるからだ。
「そんなのだったらこっちも精神世界に行って待ち伏せすればいいんじゃないか?」
シンが提案する。
「何時、誰の精神世界に来るのかも分からずにか?非効率すぎるな。
そもそも、俺たちにはそんな受身に廻っている時間は無いはずだ」
シンの提案をアスランがばっさりと切り捨てる。
「何か策はあるのか?」
斗貴子が真紅に尋ねる。
「えぇ、別にnのフィールドで蒼星石を探す必要は無いわ。
何せ私達は蒼星石のミーディアムが誰なのかを知っているのだもの」
「なるほど、そいつを直接叩けば蒼星石は護る為に出てこざるを得ないって訳か」
剣崎の言葉に真紅は頷く。
「それでそのミーディアムだけど。誰なんだ?」
「誰……と、聞いても分かるものではないんじゃないか?」
「それはそうだけど。名前ぐらい聞いておきたいじゃない」
「まぁ、居場所に直接乗り込めばいいだけだから。名前なんて重要ではないと思うけど。
翠星石……蒼星石のミーディアムの名前はなんていうの?」
真紅は後ろに隠れている翠星石に尋ねる。
翠星石はちらっと顔を出して口を開いた。
「……秋水。早坂秋水と名乗っていたです」
その言葉にカズキと士郎が驚き眼を見開き、立ち上がる。
「早坂ってまさか生徒会副会長の!?」
士郎が叫ぶと翠星石は体をびくりと震わせる。
「し、知らないですよ!でも、年頃はお前達と似たようなもんだったです」
翠星石の言葉にカズキと士郎は頷く。
「そんな変わった名前がこの街に数人居るとも思えないし。間違いない」
「でも、あの優等生の早坂秋水が……」
学校でのイメージを知っている士郎とカズキには彼が信奉者だという情報は信じがたいものだった。
彼は非常に品行法制であり、生徒からの人気も高い。
美形というだけで一部の男子からやっかれもしてはいるが。
「信じないって言うなら別にいーです!人間なんかの力を借りなくても真紅と翠星石だけで蒼星石を助け出すです!」
翠星石はカズキと士郎の疑いの様子に語気を強める。
「ダメなのだわ翠星石。カズキたちの力を借りなければLXEには……あの伊坂という男には勝てないのだわ」
真紅がそんな翠星石を嗜める。
「どうしたというですか真紅!幾ら錬金の戦士と言っても所詮は人間です」
「翠星石こそ人間を侮り過ぎなのだわ」
真紅と翠星石が視線をぶつけ合う。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!別に俺たちは翠星石の言うことを疑ってるわけじゃない。
ただ、自分が当たり前だと思ってたことがいきなり否定されて戸惑っているだけで」
カズキが二人の間に割ってはいる。
「うるせぇですよ!人間が口出しするなです!」
「カズキ、これは私と翠星石との問題なのだわ」
しかし、それを両者は拒否する。
「やれやれ……ぐ!」
シンが溜息を吐いた瞬間にその口を剣崎が塞ぐ。
「何するんですか!?」
シンはそれに対して抗議の声を上げるが剣崎は笑って言葉を返した。
「どうせ、また憎まれ口を叩くとこだっただろ。これ以上、問題を広げないでくれ」
剣崎の言葉が図星でシンはバツが悪そうに口を紡ぐ。
その様子にアスランは頭を振る。
「……本当に大丈夫なのか?」
どうにもまとまりが無い面子にアスランは頭を痛くするばかりだ。

その頃、LXEのアジトでは
「翠星石に逃げられた……か」
ドクトルバタフライが早坂秋水とその双子の姉の桜花の報告を聞いている。
「すみません。隙を突かれてしまい……」
「となると奴は同じローゼンメイデンの第五ドールと合流した可能性は高い。
第五ドールは錬金の戦士と通じていたからな。
お前達の素性はほぼ、ばれたと言ってもいいだろう」
確証は無いが状況的には間違いないだろう。
「こちらから討って出ます」
バタフライの言葉に秋水が答える。
ばれたとあれば通著する必要は無い。
先に斬りかからなければ逆に斬りかかられるだけだ。
「元よりお前達には働いてもらうつもりだったからな。
だが、錬金の戦士はともかく仮面ライダーの相手は中々に大変だろう。
橘を連れて行け」
「分かりました。必ず奴らの首を獲って見せます」
秋水と桜花が頷く。

「すまない、マスター」
LXEアジト内部の廊下で蒼星石が秋水を待っていた。
「お前の責任ではない。それにいづれは戦わなければならない相手だ。
時期が早くなっただけと考えれば問題は無い」
秋水が蒼星石に言葉をかける。
それは慰めという訳でなく自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
「貴方達、二人が私達の前に現れた時は私たちの望み、それが受け入れられたと思ったんだけどね」
桜花が少し落胆した様子で呟く。
「それは……」
その様子に蒼星石は言葉を詰まらせる。
「過ぎたことは仕方ない。それにローゼンメイデンに認められなかったからとは言え、
俺たちの願いが閉ざされた訳じゃない。
今回の件も錬金の戦士さえ討ち取れば逆に認められるチャンスになる」
「そうね……でも、正直不安だわ。
戦力的にも劣っている上に……」
桜花は視線を移す。
その先には廊下の物陰から早坂姉弟を窺う人影があった。
それは橘朔也。仮面ライダーギャレンであり現在はバタフライの暗示の元でLXEで戦う者である。
「洗脳された男か……バタフライの暗示は完璧だ。
あいつには精精、壁になってもらおう。
最低限、錬金の戦士の首さえとれば良い」
秋水の手に力が篭る。
今回の自分達の戦力は早坂姉弟と橘。そして、蒼星石だけだ。
たった四人。
なのに相手は錬金の戦士が三人。
それに仮面ライダーとザフトのパイロット。ローゼンメイデンが二人。
後は謎の力を使う人物が複数。
「完全に捨て駒よね……」
「だが、核鉄を渡されたんだ。完全に捨て去っている訳ではないはず」
「だと、良いんだけど……」
桜花はこの戦いに乗り気ではない。
というよりも現状の割り振られた戦力では勝ち目など到底無い。
現在の戦力差を考えれば真正面からの戦闘で勝利に持ち込むにはLXEの全戦力の投入が望ましいほどに
錬金の戦士達の戦力は強いのだ。
それをたった四人で相手にしろとは死んで来いと言われている様なもの。
「だけど、ここで折れるわけにはいかない。
ここで俺たちが何もせず、王が復活したのならば俺たちは間違いなく餌にされてしまう」
「そうね……最後のチャンス。そう考えるしかないか」
二人は悲壮な決意で戦いに挑む。
繋いだ手は相手の命を確かめ合うように強く握られた。
「翠星石……」
蒼星石はこの場から逃げ出した双子の姉の顔を思い浮かべる。



結局、作戦はこう決まる。
夜の学校に早坂秋水を呼び出し、戦って打ち倒す。
「こんな誘いに本当に乗ってくるのか?」
その作戦にシンが半信半疑に呟く。
「彼らも学校を隠れ蓑に使っているんだが騒がれて大事になるのは避けたいはず。
そして、奴としても私達の首は咽喉から手が出るほどに欲しいはずだ。
奴らのリーダーである伊坂が二度も逃している敵なんだからな」
「……上級アンデッドが捕り逃したような奴を相手にそいつは本当に来るのか?」
「一人じゃ来ないだろうな。間違いなく橘朔也……仮面ライダーギャレンは来ると思う」
「何でだ?」
「我々が知っている中で彼がLXE最大のカードだ。
そして、容易く切れるカードでもある。
所詮は現存するライダーシステムの使用者を操っているに過ぎない。
奴らとしても失ってもそこまで痛くないからな」
「……橘さん」
シンは橘の事を思い出す。
殆ど一緒に戦ったことは無いがその実力は知っている。
まともにぶつかれば今の自分では勝てないであろう事も。
「震えているのか?」
「別に……」
「私は少し怖い。アンデッドの強さを知っていて、それを封印してきた仮面ライダーが相手なのだからな。
だが……私は逃げはしない。
相手がホムンクルスに手を貸してるというのなら。
全て私が八つ裂きにする!」
斗貴子の眼に殺気が篭る。
その様子にシンはぞっとする。
そこまで強い殺意をシンは感じたことが無かった。
恨みから発せられるどす黒い感情。
それはかつてレミリアから受けた殺気よりも深く冷たく感じられた。

「すみません、剣崎さん。無理を言っちゃって」
夜も遅い暗い体育館の中でカズキと剣崎は早坂秋水を待っていた。
その横には真紅の翠星石の姿もある。
「安心しろカズキ。お前が強くなったって皆、分かってる。
だから、今回は津村さんも君を前衛になることを承諾したんじゃないか」
最初に秋水と会うのはカズキと剣崎に決まった。
恐らくギャレンも現れるであろう事から剣崎が先に決まり。
相手がホムンクルスであろうことから次にカズキが決まった。
本来ならば斗貴子が役目を負うはずだがサポートに廻っている。
伏兵の存在を危惧しての増援である。
それには豊富な戦闘経験を持つ斗貴子とシン、アスランが決まった。
正直、剣崎やカズキの性分では隠れて機会を窺うのは苦手である面も大きい。
だが、前衛に立つことは危険であることに代わりはない。
しかし、カズキの実力は最近のブラボーの特訓と士郎との稽古でメキメキ上がっていた。
上級アンデッドにも臆さず戦い、変則的な能力を持つ妖怪を相手にも喰らいついていった実力。
これらを考え、相手が武装錬金を持つホムンクルスであろうとも実戦で戦えると判断されたのである。
「はい!」
剣崎の言葉にカズキは頷く。
それとほぼ同時に体育館の扉が開かれた。
そこには早坂秋水とその双子の姉の桜花の姿があった。
「秋水先輩……それに桜花先輩も!?」
カズキは桜花の登場に驚き声を上げる。
「翠星石から聞いてなかったのか……
逃げられたという時点でお前達に俺たちの素性の全てがばれているとばかり思ったが」
秋水が意外という様子で答える。
「翠星石!」
「翠星石は蒼星石のミーディアムについてしか聞かれてねぇですよ!」
「それはそうだけど……それにしても蒼星石のミーディアムが双子とは随分な皮肉ね」
真紅が肩をすくめて呟く。
「そうね。私達双子の前に双子のローゼンメイデンがやってくるなんて……
私はこれを運命だと感じたわ」
「運命……?」
「えぇ、私達の願いを成就させるための。ローゼンメイデンは私達の願いを適えるために現れた天使。
そう思ったのよ……だけど、翠星石には私がミーディアムになる前に逃げられてしまった」
桜花が微笑みながら翠星石を見る。
その笑顔に翠星石は凍りつき真紅の後ろに隠れる。
「その笑顔をやめるです!お前に笑われるとなんか背筋が寒くなるんですよ!」
「あらあら、随分と嫌われてるわね」
桜花は頬に手をあてため息を吐く。
「秋水先輩、桜花先輩……なんで貴方達がホムンクルスなんかに……?」
カズキが二人に問いかける。
「さっきも言ったとおりに願いを適えるためよ」
「そんな!願いを適えるためだからって何人もの人間を犠牲にしようって言うんですか!?」
「覚悟の上だ。俺たちの願いを阻むというなら何人だろうと切り捨てるのみ!」
秋水が何処からか日本刀を取り出しカズキに向ける。
その殺意にカズキは気おされる。
「カズキ、何を言っても無駄だ。相手がお前の知り合いだからって相手はホムンクルスなんだ!」
剣崎が二人に敵意を向ける。
「仮面ライダー……か。お前の相手は俺たちじゃない」
秋水の言葉に剣崎はすぐさまに変身する。
出現したオリハルコンエレメンタルが剣崎を狙った銃撃を防いだ。
「橘さん!」
剣崎は変身を完了し、銃撃の方向へと走り出す。
体育館の扉の向こう。
外からギャレンは銃口を向けていた。
「剣崎!」
仮面ライダーと仮面ライダーの拳がぶつかり合う。
「さて、まさかお前達だけという訳ではないだろう。
報告は聞いている。他の錬金の戦士とモビルスーツ乗り、それに不可思議な術を使う女どもはどうした?」
秋水がこの場にいないカズキの仲間について言及する。
「そっちこそ!蒼星石は何処です!?」
カズキが答えるより先に翠星石が叫ぶ。
「こっちだよ。翠星石」
だが、それに答えるのは秋水ではない。
背後から蒼星石が翠星石に向かい強襲する。
「えっ!?」
呆然とそれを眺める翠星石。
その眼前に蒼星石の持つ巨大な鋏が刃を広げて襲い掛かる。
動けない翠星石。
それを真紅が跳ね飛ばす。
翠星石は鋏から逃れることに成功するが代わりに真紅の服が切り裂かれた。
「真紅!」
「なにをボーっとしているの。ここは既に戦場なのよ!」
翠星石に対して真紅が叱責する。
どうやら切れたのは服だけで真紅の体に損傷は見られなかった。

「先輩!あんた達を絶対に止めてみせる!」
カズキは武装錬金を手にし秋水と桜花に立ちふさがる。
「こちらこそ。お前を倒し、俺たちの願いを成就させる」
秋水は日本刀の武装錬金ソードサムライXを。
桜花は弓矢の武装錬金エンゼル御前をそれぞれ発動させる。
「いくぞぉ!」
カズキは雄叫びと共にランスを構えて秋水に突撃する。
だが、それを迎撃するように桜花が矢を放った。
「!」
カズキは急遽、突撃を止めその矢をサンライトハートの側面で受け止める。
サンライトハートの硬い本体に阻まれエンゼル御前の矢は跳ね返り地面に落ちる。
「なんて正確で素早い射撃なんだ……」
カズキは士郎の部活での光景で何度か弓を見ていたがそれとは比にならない速度だった。
早坂桜花は弓を使えるなどという話は聞かないがその全ての矢がカズキの体を正確に狙っていた。
それを可能にしているのは桜花のエンゼル御前に付属するオートマータ。
それが弓の射出を行っているのだ。
「飛び道具を相手に真正面から突っ込むなんて無謀も良いところね」
「……」
カズキは相手の様子を窺う。
それは以前からの課題でもあった。
カズキは飛び道具を持たないしそれを防ぐ手段も持ち得ない。
なのはや霊夢などの飛び道具を容易く扱い、更に空を飛べる相手だと殆ど戦いにならないのだ。
もし、似たようなタイプと戦いになった際、どう戦い抜くのか。
その答えは未だに出てはいない。
だが、桜花は空を飛んでいるわけではない。
それを考えれば以前の課題より楽な相手ではある。
カズキはサンライトハートの飾り布を掴む。
「サンライトフラッシャー!」
飾り布の生体エネルギーを解放し、強烈な光を放つ。
まるで太陽光のような閃光に秋水と桜花は目を庇い、動きを止める。
「今だ!」
カズキはその隙を突いて一気に駆け出す。
そして、秋水を掴んでそのまま一気に体育館の外へと駆け出していく。
「秋水君!」
桜花は半目を開きながら連れ去られた弟の方を向く。
だが、そんな彼女に向かって空気を切り裂く音が聞こえた。
桜花は無造作にその方向へ弓を向ける。
それと同時にオートマータが自動射撃を繰り出した。
射出された矢は桜花へ接近する何かに全て切り裂かれ、地面へと落ちる。
だが、エンゼル御前の猛連射に対応するのに手一杯となり、それは桜花を切り裂くことは無かった。
「やはり、隠れていたわね」
慣れてきた目で桜花は襲い掛かってきた人物を見る。
そこには体育館の床にバルキリースカートの刃を突き立てて立つ斗貴子の姿があった。
「そっちこそまだ、何かを隠しているんじゃ無いのか?」
斗貴子が探るように尋ねる。
その言葉に桜花は笑みを浮かべた。
「さて、どうでしょうね」
「まぁ、何が来ようがまずは貴様を八つ裂きにするのが先だ」
「目くらましの後の奇襲。それにさえ失敗した貴方にそれが出来るのかしら?」
「ぬかせッ!」
斗貴子はバルキリースカートのアームの力を使って桜花へと加速する。
それを迎撃するように桜花はエンゼル御前を斗貴子へと向けた。


「ここでなら思う存分に戦える!」
校庭でカズキは飾り布を翻し、ランスを構える。
「分断したという訳か……」
追いついてこない桜花に秋水は自体を推測する。
「だが、君一人で俺に勝てると思っているのか?」
静かに秋水は武装錬金を構える。
その構えから発せられる気迫にカズキは気おされる。
向かっていこうにもどう行っても自分がやられるイメージしか湧いてこなかった。
幾たびの戦いの経験から直感でカズキは秋水の強さを感じる。
そう、秋水が今の自分よりも強いということを。
「そちらから来ないなら……こちらから行かせて貰う!」
秋水は真っ向からカズキに向かってくる。
カズキはすくむ足を気合で動かし、カウンターを決めようと突撃槍を突き出した。
飾り布の生体エネルギーを爆発させ、加速する。
後から動いてもそのスピードとリーチでカズキの方が先制出来る。
突撃槍の穂先が秋水を捕らえようとした瞬間、秋水はその穂先にソードサムライXの刃を合わせた。
だが、細い日本刀。
それで大型の突撃槍を防ぎきれるとも思えない。
カズキは一気に押し切ろうと更に力を込めた。
だが
「なっ!?」
あろう事かサンライトハートの勢いが見る見るうちに消えていく。
「その飾り布のエネルギー……それが君の武装錬金の特性か。
だが、俺の武装錬金ソードサムライXの特性はありとあらゆるエネルギーが絡んだ攻撃を
飾り尾から受け流し無効化する」
驚くカズキに秋水が告げる。
「どうやら、君の武装錬金と俺の武装錬金は相性が良いようだ」
勢いの無くなったサンライトハートを跳ね除けて、秋水がカズキの懐に飛び込む。
突撃槍を扱えない間合い、そして、日本刀の間合い。
カズキはその危険な位置を脱しようと飛びのこうとする。
だが、それよりも秋水の斬撃の方が速い。
一瞬の16の斬撃。
それがカズキの体に襲い掛かった。
「がはっ!」
カズキは全身から血を噴出し、地面へと倒れる。
「錬金の戦士とは言え、この程度か……」
秋水は刃についた血を振るい落とす。
急所への16の斬撃。
完全な致命傷だ。
普通の人間なら立ち上がれるはずが無い。
だが、カズキは歯を食いしばり、サンライトハートを杖にして立ち上がった。
「なんだと……」
その様子に秋水は驚く。
だが、切り傷を見て直ぐに合点がいった。
その傷の悉くが急所を外れている。
かろうじてカズキが急所を避けて当たったのだろう。
「ぐっ……まだだ……」
カズキは息も絶え絶えという様子で呟く。
だが、その目はまだ、死んではいない。
「そんな状態でも立ち上がるか……だが、その傷ではまともに戦えまい」
秋水は勝利を確信しながらカズキへと歩み寄る。
実際にカズキに対抗する力は殆ど残っていない。
立っているのがやっとだ。
「死ね!」
そんなカズキに向かって秋水が刃を振り下ろそうとする。
だが、それよりも先に何かが接近するのを感じ、それを刃で切り下ろした。
その瞬間にエネルギーが刀身をとおり飾り緒へと流れていく。
「エネルギー攻撃!?」
「カズキをやらせるかよ!」
フォースインパルスが上空からビームライフルを構えながら接近してくる。
「モビルスーツ……」
秋水は先ほどの一撃がビームによるものだと分かり冷や汗を流す。
あんなものを体に直撃すれば何処に当たろうとも致命傷だ。
武装錬金を持とうとも生身の肉体ではモビルスーツの相手は武が悪い。
シンはそんな秋水に向かってビームを撃ち下ろしながら接近する。
秋水はビームを全て切り払いながらその場から離れる。
そして、シンはカズキと秋水の間に降り立つ。
「シン……」
「大丈夫か?」
「何とか……だけど、すまない」
「気にするな。あいつの武装錬金の特性が悪いだけだ。
まさか、ビームも通用しないとはな」
カズキのサンライトハートのエネルギーすらも受け流された時点である程度の予想はあったが
まさか、ビームすらも切り払ってくるとは思ってもいなかった。
二年前の戦争で活躍したエースはそんな芸当もしたと伝え聞いていたが実際に目の前でやられるとは思ってもいなかった。
神業の域だ。
それほどまでに早坂秋水という男の技量は凄まじい。
「だけど、シンも相性が悪いんじゃないのか?」
カズキがシンに尋ねる。
主兵装がビーム兵器であるインパルスでは殆どの武装が封じられているようなものだ。
最速のビームライフルさえも切り払われていては真正面から攻撃を当てることは出来ないだろう。
「仲間を助けに来たか……だが、俺のソードサムライXの切れ味はモビルスーツの装甲だろうと切り裂く。
そんな鎧に身を包んでいても安全ではないぞ」
秋水が武装錬金を構えて威圧する。
先ほどの攻撃を完全に防ぎきったことが彼に自信を与えていた。
例えモビルスーツであろうと自分は戦い勝利できると確信している。
「武装錬金の特性は現代科学を超えるって話だったな」
そんな秋水にシンは臆す事無く語りかける。
「そうだ。モビルスーツがどんな武装をもっていようが武装錬金の特性を超えるものは存在しない」
「何百年も前の遺物の代名詞が何時までも通用すると思うなよ!」
シンはインパルスのシルエットをブラストへと変更する。
そして、それと同時に腰の二門のビーム砲を秋水へ向けて構えた。
「これだけの大出力、そのちゃちな剣で防ぎきれるものか!」
躊躇いも無く二門のビーム砲のトリガーを引く。
巨大なビームの帯が秋水に向けて照射された。
秋水はその光に対して刃を合わせる。
一瞬の閃光。
地面を抉り、溶かした巨大な破壊の光は秋水の眼前で完全に消えうせていた。
その背後は何事も無かったかのように学校が存在している。
「どうやら武装錬金の方が上だったようだな」
無傷の秋水。
ソードサムライXも傷一つ無くその手に握られている。
その様子にシンは驚愕した。
軽減ぐらいはされるとは思っていた。
だから、後ろに建築物があろうともケルベロスを撃ったのだ。
だが、まさか、完全に防がれるとは思っても見なかった。
「まだ、続けるのか……?」
最大の一撃を防ぎきった。
その功績に秋水は既に勝利したと錯覚している。
「まさか、ケルベロスのビームまで防ぐなんてな……だけど、ブラストインパルスの武装はこれだけじゃない」
ケルベロスの二門の砲塔が背中へと戻る。
そして、今度はその砲塔が肩へと移動する。
ビーム砲とは対極の位置に配置されたそれはミサイルランチャーだ。
「言ってたよなエネルギーを受け流すって……だったら爆発は防げるか!?」
秋水に対して一斉にミサイルを射出する。
秋水はそれを回避すべく走り出す。
次々と着弾するミサイルは爆発し、秋水へと迫る。
それをどうにか爆発から逃れて遠ざかるもついに一つが秋水目掛けて飛び込んできた。
「くそっ!」
秋水はそれを刀で切り落とす。
それと同時にミサイルが爆発し、爆炎が秋水の体を炙った。
それが秋水の服の一部と皮膚を焼く。
「ぐっ!」
今宵、初めてのダメージに秋水は苦悶の声を上げる。
「まだだ!」
インパルスの腰からレールガンが展開される。
弾丸を電磁力で加速させる銃砲。
ただの質量弾であるそれが秋水へと襲い掛かった。
秋水はそれをどうにか切り払うが衝撃が刀身から腕へと伝わる。
その様子を見てシンは確信する。
ビームや生体エネルギーを防げても運動エネルギーまで完全に向こうかする訳ではない。
カズキのサンライトハートとぶつかり合った際にもせめぎ合いがあった事から大体、察していたが。
「いつまでも防ぎきれるものかよ!」
シンは一気に攻勢に出る。
装填されている全ての弾丸を吐き出し、秋水にぶつけていく。
「こんな……ただ、武器を振りかざしてる相手に!」
秋水は必死にその全てを切り払っていく。
それは維持だった。
勝利への、掴んだと確信し離れていった勝利への欲望。
それが秋水の体を突き動かす。
そして、ついに弾丸の雨が止んだ。
「打ち止めか……?」
疲労困憊の様子で秋水が呟く。
「あぁ……」
シンは静かにそう答えるとブラストシルエットを排除する。
ミサイル、レールガン共に完全に撃ちつくした。
ビーム砲が通用しない今、完全なデッドウェイトだ。
そう、殴りかかるには邪魔にしかならない。
「こっからは接近戦だ!」
シンは腰から二本のナイフを抜く。
それは刀身を超振動させ、モビルスーツの装甲すら切り裂く獲物。
人間の肉体など容易く切り裂く。
それを持ってシンは秋水へと駆け出す。
「それはこちらとて望むところだ!」
最後の気合と共に秋水は再びソードサムライXを構えなおす。
突き出されるインパルスのフォールディングレイザー。
それを秋水はソードサムライXで受け流す。
ナイフと日本刀の格闘。
一流の腕前を持つ二人の攻防は華麗であり、まるで踊っているかのようだ。
拮抗しているかのような勝負。
だが、直ぐにそれは崩れる。
散々の疲労が秋水の動きを鈍らせ、その隙を突いてシンが彼の武装錬金を弾き飛ばす。
宙を舞い、ソードサムライXは地面へと突き刺さった。
そして、体のあいた秋水の腹にフォールディングレイザーが突き刺さる。
鮮血が吹き出て、地面を染め上げていった。

「キャアアアアアア!秋水君!!」
悲鳴が夜を切り裂き、響き渡る。
その声にシンは振り向いた。
そこには秋水の姉の桜花の姿があった。
桜花は斗貴子と戦っていたはずだが逃げてきたのだろう。
斗貴子の姿は無い。
彼女は秋水の状態を見るや否や、弓を自ら引き、矢を射った。
その矢はインパルスの横を通り抜けて秋水に突き刺さる。
その光景にシンは目を丸くする。
何故、自らの弟を攻撃するのか。
だが、その理由が直ぐに明らかになった。
秋水の腹の傷は見る見るうちに閉じていき。
それと同時に桜花の腹の部分から血が滲んでいく。
その場所は丁度、秋水が傷を負った部分と同じだった。
「!」
その最中、意識を取り戻した秋水がすぐさまに矢を自分の体から抜いた。
それと同時に秋水の傷の再生は止まり、桜花の出血も弱まる。
「姉さん!」
秋水が桜花へと駆け寄る。
シンはその様子をただ、呆然と眺めるだけだった。
「なんで、あの程度の傷ならホムンクルスなら問題ないはず」
カズキも合点がいかずに呟く。
「それは二人がホムンクルスじゃないからだよ」
その問いにその場にいなかったものが答える。
蒼星石が二人の下へと駆け寄った。
「蒼星石!もう、止めるです。二人とも戦えないのに蒼星石だけ戦っても勝ち目なんてあるわけねぇですよ!」
そこに翠星石と真紅が追いついてくる。
「ホムンクルスじゃない……だけど、二人はLXEの一員で……」
カズキが首をかしげる。
「最初に言ったはずだわ。彼らは信奉者だと……まさか、貴方、信奉者の意味を知らないの?」
真紅が驚いた様子でカズキに尋ねる。
カズキはその問いに頷いた。
その様子に真紅は頭に手を当てて首を振る。
「……貴方が戦士になった経緯は聞いてるけどあの二人はそういう知識を貴方に付けさせるべきだわ。まず最初に。
良い、信奉者というのはホムンクルスの下で働く普通の人間の事よ」
「普通の人間……それじゃ、二人はホムンクルスじゃなくて……」
だとすれば先ほどの傷で桜花が驚いたのも納得する。
普通ならアレは致命傷だ。
「それじゃ、俺は普通の人間を相手にミサイルやレールガンをありったけ撃ち込んだのか……」
インパルスを返還しバツが悪そうにシンが呟く。
一つでも直撃していれば即死だっただろう。
幾ら、敵の人間とは言え生身を相手にやりすぎてしまった気がしていた。
「二人ともその傷ではまともに戦えないでしょうね。それに一人は武装解除。
大人しく降伏するというなら悪いようにはしないわ」
真紅が二人に告げる。
「そうね……これでおしまい」
桜花がつぶやく。
「姉さん」
「蒼星石……折角、貴方に手伝ってもらったというのに……」
「いえ、僕も僕で自分自身の答えを出したかっただけだから。
貴方に謝ってもらう必要は無いよ」
「……どういうことだ?」
秋水が問いかける。
「二人とも勘違いしているようだけどローゼンメイデンはミーディアムの願いを適える道具なんかじゃない。
僕が君達に手を貸していたのは……
見てみたかっただけなんだ。
僕と翠星石の未来の姿を」
蒼星石の言葉に翠星石が呆然とする。
「それはどういうことですか!?
何で二人の願いを適えることが翠星石と蒼星石の未来の姿を見る事になるんです!?」
翠星石が怒鳴り散らす。
何処と無く分かっているのかも知れない。
蒼星石が何を言わんとしているのか。
それを否定するように翠星石は声を張り上げる。
「僕達はお互いに依存しあう双子。
互いに依存し、それだけが世界の全てであると言って良い。
だけど、それで本当に良いのか?
このままで良いのか?
僕は疑問を感じていた。
だから、僕は彼らがその依存の果てに何処へ向かうのか……
それを見たかったんだ。
彼らは僕達が行き着く果て……それを見せてくれる気がしたから」
「な、なんでですか……?
蒼星石は翠星石と一緒に居るのが嫌になっちまったんですか?」
「違うそうじゃない……僕は今でも翠星石の事が好きさ」
蒼星石の言葉に秋水が笑い声を漏らす。
「なるほど……つまり、お前は俺たちを実験台だと思っていたのか」
「……そうなってしまうのかも知れない」
秋水が蒼星石の体を突き飛ばす。
蒼星石は地面に倒れ落ちる。
「お前は俺たちの願いを理解してくれると思っていた。
俺たちが目指す願い……永遠に二人で生きていく。
その願いと同じ存在なら……この気持ちを……」
「すまない……だけど、僕達は完全に二人だけであると思ったことは無いよ。
他にも姉妹がいる。それにお父様も……
だけど、君達の気持ちが理解できない訳じゃない」
「何が分かるというんだ!
やはり、俺たちは二人だけじゃなければならない。
唯一、理解しあえるの姉さんだけだ。
俺たちは俺たちだけで生きる。
世界が俺たちを否定するなら俺たちは俺たちだけで生きていく。
死が二人を分かつまで……」
秋水が恨みを怒りを蒼星石にぶつける。
信じていたものに裏切られた。
その気持ちが彼を突き動かしていた。
その間にカズキが割ってはいる。
「邪魔をするな!」
掴みかかる秋水の顔をカズキは殴り飛ばす。
「先輩が何でそんな風に考えてるのか俺には理解できない。
だけど!あんたの世界に存在するものは桜花先輩だけじゃないはずだ」
「理解できないくせに何故、そう言える!?」
「先輩は蒼星石に裏切られたって思って怒っているんだろ?
それは彼女を受け入れていたからじゃないのか!?
桜花先輩と二人だけだった世界に蒼星石っていう存在を受け入れていたんだ」
「!」
秋水がカズキに拳を振るう。
だが、カズキはそれを手で受け止めた。
「何も知らずに語るなと言っている!
普通の家庭で安穏と生きてきたお前に……!」
秋水が力を込める。
それと同時に傷口が開き、出血が再び起きる。
「もうやめて!そのままじゃ命に関わるわ!」
それを桜花が抱きとめて制す。
「姉さん!」
「もう、止めにしましょう……。
武藤君の言うとおりだわ。
私達は二人だけの願いに蒼星石を巻き込んでいた。
無意識にでも私達はあの子を受け入れてたのよ。
あの時から私達は二人だけじゃなくなっていた」
桜花の言葉に秋水は力を無くす。
そして、そのまま、地面に腰をついた。
「マスター……貴方達を利用したのは謝ります」
蒼星石が立ち上がり、秋水の前に立つ。
その横に翠星石が心配そうに寄り添う。
「だけど、やっぱり二人だけで依存しあうのは間違ってる。
それは貴方達を見て思ったんじゃなくて彼らを見てそう感じたんです」
蒼星石の言葉に秋水は反応しない。
「僕は世界樹を彼らの情報を手繰り寄せて来た。
その断片を読み取っても彼らが何故、集まりあってるのか知った。
ただ、人々を助けたい。
それだけの単純な願い。
それだけで彼らは繋がりあい、貴方達の強い願いに打ち克った。
それは願いの強弱じゃない。
まるで関係の無い人とも繋がり、力を合わせ世界を広げる。
それが彼らの強さなんだ。
二人の間で閉じこもっていては絶対にたどり着けない力なんだ」
「……お前はそれを俺に伝えてどうしたい?」
「マスター、貴方達ももう一度、世界に目を向けて欲しい。
あの日、僕を貴方が巻いてくれた日。
あの日から貴方達は二人じゃなくなっていたはずです」
その言葉に秋水は答えを返さない。

「あの二人については蒼星石に任せて大丈夫なようね」
真紅がその様子を見て呟く。
「それは構わないけど……剣崎さんたちはどうしたんだ?」
シンはその場に剣崎たちが居ないことに気づき、真紅に尋ねる。
シンは剣崎が橘と戦っていたことは知っているが直ぐにカズキの援護に駆けつけたためにその後は知らない。
「大丈夫よ。増援は無さそうだったからあの紅いのには剣崎とアスランの二人がかりで戦っていたもの」
真紅がそう言っていると剣崎とアスランが歩いてくる。
「お~い、そっちも終わったのか?」
剣崎の肩には橘が担がれていた。
「剣崎さん!それ……」
「あぁ、俺一人じゃ無理だったけどアスランが手伝ってくれたから。
どうにか橘さんを捕まえられた」
「正直、彼の強さで生け捕りにするのは骨が折れたけどな」
二人とも疲労困憊という様子だ。
「だが、彼は洗脳されているはずだ。それを解除、出来れば良いんだが」
斗貴子も何処からとも無く現れる。
「そっか……洗脳なんてどうやって解けばいいんだ?」
「一応、戦団の方で対応しようと思うが」
「どのような処置で洗脳が施されているか分からないことにはなんとも言えないな」
橘の洗脳解除。
彼を完全に救うには必要不可欠だ。
「その人の事は僕に任せてくれないかな?」
そこに蒼星石がやってくる。
「お前が……?何故だ。幾ら、降伏したとは言えLXEに協力していたお前が何で俺たちを助けようとする?」
シンが疑いの眼差しで蒼星石を見る。
「確かに君達にとって僕は敵だったかも知れない。
だけど、僕がLXEに居たのはマスターがそこに所属していたからに過ぎない。
二人がLXEとの縁を切るなら僕にとってあそこは関係が無い場所……
いや、どちらかといえば大嫌いな場所だ。
それじゃ答えになってないかい?」
蒼星石の言葉にシンは黙ってしまう。
「シン、安心なさい。蒼星石にこれ以上、敵対する意思は無いのだわ。
それよりも彼女……彼女達の力ならこの男を助けることも可能なのだわ」
今一、納得していないシンに真紅が言葉をかける。
「たち……?」
「えぇ、蒼星石と翠星石。
彼女達は夢の庭師。
人の夢の中……精神世界に介入し、心の樹に影響を与える力があるの。
蒼星石の庭師の鋏は迷いを切り裂き、翠星石の庭師の如雨露は心に栄養を与える。
ただ、扱い方を変えれば糸も簡単に人の心を破壊し、廃人にすることも可能な危険な力」
「なるほど、それで私達の心に直接介入して戦わずに勝利を収めようとしていた……という訳か」
真紅の説明を聞き、斗貴子はようやく蒼星石の目的に合点がいく。
「でも、それがどうして橘さんを助けることに繋がるんだ?」
剣崎が真紅に疑問をぶつける。
「洗脳されているのは心が弱ってしまっているという証拠。
弱った心を助け出すことが出来たなら洗脳を解く事も可能なのだわ」
「そんな事も出来るのか!」
剣崎が目をキラキラさせている。
「いや、そんな単純にはいかないんだけど。
ただ、この橘という人。
ドクトルバタフライからの洗脳だけじゃない何かの影響を受けている。
それも酷く凶悪な……」
蒼星石の言葉に剣崎は橘が以前に言っていた言葉を思い出す。
「ライダーシステム……そうだ、橘さんはライダーシステムの影響でその心と体が破滅していってるんだ」
ライダーシステムの不備により、破滅のイメージが流れ込み体をボロボロにする。
それを抑えるにはアンデッドを封印するしかない。
「でも、アレは勘違いだって話じゃなかったんですか?」
ブラボーが烏丸所長から聞いた話ではライダーシステムに不備は無かったはずだ。
全ては橘の弱い心が見せる幻に過ぎないと言う。
「だけど、結局は心を弱くしてしまっているのが要因なんだ。
彼女達の力が人の心に力を与えるって言うなら。
橘さんを治す事だって可能なはず」
「そういう事だよ。翠星石」
蒼星石が翠星石を呼ぶ。
「うぅ……蒼星石は翠星石に一言の謝罪も無しですか!?」
「そうだったね。謝るよ」
「誠意が篭ってないです……」
「迷惑をかけたとは思っているよ。
だけど、僕達がこれからも一緒に居るうえでは必要なことだったんだ。
依存しすぎる危険性は薄々、君も感づいていたんだろ?」
「……そんの分からないです。
でも、とにかく目の前の人間の危険なことぐらいは分かってるです」
翠星石は視線を逸らして答える。
そんな様子に蒼星石は微笑を見せる。
「あぁ、そうだね。一刻の猶予も無い。
今すぐにでも夢へと入ろう。丁度良く、眠っていてくれてるみたいだしね」
蒼星石は眠る橘を見下ろす。
「そんなに危険なのか?」
心配そうに剣崎が尋ねる。
「あぁ、こんな状況で精神崩壊を起こしていないのが奇跡だというくらいにね。
彼の症状に気がついてはいたんだ。
だけど、LXEのアジト内部で彼を治療することは流石に危険すぎた」
「事情は分かるよ。ギリギリだとしても助かるかも知れないのは君のおかげなんだ。
気にすることは無い」
「ありがとう……それと夢の中に誰か同行してもらいたいんだ。
彼の心に巣食う破滅……それを取り除くことは非常に危険だ。
僕達だけじゃ成し遂げることが出来ないかも知れない」
「……そうですね」
蒼星石と翠星石は心なしか震えているようだった。
「だったら、俺が行く!橘さんは俺の尊敬できる先輩なんだ!
それを助ける手助けだったら幾らだってこの体を使ってもらっても構わない」
剣崎が我先にと立候補する。
それに遅れてシンが、カズキが名乗りを上げる。
「それじゃ、君と君について来て貰おうか」
蒼星石は剣崎とシンを指名する。
「俺だって戦える」
それにカズキが食い下がる蒼星石が首を横に振る。
「君の体は傷つきすぎている。肉体の損傷は精神世界で関係は無いとは言え、心のイメージは肉体に依存する。
それだけ傷ついていたら心も力を出し切ることは難しい」
「でも!」
尚も食い下がるカズキの肩をシンが叩く。
「ここは俺たちに任せてくれよ。俺と剣崎さんなら何があったって大丈夫だ!」
「シン……そうだな。信じるよ」
シンの言葉にカズキはようやく納得する。
「それじゃ、夢の世界へと行くけど……夢の世界じゃ君達の力は使うことは出来ない。
それだけは注意してくれ」
蒼星石の忠告に二人は頷く。
それを見ると翠星石が橘の夢への扉を開いた。


橘の夢
そこは荒れ果てていた。
漆黒の雲が空を多いつくし、至るところが燃え盛り、世界を焼いている。
地面には無数の金属片とカードが散らばっている。
「ここが……」
その世界を見て剣崎は絶句する。
心の世界を見た事が無くてもこの光景が異常であることは察しがついた。
「世界樹の枝まで燃え移ってるです……このままじゃ、世界樹とのリンクが途切れちまうですよ」
「想像以上にまずいね……」
事態の深刻さを一番に把握している翠星石と蒼星石の顔に焦りが映る。
「おい!アレって!」
シンは炎の影から現れた人影に気づいて叫ぶ。
「なっ、そんなカテゴリー8!?あいつは橘さんが封印したはず!」
それは紛れもなく、シンが始めて敵対したアンデッドだった。
橘朔也により、封印され、ギャレンの力の一部となったはずの存在。
それが真っ直ぐにこちらに向かって歩いてくる。
「あっちにも!」
他にもゼブラ、ホエール、アルマジロ、ファイアフライ……
ギャレンに封印されているアンデッドが姿を現していく。
「どいつもこいつも橘さんが封印したアンデッドじゃないか……
まさか、アレが橘さんの心を蝕む破滅なのか……?」
剣崎はまさかの事態に息を呑む。
変身できないと言われている状況でこのアンデッドの数。
たとえ、変身できても相当な苦戦が要求される。
「いや、違う。彼らは橘朔也の心を破壊している要因じゃない」
蒼星石が言う。
確かにアンデッドたちは破壊を行っているわけではなくただ、こちらの様子を窺っている。
「それじゃ、何が橘さんの心を……」
シンが呟くと突然、上空を横切る巨大な樹の枝から黒い雫が落ちる。
それは地面に落ちると無数の黒き亡者を生み出した。
「何ですかアレは!?」
それを見て翠星石が叫ぶ。
「分からない……だけど、アレが橘朔也の心を破壊する存在かも知れない」
「そうかもしれないです……でも、問題はアレが世界樹から落ちてきたことですよ!」
「確かにそれは気になるけど……けど、そんな事を議論してる余裕は無い
早く心の樹を探し出さないと」
焦る蒼星石。
それに先ほどの黒い亡者が襲い掛かる。
「蒼星石!?」
それに気づいて翠星石が叫ぶが蒼星石の反応は間に合わない。
だが、それを助けるかのようにバッドアンデッドが飛び込んできた。
そして、黒き亡者を叩き伏せる。
「アンデッドが俺たちを助けたのか!?」
その光景に剣崎は驚き眼を丸くする。
そんな彼らに気づきバッドアンデッドは手で方向を指し示す。
「あっちへ行けって言ってるのか……?」
「どうやら、そうみたいだ。手がかりも何も無いし彼の言うとおりにしよう」
蒼星石たちはバッドアンデッドの誘導に従い、彼の指し示した方へと急ぐ。
「あの黒い奴……」
「えぇ、最初にnのフィールドで襲い掛かってきたあいつ等ですね」
剣崎とシンは零れ落ちる亡者はnのフィールドを徘徊する影の魔物と同種であることに気づく。
だが、それが何を意味するかは分からない。

果たしてその先には一本の樹があった。
それは大きく力強く聳え立っていた。
はずだった……
「そんな……酷い……」
そんな樹も枝は折れ、花は落ち、葉は枯れ、ところどころこげ落ちてすらいる。
そんなボロボロの樹に無数の白い蛾が取り巻いていた。
「アレがドクトルバタフライの暗示……その象徴か」
蒼星石はその蛾を見て呟く。
「アレを取り除けば橘さんの洗脳は解けるのか?」
「そう、簡単にはいかない。あの蛾は象徴でしかない。
僕達が今、アレを何度、振り払おうとも蛾は際限なく湧き続ける。
そうさせないためには心の樹、そのものを復活させる必要があるけど……」
蒼星石が言葉を濁す。
「まさか……間に合わなかったのか?」
「……それは分からない。とにかく、修繕を開始しよう。
アンデッドたちが防いでくれているとは言え、あの黒い亡者が何時、こっちまで来るかは分からないから」
蒼星石たちは樹の根元へ近づいていく。
そこで彼らは驚くべきものを眼にした。
全身傷だらけで蹲る一体のアンデッド。
「アレは……?」
「見たこと無いけど……多分、アレはスタッグビートルアンデッド。
ギャレンに変身する為に使われるアンデッドだ」
剣崎がその姿の特徴から推測する。
スタッグビートルアンデッドと思わしき存在は彼らに気づくとゆっくりと立ち上がった。
「こっちに来るですか!?」
「他のアンデッドと同じように襲ってこなければ良いけど……」
スタッグビートルアンデッドは立ち上がった状態で剣崎たちを眺めている。
「だけど、じっとしててもしょうがない。蒼星石と翠星石は修繕を頼む。
もし、あいつが襲ってきたなら俺たちが体を張って護るから」
剣崎が猶予は無いと判断し蒼星石に頼む。
その言葉に蒼星石は一瞬、躊躇するが頷いた。
「お願いするよ。行こう、翠星石」
「はいです」
蒼星石と翠星石は樹へと向かう。
スタッグビートルアンデッドは彼女達に興味が無いのか視線は剣崎へ向けられたままだった。
「俺に何か用があるのか?」
剣崎はそう呟きスタッグビートルアンデッドへと歩き出す。
「危険すぎますよ!」
それに驚きシンも後に続く。
「大丈夫。そんな気がする」
剣崎は物怖じせずスタッグビートルアンデッドの目の前まで進む。
そんな剣崎にスタッグビートルアンデッドが口を開いた。
「お前がブレイドと融合する人間か?」
人の言葉を解した事に剣崎とシンは驚く。
「ブレイド……確かに俺はブレイドに変身する」
「そうか……俺の名はギャレン。この心の世界を所有する男と融合しているアンデッドだ」
「お前は橘さんの心が作り出したんじゃなくて本当にカテゴリーAのアンデッドなのか?」
「そうだ。俺たちはお前達が仮面ライダーと呼ぶ存在に封印された時点で所有者の精神に座する事になる」
「それじゃ、俺の心にも今まで封印してきたアンデッドが……」
「そうだろう」
「なら、教えてくれ!何故、橘さんの心は破壊されている。あの巨大な枝から落ちてきた黒い奴らは何者なんだ!?」
「黒き亡者……破滅の存在の尖兵が世界樹の枝より漏れ出し人の心を破壊している」
「破滅の存在だって!?」
薄々と二人とも感づいては居た。
影の魔物と同質の気配、ならばそれは破滅の存在と同種であること。
「世界全てを破滅させる全生命体の敵」
「そうだ。奴は世界樹の亀裂から漏れ出しこの男の心を破壊する。
俺たちはそれを護る為に戦ってきた。
破滅の存在は俺たちにとっても敵でしかないからな」
「破滅の存在はアンデッドにとっても敵だって言うのか……
だけど、スパイダーアンデッドは奴らと同種の化け物を繰り出してきたぞ?」
「スパイダー……レンゲルか。
封印されていないアンデッドは破滅の存在の影響を受ける。
橘が再封印したアンデッドも奴の影響を受けていた。
どうにか俺たち解放されなかったアンデッドでその影響を除去してきたが」
「解放されたアンデッドは破滅の存在に操られているのか?
だから、人間を襲うというのか?」
「そこまでではない。影響を受ける程度だ。
人を襲うのも破滅の存在の影響ではなく本能がそうさせる。
進化は他の生命体を殺し、踏み越えなければならない。
それが地球で最も繁栄している生命ならばなおさら。
それだけのことだ。人を殺すのは破滅ではない」
「だけど、お前達は橘さんを護ってくれているじゃないか?
橘さんは人間だぞ」
「そうだ。だが、既に封印され機会を失っている私に繁栄権は無い。
そして、人間よりも破滅の存在こそが我らにとって敵。
奴を倒すこと……それこそが全てのアンデッドに課せられた使命だ」
その言葉に剣崎は驚く。
「課せられた使命……それじゃ、お前達を造った存在が居るのか?」
烏丸所長から聞いたことがあった。
アンデッドを作り上げた神とも呼べる存在の事を。
そして、今のギャレンの話が本当だとするのなら。
アンデッドを作り出した神は破滅の存在と敵対している。
アンデッドの存在理由、そして作り出した神の存在。
烏丸所長も知らない秘密に手が伸びそうになる。
だが、それを黒き風が妨害する。
「ぐわっ!?」
突然の風が剣崎の体を吹き飛ばす。
シンは咄嗟にその体を受け止める。
「何だって言うんだよ……?」
風が吹いた中心。
そこには一人の少女が立っていた。
「貴方達が破滅の存在と呼ぶ者……
姿を見せるのは初めてね。
シン・アスカ、それに剣崎一真。
私に逆らい得る厄介な人間」
それは金髪金目の中学生ぐらいの少女だった。
その背には漆黒の三対の羽根が生えている。
一見すれば普通の少女。
だが、纏っている気が異常だ。
恐怖、狂気、負の感情が彼女の体から溢れ出ていることを感じられる。
「西行妖で聞いた声を同じ……」
そして、シンと剣崎は自分達の体が凍り付いていくことを感じる。
存在を認識しただけで絶望する程の圧倒的な邪気。
「貴様が何故、ここに居る!?」
ギャレンが叫ぶ。
「貴方達に気づかれないように破片を少しずつ浸透させてきたのよ。
そして、遂に端末を形成できるだけの量が揃ったという訳」
「なるほど、一枚上手だったという訳か……
だが、これ以上、貴様の好き勝手にはさせない!」
ギャレンは二本の剣を抜き破滅の存在、その端末に斬りかかる。
「カテゴリーAとは言え、所詮はアンデッド。
貴方では端末には勝てはしない!」
端末はその二本の剣を腕で防ぐ。
そして、そのまま掌で剣を握りつぶし破壊した。
「ぐっ!?」
「アンデッドとは言え、その力は無限ではない。
消耗しきった貴方に勝ち目などありはしない。
大人しく私の下へと下りなさい。
あの子達のように」
「あの子達……だと?」
「そうよ。レンゲルを始めとして幾つかのアンデッドは私に賛同してくれた。
貴方も共に世界を破滅へと導く先導者になるのよ。
この心の所有者の体を使ってね」
「ふざけるな!賛同などと偽りの言葉を並べるな!
ただ単に精神を乗っ取り、貴様が傀儡に仕立て挙げただけに過ぎん。
世界に生命を繁栄させる為の存在である我らアンデッドが。
世界に死をもたらす破滅の存在に組することなど有り得はしない!」
ギャレンは折れた剣を投げ捨て破滅の存在を睨みつける。
「流石にカテゴリーAともなるとその意思は強大ね。
だけど、私の前では大した差では無いわ。
その崇高なる意思も全て黒く塗りつぶしてあげる」
破滅の存在の手に黒い風が折り重なっていく。
「あんなものを喰らったらアンデッドも、その後ろにある心の樹も滅茶苦茶になってしまう」
剣崎はその力を見て焦りを覚える。
あの二つに何かがあれば橘は完全に復活することは無い。
「ブレイドの宿主よ……大見得を切ったところで私に奴を如何こうする力は無い」
ギャレンが剣崎に話しかける。
「だが、お前ならば。ブレイドをはじめとする幾多のアンデッドを取り込み。
そして、橘と同じように破滅の存在の影響を受けながらもそれを全く感じさせない。
強く広い心を持ったお前ならば破滅の存在を打ち倒すことが出来る」
「俺に……?」
「お前だけだ。ここは心の世界、心の持ちようにより力は幾らでも変化する。
そして、お前は心にアンデッドを宿している。
ラウズカードが無くともお前が望めばアンデッドは力を貸す」
「アンデッドが俺に力を……」
震える手で自分の胸に手を当てる。
その奥底に何か暖かいものを感じた。
「偽りの言葉を並べるのは貴様も同じね。
人間が私に立ち向かえるはずが無いわ」
「それだって嘘だろ!霊夢や俺はお前と戦えた。
それに翔は一度、お前を破っているんだ。
お前が完璧な存在じゃないくらい分かってる!」
シンが破滅の存在の言葉を否定する。
「そうだ……お前が全ての人間の敵になるというなら。
俺はお前を倒す!全ての人を護る為に!!」
剣崎は真っ直ぐに破滅の存在を睨みつける。
胸の奥の小さな力を確かに掴み吼えた。
人の心の奥底にある。
絶対に対抗する小さな剣。
それは勇気。
勇気の剣で絶望の呪縛を解き放ち、剣崎は駆け出す。
「お前も私に立ち向かえるっていうの……人間に何があったというのよ?」
破滅の存在は収束した黒き風を剣崎へと向けて放つ。
黒き竜巻が剣崎の体を飲み込んだ。
だが、それを蒼い光の壁が遮る。
「変身!」
黒き風を受け止めた光の壁を通過し、剣崎の姿が仮面ライダーブレイドへと変身する。
「精神世界でアンデッドと融合だと!?人間が心のレベルで他者と融合できるっていうの?」
破滅の存在はその現象に驚愕する。
「お前を倒してみせる。俺の勇気の力で!」
―――スラッシュ―――
―――サンダー―――
スラッシュリザードとサンダーディアーの力が剣崎の体の奥底より流れ込む。
そして、それはブレイラウザーへと宿り、無限の生命の力を纏う。
【ライトニングスラッシュ】
「ウェーーイ!!」
紫電の力を纏し刀身が破滅の存在の体を一閃する。
「ぐっ……ただの人間がこれほどの力を……」
破滅の存在は傷ついた体で上昇する。
「何処へ行く!?」
「お前を相手にするのは分が悪い……だけど、この男を復活させることだけはしない」
そして、真っ直ぐに心の樹へと向かって行く。
その先には蒼星石と翠星石の姿があった。

「これで良し……後は本人の心の強さ次第か」
「そうですね。でも、ここまで傷ついてもまだ、強い命の声が聞こえるです」
「うん、この心の樹の持ち主……橘朔也は強い心を持っている。
強く広い心……これを失わせることは人間にとって多大な損失だ」
「人間なんてどうでも良いですけど。この樹を失わせるのは翠星石も嫌です」
修復が完了し一息つく二人に黒い風が襲い掛かる。
「なっ!?」
二人は風に煽られ離れていく。
「心の樹を修復する……人も随分な物を作り出したわね」
傷ついた体で破滅の存在が出現する。
「お前は!?」
「こんな物を残していたら少し厄介になるわね……」
言葉を無視して破滅の存在は翠星石を睨みつける。
「まずは貴方から」
破滅の存在は黒き風を翠星石に向けて放つ。
「翠星石!」
それを蒼星石が体を盾にして防ぐ。
「蒼星石!何て無茶をするですか!?」
「仕方ないだろ。君は僕の半身なんだ。傷つけさせる訳には」
「それは翠星石にとっても同じですよ」
翠星石が涙を流して蒼星石を見る。
体の至るところに傷が走り。
見るからに息も絶え絶えだった。
「なら、仲良く壊れてしまいなさい」
寄り添う二人に破滅の存在が黒き風を向ける。
それを見て翠星石は蒼星石の体を抱きかかえ、ぎゅっと目をつぶった。
これ以上、蒼星石の体が傷つかないように。
自分の体を盾にして。
だが、風は何時までたっても吹き抜けない。
それに気づき翠星石は目を開けた。
その時、世界が輝いていることに気づく。
心の樹が輝き、世界を照らしていく。
それは燃え盛り荒れた大地を緑豊かな世界へと塗り替えていった。
「……心の世界が復活していくです」
そして、ようやく翠星石と破滅の存在の間に誰かが居ることに気づく。
「……アレほどのダメージを受けて……それなのに」
破滅の存在は言葉を繋げられない。
それほどまでに彼女の知る常識を打ち破っていた。
「君達が俺を助けてくれたのか……?」
破滅の存在に対峙する男。
橘朔也が翠星石と蒼星石を見下ろして尋ねる。
「翠星石たちはお前の心にちょっとした手助けをしただけです。
助かったのはお前自信の心の強さです」
「そうか……ありがとう。今度は俺が君達を助ける番だ!」
橘が叫ぶ。
「ならば、俺たちの力を使え」
そこにギャレン……スタッグビートルアンデッドが飛来する。
その周囲には4枚のラウズカードが浮かんでいた。
「お前が破滅の存在と戦うというのなら。この力、喜んで差し出そう」
「良し、任せろ!」
橘とギャレンの体が融合し、一つの存在となる。
紅き装甲の戦士。
仮面ライダーギャレンがそこに立っていた。
「随分と人の心を好き勝手してくれたな。貴様は許さん!」
―――ドロップ―――
―――ファイア―――
―――ジェミニ―――
三対のアンデッドの力がギャレンの全身を駆け巡り、両足の踵へと集中する。
「うおおおおおお!!」
――――バーニングディバイド――――
ギャレンは破滅の存在へと飛び掛り、その身を二つに別けた。
「この!」
破滅の存在は一体のギャレンに風を当てる。
ギャレンの姿は消え去るがその隙をもう一体のギャレンが襲い掛かる。
炎を纏った踵落とし。
その一撃に破滅の存在の体が消し飛ぶ。
「……人の心とは意外に厄介なのね……でも、良いわ。
こんなことは余興の一つに過ぎないんだもの」
そう言葉を残し破滅の存在は完全に橘の心の世界から消え去った。


夜の校庭
そこで橘は眼を覚ます。
「……俺は」
それに気づいて剣崎が橘の顔を覗き込んだ。
「橘さん!気がついたんですね」
「あぁ……どうやら、助けられたようだな」
橘は夢の中の事を思い出し呟く。
「ずっと悪夢を見ていたようだ……
ローゼンメイデン……二人の人形には助けられたな。
彼女達は?」
橘が尋ねると剣崎は目を伏せ、口を紡ぎ、一点を指差した。
橘が視線を送るとそこには翠星石に抱えられ、傷つきボロボロになった蒼星石の姿があった。
「あの時、破滅の存在の力を受けて……俺がちゃんとトドメをさせていれば!」
剣崎が地面を叩き悔しがる。
「いや、お前のせいじゃない。元はと言えば俺の心が弱かったのが原因だ」
橘が立ち上がり蒼星石の下へと歩いていく。
「ふふ……そんな事を言わないでくれよ。君の心は強い。
ただ、相手がそれ以上だったってだけだ」
蒼星石の言葉に橘は何も返せない。
これ以上、自分自身を攻めて見せても蒼星石に悪いだけだ。
「……ごめん、マスター。貴方と一緒に生きていきたかったんだけど」
「何も言うな。お前は一人の心を救い、そして、大切な姉を護ったんだ。
誇りこそすれ、謝らなければならない事は何一つしていない」
秋水は奥歯を噛み締め、蒼星石の手を取る。
「ありがとう……これでお別れだ。マスター。翠星石」
そして、蒼星石は眼を閉じる。
それと同時にその胸の中から光り輝く結晶が飛び出した。
「あれが……ローザミスティカ」
斗貴子がそれを見て呟く。
「ローゼンメイデンの力の結晶……それが出てきたということは蒼星石は本当に力尽きたって事ね」
真紅が顔を伏せ呟く。
「あ……あぁ……」
浮かぶローザミスティカを翠星石は呆然と仰ぎ見る。
そして、それに手を伸ばそうとした瞬間。
黒い羽根がそれを遮りローザミスティカを掠め取っていった。
「!?」
突然の事に翠星石は目を丸くする。
「ローザミスティカ、貰っちゃったわ」
声がする方に全員が視線を向ける。
電柱の上で黒い羽根を大きく広げた銀髪の人形が佇む。
「水銀燈!」
その姿を見て真紅が叫ぶ。
「全く蒼星石はお馬鹿さんね。アリスゲームとは何も関係ない人間を助ける為に命を落とすなんて」
水銀燈と呼ばれた人形は蒼星石を嘲笑う。
「貴方……ずっと機会を窺っていたのね」
「そうよ。翠星石と蒼星石が戦うというから見てたんだけど。
途中で帰ろうかとも思ったけど帰らなくて良かったわ」
「水銀燈!それを返すです!それは蒼星石のものですよ!」
翠星石が叫ぶがその姿に冷ややかな視線を返す。
「嫌よ。それに蒼星石はアリスゲームを降りた。だから、ローザミスティカが出てきたのよ。
それを奪うことは問題じゃないはず。
私達はこれを奪い合っているんですもの。
さっさと取らなかった貴方が悪いだけ」
そう言うと水銀燈が浮かび上がる。
「さようなら。お馬鹿さんたち」
水銀燈は漁夫の利を得てそのまま夜空へと消えてしまった。
「くそっ!蒼星石がどうして傷ついたのかも知らないくせに!!」
追いかけようとシンは転送機を掴むがインパルスのエネルギー残量が足りない。
これでは追いかけたところで追いつくことは出来ないだろう。
「そんな……こんなのって無いです……蒼星石」
翠星石は蒼星石の体を抱きしめて泣き崩れる。
「水銀燈……」
真紅はただ呟くと小さな手を握り締めた。
橘朔也の洗脳を解くことに成功した。
蒼星石の命を引き換えに。
それだけに飽き足らずその命は突然の襲撃により奪い去られてしまう。
やるせなさだけが夜の空間を包んでいた。



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