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幻想郷
そこは幻想となった存在が生き続ける楽園。
忘れ去られた妖怪、魔法が今もなお、残り続けている。
外の世界とは別位相に存在し、歩いていくことは出来ない。
だが、博麗大結界と呼ばれる特殊な結界により、遮られているだけであり、
ふとした拍子で紛れ込むものも存在するものの一般人には縁がない世界。
そんな世界にシン達は再び、訪れる事になった。
ピーコックアンデッド……伊坂の策略によって。

「まさか、久しぶりに会う知人がいきなり、家の中に現れるとは……」
魔法の森に住む魔法使い、アリス・マーガトロイド。
霊夢と魔理沙の知り合い。
シン達は雛苺の力で飛ばされた鏡を潜り、彼女の家に現れた。
そこを彼女に発見され、事態の経緯を説明する。
「私達もまさか、アリスの家に出るとは思わなかったさ」
魔理沙は椅子に座りながら背を後ろに倒す。
久しぶりに知人にあったせいか何処と無く楽しそうだった。
「想像する筈も無いでしょう。それにしても、何であの男は私達を幻想郷に送ったのかしら……?」
霊夢が小首をかしげる。
「確か、俺達を閉じ込めるとか言ってたけど……」
剣崎が伊坂の言葉を思い返す。
位相世界に閉じ込める。
彼はそう言った。
次元震のせいで境界が狂った世界に閉じ込めると。
「それじゃ、幻想郷から出れないって事……ですか?」
シンが剣崎に尋ねる。
だが、剣崎は答えを返せずに唸った。
「まぁ、考えても仕方ないわね。
とりあえず、神社まで移動しましょうか」
霊夢はそういうと立ち上がる。
確かにここで考えていても仕方が無い。
外に戻る為には外との繋がりが最も強い博麗神社に行かなければならない。
なら、ここで議論を交えていても仕方が無いだろう。
それに一同は賛成する。
「それじゃ、アリス。いきなり押しかけて悪かったな」
魔理沙も立ち上がる。
「あら、魔理沙はここに残ってても良いのよ。
別に貴方は外に帰る必要なんて無いんだから」
霊夢は暗に幻想郷に残れと告げる。
だが、魔理沙はその言葉を拒否する。
「つれないな。乗りかかった船だろ。最後まで見届けさせろって」
それが善意ではなく、自分の嗜好の為だと知っている皆は苦笑いを浮かべる。
「それじゃ、さよならだ……って、アリス。どうしたんだ?」
魔理沙がアリスに別れの挨拶をしようとするがアリスは一点を見て呆然としていた。
その眼は何処か熱に帯びている。
魔理沙がその視線を辿るとそこには椅子の上で眠っている真紅の姿があった。
彼女は落ち着いて直ぐにウトウトしだし、話の最中に眠ってしまっていた。
そんな彼女をアリスは恋焦がれた眼で見つめている。
「ねぇ、霊夢。あの紅い服の子って……もしかして、人形?」
アリスが霊夢に尋ねる。
その言葉には期待と不安が綯い交ぜになっていた。
そんなアリスとは対照的に霊夢は淡々と肯定する。
「そうよ」
「も、もしかして……ローゼンメイデン!?」
アリスが興奮した様子で霊夢に詰め寄る。
その様子に霊夢は鬱陶しそうに顔を引きつらせながら肯定した。
「そう言ってたわね。気高きローゼンメイデンの第五ドールだとか……
それがどうかしたの?」
霊夢の言葉にアリスは卒倒した。
「……やっぱ、この世界って変なのしか居ないのか」
シンはその様子を見て呟く。







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第十五話「終わらない冬」





博麗神社
あの後、アリスが真紅を預かるといって聞かないのを強引に振りほどき、ここまでやって来た。
「それにしても、あんなに落ち着いてたのに。あの豹変は何だったんだ?」
雪に埋もれた境内を歩きながらシンが呟く。
「部屋に大量に人形が置いてあったし、そういう趣味なんじゃないか?」
剣崎がその呟きに答えた。
アリスの部屋は人形が棚に大量に飾られていた。
それらが常にこっちを見ている気がして妙に落ち着かなかったので剣崎には印象強く残ってる。
「やっぱ、自分で動く人形って、人形好きにはたまらない物なのか」
カズキが納得したように呟いた。
人形が好きでなくても完全に自意識を持ち、独立稼動する人形なら凄いとは思うだろう。
人形が好きならばあそこまで夢中に慣れても納得できる。
「しばらく留守にしてたから完全に積もっちゃてるわね……。
これは雪かきが大変そうだわ……」
完全に銀世界と化している境内を見渡し霊夢が呟く。
現在、明かりの替わりにカズキのサンライトハートの飾り布で照らしているので周囲の様子はまるで真昼のように良く見えた。
「それより、早く中に入ろうぜ。寒くてしょうがない」
外の世界で春の暖かさになれた体には凍てつく雪の夜は心底堪えた。
「そうね……まぁ、中に入っても直ぐにはあったかくならないけど……」
そんな事を呟きつつ、博麗神社の中に入っていく。

囲炉裏に火をつけて暖を取る。
だが、完全に人が居なかった室内は冷え切っており、中々、暖まらない。
「それにしても……冬木と幻想郷は位置的には同じ場所にあるんだろ?
何でこっちはこんなに寒いんだ?」
剣崎が震えながら霊夢に尋ねる。
「別にこっちもいつもこんなんじゃないわよ。例年通りなら桜が咲いてお花見しててもおかしくないんだから……。
そういえば、外だともう、桜も終わった頃だったわね」
霊夢が外の世界を思い返し呟く。
彼女自身は今期が例外的に寒いのだと思っていた。
だが、位置としては同じ外の世界である冬木が暖かった以上、幻想郷もそれに順ずる気温になっていなければおかしい。
位相が違っても気温にそこまで差異は出ないはずである。
「前は異世界だからって納得してたけど……やっぱり、おかしいのか」
霊夢の言葉に剣崎が驚く。
「異変……かしらね?」
「そう言えば、気になってたんだけど。その異変ってのはどういう意味なんだ?」
会話の続きで剣崎が尋ねる。
剣崎はパピヨンが引き起こしたホムンクルス事件の時にも霊夢がそう言っていたのを聞いた。
「そのまんまの意味よ。本来ならありえない事態。幻想郷では力の強い妖怪が引き起こした事件を基本的にそう呼ぶんだけどね」
「それじゃ、霊夢は寒いのは誰か妖怪が起こしてる事だって言いたいのか?」
「まぁ、そうね。普通、おかしいでしょ。
まぁ、でも気にしなくても良いわ。異変を解決するのは巫女の仕事。
貴方がアンデッドを封印するのと同じ仕事よ」
霊夢は興味を示していた剣崎に釘を刺す。
「とりあえず、今日は寝ましょう。というか、眠いから帰すのは明日ね」
霊夢はそういうと欠伸をする。
「……今回もまた、無断外泊か……」
なのはがその様子を見ていて呟いた。
前回に引き続き二回目である。
「ごめん、時間も時間だったし……なのはは誘わない方が良かったね」
それを見てカズキが謝る。
敵の懐に潜り込むとあって出来る限りの戦力を集めた。
その事が裏目に出ている。
「そんな、カズキさんの責じゃありません。
戦うって決めたのは私ですから」
なのはは笑顔を見せるが家族のことが気になっている様子だった。
戦っていることを黙っている。
親に対して負い目が無いわけではない。
それはカズキも同じだが色々とツテがあるので気にしては居ない。
前回も友人がどうにか対処してくれていたし、現在はブラボーが管理人だ。
寮に居ないことはどうとでもなる。
「まぁ、焦って帰っても仕方ない。今日も皆、疲れてるだろうし休もう」
剣崎の言葉に全員が同意し、博麗神社で一晩過ごすこととなった。


翌日
空は灰色の雲で覆われ、雪が疎らに降っている。
境内で霊夢が儀式を行う。
外の世界へと送り返す儀。
前回はnのフィールドに潜む魔物の邪魔により妨害された。
今回も同じことが起きる可能性があるので警戒をしている。
もし、nのフィールドに落とされても今回は真紅も居るので帰るのに問題は無い。
緊張が続く中……しばらく、時間が経った。
「……おい、霊夢。何時になったら開くんだ?」
シンが霊夢に尋ねる。
前回ならとっくに扉が開いている時間だ。
だが、それらしい兆候すら見当たらない。
「……ダメね。開かないわ」
霊夢が息を吐き出し脱力する。
その言葉に全員が驚いた。
「開かないって……それじゃ、どうやって帰れって言うんだよ!」
「私が送り返せないんじゃ帰る方法は無いわね」
「無いわねって……外じゃLXEにアンデッドも居るんだぞ。
俺達が帰らなかったら……!」
シンは気持ちが焦る。
「まぁ、まずいでしょうね……でも、現実問題、私の力で外への扉が開かなくなってる。
それはどうしようもないわ」
霊夢はそれに落ち着いた様子で答える。
「……そうか。だから、アイツは俺達をこっちの世界に送ったのか」
剣崎が伊坂の言葉を思い返す。
次元震により、他世界との繋がりがほとんど無くなっている。
その唯一の出口である筈の通ってきた鏡は気づけば割れていた。
伊坂が割ったのだが剣崎たちはそれを見ていない。
だが、彼の言葉から伊坂がやったのだと半ば決定事項として認識している。
「まんまと罠にはまったって訳か……くそッ!」
シンは悔しそうに雪を蹴り上げる。
雪が宙に舞い、朝日に反射してキラキラと輝いた。
苛立つシン。
これでは牢獄に捕らえられてしまったようなものだ。
いや、牢獄ならまだ良い。
あちらは扉が見えるのだから。
ここでは外に通じる扉を見ることも出来やしない。
自分達の無力さをまざまざと見せ付けられているようだ。
「……元々は外には出れたけど次元震の影響で出られなくなったって言ってましたよね?」
なのはが俯いていた顔を上げて、皆に尋ねる。
「そう言ってた。俺達がこの世界に最初に来る原因になったアレだと思うけど……」
引き起こした張本人である剣崎がバツが悪そうに答える。
その言葉を聴いてシンが霊夢を見る。
「あれ、可笑しくないか?次元震が起こって入れなくなったんだろ。
でも、前に出ようとしたときは次元震の後なのにnのフィールドには繋がったじゃないか」
シンの言葉に霊夢が顎に指を当てて考える。
「そもそも、nのフィールドって所に繋がること事態が可笑しいことなんだけど……
今はnのフィールドへの扉も開かないし……
時間が経って更に影響が大きくなったのかしら……?」
「それとも他の要因があるのかも……
でも、私が言いたいのはそこじゃないんです」
なのはの言葉に全員が眼と耳を向ける。
「元々が絶対に来れない世界じゃないんだったら……
どうにかして元に戻せないかなって……私達の力で」
「確かに壊せたのなら元に戻せるかも知れないしな……」
「でも、ジュエルシードとアンデッドの力がぶつかって偶発的に起きた事態だろ?
ずれたからって反対側から叩けば直る訳でも無いだろうし。
それにそれだけのエネルギーをまた、用意できるのか?」
肯定的な剣崎と否定的なシン。
「……確かにやり方は分からないけど。それで何もせずに黙っててもしょうがないし。
何かできるかもしれないんだったらやってみる価値はあるんじゃないかな?」
そんなシンにカズキが尋ねる。
確かに方法は分からない。
だが、何も身動きを封じられているわけではない。
閉じた世界とは言え、幻想郷には色々な場所がある。
黙って待って居るよりも、動いて何かをしようとしているほうが外へ出られる確率は上がるだろう。
「……そうだな。でも、とりあえずどうするんだ?
一応、ジュエルシードはあるんだし、また、剣崎さんに蹴ってもらうか?」
シンは考えを切り替えると同時に無茶な案を提案する。
「いや、それは流石に……」
なのはを始めとして一同は苦笑いを浮かべる。
「それじゃ、まずは調べものからはじめませんか?」
静観していたユーノが提案する。
「この前、来たときにシンさんたちが捕らえられていた吸血鬼の館。
あそこには立派な図書館がありました。少し見ただけでも数多くの魔導書がありましたし。
もしかしたらこの状況を打開する手がかりがあるかもしれません」
ユーノの言葉で光明が差し込む。
即、その案は採用される事になった。

「それじゃ、あんた達は紅魔館に行くのね」
霊夢が話し合っているシンたちに向けて言う。
「なんだ?霊夢は手伝ってくれないのか?」
シンは当然、霊夢も一緒にこの状況を打開すべく力を貸してくれるものだと思っていた。
だが、霊夢は首を横に振る。
「確かに気にはなるけど……それよりもやらなきゃいけないことがあるからね」
「あら、今まで留守にしていた博麗の巫女がやらなきゃいけない事って何なのかしら?」
そこに第三者の声が上空からする。
皆が上を見上げると声の主が降下してきた境内に着地した。
銀髪のメイド。
紅魔館のメイド長である十六夜咲夜だ。
「咲夜じゃない。レミリアのお守りは良いの?」
「えぇ、この前負った怪我も治ったし、ここ最近は機嫌も良いから問題ないわ。
それよりも霊夢。貴方は今まで何処に行ってたの?
しばらく、神社を留守にしてたみたいだけど」
「色々あって外の世界にね。こっちに戻ってきたのも不可抗力なんだけど」
「外の世界に行ってたの。そのわりには外来人はまだ、居るみたいだけど」
咲夜は以前に見かけた外来人がそのまま居ることを不審がっている。
外に出たのならば彼らがまだここに居るのは可笑しいからだ。
「まぁ、色々よ。それで何のようで来たのかしら?こっちは帰ってきたばっかでやらなきゃいけないことがあるんだけど」
「そう、やらないといけない事ね。貴方はこの雪を見て何も感じないのかしら?」
咲夜が積もった雪を一つ掴んで持ち上げる。
「あぁ、何が良いたいか分かったわ。異変ね。
もちろん、私がやらなきゃいけないのはソレ。
外に行ってたのもあるけど長いこと、放置しすぎてるものね」
巫女の使命は幻想郷の異変を解決すること。
諸事情があったとは言え、それを長い間、放置しすぎたのは問題がある。
だから、今すぐにでも解決に乗り出さなければならない。
「なんだ。気づいてたのね。だったら、良いわ。それじゃ、行きましょうか」
咲夜はそう言い、霊夢に出発を促す。
その様子に霊夢は首をかしげた。
「行きましょうって……あんたは何処に行くのよ」
「何処ってこの異変の元凶よ。
もう、大体の位置は掴んでるわ」
「位置を掴んでるって……あんたも付いて来るつもりなの?」
霊夢の言葉を咲夜は肯定する。
「何を企んでるのよ?」
咲夜はただの紅魔館のメイドだ。
幻想郷を護る理由は無い。
それが異変解決に力を貸そうとしている姿は何か裏がありそうに感じられた。
「巫女が居なかったから替わりに動いててあげただけよ。
そこで中途半端に投げ出すのは気持ちが悪いから手伝うだけ」
何時ものように澄ました表情で咲夜が告げる。
「……まぁ、別に構わないけどね」
特に断る理由も思いつかないので霊夢はその申し出を受けることにした。
何かを企んでいたところで気にしすぎてもしょうがないと彼女は判断したのだ。
「それじゃ、俺もその異変解決、手伝うよ」
霊夢と咲夜の会話を聞いたシンが申し出る。
「あんたは外来人でしょ。幻想郷の問題に首を突っ込んでどうするのよ」
そんなシンを霊夢はあからさまに歓迎しない様子で答える。
「別にそんなの関係ないだろ。霊夢は今まで俺達の戦いに協力してくれたんだ。
だったら、俺が霊夢の戦いの手助けをするのは可笑しくないだろ」
シンは当然のことだと霊夢に告げる。
シンにとって霊夢は外での戦いに力を貸してくれた仲間なのだ。
そんな彼女が戦いに赴くのなら手伝おう。
それは自然と出た言葉であり、何か思惑がある訳ではない。
「そうだな。霊夢には色々とお世話になったし、少しぐらいは返さないと悪いよな。
正直、調べ物の手助けになる気がしないし」
剣崎も異変解決に名乗りを上げた。
剣崎もシンと同じ考えだ。
仲間が仲間に協力する。
当然のことであり悩む必要など無い。
「剣崎さんまで……どんな妖怪が引き起こしてるのかも分からないのよ?」
そんな言葉は方便でしかない。
幻想郷の問題に外来人が首を挟む。
その事態を霊夢は避けたがっている。
それは意識的ではなく無意識的なものだ。
「だったら、なおさら人数は多いほうが良いだろ。
それとも、俺達の力は信用なら無いってのか?」
それでもシンは食い下がる。
協力すると言い出したのは善意であり、必要性など無い。
だが、折角言い出した事が対した理由も無く却下されるのを黙ってるほどシンは人が出来ていない。
「……まぁ、それなりに戦えるってのは認めるけど……」
シンと剣崎の実力を知っていても霊夢は躊躇する。
敵が未知数だなどという言葉は彼らには無意味だ。
「いいじゃないか。何時もは一人だったんだ。今回ぐらいは誰かに手伝ってもらったって罰は当たらないんじゃないか?」
そんな霊夢の肩を魔理沙が叩く。
困惑している霊夢の様子が面白いのか魔理沙は何処か楽しそうだ。
「そういう問題じゃないんだけど……そう言えばあんたは付いてこないの?
何時もは勝手に首を突っ込んできてるみたいだけど」
他人事な様子の魔理沙に霊夢が尋ねる。
今まで異変があれば魔理沙は勝手に解決に乗り出していた。
決して協力し合っていたわけではないので霊夢はその姿を他人に聞いたことしかないが。
「あぁ、今回はなのはの手伝いに行って来る」
「ジュエルシードのほうが優先って訳ね」
「なに、困ってる人が居るんだ。助けるのは人間として当然じゃないか」
魔理沙の言葉に誠意など感じられない。
いつも通りに豪快な笑顔で答えた。
その様子に霊夢は溜息をつく。
魔法使いが魔法の道具に興味を示すのは仕方ない。
だが、それが外の世界のものであるのが問題だ。
霊夢はあまり、外の世界のことを中に持ち込みたがらない。
故に魔理沙の今の目的はあまり感心できないで居る。
「それじゃ、二手に分かれる事になるのか」
会話が途切れたところでカズキが尋ねる。
「図書館に幻想郷から出る方法を探す組と異変を解決しに行く組ですね」
それぞれ、境内側と階段側で少しはなれて集まる。
「異変を解決しに行くのは霊夢と俺と剣崎さん。それに紅魔館のメイドの咲夜か」
シンが集まったメンバーの顔を見る。
そして、咲夜に対して明らかに不満げな眼を向ける。
「私が付いていく事に異論でもあるのかしら?」
その視線を受け取り、咲夜が尋ねる。
「別に……」
口ではそういうが明らかに思うところはあるようだ。
だが、咲夜もそれに気づいてもそれ以上、何かを尋ねることはしなかった。
「こっちは私とユーノくんとカズキさん。それに魔理沙さんと……」
なのはがメンバーを確認していく。
そして、最後に会話には加わっていなかったもののちょこんと真紅が立っていた。
「真紅ちゃんも一緒に来るの?」
「当然よ。この世界から一刻も早く出たいのは貴方達だけじゃないのだわ」
一応、真紅にはこの場所が異世界であることは告げている。
幻想郷という場所がどういうところなのかも。
彼女自身は若干の興味を示したが別段、驚きもしなかった。
「それじゃ、真紅ちゃんも合わせて五人だね」
なのはが真紅もメンバーに加えて確認を終了する。

それぞれは分かれることになった。
先に図書館に調べものに行く組が出発する。
異変解決組はそれを見送った。
「結局、有耶無耶の内についていくる事になったわね」
霊夢が三人の顔を見て呟く。
結局、霊夢は同行に許可を出していない。
だが、話の流れでは何時の間にか同行することになっていた。
「まだ、反対なのか?」
シンの言葉に霊夢は溜息を漏らす。
「もう、良いわよ。好きにしなさい」
投げやりな様子で霊夢が答える。
「それで十六夜さん。異変の元凶の位置を掴んでるって言ってたけど。
何処に行けば良いんだ?」
剣崎が咲夜に尋ねる。
が、咲夜はその問いに反応が一瞬遅れる。
「あぁ、十六夜は私だったわね。苗字で呼ぶ人なんていないから反応できなかったわ。
そっちで呼ばれなれてないから、咲夜って呼んでくれないかしら」
「あぁ、分かった。それで咲夜。俺達は何処に向かえば良いんだ?」
咲夜は上空を指差した。
頭上には曇天の空が広がっている。
「……まさか、宇宙に行けなんて言わないよな?」
シンが上を見上げて尋ねる。
「宇宙って空よりも高い場所にあるところだったかしら。
まさか、そこまで行く必要は無いと思うわ」
「無いと思うって……結局、空に行くのかよ?
なんだ、上空に空飛ぶ船でもあるってのか?」
「さぁ、詳しいことは分からないわ。ただ、寒気を操る妖怪を退治してたら上空から桜の花びらが降って来たのよ」
咲夜がそう言うとシンと剣崎は唖然とする。
何で空から桜の花びらが降ってきたらこの長く続く冬の原因が空にある事になるのだろうか。
それが全く結びつかなかった。
「あぁ、空の上では桜が咲いてるのね」
だが、霊夢は納得していた。
「いや、ちょっと待てよ!空の上に桜が咲いてる訳無いだろ!
それに何でそれならそこに元凶が居るって事になるんだよ!?」
「そんなの行って見なければ分からないじゃない。
それと桜が咲いてるんだったらそこは春なんでしょ。
という事は幻想郷の春を奪ってるって事よ」
霊夢はシンを小ばかにしながら説明する。
「春を奪うって……魔法とか見ていてもなんとなく想像がつき辛いな……」
魔法や異世界を目の当たりにしても季節を奪うなどといった抽象的な事態は普通の人間である剣崎には想像しづらい。
それはシンも同じだったらしく頭を抱えている。
「納得できないならついて来なくても良いわよ」
「いや、行く!もう、何がおきたっておかしくないんだ。お前達が言ってることが正しいのかこの眼で確かめてやる」
シンは拒絶する理性をかなぐり捨てて霊夢たちの話を強引に信じ込ませる。
「まぁ、ついていくのはいいとして……目的地は空の上よ。
貴方達って飛べるの?」
咲夜がシンと剣崎に尋ねる。
その言葉に二人はその事に今気づいたのか呆然と立ち尽くした。
「俺はインパルスを使えば大丈夫だけど……」
インパルスのフォースシルエットは飛行能力を持つ。
空の何処まで飛ぶかは分からないがある程度の高度までは上昇可能だ。
だが……
「ブレイドには空飛ぶ力なんて無いからな……」
ブレイドに飛行能力は存在しない。
つまり、ただの人間である剣崎に飛ぶための手段は無い。
「だったら、俺が掴んで飛びますよ」
そんな剣崎にシンが助け舟を出す。
「掴むって……背中に乗るとかは出来ないのか?」
「無理ですよ。背中にはバーニアがついてるんですから。
直接触ったら火傷じゃすみませんよ」
フォースシルエットは背中に装備される。
そして、それはバーニアになっており、推進剤を噴射して飛行する。
その為に膨大な熱が発生しており、とてもでは無いが生身で触れる温度ではない。
「そうか……なら、仕方ないか」
流石にそんな所に乗るわけには行かないので掴まっていく案を採用するしかない。
「話は纏まったの。だったら、さっさと出発するわよ」
「あぁ」
霊夢に急かされシンは転送機を取り出す。
そして、気づく。
転送機は空間を歪ませ、モビルスーツを転送する。
そのおかげで遠くはなれた母艦からモビルスーツを瞬時に呼び出せる訳だが。
この閉じた幻想郷で呼び出すことは可能なのだろうか。
以前、レミリアと戦闘を行ったときは自分が異世界に居ることも知らずにインパルスを転送した。
転送は成功したが母艦であるミネルバの記録では転送先の座標は不明となっていた。
現在はその時と状況は変わり、外の世界に出ることが出来なくなっている。
シンは一瞬、考えるが転送機を起動させる。
「コール・インパルス!」
それと同時に何時も通り、シンの体がインパルスに包まれた。
「呼べた……」
その事にシンは驚く。
「外の世界の人間は奇妙な装備を持ってるわね。この前も見たけど」
咲夜が興味深げにインパルスを眺めている。
「誰でも彼でも持ってるわけじゃないみたいだけどね。
でも、魔法を使えないシンでも妖怪とまともに戦えるんだから外の技術って言うのは凄いわよね」
霊夢がそんな咲夜に同意するように答えた。
そんな少女を放置してシンは通信機に声を送る。
基本的に使用していないがインパルスは母艦であるミネルバと通信が取れる。
転送が可能ならば通信も可能なのではないか。
シンは少しの望みをかけて声を送るも返答は返ってこない。
「……ダメか」
落胆の声を漏らす。
「どうしたんだ?」
その様子に剣崎が尋ねる。
「いや……何でもないです」
シンは詳細を話すことをしなかった。
ここで話しても大して意味は無い。
それにシン自身も何故、呼び出せたのか、何故、通信が繋がらないのか。
その原因が分からないので説明が出来ないのだ。
ならば、あえて話をそらして事を荒立てる必要も無い。
今は幻想郷の異変を解決する。
その事に集中しようと考えた。
脱出方法は仲間を信じて託すべきだと考えた。
「それじゃ、行きましょうか」
霊夢が告げる。
終わらない冬を終わらせる為に、
暗く沈んだ幻想の空に少女と機械に身を包んだ少年が舞い上がる。


紅魔館
霧の湖の真ん中に存在するその館には吸血鬼が住んでいる。
その為に人間が近づくことはほとんど無い。
そんな場所にカズキたちは二度目の来館を行う。
目的は一つ。
この館の地下にある図書館。
かび臭く薄暗いそこに足を運び入れる。
「うわぁ……前見たときも思ったけど……一体、どれだけの本があるんだろ?」
なのはが見渡す限り本棚が立ち並ぶその空間を見て簡単の息を漏らす。
「そもそも、外で見たときよりも明らかに広いよね。この館って」
カズキが外から見た紅魔館を思い起こし呟く。
ここが地下とは言え、その広さは異常だ。
「あぁ、何でも咲夜が空間を弄って広くしてるらしいな」
そんな疑問に魔理沙が答えた。
「咲夜って……あのメイドの人ですよね。
あの人も魔法が使えるんですか?」
「魔法……魔法って分類して良いのか分からないけど咲夜は時間を操るんだ」
「時間を……?」
「そうそう、時間を止めたり、こうやって空間を弄って広くしたりな」
「随分と凄そうな能力ですね」
「まぁ、実際、霊夢も倒すのに苦戦した見たいだしな」
「苦戦って霊夢さんと咲夜さんって戦ったことがあるんですか?」
「あれ?聞いてないのか?
一年前の夏にレミリアの奴が異変を起こして霊夢が解決したんだ。
私も独自に動いてたんだが結局、霊夢に先を越されたんだよなぁ」
魔理沙が懐かしげに語る。
「異変って何を起こしたんですか?」
「確か……日が当たると外に出れないからって幻想郷中に霧を撒いたんだったかな?」
「それだけ?」
「まぁな。私は涼しくなって良かったんだけど人里じゃ色々と問題が起きてたらしいな」
「はぁ……」
その返事になのはは少し拍子抜けのような感覚を受けた。
異変というからには外での事件のように人命が危険に晒されるような事だと思ったからだ。
首謀者は吸血鬼。
人を襲う代表格のような妖怪である。
だというのに実際に起こした事件は過ごし辛いから霧を撒いただけ。
規模が大きいとは言え、そこまでの被害があったようには思えなかった。
「っと、話してる間についたみたいだな。よう、パチュリー」
魔理沙は知り合いの魔女を見つけて手を振る。
その姿を確認したパチュリーはげんなりとした表情を浮かべた。

「それで次元震の影響で外に出られないから他の方法が無いか調べに来たと」
パチュリーが本を読みながら用件を纏める。
その周りに皆が椅子に座って、小悪魔から紅茶を頂いていた。
「まぁ、そういうことだ。お前は無駄に知識も多いんだし何か知らないか?」
魔理沙が紅茶を一口飲んだ後に尋ねる。
「そうね。空間と空間を繋げて跳ぶ魔法もあるにはあるけど……
博麗の巫女でもつなげないとなるとそれじゃダメでしょうね」
「そうなのか?」
「あの巫女が偶に瞬間移動するのは知ってるでしょ?原理的にはアレに近いし。
まぁ、巫女は意識的に使ってるわけじゃ無いけど」
「確かにそれなら霊夢のほうが得意そうだな。それじゃ、壊れてるその扉ってのを直せないのか?」
「そっちのほうは検討が付かないわね。衝撃で離れているような状況になってるなら今度は逆の方向から衝撃を加えてみたら?」
「多分、そんな単純なことではないのでは……?」
なのはが魔理沙とパチュリーの会話に苦笑しながら入っていく。
「でしょうね。そんな事したら余計に離れていく……最悪、幻想郷が現実世界から完全に切り離される可能性もあるわ」
「それじゃあさ。誰かそういう事が得意な人って居ないの?」
カズキが尋ねるとパチュリーは首を横に振る。
「私の知り合いには居ないわね。そもそも、外にあまり出ないから。交友関係ならそこの白黒のほうが多いんじゃない?」
「私か?私もそういうのは知らないな。知ってたら流石に話すさ」
「でしょうね……可能性があるとすれば咲夜か」
「時間を操る能力を持ってる方ですね」
「空間も操れるから何か出来るかも知れないわ。今は出払ってて居ないんだけど」
「神社で会ったな。霊夢と一緒に異変解決に行くって言ってたぜ」
「そう。咲夜も貴方達に会ってから随分と外に興味が出てきたみたいね。
おかげでお嬢様のお世話がおろそかになり気味だけど。
そうなると話を聞くのは帰ってきてからになるわね。
後は他の技術体系の知識でも頼ってみようかしらね」
「他の技術?」
「錬金術の知識に何かある可能性はあるわ。多分、凄く低い確率だけど」
「って言うとヴィクトリアに聞くって事?」
カズキの問いにパチュリーが頷く。
「まぁ、正確には違うんだけど。
ヴィクトリアが素直に答えてくれるか……
そもそも、外に出てくるかも分からないけど」
「そっか……確かに何か嫌われてたみたいだし」
カズキは以前に出会った際のヴィクトリアの様子を思い出し呟く。
妙に刺々しい態度。
初対面なのに明らかに嫌われていた。
その事実を思い出してカズキはちょっとだけ落ち込む。
「まぁ、それは仕方ないわ。彼女は錬金術とそれに関わる全てを憎んでるから。
貴方が錬金の戦士という事実だけで彼女にとって憎むべき対象。
どうしようも無いことよ」
パチュリーの言葉にカズキは息を呑んだ。
どういう事情で憎んでいるのかは分からない。
だが、力を持っている人物すら敵意をむき出しにするほどの憎悪でありながら
なお、それでも関わろうとしてきた事実。
自分の胸に埋め込まれた核鉄。
それが何を意味しているのか……
「……ねぇ、そのヴィクトリアのフルネームは?」
今まで黙って紅茶を味わっていた真紅が口を開く。
「そういえば随分と珍しい物を連れているわね。
ローゼンメイデンなんてまさか、この眼で見る日が来るなんて思って無かったわ」
「先に質問に答えなさい!」
真紅が強い口調で言い放つ。
何処か焦りを感じている様子ですらあった。
何か嫌な予感を必死で頭から振り払おうとしているような……
「……ヴィクトリア・パワード。そういう名前だったかしらね」
パチュリーの言葉に真紅が愕然とする。
「一体、どうしたんだ?」
いきなり一人で慌てだした真紅に面を喰らいながらカズキが尋ねる。
真紅の取り乱しようは可笑しかった。
今の今まで何事にも落ち着いて対処してきた彼女からは想像が付かない狼狽振りだ。
真紅はワナワナと震えながらティーカップを見下ろす。
「……まさかと思うけどそのヴィクトリアは……」
「貴方の知っているヴィクトリア・パワードよ。
久しぶりね真紅」
本棚の影から金髪の少女が姿を現す。
真紅は声に振り向き、その姿を見て眼を見開いた。
「あぁ……なんて事なの……」
「まさか、真紅とこんな形で再開するなんてね。
出来れば会いたくなんて無かった」
ヴィクトリアが眼を伏せる。
その瞳は悲しみに揺れる。
「どうして……生きているの……?
いえ、どうして。あの時から殆ど姿が変わっていないの?」
真紅は絶望する。
今の現実に……

「一体、どういうことなんだ?
真紅とヴィクトリアは知り合いなのか?」
カズキが事態を掴めずに困惑する。
「えぇ、そうよ。私とヴィクトリアは知り合い……
いえ、友人よ。私が生まれて初めて出来た人間の友達」
「そっか、だったら折角の再会なんだからもっと喜ばないと」
カズキの言葉にヴィクトリアが溜息を漏らす。
その冷たい視線にカズキはビクリと後ずさる。
「喜べるような状況ならね……
本当なら私と真紅が再会してはいけない。
いえ、この時代で再会する筈が無い」
その重い言葉に図書館内の空気が張り付いたように固まった。
「この時代……?」
「私が作られたのは約百年前よ」
真紅の言葉でようやく歯車がかみ合う。
ヴィクトリアの見た目はどう見繕っても十代前半。
長生きだとしてもその容姿はありえない。
何らかの方法で人間で無くならない限りは。
「えっ……それって……」
「見た目も変わらず、寿命で死なない。不老不死の生物。
あぁ、それだと魔法使いもそうなるわね……
でも、そんな生易しい存在じゃないわ」
ヴィクトリアはパチュリーを見た後に視線をカズキに移す。
「人間型ホムンクルス。それが今の私よ」
その言葉と殺気にカズキは思わず胸に手を当てる。
「待って!」
それを真紅の言葉が制する。
「どうして貴方がホムンクルスに……
貴方は誇り高き大戦士と錬金術師の娘。
それがどうして?」
「それだけは真紅……例え貴方にも教えられない。
それでどうする?錬金の戦士……
貴方は私を殺すの?」
ヴィクトリアの挑発を受けてカズキは胸に当てた手に力を込める。
だが、その手を下ろした。
「戦わないよ……口は悪いけどそんなに悪いようには見えないし。
……それに例えホムンクルスでも……殺さなくて済むなら殺さないほうが良い」
カズキはパピヨンをこの手で討った夜を思い出す。
ただの獣とは違う一つの個をもった存在の打倒。
この世に生きてきた命の抹殺。
それが人類の敵であるホムンクルスであろうとも心が痛むものだった。
「カズキさん……」
その様子を悟りなのはが呟く。
「随分と甘い考えね。それでも本当に戦士なのかしら?」
「いえ、戦士よ。紛れもなく」
蔑むヴィクトリアを真紅が否定する。
「討つべき敵と討たなくても良い敵を見極められる立派な戦士。
貴方の父と同じ……」
「同じじゃない!
パパを錬金の戦士なんかと一緒にしないで!!」
ヴィクトリアは真紅の言葉を拒絶する。
その激しい反発に真紅は言葉を失う。
「ヴィクトリア……一体、何があったの?
私と別れた後に……貴方達家族に何があったっていうの!?」
真紅の問いにヴィクトリアは答えを返さない。
「……懐かしく思わず出てきたけど……会わないほうが良かった。
貴方を見ているとあの幸せだった日を思い出してしまう……
さようなら。もう二度と会うことは無いでしょう」
ヴィクトリアはそれだけ告げると本棚にさっと身を隠す。
「ヴィクトリア待ちなさい!」
真紅がその後を追う。
だが、消えたはずの本棚を除き見てもその姿は見当たらなかった。
「何処に行ったの?」
「諦めた方が良いわ。ヴィクトリアが会うことを拒絶したなら会う方法は無いわ」
途方に暮れる真紅にパチュリーが告げる。
「それにしてもヴィクトリアがローゼンメイデンの所有者だったことがあるなんてね」
「違うわ。ヴィクトリアはミーディアムではない」
「ミーディアムじゃない?それじゃ、ミーディアムの知り合いだったのかしら?」
「そうでもないわ。ヴィクトリアの両親は私のお父様の友人。
初めて会った時、ヴィクトリアは今よりもちょっとだけ小さかった。
そして、最後に分かれた時と今の姿は殆ど変わってない。
だとしたらあの子は十三歳でホムンクルスになった。
それから百年を行き続けてきた……そういう事なの?」
「そうなるわね。私と知り合ったのは遂最近だけれど。
私が百歳ぐらいでヴィクトリアはちょっと年上だからそんなものね」
「どうして……最強の戦士と謡われた大戦士ヴィクターとお父様と並ぶほどの天才と讃えられた錬金術師アレキサンドリアの娘。
そんな子が何故、ホムンクルスに……」
真紅の落胆振りは凄まじいものだった。
誰もが彼女に声をかけられないで居る。

それから、真紅はそっとしておく事にして図書館を捜索することが始まった。
事情を詳しく知らない身では深くは踏み込めない。
「……カズキさん。少し気になることがあるんですが」
人間姿に戻り本を調べているユーノが上段の本を取りに登っているカズキに尋ねる。
「何?」
「いえ、先ほどの真紅さんとヴィクトリアさんの話で気になったことがありまして」
「ヴィクトリアがホムンクルスになった原因?」
「いえ、そうではなく……真紅さんとヴィクトリアさんが出会ったのは百年前という話でしたよね」
「うん、確かにそう言ってた」
「はい、それでヴィクトリアさんの両親は戦士と錬金術師だと言っていました」
「……となるとヴィクトリアは錬金術の申し子なのか」
「必ずしも遺伝するとは限りませんが一般人よりも相当に素養が高そうですね。
僕が言いたいこととそれは関係ないのですが……
LXEに協力しているという裏切りの戦士も確か百年前に戦団を裏切ったんですよね」
「確かブラボーがそういってたけど……それがどうかしたの?」
「いえ、百年前より戦団が存在してたならヴィクトリアさんの両親が戦団に所属していたのはほぼ間違いないでしょう。
となるとヴィクトリアさんがホムンクルスになった件も何か関係あるんじゃないかと思いまして」
「そういえば時期的には一緒なのか。でも、どっちも同じ場所とも限らないし」
「そうとも限らないかも知れませんよ」
二人の会話になのはが入ってくる。
「戦団の本部はイギリスにあるって言ってましたし。ヴィクトリアさんは白人っぽい見た目してました」
「って事はありえるのか?でも、裏切りの戦士が実際に何をしたかなんて聞いてないしな……」
「そればかりは戻ってキャプテンブラボーに聞くか、本人に問いただすしかありません。
でも、百年立っても未だに戦団にマークされ追われていたと言うことはそれだけの事をしでかしたということです。
もし、この二つに繋がりがあるなら裏切りの戦士を捕まえればヴィクトリアさんに何があったのか分かるかもしれません」
「……真紅に話してみるか。出来れば仲直りしてもらいたいし」
「そうですよね。本来なら再会する筈が無かったって言っても……折角、また出会えたんです。
だったら、このまま喧嘩してるなんて良くないです」
ヴィクトリアに起きた事件。
それが何かは分からない。
だが、その事を解決できたとしたら二人を仲直りさせることが出来るかもしれない。

「魔理沙~、居る~?」
本の森の中を歩きながらアリスが魔理沙の名を呼ぶ。
「何だ、アリスじゃないか。どうしたんだ?」
その声に反応して魔理沙が顔を出した。
その手には大量の本が抱えられている。
「やっぱり、ここに居た」
「私に会いに来たのか?この前借りた本ならまだ返せないぞ」
「その件についても色々と言いたいことがあるけど……
それよりもローゼンメイデンは何処に居るの?」
鼻息も荒くアリスが魔理沙に詰め寄る。
魔理沙はここまで興奮しているアリスを見るのが始めてで対応に困っていた。
「その為にここまで来たのか?」
「もちろん!神社に行っても誰もいないからもしかしたらと思ってきたんだけど。
ここに居るのよね?」
「あ~……居るには居るが、今は止めておいた方が良いぞ」
「何かあったの?」
「まぁな」
魔理沙はあの暗い雰囲気を思い出して溜息を吐く。

真紅は椅子に座り、ティーカップを手に包んで、その中の紅茶を見つめていた。
赤い液体に移る自分の顔が落ち込んでいるのが分かる。
妹である雛苺がアンデッドとホムンクルスに利用され、敵対することになった。
更にその者たちの策略で送り込まれた世界でかつての友の変わり果てた姿を見る事になった。
「今回の目覚めは最悪ね……」
一つ呟く。
ローゼンメイデンは所有者が変わるたびに眠りに付く。
あの日……
お父様であるローゼンと分かれた日。
あの日より何度か眠りと目覚めを繰り返してきた。
様々な者と契約し、時には姉妹同士で戦い生きてきた。
その中でこれほどまでに衝撃的な展開に出会ったことは無い。
「……パチュリーさんと言ったかしら?」
「何?」
真紅の言葉にパチュリーが本から目を離さず答える。
「あの子……ヴィクトリアに何があったの?」
「知らないわ」
意を決した質問はあっさりと返される。
「貴方は今のあの子の友人じゃないの?」
「小悪魔はそう思ってるみたいだけど別にそういう関係じゃないわ。
お互いに利用しあうと言った方が正しいわね」
「そう……あの子は一人ぼっちなのね」
真紅は思い出す。
両親に連れられ、自分が住んでいた館にやってきた彼女のことを。
歳相応の笑顔で無邪気に微笑みかけてくれたことを。
見た目は殆ど変わっていないというのに。
その顔はまるで凍りついたように無表情だった。
「雛苺にヴィクトリア……問題は山積みね」
真紅はカップを持ち上げ、口に運ぶ。
温くなった紅茶が咽喉を流れた。
「折角の紅茶が台無しね」
「あっ、今、お代わりをお持ちしますね」
近くで待機していた小悪魔がやってきてカップを回収する。
「ごめんなさいね。折角、入れてもらったのに私がグズグズしていたから台無しにしてしまったわ」
「いえいえ、新しいのを入れなおせば済みますのでお気になさらず」
「そうね。紅茶は入れなおせば良い。でも、そういう訳には行かないものもあるわね」
顔を上げる。
今ここで悩み、立ち止まってしまえば全てが消え去ってしまう気がした。
今すべき事。
それを為さなければならない。
時間は全てを癒すと共に全てを洗い流す。
動ける時に動けない者に幸福は訪れない。
真紅は心の中で一つの決断を下した。
「探したわよ!真紅!」
そんな真紅にアリスが大声で突撃をかける。
そのテンションの高さに真紅は面を喰らい眼を丸くした。
「貴方は……?」
真紅はアリスと面識が無い。
次元移動のショックで気を失い次の日まで眠っていたので直接彼女を眼にしていないのだ。
「そう言えば自己紹介がまだだったわね。
私は七色の魔法使い……いえ、人形遣いのアリス・マーガトロイドよ。
始めまして人形師ローゼンが生み出した至宝ローゼンメイデンの第五ドールの真紅」
アリスが息を整え、丁寧にお辞儀をする。
「アリス……随分とかわいらしい名前なのね」
真紅はその名前を聞いて微妙な表情を浮かべる。
アリスは真紅たちローゼンメイデンが目指す完璧な少女の事。
ありふれる名前だとは言え、それと同名の者が居れば複雑な気分だった。
それも自らを人形遣いと名乗るとは。
「ありがとう。素直に受け取っておくわ。
それよりも真紅。私の家に遊びに来ない?」
アリスは真紅の前まで駆け寄りその手を掴む。
その欲望にまみれた興奮を隠し切れないアリスの顔に真紅は気圧される。
「おいおい、アリス。まるで誘拐犯みたいだぞ」
ようやく追いついてきた魔理沙がそんなアリスを見て呆れ果てる。
「何を言うのよ。ただ、お友達になりたいから家に誘っているだけでしょう」
アリスが取り繕うように顔を赤面させる。
「お前が誰かを家に誘うとは珍しいな。
そんなに生きた人形が気になるのか」
「なるほど。人形遣いからすれば自意識を持ち稼動するローゼンメイデンシリーズは咽喉から手が出るほど欲しいものよね。
さては、私を家に誘い込んで体を調べようとしていたのね」
真紅が侮蔑の瞳で見つめる。
「そ、それは……だって、私の夢は自律する人形を造ることなのよ。
その成功例が目の前にいれば参考にしたいって思っても良いでしょ!?」
アリスは正直に叫ぶ。
その様子に魔理沙は溜息を漏らす。
「いつもクールなお前がここまで取り乱すとはな。よっぽど切羽詰ってるみたいじゃないか」
「あんたには分からないでしょうね。伝説といわれたローゼンメイデンが目の前にいるチャンスがどれほどのものなのか」
「分からないね」
必死なアリスを魔理沙が愉快そうに見る。
常に余裕を持とうとするアリスがここまで取り乱している姿は初めてなことなので魔理沙にとっては非常に愉快だった。
「良いわよ」
そんなアリスに真紅が答える。
その言葉にアリスは一瞬、硬直する。
「え?」
そして、信じられないという様子で聞き返した。
「貴方の家にお邪魔するという話。私は構わないのだわ」
「そ、それって……」
「私の体を弄らせる気は無いのだわ。ただ、幻想の世界の人形師がどんなものか見てみたいというだけ」
「そ、それでも良いわ!それじゃ、今すぐ行きましょう!直ぐ行きましょう!」
興奮のあまり今にも鼻血を噴出しそうなアリス。
そんな彼女の眼を見ず真紅は立ち上がった。
「(雛苺を取り戻すには力が居る。あのアンデッドを倒せるぐらいの力が……)」


凍てつく空を行き、吹雪く雲を突き抜ける。
その先、凍った風の中、巨大な門がそこに存在していた。
「空に門……どうなってんだ?」
シンは不思議な光景に眼を丸くする。
「とりあえず、花びらはあの先から降ってきてるみたいね」
霊夢は風に流されてくる桜の花びらを一欠けら掴み取る。
「まぁ、あの門の先以外にありえないわね。
他に何も無いもの」
「霊夢はあそこが何なのか知らないのか?」
ブレイドに変身している剣崎が霊夢に尋ねる。
「私だって幻想郷の全てを知ってるわけじゃないわ。
まぁ、行ってみれば分かるでしょ」
「分かるでしょって……一体、何が住んでるんだ?」
「さぁね。とりあえず門の大きさからして随分と広い場所みたいね」
四人はその門へと近づいていく。
「大きな門だな……開くのか?」
シンが門を見回して呟く。
霊夢は一人、何も警戒せずに門に近づいて門を押す。
そして、門を開けた。
「ん?何か結界が張ってあった見たいね」
「結界?それにしては随分簡単に開いたみたいだけど?」
「あぁ、触れたら破れたわ。随分と脆いわね。有ってないようなものだわ」
特に気にせず霊夢は開いた門から中に入っていく。
「って、良いのか?ようは閉められてた事だろ?」
「えぇ、そのはずよ。程度は分からないけど触れただけで結界を破壊するなんて……
博麗の巫女ってのは本当、不思議な力があるわね」
咲夜も霊夢が触れただけで結界を破壊した件については驚いているようだった。
逆にシンと剣崎はそれがどのようなものなのか図れないので特に感想は無い。
結界とは何かを護る為に設置するもの。
それを触れただけで破壊することなどありえないのだ。
それを可能にする霊夢の能力。
それは驚嘆に値する。

門の先には階段があった。
それは長く、上層は見えず、何段あるのか考えるだけでもぞっとする。
だが、それはようやく発見できた地に足付ける場所。
シンは剣崎をそこに下ろす。
「ふぅ……流石にずっと掴まって飛んでるっていうのは生きた心地がしないな」
剣崎が安堵の息を漏らす。
いくら仮面ライダーといえどこの高度から落下すればダメージは計り知れない。
そんな状況で恐怖心を持つなというほうが無理だろう。
「次はこの階段を登っていくのか……」
シンが上空を見上げる。
桜の花びらはその先から降り注いでいた。
「そうみたいね。まぁ、飛んでいけば良いんだもの。問題は無いわ」
「……まぁ、ライダーならこの段差も苦じゃないか」
変身中は体力も底上げされている。
登りきってもそこまで疲れることは無いだろう。
だが、見ているだけで気が滅入る高さだった。
「仕方ありませんよ。それじゃ行きましょう」
シンが一歩、足を前に出す。
それと同時に踏み出した足の少し前を何かが切り裂いた。
「誰だ!」
シンは即座にビームサーベルを抜き叫ぶ。
「それはこっちの台詞です」
上空、そこに何時の間にか一人の少女が浮かんでいた。
白い髪の少女はその手に長い一振りの刀を手にしている。
「そこより一歩でも先に出るというなら……斬ります!」


巨大な屋敷
その庭で一人の女性が巨大な桜の樹を見上げていた。
その桜には見事なまでの花が咲き誇る。
空を覆い尽くさんばかりの桜の花。
直ぐに散ってしまう儚き花は世界を染め上げる。
だが、完璧ではない。満開ではない。
あと少し、足りない。
あと少し……たった少し。
女性の足元から影が溢れる。
それは巨大な桜から続いていた。
桜の木の下には死体があるという。
死を糧に桜は咲く。
では、桜は死の花なのだろうか?
それが完全に花開いたとき……
それは死が成就した瞬間となるのか



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