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邪悪な意思……
その存在を通じて翔は自分自身に疑問を持つようになった。
今まではシンや剣崎たちと共にあればよい。
それだけだったがここに来て失われた記憶に関して動いてみようと思ったのだ。
記憶に関する謎を握る人物は二人。
烏丸所長……
翔を見つけ、保管していたと思われる人物。
だが、現在ではアンデッドに捕まり、行方は分からない。
もう一人はnのフィールドで出会った少女……終焉。
彼女事態は翔の事を知らないと言ったが彼女に命令を下す存在は翔の事を知っている。
彼女に出会えば自分自身の謎に近づけるだろう。
朝
何時ものように士郎が学校に出かけたのを見送り、霊夢に話しかける。
霊夢は台所で洗い物をしていた。
居候勢の中では一番の働き者である。
他の居候は基本的に何もしていない。
「なぁ、今日も真紅の所に行くのか?」
「何?幻想郷探しを手伝ってくれるつもりにでもなったの?」
霊夢は洗い物をしながら答える。
翔は霊夢がこちらに来た当初こそは付き合って居たものの最近ではアンデッド探しに協力していた。
幻想郷を探すということはnのフィールドに入るということで終焉に出会う可能性がある。
その為に拒否していたのだが、今では逆に会いに行こうとしている。
心境の変化とは不思議なものだと翔は苦笑いを浮かべた。
「いや、あの終焉って名乗ってた奴に会いに行こうと思ってな」
「終焉……あぁ、あいつね。なんでまた?」
「アイツに命令を出してる存在が俺について知ってるみたいだったからな。
会って話を聞いてみたいと思って」
「あぁ……そう言えば記憶喪失って話だったわね。まぁ、良いんじゃない?
言っておくけど私は手伝わないわよ」
霊夢は洗い物を終えて手を拭いている。
「勿論。ただ、同じ場所に行くなら一緒に行こうと思っただけだ」
自分の記憶探しは個人の問題だ。
最初から他人を巻き込むつもりは無い。
「それくらいなら別に良いわよ」
霊夢がエプロンを外しながら答える。
行くは桜田家。
そこから繋がるnのフィールド。
世界の狭間に自分の謎を求めて、翔は動き出すことを決意した。
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第十四話「気高き紅」
桜田家
「それで今日は久しぶりの顔も居るのね」
真紅が翔と霊夢を出迎える。
霊夢はほぼ毎日のように尋ねてくるので手馴れたものだ。
のりも既に学校に登校しているのでこの家に居るのは真紅とジュンだけである。
翔は階段の上からの視線に気づいて顔を向ける。
上から覗いていたジュンが顔を引っ込めるのが見えた。
「……あいつは学校に行かなくても良いのか?」
翔が真紅に尋ねる。
「あぁ、ジュンはヒキコモリなのよ。学校なんて行く意味が無いと言っていたわ」
「ふ~ん。そういうものなのか」
特に気になった訳ではないので翔はそれ以上、何も尋ねない。
挨拶もそこそこに物置部屋に入っていく。
nのフィールドはそこにある古い鏡から侵入が可能だ。
とは言っても誰でもこの鏡から入れる訳ではない。
霊夢と翔は真紅に手を借りなければnのフィールドに入ることは出来ないのだ。
「鏡だったら何処からでも入れるのか?」
鏡を覗き込みながら翔が尋ねる。
「そういう訳では無いわ。それ相応のものでないとダメよ。
古く造りの良い物だったら入れるわね。
逆に新しいものや粗悪品ではnのフィールドに繋がらないわ」
真紅の言うようにこの鏡は年代物で価値も高そうな鏡だ。
このような品はそうそう見つからないだろう。
「幻想郷にあるのか?」
「そういう物がありそうな所が何箇所かあるし問題無いと思うわよ」
霊夢は大して気にしていない様子だった。
「それよりも入るならさっさと入りなさい」
真紅が鏡の中に侵入して行く。
その後を追って霊夢と翔も鏡の中へと入っていった。
nのフィールド
永遠の暗闇と無数のドアで構成された世界。
様々な世界の狭間。
「……時空管理局が言っていた次元世界とは違うものなんだよな?」
翔は改めてその世界を眺めながら呟く。
昨日、接触した時空管理局。
彼らは次元世界を航行し、様々な世界を渡り歩くという。
nのフィールドも世界の狭間……
だが、とてもではないが艦が航行するような場所には見えない。
「そんな事知らないわよ」
霊夢はそういうとそのまま飛んでいってしまう。
冷たい反応だと思いつつ翔も飛び立とうとした。
nのフィールドは思った方向に移動することが出来る。
特に目的地も無いので適当な方向へと動き出した翔を真紅が呼び止める。
「勝手に行動するのは止めておいた方が良いわよ」
その言葉に翔は停止し、真紅に向き直る。
「どうしてだ?」
「貴方、この世界でもう一度、ここに戻ってこれる自信があるのかしら?」
真紅に尋ねられ翔は辺りを見回す。
見渡す限りに無数のドア、ドア、ドア。
それ以外は暗闇。
こんな場所、普通の方向感覚ならちょっと行けば真っ直ぐ戻ってくることなど不可能だ。
その事実に気づいて翔は青ざめる。
「自信が無いなら私に着いて来なさい。
貴方の目的は焉と会うことなんでしょう。
だったら、私と一緒に行動していても問題は無い筈だわ」
真紅の提案に頷いて翔は彼女の元へと戻る。
そして、そこで気がつく。
「って!霊夢は一人で行っちまったぞ。大丈夫なのか!?」
霊夢の姿は既に見えない。
普通なら完全に迷子になっているところだ。
「あぁ、あの子ね。あの子なら問題ないわ。最初、私が止めるのも聞かずに飛んで行くからもう戻ってこないと思ったんだけど。
私が戻るよりも先に家で寛いでいたわ。
人間にしては優れた帰巣本能を持っているわね」
真紅が感心した様子で答える。
幻想郷の不思議な巫女はこの異世界でも適応しているようだった。
彼女自身は人間だというが色々と規格外である。
「なら、良いか。それじゃ、今日はご一緒させてもらうぜ」
「男ならエスコートの一つもして欲しいところだけど……貴方にそれを望むのは酷というものね」
「まぁ、俺の記憶にそんな能力は無いな」
適当に受け答え、真紅が飛び立つ。
翔はその後を追いかけた。
それから、一時間ぐらい後
今の今まで無言で後を付いていた翔が突然、口を開く。
「ところで真紅は何を探しているんだ?」
真紅はその問いに振り向かず、一瞬の間を置いて口を開いた。
「……姉妹を探しているのよ」
「姉妹……ローゼンメイデンシリーズって言うドールか」
「えぇ、お父様が作り出した至高のドール……その内の一人を探しているわ」
「……そいつだけ行方が分からないのか?」
翔の問いに真紅はしばし沈黙。
そして、少し冷たい声で答える。
「勘違いしているようだけれど、私達姉妹は基本的にお互いの居場所を知らないわ」
「どうしてだ?姉妹なんだろ?」
「……私達はお互いのローザミスティカを狙っているの」
「ローザミスティカ?」
「私達の命の源よ。それを抜かれれば私達は動くことは出来ない。
人間で言えば死ぬようなものね」
その言葉に翔は目を見開く。
お互いにローザミスティカを奪い合う、それが指し示す意味
「それじゃ、姉妹同士でお互いに命を狙いあってるって言うのか!?」
「……そうなるわね」
「なんでまた、そんな事を?」
「お父様に言われたからよ。全てのローザミスティカを集めたとき、私達はアリスに至る。
そして、お父様はアリスとなったドールとしかお会いになってくれないの」
「……それって父親に会うために姉妹を殺すって事なのか?」
人間に当てはめれば相当に猟奇的だ。
いや、人間でなくても。
そのような事を言い出したお父様と呼ばれている存在が狂っているようにしか翔には感じられなかった。
「……まぁ、普通はそういう反応でしょうね」
真紅は一度も翔に顔を向けない。
その為に翔は彼女がどのような表情でその事を語ったのか分からなかった。
だが、声だけは異常に淡々としているように感じられた。
「……まぁ、それぞれ事情はあるよな。否定はしないよ」
「そういうって事は納得はしていないって事ね」
見透かすように真紅が告げる。
図星な為に翔は何も返せない。
変に思い空気の中、そんな空気を物ともせず、来訪者が現れる。
「これはこれは珍しい。このような場所で運命の小枝を見かけるとは」
言葉の方角へ翔は首を向ける。
そこには兎の顔をしたスーツ姿の男が立っていた。
「……ダメだ。橘さんと連絡が取れない」
留守番電話に繋がった携帯電話の通話ボタンを切り、剣崎が呟く。
ここは剣崎の個室。
そこで剣崎とシンは橘について話していた。
スパイダーアンデッドを封印した橘。
その時の異常な様子。
そして、封印が完了したと共に逃げ帰っていった。
同じように捕まった仲間を無視してのその行動。
前科があるとは言え異常だ。
故に連絡をとろうとしているのだが、一向に繋がらない。
「……一体、どうしちまったって言うんだ」
あまりにも不可解。
そもそも復活からして不可解。
だが、剣崎にもシンにも何故、そうなったのかという理由が分からなかった。
「とにかく、考えていても仕方が無い……俺達に出来ることをしよう」
こうして、悩んでいても始まらないと剣崎が告げる。
シンもそれに頷く。
だが、もやもやとした気持ちがそれで晴れるわけではなかった。
アースラの艦橋
そこでクロノとアースラの管制官であるエイミィがシン達についての情報を纏めていた。
情報と言ってもユーノから口頭で聞き出した程度の情報でしかない。
「彼らは基本的にアンデッドとホムンクルスという怪物を倒す為に協力しあってるのね」
アンデッドと戦う事を仕事としている剣崎。
その剣崎が所属していたBOARDに対アンデッドの戦力として派遣されたシン。
ホムンクルスと敵対する錬金戦団に所属するカズキと斗貴子。
主に彼らがあの集団のメインとなっている。
「不死身の怪人に人を食う化け物か……
アンデッドは能力は高いがその絶対数の少なさと活動範囲の狭さに救われている感じだな。
ホムンクルスは地球の技術で生み出せる為に様々な場所で暗躍している。
この街に居るのはその一部って所か」
「どの世界にも問題ってのはあるものね」
「仕方ないことだろ……ジュエルシード以外はこの世界の問題だ。
僕達が首を突っ込むことじゃない」
「まぁね。このどちらに対してもこの世界で対応できているみたいだもんね。
でも、こんな状態でジュエルシードの問題にまで関わっちゃうなんて運が悪いわよね」
「運が悪い……か」
「何か気になることでもあった?」
「いや、ホムンクルスって言うのはこの世界でもそんなに暴れまわるものじゃないみたいだし、
アンデッドに至っては一万年前に封印されたものが復活した物だって言う。
そんな者が暴れまわっている地域にジュエルシードが落ちたのは本当に偶然だったのかなって思って」
「まぁ、確かに何か作為的な物は感じるわね。
クロノくんはその二つに関してもプレシアが関わってるって思ってるの?」
「いや、それは分からないけど……」
こんな事件が折り重なるのはどれだけの確立なのか?
この中の一つに遭遇することでさえ普通ならありえない程だ。
何者かの思惑があるとしても、それが誰なのか、何が狙いなのか。
そんな事を漠然と考えてしまうが答えなんて導き出しようが無い。
ただ、この事件が単純に終了する未来だけはどうしても思い描けなかった。
「敵側はこれぐらいにして。あのなのはちゃん達の事だけど。
誰も彼も随分と実力者が集まってるみたいね」
「まぁ、曲がりなりにもジュエルシードと戦っていたんだ。
それ相応の実力が無ければとうにやられてるだろ」
「それにしても、皆、随分とバラバラよね」
「モビルスーツにライダーシステム、武装錬金か……
後、二人の女の子が魔法に似たような力を使う、と。
次元世界に進出はしていないけど兵器開発の技術力は相当なレベルだな。
特にライダーシステムと武装錬金はデバイスにも匹敵する技術だ。
良くこの文明レベルでここまでの物を開発しているものだよ」
アンデッドと融合し、その力を使うライダーシステム。
使用者の闘争本能に呼応し、その姿と能力を変える武装錬金。
そのどちらも時空管理局には存在しない技術であり、時空管理局の把握している世界にも類似のものは無い。
「この世界で主力となっているのはモビルスーツと呼ばれている全身装着型の強化鎧みたいだけど。
こっちはその二つに比べれば随分と大人しい技術ね」
モビルスーツに使用されていると思わしき技術に目新しいものは無い。
人間サイズで使用できる光学兵器といった高い技術も存在するがそこまで眼を引くものは無かった。
「……気になることは多いけど。今はとりあえず、目先の事件から解決していくしかないか……」
聞けば聞くほどに奇妙な点が多い。
それほどまでにこの世界は他の世界に比べて異質だった。
クロノは得体の知れない魔境に入り込んでしまったかのように背筋に冷たいものを感じながらそれを振り払う。
「ラプラスの魔」
真紅が兎顔の紳士に向かって言い放つ。
その言葉を受けて男……ラプラスの魔は会釈を返した。
「ごきげんよう、第五ドール。
お目当ての妹は見つかりましたかな?」
「まだよ……それよりも”運命の小枝”ってどういう意味かしら?」
出会いがしらで彼のはなった言葉。
運命の小枝を見かける。
その発言者の視線の先に居たのは真紅と翔。
真紅はそのように言われたことも無ければここで見かけることも珍しくも無い。
だとすればそれは翔の事になるが。
それの意味することが不明だったし、何よりラプラスの魔は翔を知っている事になる。
「そこの彼の事ですよ」
事も無げにラプラスの魔は翔を指し示す。
「あんた……俺のことを知ってるのか?」
不気味なラプラスの魔を警戒しつつ、翔は尋ねる。
その質問にラプラスの魔は頷いた。
「えぇ、以前、お会いしたこともあるのですが……どうやら、記憶喪失というのは本当のようですね」
「昔の俺を知っているのか……だったら、教えてくれ。
俺は何者なんだ?」
翔が自分の胸に手を当てて尋ねる。
その表情には少しの不安が隠れていた。
自分自身がこの世界にとって異物のようなものであるかもしれない。
真実が光明とは限らない。
「それは難しいことを尋ねられる。
人が何者であるか?それを答えられるのは真理にたどり着いた者だけでしょうな」
ラプラスの魔はおどけた様子で答えた。
いや、答えていない。
「そんな御託が聞きたいわけじゃない!
俺は……人間なのか?」
一番の不安。
前はそんな事は考えなかった。
だけど、スパイダーアンデッドの呼び出した蜘蛛を見て、何も感じなかった。
シンや剣崎が動けなくなり、霊夢も気おされていた。
彼らとの決定的な違い。
翔はその事をそう感じていた。
人間である彼らと自分は何か別の存在なんじゃないのか。
そんな風に考え始めていた。
「どうやら、人間であることに執着を持ち始めたようですね」
何やら感心したようにラプラスの魔が答える。
そして、言葉を続ける。
「そんなに気になるのならばお教えしましょう。
貴方は……」
言葉は銃声によって遮られた。
「今日の任務は兎狩りです」
二丁の拳銃を構えながら焉がやってくる。
銃を撃ったのは彼女で撃たれたのはラプラスの魔だ。
「いやいや、見事な奇襲だ」
だが、撃たれた筈のラプラスの魔はピンピンした様子。
気づけば先ほどまで居たはずの場所から随分と翔から遠ざかっている。
そうこうしているうちに焉は翔とラプラスの魔の間に入り込んだ。
「貴方が表れるとなると……あのお方の差し金ですか」
「私はただ、兎を狩れと言われただけです」
問答は早々に切り上げて、焉は二丁の拳銃でラプラスの魔に狙いをつける。
「これは恐い。狩られる訳には行きませんので私は逃げさせてもらいましょう」
飄々とした態度を崩す事無く、ラプラスの魔は姿を消した。
それを見届けると焉は銃を腰のホルスターに戻す。
「何故、邪魔をした?」
翔は木刀を焉に向ける。
「結果的に貴方の邪魔をした事になるのでしょう。
ですが、私にも私の事情が有りますので」
焉は向き直り、翔の目を真っ直ぐと見つめる。
翔は珍しく苛立っていた。
今にも焉に切りかかりそうなほどに殺気がもれている。
「そこまでにしておきなさい!」
そんな二人の間に真紅が割って入った。
「真紅……?」
「誰にでも事情があるわ。
それに貴方が彼女を殴ったところで進展なんてありえないでしょう?」
真紅の言葉に翔は冷静さを取り戻して、腕を下ろした。
「貴方に助けられたのはこれで二度目ですね」
焉は素直に感謝の意を示す。
「そうね、この借りはいずれ返してもらいましょうか」
「もちろんです」
真紅の言葉に焉は頷いた。
「それはそうと。翔、貴方は焉に何か尋ねたい事があったんじゃないかしら?」
真紅に促され翔はハッとする。
ラプラスの魔が自分の秘密を知っていたことから執着したが
元々は焉に会うためにここまでやってきていたのだ。
ここで出会えたのは運が良いと言える。
「そうだ。焉、お前は前にあったときにお前の主が俺のことを知っていると言ったな」
「いえ、言っていませんよ」
「だけど、俺のことを護るように命令されていたんだろ?」
「それは肯定です」
「だったら、そいつは俺のことを知ってるんじゃないのか?」
「可能性はありますね。以前も言いましたが付いて来たければ断る理由はありません」
焉の言葉に翔は少し悩む。
ここで彼女の言葉に従い付いていけば全て分かるかも知れない。
だが、彼女の主も彼女自身も謎の存在だ。
そんな奴らの懐に乗り込んで言ってただで済むのかという問題もある。
思考が巡る。
そして、翔は答えを決めた。
その日の夜
穂群原学園の寄宿舎にて事件が起きた。
寄宿舎に住む生徒が夢うつつの様子で歩き出し、表に止められていたトラックに乗り込んでいった。
寄宿舎に居た斗貴子はブラボーに連絡を入れ、その集団に紛れ込んだ。
斗貴子が見た様子で正気を保っている生徒は一人もおらず、全員が何者かに操られている様子だった。
「全員、集まったか」
キャプテンブラボーが全員を見回す。
シン、剣崎、カズキ、士郎、なのは、霊夢、魔理沙……
「ん?天翔がいないがどうしたんだ?」
木刀を持つ少年の姿が無い。
「翔なら出かけてる」
それにシンが答える。
その様子は何処か落ち着かないようだ。
理由は一つ、翔が焉に付いて行った。
その事は真紅を通して霊夢に伝わり、皆に伝わっている。
戦いを放棄して自分の事を優先した形になったが、誰も責める様子は無かった。
彼には彼の理由がある。
だが、シンは正体不明である終焉について行った事も不安だったし、
彼が本当はどんな存在なのか、それを知ってしまうことも不安だった。
「そうか……まぁ、今回は彼を連れて行くつもりは無かったからな」
ブラボーの言葉にその場の空気が張る。
翔を連れて行けない。
それほどの戦いになるとブラボーは言っているのだ。
何だかんだと言ってもアンデッドとの戦いでも翔はついてきている。
彼なら逃げきれる安心もあったし、護りきれる自信もあった。
だが、それが通用しない戦いであると暗に言っているのだ。
「そして、衛宮士郎……君も今回は留守番だ」
続けて告げられる言葉も当然だろう。
それほどの戦いなら戦う力を持たない士郎では。
「そんな!俺だって何か手伝えるはずだ」
キャプテンブラボーの言葉に士郎が食い下がる。
だが、ブラボーはそれを断固として拒否した。
「ダメだ。俺達はこれから敵のアジトに乗り込む。
半端な実力で生きて帰ってこれるほど甘くないぞ」
それでも士郎は諦めなかったがブラボーは聞き入れてくれなかった。
結局、士郎は置いていき、斗貴子から連絡があった場所に向かう事になった。
「でも、何で寄宿舎の生徒なんて攫ったんだ?」
シンが疑問に思い尋ねる。
人質にするにしても多すぎる。
「普通ならばホムンクルスの食料と考えるのが妥当だ」
その疑問にブラボーが答えた。
その言葉にカズキの心がざわめく。
連れ去られた寄宿舎の生徒にはカズキの妹や友人達も含まれて居る。
「だが、だとすれば直接に奴らが寄宿舎を訪れれば問題ない。
全員を攫うなど騒ぎが大きくなりすぎる」
ブラボーの経験からその線は薄いと感じていた。
決して無いわけではない。
だが、本命の目的が他にある。
「……剣崎一真。スパイダーアンデッド……クラブのエースが封印されんだな?」
今度はブラボーが剣崎に尋ねる。
「あぁ、間違いない。橘さんが封印した」
カテゴリーエース。
チェンジの力を持つアンデッド。
それが封印されたこと。
烏丸所長が誘拐され、奴らの手にあること。
橘の謎の復活。
そこから、ブラボーは最悪な展開を予想した。
「俺の憶測に過ぎないが最悪の事態かも知れない」
「どうしたって言うんだ?」
「奴らは新しいライダーシステムを作ろうとしているのかも知れない」
その言葉に全員が驚愕する。
アンデッドと融合し、強力な力を得られるライダーシステム。
それを敵が持つ。
それは恐ろしいことだった。
仮面ライダーの力を知っていれば知っているほどに、敵に回した時の恐怖は大きい。
「何故だ!?スペードは俺が、ダイヤは橘さんが、ハートは相川始が持っていた。
クラブも橘さんが封印している。
これ以上、ライダーシステムは作れないはずだ」
ライダーシステムはカテゴリーエースのカードを必要とする。
理論上、最大でも四つまでしか製作することは出来ない。
その余りが無ければいくら、烏丸所長と言えども作れるはずがないのだ。
「……アンタは橘さんが裏切ったって……そう言いたいのか?」
シンがブラボーに尋ねる。
そう、逆に考えれば未だにライダーシステムに利用されていないカテゴリーエースが存在する。
それが昨日、封印されたクラブのエース。
それさえあれば烏丸所長を手中に収めているLXEにライダーシステムの開発は可能。
だが、奴らがそれを持っているということは……
暗に橘朔也が裏切っているとキャプテンブラボーが言い出した事に他ならない。
「いや、俺は彼は裏切っていないと思っている」
「だったら、何で奴らが……LXEがライダーシステムを作ってるなんて言うんだ?」
「裏切っていない……だが、操られている可能性はある。
何かしらの精神的な改造を受けた。だとすれば、橘朔也が恐怖心を直ぐに克服できたのも納得できる」
その言葉にシンも剣崎も反論できない。
橘の豹変ぶりはシンも剣崎も不審に思っていたことだからだ。
「まぁ、行けば答えは出る……だが、覚悟しておいてくれ。
もし、俺の推測が正しければ……俺達は仮面ライダーギャレンと戦う事になる」
ブラボーの言葉で脳裏に浮かび上がるのはゼブラアンデッド、スパイダーアンデッドを封印したギャレンの戦いぶり。
それを相手にしなければならない。
そして、強さだけでなく。
特に剣崎は橘と言う男のことを知っている。
シンやなのはも助けられたことがある。
それゆえに戦い辛い。
今までで最も過酷な戦いになることが予想できた。
閉鎖された工場の地下
そこで生徒達が台に乗せられ、眠らされていた。
そんな彼らに白衣を着た男達がバックルと測定器を持ち、何かを調べている。
「やはり、変身に耐えうるだけの融合係数を持つ者は中々、見つからないな」
そんな事を呟きながら作業が続いていた。
それを眠った振りをしながら斗貴子が耳を澄ます。
現在のところ、特に身体に何らかの処置が施された様子は無い。
故に直ぐに行動を起こさずに事態を探っていた。
「(変身……融合係数……まさか、仮面ライダーの事か……?)」
変身といえば思い起こされるのは剣崎たちが仮面ライダーに変身するときの言葉。
融合係数も剣崎から聞いたことがある。アンデッドとどれほど融合できるかの数値。
これが高いほどに融合は大きく、それだけアンデッドの力を発揮できる。
斗貴子はそこからほぼ、確信した。
敵は新しい仮面ライダーを作ろうとしている事を……
「(剣崎さんは仮面ライダーには誰でもなれる訳ではないと言っていたが……
奴らは寄宿舎の生徒からそれが出来るものを探しているということか……)」
だとすれば、直ぐに殺されることは無いだろう。
だが、適合しない人間は恐らく、ホムンクルスの餌になる。
馬鹿正直に元に帰すとは思わなかった。
「(動くにしても援軍が来るまで待たなくてはな……
流石に私一人では彼らを無傷で助け出すのは無理だ)」
寄宿舎の生徒に傷をつける訳には行かない。
彼らは平和な世界を生きる人間達だ。
この戦いの世界を垣間見せる必要は無い。
斗貴子が思案していると研究員達が俄かにざわめき始めた。
「……やはり来たか……調査は一時中断。私達は非難するぞ」
そういい、彼らは機材を片付け始めた。
「(ブラボーたちが来たか……だが、妙に落ち着いている……)」
研究員と思わしき者たちの声の落ち着き具合、それが斗貴子には引っかかった。
「研究員はただの人間だ。注意しろ」
ブラボーが研究員に軽い当身をぶつけ気絶させる。
「了解!」
シンや剣崎も変身せずに相手をする。
ただの人間が相手だったら力は必要ない。
むしろ、本気で戦ったのなら殺してしまう可能性がある。
ただ、なのはだけはそういう訳には行かないのでブラボーに護られる形になっている。
「気をつけろ、ホムンクルス以外にもあいつらはモビルスーツを持っている」
シンは捕まったときに出会った三人を警戒し、警告する。
戦えない相手ではない。
だが、相手は曲がりなりにもザフトの最新鋭モビルスーツ。
シンのインパルスと同等の性能を持つ。
能力は人間型ホムンクルスに比べれば常識的。
だが、性能の高い飛び道具を所持している。
それだけでも危険な相手だ。
近接戦闘がメインの剣崎とカズキでは相性が悪い。
「それにしても……意外と広いな」
敵は出てこないものの固まっていては捜索に時間がかかる。
「……仕方が無い。ここは分かれて捜索しよう。
シン・アスカと剣崎一真と博麗霊夢で三人。
戦士・カズキと高町なのはと霧雨魔理沙の三人で別れろ」
戦闘でのバランスを考えれば前後に分かれられる組み合わせがベスト。
そして、シンと剣崎、カズキとなのはは何度かコンビで戦っている経験がある。
霊夢と魔理沙はどちらも遠距離主体。
なのはと魔理沙が共に戦っていることが多いため、彼らを組ませた。
その組み合わせに全員文句は無いようで頷く。
「ブラボーは?」
「俺は一人で大丈夫だ。とにかく、最優先は攫われた生徒の保護だ。
奴らを倒すことは二の次に考えろ」
目的を探る為に利用してしまった形になるがこれ以上、生徒たちを傷つけるわけには行かない。
その命令には全員納得した。
そして、彼らはそれぞれに走り出した。
シン達は探し回っているうちに広い空間に出る。
それと同時にビームが降り注いだ。
「危ないッ!」
咄嗟に反応した霊夢が結界を張り、それを防ぐ。
だが、結界は貫通されなかったものの消失してしまった。
「敵か!?コール・インパルス!」
「変身!」
シンと剣崎は慌てずに戦闘態勢へと移行する。
それと同時に黒い獣が風の如く襲い掛かり、霊夢に飛び掛った。
「きゃっ!」
霊夢は反応しきれずに獣に腕を押さえ込まれ、押し倒される。
「霊夢!」
剣崎が獣を払いのけようとするもその背後からビームが照射される。
「うわっ!」
衝撃に吹き飛ばされ、剣崎は廊下に投げ出された。
「剣崎さん!霊夢!」
不意打ちからの連係で二人が押さえ込まれた。
焦るシンに再びビームが襲い掛かる。
シンはそれを咄嗟にシールドで防ぐ。
「お前の相手は俺だ!ザフトの新型!」
声と共に機動ポッドがシンの周囲に展開する。
「まずい!」
囲まれたシンは咄嗟に防御の薄かった前方に飛び出した。
そこに待ち構えていたカオスガンダムが上からビームサーベルを構えて襲い掛かる。
「もらった!」
「甘い!」
シンはそれをビームサーベルで受け止める。
ビームとビームの刃が激突し、火花が散る。
「見え見えなんだよ!」
インパルスがカオスを蹴り飛ばす。
周囲を包囲され、隙が見えた時点で相手の思惑は分かっていた。
あえて、それに乗ることで必勝を思い込んだ敵を迎え撃つ。
必勝を信じた時に隙が生まれる。
シンはそこを突いたのだ。
「ちょっと!離れなさい!」
霊夢の怒声と共に光が溢れる。
それは霊夢が体全体から霊力を放出した事による光。
霊力の奔流が衝撃となり、押さえ込んでいた黒い獣……ガイアを弾き飛ばす。
「スティング!ステラ!……こいつら!」
一人立つアビス。
仲間が倒されたことに意識が向く。
その瞬間にブレイドがアビスへと肉薄した。
それはアウルにとって予想外だった。
無防備な背後への攻撃。
それで終わりだったはずだ。
通常のモビルスーツなら。
だが、異常なほどの防御力を誇るブレイドはそれだけでは止まらない。
確かにダメージはある。
だが、剣崎の戦意を喪失させるには足りなさ過ぎた。
「ウェーイ!」
ブレイドは走りながらビートをラウズする。
ライオンアンデッドの力がブレイドの右腕に流れ込んだ。
その力を持ってブレイドはアビスを殴り飛ばす。
アビスはすんでで反応し、肩のアーマーで受け止めるがその衝撃に弾き飛ばされた。
それは一瞬の攻防だった。
入り口に入ってきた瞬間。
その隙を突いての速攻。
そこにミスは無かった。
遠距離攻撃を得意とする霊夢を押さえ込み、厄介なブレイドに無防備な状態で最大の攻撃をぶつける。
そして、仲間二人を失い焦っているはずのシンに全方位攻撃で油断無く仕留める。
それで終わりのはずだった。
「……強い」
スティングは素直に感心する。
彼らの最大の失敗は敵を過小評価したことだ。
霊夢の力は今までの戦いで見せたのが全てではなかった。
ブレイドの装甲はモビルスーツの火力で一撃で戦闘不能に出来るものではなかった。
シン・アスカは予想以上に成長していた。
必殺の戦法が必殺ではなかった。
その時点で勝利など訪れるはずも無い。
瞬く間の反撃による形勢の逆転。
それは単純な実力の違い。
カオス、アビス、ガイア……その三機では同数である彼らを倒すことは無理だということを
スティングは悟った。
「……二人とも、作戦変更だ……気に食わないが蝶々爺の手に乗るぞ」
「……まだ、やれる」
「そうだぜ。ここまでコケにされて黙ってられるか!」
しかし、スティングの言葉をステラとアウルは拒否する。
実際、戦闘は始まったばかり。
三機共にまともなダメージを受けている訳ではない。
「真正面から向き合ってる時点で勝ち目は無いことは分かっているはずだ。
ザフトの新型はともかく、仮面ライダーにあの赤白女の援護が加わったらまず、俺達の装備じゃ落とせない」
作戦開始前に既に何度も戦闘データからシュミレーションを繰り返していた。
ブレイドはアンデッドよりも防御能力が高く、霊夢は結界を張り、自在に防御を行う。
その二つの壁を突破するのは現行のモビルスーツの火力ではほぼ不可能。
三機の中でも最大火力を誇るアビスですら倒しきるに至らないだろう。
それなのにシンまで存在する。
現状のシンの力量は彼らが一体一で相手をするのは難しいという判断だった。
「……うん」
「……ちっ、分かったよ」
ステラとアウルは了承する。
ここで無駄に戦い命を落とすよりも勝ち目のある行動に移す。
それは当然の判断だ。
彼らは意思を決定すると一気にその場から離脱する。
壁を破壊し一目散に逃げ出した。
「待て!」
それをシン、剣崎、霊夢の三人は真っ直ぐに追いかけた。
誰一人としてそれが罠であると話もしない。
いや、頭のどこかでその可能性は考えて居るだろう。
だが、それなら真正面から打ち破れば良い、この場で逃がすよりもそれは下策だと判断したのだ。
その判断はあまりに迂闊だった。
カズキたちは不思議な部屋にやってきていた。
「鏡張り……?」
その部屋はその全てを鏡で覆っていた。
敵の基地の中、その部屋はあまりに異質。
「カズキ、くれぐれも床は見るなよ」
魔理沙の言葉にカズキが振り向く。
「何で?」
「何でってそりゃ、乙女の秘密が丸写しだからな。
なるほど、なのははピンクか」
魔理沙の言葉になのははスカートを押さえる。
部屋の全てが鏡張り。
それは床も天井も。
「あぁ……なるほど」
流石にカズキも理解したのか頷く。
「見ました……?」
なのはが硬い笑顔でカズキに尋ねる。
「大丈夫、今は見てないから」
カズキの言葉になのはは胸を撫で下ろす。
「今?って、事は前に見たことあるのか?」
魔理沙の言葉になのははビクリと反応して、カズキの顔を見る。
カズキはバツが悪そうに頬をかいた。
「あぁ……ほら、なのはってスカート姿で空を飛び回るだろ。
だから、前に見えちゃった事が……」
カズキの言葉になのはは両手を地面につけて項垂れた。
「いや、ほら、見えちゃってからは意識してみないようにしてるから大丈夫だって!
シンも剣崎さんも見ないように気をつけてるって言ってたし!」
カズキの言葉になのはは更に落ち込む。
つまり、大体の仲間には見られていたということだ。
そんななのはの肩を魔理沙が優しく叩く。
「そんなに気になるならドロワーズ穿こうぜ。幻想郷じゃ皆、穿いてるぞ」
魔理沙も霊夢も着用している。
スカートを穿いて空飛ぶ少女の常識というものだった。
そんな環境は幻想郷限定だが。
「……今度からそうします」
なのはは半泣き状態で頷いた。
そして、何で最初にバリアジャケットをイメージした時にスカートにしたんだろうと反省する。
今更、変える気も無いのだが。
「それよりも……この部屋って何なんだろ?」
カズキは話題を変える。
ここは敵陣であり、何時までも騒いでいるわけにもいかない。
なのはも直ぐに意識を切り替えて辺りを見回した。
だが、見えるのは自分の姿ぐらい……
「えっ!?」
その中、先ほどまで無かったものが見える。
それは小さな女の子だった。
金髪に大きなリボン。
ピンクを基調にした服にはフリルが大量についている。
「女の子……?」
この施設にはあまりに不似合いな存在。
その少女は俯いて座っていた。
まるで泣いているようだ。
「大丈夫?」
即座にカズキが近づいて尋ねる。
「カズキさん!危険すぎますよ!」
その迂闊な行動にユーノが叫ぶ。
だが、彼が乗っているなのはも少女へと駆け寄った。
「なのはも!」
「でも、放っておく訳には……」
どういう理由にしても小さな女の子が泣いているのだ。
放っておく訳には行かない。
それは彼らの正義感。
困っている人は助ける。
それを当然と行う優しい心。
そんな彼らだからこんな戦いに巻き込まれ、こうして街の為に戦っている。
だが、だからこそ苦労を背負い込み、痛く辛い戦いをしている。
それは長所であり、短所である。
「どうしてこんな所に……君も捕まったの?」
カズキは彼女もホムンクルスに攫われた被害者ではないかと尋ねる。
その問いに少女は頷いた。
「うん……変なお髭をしたお爺さんとお月様みたいな顔の人が来て雛と巴をここまで連れて来たの」
「雛ちゃんって言うの?」
なのはが尋ねると少女は頷いた。
「うん、雛は雛苺って名前なの」
「雛苺ちゃんって言うんだ。……それで巴って人と一緒に捕まったの?」
少女は質問に頷く。
どういう事情にしろ、こんな小さな女の子を捕まえたLXEに対して怒りが湧く。
「良し、俺達と一緒にここを出よう。巴って人も俺達が助ける」
カズキはそういい彼女に手を差し出した。
だが、雛苺はその手をとろうとしない。
「……どうしたの?」
反応を返さない雛苺になのはが尋ねる。
その問いに雛苺は搾り出すような小さな声で答えた。
「……ごめんなさい」
それと同時に鏡の中から突如として轍が延び、カズキとなのはの足を掴んだ。
そして、その足は徐々に鏡の中へと引きずり込まれる。
「なっ!?」
突然の事態に反応できず二人は困惑する。
「ごめんなさい。貴方達を捕まえないと巴と遊べなくなるの……
だから、大人しく捕まって」
雛苺が立ち上がる。
それはまるで人形のように綺麗な少女だった。
いや、その雰囲気をカズキ達は知っていた。
「まさか、貴方はローゼンメイデン!?」
人形のような少女。
そして、鏡の中へと連れて行こうとする能力。
「あれ?貴方達はローゼンメイデンを知ってるの?もしかして、姉妹の誰かの知り合いなの?」
雛苺は驚いている。
ローゼンメイデンと接触し、その存在を知っている人間は稀だ。
基本的に契約するミーディアムぐらいだろう。
だが、カズキとなのはには契約の証の指輪が無い。
故に知っているとは思っていなかった。
困惑する雛苺。
その時、鏡の中から輝く何かが飛び出した。
そして、それはカズキとなのはの足に絡みつく轍を破壊する。
「人工精霊!?」
それを見て雛苺が叫ぶ。
人工精霊……
それはローゼンメイデンのサポートをする小さな仲間。
故にローゼンメイデンしか持ち得ない。
「私よ、雛苺」
鏡の中からそれは現れた。
真赤なドレスに身を包んだ金髪の高貴な少女。
「し、真紅!」
ローゼンメイデンの第五ドール真紅。
その登場に雛苺は驚く。
「気高きローゼンメイデンが脅されたとは言えこんな真似をするなんて……
貴方にはローゼンメイデンのプライドは無いの?」
真紅は雛苺に厳しく言い放つ。
その迫力に雛苺は涙目になり、後ずさる。
「でも……でも、そうしないとあいつらは……あの化け物は巴を食べちゃうって……」
雛苺が言う。
食べる、それは脅しでも比喩でもなく、実際にそうするであろう。
彼女を脅迫する相手がホムンクルスであれば。
「……なるほどね。錬金の戦士が何故居るのかと思えばこの街にもホムンクルスが居るのね」
真紅は全てを察し、嫌悪と怒りに表情を歪ませる。
「真紅はホムンクルスのことを知ってるのか?」
「当然よ。錬金術の愚かな失敗作。アレは世界の理を乱す存在よ」
真紅は吐き捨てるように言い放つ。
「世界の理を乱す……か。それは人間という種族全てに当てはまる言葉だな」
言葉が差し込まれる。
その声に全員が振り向いた。
そこには黒いコートにサングラスをした中年の男が立つ。
怪しい雰囲気を放つ男。
その登場にカズキとなのはは意識をそちらに向ける。
「あ……」
雛苺はその男を見ると震えだした。
そして、その場に座り込む。
「どうした?ミーディアムが助けたいのならば命じたとおりに行動しろ」
サングラスの男が命令する。
その冷たい声に雛苺はビクリと身震いした。
恐怖……雛苺はこの男を完全に恐れている。
「貴方が元凶ね」
真紅はそれを察すると手から薔薇の花びらを男に向かって放出する。
「ローゼンメイデン……人間が作った人形如きが……」
襲い掛かる薔薇の花弁に対して男は手を翳した。
するとその手から炎が飛び出し、花弁を燃やし尽くす。
「魔法!?」
人間ではないその力にユーノが叫ぶ。
「ふん、弱い生命が小細工で真似したものと一緒にするな」
男は不愉快だと吐き捨てる。
「まるで自分は人間以上って口ぶり……まさか、アンデッドなのか?」
人を見下し、魔法としか思えない力を行使する。
姿はまるで人間だがホムンクルスとは思えなかった。
ホムンクルス自身は特殊な力を持たない。
使うならば武装錬金だ。
だが、目の前の男は武器を持っていない。
だとすれば他に該当する存在はアンデッドしか思い浮かばなかった。
「そうだ。本来なら脆弱な存在と戦うなどありえない事だが……
そろそろ、うろちょろ動き回られるのは鬱陶しくなってきた所だ」
男は手をカズキに向ける。
それと同時に打ち出される火炎弾。
身構えるカズキ。
それよりも早く、カズキの前になのはが飛び出した。
そして、前方にプロテクションを展開し、炎を受け止める。
「人の言葉を話す……貴方がブラボーさんの言っていた上級アンデッド……」
「そうだ。俺はただ、本能のままに暴れることしか出来ない奴らとは違う。
そう、知性も力もな」
今まで戦っていたアンデッドの上位存在。
その存在に着いてはキャプテンブラボーより告げられていた。
下級……今まで戦っていたアンデッドですら単独で戦うのは困難な敵。
それの更に上の存在となれば太刀打ちも困難に思えた。
「……俺が前に立つ。なのはは魔理沙と一緒に援護してくれ」
カズキは武装錬金を展開するとなのはの前に立つ。
「でも、相手はアンデッドですよ。一撃でも当たっちゃったら……」
錬金の戦士といえども武装錬金以外はただの人間。
特別な防御能力を持たないカズキの耐久性はそこまで高くない。
一般人に比べれば遥かに頑丈だがモビルスーツや仮面ライダーといった特殊な鎧に身を包んでいる者と比べればほぼ同じである。
なのはもその二つに比べれば耐久性に落ちるがバリアジャケットという魔法の装甲服に身を包んでいる。
それだけでも随分とマシだ。
「あいつがどんな実力かは分からないけど。なのはじゃ接近戦は無理だ。
それに元々、俺は近づかないと戦えないし」
なのはの接近戦能力は低い。
元が砲撃型な為、近距離での戦いに関する魔法をほぼ持たず、技術も鍛えられていない。
それでは敵の注意を引き付けても一方的に攻撃されてしまうだけだ。
その分、カズキは接近戦を主体にしている。
当たれば終わるかも知れないが受け流すことも出来るかもしれない。
「ここはカズキに華を持たせてやるか。生憎、私もこうも狭い場所だと全力を出し辛いしな」
魔理沙は箒を肩に担いで告げる。
空中に飛び上がろうにも天井はそこまで高くない。
飛べないことも無いが空中戦は不可能だ。
なのはと魔理沙は得意なフィールドに上がれない状況にある。
「……お願いします」
なのはも納得し、自分達の命をカズキに託す。
正直な話、逃げられるのならば逃げたほうが良い状況だ。
だが、相手が素直に逃がしてくれるとも思えないし、何よりも雛苺を脅迫している犯人であるなら。
助けてあげたいとカズキとなのはは思っていた。
「話は終わったか?」
余裕からか男は自ら動こうとせずに沈黙を護っていた。
「あぁ!一対三になるけど卑怯だとか言わないよな」
「まさか、人間が三人揃ったところでアンデッドと対等になるとでも思っているのか?
貴様ら今までアンデッドとの戦いを生き残ってこれたのはアンデッドと融合するライダーシステムがあったからだ。
それが無い貴様らに万に一つの勝ち目など無い」
男はカズキたちを完全に格下だと見下している。
故に勝機はある。
油断している相手への全力の一撃。
そこに全てをかけるしかない。
カズキは飾り布をサンライトハートに巻きつける。
ジュエルシードと融合した鷲尾すらも貫いた攻撃。
カズキの切り札。
「エネルギー全開!サンライトクラッシャー!!」
山吹色の光を纏い、カズキは男にチャージをかける。
「ほう、人間にしては対した闘争本能じゃないか……だが、所詮は人間だ」
男の姿が切り替わる。
孔雀の怪人。
ピーコックアンデッド。
それが彼の真の姿。
そして、サンライトクラッシャーを前にアンデッドは逃げることもせずに真正面から立ち向かう。
突き出された穂先を両手で掴み、カズキの突進を完全に受け止めた。
ピーコックアンデッドの体は動きもせず、カズキの勢いが完全に殺される。
「なっ!?」
「その程度の速度と威力で立ち向かうとは……些か警戒しすぎだったようだな」
余裕の態度をとるピーコックアンデッド。
カズキは更に生体エネルギーを放出するも槍はびくともしない。
「魔理沙さん!」
なのはがレイジングハートを砲撃形態に変形させる。
「あぁ、クロスファイアだ」
魔理沙もミニ八卦路を構えた。
「ディバインバスター!」
「マスタースパーク!」
二つの魔力砲による十字射撃。
その狙いはピーコックアンデッド。
至近距離にカズキが居るがあのまま放っておくよりは危険が少ないと二人は強行した。
強烈な光がピーコックアンデッドに放射され、その姿を飲み込む。
そして、爆発が起こり、その衝撃にカズキが投げ出された。
「あたたた……」
転がった衝撃で頭を打ち、さすりながら立ち上がるカズキ。
「大丈夫ですか?」
そこになのはが駆け寄る。
「うん、なんとか……それよりも」
カズキはサンライトハートを構える。
無防備な所への二人の砲撃が直撃した。
だが、相手はサンライトクラッシャーを完全に無効化した。
あの一撃で倒しきれるとはどうしても思えなかった。
それはなのはも同じで警戒しながら煙に目を向ける。
「やはり、この程度か……」
言葉と共に煙の中からピーコックアンデッドが現れた。
その姿になのはと魔理沙は驚愕する。
「う、うそ……」
「マジかよ……私のマスタースパークを食らって無傷だった妖怪なんて居なかったんだぜ……」
その肉体にダメージらしいダメージは見当たらない。
無防備なところに攻撃してもダメージを与えられていない。
だとすれば何なら通用するというのだ。
上級アンデッド……
それはジュエルシードやホムンクルスとはまるで別次元の存在。
何を持ってすれば彼を打倒しうるのか。
その可能性の片鱗すら彼らには見出せなかった。
確実に戦意が折れかける。
カズキのサンライトハートが床に当たり、乾いた音が部屋に鳴り響いた。
「絶望か……人間にしては良くやった方だ。
だが、やはり、アンデッドと人間では闘争に至る事は無い」
ピーコックアンデッドの手に剣が出現する。
その剣を持ちゆっくりとカズキへと近づいた。
そして、剣を振り上げ、カズキの命を刈り取ろうとする。
だが、カズキは動くことが出来なかった。
圧倒的な強さを前にその戦意は完全に飲み込まれている。
絶命の瞬間
だが、それを紅い薔薇の花弁が遮った。
「なにっ!?」
視界を遮られピーコックアンデッドは動揺する。
その隙をついて真紅はカズキに近づき、その頬を叩いて弾き飛ばした。
「いたっ!」
叩かれたショックで茫然自失としていたカズキの表情に活力が戻る。
「眼が覚めたかしら。戦士でありながら戦いの場で諦めるだなんて。
私が知っている錬金の戦士はもっと勇敢だったわよ」
倒れるカズキを見下ろし真紅が告げる。
それは一見、侮蔑に聞こえるが声には何処か暖かさがあった。
不思議とカズキは立ち上がるための活力が戻ってきた事を感じる。
「貴方達も一回ぐらい無理だったからと言って直ぐに諦めるというの?
さっきのでダメだったのなら今度はもう少し気合を入れて撃ちなさい」
真紅は精神論をとき始める。
先ほどの一撃は二人にとって全力だった。
それ以上の力の入れようなど存在しない。
だが、そんなアドバイスにならない言葉を聴いてなのはと魔理沙は笑った。
「そうだな。通用しなかったんだったら何度でも押し通す」
「うん。さっきよりももっと力を込めれば通用するかも知れない」
無茶な理論を二人の少女は実行しようと意気込む。
「それと貴方……名前は?」
「えっ……武藤カズキ」
「そう、カズキ。貴方の最初の一撃。
あの化け物はそれを受け止めた。
もし通用しないならそんな事をする必要は無いはずよ」
「それじゃ、俺の武装錬金はアイツに通用するのか?」
「それはやってみないと分からないわ。
でも、やってみないで諦めるよりもずっとマシでしょう?」
真紅の問いにカズキは頷く。
力を示すならサンライトクラッシャーを体で受け止めたほうが分かりやすい。
だが、それでは傷ついてしまうなら防御するしかないだろう。
なら、カズキのサンライトハートなら奴にダメージを通すことは可能になる。
真正面からでは当たらないなら隙を作ってもらえば良い。
その為の仲間は居るのだから。
「戦意が戻っただと……」
ピーコックアンデッドは再び立ち上がったカズキたちに驚愕する。
恐怖に屈した人間が立ち上がるなど彼は知らなかった。
全ての人間は弱い心を持ち、それが折れれば治らないと思っていた。
「やはり、危険か……」
ピーコックアンデッドはそう呟くと警戒するゆっくりとカズキたちを見回した。
そこに突然、壁を突き破り、カオス、アビス、ガイアとそれを追う、シンたちが乱入した。
「伊坂、言われたとおりに連れて来たぞ」
スティングが焦るように叫ぶ。
「あぁ、タイミングは上々だ」
その光景を見て伊坂は愉快そうに笑う。
「カズキ!?」
シンがカズキたちを見て驚く。
それはつまり、彼らの手によって一箇所に集められたということだ。
罠があるとすればこの場に置いて他に無い。
「あいつは……アンデッドなのか?」
剣崎はピーコックアンデッドを見つけ警戒する。
「うん、上級アンデッド……LXEと協力してるって言うアンデッドだ」
上級アンデッドという言葉に剣崎は驚く。
彼らの中でも多くアンデッドと戦っている。
故にそれらの上位となれば自ずと体が強張った。
「戦士長とかいう男は居ないか……だが、この好機を逃せば次は無いか」
ピーコックアンデッドは一人、呟くと納得する。
「どんな罠を用意してるか分からないけど。この人数を相手に勝てるつもりかよ!」
シンはビームサーベルを構え叫ぶ。
人数の上では圧倒的に有利。
だが、そんなシンに対して伊坂は不適に笑う。
「確かに人数は少々厄介だな……来い、橘!」
その声と共に開けられた壁の穴から仮面ライダーギャレンが現れた。
そして、ギャレンラウザーをブレイドに向ける。
「そんな……橘さん!」
予想していた事態だった。
だが、実際に目の当たりにすれば動揺を隠す事は出来ない。
「人数はまだ、こちらが不利だが……貴様らに橘を倒せるかな?」
伊坂は笑う。
仲間同士で戦う仮面ライダーの姿を見て。
ブレイドとギャレン。
人類がアンデッドに対抗する為に生み出したライダーシステム。
それは互いに剣と銃を向け合い、激突する。
「眼を覚ましてください!橘さん!」
「俺は正気だ!」
ギャレンはブレイドの剣を紙一重で回避し、零距離でギャレンラウザーを放つ。
その衝撃にブレイドは吹き飛ばされ倒れた。
「もう止めろぉ!」
シンはインパルスのシルエットをソードにチェンジし、ギャレンに切りかかる。
だが、大振りの攻撃はギャレンにかする事も無く回避され、キックで弾き飛ばされた。
「操られるとか厄介極まり無いわね」
霊夢がギャレンに向かってお札を飛ばす。
霊力により、正確に飛来する誘導弾。
だが、ギャレンはそれをギャレンラウザーで打ち落とした。
「なら!」
それを見て、今度は針を投げる。
無数の細い針。
だが、それもギャレンは正確無比な射撃で打ち落とした。
「どんな腕だよ。あれも誘導性能でもあるのか!?」
魔理沙となのはも魔力弾をギャレンに放つもそれらがギャレンに届くことは無かった。
遠距離攻撃は正確に撃ち落とされ、接近しても卓越した体術で倒されてしまう。
仮面ライダーギャレン……彼に隙らしい隙はなかった。
攻めあぐねる彼らを見ながらピーコックアンデッドが動き出す。
「余興はここまでだ」
そういうとピーコックアンデッドは羽根を放射する。
それは自在に飛び回り、シンたちを正確に撃ち抜いた。
そのスピードと正確さに霊夢すら反応することさえ出来ない。
「雛苺、奴らを境界世界に引きずり込め」
伊坂は戦いの最中、部屋の隅で震えていた雛苺に命令する。
その言葉に雛苺は首を横に振る。
「ぐずぐずするな。貴様の大切な人間がどうなっても良いのか?」
三文悪役の脅し。
だが、雛苺にとっては最大級の脅迫だ。
雛苺は頷き、力を示す。
戦いの最中にあっても残り続けていた床の鏡から轍が伸び、倒れているシンたちを捕まえた。
「nのフィールドに引きずり込むつもり。
だとしたら無駄よ。私が居れば脱出することは出来るのだわ」
一緒に鏡の中に飲まれようとしている真紅が告げる。
だが、伊坂はその言葉を笑い飛ばした。
「貴様らの行く場所は境界世界ではない。
位相世界だ」
「位相世界……?」
「先日、お前達が引き起こした次元震。その影響から位相の狂った世界。
そこへ通じる唯一の道に貴様らを落とす。
そして、その道を私が破壊すれば貴様らに脱出することは不可能になる」
「世界の入り口を破壊する……貴方にそんな真似が出来るというの?」
「可能だ。アンデッドはこの世界で最も強き存在。
その力を持ってすれば世界の道を閉ざすことは造作も無い」
「だとして、それでどうするつもり」
「何、事が終わるまで閉じこもっててもらうだけだ。
本来なら倒してしまったほうが早いが……
何が起きるかも分からないのでな」
そこまで話すと真紅はnのフィールドの中に飲み込まれた。
既に他の皆も飲み込まれている。
そして、その足元に広がる一つの扉に放り込まれた。
全員が鏡の中へと消える。
それを確認すると伊坂はその剣を鏡に付きたてた。
それと同時にシンたちが飲み込まれた鏡が消滅する。
「これで良い。不確定因子は無くなった。
ブレイドは残念だが何が起きるか分からないからな」
あのまま戦っていれば確実に勝てた。
そう伊坂は確信している。
だが、それでもほんの少しの不安があった。
真紅の叱咤で立ち上がったカズキたちを見て、不安は大きくなる。
そして、予定通りに作戦を実行することを決意した。
「もう、この場所に用は無い。撤収するぞ」
伊坂は人間に変身すると歩き出す。
「待って!言うこと聞いたんだから巴を帰してなの」
そんな伊坂の足に雛苺がしがみつく。
「何時、そんな約束をした」
「え?」
「いう事を聞かなければ巴とか言う子供をホムンクルスの餌にするとは言った。
だが、貴様の元に帰すなどという約束はしていない」
「そんなっ……!」
伊坂の非情な言葉に雛苺は涙をあふれ出す。
それを鬱陶しく思い伊坂は雛苺を蹴り飛ばした。
雛苺は吹き飛ばされ、気絶する。
それをステラが抱きかかえた。
「ひどい……」
「何もそこまでする事は無いんじゃないか?
あいつらを捕まえられたのはこいつのおかげなんだし」
アウルが文句を言うと伊坂は彼を睨みつける。
「誰に口ごたえをしている。エクステンデッドだか知らんが……役に立たないなら貴様らも処分するぞ」
その言葉にスティングとアウルは息を呑んだ。
人間とそれに類する存在を命として扱っていない眼。
彼の言葉は全て本気だ。
いらないと判断されれば簡単に殺されることだろう。
「ちっ……やってられねぇな……」
そんな化け物に良いように使われる境遇。
スティングは不満に思っても吐き出すことすら出来なかった。
幻想郷の魔法の森
深々と雪が降り積もる夜。
魔法の森の奥に立てられた家の中でアリス・マーガトロイドは本を読んでいた。
暖炉に当たりながら暖をとる。
彼女の周りでは人形が動き回り、暖炉に薪をくべていた。
静かな夜
誰にも邪魔されず本を読む至福の時を彼女は楽しんでいる。
彼女が読む本の内容はローゼンメイデンに関する伝説だった。
生ける人形。
全ての人形師の憧れであるローゼンの作り出した至高の七体。
それに関する書物を読み彼女は研究している。
そんな時間を突然の騒音が破壊した。
「何の音?」
それは物置部屋からだった。
アリスは椅子から立ち上がると物置部屋へと急ぐ。
はたして、そこで見たのは部屋の壁を突き破り、あふれ出る人の山だった。
「あいたたた……」
うめき声を上げる人。
その中にアリスは見覚えのある顔を見つける。
「霊夢に魔理沙?」
その声に紅白巫女と白黒魔法使いが顔を上げる。
「アリス!?」
「って、事はここは幻想郷なのか!?」
ピーコックアンデッドの策略により落としこめられた異世界。
そこは幻想郷だった。
雪深い異世界
幻想の世界に巫女が帰還する。