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橘が復活した次の日。
剣崎とシンは翔を連れて橘と会っていた。
尋ねることは翔について。
何故、BOARDの地下で眠っていたのか……
「詳しいことは俺にも分からない……
だが、天翔と言ったか。
烏丸所長は君がアンデッドについて解き明かす重要な役割があると考えていたようだ」
「俺がアンデッドの……?」
そう言われてもピンと来なかった。
翔はアンデッドに関する知識を持っている訳ではない。
それにバックルも存在していないのでアンデッドでは無いはずだ。
「一体、何故なんです?」
剣崎が尋ねる。
その問いに橘は少し考えてから口を開いた。
「……彼はアンデッドと共に発見されたと聞いている。
まるで冬眠しているかのように眠り続け、食事の必要も無く、一切の変化が無かったという」
その言葉に三人は驚く。
アンデッドと共に発見されたこともそうだし、眠り続け生きていたことも不思議だった。
「検査の結果では人間だと出ていたな。それも見た目どおりに日本人……
だから、逆に不思議なんだ。
何故、アンデッドと共に眠っていた。そして、今、目覚めたのか」
「それはアンデッドが復活したからじゃ?」
シンが仮説を唱えるが橘は首を横に振る。
「それは無いと思う。アンデッドの復活はあの日よりもずっと前だ。
それまでどんなにアンデッドが暴れていようとも彼が目覚めることは無かった。
もっと他に要因があるんだと思うが……」
アンデッドと関連性があると思われているのにも関わらず、アンデッド復活からあの日まで翔に変化は無かった。
襲撃時……
その際に危機を感じて目覚めたのか。
それならばBOARDに回収された日に目覚めてもおかしくは無い。
もう一つはその直ぐ傍でシンが殺されかけたのが原因か……
では、何故、その為に目覚めたのか理由は分からない。
橘が翔に疑惑の目を向ける。
「待ってください!橘さんはもしかして翔を疑ってるんですか!?」
その様子に感づいた剣崎が身を乗り出す。
それに橘は目をそらした。
「確かに怪しい所はあるかもしれません。でも、翔は俺達と一緒に戦ってきた仲間です!」
シンも翔を擁護する。
BOARDが壊滅して以来、共に困難を乗り越えてきた仲間だ。
確かに正体不明の存在だが認識を変えることは出来ない。
「……分かった。俺も二人の言葉を信じよう。
それに俺も烏丸所長ほどに詳しいわけではない。
あの人ならもっと何かを知っていると思う」
結局はそこに辿りつく。
烏丸……BOARDの所長であり、アンデッド研究の第一人者。
手を伸ばせば届く範囲に行くと同時に霞のように消えてしまった。
まるで運命があざ笑っているようだ。
結局、翔については疑惑だけが深まった。
彼が本当の意味で何者なのか……今の彼らでは分からない。






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第十三話「邪悪な意思」





衛宮邸に存在する道場
そこでカズキと士郎が竹刀を用いて試合を行っている。
その様子をシンと剣崎が眺めていた。
カズキの突きを主体とした突撃戦法を士郎が受け流す。
「意外だな。士郎も結構やるもんだ」
その様子を見て剣崎が呟く。
立ち回りで言えばカズキよりも士郎の方が上だった。
高校生で言えばかなりの連度であるように感じられる。
「そりゃそうよ。昔から鍛えてるんだから」
道場の扉を開けて藤村大河がやってくる。
「こんにちは……部活の顧問はどうしたんですか?」
剣崎が尋ねる。
藤村大河は弓道部の顧問をしている。
「もう終わったわよ」
その言葉に剣崎は時間を確認して驚く。
既に二十時をまわっていた。
「おぉい!そろそろ終わりだ」
剣崎が打ち合いを続ける二人に対して声をかけた。
それと同時にカズキは眼を回して倒れてしまう。
「だ、大丈夫か!?」
士郎が慌てて駆け寄る。
「はは、大丈夫大丈夫。ちょっとくらっとしただけ」
カズキは笑顔を向けるが力が無い。
「一体、何時からやってたの?」
その様子に驚いて大河が尋ねる。
「放課後からだから……五、六時間かな?」
「部活動でもそんなに厳しくないわよ」
大河が呆れている。
「それにしても武藤君もいきなりどうしたのよ」
事情を知らない大河はいきなり、稽古をつけ始めたカズキに疑問を抱く。
といっても気になる程度だが。
「いやぁ、ちょっと出来る限り強くなりたくて」
士郎に支えながらカズキが答える。
「なるほどね。良い心がけよ。今のご時勢、何があるか分からないものね。
ここらへんで一家全員が神隠しに会うような事件もあるし、
この前も新都の方で化け物騒ぎが起こったみたいだし」
大河の言葉に皆は苦笑する。
どれもこれも自分達が関わっていることだったし、強くなる理由もその所為だ。
「でも、あまり無茶はしないことよ。
学生の本分は学業なんだから」
余りにも過度のトレーニングを行っているカズキに大河がダメ出しする。
それにカズキは頷いた。
だが、異常なトレーニング量は変わることは無いだろう。
既にカズキは毎晩、ブラボーによって基礎体力作りを行っている。
それは明け方まで続き、ハードな上に寝不足で体力は限界に近かった。
故に睡眠時間は授業中にとっている。
その事で先生の間でちょっとした話題になっていた。
「それと士郎。武藤君に付き合うのも良いけど。
少しは部活に顔出しなさい。
桜ちゃんが寂しそうにしてたわよ」
大河の説教に士郎は苦笑いを浮かべる。
「今はほら、色々とあるしさ。
それじゃ、夕食の支度があるから」
そう言って士郎はカズキをシンに預けて駆け足で道場を去っていく。
そんな士郎を大河は心配そうに見ていた。


「あまりに遅いからこっちで勝手に用意したわよ」
台所で霊夢が食事の用意をしていた。
焼き魚に煮物など和食がテーブルの上に人数分用意されている。
「へぇ、霊夢って料理できたのか」
意外だという様子でシンが料理を見ている。
質素だがどれもおいしそうに見えた。
「失礼ね。一人暮らしだったんだから当然でしょ」
心外だと霊夢は答える。
「何でも良いからさっさとしてくれ。こっちは腹が減って死にそうなんだ」
居間では魔理沙がテーブルの上に顔を落としている。
「はいはい。あぁ、そうそう、勝手に材料使わせてもらったけど大丈夫よね」
霊夢が士郎に尋ねる。
「あぁ、問題ないよ。元はと言えば食事の用意を忘れてた俺が悪いんだから」
「そう言ってもらえると助かるわ……でも、貴方は食事の前にお風呂に入ってきたら?」
汗だくの士郎を見て霊夢が告げる。
それでようやく士郎は自分の惨状に気づいた。
「俺はカズキを送っていくから先に食べててくれ」
剣崎がヘルメットを脇に抱えて、台所に顔だけ出して告げる。
「それじゃ、また明日」
カズキがヘトヘトな様子で皆に別れを告げる。
「あら、食事はこっちで食べていかないの?」
「ブラボーに頼んで食堂のメニューをキープしてもらってるから」
「そう……それじゃ、一人分余っちゃうわね」
カズキの分も合わせて用意していた為、あまりが出てしまう。
それを聞いていた大河が手を上げた。
「それじゃ、私が食べて行くわ」
大河は居候が増える前はよく衛宮家で夕食をとっていたが
あまりにも人数が増えた為に狭くなり来づらくなっていた。
その為に久々にこの家で食事となる。
「それは助かります……ほら、シンはボーっとしてないで運びなさい」
ぼけっと突っ立っていたシンの尻を霊夢が蹴り上げる。
「いてっ……ったく、暴力巫女め」
しぶしぶシンは食器を運び始める。
「まったくシンは気が利かないな」
「戦い意外じゃ間が抜けてるからな」
魔理沙と翔がテーブルを叩きながら催促する。
「お前らも手伝えよ!」
そんな二人にシンが怒鳴った。
「それじゃ、俺の分は残しておいてくれよ」
「おじゃましました!」
剣崎とカズキが玄関から出て行く。
「気をつけて帰れよ」
それを士郎が見送る。

食事も終えて食後のお茶の時間。
居間では魔理沙、霊夢、剣崎、翔、大河がTVを見ていた。
台所では士郎とシンが食器を洗っている。
「それにしても……貴方達、二人はその服以外に持ってないの?」
大河がお茶を飲んで落ち着いている霊夢とTVに興味津々の魔理沙に尋ねる。
「まぁ、着の身着のままだったからな」
魔理沙が答える。
二人は家出少女という事になっている。
士郎が路頭に迷っている彼女達を保護したのだと。
流石に男三人とは違い年下の女の子が二人なので大河は反対した。
直ぐにでも親元に返すべきだと。
それを士郎が二人が帰りたがっていないのに無理やり返してもしょうがない。
自分が説得して見せると大河に答えた。
今でも大河は納得していないがなし崩し的に暮らしている。
「あ、そう言えば言ってなかったけど。のりがこの前、古着をくれたわよ」
霊夢が思い出したと答える。
「のりって誰よ?」
「桜田のり……まぁ、知り合いね。知り合いの家主というか。
私がいつも同じ格好だったから気を使ってくれたわ」
「というか、他に服があるんだったらそっちを着てくれ」
その話を聞いていた士郎が会話に混ざる。
「でも、こっちの方が落ち着くしね……でも、そろそろ汚れてきたかしら」
霊夢が着ている巫女服を見て呟く。
「そうじゃなくて……二人の格好は変なんだから自覚を持ってくれよ」
おかげで色々と噂になっている士郎が溜息を吐いた。
「私は嫌だな。こっちの服じゃないと落ち着かない」
なのはの両親を説得する為に外の世界の服を着たことがある魔理沙が答える。
あれ以来、ほとんどあの服を着てはいなかった。
「まぁ、服装は個人の趣味だし。いいんじゃないか?」
剣崎は気にしていないようだったが士郎としては気になるところだった。
「桜田ねぇ……そう言えばそんな名前の生徒が居たような」
大河が何かを思い出しながら呟く。


パピヨンと再開してから既に一週間程経過していた。
LXEの本部が分からない今、彼らに出来るのは調査と訓練。
特に未熟な戦士にとって一秒たりとも無駄には出来ない時間だ。
幸いにもこの間に目立った動きは無く、訓練は続いていた。
アンデッド、ジュエルシードも共に発見することは無く。
また、新たな一日がスタートしようとしていた。

シンは自室でミネルバに居るタリア艦長から連絡を受けていた。
「それじゃ、正式に増援が決まったんですか?」
それは以前、幻想郷から戻ってきた際に報告されていたザフトからの援軍の話だった。
その後の報告で結局、異世界の魔法や幻想郷などと言った非現実的な存在についても報告を行った。
下手に隠しても自体を混乱させるだけだという斗貴子からのアドバイスに従った形だ。
シンとしても自分の上官であるタリアに嘘をつき続けるというのは心地よいものではなかったのでそれに納得した。
だが、流石に荒唐無稽な話であったためにその報告はタリアまでで止められている。
タリア自身は一応、シンの言葉を信じていると発言したが本気とは受け取れなかった。
未だにシンは報告すべき義務を放棄していると見なされている事になる。
だが、増援で来る兵士はそのありえないとして破棄された報告を見る事になる。
シンよりも立場が上の存在が認めたならば現状のシンのザフトでの立ち居地も少しは安定するだろう。
「明後日を予定しているわ。色々とあって遅れてしまったけれど」
本来なら既に到着していてもおかしくはない。
ただ、何かしらのトラブルで遅れが出ていたようだ。
それについては遅れる旨を以前から聞いていたのでシンに不満は無い。
「それで一体、誰が来るんですか?」
一番重要なのはどのような人物が来るかだ。
型にはまった軍人のような者ならばこの街の混沌とした様子に順応できるか分からない。
「詳細については後で資料を送るけど先に名前だけは伝えておくわ。
貴方も知っている人物よ」
タリアからそう言われるがシンには心当たりが無かった。
正式にザフトに配属されてから即座に対アンデッドの作戦に参加する事になり他の兵士との面識はほとんどない。
詳しいのは同じアカデミーを卒業したレイやルナマリアといった同級生達ぐらいだ。
彼らがシンの上として配属されることはまず無い。
「アスラン・ザラ……セカンドステージ奪還作戦の際にはアレックス・ディノを名乗っていた彼よ」
「アスランって!?あの人はザフトから脱走していたはずじゃ!?」
シンは困惑する。
アスラン・ザラ……その名前に聞き覚えはあったし、面識もある。

シンがインパルスを受領したその日。
一つの事件が起こった。
ガイア、アビス、カオス……インパルスと同じセカンドステージと呼ばれるザフトの最新鋭モビルスーツ。
それが謎の集団により強奪されたのである。
シンはそれを奪還すべく初陣を果たした。
結局、モビルスーツを取り返すことは出来ず。
その彼らとは何の因果かBOARD襲撃の際に再開している。
その戦いの中、シンはアスランと出会った。
オーブ首長国……日本と同じく中立を掲げた国。
その代表の護衛として彼はシンの母艦であるミネルバに乗っていた。

アスラン・ザラはプラントでは有名人である。
戦争時のプラントの議長であったパトリック・ザラの息子であり、ザフトのエースでもあった。
だが、終戦間際、彼はザフトを裏切り、三隻同盟と呼ばれる第三勢力として活動した。
彼らの活躍により戦争は血みどろの終焉を回避したと言われている。
だが、彼は終戦後にザフトに戻ることは無く。
いずこかへと姿を消していた。
そんな彼がザフトに戻り、あまつさえこの戦いに参加するというのである。

「詳しいことは知らないわ。ただ、議長が以前から彼にザフトに戻るよう打診をしていたみたいね。
そして、彼はそれに応じた。
議長としては現状の戦力で最も優れた人材を選んだと言っておられたわ」
かつての戦争を生き延びたエース。
その腕前は保障つきだ。
「……分かりました」
シンとしては正直、複雑な気分だった。
英雄といえどもその実力は未知数。
そして、一度だけの邂逅ではその人となりなど全く分からない。
むしろ、嫌いだったオーブの代表と一緒に居たことからあまり好きな部類ではなかった。
「彼が到着次第、現地での上官は彼になるわ。
細かい指示については彼に従いなさい。
貴方はザフトの軍人なのだから。分かっているわね」
タリアから釘を刺される。
現在、シンはキャプテンブラボーの指示で動いているようなものだ。
流石に完全に部外者の指揮下で戦っている現状は認められ無いのだろう。
だが、シンとしては実力がはっきりとしているブラボーを信頼していたし、現在の指揮にも不満は無い。
「了解」
とは言え、ここで反抗してもしょうがない。
軍人なのだから上官の命令に従うことは正しいことなのだから


「ふぅ……」
シンは居間まで降りてくる。
既に時間は夕方近く。
学校も終わり、士郎も直ぐに帰ってくるだろう時間。
居間では剣崎、霊夢、翔が寛いでいた。
特に用事も無いようでお茶を飲みながらTVを見ている。
「あっ、剣崎さん」
シンは正式に決まったザフトからの増援について報告しようと剣崎に話しかける。
だが、それを携帯から発せられる警告音が遮る。
「アンデッド!?」
それはアンデッドサーチャーがアンデッドを補足した合図だった。
すぐさまに携帯電話を開き、位置情報を確認する。
画面には二つのアンデッドの反応が感知されていた。
「同時だって!?」
それが指し示すのは二体のアンデッドが争っているということ。
もしくは協力し、人間を襲っている。
どちらかは分からないが危険であることに変わりは無い。
「大丈夫だ。今は橘さんが居る」
剣崎はそう言うと携帯電話で橘に連絡を取った。

「既に向かっている」
橘にも既に携帯電話でアンデッドサーチャーの反応を受け取れるようにしている。
彼は逸早く、アンデッドの元に向かっていた。

「俺達も急ごう!」
シンが地図を確認する。
地図では橋の下を示していた。
「二人だけで大丈夫なのか?」
翔が尋ねる。
「……この前みたいな場合もあるし、翔と霊夢も付いてきてくれないか?」
剣崎が二人に尋ねる。
ゼブラアンデッドとの戦いで剣崎とシンの二人係で危うく敗北するところだった。
橘が居るとは言えアンデッドが二体。
勝率は上げておくに越したことは無い。
「まぁ、負傷者も居るかもしれないし。やることはあるか」
アンデッドと真っ向から戦う意外にも出来ることはある。
戦っているという事はアンデッドが誰かを襲っているのだ。
運がよければ命を助けられるかもしれない。
「私も……まぁ、宿を貸してもらっている恩もあるし。
外の世界とは言え、人間が襲われているのを見過ごすのは巫女として問題があるわね」
霊夢もその提案に乗る。
四人は急いで、アンデッドの反応の元へと向かった。


橋の下では一人の学生が逃げ惑っていた。
それを追うのは一体のアンデッド。
その姿はライオンに似ていた。
アンデッドは逃げる少年をいたぶるように追いかける。
必死になって逃げる少年。
下校時、一緒に下校していた友達は既に逃げていた。
見捨てられた訳ではなく。
彼一人が追いかけられる形になったのだ。
ライオンアンデッドは明確に少年を狙っていた。
「何で俺ばっかり……」
息は切れ、足が重くなる。
走り続けた疲労のせいか足が絡まり、転んでしまった。
すぐさま、少年は後ろを振り向く。
ライオンアンデッドは目の前まで迫っていた。
拳を振るい、ライオンアンデッドがトドメを刺そうとする。
その刹那、何者かが間に入り、その拳を止めた。
「仮面ライダー!?」
少年はアンデッドと戦う都市伝説を思い出し叫ぶ。
噂は本当だったのだと彼は喜んだ。
だが、直ぐにそれが間違いであることに気づく。
少年の前に立つ者。
それは蜘蛛のアンデッドだった。

寄宿舎を襲い、ブレイドが戦うも封印することが出来なかったアンデッド。
少年もその姿に見覚えがあった。
寄宿舎が襲われた際、少年もこのアンデッドに遭遇したのだ。
それも一番最初に。
それからというもの少年は何度と無く蜘蛛に襲われてきた。
何度も物陰からこちらを窺うこのアンデッドの姿を見てきた。
付け狙われているのだと少年は分かっていた。
だが、それがまさか、自分の命を助けたなどと信じられなかった。

スパイダーアンデッドは拳を振るい、ライオンアンデッドを吹き飛ばす。
どうやらスパイダーアンデッドの方がライオンアンデッドよりも格上のようだ。
そして、何やらライオンアンデッドに話しかける。
その言語は日本語ではないようで少年には何を話しているのか理解できなかった。
「止めろぉ!」
空から誰かが降ってきてスパイダーアンデッドと少年の間に着地する。
それは少年と同じ穂群原学園の生徒……武藤カズキだった。
「大丈夫か!?」
カズキが視線だけを少年に向けて叫ぶ。
「カズキ!?」
少年はその姿に驚いた。
そして、カズキも驚く。
「睦月じゃないか!?」
二人は知り合いだった。
そもそも、同じクラスのクラスメートであり、同じ寄宿舎の生徒である。
「カズキこそ危ないぞ。人間が勝てる相手じゃない!」
カズキの力を知らない睦月は同級生を心配して叫ぶ。
普通に考えて高校生が太刀打ちできるような存在ではない。
「うん、だから逃げよう!」
カズキは睦月に肩を貸すと走り出す。
いくらカズキが武装錬金を持っているとは言え、真正面からアンデッド二体を相手に戦うつもりなど無かった。
「こっちだ!」
士郎が金網の扉を強引に抉じ開けて叫ぶ。
カズキと睦月はそちらを目指して走る。
だが、アンデッド二体は先ほどの敵対を止めていた。
そして、スパイダーアンデッドが口から糸を吐き、カズキと睦月の体を絡め取る。
粘着性の糸はカズキの体の自由を奪い、地面に付着することで移動を詐害した。
「くそっ!」
カズキは力任せに糸を解こうとするが破けない。
そこに悠然とライオンアンデッドが歩み寄ってくる。

そこに橘が飛び込んでくる。
ライオンアンデッドを蹴り飛ばし、距離を確保する。
「大丈夫か?」
橘はバックルを装着し、二人に尋ねる。
「何とかしてみます」
「そうか、安心しろ。アンデッドは俺が封印する!変身!」
橘はギャレンに変身するとライオンアンデッドに向かっていった。

ギャレンとライオンアンデッド。
その戦いはギャレンが優勢だった。
だが、それにスパイダーアンデッドが加勢する。
その動きはライオンアンデッドに比べて遥かに素早かった。
二対一という事もあり、ギャレンはスパイダーアンデッドの攻撃を回避できない。
次第に押され始める。
「くそ……」
歯がゆそうにカズキはその光景を見る。
士郎と共にどうにか糸から抜け出そうとするもその糸はあまりにも頑丈でびくともしない。
「大丈夫か!?」
そこに遅れて剣崎たちが到着する。
「剣崎さん。俺達はともかく橘さんが!」
士郎が剣崎を見て叫ぶ。
剣崎は頷くとすぐさまアンデッドに向かって走っていった。
その後に続いてシンと翔、霊夢が降りてくる。
「厄介なことになってるな」
シンはカズキたちに絡まる糸を見て呟く。
「これは俺がどうにかするから二人は剣崎さんと橘さんの援護に行ってくれ」
翔がその状態を確認して二人に提案する。
シンと霊夢はそれに頷いて剣崎の加勢に向かっていった。

「変身!」
剣崎は変身するとライオンアンデッドに斬りかかる。
ブレイラウザーの刃がライオンアンデッドの肉を切り裂き、体液を噴出させた。
「大丈夫ですか?」
「どうにかな」
ブレイドとギャレン。
久方ぶりに二人の仮面ライダーが肩を並べる。
その様子を見たスパイダーアンデッドは糸を上空の橋へと伸ばし、上へと移動した。
「逃げるつもりか!」
それを見たギャレンはそれを追って飛び上がる。
「橘さん!」
「奴は俺が封印する。剣崎はそっちを封印しろ!」
ギャレンはそう言うと橋の向こうへと消えた。
そして、バイクのエンジン音が聞こえ、遠ざかっていく。
「大丈夫なんですか?あのアンデッドは前に剣崎さんが苦戦した奴じゃあ」
シンがその様子を見て剣崎に尋ねる。
寄宿舎の戦いでは剣崎は相手にならず、遊ばれる形になっていた。
幾ら橘の調子が戻ったとは言え、倒せるものなのか。
「橘さんがやれるって言ってるんだ。信用するしかない。
それに心配だったらこのアンデッドを封印して直ぐに追いかければ良い!」
ブレイドの攻撃の前にライオンアンデッドは押されていく。
どうやら、今までのアンデッドと比べてそれほど強敵では無さそうだった。
これなら直ぐに応援に駆けつけることが出来る。
「そうですね!」
シンもシルエットをソードに変更し、接近戦を仕掛ける。
ブレイドとソードインパルス、二人の剣が代わる代わるライオンアンデッドを攻め立てる。
その怒涛の勢いにライオンアンデッドは後退し続けた。
だが、その背中を何かが遮る。
「あまり長居されても面倒なの。とっと封印されてちょうだい」
霊夢の結界がライオンアンデッドの逃げ道を塞いだ。
「ナイスだ、霊夢!」
インパルスが飛び上がり、ライオンアンデッドの胸にエクスカリバーを突き立てる。
だが、その肉体はやはり硬く、完全に突き刺すには至らない。
シンはそれを確認するとエクスカリバーを放し、後退する。
「トドメだ!」
インパルスと後退するようにブレイドが飛び上がり、突き刺さったエクスカリバー目掛けてキックする。
その衝撃にエクスカリバーはライオンアンデッドを貫通した。
それと同時にバックルが開き、それを確認したブレイドがカードを投げつける。
スペードの3……ビートライオンの封印が完了する。


街外れの廃工場
スパイダーアンデッドはそこに逃げ込んだ。
だが、ギャレンがそれをしつこく追いかける。
「カテゴリーエースは俺が封印する!」
ギャレンは怨敵を相手にしたかのように執拗に攻撃を繰り返す。
その苛烈さにスパイダーアンデッドは撤退を止め、ギャレンを相手にした。

橘には一つの命令が下されている。
カテゴリーエース……Aの数字のアンデッド。
ブレイドやギャレンの変身の中核となるカードもAである。
その能力はチェンジ。
人間を仮面ライダーに変身させる為の重要な力。
これ無くしてアンデッドとの融合は不可能なのだ。
そのアンデッドを封印する為に伊坂は橘に暗示をかけた。
バタフライの武装錬金により命令されたそれを橘は忠実に実行しようとする。
そう、スパイダーアンデッドはAの数字を持つアンデッドなのだ。

ギャレンラウザーの射撃を糸で防ぎつつ、スパイダーアンデッドは接近する。
だが、接近と同時にギャレンは格闘にシフトし、迎撃した。
射撃と格闘の素早いスイッチ。
そのどちらをとっても実力は一流。
遠距離でも近距離でも戦える事こそがギャレンの強みだった。
スパイダーアンデッドとの戦闘はほぼ互角。
故にスパイダーアンデッドは一旦距離を取る。
そして、一つの宝石を取り出した。
その黒い輝きにギャレンは本能的に身構える。
そう、それは異界より齎されし願望に力を貸す呪いの宝石。
ジュエルシード……
スパイダーアンデッドが力を込めると宝石は妖しい輝きを放ち始めた。
すると地面に亀裂が走り、黒い光が漏れ出してくる。
ギャレンはその輝きを見て後ずさりを始めた。
それと同時に脳裏に恐怖がこみ上げてくる。
それは紛れもなくこの前まで橘を悩ませていた破滅のイメージだった。
バタフライの武装錬金による暗示により封じ込まれていた恐怖が噴出する。
「うわあああああああああ!!」
まるで怯える子供のようにギャレンは後ずさる。
地面に尻をつけ、必死にもがいている。
そんな彼の目の前で黒い光は一つの形を作り出した。
それは巨大な異形の蜘蛛の姿をしていた。

「アンデッドがジュエルシードを使っただと!?」
翔はその光景を目の当たりにして叫ぶ。
紛れもなくスパイダーアンデッドはジュエルシードを使用していた。
パピヨン製のホムンクルスがそうしたように取り込まれるのではなく、
自らの意思で何かを生み出していた。
事実、スパイダーアンデッドの肉体はジュエルシードに取り込まれていない。
「邪悪な意思が実体化しただけなのか……だったら、弱いってユーノが言ってたけど」
ジュエルシードは生物を媒介にして発現したほうがより強力になる。
だが、目の前のそれはとてもではないが弱くは見えなかった。
「どうする。シン、剣崎さん……?」
翔が手をこまねいている横でシンと剣崎はその敵に気圧されていた。
橘のように発狂しては居ないものの恐怖が顔に出ている。
「どうしたんだ?二人とも?」
その様子に驚いて翔が尋ねる。
「仕方ないわよ。あの化け物……恐ろしい邪気だわ。
私は妖怪とかで慣れてるけど……そうでもないのに逃げ出さないんだからむしろ、褒めてあげるべきね」
霊夢は二人ほどでは無いにしろ顔色が悪い。
それほどまでの力をあの漆黒の蜘蛛は出していた。
邪気……心を塗りつぶす圧倒的な殺戮の気配。
弱き魂は囚われ、食い殺されるのをただ待つのみ。
だが、翔は何故かそれを感じて居なかった。
黒い蜘蛛を見て何時もどおりにしか感じられない。
むしろ、スパイダーアンデッドの方が実力が分かっている分、脅威に感じられた。
「鷲のホムンクルスも相当だったけど。こっちは更に凄まじいわね」
霊夢はそう言うが翔は首を振る。
「違う……アレとは根本的に違う。そんな気がするよ」
翔は鷲尾からは脅威を感じたが、逆に目の前の蜘蛛には感じなかった。
霊夢は何が違うのか分からないという様子で翔の顔を見ている。
「怯えて震えるだけなら逃げていろ。邪魔だ」
そんな彼らに背後から声がかけられた。
全員が一斉に振り向く。
そこにはカリス……相川始の姿があった。
「お前は!?」
「アンデッドを封印するのは俺だ。貴様らは下がっていろ!」
始はカリスに変身するとカリスラウザーを片手にスパイダーアンデッドに向かっていく。

カリスの登場にスパイダーアンデッドと彼が出現させた漆黒の巨大蜘蛛は彼に向き直った。
既に戦意を喪失したギャレンは完全に視界の外へと置いている。
巨大な蜘蛛はその足をカリスに向かって振り下ろした。
それは一本の槍のように地面に突き刺さる。
カリスはそれを紙一重で回避し、蜘蛛の腹の下を潜り抜けスパイダーアンデッドへと接近していく。
それに対し、スパイダーアンデッドは糸を吐き出す。
カリスはそれを切り払い、肉薄。
振り下ろしていたカリスラウザーを振り上げてスパイダーアンデッドの体を弾く。
怯んだスパイダーアンデッドに対してカリスは怒涛の攻めを見せ、一気に壁際まで追い込んで行く。
だが、そのカリスに対して背後より巨大蜘蛛が糸を吐き出した。
カリスはそれを回避するも地面に着弾した糸は塊、そこから小さな黒い蜘蛛が飛び出す。
それはカリスに纏わり付き、彼の動きを阻害した。
身動きの取れないカリスに対し巨大蜘蛛は足を振るい、その体を弾き飛ばした。
その体は宙を飛び、乱雑に置かれていたドラム缶の山に直撃する。
ドラム缶は崩れ、カリスの体はその中に埋もれていった。

「……カリス一人じゃ不利だ。俺達も助けに行こう」
翔がその様子をみて告げる。
カリスとは仲間というわけでは無いがそれ以上にアンデッドを放っておく訳にはいかない。
だが、不安はある。
シンと剣崎は既にあの巨大蜘蛛の放つ邪気に飲まれてしまっている。
それは変わらないのか未だに二人とも前に進めていない。
何時もなら既に戦っていてもおかしくは無い。
「……仕方ないわね。私とあんただけで行くわよ。
あの黒いのも居ればどうにかなるでしょ」
霊夢がその様子を察して翔に告げる。
翔はそれに力なく頷いた。
確かに翔は邪気に飲まれては居ない。
だが、剣崎とシンが戦えないという状況では不安を感じていた。
気乗りのしないまま戦いの場に赴こうとする翔。
だが、その前に更なる来訪者が現れる。

それは雷と共に現れた。
天井を突き破り、落ちた雷は巨大蜘蛛を直撃する。
そして、開いた穴から緩やかに金髪の少女が降りてきた。
フェイト……
そう呼ばれ、ジュエルシードを集めているユーノと同じ世界の魔法を使う少女。
彼女はジュエルシードの発現を感知し現れた。

「さて、運が良いのか悪いのか……あの子はそんなに気おされてる様子は無いな」
翔は降りてくるフェイトの様子を見て呟く。
剣崎たちと違い、フェイトも巨大蜘蛛に臆しているという様子は無い。
「敵なんだから運が悪いんじゃない?」
「俺達だけで倒せるとも限らないだろ……でも、なのはが来る前に封印されるのも困るな」
「なら、邪魔する?」
会話をしている二人を無視して、フェイトが巨大蜘蛛に攻撃を仕掛ける。
最初の落雷も巨大蜘蛛は怯みはしたが決定打になってはいなかった。
ただの思念体と違い相当にタフなようだ。
フェイトとジュエルシードの蜘蛛との戦いの開始と共にカリスがドラム缶の山を吹き飛ばし現れる。
特にダメージを感じさせる様子も無く再びスパイダーアンデッドに向かっていった。
三つ巴を超え、四つ巴の闘争。
それぞれに狙う物は違う故に連係はとれない戦い。
互いが互いを邪魔し、戦局は一向に進まない。

そんな様子を橘は震えながら見ていた。
逃げ出すことも出来ずに壁際で震える。
そんな彼の耳元に声が聞こえる。
「暗示が足りなかったようだな。人間性を残そうとしたのが失敗だった」
ドクトル・バタフライの声。
何処からか監視しているのか彼が橘に語りかける。
そして、橘の目の前に白い蝶々が出現した。
それは強烈に発光する。
一瞬の光……
それの終了と共に橘はスクッと立ち上がった。
その眼には生気が消え、まるで人形のように虚ろだった。

「だぁ!邪魔をするな!」
続けざまに来る、雷と風をかわしながら翔が叫ぶ。
フェイトの魔法とカリスのラウズカード。
その強烈な力の余波に翔は敵に近づけもしなかった。
「だらしないわね」
それを後ろから見守りながら霊夢が呟く。
彼女は巻き込まれないように離れながら札と針を投げつけて巨大蜘蛛を攻撃していた。
「近づかなきゃならないんだからしょうがないだろ……」
翔は一旦、霊夢の下まで退避する。
直撃は食らっていないものの、もし食らっていればそれだけでお陀仏になりかねない。
そんな状況ゆえに精神的に疲労していた。
「気の一つでも飛ばしなさいよ」
「流石にそこまで人間離れしてないよ!」
霊夢のあんまりな提案に翔は叫ぶ。
だが、霊夢はその程度も出来ないのかと見下すような視線だった。
そんな彼らを影が一つ飛び越える。
その姿に翔は目を見開いた。
「ギャレン!?」
そう、仮面ライダーギャレンが彼らの目の前に立つ。
そして、ギャレンラウザーを上空に向けた。

ギャレンラウザーが火を吹き、弾丸がフェイトを襲う。
フェイトはそれを咄嗟に防御壁を展開し、防ぐ。
だが、防御したフェイトの隙を突き、ギャレンが上空より襲い掛かる。
既にギャレンは射撃と同時に飛び上がっていた。
そして、そのまま縦に回転し、踵をフェイトに向かって落とす。
フェイトはそれもプロテクションを展開して防ごうとするもギャレンはその防御ごとフェイトを吹き飛ばす。
落下して行くフェイト。
その軌道は真っ直ぐにカリスに向かっていた。
「なに!?」
カリスは予想外の事態に反応しきれずフェイトと激突する。
倒れるフェイトとカリス。
その前にギャレンが着地する。
「エースは渡さん!」
ギャレンはそう叫ぶとカテゴリーエース……スパイダーアンデッドにギャレンラウザーを向ける。
放たれる弾丸
それを巨大蜘蛛がスパイダーアンデッドの前に出て盾になる。
「邪魔をするな!」
ギャレンは連射を続けつつ、カードスロットを展開する。
そして、アッパーとファイアをラウズした。
ギャレンの右拳に炎を篭る。
そして、連射を休める事無く巨大蜘蛛に接近。
その腹下にもぐりこみ、その燃える拳を天高く突き上げた。
豪炎を纏いし拳は巨大蜘蛛の体を突き破り、炎が体内から全てを焼き尽くす。
その強力な一撃に巨大蜘蛛を形成していた邪気は霧散し、ジュエルシードは輝きを失って地面に転がった。

一瞬にして形勢は逆転する。
ギャレンはたじろぐスパイダーアンデッドに間髪居れずに攻撃を仕掛けた。
スパイダーアンデッドは糸を吐き、応戦するもギャレンはそれを全て打ち落とし接近する。
肉薄するギャレン。
回し蹴りを顔に叩き込み、怯んだ隙に連続して拳を叩き込んで行く。
だが、それで終わるスパイダーアンデッドではない。
何回目かの拳を受け止め、カウンターで爪をギャレンに叩き込む。
その一撃に吹き飛ばされ倒れるギャレン。
スパイダーアンデッドは追撃をかけようと駆け寄る。
だが、それに対してギャレンは伏せながらスパイダーアンデッドにギャレンラウザーの弾丸を叩き込んだ。
攻め立てようとしたスパイダーアンデッドはそれをもろに受け怯む。
そこに必勝のチャンスを見出したギャレンは再びカードスロットを展開した。
決めるは最強の必殺技。
―――ドロップ―――
―――ファイア―――
常勝の必殺。
ギャレンが持つ最強の足技。
それは新たな力で進化する。
―――ジェミニ―――
ゼブラアンデッドの力が覚醒し、三つのアンデッドの力がギャレンに宿る。
―――バーニングディバイド―――
ギャレンは飛び上がり、スパイダーアンデッドに向かっていく。
そして、一回転。
それと同時にギャレンの体が二つに分裂した。
スパイダーアンデッドはそれを悪あがきで叩き落そうとする。
その腕が一つのギャレンに当たった。
だが、それはまるで幻のように掻き消える。
そして、残った実体がスパイダーアンデッドの体を引き裂いた。
紅蓮の一撃はスパイダーアンデッドを切り裂き、燃やす。
その一撃にスパイダーアンデッドは倒れ、バックルが開かれた。

封印されるスパイダーアンデッド。
その光景を翔は不可解なものだと感じていた。
ギャレンが強いことは知っている。
だが、あれほど恐怖にすくんでいた彼が突然、立ち上がったのが信じられなかった。
どんな要因があれば剣崎ですら怯むあの邪気に立ち向かえるのか。
そもそも、何故、あれほどまでに破滅のイメージに悩まされていた彼が再び戦えるようになっていたのか。
それすらも翔には謎なのだ。

「大丈夫ですか!?」
そこになのはと魔理沙がやってくる。
ジュエルシードを感知し、急いでやってきたのだろう。
倒れているフェイトとカリス。
転がるジュエルシード。
そして、カードを手にするギャレンの姿になのはは眼を丸くしている。
「あれ……もう終わっちゃったの?」
呆然としているなのは。
「なのは!ボーっとしてないで早くジュエルシードを回収して!」
そんななのはにユーノが叫ぶ。
その言葉になのははハッとする。
だが、それよりも早くフェイトが起き上がり、駆け出した。
「おっと、そうは行かないぜ」
だが、それよりも早く魔理沙がジュエルシードを掠め取る。
そして、すぐさまなのはたちの下へと戻っていった。
それを見たフェイトは杖を構えるが攻めあぐねる。
人数の時点で純粋に不利なのだ。
真正面から向かうのは自殺行為に他ならない。
「相変わらず手癖が悪いわね」
その様子を見ていて霊夢が魔理沙に声をかける。
「まっ、ずっと狙ってたものだしな。なのははともかく、あっちのに盗られると面倒なのさ」
ジュエルシードを指で弄びつつ魔理沙が笑顔を見せる。

フェイトは杖を下ろすとそのまま飛び去ろうとする。
この場での奪取は無理だと判断したのだろう。
だが、それをなのはが呼び止めた。
「待って、お願い!」
その言葉にフェイトが立ち止まる。
「少しだけお話させて貰えないかな?」
なのはがフェイトに話しかける。
ずっとなのはは気に掛けていた。
フェイトのことを。
何故、彼女がジュエルシードを探しているのか。
どんな事情があるのか。
今までは色んな事情が重なって話すチャンスは無かった。
だから、今この時を逃すという選択肢はなのはには無い。

だが、それは新たな介入者によって妨害される。
突如としてその場に居た全員の腕に光の板が出現し、腕を拘束した。
「何だ!?」
突然の事態に全員がざわめき立つ。
「全員動くな!」
そこに一人の少年が出現する。
そう出現した。
何処からか転送されてきたのか何も無い場所に彼は現れたのだ。
それに一同は目を丸くする。
「時空管理局だ。未開文明に対する不用意な接触の容疑で君達を拘束する」
宣誓と共に彼から魔力がほとばしる。
その力は正確にその場に居た者たちの腕に光の輪を出現させた。
それは魔法の手錠であり、腕の自由が封じられる。
突然の事に皆が事態についていけず居る中、一部の人物はその事態を正確に飲み込んでいた。
「時空管理局だって!?」
「何か知ってるのか、ユーノ!?」
「うん、僕達の世界の組織で次元世界の安定の為に動く組織なんだ」
「ユーノの世界の組織……それが何でまた?」
今一、事態を飲み込めていない。
それに対してクロノと名乗った少年が口を開こうとする。
「フェイトを放せぇ!!」
だが、それよりも先に上空からアルフがユーノに襲い掛かった。
その奇襲をクロノは一撃で迎撃する。
アルフはそのまま弾かれて地面に転がった。
「使い魔か」
クロノはアルフを見て呟く。
アルフは腕を押さえながら立ち上がった。
「抵抗するな。刑が重くなるだけだぞ」
クロノはアルフも拘束しようとする。
「くっ……逃げるよ、フェイト」
アルフはフェイトを掴んで歩き出そうとする。
だが、それをクロノが魔力弾を放ち妨害する。
「待って!」
それを見てなのはが飛び出した。
突然の妨害にクロノは魔法の行使を中断する。
その一瞬の隙にアルフとフェイトの姿が消えた。
恐らく転移の魔法を使用したのだろう。
これにより彼女達は完全に逃げおおせた事になる。
「一人逃がしたか……」
クロノはそれを悟ると警戒するように周囲の人物を眺める。
先ほどの騒ぎに乗じて既に橘と始の姿がその場に居なかった。
「逃げられた……だけど、転移反応は他に無かったはずだ。
手が封じられてる以上、そう遠くには……」
手を封じられた状態ではそう遠くまで逃げられないだろうとクロノは判断する。
「橘さんと相川始ならこの手錠を破壊して走って言ったぞ」
そんな彼に剣崎が告げる。
「なんだって!?そんなに強いバインドじゃないけど力ずくで破れるはずはないのに……」
クロノは驚きながらも顎に手を当てて思案する。
「それよりも!お前は一体何者なんだ!?どうして、俺達を捕まえる!?」
そんな彼にシンが怒鳴り声を上げる。
彼にとっては不当に拘束されているに過ぎない。
納得できる事情でなければ今すぐにでも飛び出していきそうな気配である。
「詳しい話はここでは出来ない。場所を移す」
クロノがそう告げるとシンたちの姿が一瞬にしてその場から消えた。


時空管理局
それはユーノが所属していた世界ミッドチルダにて発足した次元世界の安定の為に造られた組織である。
この世界は宇宙とは別の空間に様々な世界が存在している。
その世界ではここに文明が発展していった。
その中の一部では自らの世界を破滅させてしまうような進化を辿った世界もあった。
そんな世界の残滓。
次元世界を揺るがしかねない遺物……ロストロギア。
その回収と保管を彼らは主な任務としている。
彼らの行動は基本的には秘密裏であり、次元世界に進出できるだけの技術力を持たない世界には公に接触はしない。
そして、そんな世界に時空管理局や次元世界について語ることも罪となるのだ。

時空航行船アースラ
時空管理局に所属する次元艇である。
世界の狭間に存在する次元空間を航行し、様々な世界を渡り歩くことが出来る。
シンたちはクロノによってその船の中へと誘われた。
そして、時空管理局についての説明を聞く為とジュエルシードについての説明をする為に
代表者がアースラの艦長と会う事になった。
当事者であるなのはとユーノ。
年長者である剣崎。
ザフトに所属するシン。
その四人が代表として艦長と会う事になった。
残った霊夢と魔理沙と翔は別室にて待機となっている。

アースラの廊下をクロノに案内されて歩いていく。
「しかし、君はやってくれたな。これほどの大人数……
しかも、一部は公の組織に属しているものに対しても次元世界について話してしまうなんて」
クロノがユーノに話しかける。
その言葉は呆れ気味だった。
「仕方ないだろ。困ってたんだからさ。
それともジュエルシードは放っておけばよかったって言うのかよ!?」
そのクロノの言葉にシンが突っかかる。
攻撃的な物言いにクロノは眉を顰める。
「そうだな。個人で対処しようとせずに最初から管理局を頼っていればこんな事にはならなかった」
「お前らが頼りにならないから相手にされなかっただけじゃないのか?」
シンはあえて挑発する。
「ちょ、ちょっと待って!シンさんが僕を庇おうとしてくれるのは嬉しいけど。
この件に関しては完全に僕の落ち度だから」
不穏な空気にユーノが慌ててフォローに入る。
「だけど、ユーノは自分の失敗を取り戻そうとしただけじゃないか。
それの何処がおかしいっていうんだよ」
納得できないシンは食い下がる。
「……そもそも、ジュエルシードがこの世界に散らばる原因になったのはどうしてなんだ?」
クロノはこれ以上の言い争いは不毛と感じ、話を切り替える。
「えっと……ジュエルシードは僕がある遺跡から発掘したものなんだけど。
輸送中に事故が起きてこの世界に落ちちゃったんだ」
ユーノの説明にクロノは溜息を吐く。
「それじゃ、君の落ち度じゃないじゃないか。そもそも、君が回収する必要が無い」
「でも、掘り出したのは僕だし。最後まで責任を持たないと……」
事故が自分のせいで無いにしても自分の発掘品で苦しむ人が出るかもしれない。
それだけで彼は無謀な戦いに出たのだ。
未熟な考えだがそんな彼に剣崎は共感した。
「立派じゃないか。確かに一人じゃ封印し切れなかったけど。
なのはや俺達と一緒に戦って何個か封印してきたんだ。
彼が何もしなければ大勢の人が傷ついていたかもしれない。
だったら、ユーノの判断は正しかったって俺は思うよ」
剣崎の言葉にクロノは肩をすくめる。
「やれやれ……どうやら、君は運が良いみたいだな。
こんなお人よしの連中とめぐり合えたんだから」
呆れも入っている好意的な反応だった。

言い争いも終え、再び廊下を歩き出す。
その途中でクロノが何かを思い出して口を開いた。
「……そう言えば、何時まで君はそんな姿で居るんだ?」
その言葉はユーノに向けられる。
「……あぁ、そうだね。ずっと、こっちの姿だったから忘れてたよ」
ユーノはそう言うと突然、光り輝き見る見るうちに姿を変える。
そして、フェレットが居たその場所になのはと同じぐらいの歳の少年が立っていた。
「ふぅ、そう言えばシンさんや剣崎さんにはこの姿を見せたのは初めてでしたね」
眼を丸くしているシンと剣崎にユーノが告げる。
だが、眼を丸くしているのは二人だけではない。
なのはも驚き固まっていた。
「ゆ、ユーノくんって人間だったの?」
「あれ?なのはにはこの姿を見せてなかったっけ……?」
どうやらユーノはこの人間の姿を見せていたものだと勘違いしていたようだ。
なのはは見覚えが無いと首を横に振る。
「……カズキや士郎も驚くな」
とりあえず、ユーノの人間時についても皆に説明する必要があるだろう。

途中、何回か問題があったもののなのは達はクロノに案内され一つの部屋にたどり着いた。
そこは桜の咲き誇る和の空間だった。
無機質な船内の通路から突然、自然の景色が舞い込みなのは達は唖然としている。
その部屋の中、紅い敷物の上で緑の髪の女性が着物に身を包み正座していた。
「ようこそいらっしゃいました」
女性は一礼する。
「次元航行船アースラの艦長。リンディ・ハラウオンです」

時空管理局側の代表と出会い、会談が始まる。
最初にリンディたちからの報告から話は始まった。
「数日前、この世界から次元震の発生を感知しました。
それによりこの世界にロストロギア……ジュエルシードが存在することを知りました」
「次元震?」
「次元世界を揺るがすほどの強力なエネルギーの事です。
今回のものはそれほど大規模ではありませんでしたけど見過ごせるものではないですからね。
ちなみに正確な日数では十日程前です」
その言葉でなのは達は十日程前を思い出す。
パピヨン配下のホムンクルス花房と戦った日だ。
ジュエルシードとブレイドのライダーキックのぶつかり合い。
そのエネルギーは空間を切り裂き、その場に居た彼らを幻想郷へと引きずり込んだ。
他に次元震の発生に繋がるような事は無かったので間違いなくそれが要因だろう。
「あの時か……その次元震って起こると何か問題があるんですか?」
剣崎が心配になり尋ねる。
「大規模なものであれば複数の世界に影響が出るかもしれないわね。
でも、今回程度ならば何の問題も無いわ」
「そうですか……」
その言葉に剣崎は胸をなでおろす。
「十日前に観測した割には随分と対応が遅かったな」
シンが別の部分で気になり尋ねた。
組織である以上、迅速に動くにも限界はあるだろう。
だが、十日はかかりすぎに感じた。
シンは次元世界について何も知らないので感じたに過ぎないが。
そもそも、移動にどれだけ時間がかかるのかも分からない。
「流石に何があるかも分からない常態では動きようがないから調査をしていたのよ。
それでちょっと時間がかかったんだけど。
ジュエルシードを運んでいた輸送船がこの近辺で事故にあったというのを突き止めたわ。
そして、その事故が何者かによる人為的なモノであった事もね」
その言葉に一同は驚く。
今までジュエルシードは不運な事故でこの世界に舞い込んでいたと思っていた。
だが、その言葉が事実ならば。
ジュエルシードを狙っている存在が居る。
否応も無しになのはたちの脳裏にフェイトの顔が浮かんだ。
「首謀者の名はプレシア・テスタロッサ。
ミッドチルダで魔力炉の設計をしていた技術者よ」
資料が空中に表示される。
そこに映し出された女性。
一見すれば普通の女性にしか見えなかった。
「こいつが……一体、何でまた、ジュエルシードを狙ってるんだ?」
「それはまだ分からないわ。
……ただ、あまり良い事ではないのは確かでしょうね」
正規の方法ではなく暗躍している時点で後ろめたいことがあるのだろう。
願いを適えるといわれる強力な魔力を持つジュエルシード。
使用方法は千差万別だ。
そこからでは詳しい目的は推し量ることは難しい。
「……あの子は……フェイトちゃんはこの人に言われてジュエルシードを集めるんでしょうか?」
なのはがフェイトを思い返す。
ジュエルシードを集めることが使命だと語り、妨害する相手に対して攻撃さえも辞さない。
ただ、攻撃する相手に対して悲しそうな表情を浮かべ、常に何処か寂しげな瞳をしていた。
「貴方達とジュエルシードを取り合っていたあの子ね……恐らくはそうでしょうね。
プレシアの娘だと思うわ。プレシアも高度な魔術師だからその娘に才能が受け継がれていると考えられるわ」
リンディが答える。
現在の状況でフェイトがプレシアに関係ないという事はありえないだろう。
だとすれば、彼女は母親からの命令に従っているだけに過ぎない。
「子供を手先に使ってるのか……」
剣崎は憤りを感じる。
どんな事情があるにせよ、ジュエルシードなどという危険な物の回収を実の娘に命じているのだとすれば相当に冷血だ。
いくらフェイトが優れた才能を持っているとは言え、既に何度か死んでいてもおかしくない状況はあった。
「こちらで判明しているのはこれぐらい。
今度はそちらの話を聞かせてもらえないかしら。
ジュエルシードが今まで起こした事象についてね」
リンディの言葉になのは達は頷いた。

なのは達の報告の中から三つの出来事がピックアップされる。
一つは蝶野攻爵……蝶々仮面の怪人とその配下であるホムンクルスが異常なまでの確立でジュエルシードを手に入れた事。
探知能力を持つユーノやもって居るであろうフェイト側よりも先んじて手にし続けていた。
発見しての回収は現状でも彼らが最も多いほどである。
一つは鷲のホムンクルスがジュエルシードと融合した際の出来事。
今までの邪悪な思念と一体化し、所有者の欲望が増幅されたものとは様相を呈していた。
感情論的なものとは言え、他のジュエルシードよりも放つ威圧感は段違いであった。
また、鷲のホムンクルスのものとも思えない奇妙な発現。
蝶野攻爵こそが選ばれし存在であると言う言葉。
それがジュエルシードの言葉なのだとすれば蝶野攻爵ジュエルシードを手にするに値する人間であったと言える。
一つは先ほどのジュエルシードの発現。
スパイダーアンデッドがその身を取り込まれること無く発動させ、作り上げた闇の巨大蜘蛛。
その戦闘力もさることながら一目見たシンと剣崎は恐怖に飲まれ戦うことが出来なくなってしまった。
威圧感ではなく純粋な恐怖。
思念体である筈がその戦闘力もホムンクルスを取り込んだジュエルシードよりも上に見えた。

「話を総合するとジュエルシードは意思を持ち、使うべき人間を選んでいると言えるわね。
そして、選ばれたのが蝶野攻爵と呼ばれる青年……彼の何が要因になったのかまでは検討がつかないわね」
リンディが報告を纏める。
「この場にカズキさんが居ればもう少し何かわかったかもしれませんけど……」
パピヨンと最も繋がりの深いカズキ。
彼ならばジュエルシードがパピヨンの何を選んだのかも分かったかも知れない。
「……それよりも俺はアンデッドがジュエルシードを使ったことの方が気になる。
アンデッドがジュエルシードを使って生み出したもの……なんていうかアレは存在を許しちゃいけない気がするんだ」
剣崎は何よりもその事に危機感を抱いていた。
あの時の恐怖。
自らの死よりも恐ろしいと感じた。
命を懸けて戦う勇気すらもアレの前には凍りついた。
地面から湧き出た黒い影。
「その蜘蛛ですけど……似た様な気配を前にも感じた気がするんだ」
ユーノが剣崎の言葉を受け取り思い返す。
残り香程度の気配だったけれど到着したときに感じていた。
「気配?あんな恐ろしい奴と会った事があるのか?」
「はい……ですが、そんなに昔じゃありません。
なのは達と出会った後、地球に来てから戦った敵の中に同じようなのが居ました」
「ジュエルシードじゃないのか?鷲のホムンクルスとか?」
「いえ、違います……」
「似たようなのか……そう言えばあんな感じで黒い影だけで出来たようなのと戦ったな。
確かアレは幻想郷から出た場所……nのフィールドだったか」
「それです!霊夢さんたちが蹴散らした。あの黒い影たち。
アレと魔力の質が似ています」
ユーノの言葉にシンと剣崎は驚く。
「だけど、アレはそんなに恐くなかったぞ。事実、霊夢と魔理沙の前に手も足も出てなかったじゃないか」
強さという概念では次元が違う。
直接戦っては居ないが剣崎もシンもアレには負ける気はしなかった。
「まぁ、似ているのは魔力の質ですから。強弱の違いはあります。
ですが、似ているとすればアンデッドはあの影と同質のものをジュエルシードを使って呼び出したのかも知れません」
「呼び出す……そんな風にジュエルシードを使えるものなのか?」
「ジュエルシードはようはその膨大な魔力を補助として使用するものですから。
媒介として使用したのだとすれば考えられます。
その巨大蜘蛛はアンデッドが使った召喚魔法かも知れません」
「召喚か……アンデッドは確かに眷属を操る能力を持っていたけど……」
それがスパイダーアンデッドの能力とも考え辛い。
そもそも、スパイダーアンデッドの絵柄はエース。
エースはチェンジの力しか持たない。
確かにアンデッドはラウズカードに描かれた能力以外も持っている。
だが、召喚などという特別な能力を持っていればラウズカードに現れても良いようなものだ。
「結局は憶測ですけど……アンデッドとあのnのフィールドに居た影の魔物は何らかの関係が有るのかも知れません」
ユーノは仮説を述べる。
現状では確証も無いが反論する材料も無い。
「それにしてもホムンクルスにアンデッドか……この世界は次元航行能力は無いけど随分と極端に発展している部分があるな」
クロノは提供された情報の感想を述べる。
「そうね。特にアンデッドはこちらとしても下手に対処は出来ないと考えて良いわね。
死なない上に強力な力を持つ……そして、ジュエルシードを使用していた。
となれば回収している間に戦いになる可能性も高いと考えるべきね」
「……まさか、艦長。こいつらと協力する気なのか?」
「その通りよ、クロノ執務官。
ジュエルシード以外にも不確定な問題が混在し、彼らがそれらに対処している以上、別々に動くよりも協力したほうが合理的よ。
それに報告からすれば彼らの実力は並みの魔術師を凌駕しているわ」
「ですが……彼らは管理局の管理外の世界の住人。
これ以上の介入は危険すぎます」
「それについては責任は私が持つわ」
リンディのその言葉にクロノは溜息を吐く。
「全く……頑固なんだから」
どうやらクロノのほうが折れたようだった。
「という訳でジュエルシードの捜索に協力して貰えないかしら」
「えっ……あ、はい。それは問題ありませんけど……」
なのははトントン拍子に進んで行く話に拍子抜けしている。
この世界の住人であるなのははこれ以上、関わるなといわれると思っていたのだ。
それが逆に協力を頼まれるとは……
「それってジュエルシードだけなのか?」
シンが尋ねる。
「そのつもりよ。ホムンクルスやアンデッドの存在も見過ごし辛いけれど。
それは本来、私達の仕事ではない。
それにそれらに対応している人物が居る以上、不用意に介入すべきではないと考えてるわ」
「まぁ、そうだよな」
「それに私達もジュエルシードを追うだけで手一杯になると思うわ。
でも、ジュエルシードの捜索を私達が一手に引き受ければその分の負荷は減る」
現状ではなのはとユーノに任せていた作業を彼女達がやってくれるという事である。
だとすれば効率も上がるし、なのはも余計な労力を受けず特訓もしやすくなるだろう。
悪い話ではなかった。
「俺はそれで良いと思う。アンデッドやホムンクルスは俺達の世界の問題だからな。
俺達が何とかしないと」
「俺もそれには賛成です。でも、俺達だけで決めちゃったらまずくないですかね?」
「……でも、橘さんはジュエルシードについてよく知らないし」
「違いますよ。キャプテンブラボー。俺たちは今、あの人をリーダーにして動いてるようなものですよ。
一応、指示を仰いだほうが良いのかなって……」
「大丈夫なんじゃないか?そもそも、キャプテンブラボーは戦団の人間だし。
ホムンクルスとの戦い以外は善意で手伝ってるんだから」
シンと剣崎でキャプテンブラボーの立ち居地に関する認識のずれが現れていた。
シンはブラボーをリーダーだと判断しているが剣崎は同じ仲間という認識だったらしい。
「まぁ、一応、皆に話は通しておいたほうが良いと思うな。
でも、反対する奴はいないだろ」
剣崎の言葉にシンは納得する。
そもそも、書面を通した同盟ではなく、個人個人の意思における協力関係なのだ。
個人の合意があればそれで良い。


結局、時空管理局との共闘は即座に皆に伝えられ、同意を得られた。
ユーノの話からも危険な組織ではないと判断し、協力してもらえるなら得策だと判断された。
ジュエルシードの回収任務自体も基本的にはなのはが担当する事になる。
それに誰が協力しても構わない。
それが時空管理局側の見解だった。
ただ、組織の立場上、時空管理局についての詳しい話を他の組織に公表することだけは避ける事になった。

「結局、あの蜘蛛は何だったんだろうな」
夜、月を見上げながら翔が呟く。
「もし、nのフィールドに居た魔物と関係があるのなら。
あの女の子に聞けば何か分かるかもな」
バイクの整備をしながら剣崎が答える。
「nのフィールドか……やっぱり、もう一度、会ってみるべきかな」
翔はnのフィールドで出会った奇妙な少女を思い返す。
自分の事を知ってると思わしき言動。
自分の過去に興味なんて無かった。
だが、蜘蛛を見て翔は何も感じなかった。
シンや剣崎ですら恐怖に凍ったというのに。
それが堪らず恐かった。
自分が何者であるのか……翔は始めて疑問に感じ始めていた。



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