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次の日の午後
衛宮家において一同は集まっていた。
キャプテンブラボー……斗貴子の上司に当たる存在。
その彼から告げられるこの街に潜むホムンクルスの組織についての説明。
その為にカズキと斗貴子、なのはもこの家にやってきていた。
そんな中、部屋には若干、ピリピリとした空気が流れていた。
その原因は剣崎とシンにある。
結局、一晩経過しても昨日のいざこざを尾を引いていた。
「……全く、困ったものだな」
斗貴子はその二人に対して溜息を漏らす。
「まぁまぁ……そう言えば魔理沙さんと霊夢さんは?」
なのはが士郎に尋ねる。
「魔理沙は部屋に居ると思うけど、霊夢は何処かに出かけて行ったな。
一応、二人にも声はかけたけど出ないって断られたよ」
士郎が経緯を話す。
「霊夢なら真紅の家だな」
それを聞いていた翔が答える。
「真紅ってあのnのフィールドって所であったお人形さんですか?」
「そうそう、nのフィールドが幻想郷に繋がってるかも知れないからその捜索をする約束をしたんだ。
まぁ、ホムンクルス騒ぎでその暇が無くなったんだけど」
霊夢は幻想郷への帰還を最重要にしていた。
その行動を翔たちが咎める権利は無い。
魔理沙の方はそういう訳でもなく、ただ単純に出ないだけだが。
「霊夢さんには迷惑かけちゃってるから手伝いたいですけど……」
なのははそう言うがそんな暇は無い。
色々とやらなければならない事が山積みだからだ。
「……魔理沙は?」
「あの人は……こっちも迷惑かけられてるというか……」
一番、付きまとわれているなのはは微妙な反応を返す。
皆が談話をしていると銀色のコートと帽子に身を包んだ男が現れた。
初めてその姿を見た士郎となのははその姿に困惑する。
どう考えても怪しい風体だからだ。
「待たせたな」
「この人はキャプテンブラボー……戦士長だ」
斗貴子が士郎となのはに説明する。
「すまないが悪い知らせがある。先にその事を伝えておきたい」
ブラボーはそういい、剣崎とシンを見た。
「烏丸所長が拉致された」





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第十二話「救いの手」





「拉致された……一体、誰に!?」
剣崎が叫ぶ。
「まず間違いなく、昨日の集団だ。
戦士を一人、護衛に付けたのだがその戦士毎、隠れ家から消えていた。
すまない、これは俺の落ち度だ」
ブラボーが頭を下げる。
「すまないって……何やってんだよ!あんたは!?」
シンがそれに対して激昂する。
期待していただけにそのショックは大きかった。
「落ち着けよ、シン」
翔がそんなシンの肩を引っ張って座らせる。
「だけど……」
「ブラボーは護衛もつけてくれたんだ。ブラボー自身が離れたのはお前達を助ける為だろ。
借りがあるお前が責める立場じゃない……それに戦士の行方も分かってないんだぞ」
翔の言葉で落ち着きを取り戻したシンは冷静に自体を把握する。
つまり、シンを助ける為に作ってしまった隙を突かれたのだ。
そして、仲間まで失っている。
分かってしまえばシンはもう、責めることが出来なかった。
「……その護衛の戦士はどうなったんだ?」
士郎が尋ねる。
「もう、生きてはいないだろうな……だが、烏丸所長はその頭脳という使い道はあるから生きている可能性は高い」
ブラボーの言葉に斗貴子以外の皆が沈む。
知らないとは言え、仲間で犠牲者が出てしまったということだ。
戦いの連続とは言え、仲間や知り合いに犠牲者のいなかった皆には少し堪えた。
「……なら、助ければ良い。生きている望みがあるなら助けられるはずだ」
剣崎が顔を上げる。
その言葉に皆は頷いた。
この程度で沈んでいてはこれ以上、戦うことは出来ない。
「ブラボー、だから俺達に教えてくれ。
これから、俺達が戦わなきゃならない敵について」
剣崎が真っ直ぐにブラボーを見る。
ブラボーはその気持ちに応え、頷いた。
「あぁ、だが、とりあえず、先に俺達について説明しておこう。
俺達の組織の名は錬金戦団。
昔に存在した錬金術師のギルドを発端とした組織だ。
現在では世界に散り散りになっている核鉄の回収と暗躍するホムンクルスの破壊を任としている」
「あぁ、錬金術なんて最初聞いたときは実在してたとは思わなかったけどな」
「一般的にはそうだろう。
今更、その事についての説明も要らないだろう。
ホムンクルス……錬金術の生み出した化け物とは君達も交戦経験があるのだからな」
ブラボーの言葉に全員が頷く。
錬金術が生み出した人を食う化け物。
その脅威については嫌というほどに理解している。
「そして、今回、俺が派遣されたのは一つの任務の為だ。
戦士・斗貴子の情報とある錬金術師の家系の動きから一つの事実が浮かび上がった。
百年前、戦団を裏切った一人の戦士が居た。
彼は逃亡の末に日本に渡り、その後の消息が掴めなくなっていた。
だが、今回の蝶野攻爵の得たという錬金術の知識の出所……
錬金術の研究を行っていたと言う奴の祖先。
調査の結果、百年前に日本に渡った裏切りの戦士と蝶野攻爵の祖先である爆爵が手を組んだという事実が判明した。
その爆爵は自らを人間型ホムンクルス化し、裏切りの戦士を神と崇める組織を作り上げた。
その名は超常選民同盟LXE。
この街に巣くう人間型ホムンクルスのコミュニティだ」
その言葉に士郎となのはは愕然とする。
既にこの街に昔からそのような組織があったこと。
つまり、常に死と隣り合わせだったということだ。
その事を彼らは全く感じることができていなかった。
「蝶野一人であんなに苦労したのに今度はそれが沢山って事か……相当に厄介そうだな」
翔が今までの戦いの経緯を振り返り呟く。
動物型と人間型ではホムンクルスの質が違う。
結局、本能のままに戦うことしか出来ない動物型に比べて人間型はその知性を武器にしてくる。
「それにあいつらは武装錬金も使ってきた。
ジュエルシードは無いかも知れないけど強敵なのは間違いない」
既に戦闘経験があるシンが呟く。
一対一ではあの金城に勝てたのかも怪しい。
「そうだ。動物型と人間型の大きな違いは武装錬金を使用できることにある。
ホムンクルスの身体能力と武装錬金の威力。
二つの錬金術の結晶を同時に使ってくる奴らは強敵だ。
決して動物型と同じような対処は出来ない」
ほとんど力任せしか出来なかった奴らと違い、特性の存在する武装錬金が相手では油断が命取りとなる。
その事を肝に銘じなければならなかった。
「……そう言えば、話の中に錬金術師の家系って出てきたけど、どういう事だ?」
シンが疑問に思ったことを尋ねる。
「あぁ、アインツベルンという昔から存在し、今も存続する有力な錬金術師の家系があるんだが。
その後継者がこの冬木を訪れたという情報があってな」
「アインツベルン!?」
その言葉になのはが反応する。
「聞き覚えがあるのか?」
「はい、カリスを連れて私達の前に現れた女の子がイリヤスフィール・フォン・アインツベルンって名乗ってました」
「そうか!だから、あの時、カリスもあの場に居たのか!」
なのはの言葉でシンは合点がいく。
連れ去られた先、その場にカリスが居たのはイリヤがLXEと繋がっているという証拠だった。
「そんな……ホムンクルスと協力してるなんて……そんな悪い子には見えなかったのに」
敵対はしたが忠告をくれたイリヤをなのはは悪人とは思えなかった。
「そうだな。なのはが蛙のホムンクルスに襲われてるのを教えてくれたのもイリヤだったし」
翔がなのはの危機を伝えに来たイリヤの姿を思い返す。
「うん、悪い子には思えなかった」
同じように伝えられたカズキも頷いた。
「なるほど。奴らにも何やら事情がありそうだな。
それにLXEは他にもアンデッドと協力している」
「アンデッドと?奴らと意思の疎通が出来るんですか?」
アンデッドは基本的に問答無用で襲い掛かってくる。
いくら化け物とは言え、元が人間であるホムンクルスと協力し合うのが疑問だった。
捕まった先でアンデッドと戦ったがそれは捕まえたのを利用しただけだと思っていたからだ。
「烏丸所長の話ではトランプのJからKに相当するアンデッド……上級アンデッドが存在するという。
彼らは人間の姿をもち、下級のアンデッドに比べて高度な知識を持ち合わせている」
その事実は剣崎たちを驚嘆させるに十分だった。
今まで下級のアンデッドに対してでも仮面ライダー以外は十分な戦力になっていない。
それなのにそれよりも上に位置する存在が現れたとなれば
これからの戦いがどれだけ過酷になるのか……想像もしたくなかった。
「その内の一人、伊坂と名乗るアンデッドがLXEと協力している。
烏丸所長を攫ったのは彼の差し金だろう。
何故、彼らが協力関係にあるのかは分からないがこれは事実だ」
ブラボーの言葉に全員が沈黙する。
「敵は非常に強大だ。そして、我々は既に一人の戦士を失っている。
武藤カズキ……戦士長の権限において君を戦士にスカウトする」
ブラボーがカズキを見て告げる。
それは今まで成り行きで戦っていた見習い戦士だったカズキが正式な戦士になるということ。
剣崎やシンは当然のことだとカズキを見ている。
今までの戦いぶりからカズキが共に肩を並べて戦える仲間だと既に認めていた。
「俺が……戦士に?」
「急な話だからな。答えは直ぐに出さなくても良い」
ブラボーの言葉にカズキが頷く。
「それから、剣崎一真とシン・アスカ。両名にもこの戦いに参加して欲しい」
剣崎とシンは同時に頷いた。
「アンデッドが協力してるならそれは俺の仕事です」
「ザフトもアンデッドが相手になるなら文句は言えないはずですから問題ありません」
その言葉にブラボーも頷く。
「それから、高町なのは……君はジュエルシードの捜索に専念してくれ」
「え……?」
ブラボーの言葉になのはが困惑する。
「もしかして、なのはを戦力から外すって言うのか?」
シンがブラボーに食って掛かる。
「おちつけ、高町なのはが戦士として十分な働きをしているのは報告で聞いている。
だが、それと同時にジュエルシードは非常に危険であるとも認識した。
LXEも蝶野攻爵同様に集められるとは思えないが無いとも限らん。
出来うる限り、奴らに戦力となるようなものは渡せない。
その為にも彼女にはその収集に全力を当ててもらいたい」
ブラボーの説明にシンがなるほどと納得する。
「それと衛宮士郎と天翔。君達も戦うというのならば協力してもらう。
だが、これは武藤カズキに対して言ったスカウトとは違う。
あくまで協力者としてだ」
それは戦闘の場に連れ出すつもりは無いということ。
そして、ここまで深く関わってしまった以上、下手に関わらせないよりは若干の協力を求めたほうが安全だと判断したからだ。
そもそも、士郎の家に剣崎とシンが暮らしている以上、関わるなという方が不可能である。
「それでも構いません!」
「あぁ、問題ない……だけど、何か敵は俺を狙ってたみたいだけど邪魔にならないかな?」
翔がシンから聞いた話を思い出す。
敵がシンを拉致した理由。
それは翔の居場所を聞き出すためだった。
「戦団で保護する事も出来るが?」
「いや、だったら俺はシンたちと一緒に戦いたい。皆が了解してくれるなら……だけど」
翔が皆を見回す。
「今度来たら返り討ちにすれば良いさ。それに狙われるにしたら俺も変わらない」
「まぁ、足だけは引っ張るなよ」
剣崎とシンをはじめ、皆も翔と共に戦うことを了承する。
戦う意思があるものを閉じ込める必要などは無い。
それに相手が翔を求めるならそれは彼の記憶に関することがわかるかも知れないのだ。

ブラボーは去り、斗貴子も先に帰っていった。
斗貴子も学園に転入し、寄宿舎に住む事になったらしい。
その為の準備が必要となり、現在、宿泊しているホテルに向かっていった。
「折角だから今日は祝杯を上げよう!」
突然、剣崎が提案し、カズキとなのはも夕食を衛宮家で取る事になった。
一つの戦いが終わったというのに新たな戦いが始まった。
気を緩める間もない連戦。
だからこそ、気分を変えるべく剣崎なりに気を使っての提案だった。
斗貴子も手続きが済み次第に参加する事になっている。
というよりもカズキが強引に了承を得たのだが。
「何だ、宴会か?」
騒ぎを聞きつけて魔理沙もやって来た。
「魔理沙にも随分と助けられたしな」
「助けたな。まぁ、意外と楽しかったぜ」
魔理沙は既に輪に入って寛ぎ始めている。
そこに霊夢も帰宅し、居間にやって来た。
「霊夢もこっちに来いよ。今日は宴会らしいぜ」
「あぁ、異変が解決したんだったわね」
「そうそう、私達も功労者だからな」
「まさか、外の世界に来て運び屋をやらされるとは思わなかったわ」
霊夢のほうに翔が歩いていく。
「扉は見つかったか?」
「ダメね。というか、多すぎるわ。無闇にあけると変な世界に繋がるし」
霊夢がその問いに首を横に振る。
状況は芳しく無いようだ。
「何だ。お得意の勘でもダメなのか?」
「アレは異変限定よ」
「今の状況も異変みたいなもんじゃないか」
「幻想郷にとっては違うでしょ。まぁ、巫女不在なんて前代未聞の異変かも知れないけどね」
「そういや、霊夢もあの世界を護ってるヒーローみたいなもんなんだよな」
シンもその話に加わってきた。
「まぁ、仕事よ。幻想郷には妖怪が多いからね。どいつもこいつも問題を起こしたがるの」
「そんなに大量に起きてるのか?」
「異変なんて言える様な大きなものはそうそう無いわね。最近だと一年前だったかしら」
「一年前ならつい最近じゃないか」
「貴方達が捕まってた紅魔館。その主のレミリアが赤い霧を幻想郷中に撒いたのよ。
日差しが強いってだけの理由でね」
「レミリアか……」
シンは敗北したことを思い出し苦々しげに呟く。
「異変を解決したって事はレミリアに勝ったのか?」
「まぁね……まぁ、あいつも本気で殺しにかかって来たって訳じゃ無かったみたいだけど」
事も無げに告げる霊夢。
その様子にシンは押し黙る。
「霊夢が自分が勝てなかった相手に勝ってるから嫉妬してるのか?」
その様子を茶化すように翔が尋ねる。
「別に、そんなんじゃない……」
そうは言うがシンはあからさまに不機嫌だった。
「まぁ、霊夢は特別だからな。大抵の妖怪は恐がって隠れるほどだし」
魔理沙が霊夢の背中を叩きつつ笑う。
「人を化け物みたいに……まぁ、話は聞いたけどレミリアと本気で殺し合いして腕を切り落としたのは十分、誇れると思うわよ。
アレでも幻想郷じゃそれなりに強力な妖怪として名が通ってるんだから」
それでも何か納得がいかないようでシンは余り上機嫌ではなかった。

そんな語らいが続く中、カズキは少し離れ、縁側で月を見上げながら考え事をしていた。
それに気づいたなのはがカズキに近寄る。
「……カズキさん、どうかしたんですか?」
顔を覗き込んで尋ねるなのは。
「大丈夫、別に何でもないよ」
カズキはそれに大して力ない笑顔で答えた。
その顔に驚いてなのはは眼を見開く。
いつも明るく、前向きな青年。
それがなのはにとってカズキ象だった。
だが、目の前の少年からはそんな印象は感じられない。
「そんな……何でもないはず無いじゃないですか?
今日もずっと何か無理してるみたいだったし……
蝶野さんとの戦いで何かあったんですか?」
なのはが考えうる中で彼にこのような変化があるとすればあの戦いだけだった。
死なせないと約束し、犠牲を出さないと誓った戦い。
結局、そのどちらも果たすことは適わなかった。
なのはにとっても苦い戦いであった。
「年上の人にこんなこと言うのは失礼かも知れないですけど……
私達、友達じゃないですか?
何か苦しい事があるんだったら言ってください」
なのははカズキの手を握る。
「……なのはちゃんは本当、しっかりしてるよね」
カズキはそんななのはに対し何時もよりも優しい笑顔を返した。
「えぇ!?そんな事無いです。何時もダメダメで皆に迷惑ばかりかけちゃって……」
「俺もだよ……
友達を護る為に皆と一緒に戦ってきたけど……
結局、斗貴子さんや剣崎さんたちの邪魔をしちゃってたんじゃ無いのかなって……
蝶野にさ……最後、偽善者って言われたんだ。
皆を守ろうと戦ってきたけど……結局、それって自己満足なのかなって……
ただの偽善だったんじゃないかって……」
カズキは気丈に振舞おうとするも自然と涙が零れ落ちていた。
ずっと悩んでいた。
自分が戦ったことで何が出来たのだろうか。
素人である自分が無理やり、戦いに参加してしまって結局、自体を悪化させたのじゃないか。
自分の言った言葉も護れず、敵を敵として殺したことが本当に正しかったのか……。
自分の頭の仲でグルグルと周り、決着のつかなかった想いが零れてくる。
そんなカズキをなのはは真っ直ぐに見た。
「そんな事ないです。カズキさんは私のこと、助けてくれたじゃないですか。
初めて私が魔法を使って戦い終わった後、ホムンクルスに襲われた時。
カズキさんが助けてくれなかったら今頃、食べられちゃってかも知れない。
カズキさんが自分で正しいて思ったことをしたから私は生きてるんです。
それは絶対に偽善なんかじゃありません!」
自分のしたことで助かった人が居る。
その存在はあまりにも身近で、共に戦っていた為に気づきもしなかった。
感謝される為にした訳じゃない。
自分が想うよりも先に行動した結果ではあった。
だけど、改めてなのはから貰った感謝の言葉はカズキの心を少し軽くしてくれた。

「カズキは大丈夫そうだな」
その様子を遠巻きに眺めて翔が呟く。
「何か悩んでたのか?」
良く分かっていないのか呆けた様子でシンが応える。
「シンはもう少し、仲間のことも気にしたほうが良いと思うぞ」
その様子に翔は呆れていた。
「おい、皆!料理が出来たぞ。とりあえず、運ぶのぐらい手伝え!」
士郎がキッチンから叫ぶ。
その言葉に皆が思い思いに立ち上がった。
戦士といえども常に戦っているわけには行かない。
時には息を抜くことも重要である。
これからも共に戦場を行く者たちは一時の安らぎと語らいを楽しんだ。


薄暗い部屋
大量の機材が置かれたその部屋の中央には巨大なフラスコが置かれていた。
その中でパピヨンが眼を覚ます。
その事に彼自身が驚いていた。
最後の記憶は武藤カズキによりトドメを刺された場面。
それならばパピヨンは粉々に砕かれ、絶命していなければならないはず。
なのにパピヨンには意識があった。
それと同時に四肢の感覚が無いこと気づく。
そう、パピヨンの体は胸から上しか存在せず、腕ももげていた。
「お目覚めかね?」
そんなパピヨンに一人の老紳士が語りかける。
「あんたは……?」
パピヨンはその顔に何処か見覚えがあった。
「よもや、私の残した研究資料を基にホムンクルスを完成させるものが現れるとはな」
「研究資料だと……まさか、お前は俺のひいひいじいちゃん。蝶野爆爵!?」
「その名は人間と共に捨てた。今の私は仲間からドクトル・バタフライと呼ばれている」
その言葉にパピヨンは驚愕する。
よもや、自分の祖先がホムンクルスとなり生き残っているなどとは予想だにしていなかった。
「君の錬金術師の知識と類まれなる生への執着心を認め、君を仲間に加えたいと思う」
「仲間……だと?」
「そうだ。かつて、私に錬金術を授けてくれたホムンクルスの王を復活させ、
この世に選ばれた者だけの世の中を作り出すために集った仲間。
我々は超常選民同盟LXE。
もし、君が我々の仲間になるというのなら人間型ホムンクルスの真の力……
核鉄を渡そう。そう、君を倒した錬金の戦士も使っていたあの力だ」
その言葉にパピヨンは口元を歪める。
一度は捨てた命だった。
だが、それがあろう事か拾われ、なおかつ最高の贈り物が用意されていた。
「今の気分はどうかね?」
バタフライの言葉に彼は人生で最も激しい笑みを浮かべた。
「蝶、サイコー!!」

バタフライの勧誘を承諾したパピヨンははれてLXEの一員となった。
だが、体の修復は完了していない。
彼が入っているフラスコが修復を行っているおかげで目に見えて再生は行われているがしばらく時間がかかりそうだった。
「随分とみっともない姿になったものね」
そんなパピヨンに声が投げかけられる。
パピヨンは暗闇から近づいてくる声の主に視線を合わせた。
「貴様は……公園でアンデッドを連れていた子供か」
パピヨンはその声の主を把握し、呟く。
声の主……イリヤはそんなパピヨンを鼻で笑った。
「結局、ホムンクルスになっちゃったのね」
「それが俺の望みだったんでな。生憎と不完全なものだが」
修復フラスコに入れられ再生している体でもパピヨンは自分の病気が感じられた。
長年、連れ添ってきただけに嫌でも自分の状態がわかる。
「死を回避するために人間を捨てて……貴方はそれで満足なのかしら?」
「いや、生憎と俺は貪欲でね。今のこの状態は満足には程遠い」
イリヤの嫌味を毛ほどに気にせずにパピヨンが受け答えをする。
「ふぅん……貴方も賢者の石を目指したりしているの?」
「賢者の石……あぁ、錬金術の到達点とされているアレか……
あまり引かれんな。今の俺はそんな事よりももっと興味があるものがあるんでな」
「意外ね。アレだけ短期間で錬金術を習得したのにもう、満足したの?」
「元々、生き残る為の手段として覚えたに過ぎないしな。
まぁ、研究自体は嫌いじゃない。だが、目的と手段は一緒にしない主義でね」
「……随分と変わっているわね。貴方」
「それは貴様の価値観と合わないというだけだろう」
「そうね……貴方、ローゼンメイデンって知っているかしら?」
イリヤがいきなり、話を切り替える。
その切り替えにパピヨンは怪訝な表情を浮かべた。
「知らないが……それがどうした?」
「生きた人形……人形師ローゼンが作り出した至高のアンティークドール。
まるで生きているかのような精巧な造りって伝えられているわ」
「なるほどな。生憎だが俺は人形遊びのような女々しい趣味は持ち合わせていない」
「貴方がお人形遊びというのも想像するとぞっとするものね。
まぁ、それは置いておくわ。
それでね、そのローゼンは錬金術師でもあるのよ。それも高名なね」
「錬金術でその人形を造ったと言う事か」
「いえ、違うわ。人形自体はあくまで彼の人形師としての技術で造られた。
彼が錬金術で作り出したものはただ一つよ。
ローザミスティカ……伝説では最も賢者の石に近い物質と言われているわ。
ローゼンの目的は一つだけだった。
至高の少女を作り出すこと……その為に彼は生きた人形を作り出すために錬金術に手を染めた。
そして、人間に命を吹き込む神秘の技を生み出した」
「それがローザミスティカか……無機物に命を与える。
確かに高度な技術だな」
「武装錬金にも自動人形型のものも存在するけどそれらとは比べ物にならなかったそうよ。
その人形は本当に生きているように思考し、生活したと言われているわ」
「……それで?その話を俺にしてどうしたいんだ?」
呆れたようにパピヨンはイリヤを睨む。
「あら?興味を感じなかったかしら?」
「興味が湧かないね。俺が今求めていることはたった一つだ。
それ以外のことは暇つぶしの材料程度にしかならん」
「やっぱり、貴方は変わっているわ」
パピヨンの言葉にイリヤは愉快そうに笑った。
「貴方ならもしかしたら真の賢者の石に近づけるかもしれないわね」
「そんなものに興味は無いと言っているだろう」
ローザミスティカ……無機物にすら命を与える神秘の技法。
錬金術師として全く興味を抱かない訳ではない。
だが、それが一番になることは無かった。
結局、パピヨンにとっては錬金術は目的を達成させる為の手段でしかない。
手段を充実させるのは重要ではある。
だが、目的を達成させることに比べれば些細なことだ。
「今、俺が求めることは唯一つ。
この俺を倒した一人の戦士との決着。
それをつけなければ俺は羽撃たけない!」
再び生を掴んだパピヨン。
それは彼に一つの生きる目標も与えた。
自分を倒した男
彼を超える事でしかもう、彼は羽撃たく事が出来ない。
その想いが彼に力を与える。
生きようとする強い意志……それこそが力なのだ。
パピヨンの体は見る見るうちに再生して行く。
強い想いが彼に力を与える。
それはホムンクルスとしても異端の存在だった。
「……驚いたわね。想いだけでこれだけの力を出せるなんて」
イリヤは正直に感嘆としていた。
その自分の思いに真っ直ぐな所だけは尊敬に値するとさえ彼女は思う。
「そう……こんな所で燻っている場合じゃないんでね」
街を襲った怪人パピヨンマスクの男は早い復活を遂げた。


翌日
斗貴子がカズキと士郎のクラスに転入した。
最初はそのトゲトゲした雰囲気と顔の傷から倦厭されたがカズキの知り合いだということで直ぐに打ち解けた。
その日の夕方
カズキと斗貴子が寄宿舎に戻るとキャプテンブラボーが宿直の管理人として赴任していた。
素顔で。ただ、本名は明かしていない。
彼曰く「その方がカッコイイから」だ、そうだ。
ブラボーは帰宅した二人を宿直室に招き入れる。

「二人は橘朔也の連絡先を知らないか?」
ブラボーが二人に尋ねる。
カズキと斗貴子は顔を見合わせ、首を横に振った。
「そうか……」
「多分、剣崎さんかシンなら知ってるんじゃないかな?」
「だと、思って聞いてみたんだが分からないそうだ」
「それでは橘朔也には烏丸所長が敵の手に渡った事が伝えられていないんですか?」
斗貴子の質問にブラボーは頷く。
「一応、事前に落ち合う場所は伝えておいたんだがな。結局、彼は来なかった」
「……逃げたんじゃないですか?彼は元々、戦うことを恐がっていたと聞きます。
そして、ライダーシステムによって死ぬ危険性も無くなった。
だから、戦うことを止めた」
「……そうだな。俺もそう思う。
まぁ、精神的な問題とは言え体調が悪いものを無理やり戦わせても危険なだけだ。
仮面ライダーが一人、抜けることは戦力的に痛いが」
これで対アンデッドはブレイド一人になってしまった。
だが、それで弱音を吐いている場合ではない。
「武藤カズキ……昨日の件だが答えは決まったか?」
ブラボーがカズキの眼を見て尋ねる。
「……俺は皆と一緒に戦いたい。
今まで一緒に戦ってきた仲間が戦うって言うのに俺一人だけ何もしないなんて無理だ」
カズキは決心していた。
どれだけ辛い戦いが続こうとも自分の決めた信念を貫くことを。
仲間達と共に乗り越えていくことを。
「……そうか。随分と良い眼になったな」
ブラボーはそんなカズキを見て優しく肩を叩いた。
「だが、そうとなれば俺は甘やかさない。
他の者に比べてもお前はまだ、未熟だ」
ブラボーが覚悟を試すようにきつい口調で告げる。
今までどうにか喰らいついてきたが実際、剣崎やシンに比べてもカズキは相当に技量が低い。
曲がりなりにも正規の訓練を積んでいる二人とただの高校生では経験が違うのは当然だ。
だが、それでもなお戦い続けてこれたのはカズキ自身の勇気と信念……そして、戦士としての才能故である。
「これからお前に戦士としての基礎を叩き込む。
辛い修行になると思うがお前に耐えられるか?」
「うん、皆を守れるのならどんなに辛い事だって乗り越えられる!」
カズキの言葉にブラボーは微笑んだ。
初々しいその覚悟が心地よかった。
「よし、訓練は明日から行う」
「え?今日からじゃないの?」
「まだ、戦いの傷が完全に癒えている訳では無いだろう。
それで無理をしても仕方ないからな。
だが、今日一日もあれば回復するはずだ」
ブラボーの言葉にカズキは頷いた。

カズキと斗貴子が宿直室を出る。
「本当に良かったのか?」
斗貴子がカズキに尋ねる。
「うん、大丈夫。ちゃんと考えて出した答えだから」
「そういう意味じゃないんだが……」
二人が会話をしているとドアを開けてブラボーが顔を出す。
「カズキ、お前に電話だ。友達だと言っている」
ブラボーが受話器を片手に告げる。
カズキはその言葉に首をかしげながら来た道を戻った。
知り合いならば携帯電話に連絡が来るはずだ。
それなのに宿舎に連絡してくる友達の当て等無かった。
カズキはブラボーから受話器を受け取り出る。
「もしもし?」
「何だ、随分と元気そうじゃないか?」
その声を聞いてカズキは驚愕する。
その声の主をカズキはもう忘れることはありえないだろう。
それだけ鮮烈に脳内に記憶されている。
「蝶野!?」
「どうやら、思ったよりは俺の言葉を引きずっていなかったようだな」
「俺には仲間が居るから……」
「なるほど、仲間に慰めて貰ったという訳か……
どうだ、今度会ってゆっくりと話をしないか?
電話だけでは伝えきれないこともあるだろう」
「分かった」
カズキはパピヨンと会う約束を取り付ける。
それを横で聞いていた斗貴子は驚愕し、それを止めようとするがそれをブラボーに止められる。
そして、カズキとパピヨンは明日、会う事になった。


そして、翌日
冬木から離れた場所にある繁華街で彼らは落ち合う事になった。
この事を聞いた剣崎とシン、なのはと士郎も同行している。
「何も君たちまで付いて来る事は無いだろに」
斗貴子が士郎となのはを見る。
「蝶野さんにはどうしても聞きたいことがあるんです」
なのはは何故、パピヨンの元にフェイトが居たのか。
それを聞くためにやってきていた。
「俺だってこの件に関しては関わってきたんだから。
元凶がのうのうと生き残ってるなんて気になるだろ」
士郎としては数多くの犠牲者を出してきた犯人が生きているという事実が気に入らなかった。
それに関してはシンも同感らしく頷いている。
「まぁ、ここまで来たんだから今更、文句を言っても始まらないだろ」
そんな斗貴子を剣崎が宥め、彼らは改札を出る。

「やぁ、待ちかねたぞ」
そんな彼らを出迎えたのは何時ものパピヨンマスクと胸元が大きく開いた奇妙なスーツに身を包んだパピヨンだった。
その姿は余りにも奇抜で周囲の視線は彼に釘付けになっている。
というか、そのもの珍しさから携帯のカメラでその姿を撮っている者も多い。
「よ」
カズキは軽く返すが他の者たちはそうはいかなかった。
「何だその格好は!?ふざけてるのか!?」
シンが怒鳴る。
とてもではないがそのセンスについていけない。
「どうだ、オシャレだろ?今日の日の為に用意させたんだ」
そんな彼の怒りなど軽く受け流し答える。
「う~ん……この前のパンツ一丁よりは」
その答えにカズキが答えた。
その受け答えになのはが乾いた笑いを上げる。
その脳裏にこの前の夜の出来事が再生されているのは間違いないだろう。
シリアスな空気だったので受け流していたが良く思い返せば相当にアレな姿だ。
「アレも中々、刺激的で気に入ってたんだが」
「あぁ……とりあえず、そのマスクだけにしておけ。それならオシャレだ」
カズキは特に一番問題のある部分だけを肯定した。
「……あのマスクがオシャレなのか……日本って変わってるんだな」
シンがその様子に呆然として呟く。
「いや、そんなことないからな!」
汚染され始めているシンに剣崎が叫ぶ。

それから話をする為に色々な店を訪れてみたもののパピヨンの格好のせいで来店拒否されてしまい色々彷徨っていた。
「全く、この服の良さが分からないとは……」
不満げにパピヨンが呟くがその様子に皆は呆れていた。
「流石にある程度、落ち着ける場所じゃないとな……仕方ないから士郎の家に……」
カズキが提案するが士郎はその頭を思い切りひっぱ叩いた。
「もし、何かの間違いで藤ねぇか桜が来てみろ。もう、弁解のしようが無い。
ただでさえ、霊夢と魔理沙のせいでアレだけ大変な事になってるって言うのに。
あんなの見せたらトドメ以外の何ものでもないぞ!」
巫女と魔法使いのコスプレをした少女を連れ込んだ疑惑で色々と信用が落ちている士郎。
彼は何一つ悪くは無いのだが世間体はそう言わない。
そもそも、霊夢と魔理沙は普段からあの格好のままなので近所にも噂が広まっているしまつだ。
「う~ん……そう言えばなのはの家ってお店やってるって」
「ダメです!」
次の提案も一蹴された。
流石にこんなのを連れて親のやっている店に行きたがる者は居ないだろう。
「やれやれ、困ったものだな」
原因のこんなのが呆れたように笑っている。
「誰のせいだ、誰の!」
シンはその様子に腹が立って仕方が無かった。

彼らが街を歩いていると突然、悲鳴が聞こえてくる。
「何だ!?」
彼らはその悲鳴の方向へと駆け出す。
逃げる人ごみを掻き分けていくとそこでは一体のアンデッドが暴れていた。
「アンデッド!?」
「被害が広がる前に封印してやる!」
剣崎とシンが先に駆け出す。
「よし、俺達も!」
カズキもつられて走り出そうとするがその服を掴んで斗貴子がとめる。
「私達は周りの人間を非難させるぞ」
「はい!」
斗貴子となのはが走り出す。
カズキもその命令に従い避難誘導を開始した。
パピヨンは何もせずただ、黙って戦い始めるアンデッドを観察する。

「変身!」
「コール・インパルス!」
二人は一斉にアンデッドに突撃する。
そのアンデッド……ゼブラアンデッドはそれに感づくと最初の一撃を受け止めた。
そして、素早い連撃で二人の体を吹き飛ばす。
「ちっ!なんて力だ」
ただの一撃でもインパルスの装甲に相当なダメージがある。
「シンは援護してくれ」
「了解!」
シンはビームライフルに持ち変えるとゼブラアンデッドに狙いをつける。
「当たれ!」
放たれたビームの帯がアンデッドの体を捉えるがその皮膚の表面を焦がす程度だった。
「今だ!」
その隙を突き、ブレイドが接近しブレイラウザーでゼブラアンデッドを斬り付ける。
アンデッドの皮膚を切り裂き、体液を噴出する。
それに対しゼブラアンデッドは突然、分裂した。
「何!?」
いきなりの自体にブレイドは困惑する。
だが、その隙を突いて一体のゼブラアンデッドがブレイドに拳を叩きつける。
「剣崎さん!?」
シンは援護しようとビームライフルを構えるが、もう一体のゼブラアンデッドが一跳びでインパルスに接近する。
「!?」
シンは咄嗟に上昇し、その拳を回避する。
空中で姿勢を制御すると地面のゼブラアンデッド目掛けてビームライフルを構える。
だが、それよりも速く、ゼブラアンデッドは跳躍してインパルスに体当たりをかます。
衝撃により空中でふらつくが直ぐに体勢を立て直す。
だが、そこにゼブラアンデッドが落下してきてインパルスの翼を叩きおった。
姿勢制御用の翼を破壊され、インパルスは地面に落下する。
「くっそぉ!!」
どうにか最低限の制御でビルに激突しようとする軌道を変化させ、道路の上に落下した。
衝撃によりアスファルトが砕ける。
不時着したインパルスに対して、ゼブラは着地と同時に駆け寄ってきた。
そして、そのままインパルスを砕こうと足を振り下ろす。
だが、その行動を横から飛んできた弾丸が阻止した。
シンはその光景を目の当たりにし驚愕する。
そして、周囲を見渡した。
その中、一つの姿を見つけ出す。
「……ギャレン!?」
それは紛れもなく仮面ライダーギャレンの姿だった。
「遅くなったな……俺に任せろ!」
ギャレンはギャレンラウザーを連射しながら駆け寄る。
そして、インファイトの位置を取り、連続で拳を叩き込んだ。
その凄まじい攻撃にゼブラは吹き飛ばされ、その姿を消す。
「こっちは分身か」
ギャレンは冷静に呟くとすぐさま、ブレイドと交戦しているほうへと駆け出した。

ブレイドはゼブラの猛攻に苦戦を強いられていた。
強烈な一撃をもらい、地面を転がる。
「くっ……」
ブレイラウザーを杖代わりに立ち上がるブレイド。
その横をギャレンが駆け抜けていった。
「橘さん!?」
その姿に驚いて剣崎は眼で追う。
ギャレンはすぐさまゼブラの懐に入ると拳を回避し、カウンターで拳を叩き込んで行った。
その一撃、一撃でアンデッドが仰け反る。
「これで終わりだ」
最後にハイキックで怯ませるとギャレンはカードスロットを展開する。
―――ファイア―――
―――ドロップ―――
【バーニングスマッシュ】
ギャレンはコンボを完成させ、その踵に紅蓮の炎を灯す。
そして、跳躍し、空中で回転してゼブラアンデッドに踵落としを決めた。
その強烈な一撃にゼブラの肉体は粉砕され、余波でアスファルトに亀裂が走る。
ギャレンは華麗に着地すると倒れたゼブラアンデッドにカードを投げつけ、封印した。

「……アレが仮面ライダーギャレン」
その一連の戦いを目の当たりにしてカズキは絶句した。
話でしか聞いたことが無かったギャレンの戦い。
それは壮絶だった。
剣崎とシンが苦戦している相手を真正面から蹴散らしたその力。
橘はアンデッドからまともな一撃を一切、受けていない。
ブレイドとはその強さのレベルが違った。
「なるほど。都市伝説として語られるだけはあると言う事だな」
パピヨンがそんな彼に拍手を送る。
橘は変身を解き、そんな彼を見た。
だが、直ぐに興味を失ったようで視線を逸らす。
「橘さん!!」
そんな彼に剣崎が駆け寄った。
「凄いじゃないですか。もう大丈夫なんですね!」
嬉しそうにその手をとった。
彼にとっては憧れていた先輩が戻ってきた喜びがあった。
「あぁ、心配かけたな。もう大丈夫だ」
そんな剣崎に橘が笑顔を返した。
「それじゃ、これからは一緒に戦えるんですね」
「そうだ。今まで、お前達ばかりに苦労させてすまなかったな」
嬉しそうな剣崎とは対照的にシンは何処か不機嫌そうにしている。
「どうしたんだ?折角、頼りになる先輩が戻ってきたのに」
「別に俺は橘さんとは一回しか一緒に戦ったこと無いし。
それなのに今更、やってこられて偉そうにされてもって思っただけだよ」
「何だ。嫉妬してるのか?」
「はぁ!?そんな訳無いだろ」
シンは今一、納得がいかなかった。
一昨日の狼狽振り。
アレがたった数日で治るとはとても思えなかった。
それは斗貴子も同じらしく警戒するように橘を見ている。


「やれやれ、アンデッド騒ぎのせいで時間をとってしまったな」
警戒態勢のしかれた繁華街から離れて、冬木にまで戻ってきていた。
そして、結局、話す場所も見つからずに博麗神社までやってきている。
「なんなのコレは?」
霊夢が怪訝そうにパピヨンを指差す。
「パピヨンマスクの怪人……ホムンクルスを造って街を襲った元凶だよ」
シンがその質問に答える。
「へぇ、こいつが異変の首謀者ね……外の世界は随分と変わった格好の奴が居るのね」
流石にパピヨンの格好が許容できなかったのか霊夢が苦笑いを浮かべる。
「それにしても何でこんな所に居るんだ?」
「巫女が神社にいちゃ悪いのかしら?」
「いや、そうじゃないけど……別にこっちはお前の神社って訳じゃないんだろ?」
「そうよ。だけど、外と言っても博麗神社だし。それがボロボロのままってのは落ち着かないからね」
話していると神社の中から翔が出てくる。
「げほげほ!誇りだらけでどうしようもないぞ!」
翔が霊夢のところまで駆け寄ってくる。
「お前もここに居たのか」
「お前達こそ何でここに来てるんだ。しかも、パピヨンまで連れて」
「落ち着いて話せる場所が無かったんだよ」
パピヨンとカズキは並んで街を一望している。
「平和な街だ……」
「そうか?」
気に食わないという様子のパピヨン。
その発言にカズキは否定的だ。
何せ、先ほどアンデッドが暴れていたわけであり。
平和には程遠いと思えた。
「あの程度じゃ平和ボケした人間の頭の中なんて変わらない。
呑気に同じ事を繰り返すだけだ。
やはり、全て燃やし尽くした方が良いな」
パピヨンはこれまでに歩いてきて見慣れた風景を思い返す。
局所的な騒ぎでざわつきはするが誰も彼も自分は安全だと思っていた。
平々凡々、ただ与えられた平和を満喫する人間達。
それをパピヨンは許容できなかった。
「何を言ってるんだ!?平和な事の何が悪い!!」
そんなパピヨンにシンが突っかかる。
「ザフトのパイロットか……」
「蝶野攻爵!お前が街を焼くって言うなら俺がお前を倒してやる!」
シンは転送機を構えて吼える。
平和な街が焼かれる。
それはシンにとっては許されざる事だ。
もう二度とそんな悲劇を見たくは無い。
「俺をその名で呼ぶな!」
シンに対し逆にパピヨンが吼える。
「その名で呼んで良いのはこの世でただ一人だけだ」
その気迫にシンは押される。
それだけの威圧感があった。
下手に彼をその名で呼ぶのはパピヨンを逆上させるだけだろう。
「それに今日は争いに来た訳じゃない」
パピヨンが馬鹿らしいと笑う。
「それじゃ、何をしに来たって言うんだ?」
「ただ俺を倒した男がどうしてるのか見に来ただけだ。
元気そうで何よりだがな」
「そりゃどうも」
パピヨンの言葉に嘘は無いだろう。
そもそも、戦いに来るにしてもカズキには仲間が多い。
一人では自殺に来たようなものだ。
「パピヨン……お前もLXEの一員なのか?」
剣崎が尋ねる。
「もちろん。首魁であるドクトル・バタフライ直々にスカウトされてね」
「それじゃ、その本部は何処にあるんだ?」
「教えるわけ無いだろ。馬鹿か、お前は?」
殴りかかろうとする剣崎を翔が引き止める。
「俺は近々、人間型ホムンクルスの真の力である核鉄を受け取る」
パピヨンの言葉に全員に緊張が走る。
「決着はそれからだ。だから、お前もそれまでに少しでも強くなれ」
パピヨンがカズキを指差し宣言する。
明確に倒すと。
「あぁ!次も俺が勝つ!」
それに対しカズキもその宣言を受け止めた。
彼らの中に奇妙なシンパシーを感じていた。
直感でカズキはパピヨンのその言葉を信じることが出来た。
パピヨンが正々堂々と決着を望んでいることを。
「それだけだ」
パピヨンはそう言うと去っていこうとする。
「待って!」
それをなのはが引き止めた。
「どうした?俺はもうジュエルシードは持っていないし、興味も無い。
後は好きに集めていろ」
パピヨンが立ち止まり答える。
「そっちじゃないの……あの子、貴方がホムンクルスになった日に一緒に居た金髪の子。
フェイトちゃんと貴方はどういう関係なの?」
どうしてもそれだけは聞いておきたかった。
結局、蔵で分かれてから出会っては居ない。
カズキからパピヨンを止めようとしていたと聞いたがなのはが気づいた時には既に居なかった。
彼女が何故、あの場に居たのか。
「あぁ、あの鎌女か」
「鎌女って……」
「どういう関係も何も。あいつが俺のジュエルシードを奪いに来ただけだ。
あの日は戦力が無かったからな。交換条件でお前達の撃退を任せたに過ぎない」
「それじゃ、仲間って訳じゃないんだ」
安心したという様子でなのはは息を漏らす。
「……何故、奴のことを気に掛ける?お前とあの女は敵対していたはずだ」
「うん、そうだけど……でも、あの子の事がほうっておけなくて」
「なんだ。あいつにも何か理由があって助けたいとでも思っているのか?」
「う、うん……そうだけど……」
「やめておけ、相手のことを気遣っているふりをしたところでお前はあいつの邪魔をして居ることは変わらない。
それはただの偽善だ」
パピヨンはなのはに辛らつな言葉を投げつける。
「それは……」
その悪意と殺意になのはは気おされる。
だが、そんななのはの肩をカズキが掴んだ。
「そうかも知れない……だけど、なのはがあの子を助けたいって気持ちはお前に否定させない」
「……自分が出来なかったことをその子供に託すのか」
カズキはパピヨンを救えなかった。
それは今もカズキを苦しめる一因である。
「そんなんじゃないよ……ただ、誰かが苦しんでるんだったら手を差し伸べるのは間違ってなんか居ない。
そうだって気づいただけだ」
一昨日、差し出された手が自分の心を少し救ってくれたこと。
それだけは紛れもない真実だった。
「好きにしろ。俺はその事に関して干渉するつもりはない」
パピヨンはそれだけ言い残すと去っていった。

「ありがとうございます」
なのはがカズキに頭を下げる。
「いや、お礼なら俺が言う方だよ。
苦しい時に手を差し伸べてくれるって凄く嬉しいんだって当たり前のことだけど良く分かったから。
だから、あの子が苦しんでるなら助けよう。俺も協力する」
なのはのカズキのその言葉に笑顔を向ける。
その様子を遠巻きから斗貴子が見ていた。
「何だ、斗貴子さん。もしかして、嫉妬してるの?」
その様子に気づいた剣崎が斗貴子を茶化す。
「違う!ただ、随分と仲良くなったなと思っただけだ」
斗貴子が落ち着いた様子で反論する。
剣崎は思っていたような反応が無くて逆に驚いていた。
「というか何でカズキとなのはが仲が良いと斗貴子が嫉妬するんだ?」
シンが真顔で剣崎に尋ねる。
「そりゃ、カズキと斗貴子は何時も一緒に居るし……」
「それは同じ錬金の戦士だからだろ」
良く分からないという様子でシンが呟く。
結局、剣崎はしどろもどろになっていた。


LXEの本拠地
その中の一室で橘朔也は眠っていた。
「洗脳は完璧のようだな」
サングラスの男……伊坂がバタフライに話しかける。
「当然だ。私のアリス・イン・ワンダーランドの催眠効果なら人の意識を弄ることなど簡単なことだ」
バタフライは蝶の形の髭を弄りながら答える。
「それにこいつの精神には大きな穴があった。
そこから揺さぶりをかけて操ることなど朝飯前。
大した作業ではない」
「これなら例の作戦を決行することが出来るな」
「精精、頑張ってくれ。私達としてはあの厄介な仮面ライダーどもを始末してくれれば問題ない」
「言われずともな。ついでに錬金の戦士という輩も片付けてやろう」
「それは助かる。未熟な戦士二人はともかく、あの戦士長とか言う輩は苦労しそうなのでね」
どちらの眼は笑っていない。
信頼などという言葉は存在しない。
乾いた会話が続いている。

「そういう事か……」
その様子を廊下から盗み聞きしていたパピヨンが呟く。
「あら、随分と行儀が悪いのね」
その横でイリヤが立っている。
「貴様に言われたくないな」
「私は良いのよ。あの伊坂って男は始の敵なんだから。
情報収集ぐらいしないと」
「上級アンデッドだというあの男か……LXEと協力してるんじゃないのか?」
「一時的にね。それに始はLXEとは何の関係も無いわ。
ただ、私が拾って面倒を見てるだけよ」
「趣味の悪い遊びだな」
「貴方に趣味が悪いとだけは言われたくないわね」
心外だといわんばかりである。
当然だが。
「何を企んでいる?」
「それも貴方に言われたくないわ。組織の一員になったくせに誰も信じていないくせに」
「当然だろ。俺のひいひいじいちゃんが作った組織だ。
信用できるはずも無い」
「納得の答えね」
「お前はLXEの一員という訳ではないんだろう」
「えぇ、私の家はただの資金提供者。ホムンクルスの王の復活を志す彼らのね」
「ホムンクルスの王……胡散臭い話だな。
それに元は戦士だった男だろう」
「詳しい話は聞かされていないけど。力だけは確かという話よ」
「なるほどね」
それだけ話すとパピヨンは歩き出す。

絆を深め合うカズキたち
それとは対照的にパピヨンは誰も彼もが腹を探り合う場所に居た。
復活したと思われた橘は操られた存在であった。
そして、伊坂の進める計画……
戦いは静かに侵攻して行く。



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