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「それじゃ、剣崎さんたちは……」
人気の少ない衛宮邸。
それは剣崎たちが移り住んでから久しくない状況だった。
「あぁ……捕まっちまった。
くそっ!もっと、俺が強ければ!」
士郎が自分自身の無力を恨むようにテーブルに拳を叩きつける。
昨夜……
カズキがパピヨンと決着をつけた夜。
剣崎とシンを襲った謎の集団は二人を拉致した。
士郎は懸命に戦った者の一人ではどうしようもなくその姿を見送るだけだった。
一夜明け、結局、二人は帰ってこない。
何処に居るのか、検討すらもつかなかった。
現在、部屋には士郎、カズキ、斗貴子、翔の四人が居る。
なのはは自分の家に戻り、霊夢と魔理沙は別室で休んでいた。
「折角、ホムンクルスの件が片付いたってのに……」
士郎が悔しそうに声を漏らす。
「二人の行方だが……実は居場所が分かっている」
その時、斗貴子が彼らに告げる。
その言葉に三人が一斉に彼女の方を向いた。
「本当!?斗貴子さん!」
「あぁ、実は本隊から増援が来ていてな。彼らから連絡が来た。
仮面ライダーブレイドとシン・アスカが連れ去られた場所の情報が」
「本隊……?」
「言ってなかったか。錬金の戦士の本隊……まぁ、ホムンクルスと戦う組織だ。
既に私は接触している。カズキについても話している。
この件が終わったら正式の説明するから少し待っていてくれ」
斗貴子がまがりなりにも戦士であるカズキに説明する。
その言葉にカズキは頷いた。
「とにかく、居場所は分かっているんだろ?早く助けに行こう!」
士郎が立ち上がる。
よっぽど目の前で連れて行かれたことが堪えているようだ。
よく眠れていないのか目も充血し、隈も出来ている。
「あぁ!」
それに呼応するようにカズキも立ち上がる。
「まぁ、待て。カズキ……君は留守番だ」
「えっ?」
その言葉にカズキは驚く。
「君は限界まで体を酷使している。核鉄の治癒をもってしても万全ではないだろう」
その言葉に図星を指されカズキは言いよどむ。
事実、全身が痛み、立っているのも辛い状況だ。
「でも!」
「でもじゃない!それとも何か、私のことが信用できないのか?」
斗貴子にそう言われてはカズキは何も返せない。
「そうだ。カズキは今まで頑張ってきたじゃないか。今度は俺の番だ」
「いや、君も残るんだ」
張り切りる士郎を斗貴子が出鼻を挫く。
「なんでさ!?」
「君は確かに良くやってくれた。
だが、一般人だ。これ以上の深入りは危険すぎる。
相手は個人ではないんだ」
斗貴子が刺すような視線で士郎を睨む。
それは警告だった。
普通の人間と戦う人間。
その境界線を易々と踏み越えようとしている士郎に対しての。
「そういや、誰が二人をさらっていったんだ?」
翔が斗貴子に尋ねる。
「LXE……ホムンクルスのコミュニティだ」





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第十一話「囚われた戦士」




ホムンクルスのコミュニティ……
その言葉にカズキと士郎は驚愕する。
この街に居るホムンクルスとその創造主は倒した筈だ。
だというのに、何故、また新たなホムンクルスが現れるのか。
それもコミュニティという形で。
「詳しい話は全員と合流した後に行う。
言えることは一つだ。蝶野の時ほど敵は甘くない。
士郎、君が奴らに目をつけられれば護りきれるという保障は無い」
剣崎やシン、数多くの戦士達が拠点として活動するこの屋敷。
その家主である士郎が狙われないという可能性は少なくない。
それなのに目立つように戦いの場に出るということは自殺にもにた行為だ。
下手な動きは死へと繋がる。
「だからって……」
なおも食い下がる士郎。
「五月蝿い!こればかりは承諾できない」
だが、斗貴子はそれを一括で拒絶する。
その気迫に士郎は後ずさった。
今までとは違い。
ただ、協力者が入れる空気ではなかった。
「すまないが翔。君にはついてきて貰いたい」
斗貴子が翔に向き直る。
「まぁ、シンと剣崎さんが心配だったから最初から付いて行く気だったけど……
正直、戦力にはならないと思うぜ」
翔が自嘲気味に答える。
今まで何度か戦いの場に赴いているが正直、アンデッドやホムンクルスと戦いになっているとは言い難い。
「それは期待していないから安心しろ。
君は身体能力だけなら私以上だ。足も速いしな」
ようは逃げ切れるという話である。
身のこなしも軽いので潜入にも向いていると言えた。
「それと霊夢と魔理沙にも協力してもらいたいな」
そんな事を話しながら斗貴子と翔が部屋から出て行く。
士郎とカズキはその姿を見送った。

「くそっ!俺にも戦う力があれば……!!」
士郎は悔しさから歯を噛み締める。
皆を救う正義の味方になる。
そんな夢を持っている士郎にとってこの街に降りかかる敵と戦えないのは悔しかった。
「士郎……何も戦うだけがやる事じゃ無いだろ。
俺や皆が戦ってるときに学校の皆を護れるのはお前だけだ」
そんな士郎にカズキが声をかける。
そして、手を差し伸べた。
だが、その手を士郎は払いのける。
「……ごめん、カズキ。そっとしておいてくれ」
「いや、俺こそ……それじゃ、俺帰るよ」
カズキはそういい残し部屋を出て行った。
玄関が開く音が聞こえ、足音は遠ざかっていく。
「……このままじゃダメだ。強くならなきゃ……
その為には……いいよな。使いこなせるようになったら皆に見せたってさ。じいさん」
士郎は強く握った拳を見て一人、何かを決意した。


「あの工場に居るのか?」
既に使われなくなって久しい廃工場。
そんな場所に翔と斗貴子の二人はやってきていた。
結局、霊夢と魔理沙の協力を得ることは出来なかった。
流石に連戦がきついのと、結局、彼女達に優先することがあることが大きい。
霊夢は幻想郷への帰還、魔理沙はジュエルシード。
どちらも自分の目的を優先した。
剣崎とシンを完全に見捨てているわけでも心配じゃない訳でもない。
だが、それ以上に大切なことがあると言うことである。
それに対して翔は妙に寂しい気分になった。
「あぁ、使われていないはずなのに最近、出入りした形跡がある。
まず、間違いないだろうな」
「それでどうすれば良いんだ?」
「君は動力を切りに行って貰いたい。
その間、私は内部に潜入してシン・アスカを助け出す」
「剣崎さんは?」
「そっちは本隊がどうにかしてくれる」
「なるほど……それじゃ、行くとしますか!」
二人はそれぞれの目指す方向へと駆け出す。
なるべく、足音を出さず、それでいて素早く。
彼らは何者かの暗躍する工場に足を踏み入れた。


工場内の一室
「お前達は一体、何をしようって言うんだ!」
シンは椅子に縛られ座らされている。
その前には二人の少年と一人の少女が立っていた。
彼らは全員、シンと同じような年齢をしている。
また、見た目からして日本人では無いようだった。
「流石にしぶといな」
緑の髪の男……スティングが呆れ気味にシンを見下ろす。
「本当。黙ってたって良い事ないぜ」
水色の髪の男……アウルが愉快そうにしている。
「……」
金髪の少女……ステラはシンの姿に怯えている。
「こんな所に縛られたって俺は翔の事は教えない!」
そんな三人に対してシンが叫ぶ。
ここに連れ去られてからシンは転送機を奪われ、尋問を受けていた。
内容はBOARDの研究所地下から発見された少年の行方。
つまり、翔が何処に居るのかという事。
その事からシンは目の前の三人がBOARDを襲撃したMSのパイロットだと断定する。
声にしても聞き覚えもあった。
「常に共に行動してたのは知ってるんだ。それが作戦決行日だけ別行動してるとはな。
こっちの動きをかぎつけていた……とは、思いがたいな」
スティングは頭をかく。
彼らは以前から翔を誘拐するべく機会を窺っていたようだ。
拉致のタイミングでは翔は町外れに居た。
運が良かったのだろう。
何時も通りなら捕まっていた可能性は高い。
鷲尾を追って街を一時的に離れたことが功をそうしたのだろう。
「まぁ、良い。住んでいる場所も特定してるんだ。
お前が居場所を吐かなかった所で捕まえる。
お前のしてる事は無意味なんだよ」
「はっ!」
シンはスティングの言葉を鼻で笑う。
「無理だな。俺達には頼りになる仲間が居るんだ。
もう二度と捕まるようなへまなんかするもんか」
シンが馬鹿にしたようにスティングに言葉を投げる。
それに対してスティングは拳で答えた。
その一撃に口内が切れ、シンの口から血がつたう。
「黙れ、得体の知れない連中で徒党を組みやがって。
そんなんで防ぎきれるかよ。
あんなところに集まってるって事は結局、お前達に後ろ盾なんて無いんだろうが」
「それがどうした!
化け物なんかと手を組んでるような奴らに、俺達が負けるかよ!」
シンが叫ぶ。
信じていた。
カズキたちがホムンクルスの創造主を倒していることを
そして、彼らが自分を助けに来てくれることを。
だから、心配など無い。
捕まって、殴られようとも、心は折れない。
反撃のチャンスは必ず来るのだから。
「てめえ!」
スティングが叫ぶと同時に突然、蛍光灯が消える。
窓の無い個室だった部屋が突然、真っ暗になった。
「な、なに!?」
その自体にステラが怯える。
「停電か?」
アウルが呑気に呟くと同時に突然、何かが破壊される音が響く。
その音の方向に全員が視線を集める。
それと同時に暗闇の中から何かが彼らに襲い掛かる。
襲撃者はまず、一番近くに居たアウルに一撃を叩き込み昏倒させる。
「ちっ!」
スティングは拳銃を襲撃者に向けるがそれよりも早く、何かが拳銃を切り裂いた。
金属で出来た銃身は切り裂かれ、鋭利な切断面を見せる。
「なっ!?」
そんなありえない現象にスティングは驚き、声を上げる。
拳銃を切り裂けるものなど早々無い。
だが、その襲撃者はそれをやって見せた。
「くそっ!ステラ、モビルスーツだ!」
生身では太刀打ちできないと判断し、スティングが叫ぶ。
それと同時に蛍光灯が再び点灯した。
そして、スティングはステラが居た方向を見る。
ステラは太ももから鋭利な刃物を持つ腕を生やした少女に捕まっていた。
そして、その横には自由となったシンの姿がある。

「残念だが……その転送機を放して貰おうか?」
襲撃者……斗貴子はバルキリースカートの刃をステラの首筋に押し付け、尋ねる。
その脅迫、斗貴子の目は本気だった。
その冷たい視線にスティングは戦慄する。
応じなければ即座にステラの首を跳ねるだろう。
そんな気がした。
それが出来るように感じられた。
だが、それは完全な敗北を意味する。
アウルは昏倒し、ステラは捕まっている。
ここでみすみす転送機を捨てて、彼らを逃がせば任務は失敗してしまう。
だから、それが彼を躊躇させた。
そして、その躊躇は彼にとって好機となる。
「ヒャッホウ!!」
突然、奇声と共に何者かが壁をぶち破り、登場する。
そして、腕を振るい、斗貴子のバルキリースカートのアームを一つ粉砕した。
それはステラの首筋に当てられていた一本だった。

「なっ!?」
斗貴子は突然の襲撃に驚きの声を上げる。
そして、その襲撃者が武装錬金であるバルキリースカートのアームを破壊した事に驚愕した。
バルキリースカートは武装錬金としては脆い方にあたる。
だが、それでも通常の機械に比べれば遥かに頑丈であり、普通に殴ったのであれば破壊されることはありえない。
出来るとすれば、それは人間ではない化け物ということだ。
「貰ったぜ!」
スティングがその襲撃に呼応した接近し、ステラを奪い取る。
そして、一旦、その場から離れた。
乱入してきた人物もスティングのほうへと移動する。
「ちぃ!」
斗貴子はその乱入者を見て舌打ちする。
その胸には堂々と章印が刻まれていた。
それが指し示すことは一つ、目の前の人物はホムンクルスだということだ。
「金城か。援護、感謝する」
スティングが横に並ぶ男を横目に見る。
増援に来たホムンクルスの男。
その男の右腕には金属製の篭手がはめられている。
「ったく、たった一人に良いようにやられやがって。だから、人間なんか信用できないんだよ」
金城と呼ばれた男は馬鹿にするように答える。
スティングはその言葉に怒りを覚えるがそれを抑えた。
ここで仲間割れしたところで利益は無い。
「シン……ここは一旦、引くぞ」
「ダメだ。インパルスの転送機が奴らに奪われてる。取り返さないと」
「だが、そうは言っていられる状況じゃないぞ」
シンと斗貴子の意見が分かれる。
その一瞬の隙、そこに金城が割り込んだ。
「安心しろよ。お前らはここでくたばるんだからよぉ!」
右腕を振りかぶり、真っ直ぐに振るう。
それと同時に篭手が巨大化し、シンと斗貴子の二人に襲い掛かった。
二人はそれぞれに反対の方向に飛んで、拳を回避する。
拳は壁を突き破り、止まった。
「巨大化した!?そんな、非常識な!?」
ありえない自体にシンが叫ぶ。
「落ち着け。アレは武装錬金だ」
そんなシンに斗貴子が叫ぶ。
「武装錬金……って、アレも特性なのかよ!?」
武装錬金には現代科学では再現できないような特殊な能力を持っている。
バルキリースカートの高性能アームやサンライトハートの飾り布のエネルギー化もそうなのだが。
金城が持つ、それはそれらに比べて非常識だった。
「こんなのはまだ大人しいほうだ。とにかく、相手が武装錬金持ちの人間型ホムンクルスでは分が悪いぞ」
「……そうだな」
シンも流石に目の当たりにした力に頷く。
動物型の上位種である人間型ホムンクルス。
それだけでも厄介だというのに武装錬金を持っている。
武装錬金がどれだけ強力化などカズキを見ていて嫌でも知っている。
戦いも良く知らない素人でもあそこまで戦えるのだ。
それを超人が持って襲ってくるなど想像したくも無い。
シンと斗貴子は壊れた壁を通って廊下に出て、真っ直ぐに走り出した。
その後を金城が追いかける。


「侵入者か……」
大量のモニターが置かれた部屋の中。
サングラスをかけた男が呟く。
「そのようだな。現在、金城が対処に当たっている」
その男の呟きに白髪の老紳士が答える。
髭が蝶の形をしているのが特徴的だった。
「大方、錬金の戦士が仲間を助けに来たところか……
データの方は取れているか?」
サングラスの男がモニターの監視を行っている研究者に尋ねる。
「はい、現在、ブレイドの融合係数はどんどん上がっています。
それに伴いテロメアも上昇!」
そのモニターの向こうでは仮面ライダーブレイドがアンデッドと戦っていた。

「うおおおお!!」
剣崎は我武者羅に剣を振るう。
捉えられ、一日経過した後に彼はここに連れて来られた。
かつては機材が置かれていただろうスペース。
現在はそれらが撤去され、広い空間になっていた。
そこに放り出された彼に襲い掛かってきたのは一体のアンデッドだった。
剣崎は訳も分からずに変身し、それと戦っている。
たった一人の孤独な戦い。
ローカストアンデッドとの戦い以来のその状況に不安は感じる。
だが、仲間と共に戻る為にここで負けるわけにはいかない。
その想いが彼の魂を奮い立たせ、力を増加させていく。

ライダーシステムには融合係数というものが存在する。
どれだけアンデッドと融合できているかを判別する数値だ。
これが高ければ高いほどアンデッドと融合し、その力を引き出すことが出来る。
逆に低ければ変身を維持することすら不可能になってしまう。
剣崎の気持ちの高ぶりはその融合係数を上昇させ、より強力な力を発揮させていた。

「アレじゃどっちがアンデッドか分からないわね」
その様子を見てイリアが呟いた。
その傍らにはカリスである青年の姿もある。
近くでイリアの呟きを聞いた老紳士が軽く笑う。
「人間如きがアンデッドを制御しようなどと驕りにも程がある。
結局は融合しているアンデッドの意識に引っ張られている過ぎない。
あの仮面ライダーなどと名乗ってる道化は結局、エースアンデッドの代行者に過ぎないのです」
老紳士の言葉に今度はイリアが軽く笑う。
「まるで貴方はアンデッドを崇拝しているような言葉を吐くのね。
それは本心からなのかしら?」
「決して崇拝しているわけではありませんよ。
ただ、アンデッドが人間よりも遥かに強力であると認識しているだけです」
老紳士の言葉にイリアは冷めた目を向ける。
「人間……ね」
人間という言葉の強調。
そんなものでは彼がアンデッドを認めている言葉にならない。
何故なら、その人物はホムンクルス。
人間を超えた存在を自称する者だからだ。
イリアは視線を老紳士から隣に居る青年に移す。
そこで彼の様子がおかしい事に気づいた。
「どうしたの、始?」
イリアが尋ねる。
始の様子はおかしく、息が荒かった。
その目はまるで獲物を睨む猛獣のようだ。
「うおおおおお!!」
雄たけびを上げ、それと同時に始はガラスをぶち破り、外へと飛び降りる。
「始!?」
その様子に驚いてイリアが叫ぶ。
「彼もまた、アンデッド……その本能には逆らえなかったようですな」
そんな彼を嘲笑うように老紳士が笑う。
そんな老紳士にイリアは殺意の篭った視線を向けた。

「俺と戦え!」
始は叫び、その手に持ったカードをバックルにスライドさせる。
―――チェンジ―――
始の体は一瞬にしてカリスへと変わる。
「お前は!?」
その乱入者に剣崎が驚き叫ぶ。
いつかアンデッドとの戦いに乱入し、封印して言った謎のライダー。
その彼が再び現れたのだ。
そして、その刃を自分に向ける。
「やっぱり、お前は敵なのか!」
剣崎はカリスの刃をブレイラウザーで受け止める。
その隙に今までブレイドと戦っていたトリロバイトアンデッドが襲い掛かる。
「邪魔をするなぁッ!!」
カリスは雄たけびと共に素早くカリスラウザーを振るう。
その刃はブレイドとトリロバイトアンデッドの二人を一斉に切り裂いていく。
目に見えぬ高速の刃。
剣崎はまるで反応できずに吹き飛ばされる。
「つ……強い!」
改めて実感するカリスの強さ。
今まで戦ってきた敵の中でもその強さは群を抜いていた。
カリスは倒れたブレイドにトドメを刺そうと駆け寄ってくる。
剣崎はそれを迎え撃つべく立ち上がった。
だが、そんな二人の間に更なる乱入者が現れる。

紅いバイクが工場の壁を貫き躍り出る。
そして、その勢いのままにカリスを轢き飛ばし、着地した。
「アンデッドは俺が封印する!」
ギャレンはレッドランバスから降りるとトリロバイトアンデッドに向かい駆け出した。

「ほぉ、ギャレンまでやってくるとは好都合だ。奴のデータも採取しろ」
サングラスの男が研究員に指示する。
「あれが最初の仮面ライダー……」
イリアがギャレンを見下ろし呟く。
その動きはブレイドやカリスに比べ何処かぎこちなかった。
「かつてはたった一人でアンデッドを封印していた戦士だったが……
今では見る影も無いな」
老紳士もギャレンの動きを見て呟く。
その言葉にはため息が混じっていた。
「あら、ドクトル・バタフライはあの仮面ライダーの戦いをご覧になった事があるのですか?」
イリアが興味本位に尋ねる。
「もちろん。いきなり、出現したアンデッドとそれを封印する仮面ライダー。
他のホムンクルスの集団と錬金の戦士の可能性もありましたのでな。
調べてみれば全く違いましたが……
ともかく、最初に彼を見たときは驚いたものです。
ムーンフェイスですら彼の力量を認めていた」
「なるほど。優秀な戦士だったのですね」
「彼が我々に牙を向けば脅威となりえたでしょうね……だが、今ではあの様だ」
バタフライは侮蔑を交えた瞳でギャレンを見下ろす。
既にギャレンはトリロバイトアンデッドに追い込まれていた。
「ギャレンの融合係数が低下していきます!」
研究員が叫ぶ。
それと同時にギャレンの変身が解除された。

橘はトリロバイトアンデッドに壁際に追い込まれた。
既に変身は解け、生身を晒している。
対してアンデッドは真正面までに迫ってきていた。
絶体絶命……
もし、一撃でももらえば確実に絶命するだろう。
人間である橘の体など一撃で潰れる。
迫り来る恐怖。
近づく死。
それに対し橘の気が動転した。
「うわあああああああ!!」
恐怖に対して叫び声を上げる。
もはや、怯えすくむしか彼の頭は出来なかった。
振り下ろされるトリロバイトアンデッドの腕。
その恐怖に橘は眼をつぶった。
だが、彼に拳が届くことはなかった。
六角形の金属片が集合し、橘の目の前で壁を作り出す。
その壁がトリロバイトアンデッドの一撃を防いでいた。
「間一髪だったが。間に合ったようだな」
そして、橘とトリロバイトアンデッドの間に一人の男が現れる。
その全身を銀色のコートに包み、顔を銀色の帽子で隠した男。
六角形の金属片はバラバラになり、彼のコートに付着していく。
いや、彼のコートがその金属片で構成されていた。
トリロバイトアンデッドはその男に襲い掛かる。
拳を男に叩きつけた。
真正面から無防備な相手に一撃。
モビルスーツのVPS装甲だろうとダメージを通すその鉄拳。
それを男は真正面から受け止めた。
「アンデッド……不死生物だろうとこのシルバースキンを破ることは出来ん!」
数枚の金属片がコートからパラパラと落下する。
だが、それらは直ぐにコートへと戻っていた。
全くのダメージ0。
アンデッドの一撃を男のコートは完全に無力化していた。

「何者なんだ、あんたは!?」
ブレイドはカリスと切り結びながらその光景を目の当たりにして叫ぶ。
ブレイドアーマーですら真正面から攻撃を受ければダメージがある。
だというのに、あの男のコートはブレイドアーマー以上の防御力だとでも言うのか。
その言葉が聞こえたのか男はブレイドの方を向く。
「俺のキャプテンブラボー。錬金戦団の戦士長だ」
キャプテンブラボーと名乗った男は片手でアンデッドの攻撃をいなしつつブレイドに答える。
「キャプテン……ブラボー?錬金戦団って、もしかして斗貴子の上司か!?」
「その通りだ。仮面ライダーブレイド、君の事は烏丸所長から聞いている」
キャプテンブラボーは拳でトリロバイトアンデッドを吹き飛ばし、カリスにぶつける。
そして、一跳びでブレイドの横まで移動してきた。
「烏丸所長だって!?」
「あぁ、現在彼は我々が保護している。そして、君達に対して伝言を受け取ってきた」
「それは本当なのか!?」
「もちろんだ。だが、今はまずアンデッドをどうにかせねばな」
トリロバイトアンデッドが立ち上がり襲い掛かる。
ブラボーはそれをコートで受け止めた。
「凄い……それが武装錬金なのか?」
ブレイドはその防御力に眼を見張る。
間近で見れば分かるがコートはただ、受け止めているわけではない。
小さな金属片がはじけ飛ぶことで衝撃を分散、それらが直ぐに元に戻ることで維持。
それによって無敵の防御を行っている。
「そうだ。これが防護服の武装錬金。シルバースキン!このランクのアンデッドならば完全に攻撃をシャットアウトできる優れものだ」
ブラボーの言葉通り、トリロバイトアンデッドの攻撃は全く通用していない。
「防護服……それじゃ、攻撃は?」
ブレイドは疑問を尋ねる。
防御の武装錬金では攻撃は不可能のはず。
「問題ない。鍛え抜かれたこの体こそが武器!粉砕!ブラボラッシュ!!」
ブラボーは襲い掛かるトリロバイトアンデッドに対して、拳のラッシュをお見舞いする。
まるで無数の拳が一斉に襲い掛かるかのような速度でトリロバイトアンデッドの体を粉砕していく。
そして、その体は吹き飛ばされ、沈黙した。
「す、すごい……!」
剣崎はただ、驚嘆するのみだった。
その力はカズキや斗貴子とは次元が違う。
「いまだ、ブレイド。封印を!」
ブラボーに促され、剣崎はカードを取り出すとトリロバイトアンデッドに向かって投げた。
その体はカードに封印され、封印が完了する。

「仮面ライダーでもない人間がアンデッドを倒しただと……?」
サングラスの男はその光景を目の当たりにし驚く。
それと同時にその男……キャプテンブラボーを睨みつけ、奥歯を噛み締めた。
仮面ライダーはアンデッドを利用している。
故に戦いとなるのは理解できるし、倒されるのも納得できる。
だが、ただの人間が人間の作り出した力で勝つことは彼には許せなかった。
「アレが戦士長……噂通りの化け物みたいね」
イリヤは愉快そうにブラボーを見る。
「とりあえず、撤退するとしよう。今日のところはデータの採取が目的だったのだからな」
バタフライがサングラスの男に進言する。
「そうだな」
サングラスの男は頷き部下に取得したデータの回収を急がせる。

上では撤退が行われる中、下ではカリスとブラボーの戦いが行われていた。
カリスラウザーの連撃をブラボーは手刀で受け止める。
一進一退の激しい攻防。
剣崎はそれをただ、傍観していることしか出来なかった。
「剣崎さん!」
そこにシンが駆けつける。
その後ろからは彼を追って金城が迫っていた。
「シン、無事だったか!?」
「そうでもないですけど!」
シンを護る為に剣崎が走り出す。
「シン、あいつの相手は俺がする。君は橘さんを!」
「橘さん!?」
シンは壁際でうずくまる橘を見つけ、驚く。
裏切り、自分達の下を去っていたときもショックだったが、それ以上に今の彼の様子のほうがシンには衝撃だった。
アンデッドを圧倒的な力で封印したあの姿はそこに何も無かったからだ。
その強さに尊敬すら抱いていたシンはその場で固まってしまう。

「ヒャッホゥ!噂の仮面ライダーが相手か!?」
金城の拳をブレイドは腕で防御する。
いくら、人間型ホムンクルスと言えどもブレイドのガードを弾き飛ばすほどの力は無い。
剣崎はその感触に有利だと判断し、果敢に突撃をかけた。
「ウェイ!」
ブレイラウザーにタックルをラウズし、チャージする。
「力比べなら負けねぇぜ!」
それに対し、金城も真正面からぶつかる。
そして、その特性を発現させ、ガントレットを巨大化させる。
いくら、ブレイドのパワーといえども圧倒的な質量には打ち勝てず、その体が跳ね飛ばされた。
地面を転がり、シンの足元まで吹き飛ばされる。
「剣崎さん!あいつの右腕の篭手は武装錬金だ!」
そんな剣崎にシンが叫ぶ。
「それを早く言ってくれ!」
剣崎は襲いアドバイスに憤慨しながらも立ち上がる。
「ヒャッホォ……いくら、分かっていたところで俺のピーキーガリバーの特性を破ることは出来ない!
仮面ライダーの都市伝説も今日ここでおしまいだぁ!」
金城は飛び上がり、掌を巨大化させ、振り下ろす。
「ラピュータフォール!」
巨大な質量での圧迫。
単純明快にして、強力な一撃である。
ブレイドはそれを腕を十字にして、受け止めた。
だが、その強力な力にブレイドの足が地面にめり込む。
「剣崎さん!?」
シンは動けない橘を庇うように覆いかぶさりながら叫ぶ。
金城の武装錬金はシンと橘もその範囲に収めていた。
「ぐぅ……」
剣崎は必死にその重量を支える。
彼が屈すれば、そのままシンと橘が圧死する事になる。
「流石にやるじゃねぇか……だが、これでどうだ!」
金城は更に武装錬金の質量を増大化させた。
巨大になった右篭手は壁を貫いて広がっていく。
それと同時に増えた重量が全てブレイドに集中した。
その重量に剣崎の体が悲鳴を上げた。

「……やらせるか!!」
金城に対して翔が飛び掛る。
そして、手にした木刀で金城の右肩の付け根を切り裂いた。
その速度は疾風。
後には風だけが残り、金城は一瞬、腕が切り裂かれたことを理解できない。
腕から離れた武装錬金は直ぐに瓦解することは無かったがその質量の増加を止めた。
そして、その内にシンは橘を連れて、その下から逃げ出す。
「うおおおおお!!」
剣崎は最後の力を振り絞り、外れたピーキーガリバーを投げ捨てた。
轟音と共に巨大な腕は地面に落ちる。
それと同時に武装は解除され元の核鉄に戻った。
「増援だと……錬金の戦士がまだ居やがったのか!?」
金城は忌々しげに翔を睨みつける。
「残念だが俺は錬金の戦士じゃない」
木刀を肩に構え、金城を睨む。
「って事は魔法使いか!?」
「馬鹿か。俺のどこが女子小学生だ。とにかく、お前のようなホムンクルスは生かして帰さん!」
翔が金城を睨む。
金城も負けじと片腕で構えを取った。
ホムンクルスにとってこの程度の肉体の損失など重症にならない。
「……シンがな」
翔はシンに向かって何かを投げる。
「って、俺かよ!」
シンはそれを掴む。
それはインパルスの転送機だった。
「はは、不意打ちで動いてなかったから斬れたけど……動いてるホムンクルスを斬れる自信は無い!」
「木刀で斬れた方が驚きだけどな……だけど、これがあるなら戦える!コール・インパルス!」
シンはインパルスを瞬時に装着する。
レミリアに破壊されたインパルスは完全に修復されていた。
「もう、俺は負けない!」
フォースシルエットを装着するとビームサーベルを抜いて、金城に突撃する。
凄まじい加速と共に金城の胴を横から一閃し、切り裂いた。
「なっ……速い!?」
その速度に目がついて行けず、金城は反応すら出来なかった。
そして、その上半身が地面に落下する。

「……シン、強くなったな」
その一瞬の攻撃に翔は驚嘆する。
「いや、修復のついでに改修もしてくれたんだよ」
シンはインパルスを戻し、翔の下へと駆け寄る。
「何としてもこれで一安心だな」
何時の間にか近くに居たブラボーが二人に声をかける。
その動きが見えなかった二人は驚いて彼を見上げた。
「誰だ!?」
そして、何者かも知らない二人はその怪しい男を警戒する。
「俺の名はキャプテンブラボー……とりあえず、詳しい説明は仮面ライダーたちを助けてからだ」
ブラボーは倒れている剣崎と橘を指した。


衛宮邸
剣崎とシンは無事にここに戻ってくることが出来た。
結局、カリスには逃げられ、カオスといったモビルスーツを使っていた三人組も撤退していた。
そして、何者かが残した機材を発見したが何を行っていたかの痕跡は発見できなかった。
「それにしても折角、街に潜んでいたホムンクルスは片付けたと思ったのに……」
シンたちもカズキが蝶野を倒した経緯を聞いた。
素直に街を混乱させる悪が潰せたと喜んだが、そればかりではない。
「あぁ、俺達を攫った奴らの中にホムンクルスが居た。
そして、そいつらを倒す為に新しい錬金の戦士も来たしな」
ホムンクルスの問題はまだ終了していない。
むしろ、今まで隠れていた問題が発覚した形になった。
「斗貴子さんの上司か……どんな人なんだ?」
一人だけ会った事がない士郎が尋ねる。
その言葉に三人は微妙な表情を浮かべる。
「まぁ、凄く強い人だよ……格好は変だけど」
剣崎が簡単に説明した。
流石に説明不足で士郎は頭を悩ませる。
「とりあえず、細かいことは明日、説明してくれるらしい。
その時に烏丸所長とも会えるって話だ」
「烏丸所長……BOARDの所長でライダーシステムを作った人だっけ?」
「あぁ、橘さんの下から逃げ出して、ホムンクルスに攫われそうになったところを
キャプテンブラボーが助けたらしい」
「そっか、それでライダーシステムの不備と翔の事も分かるんだな」
士郎の言葉に三人は一斉に溜息を吐いた。
その反応に士郎は固まる。
「……何かまずかったか?」
「いや……士郎がまずいことを言ったわけじゃない……ただ」
剣崎は思い返す。
キャプテンブラボーが橘に告げた言葉を。


「ライダーシステムに不備は無い……!?」
それは衝撃的な言葉だった。
橘が告げていた症状は思い込みのせいであり、ライダーシステムによる弊害ではない。
強く心を持つことで乗り越えられる心因性のものだというのだ。
「そうだ。君が戦いに感じている恐怖心。それが強く現れているに過ぎない。
君の体調不良もその恐怖心によるものだ」
ブラボーの言葉に橘はうなだれる。
「恐怖心……俺の心に恐怖心……」
信じられないという様子でぶつぶつと繰り返す。
「それじゃ、使い続けることで死ぬことは無いのか?」
剣崎が尋ねる。
「あぁ、その問題は無いということだ」
ブラボーの言葉に剣崎は何処か安心したように息を吐いた。
「既に組織は崩壊し、アンデッドと戦い続けるには過酷な状況だ。
君が望むのなら我々が君の安全を保障しよう。
アンデッドとの戦いも引き受けても良い」
落ち込む橘にブラボーが提案する。
「……少し、考えさせてくれ」
橘は消え入りそうな声でそれだけ答えた。
剣崎は橘にかける言葉を見つけることが出来なかった。


「そっか……」
士郎もその話を聞いて複雑そうな表情を作る。
「だけど、橘さんにはガッカリですよ」
そんな中、シンは橘に対して憤慨する。
「戦うのが恐くて、それで暴走して他人を巻き込んで。
何であんな人が仮面ライダーなんですか!
そんなに恐いんだったらさっさと止めてれば良かったんだ!」
シンはテーブルを叩き叫ぶ。
「シン!」
剣崎がシンの胸倉を掴んで立ち上がる。
「何するんです!?」
シンはその手を払いのける。
「橘さんを悪く言うな!」
「何でですか!?剣崎さんだって被害者じゃないですか?
あの人がもっとしっかりしていたらBOARDだって壊滅しなかったかもしれない。
俺達がこんな所で孤立無援で戦い続ける必要も無かったんですよ!?」
「シン!」
シンに対して剣崎が拳を振るう。
吹き飛ぶシンの体を翔が受け止めた。
「確かに橘さんがちゃんと戦えてれば止められたかもしれない……
だけど、それは俺達だって同じじゃないのか?
もっと強くて橘さんも安心できていれば何の問題も無かったはずだ」
剣崎の言葉をシンは睨みながらも大人しく聞く。
「……それにこんな所なんて言うなよ。
士郎やカズキ、なのはちゃんだって大切な仲間じゃないか……」
剣崎の言葉にシンは押し黙る。
真っ直ぐな剣崎の眼からシンは目を逸らした。
それと同時に剣崎は部屋から出て行く。
「……大丈夫か?」
翔がシンに尋ねる。
シンは翔に支えられていた体を動かし、一人で立った。
「……ごめん」
シンが士郎に謝る。
「別に良いよ。気にしてない」
「まぁ、とにかくシンも疲れてるだろ。今日は寝ろよ」
翔がシンの肩を軽く叩いた。
シンはその言葉に軽く頷いて自分の部屋へと去っていく。
「……まさか、二人が怒鳴りあうなんてな」
二人が去っていき静かになった部屋で士郎が呟いた。
「あぁ、あいつらは俺と会った次の日も喧嘩してたな」
その呟きに翔が答える。
「って言うとBOARDが無くなった次の日か……それはしょうがないだろ」
「そうかもな。でも、大丈夫だろ。喧嘩したって仲間なんだから」
翔が何処か嬉しそうに空を見上げるように答えた。
士郎もその言葉に頷く。
ぶつかり合っても共に手を繋げると信じていた。



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