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シンが目覚めるとそこはベッドの上だった。
真赤な天井が眼に痛い。
「俺は……」
ぼんやりとした意識の中でシンは気を失う前の記憶を辿る。
レミリア・スカーレット……
吸血鬼と名乗る少女との一騎打ち。
奮戦し、腕を一本切り落とすも結局、撃墜されてしまった。
最後に見たレミリアの表情は正に悪魔のそれだった。
強烈な殺意……
それはアンデッドたちが放つそれに匹敵するように感じられた。
そう、人間では到底、放つことの出来ない純粋な殺意だった。
「……生きてるのか?」
彼女の話の通りなら負けたシンは食べられた筈だ。
だが、シンには五体の感覚があった。
体は重く、意識は薄いが生きてはいる。
「気がついたのか!?」
声が聞こえ、誰かがシンを覗き込んだ。
それは剣崎一真だった。
彼は安堵の笑みを浮かべている。
「剣崎……さん?」
「良かった。二、三日は眼を覚まさないみたいなことを言われて心配してたんだ」
「二、三日って……」
シンは重い体を無理やりに起こす。
その時、首筋に鋭い痛みを感じた。
反射的に手を伸ばすとそこには包帯が巻かれている。
「……吸血の痕だよ」
剣崎は表情を一転させ、沈んだ瞳でシンを見る。
その言葉にシンは青ざめる。
吸血鬼に血を吸われた者はどうなるのか……
詳しい知識を持たないがうろ覚えで思い出す。
「そんな……それじゃ、俺は吸血鬼に……」
「なってないわよ」
突然、声がシンの耳元で聞こえる。
シンは慌てふためいてそのままベッドの上から落ちてしまった。
その様子を見て剣崎が噴出す。
「あはははは!」
シンは剣崎の笑い声を聞きながら再び天井を見上げていた。
呆然とし眼を丸くしていると誰かがシンを覗き込む。
「随分と頑丈な体ね」
銀髪のメイド……十六夜咲夜は淡々とした様子でシンを引っ張り上げた。
そのままシンは引っ張られベッドの上に座り込む。
「って!俺はあいつに血を吸われたんじゃないのか!?」
シンは咲夜に怒鳴る。
「気がついたばかりだというのに血の気が多いわね……
とりあえず、貴方がお嬢様に血を吸われたのは事実よ。
でも、貴方は吸血鬼にはなっていない」
「だから何でだよ。吸血鬼ってのは血を吸って仲間を増やすんじゃないのか?」
「それは血を全て吸い尽くした場合よ。
お嬢様は小食なの。今までだって一度も眷属をおつくりになった事はないわ」
「……つまり、血を吸い尽くされなかったから俺は人間のままだって事なのか?」
「そういうことよ」
咲夜のその言葉にシンは安堵する。
「それじゃ、俺はシンが目覚めたって事を皆に知らせてくるよ」
剣崎はそう言うと椅子から立ち上がる。
「皆って……全員、ここに居るんですか?」
「あぁ、俺とカズキは最初からここに跳ばされてたみたいだけど今朝に翔となのはもやってきたんだ。
今は皆、図書館に居る」
「はぁ……」
良く事態を飲み込めていないシンはなんとなく頷く。
剣崎はそんなシンの様子に気づかずにさっさと行ってしまった。
気づけば咲夜の姿も無くシンは一人部屋に取り残されている。
「一体……何がどうなって……」







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第八話「虚ろなる者」






紅魔館
そこは吸血鬼レミリア・スカーレットの館。
彼女の世話をするメイドと友人であるパチュリーが暮らしている。
幻想郷でも名の知れた場所であり、人は余り寄り付くことは無い。
そこに翔たち、外来人たちが集まっていた。
「ジュエルシードと仮面ライダーの力がぶつかり合った事により空間に歪みが出来た。
それに貴方達が飲み込まれた……恐らく、それが貴方達が幻想郷に張り込んでしまった原因でしょうね」
パチュリーがユーノから聞いた事情を元に憶測を立てる。
「多分、それで間違いないと思います。
この世界が結界で遮られた別位相の世界だとしてもジュエルシードの魔力は次元に影響しますから。
それに剣崎さんが使った力はアンデッド二体分の魔力を一つに纏めたもの。
そんなものがぶつかったのなら周辺の空間に影響が出てもおかしくありません」
ユーノもパチュリーの仮説に賛成のようだ。
「空間の座標的に近い場所だったのも原因でしょうね。
おそらく、貴方達が最後に戦っていた神社って言うのは外の世界の博麗神社って事でしょうから」
パチュリーが付け加える。
「外の世界のって……博麗神社は外と幻想郷で二つあるのか?」
翔が尋ねる。
「二つあるって言うか同一の物よ。博麗神社は外と中の境にあるから。
どちらからでも行けるの。まぁ、自在に行き来が出来るって言う訳じゃないけど」
その質問には博麗神社に住んでいる霊夢が答える。
「へぇ、同じものか……それにしては外のは異常にボロかったけどな」
「確かにアレはほとんど廃墟だもんな」
翔の感想にカズキが同意する。
それに霊夢が驚く。
「えぇ!それじゃ、外の神社には誰も住んでないの?」
「住んでないって言うか誰も来てないな。完全に忘れ去られてるって言うか……」
カズキの言葉に霊夢が周りを見回す。
「あはは、私も武藤さんに教えられるまでは知らなかったですね」
眼が合ってしまったなのはが苦笑いを浮かべながら答えた。
「そんなんだからこっちの方でも参拝客が少ないのかしら」
霊夢が溜息を漏らしながらつぶやく。
「いや、それは別に関係ないんじゃないか?」
そんな霊夢に魔理沙が突っ込みを入れる。
「そういえば……俺たちがこっちに来てるって事はホムンクルスとジュエルシードもこっちに来てるんじゃ」
カズキが思い出し呟く。
あの場にいた全員がこちらの世界に来てしまっているのだ。
ありえない話ではない。
「そうそう、ジュエルシードだけど……コレのことかしら?」
パチュリーが黒い石を取り出す。
「コレです!一体、何処で!?」
それは間違うことなきジュエルシードだった。
「この館に飛ばされてきた三人の傍に落ちてたのを咲夜が拾ってきたのよ。
少し気になったから研究しようと思ったんだけど」
パチュリーが説明していると誰かがそれを素早く奪い去った。
「へぇ、これがジュエルシードねぇ……」
魔理沙が指でつまみそれを値踏みのように見つめる。
「ま、魔理沙さん!?危ないですよ!」
その様子に驚きなのはが声を上げる。
ジュエルシードは所持しているものを取り込む性質がある。
不用意に扱えばここで戦いが起きる可能性もあるのだ。
「別に妙な感じはしないけどな……」
明らかに動揺する外の世界の住人を見て魔理沙が呆れ気味に呟く。
適当に指で弄っているも特に変化は無いようだ。
「……封印されてる?」
ユーノがその様子を見て素早く魔理沙の肩に飛び移る。
「おわっと……ビックリしたな」
「すいません」
慌てる魔理沙に謝りつつユーノはジュエルシードを覗き見る。
「……うん、大丈夫みたい。この状態なら無理に扱わなければ危険は無いよ」
「えっ?でも、私はまだ封印してないけど……」
なのはが驚きの声を上げる。
「魔力を使い切った……って訳じゃないけど。
アンデッドの力で抑え込まれたのか、空間を歪ませるほどの魔力をはなって休止モードに入ったのか……
とりあえず、今は何かを取り込んで暴れる心配は無いみたい」
ユーノの言葉に外の世界の住人は安堵の息を漏らす。
「ジュエルシードがここにあるって事はホムンクルスは破壊されたのかな」
「そうなんじゃないか?屋敷には三人しか居なくてジュエルシードが落ちてたんなら。
そもそも、あんなのの至近距離に居たら体がバラバラになりそうだし」
カズキの呟きに翔が答える。
空間が歪むほどの魔力
ジュエルシードを体内に宿していたホムンクルスはひとたまりも無かったのだろう。
同じ条件のブレイドが無事なのだから敵も無事ではない保障もないのだが。
「おーい!」
彼らの元に爆発を起こした当事者、仮面ライダーブレイドである剣崎一真が駆け寄る。
「シンが眼を覚ましたぞ!」
その言葉に仲間達は歓喜した。


「それじゃ、博麗神社って所から戻れるんだな?」
事情を聞いたシンが最後の確認に霊夢に尋ねる。
その言葉に霊夢が頷いた。
「それにしても街の近くに異世界があるとは思いもしなかったな」
「まぁ、今更なんじゃないですか?」
「確かに仮面ライダーとか魔法とか錬金術とか……不思議なことばかりですもんね」
「一々驚いてたら身が持たないしね。今度、何があっても受け止めようと思う」
思い思いに会話をしながら一行は博麗神社へと向かっていく。


「お嬢様、お加減はいかがですか?」
咲夜がテラスから下を眺めるレミリアに尋ねる。
「良いわけないでしょう」
レミリアは不機嫌そうに告げる。
その腕はまだ、完全には再生しきってはいなかった。
それでも既に第二関節辺りまでは治っている。
「でしたら、残さずに全て血を吸ってしまわれれば良かったんです」
咲夜は昨晩のあの戦いの後の事を思い返す。
レミリアはシンからほとんど血を吸わなかった。
確かに吸うには吸ったがそれは戦いで消耗した力を補充するにも満たない量だ。
レミリアがいかに小食とは言え、アレだけの消耗の後だ。
眷属は作れないまでも相手が出血多量で死ぬような量を吸っていればここまで疲労はしていないだろう。
しかし、彼女はしなかった。
「ダメよ……あの男にはしてもらわなければならないことがあるもの」
「……?」
「ただの勘よ。でも、もし絶対の運命が変わるのだとしたら……
私の力がどれほど通用するのか興味が湧いたの」
「とりあえず……今殺すには惜しいということですか?」
「まぁ、そんな所ね」
レミリアの眼には楽しそうに歩いていくシンの姿が映っていた。


博麗神社
外の世界と幻想郷の境界に立つ社。
幻想郷に紛れ込んでしまった外来人が再び外の世界に帰るために来なければならない場所である。
「それにしても寒いなぁ……」
カズキが腕をさすりながら呟く。
「まぁ、そうだな」
魔理沙がその言葉に頷く。
彼女は首にマフラーなどをして防寒しているがカズキにはない。
というよりも外の世界から来た者たちはそのような防寒具を着ていなかった。
「中と外じゃ気候まで違うんだなぁ……」
「へぇ、それじゃ外はもう春なのか?」
「うん、桜も咲いてたし、結構暖かったよ」
「いいな。こっちは桜が咲かないから花見も出来ないんだ。
とっとと、花を肴に一杯いきたいところなんだけどなぁ」
カズキはその言葉に首をかしげながら頷いていた。
「異世界に来てしまったと聞いたときはどうなるかと思ったけど。
以外に早く戻れそうで良かったな」
剣崎が安堵した様子で呟く。
「確かに帰る方法があるってのは随分と助かりますね」
シンが同調する。
これが帰り方が分からないと言われた日には戻る方法を探す羽目になっていたところだ。
時間が無い彼らにとってそれは致命的であったとも言える。
だが、その中で一人だけ落ち着きの無い様子のものがいた。
「ど、どうしよう……お父さん達、絶対に心配してる……」
なのはだった。
その様子に気づいて仲間達は全員青ざめる。
こちらの世界に来てしまったのは日が暮れて直ぐの時間だった。
現在は夜が明けて昼頃である。
この時点で完全な無断外泊である。
連絡を取ろうにも携帯電話が通じなかったので無理だった。
「ど、どうするんだよ!?」
「流石に異世界に行ってて帰れませんでしたって訳には……」
「下手すると俺たちって誘拐犯なんじゃ……」
シン、剣崎、カズキが慌てふためく。
「やっぱり、事情を説明するしかないのか……」
「信じてもらえるかな。それに信じてもらえたとしても親は心配するよ」
「友達の家に泊めてもらったって嘘を吐くとか……」
言い訳を考えていると霊夢がやってくる。
「準備できたけど……何してるの?」
「力じゃどうにも出来ないことへの対応策」
話し込んでいる人達に代わり翔が答えた。

結局、話に決着はつかず。
とりあえず、帰らなければならないので先に帰ることになった。
「それじゃ、さっさと送り返すわよ」
霊夢の前に全員が横一列に並ぶ。
「……魔理沙?」
その端に何食わぬ顔で魔理沙が並んでいた。
「何だよ。さっさと送ってくれ」
「あんたは幻想郷の住人でしょ!?」
「確かにそうだが。外の世界に興味が湧いてな。
ちょっくら行ってこようかと」
魔理沙がニヤニヤと笑みを浮かべながら告げる。
その様子に霊夢が額に手をあてため息を吐いた。
「素直にレイジングハートを返してくれたと思ったら……
もしかして、ジュエルシード目当てですか?」
なのはが魔理沙に尋ねる。
「あぁ、これで私とお前はライバルだな」
その言葉になのはは苦笑いを浮かべる。
「ダメよ!元々外の人だったならともかく、あんたは生まれも育ちも幻想郷でしょ」
「別に良いじゃないか、ジュエルシードを手に入れたら戻ってくるからさ」
「戻ってくる手段がないでしょ」
「そこはアレだ。こいつらが来たときと同じ方法をとれば良いだろ」
その言葉に当事者たちが驚く。
「状況を知らないとは言え命知らずだな……というか、もう二度とゴメンだぞ」
引き起こした張本人である剣崎が拒否する。
「はぁ……まぁ、別に良いわ。無視しましょう」
「良いのか?」
「行かせなければ良いのよ。ちょっと、魔理沙を止めておいて」
その言葉に頷いてシンとカズキが魔理沙の腕を掴む。
「おいおい、何のつもりだ?」
「お前の個人的な我侭には付き合いきれないって事だ」
シンの言葉にカズキが頷く。
魔理沙が力を込めるが動きはしない。
「それじゃ、今のうちに扉を開くわね」
霊夢はそういうと何事か言霊を紡いでいく。
静かに力が形を作り、世界に影響を及ぼしていく。
そして、力は完成され、空間に一つの穴を作り出した。
「あれが……?」
外へと通じる扉。
皆がその穴を見つめる。
その穴は虚無の如く漆黒へと繋がっていた。
「……おかしいわね?」
完成させた筈の霊夢が首をかしげる。
「成功したんじゃないのか?」
剣崎が尋ねる。
「いつもどおりにやった筈なんだけど……
おかしいわね。普通なら外の博麗神社と繋がる筈……」
霊夢がそこまで呟くと突然、穴から黒い何かが溢れ出した。


無数の扉が存在する世界
そこは狭間の世界
様々な世界へ通じる入り口を持つ無限の空間
nのフィールドと呼ばれる空間
そこを紅いドレスを着た少女が飛んでいた。
いや、それは少女と呼ぶには余りにも小さかった。
そう、それは人形。
本物の人間のように精巧に作られた生きた人形。
それは空間を飛んでいた。
飛んで……逃げていた。
「何時の間にnのフィールドに魔物が住むようになったのかしら」
人形は不規則に飛行し、追っ手からの攻撃を回避する。
追うものは影だった。
不定形で黒い塊。
それは何かを意味していない不細工な影で出来た物体。
ただ、それは明確に人形を攻撃している。
「これじゃ探し物もままならないわね」
人形は反転すると影に向かっていく。
その掌からは薔薇の花弁がハラハラと落ちていった。
それらは意思をもったかのように動き出し、影へと向かっていく。
そして、影を取り囲み、締め上げた。
その瞬間、影は破裂するように掻き消える。
「消えた!?」
そこまで力を入れた訳ではなかった為、驚愕する。
あの影はどれほど脆かったのだろうか。
何も無くなった空間を眺めていると突然、銃声が鳴り響いた。
そして、人形の背後で何かが破裂する。
振り向けばそこには影の残滓が漂っていた。
「大丈夫ですか?」
人形の頭上から声がかけられる。
人形が上を見ると一人の少女が降りてきた。
「人間……!?いえ、何か違うわね」
人形はその少女を見て呟く。
少女は紅めの黒い長い髪をした少女だった。
その手には銃と思わしきものが握られている。
見た目で言えば中学生ぐらいに見えた。
「……貴方と似たようなものです。技術系統は違いますが」
少女は人形と同一軸上に降り立つ。
「そう……それで貴方はあの影のようなモノを知っているのかしら?」
人形が尋ねる。
「えぇ、アレは私の敵ですので」
「アレは一体?」
「詳しいことは知りません。ただ、nのフィールドに干渉する物質に襲い掛かる性質があるようです」
「そう……いつの間にか随分と物騒になったわね」
「出現は10年ほど前からだそうです。ラプラスの魔さんの話では徐々に力をつけているようですが」
「貴方、ラプラスの魔を知っているの!?」
「はい。このnのフィールドで会話が可能なのはあの人ぐらいなので」
「まぁ、ここを行き来しているのであれば当然ね……
助けてくれたことにはお礼を言っておくわ。
私は真紅。誇り高きローゼンメイデンの第五ドールよ」
「なるほど。あの有名な……
私は終焉と言います。
終焉……おわり・えんと真紅は互いに挨拶を交わす。
「では、真紅……貴方はこの場から離れることを進めます」
「あら、何かこの場所にあるのかしら?」
「もうすぐ、この場所に扉が開かれます。そして、影がそこに居る者たちをnのフィールドに引きずり込もうとしています。
それを阻止するのが私の役目です」
その言葉に真紅が周囲を見渡すと先ほどの影と思わしきものが無数に湧き上がってくるのが見えた。
既に数は二桁を超え、三桁に突入しようとしている。
「弱いとは言え随分な数ね……」
「現在は開くであろう扉に集中してますので離脱が可能です」
「なるほどね……良いわ。手伝ってあげる」
「貴方に私を援護する理由はないと思いますが?」
「さっき、助けてもらったお礼よ」
「なるほど……感謝します」
焉は頭を下げ、感謝を示す。
そして、扉が開いた。
それと同時に周囲の影が群がる。
「では、背中は任せます!」
「任せなさい!」
焉は両手に拳銃を握り、むやみやたらに連射する。
密度が高く、狙いをつけるまでも無く無数に影が破裂していく。
「ローズテイル!」
真紅は薔薇の花弁を操り、ムチのようになぎ払う。
一気に影が破裂していく。
だが、勢いが絶対的に足りない。
影は次から次へと溢れ、二人の点と線の攻撃では対応しきれなかった。
「ちょっと……多勢に無勢すぎない?」
「聞いていた話よりも量が多い……」
二人は奮闘するも完全に勢いで負けている。
四方八方からの雪崩のような攻勢に死角となっていた位置から一気に敵が押し寄せた。
「しまった!」
すぐさまに攻撃を仕掛けるもそれだけでは削りきれず、扉へと影がなだれ込んだ。

「作戦は失敗みたいね」
その様子を見て真紅が呟く。
塊は飛び込んだ瞬間、何かを引きずり込んだ。
それと同時に扉は完全に閉じてしまっている。
「……いえ、引きずり込まれたとは言え、簡単に死ぬわけではありません!
助けましょう!」
焉が目標を防衛から奪還と守護へと切り替える。
そして、影の塊に照準を合わせた。
だが、それよりも早く、塊の中で何かが輝いた。
「夢符【封魔陣】」
それと同時に空間に陣が引かれる。
陣の中の影は一瞬にして消滅し、その中から霊夢たちが姿を現した。
「何処だ、ここは!?」
シンが辺りを見回し叫ぶ。
「とりあえず……外の世界じゃないみたいだな」
やれやれという様子で魔理沙は帽子のつばを弄る。
「説明は後で、敵が来ますから防衛を」
そこに焉が駆け寄る。
「素直に従ったほうが身のためよ」
真紅もそこに合流する。
「よし、行くぞ。皆!」
剣崎の号令に全員が応と答える。
「変身!」
「コール・インパルス!」
「武装錬金!」
「レイジングハート、セットアップ!」
剣崎が仮面ライダーブレイドに変身し、カズキが自身の武装錬金を顕現させる。
なのはも変身を完了しバリアジャケットに身を包んだ。
だが、シンの持つ転送機は何も答えない。
「エラー!?幻想郷は大丈夫でもここはダメなのか!?」
シンはレスポンスが無かった為にエラーが表示されている転送機を見て叫ぶ。
「ここは俺たちに任せろ。それにシンは本調子じゃないんだ」
剣崎がシンの肩に手を置く。
「そうそう」
「ここは私達だけでも大丈夫です」
カズキとなのはも声をかける。
「はぁ……とりあえず、降りかかる火の粉は払いましょうか」
「そうだな」
霊夢と魔理沙はお互いに軽い様子で声を掛け合う。
「奴らは力は弱いけど数だけは多いから注意するのよ」
真紅がそんな二人に注意を促す。
「それじゃ、私らに丁度良いな」
「そうね……面倒だし、一気に片付けますか」
霊夢は両手を広げ、自身に流れる霊力を集中させる。
そして、その体の周囲に無数の霊力の塊を生み出していく。
「えっ、魔法!?」
「似てるけど違う……」
なのはとユーノがそれを見て驚く。
「霊符【夢想封印】」
霊夢が叫ぶと同時に無数の霊気の塊が発射され、周囲に存在していた影を飲み込んで行く。
それは問答無用に、逃げ出す敵も容赦なく、駆逐していった。
その一撃で殆どの影は消えて行き、もはやまばらに残るのみとなっている。
残った影達は一箇所に集まり、融合して行く。
単独では勝てないと悟ったのだろうか。
だが、その様子を見て魔理沙は嬉しそうに笑った。
「なんだ、私に倒されたいのか……仕方ないな」
魔理沙は八角形の物体を取り出す。
そして、それを前に構えた。
その物体……ミニ八卦路に魔理沙の魔力と周囲のマナが収束して行く。
「恋符【マスタースパーク】」
魔理沙の言葉と共にミニ八卦路に圧縮された魔力が一直線に解き放たれた。
それは閃光となり、固まっていた影を飲み込み、消滅させる。
「こんなもんだな」
魔理沙はエネルギーの放出をやめたミニ八卦路を懐に戻す。
一瞬だった。
幻想郷の二人の少女のたった二回の攻撃で無数にいた影は消えた。
「……すごい」
シンは呆然と呟く。
「二人とも戦えたのか」
剣崎が変身を解く。
「魔理沙さん……本当に魔法使いだったんですね」
「当たり前だろ。それにこれぐらいできなきゃ幻想郷には住めないぜ」
魔理沙が得意げに答える。
「まぁ、相性もあったんじゃない。あれ、随分と脆かったし。まるで妖精並ね」
霊夢も答える。
「……護る必要なんてあったの?」
真紅がその様子を見て焉に尋ねる。
「上の判断ですので」
焉も何処か納得の行かない様子で彼らを見ていた。

「nのフィールド?」
増援が来ないことを確認して、一向は真紅と終焉の二人と挨拶を交わした。
「はい。まぁ、平行世界や精神世界などの狭間にある世界だと思っていただければ良いです」
焉が簡単に説明する。
「それよりも!どうやって元の世界に戻るのよ!?」
霊夢が怒鳴る。
先ほどから扉を開こうとしてるのだが一向に開かないのだ。
「基本的には鏡を使って行き来をします。何処かに貴方方の世界に通じているものがあると思いますが……
詳しい場所は知りません」
焉が言葉に霊夢は力なく座り込んだ。
基本的にnのフィールドは体感重力なので座る動作をしているだけなのだが。
「とりあえず、その幻想郷というところは分からないけど冬木という街になら案内できるわよ」
真紅が提案する。
「本当か!?」
「えぇ、元々はそこから来たのだし……でも、貴方達の平行世界とは限らないけど」
「どういう事だ?」
「世界は無数に枝分かれし存在しているの。私の居た世界と貴方達が元々居た世界は姿かたちは同じだけれども異世界かも知れない」
「良く分からないけど……ここで迷って居るよりはマシだと思う。
もし違ったならまた、ここに帰ってきて探せば良いんだ」
剣崎の言葉に皆は頷く。
「そうね……幻想郷へは外の世界経由でも戻れるわけだし……そうしましょう」
霊夢もそれで納得したようだ。
「それにしても……貴方達は私を見ても全く驚かないのね」
真紅が彼らに尋ねる。
「まぁ、色々有ったからな」
それに剣崎が答えた。
もう、それ以外に言葉が無い。

皆が真紅と共に帰ることに合意している中、翔は一人、自身の木刀を眺めていた。
それに気づきシンが声をかける。
「どうしたんだ?」
「いや……何か妙な感じなんだ」
「妙な感じ……?やっぱり、その木刀って何かあるんじゃないのか?」
何度か戦いで使用されているが木刀に傷らしい傷は無い。
普通なら折れていてもおかしくは無い衝撃を何度か食らっているはずなのだが。
使っている翔の腕のおかげか……それとも非常に頑丈なのか。
とりあえず、良く分からないモノだった。
「まぁ、とにかく今、気にしていてもしょうがない」
翔はそういうが吹っ切れてはいないようだった。

「それでは私はこれで失礼します」
焉が真紅に挨拶をする。
「助かったわ」
「そういえば……あんたは俺たちを助ける為にここに来たんだよな……
一体、誰に命令されたんだ?」
シンが焉に尋ねる。
「それは言えません。命令されてますので」
「そいつは一体なんで俺たちを助けようとした」
「……正確には貴方達ではなく。そこの少年です」
焉が翔を指差す。
「それって!お前は翔のことを知ってるって事なのか!?」
翔は記憶喪失でBOARDの地下から発見された謎の少年。
それを護れと命令されているのだとすればその正体を知っているという事になる。
「私は知りません」
焉は簡単に答える。
だが、それは逆説的に命令を下しているものは知っているということだ。
「それじゃ、翔を連れて行かないのか?護るように命令されているほど大切なんだろ?」
「連れて来いとは言われていません。ですが、ついて来たいのであれば断る理由はありません」
「それじゃ……」
「いや、いい。俺はあいつにはついていかないよ」
その言葉を遮り翔が拒絶する。
「何でだ?お前の記憶が分かるかもしれない。危険だって言うなら俺も一緒に……」
「それこそダメだろ。お前はアンデッドを封印しないといけない。
俺に構ってる暇なんて無いと思うが」
そう言われてはシンは何も返せなかった。
日本に居るのはアンデッドを封印する為であり好きに戦って良い理由は無い。
「これ以上、何も無ければ失礼させてもらいます。
では、恐らくこれからも顔を合わせると思いますのでその時はよろしくお願いします」
終焉は会釈するとそのままどこかへと飛び去って行った。
「……翔の関係者か……。それとnのフィールドなんていう妙な場所で会うなんて……
お前は一体、何者なんだ?」
シンが翔に尋ねる。
「分からないって言っているだろ」
「お前には何度か助けられたし、その言葉を疑ってるわけじゃないけど……」
改めて思い返せば謎だらけの人物だ。
一緒に居るのも彼自身が共に戦いたいと言い出したに過ぎない。
何も隠していないとも限らないのだ。
疑念の眼差しで見るシン。
だが、翔はあまり気にしていない。
「とにかく!さっさと行きましょう!」
その空気を壊すように霊夢が叫ぶ。
いきなりこんな事になってかなりイライラしている様子だった。
彼女の意見を汲んでとっとと出発する事になる。


桜田家
冬木にある一般邸宅だ。
庭付き二階建ての裕福な家。
そこの物置に置いてある鏡から彼らは帰還する。
「いてて……ここは?」
シンが出てくる際にぶつけた頭をさすりながら辺りを見回す。
「ここはジュンの家よ」
真紅が答える。
「ジュン……?」
「私のミーディアム……まぁ、下僕ね」
真紅がそんな事を話していると足音が聞こえてきて、ドアが開いた。
「真紅!帰ってきたのか……!?」
メガネをかけた中学生の少年。
彼は目の前に居る大量の人物を見て眼を丸くした。
「ただいま、ジュン」
「おかえり……って!?誰だよ、こいつら!?」
ジュンは突然、家に現れた大量の人間に驚き叫ぶ。
「nのフィールドで見つけた遭難者よ。家が近いらしいから連れて来たの」
「連れて来たって……こいつらも全員、ローゼンメイデンの関係者なのか!?」
「いいえ、違うわ。彼らはローゼンメイデンとは一切関係ない……まぁ、一般人では無いわね」
ジュンと呼ばれた少年はたじろぎなら全員を見ている。
気まずい空気が流れる。
するとそこに突然、甲高い音が鳴り響いた。
「なんだなんだ!?」
ジュンが取り乱して叫ぶ。
シンはその音に慌ててポケットに手を突っ込んだ。
「げっ!?ミネルバから通信だ……そうか、今まで俺は通信が届かない場所に居たんだったな」
シンは母艦であるミネルバと定期的に通信を行っている。
そして、ミネルバは通信機を通じてシンの動向をチェックしているのだが
通信が届かない世界に跳ばされた為にシンは一時的に行方不明となっていたのだ。
それが突然、回復した為に通信が入ったのだろう。
「とりあえず、俺たちは帰ります!」
剣崎が真紅に挨拶する。
「そうね。貴方達にも事情はあるでしょうし」
「お礼は後日しますんで!それじゃ!」
慌しく彼らは玄関から去っていった。
残されたジュンは呆然と彼らが去っていった玄関を眺める。
「ジュン」
「真紅!何なんだよ一体!?何がどうなってるんだ!?」
「紅茶を入れて頂戴」
「って!そんな場合かよ。先に説明を!」
「ジュン!落ち着きなさい。説明なら紅茶を飲みながらしてあげるわ」
「……分かったよ」
ジュンはそう言うと渋々と去っていく。
「……にしても、一体何者だったのかしら。
久しぶりに目覚めてみれば世界は様変わりしすぎね……
でも、武装錬金……あの力を持っているものはやはり、まだ居るのね」
真紅は重い息を吐いた。


「シン!昨夜からいきなり行方知れずになったかと思えば。インパルスを正体不明の場所で転送し、挙句に大破。
原因を探る為に記録映像を見れば妙な子供と戦っているし……アレもアンデッドだとでも言うの!?」
通信機の向こう側でタリアが怒声を上げる。
レミリアも一応、アンデッドといえばそうだが剣崎たちが戦っているものとは系統が違う。
今までシンはホムンクルスはともかく、ジュエルシードの件をアンデッドの一部として報告していた。
ユーノからジュエルシードと異世界については公にしないという約束があったからだ。
ホムンクルスについては事情を説明したところ、ザフトの上層部はその存在を知っていた為に直ぐに話はついた。
なのはについては武装錬金という事で説明していた。
流石に色々と疑われてはいたが黙認という形で許可されていた。
「いえ、その……」
シンは口ごもる。
事実を言えば楽だろう。
だが、この事実を真実として認識させられるかが問題だ。
それに幻想郷についても公言は避けて欲しいと霊夢に言われている。
彼らとの約束を護る限り、真実を告げることも出来ない。
「……とにかく、インパルスは現在修理中よ。
大急ぎで修理させてるけどしばらくは使えないわ」
「了解です……」
最後の記憶を辿ればそれはどうしようもなかっただろう。
むしろ、シン自身が生き残っている事が奇跡的なのだ。
「それと増援を送ることになったわ」
「本当ですか!?」
「烏丸所長との合流が絶望的だと判断されて、直接、現場で指揮が出来るものを派遣する事になったわ。
たった一人だけど相応の実力を持った者を送るそうよ」
「それって……」
「少なくともレイやルナマリアでは無いわ。
彼らに実力が無いわけじゃないけれど責任は負えないものね。
誰が行く事になるかは現時点では不明だけれども安心しても良いはずよ」
増援の言葉は嬉しいはずだった。
BOARDが壊滅して、孤立無援になった時に自分から望んだのだから。
だが、現状ではそれは非常に困る事になる。
その増援はザフトでも相応のポストのものが来るはずだ。
上官が出来てしまえば今のように好き勝手に振舞えるとも限らない。
いや、むしろ絶望的だろう。
それになのはや霊夢……ザフトの常識の外に居る者たちに合わせるわけにも行かない。
「……どうしたの?」
タリアは応答が返ってこないことを不審に思い尋ねる。
「い、いえ!それでその増援はいつ、来るんでしょうか?」
シンが慌てながら答える。
「正式な日程は決まっていないわ。でも、近日中には決まるでしょうね」
「……分かりました」
「それじゃ、今回の件の報告書を纏めて送って頂戴」
「了解!」
シンが答えると通信が切れる。
それと同時に溜息を吐く。
「今更増援だって……遅すぎるんだよ!」
ずっと騙しとおしておける訳ではないと思っていたがいざ、その時になると何も思い浮かばなかった。
「とりあえず……剣崎さんたちに相談するか……」

シンが居間にやってくると剣崎、カズキ、斗貴子、士郎が頭を抱えていた。
「どうしたんだ?」
「あぁ……なのはの件なんだけどとりあえず友達の家で遊んでいて気づいたら眠っていたという事にしたんだけど」
「無理がありすぎないですか……その理由」
シンが苦笑いを浮かべる。
いくら、なのはが子供とは言えそこまで幼くは無い。
「そうなんだよ……それで流石に疑われているらしくてな」
「それで最大の問題がな……私達と行動していることが多くなっていたせいでな。
なのはとカズキが一緒に居たところを見られていたらしい」
「それがどうしたんだ?」
「それでな……悪い男に騙されているんじゃないかという話になったらしい」
その言葉にシンが唖然とする。
そして、カズキががっくしと机の上に突っ伏する。
「まぁ、日頃のなのはの行いは良いらしくてな。流石にその推論で決定という訳ではないらしいが……
ちょっとした疑惑となっているのは事実なんだ」
「それって……つまり、どういう事なんだ?」
シンが首をかしげる。
「つまり、なのはがカズキの家に泊まったんじゃないかって……
まぁ、そんな事を信じてるわけではないだろうけど。
危機感持っちゃったららしくてな。父親のほうが。
少し過保護になってるらしい」
士郎がシンに説明する。
「ちなみにこの話は男どもは全員、理解できなかった」
斗貴子の言葉が全員に突き刺さる。
「とにかく、このまま心配させるのは忍びないからな。
どうにか、安心させてやりたいというのがなのはの意見だ」
「それじゃ、なのはがカズキの家に泊まってないって証拠を出せば良いのか?」
「無かったことを証明するのは難しいな。なのはが何処に行っていたのかをハッキリさせれば良いんだろうが……
流石に事実を明かすわけにも……」
「幻想郷と言ってもしょうがないしな」
「そもそも、私達も完全に納得しているわけではないしな」
実際に幻想郷に行っていない斗貴子と士郎も流石にその話は懐疑的だ。
一応、霊夢と魔理沙の存在で何とか納得している。
「そんなの事実を告げれば良いだけだろ」
そこに魔理沙が口を挟んでくる。
「事実と言っても……」
「何も幻想郷の事なんて言わなくてもいいじゃないか。
真実なんて単純じゃないか。なのはは昨日は神社に泊まったんだから。
まぁ、つまり霊夢の家だな」
その言葉に全員は納得する。
友達ではないかも知れないが確かに家に泊まったのは事実だ。
「それじゃ、霊夢に弁明してもらえば」
「嫌よ」
その案を霊夢は一蹴する。
「そんなちょっと口裏を合わせるだけだから」
「何で私がそこまで面倒見なければならないのよ……別にそんなの魔理沙でも良いじゃない。
そもそも、最初になのはを見つけたのは魔理沙なんだし」
霊夢は面倒ごとを全て魔理沙のほうに投げ返す。
「う~ん……まぁ、なのはには面白い話も聞かせてもらったし……別に良いか」
自分の案が帰ってきた魔理沙はそれを承諾する。
「それじゃ、早速、魔理沙に行ってもらうとするか」
「でも、流石にその格好じゃな」
魔理沙の格好はエプロンドレスに魔女帽。
霊夢の巫女服よりは常識的だが流石に悪目立ちする。
どうにか一般人っぽく装う必要があった。
その為に服装を整えるのだが
最初は誰かから借り受けるという案が出たが
魔理沙ほどの背丈の知り合いがいなかったために没になった。
結局、適当な店で服を見繕う事になる。

「へぇ、外の世界の服はこんな感じなのね」
着替えさせられた魔理沙を見て霊夢が呟く。
「おい、霊夢……あまり、じろじろ見ないでくれ」
「そうは言ってもね。こんな服を着てる魔理沙は初めてだから」
霊夢にマジマジと見られ魔理沙は若干、頬を紅くしている。
「こんな事なら協力するんじゃ無かったな……」
「何言ってるんだ。似合ってるから良いじゃないか。
それに前までの服だとこっちじゃ目立ちすぎるぞ」
剣崎が魔理沙の頭をぽんぽんと叩く。
魔理沙は不満げに目を細める。
「あぁ!もう!さっさと行くぜ!」
魔理沙は剣崎の手を払いのけ叫ぶ。
もはや、破れかぶれになっていた。


結局、魔理沙の協力によりなのはの疑いを解くことに成功した。
なのはの疑いというよりも両親の心配だが。
実際、なのはが帰らなかった日に魔理沙の家に泊まったことは半分は事実なのだ。
その理由を少し脚色するだけで何とかなった。
魔理沙自身がなのはとそこまで歳が離れて見えなかったことも大きい。
「何だ。全て私のおかげだな」
「あはは……」
なのははちょっと厄介な奴に貸しを作る事になった。

深夜
衛宮邸の屋根の上で翔が月を仰ぎ見る。
そして、木刀を掲げた。
「……鳴動してる」
nのフィールドで真紅と出会ってから確かに木刀が小さく震えていた。
「……あの真紅という人形のせいか、nのフィールドのせいか……それとも」
自分を知っているらしかった少女を思い出す。
彼女に何かを感じることは無かった。
月を見上げる。
月を見ると何故か安心できた。
今、自分がやっていることが間違いではないと何処か確信できた。
シンたちと共に居ると安心できた。
自分が今を生きているのだと感じられた。



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