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橘朔也との再会。
それは剣崎一真とシン・アスカに衝撃を齎すものだった。
ライダーシステムの不備
それに伴う身体の影響により橘の命は危険に晒されている。
言い換えれば剣崎の体もやがてライダーシステムに蝕まれる。
アンデッドと戦い続けること……
それは剣崎の命を縮めることに他ならない。
他にもホムンクルスがジュエルシードを狙っていることが確定し、ジュエルシードを集める謎の魔導師が出現したこと。
アンデッドを一体封印し、ホムンクルスを一体撃破した。
ジュエルシードは謎の魔導師に奪われたが事態は確かに進展している。
何も悪いことばかりではない。

「なるほどな。それで剣崎さんは塞ぎこんでるという訳か」
斗貴子はカズキの傷の手当をしている。
最初は自分に話も告げずに戦いの場に赴いた全員にご立腹だったが
その時に橘から告げられた真実を聞き、思考がそちらに移っている。
「でも、戦ってアンデッドを封印すれば問題ないんだろ?」
同じく帰ってきた皆に話を聞いた士郎もそのことについて思案する。
「そう簡単なものでもないだろう。
アンデッドを封印すれば収まるのだとしても仮面ライダーは二人居るんだ。
順番に交互に封印すれば問題ないのだとしたら橘という人も協力を断ることも無いだろう。
それに封印をし続けている彼が既に体調の不良を訴えているんだ。
封印し続ければ良いと言う問題じゃない」
斗貴子の言葉に士郎は頭を抱える。
「やっぱり、剣崎さんには休んでて貰おう」
カズキがそう言うと斗貴子が彼の傷口を包帯の上から軽く叩く。
それにカズキは小さく悲鳴を上げた。
「馬鹿かキミは?彼が戦わないというならアンデッドは野放しにするのか?」
「俺たちが戦えば……」
「仮面ライダーの力が無い状態でアンデッドと戦うか……随分と大きく出たものだな」
「それは……」
カズキはその言葉にたじろぐ。
対アンデッド用に作られた仮面ライダーの力。
それが無ければ対抗するのが難しいのは既に十分承知している。
確かに戦えない相手ではない。
だが、現状のカズキにそれを豪語するだけの力は無い。
「イリヤちゃんと一緒に居たカリスって人も同じ問題を抱えているのかな……?」
なのはが呟く。
同じく仮面ライダーである彼も橘や剣崎と同じ問題があるかもしれない。
「どうだろうな。剣崎さんの話ではカリスなどというライダーシステムは無いらしい。
BOARD製のライダーシステムであるとも言い難いし同じ枠にはめて考えていいことなのかも不明だな」
その呟きに斗貴子が応える。
現状では判断材料が全く無い為に彼のことを論ずるのは無理だった。
「とにかく、橘さんって方が仰ったようにライダーシステムの開発者である烏丸所長を探すのが最優先だと思います」
話を聞いていたユーノが提案する。
その言葉に斗貴子が頷く。
「そうだな。開発者であれば問題も性格に把握しているはずだ。
故に橘朔也も探しているのだろう。
剣崎さんの事を思うならまずは烏丸所長を探すことを優先すべきだ」
斗貴子はカズキ、士郎、なのはの顔を見渡し告げる。
その言葉に彼は頷いた。

「で、剣崎さんは戦い続けるのか?」
シンの部屋。
剣崎同様にシンも部屋に篭っている。
だが、そこに翔が訪れ彼に尋ねた。
「さぁな」
翔の問いにシンは冷たく返した。
「気にならないのか?」
「……俺にどうしろっていうんだよ」
「剣崎さんが戦いを止めればアンデッドと戦う使命を持つのはお前だけになるんだぞ」
結局、カズキたちやなのはたちもアンデッドの戦いに協力してくれている協力者でしかない。
それぞれに優先すべき事がある。
「流石に死ぬかもしれない事を抱えて戦えだなんて……」
「でも、生きるか死ぬかなんて戦っていれば紙一重じゃないか?」
「それとこれとは違うだろ?戦えば死ぬかも知れない。
だけど、今回のそれとは別だ」
「良く分からないな。元々、死ぬ危険性は常にあるじゃないか」
翔はきょとんとした様子で呟く。
シンはその様子にイライラし歯をかみ締める。
「うるさいな!さっさと出て行けよ!」
シンは怒鳴り散らし翔を拒絶する。
翔はしょうがないという様子で部屋を出た。
部屋を出た直ぐの廊下に剣崎が立っている。
「剣崎さん……?」
「翔か……そう言えばキミのことを橘さんに聞くのを忘れてたな」
剣崎は戦い終わったときほど消沈していない様子だった。
「いいよ。そんな状態じゃなかったし」
「今度会った時に聞いてみるよ」
剣崎は明るく笑っている。
その様子を翔は不思議そうな様子で見ていた。
「……剣崎さんはもっと取り乱すと思ったな」
意外と冷静な剣崎に翔が不躾に尋ねる。
「……そうだな。だけど、考えてみたんだ。
全く戦いなんて知らないカズキやなのはが頑張っていて、
年下のシンや斗貴子さんも自分の与えられた仕事を命がけでやり遂げようとしている。
そんな皆と一緒に戦ってるのに俺一人悩んで皆を困らせるなんて間違ってるんじゃないかって。
確かに橘さんのようにアンデッドの悪意が俺を蝕んでいくのかと思うと正直、怖い。
だけど、皆と一緒に戦っていけば乗り越えて行けるんじゃないかってそう思うんだ。
甘い考えかも知れないけど。
俺たちの勇気はアンデッドの悪意なんかに負けないって……そう思いたいんだ」
剣崎の眼は真っ直ぐ前を向いていた。
「良い言葉なんて思いつかないけど……俺はあんたと一緒ならどんな敵も怖くない。
そう思うよ……なぁ、シン」
翔は横目で部屋の中のシンを見る。
シンは部屋から出てきて剣崎を見る。
「貴方のことだから泣き言を言うと思ってましたよ」
「随分と信用無いな……まぁ、仕方ないか」
剣崎はBOARDが壊滅した翌日のことを思い出す。
仲間を失った悲しみを同じ境遇のシンにぶつけたことを。
「言ったからには責任とって貰いますからね。仮面ライダーの力、当てにさせて貰います」
「あぁ、アンデッドを封印することが俺の仕事だからな」
二人は再び共に戦うことを誓い合った。



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第六話「開かれる扉」



「あの子ってなんていう名前なんだろう……?」
ボロボロに朽ちた神社の境内
名前も分からないそこの石段に座り、なのはが呟く。
日も暮れかけ、夕焼け空が境内を照らしている。
なのはは現在、魔法を使うトレーニングを行っていた。
ホムンクルスに手も足も出ずにやられた事、ジュエルシードを狙う謎の少女に一撃で倒された事。
このままでは足を引っ張ってしまう。
そう感じたなのははレイジングハートに頼んで常に魔法の修行を受けている。
場所はどこでも良かったのだがその話を聞いたカズキが「修行ならあそこしかない!」と言い出し、この神社を紹介された。
確かに人も来ず、静かな為に気は入りやすい。
だが、基本的に魔法の修行はイメージトレーニングであり、実際に変身するわけでは無かった。
喧騒の中でも平行して頭を使い修行するので授業中であろうとも問題は無い。
故にここに来る理由も無かったが紹介されたのでとりあえず来ているのが現状だ。
そんな特訓の中で昨日であった少女の事が気になりぼそりと呟いた。
「どうしたの?」
聞き逃したユーノがなのはに尋ねる。
それに対してなのはは何でもないと答えた。
「お~い!」
声を上げてカズキが境内を駆け上がってくる。
その後ろにはシンと翔の姿もある。
「カズキさんに皆、どうしたんですか?」
「特訓!」
最初に駆け上がってきたカズキが腕を天に突き出して告げる。
「カズキも昨日はやられっぱなしだったからな」
シンが愉快そうに告げる。
馬鹿にしているというよりもアレだけやられたのにめげずに特訓を言い出した彼に対して嬉しく思っているのだろう。
「創造主や烏丸所長も探さないといけないけど。俺が弱くちゃ意味ないしね」
「まぁ、夜間じゃ人探しも難しいしな」
今までシンは烏丸所長を探し、カズキは学園で創造主を探していた。
「進展はあったんですか?」
ユーノが尋ねるとカズキは首を横に振る。
「全く……そうだ。ユーノも学園で創造主探し手伝わないか?」
「えぇ!でも、僕だと逆に目立つと思いますけど」
「ペットとして連れて行けば女子たちが集まって情報が聞きだせるかもしれない!」
「それって結局、ユーノくんが可愛がられるだけで情報は集まりそうに思えませんけど……」
カズキの提案になのはが苦笑いを浮かべる。
「そういえば、そういう人を探す魔法とかって無いのか?」
シンが思い出したように尋ねる。
「もう少し彼の情報が分かれば探査できるかも知れませんけど……
現状では無理ですね。そもそも、そこまで接触できれば必要ないぐらいですし」
ユーノの返答にシンは相槌を打つ。
そこまで期待はしていなかったのだろう。
そもそも、それが出来るのなら彼から提案があってもおかしくは無い。
「そうそう、これ差し入れ」
カズキが手に持っていた袋から紙パックのジュースを取り出す。
「ありがとうございます……!?」
なのははそれを受け取り、固まった。
その紙パックには青汁と書かれている。
それを見てシンが苦笑いを浮かべている。
「美味しいし健康にも良いし。一石二鳥!」
「あははは……ありがとうございます」
「嫌なら付き返した方が良いんじゃないか?」
困惑しているなのはにシンが親切心で尋ねる。
それになのはは首を横に振る。
「いえ、好意で頂いたものなので……」
カズキに一切、悪意が無いことが分かるだけに拒否はし辛かった。
「俺はごめんだな……」
「俺もだ」
シンと翔は既に被害にあったのか遠い目をして拒否を示す。
「えー、おいしいのに」
何故か分からないという様子でカズキが呟く。

翔とカズキがお互いに木刀を持ち打ち合いを興じている。
翔は基本的な握りで切り込んでいるがカズキは片手で柄を持ち、もう片方の手を刀身に添えている。
竹刀の使い方としてはおかしいが基本武装が突撃槍であるカズキなら普通にもって扱うよりも利に敵っている。
基本的に攻めるカズキを翔がいなす形を取っている。
「二人とも凄いですね」
打ち合いを見ながらなのはが呟く。
「……確かにな。カズキはまだ、そこまで飛びぬけてるわけじゃないけど」
シンもその特訓を監視しながら応える。
「天さんってそんなに凄いんですか?」
翔が戦っているところを殆ど見た事が無いなのはが聞き返す。
「まぁ、生身でアンデッドやモビルスーツとある程度は戦えてる訳だし人間の範疇じゃない気がするな」
「そういえば記憶喪失なんですよね」
「そうらしいな。あいつは余り気にしてないみたいだけど。
まぁ、身体能力も斗貴子さんが言うには錬金の戦士には同程度の人物はゴロゴロいるらしいからそこまで不思議じゃないらしい」
「そういえば、武藤さんとか津村さんは武装錬金以外は生身なんですよね」
「核鉄を持ってればそれだけで自然治癒能力が上がるから少しの傷なら直ぐに治るらしいけど……
そういえば、カズキの昨日の傷はほとんど治ってるんだぜ」
「えぇ!」
「それは凄いですね……」
その言葉になのはとユーノは驚く。
胸を貫かれるほどの重傷だ。
普通なら入院していなければならないはずなのに。
「その治癒能力があるから無茶な特訓をしても体が壊れにくいらしい。
それを利用して錬金の戦士は通常の人間以上の身体能力を手に入れるらしいからな」
「もはやちょっとした超人ですね」
「まぁ、そうでもなきゃ生身でホムンクルスなんて化け物と戦うのなんて無理なんだろうけどな」
二人が雑談していると模擬戦を終えて二人がやってくる。
「ぜぇぜぇ……くそ、一発も当てられないなんて」
「カズキは攻撃が素直だからな。その分、かわしやすい」
完全に息が切れているカズキとは別に翔は涼しそうな顔をしている。
「お疲れ様です」
なのはがカズキにタオルを差し出す。
「サンキュ」
カズキがそれを受け取り、汗を拭う。
「そういえば、なのはちゃんはそろそろ帰ったほうが良いんじゃないか?」
落ちかけていた日は完全に落ち、周囲は既に暗くなっている。
「あぁ!」
なのははうっかりしていたという様子で叫ぶ。
「どうしよう、お父さんとお母さん心配してるかも」
つい先日、ユーノを助けに無断で外出して怒られたばかりである。
そう、短い期間で繰り返すのはあまり良い印象を与えないだろう。
「それじゃ、送っていくよ」
カズキは昨日、なのはがホムンクルスに襲われたことを思い出し提案する。
「カズキは特訓があるだろ。俺が行くよ」
それに対してシンが名乗り出る。
折角、特訓をしようとしているカズキを使うよりも既にある程度戦えるシンの方が適任だろう。
「それはちょっと待って欲しいわね」
そこに誰かの声が割ってはいる。
全員は警戒し一斉にその方向を向いた。

神社の境内の奥側
そこには一人の女性が立っていた。
黒髪の妖艶な美女
「折角、こんなに集まってるんだから一斉に始末したほうが楽なのよね」
そのぎらついた殺意に全員はそれぞれの武器に手をかける。
それと同時に女性は本性を現す。
それは花のホムンクルスだった。
大量の茨が一斉にカズキ達に襲い掛かる。
「武装錬金!」
「レイジングハート、セットアップ!」
「コール・インパルス!」
ホムンクルスが正体を現すと同時にそれぞれの力を発現させる。
そして、散会し茨を回避する。
「たった一体のホムンクルスで俺たちに勝つつもりかよ!」
シンはフォールディングレイザーで近寄ってきた茨を切り裂く。
「本来の私なら難しかったでしょうね……」
ホムンクルスはそういうとジュエルシードを取り出した。
「そんな!こんな短時間でもう見つけたって言うのか!?」
それに驚きユーノが叫ぶ。


「既に今日の時点で花房が発見し、これで二個目。いや、蛙井も含めれば三個目になるのかな?」
パピヨンマスクを付けた男がジュエルシードをつまみ眺める。
「それを渡せッ!」
犬の耳と尻尾が生えた女性が怒声と共に拳を振るう。
それを鷲のホムンクルスは軽くいなしていた。
「嫌だね。先に見つけたのは俺だ」
パピヨンマスクの男は見下すように告げる。
「この世界の人間が持って行ってどうするってのさ!」
犬の女性は一旦距離を置いて叫ぶ。
「さてね。それにしてもジュエルシードを集めているのはフェレット付きの子供とその仲間達。それに金髪の子供だけだと思っていたが……
意外と色んな奴が探してるみたいだな」
「はん、私はフェイトの仲間だよ!」
犬の女性が叫ぶと鷲のホムンクルスがパピヨンマスクの男に駆け寄る。
そして、その体を抱きかかえ移動する。
その次の瞬間、パピヨンマスクの男が立っていた場所に金髪の少女が降り立つ。
それは昨日、なのはとジュエルシードを奪い合った少女だった。
「かわした……!?」
少女は驚愕の表情で鷲のホムンクルスを見上げる。
「鷲尾を他のホムンクルスと一緒にしてもらっては困るな……」
パピヨンマスクの男は鷲尾の腕から降り告げる。
その表情は余裕が伺えた。
少女は一旦、距離を開け、犬の女性と並び立つ。
「そうか、貴様がそこの犬女の主人という事か」
「犬女じゃない!私にはアルフって名前があるんだよ!」
パピヨンマスクの男に対し憤慨し犬の女性が抗議する。
「仲間の可能性を考慮していたとは言え一度に遭遇するとはな。
昨日、蛙井と戦闘した際に鎌女に協力者が現れなかったから別行動していると踏んだが……
考慮の仕方が甘かったみたいだな」
顎に手をあて思案するが特に危機感を抱いている様子は無い。
「フェイトの事をそんな物騒なあだ名で呼ぶなッ!!」
アルフが激昂するとフェイトがそれを片手で制す。
「人数上は二対二……だけど、貴方自身に戦う力は無い」
フェイトはパピヨンマスクの男を見て淡々と告げる。
「その通りだ。俺は弱い。流石に鷲尾も俺を護りながら二人を相手にするのは難しいだろうな」
「だったら、それを私達に渡して。そうすれば別に危害を加えるつもりは無い」
「嫌だと言ったら?」
「力ずくで奪わせてもらう」
「単純明快だな。近頃の子供は随分と物騒だ」
パピヨンマスクの男は愉快そうに答える。
「そうそう、このジュエルシード……当然、お前たちは使い方を知ってるな」
「当たり前だろ!」
アルフが答えるとパピヨンマスクの男はジュエルシードを握り締める。
その様子にフェイトとアルフが警戒する。
「俺は知らないんでな。サンプルとしても蛙井の一件だけでは何とも言えない。
だが、俺がこれを手にした時から犬女の様子がおかしかった。
何かが起こることに対する警戒……使い方を知らないだろう相手にそれは無意味だ。
おそらく、ジュエルシードを持つ者の意思とは無関係に発動する」
その言葉にフェイトとアルフは反応しない。
だが、パピヨンマスクの男はそれで満足だと言いたげに口元を歪める。
「だが、今の俺に対して変化は無い。蛙井にしても手にしてからしばらく何の反応も無かった。
発動したのはお前に追い詰められてからだったな……
恐らく強い衝動に反応する……そんなところか。
だから、あえて俺を追い詰めようとしない。無闇に攻撃を仕掛けようともしない。
それはそうだ。下手に発動させるよりもしていないものを手にするほうが楽だからな」
「……それは憶測に過ぎない。
だけど、ジュエルシードが生物を取り込むことは事実。
そして、昨日、私があの蛙の人を追い詰めて発動したことも……」
「つまり、お前も良く分かっていないということか。
そんなものをどうして追い求める……っと、それに関しては俺も人の事は言えないな」
「……貴方がジュエルシードの力を使って私達と戦うというの?」
「嫌だね。取り込まれる……つまり、自意識が無くなるのだろう。
そんな美しくないことはしたくない。俺はな」
そう言うとパピヨンマスクの男は背後にジュエルシードを投げた。
そして、それを背後に居た蛙井が受け取る。
「そんなッ!?昨日倒したはず……?」
フェイトが驚愕に叫ぶ。
フェイト自身が確かにトドメを刺したはずだった。
「残念だったなホムンクルスはそう簡単に破壊できない。
そして、破壊できなければ徐々にだが修復される。
蛙井は特殊なタイプでな体の中に本体とも言うべきものが存在する。
自分の死体を偽装するのは実に容易かったそうだ。
まぁ、もし錬金の戦士の女の方がいればそう上手くいかなかったかも知れないがな」
パピヨンマスクの男は鷲尾の背に飛び乗る。
そして、鷲尾は上昇を始めた。
「蛙井……裏切り者の貴様に復讐の機会をお膳立てしたんだ。しっかりと役目を果たせ」
「はい、創造主様」
そういうと蛙井の体が変化していく。
それは昨日の巨大化ではなく、より戦闘に適した姿に。
それは彼の望みが生への願望と食欲ではなく復讐に変化した事によるもの。
自分を破壊した相手を殺す為だけにその体が変化する。

「……創造主、折角のジュエルシードを蛙井などに渡してよろしかったのですか?」
鷲尾がパピヨンマスクの創造主に尋ねる。
「制御できない力など必要ない。俺にはあれを調査する時間も無いしな。
その力で俺を追う奴らの露払いなればと思っていたに過ぎん」
ジュエルシードによる騒動
それが起これば自分を追う錬金の戦士の仲間はそちらに注力する。
そして、暴走するとは言えその力は凄まじく。
上手く使えば敵を全滅させることも出来る。
武器として扱う。パピヨンマスクの男としてはジュエルシードはそれぐらいの扱いだった。


ジュエルシードが花房の望みに反応して彼女の体を取り込む。
花房の体から更に大量の茨が溢れ神社を飲み込んでいった。
そして、周囲に展開しカズキたちを茨の中に封印する。
「空が塞がれた!」
上昇しようとしていたなのはは茨により制限を受ける。
「はっ!閉じ込めたところでお前さえ破壊すれば問題ないんだろ!」
ブラストシルエットに換装し、ケルベロスの狙いをつける。
だが、発射よりも早く、無数の茨がインパルスを掴みがんじがらめにする。
「昨日の戦闘は見ている。お前さえ封じれば決定打を与えられるものは存在しない」
花房は常にインパルスの動向に注意し、発射体勢をとった一瞬の隙をついた。
茨に囚われたインパルスは砲身の方向を無理やり変えられ、ビームはあさっての方向を焼き尽くしていく。
開けた穴も他の茨が補助し、直ぐに塞がれてしまった。
「だったら!!」
カズキがランスを構え、花房に向かって走りこもうとする。
それを翔が服を引っ張って止めた。
それと同時にカズキの目前を茨が数本、突き刺さる。
それを見てカズキは顔を青くした。
「あえて目の前を空けてるんだ」
「なるほど」
カズキは納得し、前方に存在する花房を睨む。
余裕は伺えるが油断はしていない。
こちらの攻撃に反撃するよう身構えているのだろう。
「だったら、ディバインシューター!」
なのはが無数の魔力の弾丸を花房に向けて放つ。
その光弾を防ごうと花房は茨を並べ壁を作り出す。
だが、なのはの光弾はその直前で曲がり、壁を迂回して花房に直撃した。
「誘導できるとは……昨日までとは違うというか……」
壁が解かれる。
花房の表情は攻撃を食らったというのに問題ないとでも言いたげだった。
「ですが、その程度の攻撃では私を倒すことは不可能!」
周囲にある茨が数本、なのは目掛けて放たれる。
なのははそれをプロテクションで弾いて防御する。
「防ぎますか……ですが、そのバリア、常に張り続けられるものですか?」
間髪居れずになのはに茨が飛び掛る。
それをカズキと翔が切り払い、なのはの防御に回る。

「決定打が無いな」
「持久戦になったらホムンクルスでジュエルシードを持つ奴の方が上……」
「それにしても昨日の奴は何も考えて無さそうだったのに……今度の随分と冷静だな」
「確かに……でも、それだけ厄介って事だ」
翔とカズキは攻めあぐねている。
この状態で適任であるシンは真っ先に封じられている。
なのはは封じられたインパルスのケルベロスを見てなにやら思案する。
そして、昨日であった少女が魔法による砲撃でホムンクルスを倒したことを思い出す。
「……もしかしたら打開できるかも」
なのはが呟く。
レイジングハートから魔法は自分で組み立てられるということは聞いていた。
望むなら望んだ魔法が放てるはず。
自分にそれだけの力量があれば。
「本当!?」
「うん、でも一撃で倒しきれるかはちょっと……」
なのはが自信なさげに呟く。
アレだけの威力を引き出せるかの自信は無かった。
「だったら!」
すると茨を突き破りブレイドが現れる。
「剣崎さん!?」
「遅くなった……まさか、襲撃されてるとは思わなくてな」
剣崎が強引に抜けて来た穴は既に防がれている。
ブレイドのパワーと装甲が無ければ不可能な進入方法だ。
「剣崎さん……変身しても大丈夫なんですか!?」
カズキが驚き尋ねる。
不備のあるライダーシステムでは変身することが命を縮める事になる。
だというのにアンデッドが相手でもないのに彼が変身して問題ないというのか。
カズキの問いに剣崎は力強く頷いた。
今の剣崎一真に迷いは無い。
「もし一撃で倒せなくても……隙が出来るなら俺に任せてくれないか?」
剣崎がなのはに尋ねる。
「分かりました。道は私が切り開きます!」
なのはが叫ぶとレイジングハートが変形する。
その姿は杖からまるで砲のように変化した。
「カズキ!俺たちは!」
「分かってる!なのはちゃんと剣崎さんの邪魔はさせない!」
事態に気づいた花房の猛攻を翔とカズキは体を張って防ぐ。
二人に護られながらなのはは魔力を砲身へと集中させる。
前方に魔法陣が出現し、魔法を構築していく。
そして、前方の敵に照準を合わせる。
「いっけぇ!ディバイン……バスター!!」
なのはが叫ぶとレイジングハートから魔力の砲撃が放たれる。
それは一直線に花房へと向かっていく。
花房は再び、茨の壁を作り出すもなのはの魔法はそれを突き破り、その体を包み込んだ。
閃光と共に爆発
同時に猛攻を繰り返していた茨の動きが止まる。

―――キック―――

全員の視線が爆心地へと向いた。
そして、煙が晴れると同時に花房の姿が現れる。
腕は砕け散り、花弁も吹き飛んでいる。
だが、体は存在し、息もある。
そして、既に再生が始まっていた。

―――サンダー―――

全員が次の行動に移るよりも早くブレイドはその剣を地面に突き立てた。

―――ライトニングブラスト――――

ブレイラウザーより呼び覚まされたローカストアンデッドとディアーアンデッドの力がブレイドに流れ込む。
流れ込んだ力をブレイドに装着されているスーパーマイクロコンピューター・ネクサスが処理し、ブレイドアーマーに伝える。
「ウェーーーーイ!!」
雄たけびと共にブレイドは花房に向かって跳躍する。
そして、キックとサンダー、二つのアンデッドの力を纏った右足を花房の体に叩き込んだ。
インパクトの瞬間
超高圧の電撃が花房の体に流され、その体を焼き尽くしていく。
だが、それと同時に花房の体内にあったジュエルシードが突然、輝いた。
「!?」
吹き出る超高出力の魔力。
だが、ブレイドはそれをアンデッドパワーで押さえ込む。
ぶつかり合う二つの力
それは次元の震動と成り世界を駆け抜ける。
剣崎たちの視界は白く塗りつぶされていった。


「次元震!?」
蛙井を倒したフェイトが遥か遠くの山で起きた爆発に振り向く。
「まさか、あいつらが起こしたのかい!?」
アルフも魔力の流れを感じフェイトに尋ねる。
「多分……」


「凄い力ね……」
イリヤが屋敷の窓から空を見上げる。
そして、振り向き椅子に座るカリスを見る。
「興味ないの?」
「アンデッド同士の戦いではないからな」
だが、その様子はどこかソワソワとしていた。
それをイリヤは楽しそうに見つめている。


「厄介なものが入り込んだみたいね」
「さっきの地震の影響ですか?」
「最近、外が嫌な流れだとは感じていたけど……
そういえば例のアレももうじきだったわね」
「それでどうするんですか?」
「しばらくは送り返せないわね。地震の影響で周辺の空間が滅茶苦茶だわ。
よりにもよってって場所が震源地みたいだけど意図的ね……
とりあえず、巫女に任せましょう」


古い神社がある。
だが、人の手が行き届いているのか古いながらも健在だった。
鳥居も社も賽銭箱もきちんと存在している。
雪がしんしんと降る寒い夜。
縁側を一人の少女が歩く。
少し前に発生した地震で飛び起き、それと同時に境内から聞こえた落下音を確かめに行くところだった。
「異変かしらね。だとしてもこんな寒い日でなくても」
文句を垂れつつ少女は歩く。
少女の姿は紅白の衣装。
いわゆる巫女服というものだった。
脇が出てる改造品ではあるが。
頭には真赤なリボンで髪をくくっている。
彼女が境内に出ると雪の上で倒れている少年を見つける。
「行き倒れかしら……?」
そう思いながらも落下音らしきものがあったのだから空から降ってきたのかと思いつつ少年に近づく。
「もしもし、生きてますか?」
少女は少年の体を手でゆする。
少年の体に薄く積もっていた雪がはらはらと落ちた。
「う……うん……」
少年は目を覚ますとゆっくりと顔を上げる。
「……なのはか?……剣崎さんは無事か……?」
少年は焦点が合ってない目で少女を見る。
「私はなのはって人じゃ無いわよ。それに剣崎なんて人は知らないわ」
少女が少年の問いに返す。
しばらくの沈黙
少年……翔は何回か眼を瞬かせ怪訝な表情で少女を見る。
「……?ここは?」
「博麗神社よ……貴方、外来人なの?」
「外来人……?」
「その反応が証拠よ。さっきの地震の影響かしらね……そんな訳無いか」
一人納得して呟く少女に翔は困惑している。
そして、周囲を見渡し自分以外には目の前の少女しか居ない事、ボロボロだった神社がいつの間にか立派なものになっている事に気づく。
「私は博麗霊夢……とりあえず、ここは寒いから中に入りましょう」
翔はただ、霊夢と名乗った少女の言葉に従うしかなかった。


森の中、黒白のエプロンドレスと黒い魔女帽を被った少女が歩いている。
「さっさと帰らないとな」
その手には竹箒が握られていた。
歩いていると視界の先で少女とフェレットが倒れているのを見かける。
「人間……?妖怪かも知れないけど」
黒白の少女は倒れている少女に近づいていく。
「大丈夫か?」
恐る恐ると近づきながら声をかける。
反応が無いと更に近づいていく。
そして、腕を伸ばして肩を許す。
それでも眼を覚まさない。
「行き倒れか?こんな所にいると妖怪に食われちまうぞ」
そう言いつつ少女を観察する。
そして、その手に紅い宝玉が握られてるのに眼をつけた。
「とりあえず、介抱してやるか。私は良い人間だからな。
もちろん、人間だから見返りは要求するけどな」
一人、そう呟くと少女とフェレットを連れて歩き出す。


「ここから出せ!!」
シン・アスカが扉を力強く蹴り付ける。
だが、木製のはずの扉はびくともしない。
「くそ……剣崎さんや翔はどうなったんだ……?」
シンは自分の周囲を見渡す。
そこは洋館の一室のように思われた。
だが、そこは普通の洋館とは違う点がある。
壁や天井、床が赤一色なのだ。
「大丈夫だよな……皆」
意識が途絶える前の光景お思い出す。
ブレイドがホムンクルスに対してキックを放った。
そして、その瞬間、光が溢れ……
そこで彼の意識は途絶えている。
次に気づいた時、彼はこの部屋のベッドに眠っていた。
インパルスは転送した覚えも無いが既に装着していなかった。
ポケットから転送機を取り出す。
これを持っていると言う事はインパルスを母艦に返したはずだ。
「……通信機は通じないし……」
既に母艦であるミネルバに通信を送っている。
だが、それが繋がることは無かった。
地球上であれば圏外になる事は無いはずなのにである。
考えられるとすれば妨害電波の影響下にある。
そんな厳重な処置からここがホムンクルスの創造主の本拠地であることも考えられた。
だが、一見、ただの学生にしか見えなかった奴にそんな事が出来るかと考え直す。
「……一応、試してみるか?」
転送機に眼を落とし呟く。
通信機が妨害されている場所でそれが作動するとも思えなかったがやらないよりましだ。
そう考えていると当然、ドアが開いた。
シンは勢い良くそちらを向き、腰にあった銃を構える。
ドアの向こうには銀髪のメイド姿の少女が立っていた。
「随分と物騒ね」
シンの視界から少女が消える。
と、同時に背後から声が聞こえた。
振り向こうとしたが咽喉に冷たいものが当たる。
「そうなるとこっちもそれ相応のお持て成しになるわよ」
シンは反射を強引に止め、手から銃を離した。
それと同時に咽喉に当たっていた冷たいものが離れる。
「反射的に脅してみたけど……何かしら?」
メイドの少女はシンが落とした拳銃を拾い首をかしげている。
「お前……何者だ?ホムンクルスなのか?」
シンが尋ねる。
目の前で少女は拳銃を弄っていたが興味を無くしたのか手を離した。
すると次の瞬間、拳銃は忽然と姿を消す。
「!?」
シンは驚愕に眼を見開く。
「ついて来て」
少女はそう言い歩き出す。
シンは黙ってそれに従った。
先ほどからの奇怪な雰囲気。
この場で抵抗しても殺されるだけだとシンは判断した。

メイドの少女に案内され長い廊下を歩く。
途中、何度かメイドとすれ違ったがどれもこれも何故か背中から羽が生えていた。
まるで虫のような。
何の意味があるのだろうとシンが怪訝に思っていると大きな扉の前に着く。
扉は開かれ、シンは中に招かれた。
部屋の奥には玉座のような椅子があり、そこには小さな少女が座っている。
青い髪と紅い瞳、背中には蝙蝠のような羽根が生えている。
その少女は真っ直ぐにシンを見つめた……



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