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薄暗い部屋の中、痩身の青年が咳をする。
ベッドに座る病人。
その顔に生気は無く、今にも倒れてしまいそうなほどだ。
その病人の傍に三人の影がある。
引き締まった肉体を持つ、鷹の眼をした男
妖艶な肉体を持つ女
長身痩躯の不気味な男
彼らはただ、ベッドに座る青年を見つめていた。
彼を心配する者は誰も居ない。
この程度の咳など日常茶飯事だ。
これで一々、気をとられていてはそれで一日が終わってしまう。
「錬金の戦士が二人、それに仮面ライダーが一人、モビルスーツが一体。
そして、杖を持った少女が一人……か。
報告に有った通り、奴ら同士、手を組んでるようだな」
ベッドの上の青年が会話を切り出す。
「間違いないようです」
鷹の眼をした男が答える。
「都市伝説と思われていた仮面ライダーが実在した。
という事はあの研究所も噂どおりに永遠の命の研究を行っていたかも知れないな」
永遠の命の研究……
仮面ライダーと同じように何時からか噂されていた都市伝説だった。
人類基盤史研究所
そこで永遠の命に関する研究が行われている。
その接点の無さから大抵の人は都市伝説にしても全く信じられず、
直ぐに消えてしまった噂だ。
ただ、一部からは時折、出現する怪人がその研究の成果であると言う噂も発生していた。
「調査に向かった巳田と猿渡の消息は不明です。
恐らく、奴らによって倒されたものだと思います」
妖艶な女性が告げる。
「だろうな……錬金の戦士と仮面ライダーが共闘していた時点で感づいてはいたさ。
しかし、随分と厄介な事になったな」
青年は頭を抑える。
錬金の戦士と呼ばれる存在は知っていた。
そして、それが自分の目的を邪魔しに来るであろうことも。
だが、現実はそれを上回っていた。
都市伝説として囁かれていた仮面ライダー。
二年前の戦争で投入され兵器の歴史を変えたモビルスーツ。
そして、出自は不明だが謎の力を使う少女。
関連性も不明な何者かが戦士に力を貸している。
そして、その実力も先日の戦いから判明していた。
「幸いにも蛙井の報告で奴らの動向は探れています。
それに一人一人でしたら、確実にしとめられます」
鷹の眼の男が告げる。
その眼には自信があった。
決して自惚れでは無く。
直感的に自分が彼らより強いと確信している。
「そうだな……後は仮面ライダーが戦っているとされる怪人。
奴らを利用すればまだ、勝機はある」
それも先日の戦いからの判断だ。
錬金の戦士二人と謎の少女の三人がかりでもアンデッド一人に敗北した。
仮面ライダーとモビルスーツは勝利を収めたが
もし、アンデッドが万全の状態なら分からなかった。
「現状は静観するしかないな。幸い、まだ、奴らはこちらの居場所に気づいていない……
蛙井、引き続き監視を怠るな」
青年が不気味な男に告げる。
「は~い」
蛙井は歪んだ笑みを浮かべるとそのまま、部屋を去っていく。

住宅街の道路
人通りが少なく、時間によっては無人と言っていいほどに人と出くわすことが無くなる。
その真ん中で蛙井はおもむろにポケットから石を取り出した。
「美味しそうな女の子のことは喋っちゃったけど。これだけは教えられないからねぇ。
ふひひ……これさえ、あればアイツの言うことなんて聞く必要も無くなる」
蛙井の手の中でジュエルシードは妖しい輝きを放っていた。



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第五話「歪んだ願望」



「それでその、創造主って言うのを探せば良いのか?」
平日の昼間
カズキたちは学校に登校している時間。
衛宮家の居間で居候たちが打ち合わせをしていた。
「そうそう。カズキたちと同じ制服を着てたから学生だと思うんだけど。
学校内は斗貴子さんたちに任せたから俺達は街で聞き込みをする事になる」
唯一、創造主を目撃したシンが説明する。
パピヨンマスクで顔を隠されていた為に精確な人相は分からなかったが
カズキたちが通う 穂群原学園の制服を着ていたことから学生であることは間違いなくなった。
流石に学園内に部外者が立ち入り調べることは出来ない。
故に学生でない三人は外での情報を集める事になった。
「後、ついでにアンデッドの事と橘さんの事とジュエルシードの事も調べられれば調べてくれ」
更に付け足す。
その注文の多さに翔は少々、苦い顔を作る。
「橘さんって人のことは知らないんだが」
「そう言えば、翔は会った事無いのか」
「オレにはお前達ぐらいしか知り合いは居ないぞ」
翔に剣崎が橘の特徴を伝える。
「創造主のことも大事だけど、橘さんも出来る限り早く見つけないと。
烏丸所長についても橘さんが連れて行ったはずだから……」
あの後の捜査からギャレンが烏丸所長を連れ去ったという報告がザフトからあった。
その為に橘を発見することはこれからのアンデッドとの戦いを左右する重要な事となる。
「全部で四つか……やる事、いっぱいだな。
何処の街でもこんなことが日常茶飯事なのか?」
「まさか!こんなに問題だらけなのはこの街ぐらいだよ」
日本在住である剣崎が答える。
そう、怪人が暴れ、人食いの怪物が徘徊し、願いを暴走させ混乱を起こす。
こんな危険な場所はそうそう、存在しない。
いくら、味方が増えたとはいえ、これでは手が廻らない。
「泣き言を言ってもしょうがないか……」
翔は納得する。
それしかなかった。
彼自身に手伝う理由がほぼ無くても投げ出すわけには行かない。


時間は過ぎなのはが下校する時刻
友人のアリサとすずかが習い事がある為に一人で下校していた。
人通りの少ない道を一人で歩いていると前から痩身の男性が歩いてくる。
彼は立ち止まるとなのはの顔を見てにやりと口元を歪めた。
「こんにちは、お嬢ちゃん」
「こ、こんにちは……」
突然のあいさつ。
その見るからに怪しい様相になのはは警戒する。
「そんなに警戒しないで欲しいなぁ。傷ついちゃうよ」
「す、すいません」
男は愉快そうに笑っている。
なのはは逃げ出そうかどうか考えていると男はポケットをまさぐる。
「実はお嬢ちゃんにちょっと聞きたいことがあるんだ」
「な、何ですか……?」
「コレ、について」
男はそう言うとジュエルシードを取り出し見せる。
「それって……」
「ジュエルシードって言うんだろ。一昨日の晩に君が封印した。
これについて教えて欲しいんだ」
「それについて知ってるって事は……もしかして、ホムンクルス?」
ジュエルシードについて知っているものはなのはが知る限りは仲間だけだ。
それ以外に考えられるのは最初に封印した際に盗み聞きをしていたホムンクルスのみ。
なのはは後ずさり身構える。
そして、念話でユーノに連絡を取る。
「(ユーノくん、聞こえる?)」
「(聞こえるよ。なのは)」
「(今、目の前にジュエルシードがあるの)」
「(本当!?それじゃ、今すぐそっちに向かうから……)」
「(それでね。ジュエルシードをホムンクルスが持ってるの)」
「(えっ!?大丈夫なの!?)」
「(発動はしてないみたい。ホムンクルスも直ぐに襲ってる気は無いみたいだけど……)」
なのはがユーノに相談しながらホムンクルスの男……蛙井は話を続ける。
「あんまり身構えないでくれよ。食べに来た訳じゃないんだから。
ただ、どうやったらこの宝石から化け物を作れるのか聞きたいだけなんだから」
なのはが焦る様子を見て蛙井は愉快そうに笑う。
「ここじゃ、あれだしついて来てよ」
蛙井は人が通りかかるのを遠めに見ると離れるように促す。
「……分かりました」
なのははそれに承諾した。
人気が無いところは危険だが戦うにしても他人を巻き込むわけにはいかない。
場所は移さざるを得ない。
「(ダメだよ、なのは!)」
「(大丈夫だよ。それにここで見失ったらいつ、ジュエルシードが暴走するかも分からない)」
そうなればどのような事態に発展するかは検討も付かなかった。
ただ、目の前の男の願いが正しいものであるはずが無いと直感が告げている。

その様子を遠めで見ている者が居た。
「あの子とは縁があるのかしらね……」
白い雪のような少女は去っていくなのはの後姿を見ながら呟く。
「にしても、どう考えてもあの男、人間じゃないわよね……」
間違いなく正常な人間の目では無かった。
「助けるのか?」
隣に立つ青年がイリヤに尋ねる。
「そこまで首を突っ込むわけには行かないわよ。でも、歩いていて偶然、彼女の仲間に出会えたのなら教えてあげましょう」
「そうか……」
「それで学校ってどっちの方向だったかしら」
イリヤはそう呟くと歩き出した。


なのはは蛙井に連れられ人気のない森にやってきていた。
「ここなら大丈夫だろう」
蛙井はそう言うと立ち止まり、振り返る。
「それにしても……本当に素直に付いてくるなんて。
随分と警戒心が薄いんだね。最近の子はもっと敏感に反応してくるんだけど」
「下手に刺激して街中でジュエルシードが発動したらまずいと思っただけ。
お願い、それを渡して。それは貴方が望んでいるような物じゃない」
「へぇ、キミは僕が何を望んでいるか分かるんだ?」
「それは……分からないけど。でも、ジュエルシードは持っていてもいい事なんてない。
それは封印しなくちゃならないものなの」
「……つまり、キミは正義の味方気取りって訳か……実に子供らしい考えだね」
「そう思われてもかまわない。とにかく、それを渡してください」
「それじゃ、君が僕の願いを適えてくれたら渡してあげるよ」
蛙井がその大きな口をあけて長い舌を見せる。
「願い……?」
「そう、これは僕が拾ったものだからね。それをよこせというなら。それなりの代価を支払ってもらわないと」
「そんな……」
「ふ~ん、それじゃ、あげな~い」
なのはは少し考えると息を呑みうなずく。
「それが私が出来ることで悪いことじゃないなら」
その言葉に蛙井は愉悦を浮かべる。
「大丈夫、大丈夫。キミにしか出来ないことでキミは何も悪くないことさ」
蛙井はそう言うと前かがみになりなのはに近づく。
「僕は女の子が大好きなんだ。柔らかくてね。本当はもうちょっと成長してるほうが良いけど……
偶にはこういうのも悪くない」
長い舌を伸ばし、なのはの眼前に迫る。
「もちろん、食事としてだけどね」
そして、蛙井の口が大きく開かれた。
なのはは空気に呑まれ反応が遅れる。
絶体絶命の瞬間
突如として蛙井の頭が後方に跳ね飛ばされた。
「そこまでにしておくんだな。変態め」
なのはの背後から男性が近づいてくる。
その手には巨大な紅い銃が握られていた。
「さぁ、早く逃げろ!」
なのはが呆然としていると男性が叫ぶ。
「あ、ありがとうございます!」
なのはは叫ぶとその男性の後方に回った。
「……ホムンクルスの装甲を吹き飛ばすなんて……ただの銃じゃないね」
蛙井は曲がった首を前に戻し、男を睨みつける。
その額は砕かれ、金属質の中身が見える。
「アンデッドを追ってきたらホムンクルスと出会うとはな……
お前を倒したところで何の価値も無いが……
人を襲う存在を野放しには出来ない!」
男はポケットからバックルを取り出した。
それにはダイヤのマークが刻まれている。
「仮面ライダー……それも蒼いほうじゃなくて、まさか紅いほうだなんてね」
「変身!」
―――TURN UP―――
男……橘がバックルのレバーを引くとオリハルコンエレメントが出現する。
そして、それを潜り仮面ライダーギャレンへと変身した。
「仮面ライダー……剣崎さんとは別の……」
なのはは思いもしなかった増援に驚き呆然としている。
ギャレンはそんななのはを尻目に蛙井に向かって殴りかかった。
「おっと!」
蛙井はそれを大きくジャンプし回避し、木の枝の上に飛び乗る。
「恐い恐い。仮面ライダーなんかと戦ったら命が幾つあっても足りやしない」
「残念だがその命はここで潰させてもらう」
「流石は正義の味方だ……容赦が無い。だけど、お前の相手は僕じゃない」
蛙井はギャレンを見下ろし不適な笑みを浮かべる。
その表情にギャレンは戸惑うが気にしても仕方ないとギャレンラウザーを抜いて構えた。
だが、その瞬間、ギャレンラウザーに向かって天空より落雷が堕ちる。
「ぐわぁっ!!」
その衝撃にギャレンはギャレンラウザーを取り落とす。
「そんな!雲ひとつ無いのに!?」
なのははその様子を見て驚きの声を上げる。
上空は晴天。
雷雲など一つとして見受けられない。
「何も考えずにここに来た訳じゃないって事さ。まぁ、その性で仮面ライダーなんてものまで呼び込んじゃったみたいだけど……
それはそれ、そっちは本来、戦うべき者同士が戦えば良いって事さ」
蛙井が声高らかに叫んでいると森の奥より、一つの怪物が現れた。
巨大な角を持った人型の異形。
「……アンデッド」
なのはは呆然として呟く。
昨日、アンデッドと戦い。
その力は嫌という程に実感している。
自然と足が震えていた。
「見つけたぞ、アンデッドォ!!」
震えるなのはと対照的に橘はその姿を確認すると吼えた。
そして、ギャレンラウザーを拾うと我武者羅にアンデッドに向かっていく。
「うおおおお!!」
雄たけびと共に拳を振るう。
ディアーアンデッドは数発、胸で拳を受け止めるが利いている様子は無い。
そのまま冷静に虚空より出現させた七支刀でギャレンを斬り付けた。
「ぐわぁっ!」
その衝撃にギャレンは弾き飛ばされ地面に転がる。
ギャレンアーマーの胸部装甲は切り裂かれ、内部の機械露出していた。

「まずい、このままじゃ……」
なのははレイジングハートの紅い宝玉を手に取る。
ギャレンだけに任せておくわけには行かない。
前に戦ったアンデッドは五人係りでも苦戦したのだ。
それに加えてホムンクルスにジュエルシードまで存在している。
勝ち目は非常に薄いが見捨てて逃げるわけには行かない。
「レイジングハート、セーットアーップ!!」
なのはは変身しバリアジャケットに身を包む。
それと同時に眼前に蛙井が着地した。
「本当に変身するんだ。話には聞いてたけど」
蛙井は愉快そうに笑っている。
なのははそんな彼にレイジングハートを向けた。
「ジュエルシードが暴走しないうちに倒します!」
「おぉ、こわいこわい。こっちも変身しないとね……ホムンクルスチェーンジ」
蛙井はポーズを決めてホムンクルス体に移行する。
巨大な蛙。それが蛙井の本性。
「ディバインシューター!」
なのはは蛙井に向かい、魔力の弾丸を放つ。
蛙井はそれを身を屈めて防御した。
「痛いなぁ~……だけど、耐えられない程じゃないね」
攻撃が止んだ瞬間に蛙井は舌を伸ばす。
それは素早くなのはの足首を掴んだ。
「きゃっ!」
「そぉ~らぁッ!」
なのはの体が持ち上げられ宙を舞う。
そして、そのまま木に叩きつけられる。
「更にもっとだよぉ~」
それを連続して数回、繰り返した。
いくら、バリアジャケットを着ていても一方的な攻撃になのはの意識が薄れ掛けてくる。
振り回されている最中にも何度か魔法を使おうとしたが衝撃に意識が邪魔され、構築できずに居た。
「(まずい……このままじゃ……)」
気持ちばかりが焦り、打開策は見当たらない。
「そろそろ、トドメといこうか」
蛙井はなのはの体を上空へと振り上げる。
そのまま、地面に叩きつけるつもりなのだろう。
なのははどうにか蛙井に攻撃を仕掛けようとするが上手く魔法を生み出せない。
そして、上昇が止み、なのはの体が頂点に達する。

「アークセイバー!」

金色の光の刃が飛来し、蛙井の舌を切り裂く。
切断された事により力をなくした拘束からなのはは抜け出し、魔法により体を宙に浮かせ体勢を整える。
そして、刃が飛来した方角へとその眼を向けた。
そこには金色の髪をツインテールにし、黒い衣服とマントに身を包むなのはと同じくらいの年の少女が居た。
その手には黒い杖のような物を持ち、その先端からは金色の光が鎌のように伸びている。
「貴方が助けてくれたの?」
なのはが突如現れた少女に尋ねる。
少女はなのはを一瞥するが直ぐに視線を外し、地上でのた打ち回る蛙井に向かっていった。
その速さは凄まじく一瞬で蛙井と交差し、その瞬間に蛙井の腕をその手に持つ鎌で両断した。
「ぎゃあっ!何なんだお前は……?あの子の仲間だって言うのか!?」
蛙井は突然の乱入者に戸惑いを隠せない。
事前情報ではなのはの仲間にこのような人物は居なかったはずだ。
金髪の少女は地面に着地すると蛙井に向き直る。
そして、その手に持つ鎌を蛙井に向けた。
「ジュエルシードを渡して。そうすれば命までは取らない」
特に感情も無い様子で淡々と告げる。
その様子に蛙井はたじろいだ。
先ほどの一撃に蛙井は全く反応できなかった。
なのはのように不意打ちで攻撃しようにも舌は切断されてしまって使い物にならない。
視線を横に向け、ギャレンと戦っているアンデッドを見る。
アンデッドが現在優勢だがこちらの戦いに乱入してくる様子は無かった。
アンデッドを使って漁夫の利を得るつもりが予想外に速い増援にその意味を無くしてしまっている。
ギャレンまで相手にしなくて良いのはいいが彼自身も予想外の乱入者である点は変わらない。
蛙井が思案しているとなのはも降りてきて様子を伺っている。
「渡さないというのなら……」
金髪の少女が鎌を構えなおす。
先ほどと同じように接近戦に持ち込むつもりのようだ。
蛙井はその様子に慌てて両手を挙げる。
「ま、待った!降参だ。ジュエルシードは渡すから命だけは助けてくれよ~」
蛙井は情けない声を上げて懇願する。
頭を下げて祈るように地面にこすり付ける。
その様子を見て金髪の少女は鎌を下ろした。
蛙井はそれを見てニヤリと口元を歪める。

「危ない!」
なのはは何かを察するとディバインシューターを金髪の少女に向けて放つ。
少女が身構えるが光弾は少女の横をすり抜け、その背後に迫るものを撃ち抜いた。
少女が驚き振り向くとそこには小さな蛙のホムンクルスが倒れている。
「あぁっ!僕の子供たちが!」
蛙井は絶叫する。
「卑怯者ッ!」
少女は呟くと鎌を構え蛙井に突撃する。
蛙井はその様子を見て泣き叫んだ。
このままでは間違いなく死ぬ。
死にたくない。まだ、生きて人間を喰いたい。
その衝動が爆発し、彼が持つジュエルシードがそれに反応した。
「!?」
ジュエルシードが閃光を放ち、魔力の衝撃波が少女を吹き飛ばす。
「発動したの……」
立ち上る光を見てなのはが呟く。
光の中で蛙井の姿が徐々に巨大化していく。
「ひゃははははッ!!凄い、凄いぞッ!!全身に力が満ちてくるぅ!!
これなら錬金の戦士だってアンデッドだって敵じゃないッ!!」
蛙井は自らの中にあふれ出てくる力に歓喜した。
先ほどまで恐怖していた少女すらもちっぽけに見えてくる。
「もう、創造主も関係ない。全部、僕が食ってやる。人という人全てを根絶やしにしてやるぅ!!」
舌を伸ばし、ムチのように振るう。
それだけで木々をなぎ倒し破壊して行く。
その一撃をなのはと少女は上空に飛翔することで回避する。
「ホムンクルスがジュエルシードの力を取り込んだって言うの……?」
巨大化した蛙井を見下ろしたなのはが呟く。
「逆、アレは暴走しているだけ。ただ、本能の赴くままに」
なのはの呟きに少女が応える。
「こうなったら協力して倒そう」
なのはは少女に提案する。
通常の生物よりも強力なホムンクルスにジュエルシードが同化したのだ。
その強さは以前の思念体とは桁違いのはず。
「……私一人で十分。貴方は邪魔をしないで」
少女はその提案を拒否すると一人で果敢に蛙井に向かっていく。

「で、でかい……」
その頃、山の麓では巨大化した蛙井を見てカズキが呟いていた。
「大変なことになってるみたいだな」
カズキと共に来た翔も半ば呆れながらに呟く。
「なのはの話だとあのホムンクルスがジュエルシードに取り込まれてるようです」
カズキの肩に乗るユーノがなのはとの念話から得た情報を二人に与える。
「ホムンクルスとジュエルシードか……考えられた事態だけどこんな風になるなんて」
カズキはその巨大な姿に息を呑む。
普通に考えてあんなものの相手が出来るとは到底思えなかった。
人類基盤史研究所で戦ったゴリラのホムンクルスも大きかったがそれを優に超えている。
「今ここに居るのがなのはと俺達だけってのも心もとないけど」
翔が呟く。これでまだ、剣崎やシンが居ればマシなのだが。
斗貴子はホムンクルスが寄生している為、この事は黙っている。
「とにかく急ごう」
既に目視で誰かがそれと戦っているのが見える。
ボーっと観戦しているわけには行かない。
「おい、二人とも!」
そんな彼らに背後から声がかかる。
一台のバイクが走ってきて彼らの隣を通り過ぎる。
そのバイクからシンが飛び降り、地面に着地した。
「何で二人ともこんな所にいるんだ?」
シンが怪訝そうに二人に尋ねる。
「そんな場合じゃないだろ。俺達も行くぞ」
翔はシンの横を通って先に行った剣崎の後を追う。
「イリヤちゃんに聞いて。とにかく、俺達も急ごう」
カズキもその後を付いて行く。
「オレだって元よりそのつもりだ。コール・インパルス!」
シンはインパルスガンダムを装着する。
既にその背中にはフォースシルエットが装着され、巨大なホムンクルスに向かって上昇した。

「でかい……こいつもアンデッドなのか?」
剣崎はブルースペイダーから降りて蛙井を見上げる。
頭の周辺では金髪の少女となのはが戦っているのが見える。
直ぐに加勢しようと剣崎はバックルを装着した。
「うわぁっ!」
するとそこにギャレンが坂を転がり落ちてくる。
それに剣崎は驚き眼を見開いた。
「橘さん!?」
思いがけない再開。
いや、何処かで予想はしていた。
アンデッドが出現したのなら。
彼もその場にいるのではないかと。
「変身!」
剣崎は直ぐにブレイドに変身して彼に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?橘さん!」
倒れるギャレンにブレイドが手を伸ばす。
だが、その手をギャレンは弾いた。
「邪魔をするな!あのアンデッドは俺が封印する!!」
ギャレンはブレイドを押しのけながら立ち上がると坂を駆け上っていく。
その先にはディアーアンデッドが悠然と立ちふさがる。
「あっちにアンデッドが!?それじゃ、こいつは!?」
ブレイドは蛙井を見上げる。
「そっちはホムンクルスだ」
追いついた翔が剣崎に告げる。
「ホムンクルスだって!?こんなに大きなものまで居るのか……」
「いや、ジュエルシードの影響らしい。確かに放っておいて良い物じゃないみたいだな」
剣崎たちにとってこれがジュエルシードとの初遭遇になる。
話には聞いていたが想像以上にとんでもないものだと認識した。
「あっちにもアンデッドがいるしどうしたら……」
「剣崎さんはアンデッドを封印してくれ。こっちは俺たちがどうにかしてみる」
翔はそう告げてホムンクルスへと走る。
剣崎はその判断に同意し、橘を援護すべくアンデッドの元に向かった。

「大丈夫か!?なのは!」
シンは目標を捕らえると同時にビームライフルを蛙井に向かい撃つ。
ビームの帯が蛙井にぶつかるが貫通することは無く表層を溶かすだけに留まった。
しかし、それも直ぐに再生していってしまう。
「アスカさん!防御力も上がってるみたいだし、それに直ぐに再生しちゃって……」
なのはも何度かディバインシューターをぶつけているが決定打にならない。
金髪の少女のほうの攻撃も同じようで未だに破壊することが出来なかった。
「ちっ、だったらブラストで……」
シンはフォースシルエットの火力では無意味だと悟り、最大火力のブラストシルエットに換装しようとする。
だが、それを妨害しようとしたのか蛙井の背中から何かが飛び出し、インパルスに飛び掛る。
「なっ!?」
その不意打ちに反応できず、インパルスは背中から飛び出たそれに捕まり地面へと落下した。
「アスカさん!」
なのはは助けに向かおうとするも蛙井の腕に阻まれ動きを阻害される。

「だあぁりゃあッ!!」
翔が木刀を蛙井の腹部に打ち付けるも弾かれる。
「……やっぱり、俺って役に立たないのか?」
未だにまともに攻撃が利いたことが無いのを思い出し翔は呟く。
「ジュースティングスラッシャー!!」
カズキが飾り布のエネルギー化を使い、高速でのチャージを敢行する。
その一撃は蛙井の腹部に突き刺さるが、貫くまでには至らない。
「ダメだ……大きすぎて俺の武装錬金じゃ破壊しきれない」
カズキも着地し悔しそうに呟く。
「利いているだけ十分というか、今のところ一番まともなダメージはカズキの一撃だと思うぞ」
翔が上空で放たれている光弾を見て呟く。
するとインパルスがこちらに向かって落下してきた。
「うわっ!」
翔はあわててその場から退避する。
それとほぼ同時にインパルスが地面に激突した。
その上には標準サイズの蛙井が乗っている。
「この……離れろ!!」
インパルスは頭部のCIWSを放ちつつ、蛙井を蹴り飛ばす。
弾かれた蛙井は何事も無かったようにその場に着地した。
「子供……なのか!?」
翔はその標準的なサイズの蛙井を見て驚く。
ただでさえ、手に余るというのにここに来て手ごまがあるとは。
だが、それは一体ではなかった。
もう一体が翔の背後に着地し、背中を貫く。
「翔ッ!」
カズキが逸早く気づき蛙井jrに攻撃を仕掛けるも跳躍により回避されてしまう。
翔はその場に膝を着く。
「大丈夫か!?」
「何とか……油断したけど」
腹部を貫かれるという大怪我の割りにはまだ余裕がありそうだった。
その様子にカズキは安堵の息を漏らす。
「シンさん!」
カズキはビームサーベルで蛙井jrを相手にするシンに声をかける。
「分かってる。こっちはオレに任せろ!そっちこそしくじるなよ」
「うん、任せて。こいつとは一度、戦ってるんだ。だったら!」
カズキは蛙井の子供と戦ったことがある。
あの時はジュエルシードに取り込まれる前だったが。
今の蛙井jrは取り込まれる前の本体とほぼ同じ大きさだ。
強さが大きさに比例するとも限らないが。
それ相応と見て良いだろう。
カズキは震える足を強引に前へ押し出した。
「うおおおおぉぉッ!!」
愚直なまでのチャージ。
その単純な攻撃を蛙井jrは飛び跳ねて回避する。
そして、空中で舌を伸ばし、カズキの体を貫く。
「ぐあああッ!」
その衝撃にカズキは倒れこむ。
「(つ……強い、やっぱり俺一人じゃ……)」
常人ならほぼ致命傷の一撃にカズキに意識が混濁する。
「カズキッ!」
翔の叫びにカズキはどうにか意識を繋ぎとめ、立ち上がろうとする。
だが、体が言うことを利かない。
振り向けばヒョコヒョコと蛙井jrが向かってくる。
立ち向かうも逃げるもカズキの足の反応は鈍い。
しかし、その心は折れず、依然として立ち向かおうとする意思が燃えていた。
「やめろぉ!!」
その瞳に見えたのは翔が駆け出す瞬間だった。
そして、次の刹那、翔の体が消える。
それと同時に蛙井jrの腹部が切り裂かれる。
「今だ!」
翔の叫びに反応し、カズキは渾身の力を込めて立ち上がる。
そして、何故自分が切られているのか理解できずに困惑する蛙井jrに対してその槍を貫いた。

「これならッ!」
自分が相手にしていた蛙井jrを倒し、カズキが蛙井jrを倒したのを見るとシンはインパルスのシルエットを変更する。
ブラストシルエット。
砲撃戦用のこの装備の最大火力はインパルスのシルエット中最強。
現存するモビルスーツでもこの火力に匹敵するものはそうは居ない。
背中に装備されている二門のビーム砲、ケルベロスを前方に倒すと蛙井に向かって標準を定めた。
「いっけぇーッ!!」
砲身から放たれる閃光が蛙井の体を貫き、空へと消える。
「やったか!?」
蛙井の胸部には大穴が開き、その体が良く見える。
だが、それでも蛙井の動きは止まらず、インパルスに目掛けて舌を振り下ろした。
高速で振り下ろされる舌に反応できず、インパルスは弾き飛ばされる。
「チャンス」
しかし、胸部に大穴が開いたことで確実に蛙井の動きは遅くなっていた。
再生も追いつかず、大穴がふさがる様子は無い。
金髪の少女はそれに対して魔法を発動する。
全力で舌を振り下ろした今、蛙井は完全な隙を少女に見せていた。
少女は蛙井の頭上へと移動すると魔法陣を下に向けて展開する。
「撃ち抜け、轟雷!サンダースマッシャー!!」
彼女の持つ杖より金色の閃光が放たれ、蛙井の体を貫く。
それにより、完全に蛙井の体は砕かれ、その体からジュエルシードが分離した。
「これで……やっと……」
空中に浮かぶジュエルシードを少女は掴む。
そして、そのまま飛び立とうとした。
「待って!」
それをなのはが呼び止める。
「貴方もジュエルシードを集めてるの……?」
なのはが尋ねると少女は杖をなのはに向けた。
「えっ?」
「邪魔をしないで」
「そんなつもりは……ただ、お話したかっただけで……」
「ジュエルシードは私が集める。貴方達には渡さない」
「でも、それはユーノ君が集めてて……」
「もし、邪魔をするというのなら容赦はしない」
そう告げると少女はなのはに向かい鎌へと変形させた杖を振り下ろす。
なのははそれをレイジングハートで受け止める。
「待って!もし理由があるのなら教えて!」
「関係ない。下に居る貴方の仲間も一緒にもうジュエルシードを集めるのは止めて」
少女は一旦、距離を取ると手を掲げ、金色の球体を作り出す。
そして、それをなのはに向かい射出した。
高速の魔力弾はなのはに直撃し、その意識を刈り取る。
そして、そのまま地面に向かって落下していった。
「ごめんね……」
少女は呟くとそのまま空の彼方へと飛び立って行く。

「はっ!危ないッ!!」
落ちてきたなのはをカズキが走りこみ飛び込んで受け止める。
どうにか受け止めるもカズキはそのまま地面をすべる。
「ぎゃあああ!!痛いッ!!」
地面になのはを下ろしたカズキが叫ぶ。
滑り込んだ際に傷口をすったらしい。
「大丈夫、なのは?」
ユーノが駆け寄りなのはに声をかける。
「死んではなさそうだけど……」
翔が言うように息はしており気絶しているだけのようだ。
「にしても、あいつは何だったんだ?」
彼方へと飛び去っていた少女を思い返しシンが呟く。
「分かりません……ですが、明らかにジュエルシードを狙っていたのは確かです」
その呟きにユーノが答える。
「あの子が使ってたのもなのはと同じような魔法だったよな……って言うことはユーノと同じ世界の人間なのか?」
「恐らくは……でも、ジュエルシードのことなんて知られてないはずですし……」
「それよりも剣崎さんたちは!?」
翔の言葉でその場の全員が剣崎がアンデッドと戦っていたことを思い出した。

「嘘だそんなことぉッ!!」
剣崎が絶叫と共に地面を強く叩く。
その目の前には傷つきボロボロな橘の姿があった。
「本当だ。ライダーシステムは欠陥品だ。その証拠にオレの体はボロボロだ!
そうでなければあんな無様な戦いはしない!」
橘が怒りをぶつけるように叫ぶ。
そこにシンたちが駆け寄る。
「橘さん!?」
そこで初めて彼の存在に気づきシンが叫ぶ。
そして、彼に向かって走って行き、その胸倉を掴んだ。
「あんたはッ!今まで何処に行ってたんだ!?俺達を見捨てた裏切り者がッ!!」
そのまま橘の顔面を殴りつける。
「止めろ!シン!」
それをカズキが後ろから羽交い絞めにしてとめる。
「とめるなよ!カズキ!!こいつはアンデッドに襲われているBOARDを見捨てて逃げた裏切り者なんだ!!
そんな奴を許しておけるのかよッ!!」
シンは完全に怒りに眼の色を変えている。
腹の底から吐き出される怒号にカズキは気おされる。
「オレはBOARDを見捨てた訳じゃない」
そんなシンに橘が声をかける。
「なに!?」
「あの時は烏丸教授の安全を第一に考えただけだ。もし、アンデッドに殺されたり、謎のモビルスーツに連れ去られたら大変だからな」
「だったら!何で今まで俺達に連絡を入れなかった!?」
「烏丸教授が消えた」
「!?」
「助けたはずの俺の目を盗んで奴は逃亡したんだ。今までずっと探し続けてきた。
それにお前達の居場所もオレは知らなかったからな」
「烏丸教授が逃げたって……どういうことだよ!?」
「奴は俺に殺されると思ったんだ。実際、俺は奴が許せない。
欠陥品のライダーシステムを使わせて俺の命を弄んだ奴がなぁッ!!」
「欠陥品のライダーシステム……一体、どういうことだよ!?」
「ライダーシステムはな……破滅のイメージを使用者に見せるんだ。
そして、体もそれに伴いボロボロになっていく。
現に俺も既にかなり体を蝕まれている」
「そん……な……」
「事実だ。これを防ぐにはアンデッドを封印し続けるほかに無い!
奴はそのことを知っていて俺に黙っていた!!
それがオレには許せなかったんだ!」
橘の言葉にシンは力を失う。
その話が事実ならシンは橘を責めることは出来ない。
それに彼がやっていることを咎めることも。
もし、出来るとすれば同じライダーシステムを持つ剣崎だけだ。
だが、彼もその事実にうなだれ塞ぎこんでいる。
「剣崎から聞いたがお前達は新しい仲間を作って戦っているそうだな。
俺は俺のするべきことをさせてもらう。
烏丸を追い、アンデッドを封印する。
それ以外にもう、俺の時間を裂く訳には行かないんでな」
橘はそう告げると去っていった。
誰も彼を止めるものは居なかった。
一緒に戦って欲しい。
そういうのは簡単だが……
それを言い出す権利が誰にもないように感じられた。


「ジュエルシード……あの力さえあれば創造主様を……」
彼らから少し離れたところで一人の女性がほくそ笑む。
創造主の配下であるホムンクルスの一人。
彼女は近くでこの戦いを観察していた。
そして、蛙井が巨大な化け物になり戦う姿を目撃していた。
あの力は創造主の望みを実現するのに役立つ。
実際、蛙井ですら彼らをあそこまで追い詰めたのだ。
あの力さえあれば弊害を排除するなど容易いこと。
彼女はそう考えた。



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