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なのはが魔法の力を身につけた翌日。
「喋るフェレット?」
斗貴子がカズキの話を聞いて問い返す。
「そうそう。そのフェレットがなのはって女の子に魔法の力を上げたんだって」
「……君は夢でも見たのか?」
「いやいや、本当だって。信じられないかもしれないけど……」
「まぁ、確かに魔法……魔術はこの世界に実在する」
「えっ?」
「当然、表ざたになるような存在ではないし、私自身も詳しいわけではない。
ただ、魔術師の魔術はその家系にのみ受け継がれ、軽々しく他者に譲渡できるものでは無いらしい。
故に君の話どおりだとすると私の知っている魔術とはかけ離れていてな」
「なるほど……」
「まぁ、とにかく。会って真偽を確かめれば済む問題だ」
「そうそう、会ってみれば斗貴子さんと言えど信じずにはいられないしね」
二人が話しているとバスが止まる。
そして、ドアが開き乗客が次々に降りて行く。
その中に胸にフェレットを抱いたなのはの姿もあった。



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第四話「黒と白の来訪者」



衛宮邸
「うわぁ……大きなお屋敷ですね」
なのはは案内された家の大きさに驚いている。
何せこの屋敷には本宅の他にも離れがあり、更に広い庭までついている。
ただ、なのはの知り合いにはこれよりも大きな屋敷を持つ人物がいるので
驚いてはいるが好奇心を駆られるほどでは無いようだ。
「オレも最初に来たときは驚いたな。何せ士郎は全くお金持ちに見えなかったし」
「それは少々失礼なのではないか?」
軽く会話をしていると玄関が開く。
「いらっしゃい」
士郎が顔を覗かせあいさつする。
カズキと斗貴子が軽く挨拶を返す中、
なのははキチンとお辞儀をし、挨拶を返した。
その丁寧な仕草に三人は感心していた。
「とりあえず、自己紹介は皆が集まってる居間に行ってからにしよう」
そう告げる士郎に促されなのは達が家の中に足を踏み入れる。
一見、落ち着いているようだがなのはは緊張していた。
見ず知らずの年上の男性の家を訪れるのだ。
それも用向きは昨夜に遭遇したジュエルシードともう一体の化け物について。
既になのは自身はユーノとの念話で魔法やジュエルシードについての概要は聞かされている。
ユーノ自身はなのはにこれ以上、協力してもらう気は無かったようだが
なのはが強引に手伝うことにした。
困っている人を放っておけない正義感から来る決断であり、
同じように自分達に手を差し伸べてくれたカズキの提案も受けるということで合意してある。
ただでさえ、異世界の魔法という不可思議なモノに出会った上に
それとは違う何かを持った人に助けられたのだ。
なのはの信じていた常識は急激に崩れている。
だが、それに混乱するではなく飲み込み理解しようとするところが彼女の強みでもあった。

なのはは士郎に案内され、居間に通される。
そこには3人の男性が座ってこちらを見ていた。
歳も背格好もまばらな三人。
一人にいたっては日本人ですらなさそうだった。
彼らの共通点など男性というぐらいだろう。
「会わせたい人がいるって小さな女の子じゃないか。この子が一体、どうしったって言うんだ?」
シンが士郎を睨むようにして訪ねる。
「そう言ったのはカズキだよ。オレは伝言を頼まれただけ。
カズキが言うには魔法少女だとか言ってたけど」
士郎の言葉にシンが怪訝そうな表情を浮かべ、なのはを見る。
その眼差しは疑っているようだった。
いきなり、この子が魔法少女ですと言っても信じられるわけが無い。
「確かに錬金術だとか変なの多かったけど。魔法なんて信じられるわけ無いだろ」
彼にとって常識は何度か覆されているがだからといって何でも信じられるという訳ではない。
ただでさえ、モビルスーツなどという最新鋭の科学を使っているのだから。
「本当だって、昨日の夜。ホムンクルスじゃない奇妙な化け物を封印したんだ」
カズキがそういうが皆が皆して微妙な表情を浮かべていた。
全く信じないわけではないが決定打が無い。
「彼の言っていることは本当です」
それを打破するようになのはに抱かれていたユーノが言葉を発する。
その事態に一同は騒然とした。
なのははその様子にただ、苦笑いを浮かべるだけだった。

「えっと……はじめまして。高町なのはです。
それで、この子がユーノ君。」
改めてなのはがお辞儀をする。
全員の視線がなのはに集中していた。
カズキや剣崎の視線はやわらかいものだったが
斗貴子の視線は鋭くあまり居心地が良いものではなかった。
シンはさっきとは打って変わって感心しているような視線を向けている。
「ユーノ・スクライアです。ジュエルシードについて説明はしたいと思いますが
正直、余り僕は皆さんを巻き込みたいとは思いません。
それは元々の原因は僕にある事とジュエルシード自体の力は強大で、
普通の人たちの手には余るものだからです」
ユーノの言葉にシンや剣崎の表情も険しくなる。
特に原因がユーノにあるという言葉に反応したようだ。
「なのはは魔法の素質がありました。僕なんかよりも全然。
だから、僕が魔法を授けることで戦うことが出来ます。
でも、魔法が無い人では戦うことは難しいと思います」
ユーノの言葉にカズキが口を開き反論する。
「その点なら大丈夫。ここに居る人たちは全員、オレよりも強いから」
その言葉にユーノは驚く。
「貴方の力は昨夜、見せてもらいましたが……
この世界にも魔法があると言う事ですか?」
「魔法とは違うんだけど……それについては後で話すよ。
それよりもそのジュエルシードについて教えて欲しいんだ。
大丈夫、必ず力になれるから」
「……いえ、それでも。皆さんを巻き込むわけには……」
ユーノはそれでも話そうとしない。
「ユーノくん!さっきは協力してもらうって納得したよね」
なのはがここに来て強力を拒絶するユーノに声をかける。
「……ごめん」
ユーノは小さな謝罪を呟き黙ってしまう。
重い空気が部屋を満たしていく。
カズキとなのはは困ったようにユーノを見る。
シンや士郎は押し黙ってその様子を見守っていた。
「そのジュエルシードって言うのは人を襲うのか?」
傍観していた剣崎が話を切り出した。
「……はい」
ユーノが頷く。
「なら、それはもう人事じゃない。人間を襲うものは全部、敵だ。
それがアンデッドやホムンクルスだろうと何も変わらない。
オレはそんな奴らから人を救う為に仮面ライダーになったんだから」
剣崎の言葉になのはが驚いて彼の顔を見る。
仮面ライダーという名の都市伝説。
この街に住んでいて知らぬものはいないといっても過言ではない。
「それにキミ達二人だけで戦っていけるのか?
もし、そうだとしても対処が遅くなって犠牲が増えてしまうかも知れない。
二人なら間に合わなかったことも、三人なら間に合うかも知れない。
協力し合える仲間がいるのにその手を取らないのは間違ってる」
剣崎の言葉。
それは彼が一度、仲間を全て失い。
残された仲間達で手を取り合い、戦っているから言える言葉だ。
BOARDが有った頃に比べて現状は劣悪と言っても良い。
サポート体制が無い現状、戦闘以外も全て自分達でこなさなければならない。
今はまだ、アンデッドは出現していないが苦戦は必須だろう。
剣崎だけでは勝てるか分からない。
だけど、シンや翔、カズキに士郎たちが協力し合えば倒せるかもしれない。
「実は……俺達が一方的にキミ達に協力するだけじゃないんだ。
この街にはそのジュエルシード以外にも人を襲う奴らが居る。
俺達はそいつらと戦っている。
キミ達さえよければそいつらとの戦いに協力してくれないか」
剣崎の言葉になのはとユーノは息を呑む。
彼らが何かと戦っているのは言葉の端々から分かっていた。
そして、それらがジュエルシードのように危険なものであることも。
これは命の危険が伴う戦いへの誘いである。
小学生の少女に対して暴挙もいいところだ。
事実、士郎は驚いて立ち上がった。
「何もこっちの戦いに巻き込む必要も……」
「いえ、私達も一緒に戦います。皆さんが何と戦っているのか分かりませんけど。
それで誰かが困っていて、私にも止められる力があるなら協力させてください」
士郎の言葉を遮り、なのはが告げる。
その瞳は真っ直ぐに剣崎を見つめていた。
「ユーノもそれでいいか?俺達はジュエルシード探しを手伝う。
その代わりにキミ達にもアンデッドとホムンクルス退治を手伝ってもらう。
これなら一方的に頼るだけの関係じゃない。
仲間として一緒に戦っていけるんじゃないかな?」
剣崎は視線を落とし、なのはの膝上に居るユーノを見つめる。
「……分かりました。ジュエルシードについてお話します」
ユーノは観念し、事の次第を皆に説明し始める。
「僕はこの世界とは別の世界で遺跡の発掘調査をする部族に属していました。
とある遺跡の発掘していたところ、ジュエルシードを発見しました。
詳しく調べる為に輸送していた最中に事故が発生し、ジュエルシードが飛び散ってしまったんです。
そして、それらはこの街の周辺に降り注ぎました。
ジュエルシードは願いを適える性質を持っています。
ですが、それは軽はずみなことでも暴走してしまうほどに危ういもので
願いを適える存在を求めて暴れまわったり、生物を取り込んだりしてしまう危険なものです。
一旦、暴走してしまったジュエルシードは封印しない限り止ることはありません。
そして、封印するには魔法を使えるものでないと無理なんです」
ユーノの説明に皆、思い思いに考えを巡らせる。
「それじゃ、俺達がジュエルシードと遭遇しても足止めぐらいしか出来ないのか?」
逸早くカズキが問いかける。
「そうですね。ですが、弱らせてもらえればそれだけ封印は容易くなります。
それに暴走と言っても実際にどうなるかは不明ですから」
「人間を襲ったりするだけじゃないのか?」
「それもあります。ですが、元は願いを適えるものなので。
もし、誰かが接触して発動したのならその願いにそって暴走する事になると思います。
誰がどんな望みを持っているか分かりませんし」
カズキはなるほどと頷き納得する。
「……願いを適える……か。もし、それがホムンクルスの創造主に渡ると危険だな」
斗貴子の呟きにカズキが反応する。
「でも、偶然、ホムンクルスの創造主が拾うことなんて確率的にそんなに高くないんじゃ……?」
「確かにそうだな。だが、キミは昨日、そのジュエルシードの封印後にホムンクルスに襲われたのだろう?」
「うん、蛙っぽいのに」
「君の話した様子からそれらがホムンクルスの本体とは思えない。
恐らくはジュエルシードについて存在ぐらいは察知されたはずだ」
「それじゃ、ホムンクルスもジュエルシードを狙ってくるって事?」
「いや、そうとも限らない……奴らにとっては正体不明な存在であるはずだ。
普通なら率先して関わろうとはしないはずだ。
ただ、錬金術師なんてのは基本的に変人だからな。
興味を抱かないとは限らない。
特に異世界の魔法ともなれば格好の興味の対象になるかも知れないな」
斗貴子は視線をなのはに移す。
その瞳になのはは戸惑い気味に「えっ」と呟いた。
「そうか。ジュエルシードだけじゃなくて、なのはちゃんの魔法も目撃しているのか」
「好奇の対象とするか脅威の対象とするか、どちらかは分からないが何らかのアクションを起こしてくる可能性はあるな」
カズキと斗貴子、二人に真剣な眼差しで見つめられなのはは困惑する。
「それじゃ……そのホムンクルスって言うのに私が狙われてるって事ですか?」
「可能性はある」
「ところでホムンクルスって一体……?」
「キミが昨日、遭遇した化け物の総称だ。実際には違う意味もあるが気にすることも無いだろう。
奴らは人間に成りすまし、人間社会にまぎれて人を襲い、喰らう化け物だ。
実際、カズキの学校の先生に化けて潜り込んでいた」
「それじゃ、襲われるまで判断する方法はないんですか?」
「ホムンクルスは心臓の位置に印章と呼ばれる模様が出る。
これだけが正確に判別する方法だ。
親しい間柄なら確認しやすいが他人では問題が生じるな。
これを大っぴらに出して行動するとも考えられない。
事実上、その他大勢から正確に見つけ出すことは不可能だ」
「……家族や友達がそのホムンクルスになっていることもありえるんですか?」
「無論だな。可能性としてはありえる」
「そうなってしまった場合、元に戻せるんですか?」
「無理だ。ホムンクルスになった人間を救う方法は無い。
ホムンクルスになった瞬間、その者は既に死んでいる。
後に残っているのは記憶をもっていようがただの化け物だ。
例え、知人だろうとも殺すしかない」
斗貴子の言葉になのはは息を呑む。
その視線は恐ろしく冷たく、それで居て怒りに燃えていた。
「斗貴子さん。そんな脅すように言わなくても……」
見かねたカズキがフォローに入るがそんな彼も斗貴子はにらみつけた。
その形相にカズキは固まってしまう。
しかし、その言葉で冷静になったのか斗貴子は息を落ち着け、再びなのはを見た。
「……脅かしてすまなかったな。ただ、可能性としてありえるという事だけは覚えていて欲しい。
もちろん、私達がこれ以上、被害を出さない為に尽力する。
創造主さえ倒してしまえばそれ以上、被害が増えることは無いからな」
「はい……でも、この街にそんなのが居たなんて……」
なのはが顔を伏せ呟く。
「俺達が戦っている敵はホムンクルスだけじゃない」
シンが突然に話を切り出す。
その言葉に一同が彼に視線を向けた。
「アンデッドって言う最新兵器でも勝てるかどうか分からない強敵もいるんだ。
子供が出しゃばったってやられるのがオチだぞ」
シンは小ばかにしたような態度でなのはに告げる。
その言葉になのははむっとし頬を膨らませる。
「シン……何もそんな言い方は無いじゃないか」
そんなシンに剣崎がたしなめるように告げる。
「そうは言いますけどね。魔法だか何だか知らないけど結局は子供じゃないですか。
役に立つなんて思えませんけどね」
「シン!」
剣崎がシンの胸倉を掴み持ち上げる。
「……はいはい、分かりましたよ。
ですけど、オレは子供と一緒に戦うなんて反対ですからね!」
シンは強引に剣崎の腕を振り払うと部屋を出て行った。
後には重い沈黙だけが残る。
「……ごめん。なのはちゃん」
いたたまれなくなりカズキがなのはに謝る。
「いえ……確かに命をかけて戦ってるのに私みたいな子供がいちゃ迷惑に思うって言うのは分かりますから」
なのはは笑顔を見せるが力が無い。
「キミは歳に似合わず大人だな。それに比べてあいつは……アレでザフトのエリートだというのだから
彼らが戦争から人材が回復していないという話は本当のようだな」
斗貴子が重い溜息を吐く。
思慮の欠片もない感情だけの吐露。
兵士というにはあまりに熟達が足りなさ過ぎる。
それはこれからの戦いで命を預ける相手にしては致命的だ。
「でも、シンの言うことも分かるよ」
士郎が呟くと皆が驚いて彼を見る。
「だって、なのはちゃんは女の子でしかも子供じゃないか。
出来れば戦わせたくなんか無いさ」
士郎の言葉に斗貴子が再び溜息を吐いた。
カズキと剣崎も苦笑いを浮かべている。
その様子が分からず士郎が周囲を見渡していた。
「多分、シンはそういうつもりで言ったわけじゃないと思うよ。
そういう理由が全く無いって訳じゃないと思うけど」
「えっ?」
カズキの言葉に士郎は本気で分からないという様子で呟いた。

結局、シンは部屋に引きこもってしまった。
なのはが塾があると言う事なので話し合いは切り上げ、
カズキと斗貴子で彼女を送っていく事になる。
「今日はごめん」
帰り道でカズキが突然、切り出す。
「こっちから協力するって言い出しておいて。
結局、意思の統率が出来てなかった」
カズキは両手を合わせ拝むように頭を下げる。
「いえ、そんな……」
「確かにキミが悪いな」
戸惑うなのはの横から斗貴子が口を挟む。
「私達はいわば寄り合い所帯なんだ。
彼らの任務はアンデッドの封印で私達を手伝っているのは善意に過ぎん。
それを全く確認も取らずに更に違う用件を手伝えというのは一蹴されてもおかしくないことだぞ。
確かにシンの言い分は乱暴だが要点だけで言えば納得できないことも無い」
厳しい指摘にカズキはしおしおと項垂れる。
彼らがこの話に無条件で承諾してくれるとカズキは思っていた。
困っている人がいるのだから助けるのは当然だと。
確かに彼らは戦うことは承諾してくれた。
だが、なのはが子供だからという理由で共闘を拒むなどとは考えてもいなかった。
「おそらく、彼はなのはの魔法を知らないから拒んでいるのでしょう。
一度、その力を見せれば納得してくれると思います」
ユーノが見かねカズキに対し提案する。
「確かにどれほど力を持っているかは私も知らないからな。
それ如何では態度も変わるかも知れない。
言ってしまえばカズキもただの学生だ。
訓練を積んだ彼から見ればただの子供に映る。
それでも、一緒に戦うことを納得しているのはカズキがその力を示したからかも知れない」
ユーノの提案に斗貴子も乗る。
一緒に戦うのにその力を把握していないなどありえないことだ。
今後のことも含めてそれは当然とも言えた。
「なるほど!確かにその通りだ」
カズキはぱっと明るい笑顔に変わり喜んでいる。
本気でその考えに至っていなかったようだ。
その切り替えの早さになのははぽかんとしている。
「全く……そういう事ですまないが早めにキミの魔法とやらを皆に見せて欲しい」
「あ、はい。でも、私も昨日、初めて使ったので良く分からないのですけど」
「と、そういえばそうだったな。まぁ、気楽にやってくれて構わない。
とりあえず、戦えると証明する。それだけで良いんだ」
「はい!」
なのはは斗貴子の言葉に笑顔で答える。
その様子をカズキは意外そうな眼で見ていた。
「へぇ、斗貴子さんって意外と面倒見がいいんだね」
「意外……キミは私をどんな風に見ていたんだ」
「どんな風って、誰に対してでも厳しい人なのかと」
「鬼じゃあるまいし、誰に対してでも棘を持って当たる訳がないだろう」
他愛も無い会話をしつつ、彼らは小さな森を通る。
なのはがユーノを発見した場所。
その時も今のように太陽が落ちようとしていた。

風が吹き、木々がざわめく。
人の声はカズキたち以外、聞こえない。
まるで閉ざされたかのように風の音が強く響いた。
なんてこと無い街の一角。
その闇で恐るべき魔物が潜むと言えどもその表面は平和に満ちている。
だが、怪物はその偽りの平和を砕き、突如として出現する。
最初に殺気に気づいたのは斗貴子だった。
咄嗟にカズキとなのはを突き飛ばす。
何も感づいていない二人は突然の出来事に倒れる体勢で彼女の方向を向いた。
そして、刹那にて何かが伸び、それが斗貴子の首を掴んだ。
「斗貴子さん!」
カズキは踏みとどまり助けようと手を伸ばす。
だが、それよりも早く銀色の閃光が奔り、斗貴子の首を拘束するモノを切り裂いた。
彼女の太ももから伸びる四つの機械腕。
精確にして高速、鋭利な刃を持つ、断罪の武装。
ホムンクルスを八つ裂きにする。
―――バルキリースカート―――
それは彼女の深層に眠る残虐性と冷酷性を表す。
「気をつけろ、敵だ!」
斗貴子が叫ぶ。
その正体は分からない。
何故なら、この街で人を襲う怪物は三通り存在するからだ。
アンデッド、ホムンクルス、ジュエルシード。
その内のどれが襲い掛かってきたかは分からない。
だが、その中でアンデッド以外なら対処のしようがある。
ホムンクルスなら武装錬金で撃破すればいい。
ジュエルシードならなのはが封印すればいい。
だが、もしアンデッドだというのならば……
最悪だ。
仮面ライダーが居なければ不死身の生物を封じることは出来ない。
どんなに戦おうとも倒れずに襲い掛かる。
勝ち目の無い戦いに突入しなければならないのだから。
「なのは!変身して!」
ユーノが叫ぶ。
だが、なのはは困惑した。
「えっと……どうすれば良いんだっけ?」
「起動の呪文を唱えるんだ」
「えぇ!あんな長いの覚えてないよ!」
その二人のやり取りに斗貴子とカズキは戦慄する。
詳しい内容は分からないがその様子から魔法を使うことが出来ない。
もし、そんな状況で狙われれば。
不安が脳裏をよぎる。
だが、それと同時にその不安は実行されていた。
伸びる二条の触手。
植物のツルのようなものがなのはに向けて放たれていた。
その速度にカズキは愚か、斗貴子も反応できない。
見えた瞬間にそれはなのはに届いていた。

なのはは眼を見開く。
全ての現象が彼女の眼にスローモーションのように映っていた。
だが、頭で分かっていても体は動かない。
刻一刻と迫る、ツルは間違いなく自分自身を狙っていると彼女は分かっていた。
かわさなければ死ぬ。
それでもその体は一向に反応してくれない。
斗貴子とカズキが間に入ろうと駆けようとしているが間に合いそうにも無かった。
ユーノもただ、迫り来るそれに視線を集中させている。
何も阻むものは無い。
確実な死が迫っていた。
だが、それを許諾することなど出来はしない。
死にたくない
なのはの声にならない叫びが紅い宝玉を目覚めさせる。
「StundByReady,SetUp」
紅き宝玉が光り輝き、なのはの体を包み込む。
魔法を操る杖と体を護る強き衣が一瞬で形成された。
そして、同時に魔法の力場が彼女の目の前に展開され、ツルを遮った。
「きゃあっ!」
衝撃は完全に防ぎきれずなのはの体は吹き飛ばされる。
だが、その五体は繋がっており。
傷一つ無かった。
「なっ……姿が変わった!?」
斗貴子は刹那に変わったなのはの姿に驚く。
「あ……危なかったぁ……」
なのはは杖を使い体を立ち上がらせる。
心臓は警鐘を討つが如く鳴り響き、全身から冷たい汗が吹き出ていた。
「……呪文も無しにレイジングハートを起動するなんて……一体、どれほどの素質を持っているんだ」
ユーノはその自体にただただ、唖然とするばかりだった。
「とりあえず、これで戦えそうだな……」
斗貴子は視線を再び、攻撃の来た方向へと移す。
その先には奇妙な人型の怪物が立ちふさがっていた。
特徴を現すならそれはツルを体に纏っていた。
その全身は均整が取れた肉体をしており、完成された美しさを持っている。
斗貴子はそれがホムンクルスでないことを悟った。
人がこのような完成された存在を生み出せるはずがないと彼女の頭が勝手に肯定する。
「ホムンクルスじゃない……」
「ジュエルシードの反応もありません……」
斗貴子とユーノの言葉から導き出されるのは唯一つだけだ。
最悪の解答。
目の前に存在するものは遥か太古に種族の繁栄を賭け、戦いを繰り広げた神話の存在。
永遠の命を持つ始祖生物。
この世に解き放たれてしまった最悪の脅威。
アンデッド……
それは威風も高らかにこちらを見つめる。
その視線から感じるのは殺意。
今、目の前に存在する生命を完全に否定している。
「カズキ!剣崎さんに連絡を!」
斗貴子が叫ぶ。
仮面ライダーである彼が居なければもし、倒したところで何の意味も無い。
勝利条件は素早く満たさなければならない。
「分かった!」
カズキが携帯電話を取り出す。
「なのは、キミは身を護っていろ。奴は私が抑える!」
斗貴子はアンデッドに向かって駆け出した。
バルキリースカートのアームを地面に突き刺し、加速する。
人間の脚力を遥かに超える力に押し出され、斗貴子の体は一瞬にしてアンデッドを間合いに収める。
そして、四本の刃をアンデッドの腹部目掛けて突き出す。
だが
「な……刺さらない!?」
バルキリースカートの刃は数センチ程しか刺さっていない。
驚愕する斗貴子に対し、アンデッドは無造作に腕を振るい、彼女を跳ね除ける。
斗貴子はその勢いに乗り、距離を取った。
そして、注意深く、アンデッドの様子を探る。
先ほどの傷からは血も流れていない。
バルキリースカートは鉄も寸断できる切れ味を誇る。
だが、アンデッドを相手に全くと言っていいほどにそれは通用していなかった。
「これがアンデッドか……レーザー刀でも食い込ませるしか出来ないと言っていたが……」
事実上、バルキリースカートではダメージを与えるのは難しいだろう。
とは言え、バルキリースカートは武装錬金の中でも威力では下位に相当する。
それが通じないのはある意味、想定内ではあった。
「斗貴子さん!」
カズキが斗貴子に並び立つ。
その手には巨大な突撃槍が握られていた。
カズキの武装錬金
その大きさもさることながら、物体としての強度もバルキリースカートを圧倒的に上回っている。
まだまだ、カズキ自身が使いこなしては居ないが
こと、威力に関してはバルキリースカート以上のポテンシャルを感じた。
「剣崎さんは?」
「もう、向かってるって」
「そうか……どうやら、私の武装錬金では奴に手傷を負わせるのは難しそうだ」
「それじゃあ……」
「だが、キミの武装錬金ならば通じるかもしれない。
私が隙を作る。キミはタイミングを計って攻撃してくれ」
「……分かった」
カズキは緊張で咽が張り付く。
ごくりと唾を飲み込み頷いた。
その様子を傍観していたアンデッドはゆっくりと二人に近づく。
それに対し斗貴子が進み出た。
高速でジグザグに移動し、アンデッドの動きを撹乱する。
カズキはそれを見てランスを構えた。
手が汗で滲む。
もし、上手く当てることが出来なければ逆にピンチに晒される。
先ほどの斗貴子のように上手く相手の間合いから出られる自信は彼には無かった。
目前では斗貴子が次第に速度を上げて行く。
アンデッドはそれについていけてないように見えた。
だが、踏み出すタイミングが見出せない。
すると、突如、アンデッドが腕のツルを伸ばした。
それは素早く、精確に斗貴子のバルキリースカートを捕らえる。
「なっ!?見切られた!?」
斗貴子が驚愕に眼を見開く。
そして、その体がアンデッドにより引っ張られた。
高速移動の最中、斗貴子はバルキリースカートの威力で空中をすべるように駆ける。
その状態で捕まれたのだ。
踏ん張ろうにも足は地面には無い。
更にバルキリースカートも封じられていてはその力に逆らいようも無く。
アンデッドの剛力に振り回されるだけだった。
まるで無造作という様子でアンデッドは斗貴子の体を木に叩きつける。
その衝撃は凄まじく、木は衝突部分が砕け、折れ曲がる。
「斗貴子さん!!」
カズキが無造作に斗貴子に向かって駆け出す。
だが、その足にアンデッドのツタが絡まる。
強引に引っ張られるがカズキは咄嗟にランスを地面に突き刺し、耐える。
自身の筋力だけを頼りに綱引きが始まる。
だが、アンデッドの力は凄まじく。
カズキはまるで自分の足が引き裂かれるような痛みに叫びを上げた。
このまま、では遅かれ速かれ、力負けする。
カズキは必死に打開策を考えるも唯一の武器を支えとしている時点で積んでいた。
アンデッド……
それと戦う仮面ライダーはその力を持ってようやく、同じ土俵に立つ。
最新鋭のモビルスーツを持ってしても単独での戦闘は不利となり、
たった一体が暴れまわっただけで組織を壊滅に追い込む脅威の怪物。
その力をカズキは実感していた。
こちらの思惑など全てぶち破る脅威の力。
目の前の存在がまるで巨大な存在のように感じられた。
このまま、死ぬのだろうか。
何も出来ずに……

「ディバインシューター!」
諦めかけた心に不意に光が差し込んだ。
無数の光弾が降り注ぎ、アンデッドの体で爆ぜる。
その衝撃で力が緩み、カズキは力任せに拘束から抜け出した。
「やった!出来た!」
カズキの後ろでなのはが歓喜の声を上げる。
「でも、あまり利いてないみたいだ!」
なのはの肩でユーノがアンデッドの様子を探り叫ぶ。
「だったら、倒れるまで撃ち続けるまで」
なのははそう言うとレイジングハートが輝く。
そして、無数の光の弾が彼女の周囲に出現し、それは弧を描くようにアンデッドに向かっていった。
カズキはその様子に一瞬、気を取られていた。
「カズキさん!今です!」
だが、ユーノの言葉で我に返る。
なのはの光弾では足止めにしかならない。
だが、その隙を突けば。
カズキは地面からランスを引き抜くと構え、一気に走り出す。
「うおおおお!!」
雄たけびを上げ、カズキは全力を込めて地面を蹴り上げる。
それと呼応するようにたなびく飾り布が輝いた。
電光の如く弾け、大気を焦がし、光が爆発する。
「貫け!俺の武装錬金!!」
爆発の如く、飾り布のエネルギーが放射され、カズキの体が加速する。
急加速した突撃槍はなのはのディバインシューターに戸惑う、アンデッドに突き刺さった。
地球上の全ての物質を断つ剣でさえかすり傷しかつける事の出来ないアンデッドの体。
それをカズキの武装錬金は貫き通す!
「やった!」
突撃槍より流れ出る、緑色の血液を目の当たりにしカズキが叫ぶ。
だが、その顔は次の瞬間には絶望に染まった。
アンデッドの手が突撃槍を掴んだのだ。
そして、強引に突き刺さった槍を引き抜く。
胸には大きな穴が開いていた。
こんな傷を負って死なない生物など居ない。
不死生物……
その意味を改めて思い知らされる。
殺すことが出来ないから不死なのだ。
「そんな……」
呆然と呟くカズキ。
アンデッドは掴んだランス毎、その体を投げ飛ばす。
その体は真っ直ぐになのはに向かっていった。
「えっ!」
なのはは驚き、そのまま無意識にプロテクションを発動しようとする。
「ダメだ!」
それに感づいたユーノが咄嗟に叫んだ。
その言葉になのははプロテクションの発動を中止する。
プロテクションで弾いてしまえばカズキに余計なダメージを与えてしまう。
そのまま、なのはがカズキを受け止めようとするも高速で飛んでくる男性の体を支えられるわけも無く。
下敷きにされ潰されてしまった。
「……つっ、ごめん。大丈夫?」
カズキは転がるようになのはの上からどく。
「な、なんとか……」
衝撃はあったもののなのは自体はバリアジャケットのお陰でダメージはなさそうだった。
立ち上がるなのは。
その視線の先には勢い良くこちらにかけてくるアンデッドの姿が映る。
「危ないッ!」
カズキがなのはの前に立ちふさがり、ランスを構える。
アンデッドは構えられたランスの穂先を飛び越え、空中で二人の首、目掛けてツタを飛ばした。
ツタは首に巻きつき、二人の首を締め上げる。
それだけに留まらず、アンデッドは木の枝を飛び越え、ツタを枝にかけた。
そして、二人の体を宙に吊り上げる。
「ぐぅ……」
「あ……」
二人は必死に拘束を解こうとするも完全にしまったツタはびくともしない。
その間にも体は重力に引かれ、ツタが咽に食い込んで行く。
呼吸敵わず、次第に視界が薄れていった。

そして、真っ白になる意識の中、
バイクのエンジン音だけがやけにハッキリと聞こえてきた。

「このぉ!!」
インパルスガンダムがビームサーベルでツタを断ち切る。
解放されたカズキとなのはの体が地面に落ちた。
「ウェーイ!」
ブレイド専用バイクであるブルースペイダーがアンデッドの体を押しつぶす。
「大丈夫か!?二人とも」
見事なひき逃げを決めた剣崎がバイクを止め叫ぶ。
「な、なんとか……」
「あ、危なかった~……」
二人は上半身を起こし、何とか答える。
しかし、ダメージは大きく意識は朦朧としている。
そんな、二人を護るようにその前に立つ姿があった。
「……アンデッド相手に逃げずにここまで戦えるなんてやるじゃん」
その視線は真っ直ぐ、アンデッドに向けたまま。
されど、二人に対し賞賛の言葉を返す。
「アスカさん……」
なのはは初めて見るモビルスーツを見上げながら呟く。
シンの姿はインパルスガンダムを纏い、見えない。
だが、その声が彼の者なのは確かだった。
「後は俺達に任せろ……アンデッドを封印するのは!」
インパルスがビームサーベルを構える。
「俺達の仕事だ!」
ブレイドがブレイラウザーを構え、アンデッドに向かい突撃する。
シンと剣崎、二人を相手にプラントアンデッドは翻弄される。
ただでさえ、カズキとなのはから受けたダメージがある上に、
今日の二人の調子は絶好調だった。
仲間を傷つけられた怒り。
それが彼らの力を増大させる。
二つの剣の檻に閉じ込められ、プラントアンデッドは次第に追い詰められていった。
これならいける。
二人は勝利を確信した。
「剣崎さん!」
「あぁ!」
インパルスがシールドでアンデッドを吹き飛ばす。
ブレイドはカードホルダーを展開し、その中からスペードの5を引き抜いた。
そのカードに封印されているのはローカストアンデッド。
BOARDを壊滅させた憎むべきアンデッド。
そのアンデッドが持つ力はキック。
ラウズすることによりライダーのキック力を増大させる。
これにより繰り出されるローカストキックはアンデッドを封印状態に追い込むには適していた。
だが、突如、突風が吹きすさびブレイドの指からカードが吹き飛ぶ。
「なっ!」
驚きカードに手を伸ばすブレイド。
その背後から黒い何かが高速で接近した。
そして、ブレイドの背後を斬り付ける。
「うわっ!」
その衝撃にブレイドは倒れ、転がる。
「なんなんだ!あんたは!」
シンは突然の乱入者に対し、叫ぶ。
そこには黒い怪人が立っていた。
その手には弓のような刃が握られ、眼は赤くハートのような形をしている。
その姿はどこか仮面ライダーに似ていた。
「……カリス」
彼はそう呟くと一瞬にしてインパルスの懐に飛び込んだ。
シンはそれに全く反応できず声を失う。
「お前らのような存在は必要無い」
インパルスが突然、宙に浮かび上がる。
そして、そのまま地面に落下した。
「アンデッドはオレが封印する」
そして、剣崎とシン、どちらの存在も無視し、プラントアンデッドに向かう。
手負いのアンデッドを蹂躙するように徹底的に斬り付け、叩き伏せる。
それは一瞬の出来事だった。
例え息も絶え絶えと言えども、プラントアンデッドが何の反応も示す間もなく、倒しきった。
地に伏したプラントアンデッドのバックルが開く。
そして、その体に向かってカリスはカードを投げつけた。
突き刺さったカードにプラントアンデッドの体が吸い込まれ封印される。
「アンデッドを……封印した……」
剣崎が立ち上がり、その衝撃の事態に戸惑う。
アンデッドを封印できるのは仮面ライダーだけだ。
だが、剣崎は目の前の存在を知らない。
「……お前も仮面ライダーなのか?」
だが、自分が知らないだけかも知れない。
そう思い、剣崎は不用意にカリスに近づいた。
だが、カリスはそんなブレイドの顔に拳を叩き込む。
「オレは仮面ライダーではない」
倒れるブレイドを見下ろし冷たくカリスが言い放つ。

「あら、良いじゃない」
突然、その場に更なる介入者の声が響く。
道の向こうから白い髪と赤い瞳をした小さな少女が歩いてきた。
「仮面ライダーカリス……カッコイイと思うけど」
少女はカリスに向かってニッコリと微笑む。
「冗談は止せ。こんな奴らと一緒にされては敵わない」
カリスはゆっくりと少女のほうへと歩み寄る。
「女の子……?」
なのはは自分と同じぐらいの少女の登場に戸惑い気味に呟いた。
「あっ!」
少女はなのはの方を向いて声を上げる。
「そこのフェレットは貴方が助けたの?」
少女がなのはに問いかける。
「えっ、う、うん。そうだけど……」
なのはは突然の事に恐る恐る頷く。
「そっかー、良かった。少し、心配してたんだ。
こっちには来たばかりだから良く場所が分からなくて探しに来れなかったんだけど。
他の気づいた人が居て良かった」
「えっ!?」
その言葉になのはが驚く。
「……もしかして、貴方も僕の声が聞こえていたんですか?」
ユーノが恐る恐る少女に尋ねる。
「えぇ、随分と必死に助けを求めてたから。助けて上げたかったけど。ごめんね」
少女は申し訳無さそうに答える。
「どういうことだ?」
カズキが事態を飲み込めずユーノに尋ねる。
「えっと、僕はなのはに助けて貰いましたけど実はとりあえず、誰でもいいから声が聞こえる人に助けを求めていたんです。
僕の念話に答えられるなら魔法の素質があるという事ですから」
「なるほど……それじゃ、この子もなのはみたいに魔法が使えるって事?」
「なのは程使いこなせるかは分かりませんけど。素質はあるはずです」
カズキが納得したように頷く。
「ならさ、二人にも手伝ってもらおうよ。アンデッドが封印できる人と魔法の素質があるなんて凄い偶然じゃないか」
「カズキ!」
カズキの言葉をシンが遮る。
「あいつはいきなりこっちを攻撃してきたんだぞ。そんな奴ら信用できるもんか!」
シンが怒気を含んだ声で叫ぶ。
「ふん、元より協力する気など俺には無い」
その言葉にカリスが答える。
「ごめんね。私も貴方達と一緒に行動するつもりは無いんだ」
少女も続けて答えた。
「そんな。貴方達もアンデッドを封印しているんですよね。
だったら、一緒に戦った方が……」
なのはもカズキの意見に賛同し、声をかける。
「アンデッドを封印するのはオレの使命だ。
仮面ライダーなど邪魔でしかない。
二度と戦いの場に出てくるな」
カリスがブレイドを睨み、告げる。
「何だと!」
剣崎がその言葉に反応して叫ぶ。
しかし、カリスはそれを無視し、背中を向けた。
すると、黒いバイクが一台、無人で彼らの元へとやってくる。
そして、その上に跨った。
「まぁ、そういう事だから。カリスは強いから言うことは聞いた方が良いよ」
少女もそう告げるとカリスの後ろに乗る。
「責めて、名前だけでも教えてくれないかな?」
なのはが少女に尋ねる。
少女は少し考えると口を開いた。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。イリヤでいいわ」
「私は高町なのは」
「なのはね。もし、しばらくして体の何処かに変な痣が出来ても無視した方が良いわ。
それで時代錯誤な奇妙な人が現れたその人の言うことは断りなさい。
その方が貴方の為よ」
「えっ?」
なのははイリヤの意味不明な言葉に?マークを浮かべる。
「それから、蝶々の仮面なんて趣味悪いのつけてる変質者が近くにいるから気をつけたほうが良いわよ。錬金の戦士さん」
今度はカズキの方を向いて告げる。
「蝶々の仮面……?」
カズキも意味が分からず混乱するばかりだ。
「それじゃあね。出来れば、もう出会わないことを」
イリヤが最後にそう告げるとカリスのバイクが走り出した。
そして、風のように去っていく。
「……カリスにイリヤか……何者なんだあいつら」
剣崎が変身を解いて呟いた。
「敵ですよ。今度、邪魔してくるようならアンデッドと一緒に倒してやる」
怒りも収まらないようでシンは拳で手を叩く。
「ただ、彼女は気になる事を言い残したな」
斗貴子が呟く。
「気になる事……って、斗貴子さん!大丈夫だったの!?」
カズキは平然と会話に加わっている斗貴子に驚き尋ねた。
「大丈夫だったの?じゃない!キミは完全に私のことを忘れていただろ!」
「いや……それは必死だったから……」
「全く……彼女はキミの事を錬金の戦士と呼んだ。つまり、錬金術に関してそれなりの知識を持っていると言うことだ。
そんな彼女がこの街でホムンクルスの事件が起こってることを知らないとも思えない。
そして、蝶々仮面の変質者が近くに居ると言った」
斗貴子がイリヤが言い残した言葉から考える。
そんな、斗貴子の視線の先に何かが映った。
それは奇妙な虫のような物体であり、彼女にはそれが何であるか分かった。
ホムンクルス幼生体。
ホムンクルスの元とも言うべき存在。
これを人間に寄生させることでホムンクルスが完成する。
それが今まさになのはの頭上に降り立とうとしていた。
気づいた瞬間、斗貴子のバルキリースカートが幼生体目掛けて飛び出していた。
「えええッ!!」
なのはは自分の頭上に突き出された刃に眼を丸くして叫ぶ。
「津村さん!一体、何を!?」
ユーノが抗議の声を上げる。
「ホムンクルス幼生体だ!」
「幼生体……なんだそりゃ?」
「言葉通りだ。それが人間に取り付くことでホムンクルスが完成する」
「まさかそれが!?」
「あぁ、なのはに取り付こうとしていた。
どうにか弾くことは出来たが、完全に潰せていない。
気をつけろ」
斗貴子の言葉に全員は周囲を警戒する。
「私を狙ってきたって事ですか」
「恐らくな。キミの魔法について興味が湧いたんだろう。
ホムンクルスになれば創造主の命令を聞くようになる」
斗貴子の言葉になのはは身震いする。
彼女が気づかなければ今頃はそのホムンクルスになっていたかも知れないのだ。
「頭上から来たってことは……!」
シンは何かに感づくとインパルスガンダムをコールする。
そして、一気に上空に飛び立った。
「そうか、創造主は上空から」
カズキが飛び立つシンを見上げ叫ぶ。
その先には一つの鳥のようなシルエットが滞空していた。

「モビルスーツか」
カズキたちの遥か上空。
そこに巨大な鳥の上に立つ、蝶々仮面をつけた青年が居た。
彼は下から迫り来る、インパルスをみて呟く。
「お前がぁッ!」
インパルスは敵を捉えるとビームライフルの引き金を引いた。
ビームの帯が巨大な鳥に向かうがそれを高速で回避する。
「かわしたッ!?」
「日本の領空内で随分と物騒なものを振り回すな。
あんなものが当たったら人間なんて消えてなくなるぞ」
蝶々仮面の青年はそういうが恐れている様子は一切無い。
むしろ、愉快そうですらあった。
「お前が創造主か?」
「先に攻撃をしておいて今更、確認か?
殺すなら殺すでキチンと決めておいたほうがいいと思うけどね」
見下すように告げる。
その言葉にシンは即座にビームライフルを撃った。
しかし、それも巨大な鳥は回避する。
「この距離でも外すとはコーディネイターというのも意外と対した事がないんだな」
「なっ!」
シンは挑発された怒りよりもこの距離で外したことに驚いた。
ビームの速度はほぼ光速だ。
狙いさえ精確ならほぼ、確実に当たる。
ただ、撃つよりも先に標的が動けば別だ。
居ない場所に撃ったところで当たる筈が無い。
ただ、距離さえ近くなれば命中はさせやすくなる。
だというのに、それでも回避して見せたのは彼の乗るホムンクルスの能力がずば抜けているということだ。
「異世界の魔法とやらが手に入らなかったのは残念だが、これ以上は危険だな。
それじゃ、失礼させて貰うよ」
「待て!!」
シンはその後を追おうと接近する。
だが、瞬間、ホムンクルスから延びた腕がインパルスの翼を叩き追った。
「なっ!?」
インパルスのバックパックもVPS装甲で出来ている。
単純な物理攻撃では破壊は困難なはずだ。
だが、敵はそれを容易くやってのけた。
それと同時に推力の落ちたインパルスは地上へと落下していく。
「では、さらばだ」
あざ笑うように創造主は告げるとホムンクルスは高速で去っていった。
シンはそれをただ、見送ることしか出来なかった。

シンが再び、皆の下に戻ると全員が暗い顔を浮かべていた。
「すまない。逃げられた」
シンはインパルスを解除する。
「そうか、仕方ない。それに余り深追いをするな。
創造主がどれだけのホムンクルスを抱えているか分からないんだぞ」
「分かってるさ……」
シンは目の当たりにしたあの鳥のホムンクルスを思い浮かべる。
アレに一対一で勝てるのだろうか。
アンデッドに比べホムンクルスは弱いと判断していた。
モビルスーツの性能ならホムンクルスを撃破するのに問題ないと。
だが、その認識をあの鳥のホムンクルスは完全に打ち砕いた。
「それよりもどうしたんだ?」
シンが今にも泣き出しそうななのはの様子を見て尋ねる。
「それが……津村さんが私を庇ってホムンクルスに……」
なのはの言葉にシンは驚き斗貴子の方をみる。
「安心しろ、まだホムンクルスになった訳じゃない」
「まだって……」
「脳に直接、取り付かれるのだけは避けられた」
そう言って、斗貴子は抑えていたお腹の手をどかす。
そこには斗貴子の体に食い込んだ幼生体の姿があった。
「今は体の中を進んでいる。脳に到達するまではしばらくかかるだろう」
「どれくらいなんだ?」
「詳しい日数は分からないが……あまり、時間が無いのだけは確かだな」
「……それって治るのか?」
「恐らく創造主が解毒剤を持っているはずだ。
錬金術師は事故で寄生された時の対策用に必ず常備しているはずだ」
「つまり、創造主を倒すしかないってことか」
その言葉にシンは先ほど、創造主を殺せなかったことに安心した。
あそこで殺してしまえば創造主のアジトが分からなくなり、解毒剤を手に入れることも不可能になっていただろう。
「創造主は必ず俺たちが捕まえてみせる。
だから、安心してくれ斗貴子さん」
「あぁ、アンデッドも放っては置けないけど、結局、後手に廻るしかないんだ。
だったら、優先して創造主を探そう」
カズキと剣崎が斗貴子を励ます。
「私も、どれだけお手伝いできるか分かりませんけど、精一杯がんばります!」
責任を感じているなのはは健気に宣言する。
「あまり、気負うな。これだけ協力してくれる仲間がいるんだ。問題ないさ」
斗貴子はなのはの頭を撫でて慰める。
そして、シンの方を向いた。
「シン・アスカ。キミも手伝ってくれるか?」
「当たり前だろ。人を化け物にして楽しんでるような腐った奴を放って置けるかよ」
「それでは、皆を仲間として認めて行動してくれるんだな?」
「……アンデッド相手にアレだけ戦えたんだ。認めるしかないだろ。
オレは橘さんと剣崎さんの援護もあったのに最初は簡単にやられちゃったんだから」
シンは恥ずかしそうに告げる。
「アスカさん……」
「でも、足を引っ張るようだったら直ぐに止めて貰うからな」
シンは顔を紅くし、そっぽを向く。
その様子に剣崎や斗貴子も笑みを零した。



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