一覧へ
夜遅く。
研究所跡地でヒーローと少年が出会いを果たした後。
彼らとは違う場所で一つの事件が幕を開けようとしていた。
森の中で少年が紅い宝玉を持ちて戦っている。
相手は黒き怪物。
その姿は特定できず、猛然と彼に襲い掛かる。
既に少年の様相は慢心相違。
それでも果敢に迫り来る怪物に向かう。
手にした宝玉を翳し、呪文を唱えた。
宝玉から光が放たれ、魔法陣を空中に描いていく。
「ジュエルシード封印!」
呪文の完成。
そこに怪物が全身でぶつかる。
閃光が迸り、衝撃が木々を揺らす。
怪物は雄たけびをあげ、その力の前に弾き飛ばされた。
弧を描いて地面に激突する。
そのダメージは大きく、体を引きずるように少年から逃げていく。
だが、少年は膝をつきその様子を見送った。
「逃がしちゃった……」
必死に振り絞る言葉。
だが、その体に力は入らず、遂に地面に倒れこむ。
逃がすわけには行かない。
彼には使命があった。
だが、彼の力でそれを達することが出来ないことを彼自身が気づいていた。
だから念ずる。
「誰か……力を貸して……」
邪悪を払い、人々を救う力がある者を
「魔法の力を……」
そして、資質があるものを
あの怪異を止めるに値する心と力を持った者を
朝
朝日が街を照らしている。
数多くの人々が住まうここで一人の少女が眼を覚ました。
眠気眼で起き上がる。
そして、夢見たことを思い出す。
森の奥で助けを呼ぶ声。
「なんか……変な夢見ちゃった……」
彼女には理解できていない。
その夢の意味を
だが、声は確かに届いていた。
AnotherPlayer
第三話「星空の願い」
「先輩。この人達は誰なんですか?」
桜の言葉に士郎は頭を抑えた。
目の前には居間で寛いでいる
シン・アスカ
剣崎一真
天翔
の姿があった。
昨夜、BOARDの研究所跡地で命を救ってくれた者たちだ。
彼らがこの街に蔓延る怪人と戦っていると知り、彼は協力者となりたかった。
人知れず悪と戦うヒーロー。
その姿に士郎は憧れ、少しでもその力になりたいと思ったからだ。
彼らが住む場所に困っているということを知り、場所を提供した。
士郎が住む家は非常に大きく屋敷と言っていいほどだ。
その為、多くの空き部屋があり、三人程度なら増えても問題は無い。
食事などに関しては別問題だが。
そこまでは良い。
それに関しては士郎も考えはあった。
だが、抜けていた所があった。
士郎は現在、一人暮らしである。
その為、同居人は居ない。
故に同居人に許可を取るなどは問題ないのだ。
だが、彼の家には頻繁に訪れる来客が居た。
それが現在、士郎の後ろに居る少女である。
名は間桐桜。
士郎の後輩で故合って彼女の料理のコーチとなっている。
人見知りが激しいというか感情の希薄な感じだったが何度か会っているうちに改善された。
付き合い自体は数ヶ月ほどだが。
彼女は毎朝、士郎を起こし朝食を作るために来訪する。
そこでいきなりシンと出くわしたらしい。
桜は知らない顔に出くわし驚いた。
シンを泥棒と勘違いし騒ぎを起こしたのだ。
だが、その騒ぎに士郎よりも先に剣崎と翔が駆けつけた。
更に知らない顔の増援である。
桜は軽いパニックを起こしてしまった。
その後に士郎が到着して、彼女を落ち着かせて現在となる。
「実は昨日から部屋を貸してるんだ」
「部屋をですか?随分と急ですね」
士郎からしても急な話であり、何も聞かされていなかったというか
聞かせる暇も無かった桜には寝耳に水な話だ。
いくら住んでないからといっても事前に話してくれればいいのにと呟いている。
とりあえず、桜的に異論は無いようである。
士郎は一安心という様子で生きをついた。
「士郎!」
だが、その安心はもう一人の声で吹き飛ばされる。
彼が振り向くとそこに虎が見えた。
「ははは、それで遅かったのか」
穂群原学園の教室。
カズキと士郎が席に座り、会話をしている。
「あぁ、どうにか藤ねぇを説得してな。まぁ、三人とも見た目に不審な点はないし、態度も悪くなかったから」
士郎は今朝のことを思い出し頭を痛める。
桜は問題なかった。
だが、問題は藤村大河という女性だ。
彼女は士郎の姉的な存在で、毎朝士郎の家に朝食をたかりに来る。
家も隣なので事あるごとに訪れるのだ。
士郎にとっても保護者同然の存在であり、今回の部屋を貸すという話で最大の障害とも言えた。
「正直の話したのか?」
カズキが尋ねる。
あの3人の境遇を説明するにはアンデッドについて説明しなければならない。
そして、その戦いに自分達も首を突っ込んでいるのだということを。
そんな事を保護者に話せば止められるに決まっている。
「いや、伏せて説得した。剣崎さんはまぁ、本当に住むところが無くなって困ってたわけだから問題ないし。
シンと翔はプラントから引っ越してきたんだけど不動産やの手違いで住居が確保できてなかったって事になった」
「大丈夫なのか?」
「ばれるかも知れないけど。まぁ、時間稼ぎにはなるだろ。それに特に問題が無ければそんなに気にしたりはしないさ。藤ねぇは」
「まぁ、確かに藤村先生は豪快なイメージがあるからなぁ」
士郎が藤ねぇと呼ぶ女性はこの学園の英語教師だ。
このクラスの担任でもある。
「誰が豪快だって武藤くん?」
カズキは背後からの殺気を感じ取り、勢い良く振り向いた。
その先には虎がいた。
いや、人間なのだがそのオーラは虎とも言うべき迫力を備えている。
「いや、それは……すいませんでした」
カズキは頭を下げて誤る。
「うむ、素直でよろしい」
その態度に藤ねぇは満足した様子で頷いた。
「そういえば、武藤君も士郎の家の居候のこと知ってるの?」
「えっ?あぁ、出会った時にオレも居たんで知ってますよ」
「本当に仲が良いわね。まぁ、士郎は交友関係が狭いからさ。これからも仲良くしてあげてね」
「当然じゃないですか。なんたって士郎は友達ですから」
カズキは恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無く言ってのけた。
その会話に士郎は恥ずかしそうにする。
「いやぁ、良い友達をもったわね士郎。こんな風に言ってくれる人なんてあんまりいないわよ。
まぁ、馬鹿げた行動を少しでも自重してくれると助かるんだけどね。
聞いたわよ。今日の朝、寝ぼけて岡村君をボコボコにしたんですって?」
「いやぁ、はは。まさか通信空手が殺人拳にまでなってると」
「暴れるのも対外にしなさいよ。そんなに元気が有り余ってるなら部活にでも入れば良いのに」
「いやぁ、友達と遊んでるほうが楽しいというか」
カズキは曖昧な返事をする。
別に拒絶する理由も無く入らないのはなんとなくだろう。
カズキ自身の運動神経はかなり良い。
目立つタイプではないが平均点から見れば上に位置する。
ただ、その道を進む者からすれば素人同然だった。
実際に素人なのだが。
「っと、無駄話してる場合じゃなかった」
ようやく、話を切り上げ、藤ねぇはHRを始める。
衛宮邸
シンが窓から身を乗り出し、アンテナを固定する。
「よっと……アンテナ取り付けましたよ」
固定が完了すると部屋の中へと戻った。
「よし、こっちも大丈夫だ。ちゃんと動いてる」
パソコンに向かう剣崎が答える。
モニターには街の地図が映し出されていた。
「実際にこれで捕らえられるんですか?アンデッドの動きが?」
シンが尋ねる。
研究所から回収出来たのはアンテナとパソコンのみ。
それだけだ。
「アンデッドの戦闘意欲が上がったら……つまり、戦闘状態に突入すれば反応するはずだ。
こればっかりはどこかでアンデッドが暴れなければ分からない」
「完全に後手って事ですね」
「仕方ないだろ。BOARDでもそれでしか特定できなかったんだ。街を見て回るにもこの人数じゃ限界もあるし」
剣崎の言うことは最もだ。
後手に廻るとしてもこれ以上、最善の方法は無い。
闇雲に街を駆け回っても遭遇するというものでもないのだ。
「でも、このままだと不便ですね」
モニターを見ながらシンが呟く。
「何がだ?」
「いえ、アンデッドサーチャーがアンデッドを捉えるのは良いんですけど。
これだと誰かがパソコンの前で張り付いてないと分からないじゃないですか」
「それはオレとシンで交代して見張るしか無いんじゃないかな」
「……ちょっと、いじってもいいですか?」
「別にいいけど……壊すなよ」
「大丈夫ですよ。これでもザフトのアカデミーを成績優秀で卒業してるんですよ。
モビルスーツの調整の為にプログラミング技術も習得してますし。
系統は違うかも知れませんけど少しぐらいなら改造できるかもしれません」
「改造って……まさかアンデッドが戦って無くても見つけられるようにするとか!?」
「んな無茶な……いくらオレがコーディネーターでもナチュラルの天才には勝てないんですよ。
烏丸教授はデュランダル議長も一目を置く天才だって聞いてますし。
オレ程度じゃそんな風にバージョンアップは出来ませんって」
「そうなのか……それじゃ、どうするんだ?」
「いや、ただアンデッドを見つけた場合、オレの通信機とか剣崎さんの携帯電話にその情報を渡せないかと思って」
「なるほど!それなら出かけてても反応が分かるな」
「今まではオペレーターが居たから無意味でしたけどこれからはそうは行きませんしね」
シンはキーボードを叩き、アンデッドサーチャーのプログラムを調査する。
剣崎はその様子を見守るしか出来なかった。
昼休み
カズキと士郎は屋上で昼食をとっていた。
他にも一緒にカズキの友人である六枡、岡村、大浜の姿もある。
この3人はカズキが中学時代からの友人であり、基本的にカズキも含めた四人で行動している。
士郎もたまに行動を共にするが用事があったりで参加頻度は多くない。
とはいえ、顔なじみもなじみで一年も同じクラスで過ごしてきたので友人といっても過言ではない関係にある。
馬鹿騒ぎが得意でトラブルを起こすことは多々あるものの裏表の無い性格で人望は厚い。
男女問わずに人気は高く。イベント毎は基本的に彼らが中心で動くこととなる。
彼らが他愛も無い話をしていると足音が近づいてきた。
「あっ、お兄ちゃん!」
元気な声にカズキが反応する。
「おっ、まひろ。どうしたんだ?」
カズキが手を振ると声の主が駆け寄る。
「どうしたも何もお昼を食べに来たんだよ」
「おっ、まひろちゃん。一緒に食うか?」
岡村がその様子に誘いをかける。
「うん!……あっ、でも一緒に来た子が居るし」
まひろが指を口に当てて考える。
「それってあの子?」
大浜が顔を向けて尋ねる。
その言葉につられて士郎も顔を向けた。
そこには桜の姿があった。
「そうそう!」
まひろはそう言うと桜のほうに駆けて行き、彼女の背中を押して戻ってきた。
「間桐桜ちゃん!同じクラスの子なんだけど今日から友達になったんだ!」
桜の肩に手を置いて笑顔で告げる。
桜もカズキ達に笑顔を向けた。
そして、驚く
「先輩!」
士郎の姿を確認したからだ。
「何だ衛宮の知り合いなのか?」
「これはちょっと話を聞く必要がありそうですね」
「そうそう」
その反応に逸早く反応したのは六枡・岡村・大浜だった。
彼らは士郎を取り囲む。
「ちょっと待て。三人とも何か勘違いしてないか?」
士郎は逃げ出そうとするも回り込まれた。
「あれ~?お兄ちゃんの友達と知り合いだったんだ。偶然ってあるもんだね~」
まひろはそのことに嬉しそうにしてる。
「そうだな~。あっ、自己紹介がまだだったね。オレは武藤カズキ。まひろの兄で、士郎の友達。よろしく!」
カズキは笑顔で手を差し出した。
「あっ、間桐桜です。よろしくお願いします」
桜は緊張の面持ちでその手を握り返した。
「すっごい可愛い子でしょ。今日、遅刻しかかけてて一緒に走って登校して仲良くなったんだ」
「そう言えば士郎がまひろと朝に会ったと言ってたな」
「そうそう、士郎先輩と一緒に走ってたんだけど……もしかして付き合ってるの!?」
まひろが眼を輝かせて尋ねる。
その言葉に桜は驚いて眼を丸くした。
「ほう、それは聞き捨てならないな。どうなんだ、士郎!?」
カズキも三人と合流して士郎を問い詰める作業に参加した。
「違う。桜とはそういう関係じゃない!」
士郎が叫ぶも聞く耳を持つ者は居なかった。
「それじゃ、藤村先生の紹介で二人は知り合ったのか」
「それで料理のコーチをして、今じゃ毎朝起こしてもらって、朝食も作ってもらっていると……」
「随分と羨ましい話だね」
結局、士郎は洗いざらいを話す羽目となった。
特にやましい事も無いので問題は無いのだが
約一人から嫉妬の目線を向けられていた。
「そう言えば間桐って……慎二の妹?」
カズキが尋ねる。
間桐慎二、士郎やカズキ達と同じクラスの男子。
その容姿から女子の人気は高いのだが男子からの人気は低い。
「はい」
桜は質問にうなづいた。
「へぇ、あいつにも妹が居たんだなぁ」
同じく一つ下に妹を持つ者としてカズキは何らかのシンパシーを感じているのかもしれない。
ただ、桜の表情はあまり明るくなかった。
どこかその話題を拒絶しているように見える。
「そろそろ、昼休み終わるぞ」
士郎が告げる。
その言葉にカズキたちは急いで食事の片づけを始めた。
遊んでいるうちに随分と時間を消費してしまい未だに昼飯を結構、残ってしまっている。
それらを胃袋に押し込めるとチャイムが鳴ってしまった。
急いで教室へと戻っていく。
昼下がりの公園を歩く三人の少女達がいた。
その中に一人、ツインテールの少女がいる。
彼女の名は高町なのは
何処にでもいる平凡な小学三年生の少女である。
彼女は何時も通りに親友であるアリサとすずかと共に塾へと向かっていた。
その途中、アリサの提案で塾への近道に街中にある森へと進んで行く。
他愛も無いいつも通りの会話。日常。
その途中でなのはは声を聞いた。
周囲を見渡す。
その様子に二人の友人は何事かとなのはに尋ねる。
「声が聞こえるの」
なのはの言葉に二人は耳を澄ますも何も聞こえない。
なのはそんなはずは無いと走り出した。
確かに聞こえた助けを呼ぶ声が。
そして、その声が今朝に見た夢のものだということに気づく。
「ここは夢で見た」
走った先で夢で見た景色があった。
そして、道端で倒れている小さなフェレットの姿を見つけた。
駆け寄り、膝を突いて抱き上げる。
アリサとすずかもなのはを追って駆け寄ってきた。
そして、そのフェレットを見る。
全身が傷だらけで衰弱している。
「凄い傷じゃない」
「どうしよう。早く獣医さんに見せないと……」
「ここらへんに獣医ってどこ?」
今にも死にそうに見え、彼女達は慌てていた。
直ぐに手当てをしないとどうにかなってしまいそうで。
そんな彼女達の前に一人の女性がやってきた。
「どうしたの?」
彼女が尋ねる。
赤い服を着たしっかりとした物腰の少女だった。
年齢的には高校生ぐらいだろう。
「あの、ここで倒れてるこの子を見つけて……」
「すっごく弱ってて直ぐに手当てしてあげないと」
赤い服の少女は視線をなのはに抱かれているフェレットに移す。
少し思案すると視線をなのはにと移した。
「分かったわ。近くの獣医まで連れて行ってあげる」
少女の言葉になのは達の表情が明るくなる。
だが、なのは達は気づかない。
彼女の視線がどこか値踏みをする物だという事に
「そう言えば……今日、変な夢を見たんだ」
衛宮邸の居間
そこに士郎とカズキ、それに翔がいた。
士郎の話にカズキが応える。
「変な夢?」
「あぁ、助けてって言葉が聞こえたんだ……まぁ、それだけなんだけど。
誰かが倒れててそう言ってるように見えたんだけど。
なんだか視界がかすれたようになってて良く分からなかったんだ」
「助けて……う~ん、ただの夢なんじゃないか?」
「そうなのかな……」
「あんまり気にしすぎないほうが良いと思うぞ」
「……そうだな」
カズキの言葉にしかめっ面だった士郎は少し顔を緩ませる。
「そう言えば。剣崎さんとシンは?」
カズキの言葉に士郎は近くで転がっている翔に視線を移した。
「ん……あぁ、二人なら橘って人を探しに行った」
翔が上半身を起こして、士郎とカズキに向き直る。
「橘?」
「良く知らないけど剣崎の先輩で……何か裏切り者だのどうだの言ってたな」
翔はあまり関心が無かったらしく思い出すように告げた。
「裏切り者……それって剣崎さんが所属していたBOARDのって事だよな。
ってことはアンデッドに協力してるのか?」
「さぁ、良く分からないけど。BOARDが壊滅した戦いで剣崎を見捨てて何処かに行ったとか何とか」
「……そんな事があったのか」
「それにその橘って人が所長を連れ去ったとか言ってたな」
「所長……それってBOARDのか?」
「じゃないのか?詳しいことは知らないからな」
翔は困ったように頭を掻く。
「知らないって……翔もBOARDの一員じゃないのか?」
士郎が尋ねると翔は首を横に振った。
「違う。俺はBOARDの地下で寝てたらしい。眼が覚めたらシンが襲われていたから思わず助けて……
後は行き場も無いから一緒に戦っているだけだ」
「行き場も無いって……家族は?」
「分からない。記憶が無いんだ。自分が何者であったのかという」
「記憶喪失……そうだったのか。さっさと言ってくれれば」
「言ってもどうしようも無いと思うけど……まぁ、その所長が見つかれば俺が何故、あの場に居たのか分かるかも知れないけど」
特に翔自身は自分の記憶に頓着は無さそうだった。
「まぁ、だったら剣崎さんとシンがその橘って人を見つければ大丈夫そうだな」
カズキが納得する。
「まぁ、確かにそうだけど。心配してるんじゃないか翔の親御さんとか」
「でも、どうしようもないじゃん。二人に任せるしかないって」
カズキは楽観的だった。
「それじゃ、二人とも居ないんじゃ。しょうがないな」
カズキはそう言うと立ち上がった。
「そうだな。アンデッドと仮面ライダーについて詳しく聞きたかったんだけど……翔は?」
「良く知らない」
「だよな……」
カズキが衛宮邸によった理由は単純にアンデッドと仮面ライダーについて聞きたかったからだ。
二人は都市伝説程度の話しかその辺りを知らない。
何故、アンデッドが人を襲うのか。
それすらも知らなかった。
「帰ってきたら聞いておくよ」
「頼む……それじゃ」
そう告げてカズキは帰っていった。
その背中を翔を追いかける。
「……太陽……か」
「ん?どうしたんだ?」
士郎が尋ねるが翔は「いや、なんでもない」と言ってまた寝転がった。
なのは達はあの後、高校生の少女の案内により動物病院にフェレットを預ける事にした。
命に問題は無いようだったが衰弱が激しく、一度目覚めるも再び眠ってしまった。
その後、塾にて話し合いの結果、なのはがフェレットの面倒を見る事になる。
両親にはしっかりと世話をすることを条件に了承が得られた。
後は明日、引き取りに行くだけになる。
そのことを楽しみになのはは眠ろうとしていた。
だが、その脳裏に突然、声が響く。
「聞こえますか?僕の声が聞こえますか?」
なのははその声に耳を傾ける。
「夕べの夢と、昼間の声と同じ声」
そこで気づく。今までに聞こえていた謎の声と同じ事に。
「僕の声が聞こえる貴方。僕に少しだけ力を貸してください。
お願い、僕の所へ……
時間が、危険が、もう……!」
それと同時に声が途切れる。
意識を集中していたなのはは不意に力が抜け、ベッドに倒れた。
「行かなきゃ……」
なのはの頭に昼間のフェレットが浮かぶ。
あのフェレットを助ける時にも聞こえた声ならば。
その声はあのフェレットであるはずと推測する。
なのは普段着に着替えると夜の街を走っていた。
行き先はフェレットを預けた動物病院。
ただ、ひたすらに道路を走り続ける。
人通りは不思議と少なかった。
現在、都市伝説の怪物と実際に多発している行方不明事件から
夜の出歩きには注意が促されている。
そう、実際にこの街には怪物が潜んでいる。
アンデッドにホムンクルス。
発生の経緯も目的も何一つ違う怪物だが
その行動には一つの共通点がある。
それは人を襲う事……
電信柱の影から暗く沈んだ瞳がなのはの姿を捉えていた。
その事になのはは気づかない。
なのはは動物病院へと辿り付く。
息を整え、いざ進もうとすると奇妙な音が鳴り響いた。
なのはは耳を押さえ立ち止まる。
しばらくすると音は止まった。
だが、それと同時に異様な雰囲気が辺りを包み込んでいた。
何かを感じ取るもなのは足を踏み出す。
すると、病院の影からフェレットが飛び出した。
それは何かから逃れようと樹に飛び乗る。
すると、それを追いかけ巨大な黒い物体が樹に飛び込んだ。
その衝撃に樹は倒れ、飛び乗っていたフェレットが宙に投げ出される。
なのははそれを受け止めようと両腕を開いた。
フェレットはそれを見ると空中で浮かんでいる樹を足場になのはの胸に飛び込む。
なのははそれを受け止めると尻餅をついた。
そして、目の前で蠢く巨大な黒い物体を凝視する。
「なに?なに?一体何!?」
困惑。
目の前のそれはなのはが知る世界には存在し得ないもの。
あのような生物見たことも無ければ聞いた事も無い。
そんな困惑したなのはの顔をフェレットが覗き込む。
「来て……くれたの?」
そして、尋ねた。
なのはは視線をフェレットに移す。
「しゃべった!?」
驚きのあまり慌てるが息を落ち着ける。
声に引かれやってきたのだ今更驚いている場合ではない。
何せあの黒い物体が動き出したのだから。
なのははフェレットを抱え逃げ出していた。
道路を疾走する。
「その、何がなんだか良く分からないんだけど……
一体、なんなの?何が起こってるの?」
なのはは走りながらフェレットに尋ねた。
「君には資質がある。
お願い、僕に少しだけ力を貸して」
「資質?」
「僕はある探し物の為にここではない世界から来ました。
でも、僕一人の力では思いを遂げられないかもしれない。
だから、迷惑だと分かってはいるんですけど……
資質を持っている人に協力して欲しくて」
なのはが立ち止まるとフェレットはなのはの腕から飛び降りた。
そして、彼女を仰ぎ見る。
「お礼はします。必ずします。
僕の持ってる力を貴方に使って欲しいんです。
僕の力を……魔法の力を!」
「……魔法?」
怪訝そうになのはが応えた。
すると、上空より先ほどの化け物が急降下する。
なのは達は急いで電信柱の影に隠れた。
「お礼は必ずしますから!」
「お礼とか……そういう場合じゃないでしょ」
なのはは影から様子を見る。
黒い怪物は元気良く蠢いていた。
「どうすればいいの……?」
あんな怪物、ただの少女であるなのはには荷が重すぎた。
大人といえども太刀打ちできるか分からない。
「これを!」
途方に暮れているとフェレットが赤い球体を口にくわえて掲げた。
それはこのフェレットが常に首につけていたものだ。
それは不思議な輝きを放っていた。
なのはは思わずそれを手にする。
「暖かい……」
「それを手に、眼を閉じ、心を澄ませて……僕の言葉を繰り返して」
その言葉になのはは赤い玉を握り締めた。
「良い?行くよ!」
「うん」
フェレットの言葉になのはは頷く。
そして、握った赤い球体を抱きかかえるように胸に翳し、眼を閉じた。
「我、使命を受けし者なり……」
フェレットが呪文を告げる。
「我、使命を受けし者成り……」
それを追うようになのはも言葉を口にした。
「契約の下、その力を解き放て」
「えと……契約の下、その力を解き放て」
なのはの手の中で赤き宝玉が脈動する。
「風は空に、星は天に」
「風は空に、星は天に」
言葉は力、言葉を下に赤き輝きが増していく。
「そして、不屈の心は……」
「そして、不屈の心は……」
力が震える。
「「この胸に!」」
それは別世界よりもたらされた力。
人の心を元に、力を行使する方法
「「この手に魔法を……レイジングハート、セットアップ!」」
なのはは赤き宝玉を天へと翳した。
「Stand by,ready.Set up!」
光が解き放たれ、天を貫いていく。
それは人が持つ生命の力。
そして、全ての生命が持つ、生きようとする為のエネルギー。
闘争と生存の為に命が持つ、魂の輝き。
「なんて魔力だ……」
その圧倒的な輝きにフェレットは眼を疑った。
彼とてこれほどまでの力を見たことが無い。
その光景を影で見る者達が居た。
一人は黒くすさんだ瞳を持つ者。
もう一人は赤き衣に身を包んだ少女。
なのはを動物病院へと案内した人物だった。
「声が聞こえたと思って来て見れば……アレは魔力?
これほどの容量を持った人物が一般人の中に居たなんて……」
フェレットがなのはの前に飛び出す。
「落ち着いてイメージして。
君の魔法を制御する魔法の杖の姿を。
そして、君の身を護る強い衣服の姿を!」
「そんな……急に言われても……えと、え~っと……」
なのは眼を閉じイメージする。
そして、脳裏に杖と服をイメージする。
「っと、とりあえずこれで!」
と、同時に魔法の輝き周囲に集まりだす。
そして、赤き宝玉を元に周囲から物質を生成し、杖が生成され、
衣服はイメージした強き衣服へと変化した。
それを構成するは魔法の力。
赤き不屈の心をたずさえし、制御の杖。
守護の力たる白き衣。
ただの平凡な少女は今、魔法少女へと変身した。
「成功だ」
その姿を見てフェレットが呟く。
「えっ!?えっ!?嘘ぉ……何なの、これ……?」
なのはは自分自身の姿が変わったことに戸惑う。
まさか、変身するなど夢にも思っていなかった。
だが、状況は彼女に戸惑う暇を与えない。
黒き怪物は赤き眼を見開き、なのはを睨みつけていた。
なのはは後ずさる。その異様な迫力に推され。
だが、背後は壁。
これ以上下がることは出来ない。
魔法の力といわれてもなのはに理解できなかった。
自分の杖と衣がどんな力を持っているのかが。
だが、それでも敵は来る。
その巨体を宙に浮かせ、重力を味方に落下する。
それは真っ直ぐなのはに向かう。
「きゃっ!」
なのはは思わず杖を突き出した。
たかが、小さな棒っきれ。
普通ならばそれごとなのはの体は潰れておしまいだ。
だが、これは棒ではなく杖。
それも魔法の力を制御する。
なのはの自身を護るという意思が発動する。
「Protection」
赤い宝石が輝き、なのはの前方に光の障壁を作り出した。
それは襲い来る怪物を受け止める。
ぶつかり合う力と力。
なのはは精一杯力を込め、攻撃を耐える。
すると怪物は四散し、周囲へと勢い良く飛び散った。
その欠片は建物を砕き、辺りを凄惨なものへと変えていく。
その結果になのはは呆然とするしかなかった。
なのははフェレットを抱え、再び逃げ出していた。
あの後、怪物は直ぐに襲ってはこなかった。
だが、徐々にバラバラになった体を取り込み、回復しようとしている。
なのはは状況を説明してもらうために距離を開けようとした。
そして、魔法の力を渡してくれた存在から説明を受ける。
「僕らの魔法は発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です。
そして、その方式を発動させるために必要なのは術者の精神エネルギーです。
そして、あれは忌まわしい力を元に生み出されてしまった思念体。
アレを停止させるにはその杖で封印して元の姿に戻さないと行けないんです」
なのはは交差点で立ち止まる。
「良く分からないんだけど……どうすれば?」
「さっきのように攻撃や防御のような基本魔法は心に願うだけで発動しますが……
より大きく力を必要とする魔法には呪文が必要なんです」
「呪文?」
「心を済ませて……心の中に貴方の呪文が浮かぶはずです」
なのはは言葉通りに意識を集中させる。
人の魂には力の道筋を示すための理が埋まっている。
魔力とは人の精神の力。
魔法とは魔力を操る方法。
自分自身の事を一番知っているのは自分自身だから
自身の魔力の道筋は己の心の中にある。
誰でも聞こえる言葉ではない。
だが、魔法の資質があるものならば唱えられるはずだ。
その闘争本能を掌握する呪文を
なのはは眼を見開く。
その眼前には復活し、迫り来る黒き怪物の姿があった。
なのはは静かに杖を前に掲げると防御の魔法を発動させる。
障壁が発生し、黒き怪物の突き出した触手を弾き飛ばした。
悪しき思念体は雄たけびを上げた。
だが、なのはは心乱さず杖を振るう。
「リリカルマジカル」
なのはの内よりいでし魔法の言葉。
「封印すべきは忌まわしい器。ジュエルシード!」
フェレットが叫ぶ。
黒き怪物、悪しき思念体、その正体を
「ジュエルシード、封印!」
なのははその名を告げ、力を込める。
それに答え、赤き宝玉が輝いた。
「Sealing Mode.Set up」
そして、最も力を発揮しやすい形へと姿を変える。
杖から光り輝く翼が発生した。
そして、振るうと光の帯が伸び、ジュエルシードの怪物を包み込んでいく。
悪しき奔放なる力は絡めとられ、捕縛される。
そして、その刻印を映し出した。
その番号はⅩⅩⅠ
「Stund by,ready」
「リリカルマジカル。ジュエルシードシリアルⅩⅩⅠ。封印!」
「Sealing」
封印の魔法は完成し、黒き体は光の魔力で貫かれ霧散した。
そして、その体を一つの宝石に変える。
「これがジュエルシードです。レイジングハートで触れて」
なのはが杖を掲げると、ジュエルシードはレイジングハートに吸い込まれた。
「Receipt number ⅩⅩⅠ」
そして、封印は完了する。
それは終わりのはずだった。
街でジュエルシードが暴れまわっている頃
武藤カズキは山奥にある神社を訪れていた。
誰も居ない無人の神社。
何時作られたのか、何の神を祭っていたのか
誰も知らず、伝えられていない寂れた場所。
そこの境内でカズキは一心不乱に槍の素振りを行っていた。
昨夜手にした戦う力。
だが、カズキ自身は戦いの素人である。
無我夢中に武装錬金の力を使い、ホムンクルスを倒した。
だが、それだけでは足りないのだとカズキは感じていた。
仮面ライダーとして組織に所属していた剣崎。
ザフトという軍事組織に所属していたシン。
そして、錬金の戦士として戦っていた斗貴子。
彼らは戦いの基本を知っている。
何度と無く実践も経験している。
そんな彼らと共に戦うのであれば鍛えるしかない。
その為にカズキは毎日の訓練を考え、実行している。
「ふぅ、今日はこのぐらいにしておこうかな」
カズキは武装錬金を解除し、汗をぬぐった。
体は鍛えている。
だが、カズキはどうもしっくりこなかった。
突撃槍は大型で取り回し辛いものの軽々と扱えた。
とても、あの大きさの重量とは思えない。
だが、うまく槍を扱おうと思ってもそれだけではダメなのではないかと感じていた。
頭ではなく心で感づいている。
武装錬金にはまだ、何かしらの力があることを。
「誰だ!?」
カズキは突如、誰かの視線を感じ、振り向いた。
異様な雰囲気
一瞬、世界が変化したような感覚
そして、視界の端に金髪の少女が見えたような気がした。
だが、実際に振り向けばカズキの視界の先には誰も居ない。
木々が重なり、闇に見えるだけである。
「……何だろう。とてつもなく嫌な気分だった」
そして、自分が思わず心臓のある位置に手を持っていっていることに気づく。
それは武装錬金を生み出す際の動作。
「体が勝手に動いた……とにかく、今日は帰ろう」
何が起こっているのか分からなかった。
だけど、この場に居ないほうがいいと心臓が騒いでいる気がしたのだ。
そして、ふと振り向くと突如として、光が空に登るのを見つけた。
「何だ。あれは……」
その輝きに圧倒される。
「もしかして、ホムンクルス。いや、アンデッドかも」
カズキは駆け出した。
確証は無い。
だが、あの光景は日常のものではない。
何かしらの異変が起きているに違いないのだ。
場面は再び、なのはがジュエルシードを封印した直後に戻る。
なのはが呆然としていると突如、何かが飛び出した。
「危ない!」
フェレットの言葉になのはは振り向き、レイジングハートをかざす。
プロテクションが発動し、何かを弾き飛ばした。
「えっ?何なの?」
それは蛙のようだった。
だが、大きく二本足で行動していた。
そして、まるで金属で出来たような体をしている。
それが3体、なのはを取り囲むように立っている。
「これもジュエルシード?」
なのはが尋ねるとフェレットは首を横に振った。
「いえ、反応がありません。ジュエルシードではないようですけど……気をつけて、貴方を狙ってます」
フェレットの言葉とほぼ同時にその蛙の化け物がなのはに飛び掛る。
それもプロテクションで防御する。
蛙は再び壁に阻まれ、地面に着地する。
先ほどのジュエルシードの思念体と違い、強力な攻撃力は持っていないようだった。
なのはの体が突然、揺れ、壁にもたれかかる。
「大丈夫ですか?」
「うん……ちょっと、くらっとしただけ……」
だが、その顔色はあまり良くない。
「多分、魔力が尽きかけてるんです……初めて戦って、封印までしたんだ。
これ以上は危険です。早く逃げて!」
「そうだね……」
なのはは駆け出すが蛙の化け物の一匹がなのはの頭上を飛び越え、立ちふさがる。
それに対しなのはは杖を振りかざし、突っ切ろうとするが突如、勢いが止まる。
なのはが振り返るとその足に蛙の化け物の一匹の舌が巻きついていた。
「そんな!」
なのはは足に力を込め、引っ張ろうとするも逆にその体がひきずられバランスを崩す。
小さな体は地面に倒れこむ。
「うそ……」
なのはは立ち上がろうとするも残った足ももう一匹の舌に絡めとられる。
立ち上がることが出来ないなのはに最後の一匹がじりじりと距離を詰め始めた。
「この!」
フェレットが飛び出すが腕の一払いで弾き飛ばされる。
時間稼ぎにもならない。
蛙の無機質な目が妖しく輝く。まらうで笑っているようだった。
絶体絶命。
だが、なのはは諦めず必死に立ち上がろうとする。
まだ、死ぬわけには行かない。
彼女の心は折れたわけではない。
しかし、状況は絶望的だ。
このままでは死を待つほかに何もすることは出来ないだろう。
何故かこれだけ暴れても人が現れる気配すらも無い。
静寂な夜
まるで世界が闇に支配されてしまっているかのように。
小さな命は闇に蝕まれようとしていた。
儚い光……
だが、それは消えることは無かった。
「止めろぉぉッ!!」
静寂を突き破り、一つの咆哮が轟く。
闇を引き裂くように、山吹色の光が奔る。
巨大な鉄の塊が目前に迫った絶望を振り払った。
カズキは神社から見えた光の場所に駆けつけた。
だが、既にその場には何も無く破壊の後が残るのみ。
カズキはそこから更に破壊の後を辿って駆け出した。
そして、その目前に見えたのは小さな女の子に迫るホムンクルスの姿。
カズキは夢中で走り、その場に割り込んだ。
昨日と同じように誰かを助けるために。
ただ、昨日と違うのはカズキに戦うための力があること。
「武装錬金!」
右手を胸に掲げ、闘争の意思を込めて叫ぶ。
顕現するは突撃槍。
悪を貫く錬金の鋼。
「止めろぉぉッ!!」
怒号と共に加速する。
突き出した穂先を蛙のホムンクルスは直前で跳躍し回避する。
しかし、少女から振り払うことには成功する。
そして、直ぐに彼女の足を拘束する舌に対し槍を振るう。
一振りで舌は寸断され、崩れ落ちた。
「大丈夫?」
カズキはなのはに手を差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
突然の事態に困惑しながらもなのははその手を握った。
そして、立ち上がる。
しかし、まだ危機が去ったわけではない。
蛙のホムンクルスはじりじりと距離を詰める。
カズキは構えるが責めあぐねていた。
不意打ちからの突撃すらも回避された。
まともに打ち込んでも当たる確立は低いだろう。
そして、敵は三匹。
一匹を相手にしているうちに残りの二匹が襲い掛かってくる。
隣のなのはを守りながらでは分が悪すぎた。
どうするべきかと思考しながら周囲を見渡す。
そして、その視線の中にバチバチと光る飾り布が見えた。
突撃槍の武装錬金に突いてくる赤い布。
ただ、飾りだとカズキ自身は思っていた。
だが、その閃光を見たとき、感づく。
その力の使い方を。
一斉に蛙のホムンクルスが襲い掛かる。
カズキは飾り布を掴むとそれを振るった。
「これでどうだッ!」
カズキの叫び声と共に布は閃光に替わり、襲い来るホムンクルスを撃墜する。
強力なエネルギーがホムンクルスを焼き尽くし、黒い墨へと変えていった。
「武装錬金にはこんな力もあるんだな……」
カズキは地面に槍を突き立て、一息つく。
飾り布をエネルギーに変換し、解放する。
この力が無ければ、気づかなければ無傷での勝利はありえなかっただろう。
ただ、武器として振り回せば良いという訳でないと気づけたのは大きな一歩だった。
「あの……ありがとうございます」
なのはがお辞儀をしお礼を述べる。
「間に合ってよかったよ。怪我は無い?」
カズキは武装錬金をしまい尋ねる。
「はい、大丈夫です」
なのはが答えると突然、なのはの服が光り輝き、元の姿に戻った。
レイジングハートも元の赤い宝玉に戻っている。
「あれ……戻った」
なのはは驚き自分自身を見回す。
カズキもその光景に驚き眼を丸くしている。
「えっ、君ももしかして……」
「危険が去ったから変身が解けたんだ」
カズキが何かを尋ねようとするよりも早くフェレットがなのはの肩に飛び乗る。
「先ほどはありがとうございました。まさか、この世界にも魔法の力があったなんて……」
「喋った!」
カズキが驚き叫ぶ。
「あはは、普通驚くよね」
なのはが苦笑いしているとカズキは突然、フェレットを掴む。
「凄いぞ!喋るオコジョなんて始めて見た!」
カズキはまるで新しいおもちゃを貰った子供のような笑顔でフェレットを掲げる。
「ちょ、ちょっと!やめてください!」
乱雑な扱いフェレットが叫ぶもカズキには聞こえていないようだった。
近くの公園
道端では目立つのと落ち着かないということで退避してきた。
そこのベンチになのはが座る。
「怪我、痛くない?」
なのはは膝の上に居るフェレットに尋ねた。
「大丈夫です」
「ごめん!怪我してたのに気づかないで振り回して……」
カズキはがっくりと肩を落とす。
振り回している内にフェレットが気絶し先ほどまで慌てていたのだ。
「いえ、怪我事態は既に治っています。まぁ、あまり振り回して欲しくはありませんが……」
フェレットは身震いで自分の包帯を落とす。
「すごい、怪我のあとが全部消えてる」
「助けていただいたお陰で治療に残った魔力が回せました」
「良くわかんないけどそうなんだ……
あっ、自己紹介して良い?そっちのお兄さんも」
なのはの言葉にフェレットとカズキは頷く。
「私、高町なのは。小学校三年生。家族とか仲良しの友達はなのはって呼ぶよ」
「僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だからユーノが名前です」
「武藤カズキ。高校二年で好きなものは青汁。よろしく」
各々に名前を告げる。
「すいません。貴方を……」
「なのはだよ」
「……なのはさんを巻き込んでしまって」
申し訳無さそうにユーノは下を向く。
「んと、私は多分、大丈夫」
なのはが笑顔を向ける。
「……とりあえず、色々とあるかも知れないけど今日はもう、家に帰ったほうがいいんじゃないか?」
カズキがなのはに尋ねる。
「そうですね。家族も心配していると思いますし……ユーノ君も怪我してましたし」
「それなら、明日にしよう。オレも君達が何と戦っているのかは気になるし。
もし、この街で何かと戦っているなら力になれると思うんだ」
「そんな。貴方まで巻き込むわけには……」
「何で困っているかは知らない。けど、困っているなら力を合わせるべきだ。
それにさっき君達が襲ったような奴と他にもこの街には危険が多いんだ。
一人ひとりじゃもしかしたらやられちゃうかもしれない……
だけど、力を合わせればどんな相手とでも戦える」
ホムンクルスにアンデッド……
もし、不用意にその存在に近づく事になれば危険は大きくなる。
一足先にこの街に潜む闇に対面した先輩としても
カズキはなのはを導く必要があった。
「うん、そうだね。頼れる人がいるなら頼るべきだと思う。
武藤さんはあの蛙のお化けを倒しちゃうくらい強い人だし」
「……わかりました」
「とりあえず。今日はここまで……それじゃ、送ってくよ」
「すみません」
「いいっていいって。それじゃ、行こうか」
とある館の一室
赤い服の少女は先ほどの戦いを思い返す。
変身した少女、謎の怪物、そして、ホムンクルスを撃退した同じ高校の生徒。
「あの夢の声の正体が動物で、その動物が女の子に魔法の力を渡す……か。
私が先に出会ってたら変身してたのは私だったのかしら……。
この歳で魔法少女っていうのはちょっとね」
自分自身が変身する姿を想像して苦笑いする。
「でも、ただの女の子にアレだけの魔法の力を授けるなんてとんでもないマジックアイテムね。
そして、封印したジュエルシードってのも気になるわ。
アンデッドやホムンクルスだけでも厄介だってのに、どうしてこうもこの街で厄介な事態ばっかり起こるのよ。
もうすぐアレも始まるってのに……。
でも、表立って動けないってのもきついわね。
仮面ライダーに錬金の戦士……何かあればでばるしかないけど……
BOARDとの契約に錬金戦団との契約……どっちも煩わしいわね。
自分の街なのになんで戦っちゃダメなのかしら……」
少女は定められた約束に憤りを感じる。
だが、それを不意にするのはより大きな力で潰されることも意味をする。
不用意にそれらを破ることは出来ない。
奔放に力を振るうことは出来ないのだ。
そして、夜は更けていく。
この街に充満する闇は徐々に暗く黒くなっていく……