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「記憶喪失だって言うのか?」
シンが天翔と名乗った少年に尋ねる。
翔は静かに頷いた。
「じゃあ、何で地下に居たのか分からないのか?」
今度は剣崎が尋ねる。
こちらも翔は頷いた。
「ここが何処なのかも良く分からない。何故、ここにいるのかも」
翔は夜空を見上げる。
全てが本当に分からないわけではない。
空を空だと認識できるし、今が夜だということも分かる。
ただ、自分が今までどう過ごしてきたのか。
何故、ここにいるのかという自分が過ごしてきた人生が思い出せない。
思いがけず戦いもした。
だが、何故自分が戦い方を知っているのかは分からない。
「……そうだ!まだ、敵がいるんだ!」
シンが思い出し告げる。
地下で振り切ったものの依然として三機のモビルスーツがこの研究所内に潜んでいる。
生身を晒している状態で狙われたらただではすまない。
「おっと、動くなよ」
だが、それを思い出すのが遅かった。
声が聞こえた先にはビームライフルを構えるカオスの姿がある。
それにアビスとガイアも。
状況は地下で翔を発見した時とほぼ同じだ。
「くそっ」
シンは転送装置を取り出そうとするがそれよりも早く横の地面が爆発した。
その衝撃に腕の動きが止まる。
「動くなと言ってるんだ」
カオスがビームライフルを向け威圧する。
もし、当てるつもりだったらシンの体はビームで打ち抜かれ絶命していただろう。
それが分かるため、シンも剣崎も動けない。
剣崎の変身ならば発生するオリハルコンエレメントで攻撃を防げるかも知れない。
だが、その時、シンが撃たれれば。
シンは確実に死ぬ。
人間の体はそこまで頑丈には出来ていない。
たとえ、コーディネイターと言えどもだ。
「大人しく転送装置とライダーシステムを渡してもらおうか。それとそこの奴もだ」
カオスは最後に翔を指定する。
そんな条件を飲むわけには行かない。
従ったところで抵抗手段が無いシンと剣崎が助かるとは限りない。
しかし、奴らは無理やりにでも奪いに来ることも出来るのだ。
大人しく渡すか抗うかどちらがより生き残れるか。
だが、シンも剣崎もそんな風に冷静に判断するようには出来ていなかった。
ただ、大人しく従い死へ近づくぐらいなら。
最後まで抗い立ち向かう。
二人の魂はそう出来ている。
一か八かで二人は力を掲げようとする。
だが、それよりも早くカオスの様子が変わった。
「なんだと……ここまで追い詰めたんだぞ!……ちっ、分かった」
何事かを呟くとカオスはビームライフルをおろした。
そして、跳躍すると戦闘機へと可変する。
それに続いてアビスとガイアも跳躍した。
「命拾いしたな」
そう、残すと彼らは上空へと飛び立ち、去っていった。
それをシンと剣崎は呆然と眺めている。
追撃をする気も起きなかった。
既にローカストアンデッド戦で生も根も尽き果てている。
追っていったところで勝つことは無理だろう。
奴らにどんな事情があったかは不明だが間違いなく言葉通り、命拾いした。
「とにかく、生存者を探そう」
呆然とする中で剣崎が言葉を発する。
その言葉にシンは頷いた。
壊滅しているとはいえまだ、生きている人は居るかもしれない。
二人は研究所内に再び舞い戻った。
AnotherPlayer
第二話「太陽の鼓動」
穂群原学園
冬木に存在する高校。
基本的に地元から通うものが多いが通行が不便などの理由により寄宿舎に入ってるものも多い。
周辺からの評判も良く、優良校として名高い。
生徒達は明るい者が多く、にぎやか過ぎるという側面も持っているが。
既に始業式から数日たち生徒達は新たな生活になじみ始めていた。
朝のHRが始まる前、登校してきた生徒達による談話が聞こえる。
その中で話題に上るのは最近、噂されている【仮面ライダー】という都市伝説だった。
曰く、人を襲う怪物の前にバイクに乗って現れる正義のヒーロー。
この街周辺での目撃情報が多く。
基本的に話題に上がるのは赤い銃使い。
他に蒼い剣士も話題に上がるが前者に比べればほとんど聞かないぐらいだ。
最近では行方不明者が多く、学校側からも生徒達に対して警戒を促しているが
その行方不明の原因は怪人だと言われており、
その脅威から救う者として仮面ライダーは現代に存在するヒーローとして語り継がれている。
まるで御伽噺……いや、TVドラマのような話だがそんな噂がまことしやかに話されている。
一部では新型のモビルスーツだと言われていたり、
怪人は妖怪の一種でそれを滅する政府の秘密機関などといわれたりもしている。
基本的に話題に出すのは男子で女子からの関心はそこまで高くなかった。
ただ、その噂も、噂の領域を出ず、話半分に話すものが多い。
基本的には信じておらず、作り話や映画の撮影などと思っているものが大半である。
ただ、その中でその話を完全に信じている者がいた。
彼の名は衛宮士郎。
赤い短髪の何処にでも居そうな少年。
しかめっ面で口数の多い性格ではないが頼まれた仕事をきっかりと仕上げる職人肌の人間で仲間内の評判は良い。
ただ、目立たないので知名度はそんなに無かった。
彼は最近、仮面ライダーの噂に執心している。
噂を積極的に集め、目撃情報があった場所には自ら訪れ調査を行っている。
他に用事も多いので学校以外の時間を全て裂いているわけではないがそれでも相当な時間をつぎ込んでいた。
そして、その中で彼は仮面ライダーの存在を確信していた。
実際に一度、一瞬だがその存在を確認している。
噂どおりの赤い鎧と奇妙な仮面。そして、大型のバイクを乗り回すその姿を。
更に現れた場所で通常では考えられない破損などを見つけており、
間違いなくそこで人知を超えた力を持ったものが戦闘した形跡を見つけていた。
その二つから彼は確信し、そして、再び仮面ライダーに会うために奮迅している。
一年時から彼の存在を知る者はその姿に何がとり憑いたのかと心配している者も居た。
更に昔から知る者はその姿を当然のように受け止めているが。
現在、彼は朝に新しく流れた噂を思い返していた。
人類基盤史研究所壊滅……
昨夜、その研究所から爆発音が聞こえ、火災の黒い煙が上がっていたという。
住宅街から離れた場所にあるために野次馬もほとんど居なかったが
一部の好奇心旺盛な人物が向かったときには既に警察が駆けつけ、現場への道を塞いでいたという。
更に夜空を飛ぶ奇妙な人型の物体を見たという情報や、どこかへ飛び立つモビルスーツと思わしきシルエットの目撃情報もある。
もしかしたら、【仮面ライダー】が関係しているかも知れない。
士郎はそう推測していた。
ただの推測に過ぎない。
だが、行かなければならない。
そんな予感を抱いていた。
「オッス、オハヨー」
士郎がそんな事を考えていると前の席に生徒が着席し挨拶する。
「おはよう」
士郎は考え事を中断し、彼に挨拶を返した。
前の席に座るのは妙にトゲトゲした髪型をした男子生徒。
名前を武藤カズキといった。
顔は普通だが何時も明るく行動力がある為に周囲からの評判も良い好青年だ。
ただ、尚早暴走しがちでバカをよくやるため。周囲では彼の友人も含めて四馬鹿と呼ばれている。
士郎とは今年、同じクラスになって初めてまともな会話を交わしたような仲だ。
それでも彼の持ち前の明るさから既に打ち解け、友達と呼べるような仲になっている。
それは友達が少ない士郎にとっては珍しい光景だった。
「あっ、そうそう。聞いたか士郎。何でも昨日の夜にどこかの研究所に仮面ライダーが現れたらしいぞ」
彼は士郎が仮面ライダーの情報を集めていることを知っており耳に挟めば教えていた。
まぁ、積極的に集めているわけではないので役に立つことは少ないのだが。
ちなみにカズキも仮面ライダーの存在は信じており、純粋に憧れている。
信じきっている訳でも、追いかけてでも会いたいといった感じではないが。
人知れずに人を救うその姿をカッコいいと感じているようだ。
「研究所って人類基盤史研究所か?」
「そうそう。やっぱり、もう知ってたんだな」
流石だなーとカズキは笑う。
「やっぱり、行くの?」
カズキの問いに士郎は頷く。
「あぁ、もしかしたら仮面ライダーの秘密基地かも知れないし。それにあんなに大きな研究所だってのに
実際に何が起こったとか全然、知らされてないんだ。朝のニュースでもやってなかったし。
何かあるんじゃないかって思ってさ」
「なるほど……よし、オレも一緒に行くよ」
カズキは少し考えるそぶりを見せてそう言った。
おそらく、ポーズだけで言葉は反射的に言ったのだろう。
「何があるか分からないんだぞ」
「大丈夫だって。それに士郎一人だと危ないかも知れないだろ」
それは興味本位からではなく心配から出た言葉だった。
【仮面ライダー】は都市伝説だが、この街で行方不明者が多いのは事実だ。
現状のところ、学園の生徒で居なくなったという話は聞かない。
だが、【仮面ライダー】が本当で研究所が怪しいというなら何が起こるかわからない。
噂の怪物が現れるかもしれない。
そこに一人で行こうとしている友人をカズキは放っておくことが出来なかった。
まぁ、多少は仮面ライダーが見れるかもという好奇心もあるが。
「分かった。それじゃ放課後に行こう」
「学校帰りにそのまま?」
「オレの家や宿舎の場所を考えると学校から直接の方が近いからな。
その方が都合がいいけど……問題があるのか?」
「いや、大丈夫。まぁ、門限があるからそんなに遅くまでは居れないけど」
「そんなに長居をするつもりは無いさ」
二人の間で話がまとまる。
確かに何らかの危険があるのではという考えは二人の頭の片隅にあった。
だが、平和な国の平和な街に生まれた少年のそれがどれほどのものか。
言ってしまえば危機感の不足。
しかし、それを咎められる者はそう居ないだろう。
何せその先に待ち受けているのは本当の怪物だったのだから。
プラント
宇宙に浮かぶコーディネイターたちの居住地である。
現在は一つの国として認められ、評議会を主体に政治を行っている。
そのプラントが保有する軍事組織ザフト。
元々はコーディネイターの自由を勝ち取るために組織され、現在もプラントの軍備として数えられる。
地球連合軍とは違い軍隊ではなく階級の認識が甘く、
また、能力主体で運営されている。
そのザフトが保有する新造戦艦ミネルバ。
ブリーフィングルームにて艦長のタリアと評議会議長デュランダルが会議を行っていた。
部屋に居るのは二人。
そして、会議の内容は日本のBOARDに派遣したシン・アスカについてだった。
「シンからの報告では人類基盤史研究所は完全に壊滅。
生存者は彼が知る限り、アンデッドとの直接戦闘を担当していた仮面ライダー。
剣崎一真と橘朔也の二名のみ。
更に橘朔也は戦闘中に行方をくらまし、現在は行方不明とのことです」
「では、烏丸所長は死亡したという事か?」
「それは不明です。シンの報告では死体は発見できなかったという事ですが
身元が分からない死体も多く判断は出来ないという事です。
便宜上は行方不明という扱いですが状況を考えれば絶望的かと」
「いや、そうとも限らんさ。その仮面ライダーの橘朔也が助け出したという可能性もある。
烏丸所長はアンデッドの第一人者だ。
他の職員に比べその命は重いと言える。
それは同じ研究者であった橘朔也なら良く分かっているはずだ」
「議長は橘朔也の事をご存知なのですか?」
「あぁ、彼は元々、人類基盤史研究所の研究員でね。優れた人物だった。
元々は烏丸所長の右腕としてアンデッドの研究を行っていた程の人物でね彼が書いた論文もいくつか読ましてもらってるよ。
現状は研究所で唯一、適性有りと判断され戦闘員として戦っているが本当なら研究をしているべき人間だ」
「研究員を戦闘に駆り出していたのですか」
「まぁ、そうなるな。ただ、アンデッド戦のノウハウも確立していない状態で単独で何体ものアンデッドを封印している。
戦闘員としての能力も素晴らしいものだ。文武両道とは正に彼のことを指す言葉だろうね」
「なるほど、つまり彼ほど優れた人物ならば烏丸所長を事前に救出し脱出している可能性が高いと
議長はそう判断されるわけですね」
「そうなるね。まぁ、これは烏丸所長が死んでしまってはアンデッドの封印が難しくなってしまうという個人的な感情が入っていると言えるが」
議長は苦笑を浮かべる。
アンデッドの封印。
それは仮面ライダーなくしてありえない。
そして、仮面ライダーはいくら強くてもバックアップ無しに戦い続けられる存在ではない。
「それでシンはどうしますか?BOARDが壊滅した以上、一旦帰還させるのが妥当かと思いますが」
契約対象が無くなってしまったのだ。
派遣していたに過ぎない兵士を元の所属に戻すのが一般的だろう。
「いや、彼にはこのままアンデッド封印を続けてもらう」
「そんな、BOARDが無くなったんですよ。日本に滞在し、戦闘を行うなど日本政府が黙っていないと思いますが」
「その点は問題ない。無くなったのはBOARDだ。アンデッドと戦い続ける限り日本政府は文句は言わない」
「それは?」
「BOARDの上位組織は健在だ。そして、彼らはシン・アスカの戦闘続行を望んでいる」
「上位組織、そんなものが……では、これからは彼らが支援を?」
「いや、BOARDに変わる組織的な支援は無理だという話だ。彼らは仮面ライダーの単独での戦闘続行を望んでいる。
当初、予想されていたアンデッド同士の組織だった行動は認められず。
単独での対応ならば仮面ライダー個人々々での対応で十分だという事だ」
「馬鹿な。索敵や調査は誰が行うのです?」
「策敵については既に手を打っているという。調査だが元々、BOARDには全てのアンデッドが封印された状態で保管されていた。
既に能力把握などは終わっているものと判断するらしい」
「馬鹿な。仮面ライダーの能力は確かに高い。ですが、何の支援も為しに戦わせるなど非人道的過ぎます」
「そうは言ってもだね。我々から出来ることなど限られている。まさか、我々がBOARDを再建する訳にも行かない。
出来ることと言えばシン・アスカを残留させ仮面ライダーの援護に当てることだけだ。
それ以上の支援は現状では不可能だろう」
「確かに……そうですが」
「何かしら手は打てるように尽力するつもりだ。アンデッドをこのまま野放しにするのは私達にとっても歓迎するべき事ではない。
実害が今のところプラントに降りかかることは無いと言ってもだ。
ボードストーンに記されている通りなら、いずれかのアンデッドが勝者となってしまえば
我々、人類は淘汰されてしまうのだからね」
アンデッドと共に発見されたボードストーン。
人類進化の原因を解き明かすために発見されたそれには
人類が何故、ここまで進化し、地球の覇権を手にしたのかの理由が記されていた。
アンデッドによるバトルファイト。
その勝者となった生物の眷属は地球の覇権を手にする。
そして、一万年前のバトルファイトの勝者はヒューマンアンデッド。
全ての人類の始祖だったのだ。
それから今日まで人類は地球の頂点に立ち続けている。
だが、それが事実なら別のアンデッドが勝者となれば現在の生態系は崩れ去る。
勝者の種族が地球を支配し、人類は生態系の頂点から落ちる。
それは人類として避けねばならない事態だった。
「そんな、それじゃあオレはこのまま何の支援も為しに戦い続けなくちゃならないんですか!?」
ホテルの一室。
シンはあの戦いの後、近くのホテルに泊まっていた。
「そうなるわ。ザフトとしては現状維持。つまり、仮面ライダーブレイドと協力し、アンデッドの封印する。
それが貴方の任務よ」
通信機の向こうからタリアが無常にも告げる。
シンとしてもアンデッドと戦い続けることに問題は無い。
むしろ、人々を襲う怪物と戦い続けられることは望むところだった。
だが、支援するはずの組織が無く。
それに替わる支援も無いというは酷すぎる。
聞けばこの地に滞在するための資金も出ないという。
つまり、給料から捻出しなければならないのだ。
軍属のシンにとってホテルに泊まり続けるだけの給料は問題なくある。
だが、それとこれとは別だ。
唯一、あるのはインパルスガンダムのみ。
その修復と保全はザフトで行う。
だが、その他の支援は一切無い。
「この命令が酷すぎるのは分かっている。だけど、私達としてもこれ以上、動きようが無いの。
そして、アンデッドを野放しにする訳にもいかない」
「分かってますよ。それぐらい」
シンは反発するように告げる。
口調も荒々しく上官に対するそれではなかったがタリアは申し訳なさからそれを注意できなかった。
「とりあえず、当面は橘朔也の行方を追ってもらう事になるわ」
シンは橘の名が出た瞬間に顔をしかめる。
既にシンの中では彼は自分達を裏切った裏切り者だった。
「それとアンデッドの策敵だけどアンデッドサーチャーを研究所から回収して使ってもらうということになってるわ」
「それも俺達がやるんですか?」
「えぇ、そのはずよ」
「だけど研究所は警察の調査が入ってるんじゃ?」
「職員の遺体の回収のみらしいわ。重要なデータの処分は行ったらしいけどアンデッドサーチャーは残してある」
「そいつらが俺達に届ければ良いじゃないですか!?」
「それは出来ないそうよ」
「……ッ!分かりました」
「それと回収は日本時間の1900時以降に行って。それまでは警察は警護してるはずだから」
「はい……これで全部ですか?」
「えぇ」
「それでは、失礼します」
シンは一方的にそう告げると通信を切った。
そして、怒りに任せてベッドに叩きつける。
「くそっ!人をていの良い道具だと思ってるのかッ!!」
シンはザフトの命令に納得できなかった。
確かにアンデッドは放置できない。
だが、単独で動けなど死ねと言われているようなものだ。
理不尽な命令に自分の感情をコントロールしきれない。
シンが怒りを噛み潰していると部屋のドアを叩く音が聞こえる。
苛立った気持ちを隠しもしないでシンはドアまで行くと開けた。
そこには剣崎と翔が立っていた。
シンは彼らを一瞥するとそのまま部屋の奥へと歩いていく。
二人は後を追うように部屋の中に入った。
「ザフトとは連絡がついたのか?」
部屋の奥まで行くと剣崎がシンに尋ねる。
「……はい」
「それで?」
「そのまま戦えだそうですよ。俺と剣崎さんの二人だけで」
「……それは本当なのか?」
「嘘を言ってどうするんです!?支援もなし、増援もなし。
インパルスとブレイドだけで戦い続けろだそうです!」
「そんな……なんでだよ!」
剣崎がシンに詰め寄る。
「誰にも頼ることなく戦い続けろってのか!?」
「そういうことでしょ。しょうがないじゃないですか。あいつらと戦う力を持ってるのは剣崎さんだけなんですから」
「そうかも知れないけど……それじゃあ、オレは一人戦って死ねってことかよ!組織も壊滅して一人残されて
橘さんも居なくなって……それでも戦い続けろってのかよッ!」
剣崎はシンの襟元を掴む。
完全に頭に血が上っている。
頼れる仲間は全て居なくなり、一人なって、そして言われた言葉は戦い続けろ。
納得しろといわれて出来る問題ではない。
それは分かる。
「もう沢山だ。こんなことはッ!戦いたくなんて無い!」
戦いの拒絶。
それは仕方ないことだ。
普通、このまま戦い続けるなど聖人でも無ければやれない。
剣崎はただの人なのだ。
自分の命を、人生を、全て投げ出して戦える程の気概は無い。
だが、そんな剣崎の態度がシンは許せなかった。
剣崎の腕を掴むと強引に引き離し、蹴り飛ばす。
「だったら!オレにブレイドを渡せ。お前の変わりにオレが戦ってやる!」
倒れた剣崎に向かい叫んだ。
アンデッドと戦うための力を持っているのに戦いから逃げるその姿が許せなかった。
泣くのは何時だって力が無い人々だ。
それを救えるのは力を持つ者だけだ。
その力を持つ者が逃げ出すなんて許せなかった。
「なにすんだッ!」
剣崎は立ち上がりシンに殴りかかる。
シンも拳を構える。
そして、繰り出される拳。
だが、それはそれぞれの相手に届くことは無かった。
「なっ」
シンと剣崎
二人の間に立ち翔が両の手で受け止める。
「仲間割れをしてどうするんだ?」
翔が冷ややかな様子で尋ねる。
「お前には関係ないだろ!」
「さぁな。だが、目の前で殴りあいされて気分がいいものじゃないんでな」
二人はどうにか翔の手から逃れようとするが全くびくとしなかった。
「二人とも協力してくれる奴が居ないから怒ってるんだろ?」
そうではないが翔にとって二人の会話から行き着いたのはそれだった。
「違う、そういうわけじゃ」
「じゃあ、アンデッドとか言う化け物を野放しにしておきたいのか?」
痛いところをつかれる。
周りの理不尽から暴走したがアンデッドを放っておくわけに行かないというのは共通に認識だった。
「だったら、アンデッドとの戦いにオレも協力する」
翔のその言葉に二人は驚く。
「どれだけ力になれるかは知らないが何も無いよりマシだろ」
「だけど、お前は……」
「記憶なんてどうにでもなるだろ。
昨日はシンを助けて、シンに助けられて。
剣崎とシンがアンデッドと戦うのを見た。
今日は喧嘩する二人の間に立っている。
……別に何もかも無いわけじゃない。今もこうして生きてるんだ。
常に積み重ね、刻み続けている」
当然という表情で彼は告げる。
本気で記憶喪失のことを気にしていないようだ。
「それに元々、一人じゃなかっただろ二人とも。お互いに仲間が居るじゃないか。
アンデッドとか言う化け物相手に一緒に戦って勝利した仲間が」
翔に言われシンと剣崎はお互いに顔を見合わせる。
確かに何の支援も無い。
だけど、最初から言われていたはずだ。
シン・アスカと剣崎一真が協力しアンデッドを封印しろと。
一人ではない。
確かに心もとないかもしれない。
「そうだな。戦うのはオレ一人じゃない。シンもいる」
「剣崎さん……」
「さっきはすまなかった。どうかしてたよ。
オレは仮面ライダーだ。人を救うのが仕事なんだ。
それを忘れていた。
だから、お前にブレイドは譲れない。これがオレの仕事だから」
「……別に剣崎さんがやってくれるってなら問題ないですよ。
オレにはインパルスがあります。
どこまで力になれるかは分からないけど」
シンはやる気を取り戻した剣崎を見て落ち着く。
現状はほとんど変わっていない。
だけど、やれることをやらなければならないのだ。
何時、何処で力ない人々が襲われるかも分からない。
それを救う為に立ち止まるわけにはいかない。
「だけど……翔、お前戦えるのか?」
「さぁな。とりあえず、身体能力はお前達以上みたいだが生身でアンデッドとどりだけやりあえるかは分からないな。
昨日の様子だと非常に分が悪いといった感じだが」
「アンデッドを封印するのはオレの仕事だからな。別に無理する必要はないぞ」
「そう言ってもらえると助かるな。まぁ、出来る限りの事はするさ」
「そういえば、翔のことは伝えたのか?」
「あぁ、とりあえず保護しておけとしか言われなかったな」
「やっぱり、烏丸所長、もしくは橘さんを見つけないとダメか」
研究所地下で眠っていた記憶喪失の少年。
剣崎は見覚えが無いどころかそのような人物がいるという噂も知らなかった。
だが、烏丸所長が知らないはずは無い。
もし、生きているのならば彼に会うことで翔の事は分かるはずだ。
翔自身は現状に特に不満は無いらしく共に行動している。
警察に届けるという案もあったが翔自身が拒んだくらいだ。
「とりあえず、夜になったら研究所にアンデッドサーチャーを取りにいこう」
アンデッドサーチャー。
アンデッドが戦う際に発する波長を感知し位置を知らせるセンサーだ。
戦い……つまり、何かを襲わない限り発見することが出来ず、
後手にまわってしまうがこれ以外に発見する手立ては存在しない以上、重要な道具だ。
これが無ければアンデッドが暴れていても偶然に近くを通りかからない限り
それを発見することが出来ないからだ。
とりあえず、3人は時間までホテルで時間を潰すことにした。
夜
研究所内の林を歩く男子が二人。
衛宮士郎と武藤カズキの姿が在った。
「すっかり、暗くなっちゃったな」
カズキが夜空を見上げて呟く。
「警備を巻くのに時間くったからなぁ」
士郎も呟いた。
学校が終わり、意気揚々とここまでやってきたものの警察が警備していて近づくことが出来なかったのだ。
どうにか迂回し警備が薄い場所を探して忍び込んだものの
気づけば夜。
ということである。
ちなみに二人は知らないが既に警察は撤退している。
シンたちがアンデッドサーチャーを取りに来る邪魔をしないためだ。
そんな事も知らず二人はこそこそと移動する。
研究所内部
そこは荒れ果てていた。
人が通れる道は確保されているものの壁には未だに血がこびりついていたり、
砕けていたりと惨状を匂わせるには十分だった。
「……一体、何があったていうんだよ」
士郎の足は少し震えている。
間違いなくここで殺戮が行われた。
どうすればこんな風に殺せるのか想像したくない。
「なぁ、やっぱり帰ったほうが良くないか?」
カズキが士郎に告げる。
とてもじゃないが一介の学生が介入していい領分で無いと感じている。
「いや、ここまで来たんだ。もう少し奥まで行ってみる」
だが、士郎はそれを拒絶する。
ここで何が起きたかは分からない。
だが、放っておいていいとは彼には思えなかった。
スタスタと歩みを進めていく。
その後姿にカズキは仕方なくついていくことにした。
彼は言うことを聞かないだろう。
一人にするにも危険すぎる。
なら、彼が納得するまで付き合うのが一番手っ取り早く感じたからだ。
しばらく、周囲を見渡しながら二人は進んでいった。
その途中、ふとカズキが横に伸びた廊下の先を見た。
そこにセーラー服を着た小柄な少女が反対側の廊下を歩いていく姿を見つける。
一瞬、警備の人かと思ったが格好がおかしすぎる。
とてもではないが研究所の関係者にも思えなかった。
あるとすれば自分達と同じ侵入者か。
もし、一人なら危険だと思い追いかけようとする。
だが、次に廊下から見えた姿にその足を止めた。
巨大な蛇のような化け物。
それを目にした瞬間、カズキはその姿を急いで壁に隠す。
気づかれたか……
緊張が走る。
耳に意識を集中する。
ズリズリと何かが這う音が小さく聞こえた。
それが泊まる。
心臓が張り裂けそうなほどに脈を打つ。
時間にすれば一瞬だっただろう。
だが、カズキにとってそれは永遠にも感じられた。
そして、再び何かが這う音が始まる。
それは次第に遠ざかっていった。
少なくともこちらには近づいていないようだ。
「本当に化け物がいるなんて……」
ここに居ればあの化け物に襲われるかもしれない。
直ぐに逃げ出さなければ。
「(そういえば……あいつが進んだ先って……)」
カズキは蛇の化け物を見る前に去っていった人影を思い出す。
そうだ。あの化け物はあの少女を追って行ったに違いない。
ライトを付けて確認していたのだ。
こちらに誰か居るのには確実に気づいていたはず。
それでも追ってこなかったのは。
それ以上に優先するものがあったから。
このままではあの少女の命が危ない。
「士郎……」
カズキは友達に声をかけようとする。
だが、その姿はそこになかった。
おそらく、カズキの様子に気づかずそのまま進んでいってしまったのだろう。
今から彼を探していては間に合わない。
だが、士郎も危険かもしれない。
一瞬の躊躇。
だが、どちらがより危ないかで言えば間違いなくつけられていた少女だ。
カズキはそう判断すると廊下を駆け出した。
少女はライトを片手にファイルを開いていた。
「めぼしい資料は既に運ばれた後か……」
特に感情も示さずに淡々とファイルに目を通し、棚に戻す。
「しかし、この状態では生き残りはいないだろうな……
となると、噂の仮面ライダーもやられたのか……」
少女は顎に手をやり思考する。
暗がりの中の考え事、それは隙を作っていた。
既に戦いが終わった場所。
そこで何かに襲われると考えていなかったのか。
ともかく油断があった。
今、まさに背後から迫る存在に少女は気づいていない。
背後に迫る巨大な蛇。
それはさながら狩人のように獲物に静かに近寄る。
そして、少女を射程圏内に捕らえた。
狩人と獲物。
狩りの瞬間が始まる。
だが、最初に動いたのはどちらでもなかった。
「危ないッ!!」
突然の大声とライトの光。
そして、その持ち主は勢いよく駆け出した。
突然の闖入者に狩人の動きが一瞬、止まる。
獲物となる少女はその声でようやく、背後の存在に気づいた。
だが、それでも間に合わない。
蛇の尻尾が少女目掛けて繰り出される。
少女は飛びのこうにも体が反応しない。
「(しまった……!)」
少女は自分の不覚を知る。
だが、どうにもできない。
少女自身には。
その小さな体が突き飛ばされた。
横からかけてきた少年の手により。
少女の体が壁に激突する。
そして、見た。
自分の替わりにその心臓を串刺しにされる少年の姿を。
蛇は仕損じたことを知ると即座に撤退する。
少女はその後を追おうとするが地面に倒れた少年の姿を見た。
「……見ず知らずの人間を助けるために命を投げ出したのか」
命がけで誰かを助ける。
それを行えるものが一体どれほど居るというのか。
それが肉親や親友。
情の入り込む相手ならともかく、見ず知らずの人物となれば更に少ない。
確かに無謀な行為だ。
誰かを助けても自分が死んでしまっては何にもならない。
だが、最後の一瞬で見た少年の顔は何のためらいも存在していなかった。
武藤カズキ
それが少年の名前。
少女は知らない。
カズキが少女の名前を知らないように。
「勇気のある少年だ……君のような人は死ぬべきじゃない」
少女はポケットから六角形の金属を取り出す。
その中心にはLXXと記されている。
そして、それを心臓があるはずだった場所に埋め込んだ。
「おい、大丈夫か?」
カズキは体をゆすられる感覚に目を覚ます。
「ここは……?」
霞む視界。
「人類基盤史研究所……跡地だ」
開けた視界に立つのは小柄の少年だった。
その手には木刀が握られている。
「……彼女は……?」
最後に助けようとした少女のことを思い出す。
それと同時に心臓に激痛が走った。
「大丈夫か?胸に酷い傷がある。無理しないほうがいい」
少年は自分の心臓がある位置を指し告げる。
カズキは自分の胸に大きな傷があることを知った。
そして、思い出す。
自分は少女を救う為に身代わりになって死んだこと。
「そんな!?オレは死んだはず!?」
カズキは飛び上がるように立ち上がる。
意識が混濁する。
心臓を貫かれた後、何かがあったような気がするが。
思い出せない。
「死んでるように見えないが……」
慌てふためくカズキを身ながら少年は呟く。
「……君が助けてくれたのか?」
「オレはここに寝てるお前を見つけただけだ」
どうやら、この少年は何も知らないようだ。
「そうか……オレは武藤カズキ」
「天翔だ。とにかく、ここは危ないから早く帰ったほうが……」
翔がそう告げるがそれと同時に何処からか悲鳴が聞こえた。
カズキはその声に聞き覚えがあった。
衛宮士郎。
共にここに来た友達。
悲鳴を上げるということは何かに襲われた。
カズキの脳裏に蛇の化け物が浮かび上がる。
それと同時に駆け出していた。
「待て!」
翔もその後を追い駆け出す。
「今ここには化け物が潜んでる。危険だ」
翔はカズキに追いつき併走しながら告げる。
「あの声はオレの友達なんだ!」
だが、カズキは足を止めない。
「行ってどうにかなると思えないが」
「それでも見捨てられるもんか」
「……先に行く」
翔は一瞬の思考の後に加速する。
廊下を蹴り飛ばし走り抜ける。
一瞬でカズキとの差を広げ駆けて行った。
「速い……」
そのスピードは人間のそれとは思えなかった。
衛宮士郎は怪物と相対していた。
それは蛇の姿を金属の化け物。
その姿は巨大で士郎を見下ろしている。
その口は大きく人間を簡単に人のみに出来そうだ。
「こいつが……噂の化け物!?」
士郎はとっさに近くにあったパイプを掴む。
人を襲う怪物。これが仮面ライダーの噂に登場する化け物なのか。
体格からして普通の人間が相手になるものではない。
だが、それでも黙ってやられるわけには行かないと士郎は意識を集中する。
「やるしかない……強化……」
士郎は何事かを呟く。
それと同時に脳に激痛が走った。
「ダメか……」
心が焦る。
蛇はじりじりと獲物を追い詰めるように距離を縮める。
そして、その口を大きく開いた。
巨大な口。その中に顔があった。
人間の顔。
それを見た瞬間、士郎は目を見開いた。
「ははは、いい顔だな。衛宮」
口の中の顔が喋る。
それは士郎の知っている顔だった。
「み、巳田先生……!?」
学園の英語教師。巳田。
それが士郎の知っている顔だ。
だが、今、目の前に居るのは……
「お前は藤村のお気に入りだったな……
お前が居なくなったと知れば奴はどんな顔をするだろうなぁ?」
顔が好奇に歪む。
それは心底邪悪な笑みだった。
「う、うわぁぁッ!」
士郎は無意識に鉄パイプを振り下ろす。
金属と金属がぶつかる高い音。
士郎は自分の手がしびれるのを感じた。
「その程度か……人間は悲しいな」
そして、そのまま蛇は士郎を飲み込もうとする。
だが、それは阻止された。
横から飛び込む影。
それは木刀を振り下ろし、巳田の体を吹き飛ばす。
その体は壁に激突した。
「大丈夫か?」
翔は床に着地すると士郎に尋ねる。
「あ、あぁ……」
士郎は突然の援護に困惑するも安堵を感じた。
見た目は普通の少年だ。
だが、あの巨体を弾き飛ばす力。
とてもではない人間業ではない。
「ちっ……まだ、居たのか」
巳田は忌々しげに翔を睨む。
見た感じダメージらしいダメージは無かった。
細長い体躯がうねるように移動する。
その様子を見て翔は士郎に目配せする。
「……逃げろ!」
翔はそう告げると木刀を下段に構え、相手の間合いへと飛び込む。
士郎はその声につられて走り出した。
廊下に出ると同時に後ろから打撃音が聞こえる。
任せて逃げ出して大丈夫なのかと士郎は後ろを振り向こうとする。
「士郎!」
それは廊下から聞こえる声で中断された。
士郎が声の方向を向くとそこにカズキが駆けてくる姿が見える。
「よかった。無事だったんだな」
士郎のそばまで駆けつけると息も切れ切れという様子で話しかける。
「あぁ、木刀を持った男の子に助けられて……」
士郎が事情を説明していると部屋から翔が飛んできた。
そして、そのまま壁に激突する。
「がはッ……」
壁に弾かれ仰向けに廊下に倒れる。
「大丈夫か!?」
士郎が駆け寄ろうとするが
「早く逃げろッ!」
その叫びに足が止まる。
翔は飛び上がると再び木刀を構える。
だが、口からは血が流れ、足も震えている。
対して巳田は完全に無傷だった。
「無駄だ……ホムンクルスのこの体。その程度の武器で傷一つつけられるものか」
巳田は抗おうとする翔を見下し告げた。
「……こんなものか。オレの力も……シンと剣崎が居ればな」
翔は仲間のことを思い出す。
彼らの戦闘は間近で見ている。
あの力ならばこの化け物とも互角にやりあえるだろう。
だが、たかが人間を少し上回る程度の力では怪物には太刀打ちできない。
人が化け物と戦うには同じ力を使うか、人類が持ちうる科学力で武装するしかない。
翔にはそのどちらも欠けていた。
「(……こんなところで死ぬのか?)」
まだ、目覚めて一日しか経っていない。
過去の記憶も無く、自分が何者かも分からぬままに朽ちるのか。
過去は気にしていないと口では言っても余りにも無念過ぎる。
翔が諦めかけていると彼の前に起つ影が現れた。
それは先ほど翔が護った少年。
「……逃げろと言ったはずだが」
「そんな体で何を言ってるんだ。助けてもらった相手を見捨てて逃げられるものか」
士郎は鉄パイプを構え翔を護るように起つ。
「それに一人よりも三人の方が助かるかも知れないだろ」
カズキも同様に士郎と並び立った。
「お前達……」
翔はどこか胸が熱くなるのを感じる。
時は遡り、翔がカズキを見つけた頃
シンは初めて翔と出会った場所を再度、訪れていた。
「……何もなくなってる!?」
その部屋は完全な空き部屋となっていた。
翔を検査していたと思わしき機械の類や寝かされていたベッドすらない。
何かが置かれていた後はあるものの。
その置かれていたはずの物は何一つとして残されていなかった。
「……俺達が居ない間に全部撤去したって言うのか……」
他のBOARDで使用されていた機器も大半は放置されている。
そのほとんどは破壊され使い物にならなかったが。
それよりもこの部屋にあった物を隠蔽したかったというのか。
そう、始めからこの場所には何も無かったかというように。
「天翔……何者なんだ。あいつ……」
話してみれば何処にでも居そうな普通の少年だった。
ただ、その身体能力はコーディネイターのシンすらも上回るものだ。
その力は一般の人間を越えてはいるものの人知を超越するものではない。
特別な訓練を受けたコーディネイターならば生身でも対応が可能だろう。
故に力が彼の本質ではないような気がする。
他の何かが彼にあるのか?
だが、シンには何も思いつかなかった。
彼の過去を知るには情報が少なすぎる。
「……今は気にしないでおくか。本人も気にしていないしな」
諦めてシンはその部屋を後にした。
シンたちはこの研究所に着いてから個別に行動している。
その原因はアンデッドサーチャーがどこにあるのか分からなかったからだ。
所属していた剣崎もアンデッドサーチャーの存在は知っていても何処に置かれていたかは知らなかった。
仕方なく彼らは別々に行動して地道に探し回っているというわけだ。
その途中でシンは翔のことが気になり、こうしてあの部屋に訪れた訳だが。
完全な無駄足だった。
地下はほとんど破壊されつくしていて調べようが無かった。
それに基本的に研究で使用されていたようなので通常の職務で使用するものは無いだろうと判断した。
シンは階段を上がり、上層部へと出る。
すると何かが暗闇に常時、飛びかかってきた。
シンはとっさに横に転がりそれをかわす。
と、同時に何かが砕けるような音が聞こえた。
シンがそちらにライトを向けるとそこには金属質なサルのような化け物が立っていた。
そして、その拳は壁にめり込み、壁に亀裂が入っている。
「アンデッド!?」
シンはとっさに転送装置を取り出す。
「コール・インパルス」
転送装置を起動させると瞬時にインパルスが出現する。
シンはインパルスを装着すると起動させる。
と、同時にサルの化け物が飛び掛ってきた。
拳が装甲にぶつかる。
「直撃……なんだ?」
しかし、ダメージは無い。
フェイズシフト装甲の強度でその攻撃を完全に弾いていた。
「(力が弱いのか……小手調べなのか……)」
シンは相手の出方を伺うべく、フォールディングレイザーを取り出し、サルの化け物に突き刺した。
刃に振動を発生させ、切断能力を向上させたナイフ。
それはモビルスーツの装甲も両断する。
だが、アンデッドに対しては無意味だろうと評価されていた。
数段上の切れ味を誇るブレイラウザーでも致命傷までいかないのだ。
ナイフ程度の傷では無限の命を誇るアンデッドには何の効果も無いといわれていた。
だが、目の前のサルの化け物には刃が突き刺さり、その顔は痛みに悶えている。
「利いた!?」
シンは驚くがそのまま、壁に叩きつけた。
刃は貫通し、サルの化け物を体を粉砕する。
「倒せた。アンデッドじゃないのか……いや、昨日のイナゴみたいに眷属なのか」
昨晩戦闘したローカストアンデッドは巨大イナゴという自分自身の子供を大量に生み出していた。
シンも2体程相手にしたが本体とは比べ物にならないほどに弱体化しており、
不死の力も持っていなかった。
今回もそのパターンだとすれば親玉としてサルのアンデッドが居るかもしれない。
だが、シンは知らなかった。
確認されている52体のアンデッドにサルの始祖となる生物が存在していないことを。
また、それらに類する生物の始祖もいない。
「う、うわぁ!」
何処からか悲鳴が聞こえる。
シンが声の方向に振り向くと先ほどのサルと同じようなのが逃げ出している姿を確認した。
「逃がすかッ!」
シンはその後を追う。
これで複数居ることは確認された。
一体では対した事無いが複数に取り囲まれた場合、どうなるかは分からない。
廊下を渡り、その後を追いかける。
流石にサルらしく素早く走り抜けていくがインパルスの速度で追いつけない速さではなかった。
次第に距離が縮まる。
だが、完全に縮まる前に突如、そのサルが両断された。
シンは驚き足を止める。
目を凝らすとその先には一人の少女が立っていた。
セーラー服を着た少女。
それだけでもこの研究所には似つかわしく無いが更にその両の太ももには金属製の筒状の物が装着され。
そこからアームが伸びていた。
そして、その先には鋭利な巨大な刃が取り付けられている。
それが4つ。
それは見たことも無い武装だった。
一体、どこで開発したというのか。開発者の神経を疑いたくなるぐらいだ。
だが、そのアームから伸びた刃はインパルスのセンサーでも捕らえがたい程の速度で動作し、
飛び込んでいったサルの化け物を両断した。
凄まじい精度と速度を持ったマニピュレーターだ。
インパルスの指や腕も同程度の精密動作は可能だろうが、あの速度は出来るかわからない。
「何なんだ、あんたは?」
シンは思わず叫んだ。
「こっちも尋ねたいぐらいだな。モビルスーツが何故、こんなところにいるのか。
だが、敵対するつもりでは無いなら少し下がっていてもらいたいな」
そういうと彼女は跳躍した。
それと同時に彼女が居た場所に拳がたたきつけられる。
人一人に相当しそうな巨大な拳。
それは床を粉々に砕く。
「モビルスーツか……丁度良い。この体がどれだけ通用するのか知りたかったところだ」
その拳の持ち主が笑う。
それは他のサルに比べて圧倒的に巨大だった。
そして、その体躯はサルのそれではなくゴリラ。
装甲で覆われたその体越しでもその筋肉が見て取れる。
「ゴリラのアンデッドだとでも言うのかよ!」
シンは叫んだ。
その大きさはこれまで見てきたアンデッドのどれよりも巨大だ。
普通に考えれば大きければその力も大きくなる。
人間と同じサイズのアンデッドの一撃でもまともに食らえばインパルスの装甲は持たない。
もし、あの巨体から繰り出される一撃を食らえば……
インパルスといえども粉砕されてしまうのではないか。
恐怖に足がすくむ。
「アンデッド……違う、奴はホムンクルスだ」
シンの叫びに少女が答える。
「ホムンクルス!?」
「人が錬金術で生み出した生命体。アンデッドのように死なないわけじゃないが普通の生物よりも圧倒的に丈夫だ」
少女が説明する。
錬金術で生み出した生命体。ホムンクルス。
シンは知らない言葉だった。
「人が造ったって、そんなのザフトでも聞いたこと無いぞ。連合の新兵器かなんなのか?」
「ザフト……コーディネイターなのか……」
少女は怪訝な表情を浮かべる。
日本でコーディネイターは珍しい。
ましてやザフトに所属して、モビルスーツに登場しているというなら外交問題に発展するほどだ。
だが、彼女がそこを詮索するべきことではない。
「ホムンクルスは新兵器なんかじゃない。
モビルスーツやコーディネイターよりも前から存在し、人に害をもたらす存在だ」
「人に害を……?」
「ホムンクルスは人を喰う」
告げられた言葉にシンは硬直する。
「例えモビルスーツに乗っていたとしても危険だ。奴らの力ならモビルスーツの装甲といえども破壊できる。
捕まらないうちに逃げるんだな」
少女が宣告する。
彼女はモビルスーツではホムンクルスに勝てないと言った。
彼女はホムンクルスを良く知っているのだろう。その力を。
だが、シンはそれを知らない。
どれほど強大な力を持っているのか。
「だったら、放って置けるものか。人を喰うっていうなら。二度と食べられないように叩き潰す」
それでも人を襲うなら倒さなければならない。
力ない人々が死なない世界。
その為にこのインパルスに乗っているのだから。
インパルスはソードシルエットを装着し、エクスカリバーを引き抜く。
そして、一直線にホムンクルスへと向かう。
「馬鹿なことを……」
少女はシンを覆うとする。
だが、周囲から先ほどのサルの化け物が飛び出したら。
親玉がホムンクルスならばこいつらもホムンクルスだろう。
サル山のボスを護る子分。
彼らは忠実にボスに害を為そうとする者を阻む。
そう、シンに対しても数匹の子分が襲い掛かる。
「遅い!」
両手のエクスカリバーで飛び掛ってきた子分を両断する。
振り下ろしたエクスカリバーを左手で保持すると右手でフラッシュエッジを取り出し、投擲した。
フラッシュエッジ・ビームブーメラン。
それは曲線を描き、2体の子分を両断する。
「ビーム兵器……それもかなりの威力だ……一体、何者なんだ」
少女は迫り来た子分を刃で串刺しにし、退けている。
そして、驚嘆する。
目の前のモビルスーツの性能は彼女が知っているそれよりも遥かに上だった。
あの力ならもしかするとホムンクルスも倒せるかもしれない。
そう、感じている。
少女が考え事をしていると突如、近くの壁が砕け散った。
そして、一人の少年が投げ出される。
いきなりの事態に視線をそちらに向ける。
それはシンも同じだったらしい。
「翔!」
シンは転がる人物を認識すると叫んだ。
頭から血を流し、その服のいたるところがボロボロになっている。
おそらく、全身に傷を負っているだろう。
そして、その体はピクリとも動かない。
シンはとっさに助けようと飛び出す。
だが、その体はホムンクルスの拳に吹き飛ばされた。
「ははは、戦いの最中によそ見するとはなぁ」
インパルスは吹き飛び、壁に激突した。
そして、転がっていた瓦礫の中にうずもれる。
「くっ……」
すかさず少女が翔に近づこうとするがその足が動かない。
少女が視線を下に移すと子分が二人、少女の足を固定する。
「しまった……!」
振りほどこうにもびくともしない。
「何だ……そちらでも戦っていたのか」
先ほど開けられた壁を通り、巳田が現れた。
その体のいたるところが破損しているもののその声に動じは無い。
「あぁ、モビルスーツと錬金の戦士がな。モビルスーツのほうは片付けたところだがよ」
ゴリラのホムンクルスが告げる。
「こちらは一人が頑張っていたが今、力尽きたところだ」
ズルズルと巳田は翔へと近づいていく。
「うおおおぉぉぉ!」
その背後から士郎が飛び出し、巳田の後頭部を鉄パイプで殴りつける。
だが、その装甲は欠けすらしなかった。
「……いい加減、煩わしいな」
巳田の尻尾が士郎の体に巻きつく。
そして、士郎の体を締め上げた。
体が圧迫され、肉がきしみ、骨が悲鳴を上げる。
「ぐあああッ!」
士郎は苦悶に叫び声を上げた。
「さて、散々邪魔されたがこれで終わりだ」
そう告げると巳田は大きく口を広げた。
「止めろッ!」
少女が叫ぶがその目の前にゴリラのホムンクルスが立ちふさがる。
「お前の相手はオレがしてやる。何、お前も直ぐに同じ末路を辿るさ」
にやけ見下す。
少女は怒りに震える。
既に足を固定していた子分を刃で切り裂き、処分した。
だが、立ちふさがれた時点で終わっていた。
その程度の時間で食事は完了する。
士郎の体は巳田に丸呑みにされた。
「うわあああああああああ!」
絶叫が響き渡った。
それは士郎のものではなく。
更にこの場所に現れたもの。
カズキは親友が丸呑みにされた姿を目撃し、ブチ切れた。
「貴様ぁッ!!返せ俺の友達をッ!!」
怒声と共に鉄パイプをたたきつける。
凄まじい勢いで振るわれる鉄パイプはひしゃげ、巳田の顔を少し削る。
だが、それだけだった。
巳田はカズキを煩わしそうに尻尾の一振りで弾く。
「お前もいい加減、諦めろ。友達同士、仲良くオレの胃袋に入れてやる」
そして、顔をカズキに近づけた。
カズキは霞む視線の先に移る顔を睨んだ。
士郎と翔と一緒に懸命に戦った。
だが、一矢報いることすら出来なかった。
自分を助けるために翔は傷つき倒され。
士郎も飲み込まれてしまった。
そして、今、自分も飲み込まれようとしている。
この化け物が何者なのかも分からず。
死ぬ
もし、こんなところに来なければ。
士郎を止めていれば
士郎も食われず、足手まといが居ないので翔も逃げられたかも知れない。
変えられたかも知れない現状
少年特有のちょっとした冒険心が全て崩した。
本当なら何も知らずに過ごして、何時もどおりに明日を迎えていたはずだった。
後悔……
だが、それ以上に……
カズキの心は憤怒に燃えていた。
士郎を食った。
大切な友達を
護れなかった
戦えれば
戦う力があれば護れたのに
自分の死よりも
友を救えなかった痛みが心をしめる。
死への恐怖よりも
目の前の敵を倒そうとする闘争心が牙を向いていた。
鼓動が早くなる。
血が全身を駆け巡る。
体が熱くなり、頭の中が真赤に染まる。
「!!」
何処からか声が聞こえた。
その声に耳を傾ける。
「心臓に手を当てろ!自分の中の闘争心を掌握しろ!そして、叫べ」
言葉の通りにカズキは心臓に手を当てた。
心臓の高鳴り更に加速していく。
体全体に炎が灯ったように熱くなっていく。
自分の中からあふれ出る敵への怒り、自分への怒り、そして、生への渇望
人が、生命が、生き抜くために持つ力
この世界に生命が生まれて初めて出来た理
原初の力
闘争心をその手に掴み、構築する。
それは命の剣。生きる為の力。
「武装錬金!」
カズキの心臓
その代わりを果たす六角形の金属……核鉄。
それが展開し、カズキの闘争本能を元にその姿を変えていく。
それと同時に光が放たれた。
生み出された力が物質を形成し、形を成す。
出来上がった姿は巨大な槍だった。
カズキの全長を超えるほどの巨大な槍。
それは光と共に出現し、同時に巳田の顔を貫いた。
どれだけ力を入れても砕けなかった体が崩れる。
「何だとッ!馬鹿な……お前が錬金の戦士だと!?」
巳田は驚愕し叫んだ。
何故、そのような力を持ちながら使わなかったのか。
いや、違う。
何故、持っているのか。
巳田が知る限り。武藤カズキという少年は極普通だ。
少し馬鹿なだけの何処にでもいるような生徒だ。
だが、目の前の人物は違った。
その手に巨大な槍を携える。
「これが……」
カズキは自分の武装錬金を持つ。
不思議と重くなかった。
これほどの大きさ。普通ならカズキがもてる物ではない。
だが、軽々と扱えそうだった。
まるで自分の体のように。
今なら倒せる。
そう、直感していた。
この力の前に目の前の化け物は無力だと。
「士郎は返してもらう!」
カズキは槍を構えると一気に突き出した。
巨大な質量が巳田の体を貫く。
それで終わった。
巳田の体はバラバラに砕け散る。
そして、その体の名から士郎が現れた。
「なっ……馬鹿な」
ゴリラのホムンクルスは驚嘆する。
一撃。たった、一撃で巳田が倒された。
これほどまでに力の差があるというのか。
ホムンクルスと武装錬金の間に。
「次は貴様の番だ」
目の前でその武装錬金を持つ女が告げる。
かざされた四本の刃。
「この女を止めろ!」
ホムンクルスが叫ぶと未だに潜んでいた子分が一斉に少女に飛び出す。
「臓物をぶちまけろッ!」
それらを刃が唸り、子分の体を引き裂く。
後に残るのはズタズタにされた死体だけだった。
「ひいぃ!」
ホムンクルスは逃げ出す。
もはや、なりふり構っていられない。
だが、その目の前に立ちふさがるものがいる。
「こんなことしておいて。今更、のうのうと逃げ出せると思っているのか」
それは先ほど吹き飛ばされたインパルスだった。
それにホムンクルスは安堵する。
モビルスーツなら相手になる。
意気揚々と拳を振るった。
だが、それをインパルスは跳躍で回避する。
彼は知らなかった。
自分が相手にしているのはザフトが開発した最新鋭のモビルスーツだということを。
現状、存在するモビルスーツの中でトップクラスの性能を持つものだということを。
「これで終わりだッ!」
インパルスは頭から胴体にかけてエクスカリバーを振り下ろす。
巨大なレーザーの刃がホムンクルスの巨体を物ともせずに両断した。
「そ、そんな……」
ホムンクルスの体は粉々に砕け散った。
「皆、大丈夫か!?」
剣崎が駆けつける。
だが、それは既に戦闘が終わった後だった。
「あっ、剣崎さん。遅かったですね。全部終わりましたよ」
シンが白い目で剣崎を見る。
「すまない。妙な奴を追ってて。それで戦いの音が聞こえたから急いできたんだけど」
剣崎は申し訳なさそうに両手を合わせて謝る。
「妙な奴……?」
「あぁ、よく見えなかったんだけど。誰かが居たんだ」
「もしかして、あの人か?」
シンが少女を指差す。
剣崎は首を横にふった。
「いや、もっと背が高かった……で、彼女は?」
剣崎は見知らぬ顔なのでシンに尋ねるがシンも首を横に振る。
「あいさつが遅れたな。私は津村斗貴子。錬金の戦士だ」
少女が挨拶する。
「錬金の戦士……?」
聞きなれない単語にシンが呟く。
「それよりも君達も名乗ってもらいのだが」
そこでようやくその場の全員がお互いに名乗る。
一通り、挨拶が終わり
「そうか。君が仮面ライダーか」
斗貴子が値踏みするように剣崎を見る。
「まだ、成り立てだけどな」
「しかし、まさかBOARDが壊滅しているとはな」
「君もBOARDの関係者なのか?」
「いや、違う。ただ、この街に潜むホムンクルスを討つ上で情報がないかと尋ねに来ただけだ。
この街を拠点にアンデッドという化け物と戦っていると聞いたからな」
「ホムンクルス……?」
「錬金術が生み出した人工生命体の事だ。人間に寄生して誕生するタイプと一から独立した個体となるタイプがあるが。
私が追っているのは人に寄生するタイプだ。
まず、完成体となるのに一人の人間に寄生し、その体を乗っ取る。
そして、出来上がったホムンクルスは主食として人間を食らう」
斗貴子の説明の一同は戦慄した。
「それじゃ、あいつらも元は犠牲者だったって……人間だったって言うのか!?」
シンの叫びに斗貴子は頷く。
「あぁ、元の人間だったころの人格は一切なくなる。
生み出すのに一人。そして、生み出したホムンクルスにより犠牲者は次々に増えて行く」
「……って、人工生命体って言ったよな?それじゃ、誰かが造ってるって言うのか?この街で!?」
「察しがいいな。そうだ。この街にホムンクルスを生み出している創造主がいる。
そいつを倒さないことには事件は終わらない。次々と犠牲者がでる事になる」
その言葉にシンは近くの壁を殴りつけ、剣崎も歯噛みした。
そのようなことを見過ごすわけには行かない。
人が人を殺すものを生み出すなど許されるわけが無い。
「それを倒すために私は戦っている。武装錬金の力で」
「武装錬金?」
カズキが尋ねた。
あの戦いの折に叫んだ言葉。
それと共に巨大な突撃槍が出現した。
「あぁ、錬金術の長い歴史の中で集大成といえる技術が二つある。
ホムンクルスと核鉄。
武装錬金はその核鉄の力で生み出された武器だ」
斗貴子が六角形の金属を取り出す。
「使用者の闘争本能によって起動し、その者にあわせた武器へと変化する。
人間よりも強力な力を持つホムンクルスに対する人間の武器だ。
その威力はモビルスーツの武装に比べても遜色は無い」
その説明にシンは斗貴子とカズキの武装がホムンクルスを容易く破壊していたのを思い出す。
ホムンクルスはそこまで頑丈ではなかった。
だが、人の力でアレは砕けない。
生身の肉体で使える武器としては破格の威力といえよう。
「それでこの核鉄だが……君の胸に埋め込まれている」
斗貴子がカズキを指差す。
カズキは穴の開いた制服から自分の胸に手を合わせる。
「君はホムンクルスから私を助けるために心臓を貫かれた」
その言葉に斗貴子とカズキ以外が騒然とする。
心臓を貫かれて生きていられる人間は居ない。
当然の理だがカズキは平然としている。
「潰された心臓の替わりに核鉄を埋め込んでいる。
核鉄には所有者の生存本能に働きかけ、傷の再生を速める能力がある。
その力で核鉄は君の心臓の代わりとして活動している」
カズキは手のひらで脈動する心臓を感じる。
だが、それはカズキの心臓ではなく、核鉄。
「核鉄は貴重だが人の命には替えられない。上には私から説明しておくから君は安心して日常に戻ると良い」
斗貴子がカズキに伝える。
その言葉にカズキは戸惑う。
それはこれ以上の危険に巻き込まれないという約束。
安堵はある。だが、それ以外の感情も涌きあがっていた。
「大体こんなところか……君達を巻き込んでしまったことはすまないと思っている。
まさか、ホムンクルスが研究所の跡を探っているとは思わなかったものでな」
斗貴子が皆を見回す。
皆は思い思いの視線で彼女を見ていた。
「で、話はそれで終わりなのか?」
シンが斗貴子に尋ねる。
「あぁ、時間をとらせて悪かったな。ザフトがこんなところに居た理由は分からないが……
協力は感謝している」
「……あんたはこの街のホムンクルスと一人で戦うつもりなのか?」
「ん?今、この街に派遣されている錬金の戦士は私一人だからそうなるだろうな」
「オレも……オレもホムンクルスと戦うのに協力する」
「協力の申し出はありがたいが問題ないのか?モビルスーツを持っていると言う事は君は軍属なのだろう?
勝手に使っていいような力ではないはずだ」
「それは分かってる。オレはアンデッドを倒すためにここに来たんだ。
それ以外の敵と交戦して良い許可は出てない。
だけど、オレは力があるのに見過ごすような奴にはなりたくないんだ。
力が無くて、それでどうしようも無くて、悲しい思いをする人たちを作り出したくない」
シンが告げる。
それは彼自身の感情の吐露。
その瞳は未だ見えぬ創造主への怒りに染まっていた。
「オレも戦う」
その言葉を受けてカズキが宣言する。
その眼は真っ直ぐに斗貴子を向いていた。
「何を言い出すんだ。君は……」
「この街にはオレの大切な人たちが大勢居るんだ。
皆が危険に晒されるって言うならオレも一緒に戦いたい。
オレには武装錬金っていう力がある。
それなのに見てみぬ振りして元の生活に戻りたくない」
カズキの眼は本気だった。
力を持って驕れた訳でも、良く分からず成り行きで発現しているわけでもない。
ただ、真っ直ぐに自分が思ったことを口にしていた。
「全く……随分とお人よしだな君達は……」
斗貴子は嘆息するが不快では無さそうだった。
例え力があっても誰かのために命を張れる者はそうはいない。
「それじゃ決まりだな。俺達は一緒にこの街を護る仲間だ」
剣崎が嬉しそうに纏める。
「剣崎一真……君も協力するというのか?」
「今、この街はアンデッドにホムンクルス……そんな奴らに危険に晒されているんだ。
BOARDは無くなってしまった。だけど、だからこそ力を合わせたいんだ。
敵は強大かも知れない……でも、力を合わせれば何にだって勝てる。
オレはずっとそう思って戦い続けてきたんだ」
「確かに人手は多い方がいいな……だが、私にもアンデッドとの戦いを手伝わせたいのか?」
「やっぱりダメかな?」
「いや、問題は無い。アンデッドも人を襲うことに替わりはないんだ。
それと戦うことに異議は無い。
だが、私は組織に属している以上、ホムンクルスを優先せねばならないがな」
「それで問題ない。俺もアンデッドを封印することが仕事だからそれを厳かには出来ない。
でも、手伝えることはお互いに手伝っていくだけでも良いんだ」
「決まりだな……噂に聞いた仮面ライダーの力、当てにさせてもらうぞ」
「あぁ、こちらこそ」
そうして、剣崎と斗貴子はお互いに握手を交わした。
その様子を眺めて翔が呟く。
「剣崎……嬉しそうだな」
「なんたって仲間が全員居なくなってたんだからな」
その呟きを聞いてシンが答える。
「これでもう、荒れることも無いか」
「だと、いいけど。まぁ、アンデッド以外にも敵が増えたんだからあんまり良い状況じゃないけどさ」
「それでも共に同じ志を元に戦える仲間が居ることは良いことじゃないか?」
「……そうだな」
シンは感慨深そうに呟く。
「そういえば、お前大丈夫なのか?」
シンが翔に尋ねた。
翔は上着を切り取り、頭に巻いて包帯代わりにしている。
全身に傷だらけで痛々しいがどれも大きな傷ではない。
「最後の一撃以外はまともに食らってないから大丈夫だ。最後のはちょっと痛かったがな」
そういって笑うが壁をぶち破るほどの一撃はちょっとではすまない。
だが、大きな傷は頭に出来た傷のみだ。
それも血の量多いだけで割れているわけでもない。
常軌を逸した丈夫さだ。
「だが、直ぐにきちんとした手当てをし、休んだほうがいいだろう」
斗貴子が告げる。
「それもそうだな」
翔は苦笑いを浮かべる。
「休むといえば今日もホテルに泊まるのか?」
翔がシンに尋ねる。
「そうなるだろうな」
「ちょっと金銭的にきついけどな……早く住む所、探さないと」
「剣崎さんは次の給料またないとお金ないだろ」
「そうなんだよな……」
シンと剣崎は住む場所についての話を始める。
士郎はそれを耳にし、おずおずと声をかける。
「あの、住むところが無いんですか?」
「ん?あぁ、住んでた家を追い出されちゃってさ。今はシンにお金を借りてホテル暮らしなんだ」
「あの、だったらオレの家に来ませんか?」
「え?」
「オレも皆の力になりたいんです」
士郎が告げる。
同級生のカズキも戦うというのに自分だけが仲間はずれになるつもりは無かった。
だが、他のものに比べ力が無い。
いや、鍛え続けていたがホムンクルスには相手にもならなかった。
だけど、それでも諦めるわけに行かなかった。
「本当か!?いやぁ、悪いな」
剣崎は家の問題が解決し意気揚々としている。
「これで何とか活動も本腰を入れられそうだな」
手探りであるが状況は改善されつつある。
「では、私は先に失礼する」
「あ、連絡先をしらないんだけど」
「そう言えばそうだな……
とりあえず、全員の連絡先は渡しあったほうがいいな」
各々に携帯電話を取り出し、連絡先を登録する。
お互いに連絡先を登録し、一向は解散することとなった。
斗貴子は一人先に去り、カズキも自分の住んでいる寮へと向かう。
残った剣崎、シン、翔は士郎の家へと案内されることとなった。
「それにしてもホムンクルスか……」
シンは対峙したホムンクルスを思い浮かべる。
固体の力量はそこまで高いものではない。
だが、あれが人が生み出し、人を喰うというなら。
何でそんなものが存在しているのかが許せなかった。
「アンデッド以外にもあんな化け物がいたんだな」
剣崎も呟いた。
「そういえば……アンデッドとか言う言葉が聞こえましたけど……それが?」
「あぁ、オレが倒し封印するべき相手。太古の昔に封印された生物の始祖にして不死身の生命体」
剣崎の言葉に士郎は身震いする。
ホムンクルスのように人が生み出したものではない。
その肩書きは何処までも途方も無く聞こえた。
カズキと士郎はこの日より戦いの世界に紛れ込んだ。
そして、知る。
その道の果てが悲しみだということを
だが、今の彼らには知りようも無かった。
まだ、その心には希望が満ち溢れていた。