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運命とは人が旅した道筋である。
その道が交じり、離れ、紡がれることによりこの世界は構成されている。
星とはその運命の交差により紡ぎだされた無限の球体。
遥かなる命の旅路にして、命を生み育む大地である。
それは神々がこの星を創造した時より定められた理。
幾つもの命の果てに今、人という名の生命がこの星を支配していた。

人は科学という名の力を手に入れ、光を掴んだ。
進んだ科学は時に過ちも齎しはしたが結果的に人々に繁栄を齎した。
順調な発展……
その歴史の中で一つの変化が訪れる。
それは一人の人間の手により齎された。
その名はジョージ・グレン。
後の世にファーストコーディネイターと呼ばれる存在である。
彼は優れた知力と体力を持ち合わせていた。
目覚しい活躍をするものの彼は数多くの一人の天才のうちに過ぎなかった。
彼が人類史において欠かすことが出来ない存在となったのは一つの計画の後である。
アポロ計画……
人類が始めて月面へと到達し、再び地球の大地を踏みしめた日。
それは訪れた。
彼の口から発せられたコーディネイターという真実。
そして、彼はその日から優れた……いや、超越した技術を開発して行った。
それは正しくオーバーテクノロジーというべきものだった。
それらは現在のコロニーやモビルスーツなどの技術の礎となるものだった。
そして、彼を目指し数多くのコーディネイターが生み出されていった。
コーディネイターたちは技術を発展させていき、アポロ計画から数十年で
人類は宇宙にその居住地を作り出してしまった。
だが、それらの技術は新たなる火種となるには十分すぎた。
コーディネイターとそうではない人間との間に齎された亀裂。
それは人類初の宇宙と地球をまたに駆けた戦争へと発展した。
戦いは両陣営の鷹派総大将の戦死により、和平が締結され終結した。
その戦争により齎された技術の発展は非常に大きなものだった。
次々と生み出される新技術とそれを利用した新兵器。
この戦争によりモビルスーツは初めて実戦に投入され、その優れた兵器としての力を見せ付けた。
酷く激しい戦争だったが戦争の終結により人類は再びの平穏を取り戻していた。
それから二年……
戦争に極力関与しないことにより平静の保たれた日本という国にて物語は始まる。
その土地は二年前に戦争が起きたことなど信じられないほどに平和だった。
実際にこの国は戦いに参加していないので仕方が無いのかも知れない。
だが、この国に不吉な影が近づいていた。
アンデッドと呼ばれる怪物の存在。
そして、それを討つ仮面ライダーと呼ばれる謎のヒーロー。
そう、戦いは静かに始まっていた。

だが、知らない。
人々は……
戦争の影に隠れていた真意。
何故、あの戦争が行われたのかを……
何故、この世界にコーディネイターなる存在が居るのかと言う事を……

そう、知らない。
神々すらもそれを知らない。
この世界に刻まれた運命が進んでいる道を

全てが破滅へと通じている事を……






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第一話「無の剣」



冬木と呼ばれる土地があった……
東西南を山に囲まれ、東側に海が広がる。
四月の始め
梅の花が散り、桜の花が咲き始める
始まりの息吹が聞こえ始める時
冬木にて地球の生存権を賭けた戦いが行われていた。
この運命の連鎖はその戦いの最中、一人の少年が訪れることにより始まる。

人類基盤史研究所BOARD
人類の進化……
進化論では証明しきれないその謎を探るために設立された研究所である。
そこで行われた研究により人類の進化の原因たるものが発見された。
チベットの奥地より発見されたボードストーン。
そして、そこに封じられていたアンデッドという名の怪物。
彼らはボードストーンに記された古文を解析し、遂に人類の進化の原因を発見した。
一万年前に行われたアンデッド同士によるバトルファイト。
その戦いの勝者に属する種族こそがこの地球に繁栄する権利を獲得する。
そこに書かれていた内容を要約するとそうなる。
更なる研究を進めるためにボードストーンとアンデッドは秘密裏に日本に運ばれた。
そして、アンデッドの研究が始まり、その途中で一つの事件が起こる。
一人の科学者によりアンデッドが解放されてしまったのだ。
アンデッドたちは研究所から脱走し、人々を襲い始めた。
自分達の種族を虐げ、繁栄する人類に対し彼らは憎悪と力を持って恐怖を齎したのだ。
それに対し、ボードは残されたカテゴリーAの力を研究し、ライダーシステムを開発した。
アンデッドに対抗するためにアンデッドの力を使う。
それは人類を超越する存在に対して妥当な判断だと思われた。
実際に既に仮面ライダーは何体かのアンデッドの封印に成功している。

その研究所内の一室で一人の少年がソファーに腰を掛け座っていた。
黒い髪と赤い瞳、小柄ながらも鍛えられた雰囲気が感じられる体。
顔立ちは整い美少年の部類に入る。
その瞳は鋭いナイフのような鈍い輝きが感じられた。
この少年の名はシン・アスカ。
コーディネイターの軍隊であるザフトに所属する兵士である。
彼が身につけている赤いザフト軍服はアカデミーを優秀な成績で卒業した
一握りのエリートにしか袖を通すことが出来ないものだ。
彼がプラントではなく日本に存在する研究所にいるのは任務のためだ。
プラント評議会の議長であるギルバート・デュランダルより直接、言い渡された任務。
それは彼の初任務であった。
その内容はこうだ。
仮面ライダーと協力し、アンデッドを封印すること。
彼はその任務を果たすために、単独でこの土地にやってきていた。
そして、本日、彼が共に戦うべき味方との面通しとなる。

「待たせてしまって申し訳ない」
部屋のドアが開かれ、落ち着いた様子の黒髪の青年が少年に声を掛ける。
その後に続き茶髪で長身の青年が入室する。
少年は彼らの入室に気づくと立ち上がり、敬礼する。
「ここは軍隊じゃない。楽にして貰って構わない」
先に入室した青年が声を掛ける。
少年は言われるがままに敬礼をといた。
「俺は橘。ギャレンだ。それでこっちは……」
黒髪の青年が挨拶をする。
「俺は剣崎。ブレイドだ。よろしく」
続けて長身の青年も挨拶し、柔和な笑みを浮かべた。

彼らが仮面ライダー。
アンデッドを封印する為に戦う戦士。
一見すると二人の立ち振る舞いは戦士や兵士のそれは感じさせない。
何処にでもいるような普通の青年に見えた。

「自分はザフトより派遣されました。シン・アスカです」
緊張しているのか硬い表情で少年が答えた。
一通り、挨拶が終わると彼らは椅子に腰を掛ける。
「それでは、シン。既に説明されているかと思うが俺達は今、アンデッドと呼ばれる人類の敵と戦っている」
橘が説明を開始する。
「はい。無闇やたらに人を襲う凶暴な怪物だって聞いています」
「そうだ。奴らはこの地上に繁栄した人類を目の敵にし襲い掛かる。
その理由だが、アンデッドが生物の祖となる存在である事に起因する。
俺達の研究では一万年前にアンデッドたちはお互いに戦いあい、
最期の一匹になるまで戦い続けた。
そして、最期の一匹となったアンデッドの種族が繁栄したという事になっている」
「最期に残ったのがヒューマンアンデッド……俺達、人間の祖って事ですね」
「そうだ。故に奴らは人間を憎んでいる。自分達の種族を蹴落とし、繁栄している人類をな」
「そんなの……アンデッドたちが一万年前に負けたのがいけないんじゃないですか。
それなのに何の罪も無い人たちを襲うなんて……」
シンが憎しみにも似た感情を吐露する。
剣崎もそれに同感らしく頷いて応えた。
橘はそんなシンの若さを微笑ましく思いながら説明を続ける。
「戦う上で一番重要なことだが奴らは不死だ。
奴らを殺すことは出来ない。
だから、奴らを封印することが出来る俺達、仮面ライダーが必要になる」
「倒せない……それは聞きましたけど、それじゃ俺はどうすればいいんですか?
ライダーシステムじゃないと封印できないなら俺じゃ奴らを倒すことは出来ない」
シンは仮面ライダーではない。
適性検査を一応受けたが仮面ライダーが変身するのに必要となる融合係数という素養に欠けており、
更にライダーシステムは現在、ギャレンとブレイドの二つしかない。
つまり、シンではアンデッドを封印することは出来ないということだ。
「そうだな。だが、封印できなくても戦うことが出来ないわけじゃない。
俺や剣崎と協力すれば問題は無いはずだ。
確かにアンデッドは強力な力を持っている。
だが、ザフトの最新鋭モビルスーツの力なら奴らとも互角に戦えるはずだ」
モビルスーツ。
人類が戦争で手にした力。
パワードスーツ型の兵器であり、パイロットはその鋼の鎧に身を包み戦う。
ライダーシステムにもその技術が多く転用されており、
人類が持つ兵器では間違いなく最新鋭に属する部類だ。
これを装着すれば生身の人間では扱うことの出来ない強力な火器も使用できる。
「はい!」
シンは力強く返事をする。
シンはこの任務が決まる少し前に始めて自分専用のモビルスーツを受領した。
それはシンの努力の結果であり、彼の力である。
その力を持って、人々を苦しめる怪物を倒す。
それは非常に甘美な響きだった。
「俺もブレイドに選ばれてからあんまり、長くないんだ。
だから、一緒に頑張っていこう」
剣崎がシンに手を差し伸べる。
シンと同じように剣崎も戦い始めての日が浅い。
それゆえに同じ立ち居地にいる戦友が出来たことが非常に喜ばしかった。
その顔に裏表の無い笑顔が写る。
シンもその手を気恥ずかしそうに握り返した。
「さて、それじゃインパルスについてだが……」
橘が話を切り出そうとした時、
突如として室内に警報の音が鳴り響いた。
「アンデッド出現。ギャレンとブレイドは速やかに現場に向かってください」
スピーカーからアナウンスが流れる。
その言葉に既に立ち上がっていた橘が走り出す。
「聞いたとおりだ。説明は後にして、いくぞ剣崎!」
「はい、橘さん!」
橘と剣崎は急いで部屋を出ようとする。
その姿を見て、シンもつられたように立ち上がり叫んだ。
「俺も行きます!」
シンが二人の後に続こうとする。
「ダメだ。君はまだ、アンデッドについて詳しく知らない。
そんな君を戦場に連れて行くことなど出来ない」
それを橘は拒否した。
その表情はどこか焦りが浮かんでいる。
「俺だってザフトのアカデミーを出ています。足手まといにはならないつもりです!」
「だがな……」
なおも拒む橘に剣崎に割ってはいる。
「橘さん。オレからもお願いします!。もし、危険になったらオレがフォローしますから」
橘は二人の真剣な眼差しを受け、少し考え込み、重い息を吐いた。
「分かった……だが、危ないと判断したなら直ぐに下がるんだ。いいな」
橘の言葉に二人は決意も新たに「はい」と力強い言葉を返した。

海岸の洞窟
蝙蝠の姿をした人型の怪物が佇んでいる。
遥か過去より現代に復活した正真正銘の怪物。
蝙蝠の祖となるバッドアンデッドだ。
彼は洞窟に潜み、そこを訪れた一般人に襲い掛かった。
そして、惨殺。
殺戮の余韻を満たしながらその洞窟で次なる獲物を待ち構えていた。
それから、数刻程
彼の非常に発達した感覚器官が近づいてくる存在を感知する。
それは真っ直ぐにこちらに向かってきていた。
バッドアンデッドは立ち上がり、それを歓迎する。
漆黒の暗闇、自分のテリトリーに迷い込んだ新たなる犠牲者を。
その者は暗闇の中を真っ直ぐに訪れ、バッドアンデッドとを通常なる視認範囲に抑えると立ち止まった。
バッドアンデッドはその姿に感づく。
それは人であり、人でなかった。
人の気配と、自分と同じアンデッドの気配を感じる。
それだけでなくその者の顔は真っ直ぐに自分に向かっていた。
光の差し込まぬ洞窟においてである。
そして、その者は腰から何かを取り出すとそれを向けた。
「カテゴリー8か面白い」
光差し込まぬ故に分からないがその者は赤い鎧に身を包んでいた。
鎧だけではない。
頭部は二本の角のような物が頭部に象られ、大きな緑色の目を持ったヘルメットを被っていた。
そして、その手に握られているのは銃である。
人が片手で持つには余りにも大きなそれをその者は軽々と扱っていた。
その姿こそが仮面ライダーと呼ばれる都市伝説の正体。
橘が変身したギャレンである。
「あれが……アンデッド!?」
その背後から更に何かが出現する。
その者も人型をしていた。
だが、その体躯はあからさまな装甲により形成されていた。
それは鎧ではなくいわゆるロボットのそれである。
全身をトリコロールカラーで配色されている。
その頭部には角のようなアンテナが光、二つの目を持っていた。
それこそがシン・アスカが持つ力。
ザフト軍最新鋭モビルスーツ。
インパルスガンダムである。
「そうだ。あいつが人類の敵だ」
更にその横に並び立つように紫紺の鎧に身を包んだ剣士が現れる。
その頭部のヘルメットは頭上の真ん中部分がとがっており、二つの巨大な赤い目を持っていた。
その腰には奇妙な形をした片手剣がぶら下がっている。
その姿はギャレンといくつか共通点が見出せた。
間違いなく同じ技術を元に開発されたものであると分かる。
これこそが剣崎が変身した仮面ライダーブレイドである。
「剣崎、シン。いけるか?」
橘が前方のバッドアンデッドを警戒しつつ、新人二人に声をかける。
「もちろんです。橘さん!」
「……ッ俺も行けます!」
橘の号令に二人が答える。
若干の緊張の色も伺えるが戦意を喪失するほどではない。
「行くぞッ!」
橘が先陣を切り、バッドアンデッドに向かう。
シンのアンデッドとの初戦闘が開始された。

バッドアンデッドは悠然とその三人の来訪者に向かう。
その瞳は既に目前のモノを獲物としてしか捉えていなかった。
素早くバッドアンデッドがギャレンに襲い掛かる。
「くっ!」
ギャレンはギャレンラウザーを連射し迎撃するも。
その攻撃を潜り抜けバッドアンデッドの一撃がギャレンを吹き飛ばす。
「橘さん!」
剣崎はブレイラウザーのカードスロットを展開し、カードを取り出す。
スペードの4
それをブレイラウザーのスリットに通した。
―――タックル―――
機械音声と共にブレイラウザーよりカードに封印された力が出現し、
ブレイドの体に宿る。
ブレイドはその力を受けて猛然とバッドアンデッド目掛けて突撃した。
「ウェイ!!」
だが、バッドアンデッドは軽々とその攻撃を回避するとブレイドの背中に拳を叩き込む。
「くっ、このぉ!!」
シンはビームライフルを抜くとバッドアンデッド目掛けて発射した。
ビームの光がバッドアンデッドに直撃する。
「よし……」
手ごたえを感じるシンだがその眼前には既にバッドアンデッドが接近していた。
「嘘だろ!?」
シンはとっさにシールドで拳を防御するがそのまま弾き飛ばされる。
バッドアンデッドがたたみかけようとするもそれをギャレンの銃撃が止める。
「シン、たとえビーム兵器といえども一発だけでは奴に致命傷を与えることは出来ん」
ギャレンは接近するとキックをバッドアンデッドに叩き込み距離を開ける。
そして、そのままたたみかけようとするもギャレンの動きが鈍る。
「くっ……!」
その隙を突き、バッドアンデッドがギャレンに拳を叩き込んだ。
ギャレンの体が洞窟の壁にめり込む。
「ぐわっ!」
「橘さん!」
ブレイドがブレイラウザーで切りかかり、バッドアンデッドの注意を逸らす。
インパルスはライフルとシールドを放り投げる。
「ライフルが通用しないっていうなら……これなら、どうだ!」
シンは現状の装備ではダメージを期待できないと判断し、インパルスの装備を変更する。
インパルスガンダムには通常3つの装備が用意されている。
それらはシルエットと呼称され、インパルスの背中のバックパックとして換装される。
その変更は転送システムを応用し、瞬時に変更される。
だが、短時間での連続変換は出来ず、基本的に一回の戦闘に付き、一回ずつの変更が限度と言った所だ。
その中でシンは一つの装備を選択した。
ソードシルエット。インパルスの近接戦闘用装備である。
最大火力や機動性はそこまで高くない。
だが、こと一対一の近接戦闘では最大限の力を発揮する装備である。
インパルスの背中のバックパックが光に包まれ、二本の剣が装備されたもの変わった。
そして、背中の二本の剣を抜き放ち、連結させる。
「対艦刀なら、いくらアンデッドだろうと!」
刃をレーザーで形成した戦艦の装甲すらも切り裂く強力な剣。
シンは大きく振りかぶりバッドアンデッドの頭上から股に掛けて振り下ろす。
バッドアンデッドは頭を振り、頭部の直撃を回避する。
刃は肩から胸にかけて、その体を引き裂いた。
だが、そこで刃は止まってしまう。
それでも普通の生物だったら致命傷のダメージだ。
そう、普通の生物だったのなら……
無限の命を持つ、アンデッドはひるまずにそのまま拳をインパルスの装甲にぶつける。
強烈な衝撃音と共にインパルスの体が吹き飛ばされる。
そして、そのまま洞窟の壁に激突した。
壁に大きな亀裂が走り、激突した部分は粉々に粉砕される。
シンは突然の衝撃に混乱する。
インパルスは衝撃を緩和する。
だが、その全てを緩和するわけではない。
シンは今までに感じたこと無い衝撃に意識を朦朧とさせる。
その朦朧とした意識の中で驚愕する。
アンデッドの持つ生命力とその力……
ザフトの最新鋭モビルスーツを持ってしてもここまで翻弄されることに。
シンは驚愕する。
それは人知を超えていた。
それは間違いなく神話の怪物だった。
御伽噺に現れる空想上の怪物のような強さだった。
シンの闘争心が折られそうになる。
だが、近くから力強い言葉が聞こえた。
「いや、大丈夫だ」
背後から橘の声が聞こえる。
―――ファイア―――
―――ドロップ―――
ギャレンラウザーから二つの力がギャレンの両足に宿る。
ギャレンの足は炎の力で燃え上がった。
―――バーニングスマッシュ―――
ギャレンは飛び上がると垂直に回転し、その踵をバッドアンデッドの肩目掛けて叩きつけた。
そう、先ほどシンが斬り付けた傷に対し、一撃を決める。
衝撃がその体を更に裂き、炎がその体を内部から焼き尽くしていく。
強力なエネルギーがアンデッドの体に流れ、一気に放出された。
爆発が起こり、炎の中で燃え尽きたようにアンデッドが倒れる。
腰にあるバックルが開いている。
ギャレンはそれを確認するとカードを投げつけた。
カードはバッドアンデッドに刺さり、その体は光に変わってカードへと吸い込まれる。
これが不死生物を唯一、倒す方法。
「凄い……あのアンデッドを倒すなんて、なんて威力なんだ……」
シンはその力に驚愕する。
幾ら、傷ついていたは言え、対艦刀を持ってしても切り裂けない肉体を
たかがキックで粉砕し、燃やし尽くしたギャレンの攻撃はモビルスーツの持ち得ないものだ。
恐らく、インパルスに装備されている武器に先ほどのギャレンの一撃を超えるものは無い。
単純な火力なら越えるものはあるかもしれない。
だが、威力という観念であれを越えるものは無いだろう。
「やりましたね。橘さん!」
剣崎が変身を時、橘に駆け寄る。
橘も変身を解くが足を縺れさせ近くの岩に捕まった。
「大丈夫ですか橘さん?」
剣崎が手を差し伸べるが橘はその手を払いのけた。
その行動に剣崎は目を丸くした。
「大丈夫だ……それよりも帰還するぞ」
橘は立ち上がると何事も無かったように歩き去って行った。


人類基盤史研究所
所長室
所長である烏丸はPCの画面越しに会話していた。
そのモニターに映っているのは長い黒髪の男性である。
「デュランダル。君が送ってきたシン・アスカだが、アンデッドとの戦いを生き残ったそうだぞ」
「えぇ、こちらでもインパルスの戦闘データを拝見させて頂きました。
どうやらあまりお役に立てなかったようですね」
「相手がアンデッドだったんだ仕方ない。それに初陣にしては良くやったとほうだ。
事実、彼はアンデッドを相手に手傷を負わせている。
剣崎……ライダーシステム二号もそこまでの結果は出してない」
「そう言っていただけると助かりますよ」
「これでモビルスーツの武装でもアンデッドを相手にすることが出来ると証明されたわけだな」
「確かに……ですが、インパルスほどのモビルスーツを持ってしても一対一では撃破までには至らない。
コスト面を考えればとても太刀打ちできたとは言えない状況です。」
「ギャレンとブレイドと共に運用すれば問題は無いと思うが」
「確かに現段階では問題は無いでしょう。ですが、これから上級アンデッドが出現した場合。
現体制のままでは少々、厳しいかも知れませんね」
「それに付いてはギャレンやブレイドの強化案も考えている。それにアンデッドを封印すればその力を利用できる。
それを続けていけば問題は無いはずだ」
「なるほど……対策は採られているということですね」
「あぁ、問題は無い」
「それはよかった。その話を聞いて安心しましたよ」
「用件は以上か?」
「いえ、後一つ……ボードストーンと共に発見されたアレはどうなりました?」
「アレか……今のところ変化は無い。依然として眠り続けている」
「そうですか……」
「だが、アレは本当に人間なのか?」
「遺伝子学上はですが。間違いなく人間です。それも日本人の」
「そうか……」
「どうしてアレがボードストーンと共に眠っていたのか。何故、未だに目を覚まさないのか。
何故、依然として生命活動を続けているのかは分かりません。
ですが、もしかしたらアレはアンデッド以上にこの世界の秘密を解き明かすピース……
なのではないかと」
「それが君の答えか?」
「いえ、ただの憶測。いえ、妄言と捕らえてもらっても構いません」
「そうだな……もし、アレが鍵などというのなら……いや、ただの希望だな」
「ですが、何かしら秘密があるのは確かでしょう」
「アレについては何か分かり次第連絡しよう」
「こちらとしても一応、解析は続けていますので新しい発見があり次第、報告させていただきます」
「あぁ、それでは」
そういうと回線は閉じられた。
烏丸は頭を抱える。


「やっぱり、橘さんは一流だよな」
廊下を剣崎とシンが歩いている。
バッドアンデッド封印についての報告を終え、帰路の途中である。
「剣崎さんが選ばれるまでは一人で戦っていたんですよね?」
「あぁ、今までアンデッドが封印できてたのは全部、橘さんのお陰だよ。俺もがんばらないとな」
「俺もです」
「そう言えば、シンは何処に泊まるんだ?」
「ボードで宿泊施設を提供してもらえることになってます」
「なるほどな。俺は3ヶ月ぶりに家に帰るよ」
「ずっと帰れなかったんですか?」
「研修とか色々あってね。それじゃ」
剣崎はそういうとエレベーターに乗り込み去っていった。
一人になったシンは宿泊施設のことを聞きに向かおうと歩き始める。


剣崎と分かれた後、シンはあてがわれた部屋でベッドに腰を下ろした。
初めてのアンデッドとの戦い。
人類ではない敵であり明確な殺意を持って遅い来る外敵。
その圧倒的な力に恐怖を覚えないわけではない。
今、思い出すと手が震えてくる。
シンは震える手を押さえるとポケットから携帯電話を取り出した。
ピンク色をした女の子向けの携帯電話。
その画面には一人の少女の姿が写っていた。
そして、操作すると少女の声が再生される。
それはシンの妹の唯一の形見だった。

二年前の戦争。
シンはその頃、オーブという国で過ごしていた。
戦争と関係なく、両親と妹、家族で平和に過ごしていた。
そう、あの日。
連合軍がオーブに対して攻撃を仕掛けた日。
その日に全てが崩れ去った。
戦火から逃げる途中、妹のマユが落とした携帯電話をシンが取りに行った。
それが運命を分けた。
連合軍かオーブ軍か、それともどちらでもないのか。
そんなのは関係なかった。
ただ、流れ弾が着弾し、それがシンの家族を奪った。
それだけが真実だったからだ。
大地は砕け、燃える。
優しかった家族も、平穏だった生活も、
全てを吹き飛ばし、シンには妹の残した携帯電話のみだけが残った。
戦場の只中で慟哭を上げた。
それすらも戦争は押し流して行った。
それから、戦争終結後、プラントに渡った。
そして、アカデミーに入学し、ザフトに入った。
家族を奪った戦争が嫌いだった。
家族を護れなかった力の無い自分が嫌いだった。
だから、大切な人を、もう二度と失わないために力が欲しかった。
その為に手を伸ばした先は自分から全てを奪った力と同じものだった。


突如、警報音が部屋に鳴り響いた。
シンはそれに気づき、目を覚ます。
いつの間にか眠っていたようだ。
起き掛けの気だるい体を突き飛ばすように立ち上がる。
「何が……?」
警報音が鳴り響くもののアナウンスは流れない。
ともかく、現状を把握するためにシンは部屋の扉を開けた。
廊下は警報音が鳴り響き、赤いランプが点滅している。
直ぐ近くに人の気配はなかった。
シンはどうするべきか迷っていると遠くから爆発音が聞こえてきた。
すぐさま、その音の方へと駆け出す。

階段の近くで倒れている研究員を発見した。
「大丈夫ですかっ?」
シンが尋ねると弱弱しい声で研究員が応えた。
「も……モビルスーツが……奴らは地下に向かった。
このままではアンデッドが奴らの手に……頼む止めてくれ」
彼は自力で立ち上がるとそう、シンに告げた。
シンは頷くと直ぐに階段を駆け下りた。
階段で降りれる最下層に辿りつく。
そこは上層に比べ気味の悪い空気が漂っていた。
シンは警戒しつつあたりを見渡す。
すると、何かの鳴き声が聞こえてきた。
それは鳴き声だけではない、羽音、何かをかじるような異音。
それらが渦を巻くように迫りくる。
シンは反射的に転送機を取り出した。
転送機とはその名の通り、モビルスーツを転送する装置である。
それを使うことにより母艦よりモビルスーツを瞬時に呼び出し、装着することが可能となる。
母艦から離れ行動するシンにとっては必須アイテムというべきものだ。
作動と同時にシンの体はインパルスガンダムに包み込まれる。
それと同時に廊下の向こうから異音の正体が湧き上がった。
それは巨大なイナゴだった。
それらは群れをつくりインパルスに群がる。
シンはとっさにシールドを構える。
何匹かのイナゴが体ごとぶつかってくる。
凄まじい衝撃にインパルスの体が浮かび上がるが姿勢制御用のバーニアをふかし、体制を維持した。
そして、嵐は一瞬にして去っていった。
ほとんどのイナゴはインパルスを無視し、階段伝いにそのまま上層へと逃れたのだ。
あのような化け物に襲われれば生身の人間などただではすまない。
シンは即座にその後を追おうとするがそれを二匹の巨大イナゴが邪魔をする。
そう、ほとんどは上へと向かったが二匹だけはインパルスに向かい敵意を燃やしていた。
「このぉ!邪魔をするなぁッ!!」
シンは腰のナイフを抜くと襲い掛かる巨大イナゴに突き刺した。
インパルスの基本兵装の一つ。
緊急時の対応手段として使われるフォールディングレイザーと呼ばれるナイフだ。
これでもモビルスーツの装甲も貫く威力を持っている。
巨大イナゴは無残にも切り裂かれ、絶命した。
その隙にもう一匹が向かってくるがそれを胸部のCIWSを使い打ち落とす。
無数の弾に貫かれ巨大イナゴは地面にぼとりと落ちた。
「こいつら……アンデッドなのか?いや、それなら死ぬはずもないし。こんな脆いわけ……」
シンは巨大イナゴについて思考巡らせていると再び、何かが近づいてくる気配に気づく。
また、イナゴかと振り向くとそこには黒い装甲を持った獣が居た。
それは凄まじい勢いで向かってくる。
「こいつはっ!」
シンはその体当たりをシールドで受け流す。
その獣はシールドをすべるように受け流すとインパルスを飛び越え、
人型へと変形しながら着地する。
「ガイア……なんだってお前らがここに居るんだ!」
シンはそのモビルスーツに向かって叫んだ。
「……殺す」
ガイアと呼ばれたモビルスーツのパイロットは静かに告げるとビームサーベルを抜き、シンに襲い掛かった。


剣崎一真は悪夢を見ているのだと思った。
久しぶりに帰った家は家賃滞納の為に追い出され、
途方に暮れている時に掛かってきた電話はボードの危機を伝えるものだった。
血相を変え、やってきた人類基盤史研究所は滅茶苦茶に荒らされていた。
生存者を探し駆け廻るが一人も見つからない。
全滅……
その言葉が脳裏に浮かぶ。
そして、それと同時に幼き日のトラウマが浮かび上がった。
火事で助けることが出来なかった家族のこと。
「また……オレは護る事が出来ないのか?」
自分の無力を恨めしく思う。
だが、自分にやらなきゃならないことがあることを思い出し再び駆け出した。
しばらくすると地下から何やら音が聞こえることに気づく。
すぐさま地下へと駆け下りていった。
そして、最下層。
そこは上層部とは比較にならないほどに破壊されていた。
上層部が力で無理やり砕かれているのなら、ここは何か高熱な物で焼ききられたようだった。
「一体何が……」
剣崎が呆然としていると奥の方から何かが激突する音が聞こえる。
剣崎は意を決してそちらのほうへと駆け出す。
そこではインパルスガンダムとガイアガンダムが戦っていた。
ビームサーベルとビームサーベルが激突し、火花が散る。
その火花自体、生身の人間が当たればただではすまない。
「シン!」
剣崎が叫ぶ。
シンはそこでようやく、剣崎の存在に気づいた。
「剣崎さん!来るな!」
生身でのこのこやってきた剣崎に対してシンが叫ぶ。
ガイアは剣崎に反応するとシンを蹴り飛ばす。
そして、その反動を利用して一気に剣崎との距離を詰めた。
「剣崎……仮面ライダーブレイド。ライダーシステムを渡してもらう」
ガイアは明確に剣崎を殺そうとビームサーベルを振り上げる。
もし、ビームサーベルの一撃を受ければ助かるものなどいない。
だが、剣崎は迫りくる脅威に戦くでもなく、静かにバックルを腰に当てた。
そして、バックルからトランプが飛び出しベルトを形成する。
「変身!」
叫び声と共にバックルのレバーを引いた。
―――TURN UP―――
電子音と共にバックルより青色のオリハルコンエレメントが出現する。
その光の壁は迫り来るガイアを弾き飛ばした。
それを確認すると剣崎はその青い壁を通り抜ける。
それと同時にその体はブレイドアーマーに包まれる。
アンデッドとの融合と、最新鋭の科学力を元に作り出されたブレイドアーマーの融合。
神話の怪物、アンデッドを封印する為に人類が作り出した剣。
それこそが仮面ライダーブレイド。
「お前が……お前が皆を!」
剣崎は怒りを爆発させるとガイアに飛びかかろうとする。
だが、それよりも先に天上を突き破り、何かが出現した。
それは走り出したブレイドの前に現れ、粉塵の中から腕を伸ばし、ブレイドの首を掴む。
剣崎はもがくがその体が徐々に持ち上がっていく。
晴れた粉塵から現れたのは緑色をしたイナゴのような化け物だった。
「くっ……お前はローカストアンデッド。そんな、橘さんが封印したはずだ」
剣崎は思いがけぬ乱入者に声を荒げる。
それはかつて、橘が封印したと言われていたアンデッドだった。
それが何故、目の前に居るのか……?
剣崎は疑問を浮かべるもそれに答える者は無く。
ローカストアンデッドはただ、己の本能の赴くままに剣崎に襲い掛かる。
イナゴの始祖は両手でブレイドの首を固定すると両足に力を込め、跳躍した。
床を粉砕するような爆発的な加速。
跳ね上がった体は天上を突き破り、空へと登っていく。
後には破砕音と砕けた天井の欠片だけが残された。

月明かりと炎に彩られた夜空。
イナゴの鳴き声と破砕音で彩られた空に二つの影が躍り出る。
ローカストアンデッドと仮面ライダーブレイド。
跳躍により上昇する体は緩やかに減速し、頂点に到達する。
それと同時にイナゴの怪人はブレイドの体を地面に向けて、斜めに蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた体はまるで弾丸のように加速し、地面に激突する。
ブレイドの体は地面で何回かバウンドしながらゴロゴロと投げ出された。
その勢いは木に激突して終了する。
剣崎は苦悶の声を上げながら何とか立ち上がる。
それと同時にローカストアンデッドは羽根を広げ、緩やかに剣崎のそばに着地した。
「ウェーイ!!」
剣崎はふらつく足を気合で立ち上がらせ、我武者羅に体ごと突撃した。
無我夢中で拳を繰り出すもローカストアンデッドは体を左右に振り、それをかわす。
そして、大振りで生じた隙を突かれ、カウンターの拳がブレイドの顔面を捉えた。
衝撃に吹き飛ばされ、再びブレイドの体は地面に転がる。
「(つ……強い……)」
剣崎は改めてアンデッドの強大さを痛感する。
既に何度かアンデッドとの戦闘は経験していた。
その恐ろしさも分かっていたはずだ。
だが、その戦いは常に橘が居た。
どんなに自分が苦戦しても橘は確実に勝利を収めていった。
だから、ここまで戦ってこれていたのだ。
傍に彼が居ないことでそれを痛感する。
「(俺一人じゃ……アンデッドを封印できない……)」
剣崎の心が絶望に染まろうとしていた。
緩やかに背後から足音が迫る。
剣崎はどうにか体を起こそうと腕を立てる。
そして、正面を向いた時、その姿を捉えた。
建物の影でこちらを伺うギャレンの姿を。
「橘さん!」
剣崎は思わず叫んだ。
そして、立ち上がる。
そこには救いがあった。
そう、彼が居れば勝てる。
仮初の勇気を頼りに剣崎は再び、ローカストアンデッドに向かっていく。
「ウェェェイ!」
雄たけびと共にブレイラウザーを引き抜き、袈裟懸けに振り下ろす。
理論上、地球上の物質に切れぬものが存在しない剣。
その鋭利な切れ味はローカストアンデッドの外郭に傷をつける。
だが、浅い。
その程度の傷など物ともせずにローカストアンデッドの拳がブレイドのアーマーを叩く。
衝撃に三度の転倒。
剣崎はすぐさまにブレイラウザーを杖代わりに立ち上がろうとする。
そして、ギャレンの方を再び確認した。
その姿は依然として建物の影にあった。
そして、こちらの様子を伺っている。
その光景に剣崎は唖然とした。
橘が当然として援護してくれると思っていたのだ。
だが、事実は違う。
彼は何もせずにこちらをただ見るのみである。
「何故……何故、見てるんです。橘さん!」
その姿に剣崎が叫ぶ。
だが、橘は微動だにしない。
その隙にもローカストアンデッドは襲い掛かる。
剣崎はブレイラウザーを振るい、どうにか攻撃を裁くも劣勢は変わらない。
徐々に推され、遂にはその背中が壁に激突した。
絶体絶命。
その時、剣崎は信じられないものを見た。
ギャレンが建物の影に隠れるように去っていったのだ。
見捨てられた。
絶望が剣崎の心を支配していく。

その頃、シンはガイアと依然として戦闘を継続していた。
「(さっきのアレはアンデッド……って、事は剣崎さんの援護は期待できないって事か)」
シンは突然乱入してきたアンデッドとそれに連れ去られた剣崎を思い浮かべる。
それ以降、戻ってきていないことから彼らが別の場所で戦っているのだと判断する。
依然として孤立状態。
剣崎の増援は嬉しかったが、アンデッドの出現で完全にチャラである。
現状、考えられる増援は後、ギャレンのみ。
だが、その姿を彼は未だに見ていない。
「いい加減、強奪犯如きに負けてられるかよ!」
シンはビームサーベルの鍔迫り合いからガイアを蹴り飛ばす。
ガイアの体は宙に浮き、壁に激突する。
そして、背中のバーニアを使い、加速。
「もらったぁッ!」
ビームサーベルを振り上げ、ガイアにトドメを刺さんと一気に詰め寄る。
だが、一条のビームがインパルスの真横から照射される。
それはインパルスの肩に激突し、爆発がインパルスの体を吹き飛ばす。
「うわぁっ!……くそ、仲間が居たってのかよ」
シンはインパルスガンダムのダメージをチェックしながら、攻撃の向かってきた方向を見る。
そこには二機のモビルスーツが立っていた。
新緑と蒼のモビルスーツ。
いずれもインパルスやガイアと似たような特徴を持ったモビルスーツだ。
「ステラ、大丈夫か?」
「お前、俺達が来なかったらやられちゃってたぜ」
二つのモビルスーツから声が聞こえる。
どちらも若い少年の声だ。
シンはこの三つのモビルスーツが揃ったことであの日のことを思い出す。
自分が始めてインパルスを実戦で使用した日。
そして、ザフトから三つのモビルスーツが強奪された日を。
そう、シンは知っている目の前の三体のモビルスーツを。
それらは全てザフトが新たに開発したモビルスーツであり。
自分が乗っているインパルスと同じ計画により生まれた。
いわば兄弟機である。
それらはシンがここにやってくる数日前に謎の組織により強奪された。
奪取の為に追撃任務も行ったが結局、逃げられてしまったままだった。
自分の始めての任務であり、失敗した任務だった。
それらが何の縁か。
再び、自分の前に現れて敵として戦っている。
シンは怒りに歯を噛み締めながらインパルスのダメージを確認する。
肩の装甲が破損しているが間接部分に問題は無い。
まだ、戦闘の続行は可能だ。
だが、状況は三対一。性能もほぼ同じ。
よほどの腕前の差が無ければほぼ確実に負けるだろう。
そして、相手は間違いなく腕は悪くない。
既に過去の戦闘経験からそれは痛感している。
パイロットが変わっている様子も無かった。
「さて、また会ったな」
新緑のモビルスーツ。カオスから声をかけられる。
「白いのと赤いのもいないし。今日こそ倒させてもらうよ」
蒼のモビルスーツ。アビスはその砲身をインパルスに向けた。
そして、同時に砲身からビームが放たれる。
赤い閃光が襲い掛かる。
シンはそれを横に飛びのき回避する。
ビームは壁に激突すると壁を粉砕し、地面が露出した。
インパルスの装甲をもってしても直撃を食らえば間違いなく大破するだろう。
シンは内心で冷や汗をかきつつも回避と同時にインパルスのシルエットを変更する。
その背中には二つの砲身を背負っていた。
ブラストシルエット。砲撃戦用の装備である。
本来、このような狭い場所ではその真価を発揮できない。
長い砲身は振り回しに不便であり、火力が高すぎるために自分まで巻き添えを食う可能性があるからだ。
しかし、シンの目的は攻撃ではない。
インパルスは砲身を肩に担ぐとミサイルを発射した。
その姿を見たカオス、アビス、ガイアの3機は驚愕する。
こんな狭い空間でミサイルを撃たれてはどうしても被害が出る。
そう、インパルスも含めて。
「なにをッ……?」
カオスのパイロットは驚愕から声を発する。
それと同時にインパルスのミサイルランチャーからミサイルが発射される。
ミサイルは天上や床に激突し、爆発する。
爆炎と爆風が部屋に吹き荒れ、モビルスーツを吹き飛ばした。

「何とかまいたか……」
シンはブラストインパルスのホバー装甲で廊下を疾走する。
ミサイルの爆発。それに乗じてシンは一度、部屋から撤退していた。
あのような狭い場所で遣り合えば間違いなくこちらが負ける。
撤退のための強引な手段だったのだ。
だが、インパルスガンダムに損傷が無いわけではない。
そこまで大きなものではないが間違いなく傷ついている。
シンはセンサーを確認するが今のところ、追って来ていないようだ。
「一度、剣崎さんと合流するか……」
シンはそう考えを巡らせていると奇妙な扉の前にたどり着いた。
まるでシェルターのような大きな扉。
それが現在、解放されている。
「これは……」
シンはなんとなくその中に入った。
入った先では更に二つの扉が存在し、片方は既に開放されている。
その部屋の中には何かしらの卵と思われるものが無数に転がっていた。
そして、それらは全て破壊されている。
奇妙な緑色の体液が部屋中に散乱し、更に例のイナゴと思われるものの死体も無数に転がっていた。
恐らく、あの巨大なイナゴの群れはここから発生したのだろう。
よくあたりを見渡すと壁にはビームが直撃したような後がある。
何かしらがここで戦闘を行っていたのだろう。
「一体……」
シンの脳裏にギャレンの姿が浮かぶ。
彼が持っている銃ならこうなるか。
そこまで考えて今はそんなことをしてる場合ではないと頭を振る。
「考えてても仕方ない。それよりも早くあいつらを倒さないと」
シンはそう考え、廊下に戻ろうとする。
だが、もう一つのドアが破損していることに気づいた。
ロック部分が破壊され、開くようになっている。
だが、開かれた形跡は無くしまったままだ。
その先がなんとなく気になり、シンはその扉に手を伸ばした。
それはただ、なんとなくだった。
何か直感があったわけでもない、命令があったわけでもない。
ただ、気になる程度だった。
もう一つの部屋が化け物の発生源だったからそれに相対する部屋にも
何かしらの脅威となる者が潜んでいるかもしれない。
そう考えたのかもしれない。

「なんだ……」
その部屋は奇妙な機械で覆われ、その中心には台座のようなものが置かれている。
そして、そこに一人の少年が眠っていた。
その体には無数のコードがつながれている。
「生きてる……のか?」
インパルスのセンサーは少年の体に熱があることを感じ取る。
つまり、生命活動を行っているということだ。
だが、これほどの騒ぎの中で未だに眠り続けていることに違和感があった。
それよりも何故、彼がコードにつながれているのか分からなかった。
ここは研究所といっても人類基盤史。
つまり、歴史の研究を行っている場所だ。
現在ではアンデッドの研究も行っているという話だが。
目の前の少年はアンデッドに見えなかった。
この研究所と関係のなさそうな存在。
それが何を意味するのかシンには分からなかった。
だが、生きているというならここに置いておく訳には行かない。
「おい、起きろ。こんなところにいると死ぬぞ」
シンは声をかけ、体をゆするも少年は反応しない。
現在の状況でも起きてないのだ。
薬か何かで深い眠りに落ちているのだろうか?
ともかく起こすのは絶望的ということだ。
仕方なくその体を抱え、そのまま連れ出すことにする。
「おっと、動くな」
その背後から声がかけられる。
シンはゆっくりと振り向くとそこにはカオスがビームライフルをこちらに向けていた。
「まさか、こんなところにいるとはな。とっくに地上に上がったと思っていたが」
その後ろにアビスとガイアの姿もある。
状況は絶望的だった。
この部屋に他の出口は無い。
「お前もソレの強奪が任務だったのか?」
カオスが尋ねる。
その言葉にシンは怪訝な表情を浮かべた。
「どういうことだ?」
「違うのか……まぁ、どうでもいいがな」
そういうとカオスはビームライフルを発射した。
ビームはインパルスのミサイルランチャーを打ち抜く。
先ほどの攻撃を警戒してのことだろう。
ミサイルランチャーは装甲ごと貫かれ使用不可能となる。
また、その衝撃にシンは抱えていた少年を台座に落とした。
シンは振り向こうとするがそれよりも早くビームがもう一つのミサイルランチャーを貫く。
「これでミサイルは使えないな」
「くそ……お前達は何が目的なんだ!?」
シンは叫んだ。
BOARDへの襲撃。
考えられるとすれば仮面ライダーやアンデッドの技術の強奪。
どちらの技術もどこの国も咽から手が出るほどに欲しいだろう技術だ。
ザフトにとってすらオーバーテクノロジーと読んでいいほどの技術である。
ザフトから最新鋭のモビルスーツを盗むような組織ならばそれを見逃す手も無いだろう。
だが、彼らの様子はそれとは違う。
先ほどの言葉から目の前の少年ともとれるがそれが分からない。
この少年にどれほどの価値があると言うのか。
「言うわけ無いだろバカが。それにお前はここで俺達に殺されるんだ。
気にする必要も無いだろう」
カオスのビームライフルがシンに向けられる。
シンの慟哭が早くなる。
そして、直感していた自分の死を。
二年前の無念も果たせず、アンデッドの脅威から人を救うことも出来ず。
BOARDを護る事も出来ずにここで死ぬ。
「こんなことで……こんなことでオレは……!!」
無念の叫びが部屋にこだまする。
だが、無常にも引き金が引かれようとしていた。
その時、風が通り抜ける。
そして、目を疑った。
目の前には先ほどの少年がカオスのビームライフルを掴んでいた。
そして、その砲身を真横の壁へと向けている。
ビームは方向を変えられてから発射されたらしく、壁に穴を開けていた。
「なっ……目を覚ましたのか?」
カオスから驚愕の声が漏れる。
少年は身をかがめるとカオスの胴体を蹴り飛ばす。
それはカオスのみならず後ろに居たアビスとガイアも推し飛ばし、壁に激突させた。
「な……なんなんだ。お前はッ!?」
シンはその一連の出来事に叫んだ。
モビルスーツの重量は見た目以上に存在する。
それを蹴り飛ばす事などプロレスラーにだって出来るかどうか。
それも他の2体も巻き込んで壁まで押し込むなどもはや人間の技ではない。
モビルスーツならば出来る。
だが、その少年はどう見ても生身だった。
「生きたいと……叫んだのはお前か?」
少年は何事も無かったようにシンに振り向いた。
目つきの悪い中学生ぐらいの少年。
髪の毛は茶色いが顔のつくりから日本人だろう。
そして、その体格も歳相応に華奢でとても、モビルスーツを吹き飛ばすような力を持ってるように見えなかった。
「何を言って……」
シンはそこまで言って少年の背後でガイアが立ち上がるのを見る。
「後ろ!」
反射的に叫んだ。
それと同時に何処からか何かが飛び出し、少年の手に吸い込まれる。
少年はそれを掴むと振り向き、かざした。
それは木刀だった。
いや、そうとしか見えない物体だった。
だが、それはガイアのビームサーベルと激突し、切り結んでいる。
「なッ!?」
その光景にシンとガイアのパイロットは驚愕の声を漏らした。
ビームは実体の無いエネルギーの束。
ビーム同士は干渉しあうことで反発し、まるで実体を持った剣が切り結んでいるようになる。
だが、そうでないものは基本的にすり抜ける。
ビームの温度で融解する物体は切断され、そうでない物は切られないまでもその軌道を妨げはしない。
だが、その木刀と思わしきものはビームの刃を防いでいた。
「こいつッ!」
ガイアが少年を蹴り飛ばそうとするもそれよりも早く少年は後ろに飛びのく。
その動作はまるで羽根のように軽やかだった。
「ステラ、やめろ。そいつを殺すんじゃない」
カオスが立ち上がりガイアを止める。
「(あいつらの狙いはやっぱりこいつか……)」
シンは横目でその奇怪な少年を見る。
何者かは置いておくとしてこの少年はシンの敵ではないようだ。
そうなると二対三。
だが、今であったばかりの人物と連携を取れるとは思えない。
それではあの三体を押し切れるとは限らない。
シンは残った砲身を腰にスライドさせると天井に向けた。
そして、放たれたビームが天井を吹き飛ばす。
破砕音と天井の破片がばら撒かれる。
シンは即座にシルエットをフォースに変更する。
そして、少年の手を掴んだ。
「ここは一旦、逃げるぞ!」
そして、バーニアを吹かして自分の空けた穴へと上昇する。
天井の穴を抜けて上層の階に移動する。
そして、そのまま逃げ出した。


ブレイドは三階相当にある壁に叩きつけられていた。
そして、そのまま地面に落下する。
何回目かも分からない転倒。
既に体はボロボロで、アーマーも破損している。
それでも戦闘を継続できるのは一重にブレイドアーマーの頑丈さがあるからだ。
量産型のモビルスーツ程度なら既にバラバラになってもおかしくないほどのダメージを負っている。
「はぁはぁ……」
息を荒げ、何とか立ち上がる。
ギャレンが去ってから何分過ぎただろうか。
間違いなく言えることは彼は二度と助けに来ないということだけだ。
それだけでなく研究所から逃げてくる人も見かけない。
恐らく全滅してしまったのだろう。
もう、自分を助けてくれる仲間は誰一人としていない。
孤立。
そして、思い返す。
自分の今までの人生で助けてくれるものなどいたか?
居なかったはずだ。
友人と信じた者は全て自分を裏切った。
友人と言える者など誰一人としていない。
そう、憧れた先輩でさえ自分を置いて去っていったのだ。
だが、それでも剣崎は歩みを止めなかった。
少しずつでも足を前に進める。
こんなにも絶望してるというのにまだ、抗う意思が残っていた。
仮面ライダー……アンデッドを封印するもの。
自分の仕事のプライドが彼を後押しする。
しかし、彼が体勢を立て直す前に空中からローカストアンデッドが襲い掛かる。
この状態で攻撃されればもはや、立ち上がることは不可能だろう。
だが、それでも攻撃に対し、構える。
その刹那、閃光が迅り、ローカストアンデッドを吹き飛ばす。
「大丈夫ですか、剣崎さん」
インパルスガンダムがビームライフルを片手に飛んでくる。
「シン……生きてたのか?」
剣崎は一向に助けが来なかったことから彼が敗北していると思っていた。
もしくは自分を置いて逃げたのだと。
だが、彼は助けに来てくれた。
「橘さんは?」
シンは当然、アンデッドと戦っていると思っていた存在が居ないことに疑問を持つ。
剣崎は一瞬、息を呑むと首を横に振った。
「……橘さんはオレを見捨てて逃げた」
「そんな!?」
シンは叫んだ。
だというのなら彼は今まで一人でアンデッドと戦っていたというのか。
確かにブレイドは対アンデッド用に作られている。
だが、研修期間も終わった新人が一人であの化け物と戦い続けていたという事実に驚いた。
「こうなったら俺達だけで倒さないといけないってのかよ」
シンは橘に対して怒りを向ける。
彼が居れば今頃、アンデッドだって封印できていたはずだ。
そうすれば三人でモビルスーツの相手も出来たというのに。
苛立つシンに向かい、ローカストアンデッドが飛び込む。
それに対し、シンの脇を抜け、少年が飛び出した。
そして、木刀を振り下ろす。
正面からぶつかり合った両者は弾かれた。
だが、ローカストアンデッドが少し体勢を崩したのに比べ、少年は弧を描くように飛び上がり着地する。
その表情は痛みにゆがみ、両の手が震えていた。
真正面からアンデッドとぶつかり合ったのだ手が潰れないだけましだったのかも知れない。
「誰だあいつは?」
剣崎は初めて見る顔に驚く。
「地下で見つけたんです。それよりも」
シンは先ほどの仕合で再び意識をアンデッドに戻していた。
剣崎も今は疑問を投げ捨て、アンデッドと対峙する。
「これでもくらえッ!」
シンはビームライフルを発射するがローカストアンデッドはそれを回避し、接近する。
振るわれる拳を紙一重で避けながら距離をとる。
そこにブレイドが割って入り、ブレイラウザーを振るった。
一撃、二撃と斬りつけるも硬い外殻によりうまい具合に振りぬけない。
三回目にはその刃を掴まれ、蹴り飛ばされる。
だが、その隙にシンがビームを浴びせ、吹き飛ばす。
ローカストアンデッドはその反動から飛び上がると羽根を広げ空中へと逃げ出した。
シンはそれを地上から狙うが高速で起動する体に当たらない。
そして、ローカストは距離を詰め、ビームライフルを蹴り飛ばす。
ビームライフルは破壊され、ローカストはまた、空中へと飛び上がった。
「こいつッ!」
シンは追いかけるようにフォースシルエットを使い飛び上がる。
そして、背中のビームサーベルを抜いて、ローカストアンデッドに切りかかった。
空中を縦横無尽に飛び回り、二つの影は何度か交差する。
だが、ビームサーベルの威力を持ってもローカストの装甲は焼ききれない。
しかし、ローカストのキックはいとも簡単にインパルスのシールドを弾き飛ばした。
そして、その隙にローカストは垂直にインパルスを蹴り飛ばし、地面に叩きつける。
インパルスの全身に衝撃が走る。
そして、度重なるダメージに遂にインパルスの装甲が色を失った。
フェイズシフトダウン。
インパルスガンダムの装甲は電圧を加えることで通常の装甲では考えれない耐性を持つようになる。
それにより物理的なダメージはほぼシャットアウトし、ビーム兵器でしか傷をつけることは出来ない。
だが、それにも限度があり、ある一定以上の衝撃を受けたり、何度も物理的なダメージを受けると
フェイズシフト装甲の電力が足りなくなり、フェイズシフトが消えてしまう。
その状態がフェイズシフトダウン。
フェイズシフト装甲をもってしても緩和しきれない威力を持つアンデッドの攻撃をその状態で受ければ、
ほぼ間違いなく装甲は砕け散るだろう。
そして、それと同時にシンの意識もブラックアウトしていた。
沈黙するインパルス。
それに向かいコーカサスが急降下を開始する。
トドメの一撃。
―――スラッシュ―――
その横合いからブレイドが飛び出す。
彼が持つブレイラウザーの刃に光り輝くエネルギーが漲っていた。
スペードの2。
リザードアンデッドの力が覚醒し、斬撃の力をブレイラウザーに宿す。
アンデッドの力が上乗せされたブレイラウザーはどんな装甲だろうと切り裂く。
そう、アンデッドの外骨格だろうとも。
堕ちるローカストアンデッドの無防備な側面をブレイラウザーは両断した。
体液を撒き散らし、怪物の体が地面に転がる。
ブレイドはカードを取り出すとローカストアンデッドに向かい投げつけた。
カードはローカストアンデッドの体に突き刺さると両断された体を吸収する。
そして、カードにスペードの5.キック・ローカストと刻まれた。

剣崎は封印と同時に地面に膝を突いた。
戦闘による緊張感の喪失。
そして、同時に湧き上がる多大なる喪失感。
この夜、数多くのものが失われた。
それはあまりにも多すぎた。
あまりの事に呆然とする剣崎だが背後からシンの気づく声に立ち上がる。
「大丈夫か?」
剣崎は倒れているシンの手をとり立ち上がらせる。
「なんとか……アンデッドは?」
「オレが封印した。ギリギリだったけどな」
剣崎は変身を解く。
シンもインパルスを母艦へと転送した。
夜空の下、二人は立ちすくむ。
言葉が出なかった。
何を言えばいいか分からなかった。
余りにも理不尽に過ぎ去った時間。
気づけば何もかもを失っていた。
「落し物」
その空気を破るように少年が剣崎にローカストアンデッドが封印されたカードを差し出す。
「あ、ありがとう」
剣崎は思わずそのカードを受け取る。
「そう言えば……お前は一体?」
シンが少年に尋ねる。
少年はその問いに呆然とし立ちすくむ。
そして、頭を抱えた。
「……BOARDの地下にいたって言うけど。BOARDの関係者なのか?」
剣崎も訪ねる。
研修期間だけとはいえ所属していたが彼のような存在は知らなかった。
「……天翔」
少年が静かに答える。
「オレの名前。それ以外は分からない」

ここから物語りは始まる。
記憶消失の少年……天翔
力を求める者……シン・アスカ
誰かを救う為に戦う者……剣崎一真
運命が交差し世界を作る。
そして、この三人の運命の交差から終焉が始まった。



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