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「何で幻想郷を攻撃しなくちゃならないんですか!?」
ミネルバの艦長室でシンの怒声が響き渡る。
食って掛かるような睨みを受けながらも艦長であるタリアは平然と相対し口を開いた。
「これはザフトの決定よ。犠牲者が出て、あそこまでの力を見せられたら対処するしかないわ。
それに貴方が一番、良く分かっているのではなくて、妖怪の恐ろしさと言うものを?」
「そりゃ、危険な存在ですよ。だけど、態々、姿を現してまで人を襲いに来る筈が無い。
何か問題があったんですよ!」
「では、その問題とは何なのかしら?」
「それは話し合いでもして知れば良いじゃないですか!」
タリアの言葉に対してシンは一歩も退かない。
幻想郷に住む人や妖怪と接し、それを知ったシンは今回のザフトの作戦には納得がいかなかった。
犠牲者が出ているから護るのは当然だが向こう側の事情も知らずに一方的に攻撃することが許せなかった。
「もう、その辺にしておけ。シン」
艦長に食いかかるシンをその横に立っていた金髪の少年が制止する。
「レイ、止めるなよ!」
それに対してシンが叫ぶがレイはシンの腕を掴んで強引に下がらせる。
「すみません、艦長。シンはあの場所に知り合いが居るから落ち着かないのです」
そして、レイはシンの代わりに謝罪する。
その様子にタリアはため息を吐いた。
「そもそも、シン。貴方はあの場所に知り合いが居るのなら彼らから何も聞いていないの?」
タリアの質問にシンは苦い顔をする。
「何か連絡がとれなくて……」
今回のことを知って、シンは直ぐに連絡をとろうとした。
だが、こちらからの連絡は一切、届かず、向こうからも連絡は無い。
そのことでシンは最悪の事態を想像している。
幻想郷が外の世界に現れた異変。
その中で彼らは何か強大な敵に立ち向かい、倒されたのでは無いのかと。
「貴方が不安に思う事も分かるわ……今回の作戦はミネルバも参加します。
何が起きているのか、それは貴方自身の眼で確かめなさい」
タリアの言葉にシンは表情を少し晴れやかにする。
そして、直ぐに引き締め真っ直ぐにタリアを見た。
「了解です!」
「私たちもあの魔境に行かないとならないのね」
シンの同僚のルナマリアがため息を吐く。
「魔境って……確かに妖怪は出てくるけど」
シンはそのルナマリアの言葉に呆れ気味に返す。
「それだけじゃ無いわよ。ヒーローだとか魔法だとか妙なことばかりらしいじゃない。
シンの言葉だけだったら信じてもいないことばかりよ」
ルナマリアはシンに冷ややかな視線を送る。
それに対してシンは機嫌を損ねたように眼をしかめる。
「でも、事実だぞ」
「分かってるわよ。アスランも証言したしね……
シンは良くそんなのと戦って来れたわね」
「オレも最初は戸惑ったけどさ。でも、モビルスーツで戦えない相手じゃ決してなかったし」
シンとルナマリアが会話しているところにレイも入ってくる。
「俺たちもシンの戦闘データからそれらとの戦いを学んでおく必要があるだろうな」
「そうね……いきなり、奇想天外な攻撃に晒されたら対応できる自信なんて無いもの」
ルナマリアもレイも戦いに備えて考えをしている。
だが、シンは余りそうは考えたくは無かった。
出来れば、戦いをしたくないとも考えている。
だが、それが無理なことも理解していた。
「(霊夢……何やってんだよ)」
シンは幻想郷の守護者にして仲間の一人の霊夢のことを思い出す。
今回の件、彼女が動いていないはずは無い。
だが、その動きが分からずシンはやきもきしていた。
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第四十二話「神々の夢想」
時は遡る。
それは霊夢が妖怪の山に話をしに行った日。
滝を登った先で文と出会い、それを退けて霊夢はその先に進んだ。
そこで霊夢が眼にしたのは今まで存在していなかった大きな湖とその近くに建つ見慣れない神社だった。
「何よ、これ?」
霊夢は困惑する。
幻想郷に神社は博麗神社一つの筈だ。
「やれやれ……流石は博麗の巫女と言うことか。烏天狗でも止めることが出来ないとは」
そんな霊夢に声がかけられる。
それは霧深い湖から現れた。
円を描く注連縄を背に背負った女性が現れる。
「貴方……何者?」
霊夢はその女性を警戒する。
その身に邪気を帯びていない。
その事が逆に霊夢を警戒させる。
妖怪に山に存在していて尚、その神聖な空気を持つ異端の者。
直感で霊夢は彼女が今回の異変に関係があると感じる。
「私は八坂神奈子。神の一柱だ」
「神?神様がこんな所で何をしてるのかしら?」
「何をしている……か。問われれば答えづらいが。
このタイミングに私たちがこの世界を訪れたのも運命なのかもね」
「何を言っているの?」
霊夢は問いかけに対して一人、勝手に納得している神奈子に不審な目を向ける。
「こちらの話だ。さて、博麗の巫女。今、お前に暴れられるのは厄介だ。
しばらく大人しくしていてもらおう」
「大人しくなんて出来るわけ無いでしょ。今、幻想郷がどれだけ大変なことになってると思ってるのよ!?」
「そうだろうな。だから、力ずくで行かせてもらう」
神奈子はそういうと空より御柱が落ちてくる。
霊夢はそれを回避した。
「危ないじゃない!」
「危なくしてるのさ」
神奈子は霊夢目掛けて落とした御柱とは別の御柱を手にしている。
そして、そこから魔力のレーザーを放出した。
結果として霊夢は神奈子に敗れた。
そして、神奈子を崇める守屋神社に軟禁されることになる。
徹底的に打ちのめされた霊夢はしばらく、神社の娘である早苗の世話になっていた。
養生している間に妖怪の山は神奈子と天狗の長である天魔との間で話し合いが行われ和平が成立した。
妖怪の山は妖怪は無闇に人を襲わないことを決めたのである。
霊夢は何も出来なかったが目的は為される結果となった。
そして、霊夢の体の調子も戻った頃、神奈子は彼女を呼び出す。
「悪かったわね。余り、無闇に動かれては妖怪も警戒すると考えていたのよ」
神奈子は霊夢に謝罪する。
そして、杯に入ったお酒を差し出した。
霊夢はそれを受け取ると一気に煽り、その場に胡坐で座り込む。
「あんた達は何者なの!?何をしに来たのよ!?」
そして、未だに分からぬ正体に対して質問する。
「話してなかったか?」
「外の世界の神社で信仰が薄くなったから幻想郷に来たって早苗からは聞いたわ。
なら、何故、博麗大結界は消えたの?」
「博麗大結界……幻想郷を外と隔絶していた結界か。
生憎だが私も何故、それが消えたのかは分からない」
「でも、この神社が幻想郷に来た日。あの日に結界は消えたのよ。
無関係だとも思えないわね」
霊夢は早苗から聞いた話からタイミングとして結界消失と合致していることを知っている。
その事から疑いは濃厚になっていた。
だが、彼女たちの語る目的では結界消失にメリットなどない。
故に霊夢は彼女たちの語る理由に疑問視をしている。
「あぁ、私たちの行動も無関係ではないのかも知れないな。
だが、私たちは意図的に幻想郷を消した訳では無い」
「それじゃ、何で消えたのよ?」
霊夢は疑いの眼差しを止めるつもりはない。
「破滅の存在」
その時、霊夢は言葉と同時に強烈な邪気を感じ振り向いた。
そこには奇妙な帽子を被った少女が立っていた。
「誰よ?」
それは神奈子と同等の力を感じさせながらも邪気を持っていた。
それに霊夢は警戒する。
「私は洩矢諏訪子。まぁ、この神社の裏の神様かな」
「裏……?」
霊夢は諏訪子の言葉に困惑する。
「この神社は表向き私を祭っているけど、同時に諏訪子も祭っているのさ」
それに対して神奈子が答える。
「ふぅん……それでその神様。破滅の存在がどうしたの?」
霊夢が諏訪子に尋ねる。
「おや、その言葉を知っているの?」
霊夢の言葉に意外だと諏訪子は驚く。
「何度か敵対したもの。今も幻想郷でその分け身が隠れているはずだし」
「あぁ、やっぱり」
諏訪子は納得したいう様子で手を合わせた。
「懐かしい気配がしていると思えば……やっぱり、アレはここに居るんだね」
神奈子は険しい顔を作る。
それと同時に恐ろしいまでの殺気を実らせていた。
「つまり、私たちの行動をあいつは利用したって事か……
あいつならそれぐらいはするもんね」
諏訪子もその眼が冷酷な冷たさを放つ。
二人とも破滅の存在と言うものに対して激しい憎悪を隠しもせずに向けていた。
「あんた達も破滅の存在を知っているの?」
霊夢の質問に二人は頷く。
「まぁね。それよりも破滅の存在と敵対してよく人間が生き残ったものだね。
人間じゃあれに立ち向かうことすら出来なかったと思うんだけど」
「そうでもないわよ。まぁ、動けないのも何人もいたけど何回か倒してるもの」
「へぇ……その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか?」
霊夢に対して二柱の神は眼を輝かせる。
それは獲物を見つけた獣のようにも見えた。
霊夢は酒を飲みながら今までの戦いのことを彼女たちに語る。
幻想郷から外来人を外に出そうとした際に襲ってきた影。
破滅の存在に支配されたスパイダーアンデッドが呼び出した眷族。
白玉楼の西行妖と西行寺幽々子を利用しようとしていたこと。
言伝に聞いた橘朔也の精神世界での戦い。
聖杯戦争の顛末としてキングの策略により生み出された破滅の存在の端末との戦い。
そして、その破滅の存在を倒すために生み出された天翔という存在について
それらの話を聞いて二柱は黙る。
「どうしたのよ?」
ほろ酔い気分の霊夢は据わった眼で二人を見る。
霊夢の話を興味深げに聞いていた二柱は話が終われば目配せをしていた。
「……あんたに修行をつける」
突然、神奈子がそう切り出した。
その突拍子も無い話に霊夢は大きく口を開き呆ける。
「はぁ!?何で私が修行なんてしなきゃならないのよ」
修行嫌いの霊夢にとってその申し出は迷惑以外の何ものでもなかった。
「今のままじゃ破滅の存在に勝てないよ」
諏訪子も霊夢に詰め寄る。
「別に良いわよ」
「でも、それじゃ幻想郷の異変は解決できない。
気づいてはいるんだろ。この異変の現況は破滅の存在だってことぐらいにはさ」
神奈子のその言葉に霊夢は悔しそうに口をつむぐ。
最初に異変が起きたときから予想していた。
というよりもほぼ確信していた。
逃してしまったあの存在が今回の件を引き起こしたことを。
そして、独力であの化け物を退治することが不可能なことも。
「だから、私たち二柱で鍛えなおしてあげると言ってるのさ。
神様から直接、指導してもらえるなんて中々無いわよ」
「そりゃそうかも知れないけど……」
しかし、霊夢はそれでも渋る。
「これはもう決定事項だよ。私たちが合格としない限り、下山は認めない」
そんな霊夢に対して二柱は強引に決定する。
「ちょっと待ちなさいよ!下山を許さないって今、妖怪が暴れてるのよ」
妖怪退治が出来なくなるのは非常に問題になるとその決定に異を唱える。
「そこらへんは私たちが何とかするよ。今はそれよりもあんたの力を高めることが重要だからね」
しかし、そんな言葉も神々には受け入れられない。
強引に霊夢の修行は決定事項となってしまった。
「それで修行って何をすれば良いのよ?」
霊夢は湖の上空で二柱と対峙する。
対峙する二柱は威風堂々とした様子で霊夢を見下ろしていた。
「簡単な話だ。お前が私たち二人を倒せるだけの実力を示せば良い」
「はぁ?それじゃ修行って言うよりも試練じゃないの?」
霊夢がその言葉に呆れて返す。
「修行と言えば修行だよ。ただ、時間が無いから実戦形式なだけでね。
自分よりも遥かに格上の相手と戦うことは良い経験になる」
そう言うと諏訪子はその手に幾つもの鉄の輪を握る。
そして、それを一斉に霊夢に向かって投げつけた。
鉄の輪は高速で回転しながら霊夢に向かう。
「だったら、本気で行ってさっさと終わらせるわよ!」
霊夢はそう叫ぶと意識を集中する。
霊夢が持つ空を飛ぶ程度の能力。
これは単純に飛行が出来るだけの能力ではない。
空とは空間を指し、この世界のことである。
そして、それから浮き上がる。
全く干渉されなくなることこそが霊夢の能力。
他者から影響を受けず、一切の干渉を無効化する。
空の如き存在。
それこそが霊夢の能力であり、本質。
それを最大限に高めれば霊夢はこの次元より隔絶される。
これは霊夢が昔から有していた力であり、当たり前のように使える能力。
戦いは戦いにならず、残るのは一方的な攻撃のみ。
ルールを制定せねば勝負は成立しない禁じ手とも言える力。
この能力を霊夢は生まれながらにして持っているものである。
霊夢は常識破りの力を持つ神を相手にまともに戦うことをせず、さっさと勝負を決めようとした。
だが、霊夢は違和感を感じる。
「あれ?」
何かに縛られ飛べない。
拘束されていると言うような違和感が霊夢を襲い、戸惑いを感じる。
そして、それと同時に鉄の輪は霊夢の体にぶち当たりその体は湖へと落下した。
霊夢は眼を覚まし、布団から上半身を勢いよく起こす。
「あっ、気づきました?」
その横でこの神社で現人神をしている早苗が霊夢に話しかける。
彼女が看病していたのだろう。
「私は……神様に負けたんだっけ」
霊夢は最後の一瞬を思い出す。
能力の不発による茫然自失。
それにより回避を忘れ、防御を忘れ、直撃をくらい一撃で意識を失った。
完全な失態であった。
「仕方ありませんよ。神奈子様も諏訪子様も格の高い神なのですから」
そんな霊夢に対して早苗が慰めの言葉を送る。
だが、そんな言葉は霊夢の耳に入っていなかった。
何よりもショックなのは敗北したと言う事実よりも、能力が使えなかったと言うことだ。
「何で……力が衰えているって言うの?」
霊夢はそんな不安に駆られて背筋が寒くなる。
霊夢は山を歩きながら考え事をしていた。
内容は能力の不発のこと。
空を飛ぶ事は今も何の支障も無くできる。
霊術を使用することも問題ない。
ただ、世界から浮かび上がることだけが出来なかった。
悶々とした不安を抱きながら歩く霊夢。
その前に一人の少女が上空より飛来し、着地した。
「どうも、霊夢さん」
射命丸文は何時もの新聞記者といういでたちではなく、天狗の一員としての格好をしている。
そして、表情は何時もの軽薄さは感じられず真剣みが見えた。
「何のよう?」
霊夢は気の抜けた様子で答える。
「おやおや、山の神々に破れたとは聞きましたが随分と腑抜けていますね」
「どうでも良いでしょ?そんな事を聞きに来たのかしら?何時ものメモ帳も無いのに」
「えぇ、もちろん。記事にするには魅力的なお話ですが今はそのような場合ではないので……
先日、烏天狗の何名かが近くの町に偵察に行きました」
「……まさか、人を襲ったりなんかしてないでしょうね?」
「まさか!我々は人間と戦争するつもりなんてありませんよ。
だが、人間がどう思っているのかは分からない。
下級の妖怪が随分と勝手に暴れまわっている様子ですからね。
人間側の被害状況や感情の蒐集は怠れない」
「それで何があったの?」
「二名程帰還していません。そして、状況として貴方の仲間たちではありえない」
「誰かが烏天狗を退治したって事ね。生憎と私も外の状況を完全に知ってるわけじゃないわ。
あいつらじゃないんじゃ心当たりなんて無いわね」
「そうですか……それと仲間って言葉、否定しないのですね」
文の言葉に霊夢は眼を丸くする。
「何処か浮世離れしているように感じていましたが貴方にも仲間意識があったのですね」
「そんな訳無いでしょ。たった数回、一緒に戦ったぐらいで。
ただ単に否定するのも面倒だっただけよ」
しかし、霊夢はその言葉を否定する。
「おや?そうなのですか……まぁ、貴方がそうおっしゃるのなら気にしませんがね。
それでは」
文はそう言って空へと去っていく。
「力は使えなくても他で頑張れば良いだけよ」
霊夢は結局、能力の不発を考えることをやめた。
それに元々、禁じ手として使う機会など殆ど無かったのだ。
だったら、これからも使う必要などないと決定付ける。
それから霊夢は必死に戦った。
全力全霊を持って二柱を超えるべく力を尽くした。
だが、それでも一向に超えることが出来ない。
その間にも文を通じて霊夢の元には続々と情報が入る。
フランドール・スカーレットが暴れたこと。
それにより、人間側が完全に防衛から攻撃に切り替えたこと。
近海に連合軍とザフトの戦艦が到着し、戦争の口火が切られるのは時間の問題となっていた。
その状況に霊夢も焦りが見え始める。
修行を中断し、下山も要請したがそれも聞き入れられなかった。
「いい加減に倒れなさいよ!」
霊夢は幾度目かの挑戦を続ける。
高速で空間を跳躍しながら無数の霊気の塊を神奈子と諏訪子に対してぶつける。
だが、それらは風にそらされ、隆起した大地に防がれる。
そして、お返しとばかりに無数の鉄の輪が投げられた。
それと同時に御柱より神気が放たれ霊夢を狙う。
霊夢はそれらを全て回避していくがそれで精一杯で攻勢に回れない。
「こんなの出来るわけがないでしょ!」
霊夢は必死に回避しながら叫ぶ。
「出来るわけが無いなんて通用すると思ってるのかい?
あんたが戦わなきゃならないのはそんなに生易しい相手じゃないよ?
負ければ死ぬだけじゃない。
何もかもを失うんだ。
生きてきた証も、歴史も、未来も何もかもが全てね」
弱音を吐く霊夢に対して冷たい口調で諏訪子が言い放つ。
「こんなに強いのなら私の代わりにあんたらが戦えば良いでしょ!」
霊夢はそんな諏訪子に対して最もなことを言う。
「残念だがそれは出来ない。破滅の存在は生きていない存在の干渉を受け付けない。
神卸により人の身を借り受けられればそれも可能だろうけどね。
生憎と早苗は未熟すぎる。それにあんたも神卸を行うには未熟だ。
妖怪退治の力は立派だが巫女としては酷いものだからね」
「五月蝿いわね!っていうか、どうしてそんな制限があるのよ?
妖怪の親玉ってだけでしょ?」
「そんな事を言うと全ての妖怪を敵に回すよ。
あれはこの世界に存在する全ての敵なんだから。
百鬼夜行を追うモノ……妖怪も裸足で逃げ出すような奴さ。
生命の象徴たる太陽と対局に位置するするもの。
空亡なんて呼ばれ事もある」
神奈子も諏訪子も憎悪に満ちた様子で告げる。
「……別に破滅の存在を倒す事に反対はしないわよ。
だけど、このままじゃその前に幻想郷は壊滅する」
「そうさせたくないなら、早く私たちを倒せば良い。
逆に聞くが私たちも倒せないようで戦争を止められると思っているのか?
始まってしまえば勝者と敗者を決めるまで戦いなんて終わらない。
そして、勝利しなければ幻想郷がなくなるのは確実だろう。
守護者としてそれだけの力を示す必要があるのさ」
神奈子は霊夢に妥協を許さない。
それ故に厳しくもなる。
だが、霊夢はそれを乗り越えようとする気概も薄れ始めていた。
神々の壁はあまりにも厚い。
「加奈子様!諏訪子様!」
そこに早苗が血相を変えてやってくる。
「どうしたんだい?」
そんな早苗に神奈子が応えた。
「大変です。霊夢さんを助けに人間たちが……!」
早苗がそこまで言うと彼女に対して強力な魔力の砲撃が撃ち込まれる。
その一撃を受けて早苗は湖へと落下していった。
「大丈夫か霊夢!?」
そして、そこにブレイドがジャックフォームの力で飛び霊夢の前へと躍り出る。
「剣崎さん!?」
その登場に霊夢は驚いた。
「こいつらが霊夢を監禁していた邪神か……!」
剣崎はブレイラウザーを構え、神奈子と諏訪子を睨む。
「どうして……」
霊夢は唐突な事態に呆然とする。
「そりゃ、お前が何日も帰ってこないから心配して助けに来たんだろ」
そんな霊夢の横に魔理沙がつける。
「魔理沙……それにカズキになのはも」
霊夢は助けに来た仲間を確認する。
「霊夢、ボロボロじゃないか!後は俺たちに任せて下がるんだ!」
「相手が神様だって負けたりなんかしない!」
カズキもなのはもやる気は十分と言う様子で闘志を漲らせる。
「あの剣士はアンデッドと融合してるのか……あの槍使いは闘争本能そのものを武器化している。
それに失われた筈の魔法技術を使う子まで居るのか」
「あはは……どうやら、私たちの知らない所で随分と事態が動いてたみたいだね」
神奈子と諏訪子は互いに何かを納得した様子で目配せをする。
「それじゃ、霊夢はさっさと下がってな。大ボス退治のおいしいところは私たちに任せ……」
魔理沙がそう話している最中に霊夢は魔理沙の体を思い切り叩いた。
その衝撃に魔理沙は悲鳴にならない声を上げる。
「あんたのほうがボロボロじゃないの!?」
「分かってるなら叩くなよ!」
魔理沙は涙目になりながら叫ぶ。
「霊夢、魔理沙は一番、君の事を心配してたんだ。
君を助けに行くって決まったら勝手に病室から抜け出してついてくるぐらいな」
剣崎がそんな二人の様子に気づいて告げる。
「そ、そんなんじゃないって、ただ、霊夢が敗れた相手を倒せればそれだけ私の名が売れるって事だからな」
それに対して魔理沙は顔を赤くして抗議する。
「心配って……今、大変な状況なんでしょ。
それなのに私を助けるためだけにこんなに大勢で来る必要なんて……」
「霊夢が居ないで誰が幻想郷の人間代表として話をするんだ?」
「それはそうかも知れないけど……」
「それに君は俺たちの大切な仲間なんだ。
危険なことになっているんだったら全力で助けるのは当然だろ?」
剣崎のストレートな言葉に霊夢は一瞬、呆然とする。
「仲間……私と貴方たちなんて会ってから殆ど時間なんて経ってないじゃない」
霊夢は剣崎の仲間と言う言葉を無意識のうちに否定する。
「そりゃ、時間は短いかも知れない。
だけど、仲間かどうかに時間なんて関係ないんじゃないかな?
少なくともオレは霊夢のことを仲間だって思っている」
「やめてよ!」
霊夢は気づけば叫んでいた。
「仲間って何よ……外の人間の癖に。
私は中立でなければならないのよ。
人間と妖怪……その間に立って幻想郷を護らなきゃならないの。
人の味方である貴方たちと仲間であっちゃいけないのよ」
霊夢は何故か必死に言葉を紡いでいた。
博麗の巫女であることに執着したことなど無い。
出来るからやっていた。
生活に不満もなかったし、巫女としての仕事も嫌いではなかった。
だが、必死になったことも無かった。
中立であることを望んでいたわけでもないし、そうなろうとしていた訳でもない。
だが、何故か今になってその枠組みから出ることを拒んでいた。
「霊夢……」
魔理沙は霊夢に言葉をかける。
「なによ……」
そして、振り向いた霊夢の頬に向かって平手打ちを食らわした。
乾いた音が湖の上に響く。
「何するのよ!」
霊夢は激昂し叫んだ。
「うるせぇ!」
しかし、それ以上に魔理沙は怒鳴る。
その迫力に霊夢はたじろいだ。
「霊夢、お前に嘘なんて似合わないぜ」
「嘘なんて吐いてないわよ……」
「良いや、吐いてるね。嘘吐きの私に対して素人が嘘を吐いたんじゃ直ぐに分かるさ。
お前だって分かってるんだろ。
自分が剣崎さんたちの仲間だってこと」
「そんなの!」
「良いや、間違いない。
だって、お前は助けに来てもらって嬉しそうだったじゃないか」
「!?」
霊夢はその言葉に驚いて自分の顔を手で確認する。
「なんてな」
しかし、その様子を見て魔理沙はけらけらと笑う。
「……嘘吐いたわね!」
霊夢は顔を赤くして叫ぶ。
「あぁ、嘘だぜ。だけど、本当は嬉しかったんだろ」
「……」
霊夢はその問いかけに沈黙する。
それが答えだった。
「何だ。霊夢は恥しがり屋だったんだな」
カズキがそんな霊夢を見て微笑ましいと笑う。
「違うわよ!」
その言葉に霊夢が全力で否定する。
「そうですよね。どちらかというと自分の気持ちが分からないだけだったんだと思いますよ」
悟ったようになのはが告げる。
「あぁ、もう!何であんたたちは恥ずかしげも無く仲間だ友達だなんて言えるのよ」
「諦めろ。敵対してた奴らと強引に友達になるような奴らだぜ。
私も驚くほどの強引さだ」
「……あんたも十分よ」
霊夢は何処か吹っ切れたように笑う。
「いやぁ、若いって良いね」
そんなゴタゴタを静観していた諏訪子が笑いながら話しかける。
「そっちこそ、何で黙ってみてたんだ?」
魔理沙が問いかける。
「誤解があるようだが私たちは別に悪意を持って博麗霊夢を返さなかった訳じゃない。
ただ、来るべき戦いに備えて鍛えてただけさ」
それに神奈子が応える。
それに対して霊夢以外が霊夢を見た。
「本当よ……まぁ、私は了承したつもりなんてないけど」
その言葉でようやく剣崎たちは何となく状況を理解する。
「あの天狗め。やっぱり、ガセ情報じゃないか」
魔理沙は悪態を吐く。
どうやら、道中で出会った文に霊夢のことを聞いたらしい。
その内容は霊夢は邪神に捉えられているということだろう。
「なるほどな……それで修行って何してたんだ?」
「修行も何も、あいつらを倒せば良いだけよ」
霊夢が神奈子と諏訪子を指差す。
「だったら、さっさと倒せばいいじゃないか。何時もみたいに」
魔理沙は気楽な様子で霊夢に言う。
そんな魔理沙に霊夢は恨めしげな眼を向けた。
「それが出来たらとっくに帰ってるわよ!」
「それならアレを使えば良いだろ。【夢想天生】、私が名づけた霊夢の必殺技をさ」
「……使えないのよ」
ばつが悪そうに霊夢が応える。
「何でだよ。生まれながらの霊夢の能力じゃないか。使えなくなることなんて無い筈だろ」
「……仲間が出来たから使えなくなったのよ」
霊夢の言葉に魔理沙は納得したように頷いた。
この世界に影響を受けた時点で完全に浮かび上がることが出来なくなる。
仲間という絆が霊夢を縛りつける鎖として機能しているのだ。
仲間を得たことで無敵とも言える力は封じられたとも言える。
霊夢は魔理沙たちが助けに来てくれた時、ようやく理解した。
何故、自分がその能力を使えなくなっていたのかを。
縛られてしまえば浮かぶことなど出来はしないのだ。
「でも、生まれ持っての力が使えなくなるってのは変な話だな」
「そうかしらね?そんなもんじゃないの?」
「さっきまでは原因が分からなくて上手くいかなかっただけじゃないのか?
案外、分かっちまえば飛べるかもしれないぜ」
魔理沙の言葉に霊夢は考える。
今までは無意識で飛んでいたのだ。
だが、その手法自体は知っている。
ならば、意識的に発動させればやれるのかもしれない。
霊夢はポジティブにそう考える。
「……そうね。それにあいつらの理不尽な攻撃をどうにかするにはこれしかないし……やってみるわ」
霊夢はそう決めると前へと躍り出る。
「良いのか?仲間が居るなら協力しても良いが」
神奈子がそう提案すると霊夢は首を横に振った。
「あんた達程度に助力は必要ないわ。だって、殺す気なんてないでしょ。
遊びで仲間の力を借りる気はないの」
「その余裕……さっきまで泣き言を吐いてたとは思えないね」
「言ってなさい。言っておくけど、私は一人でも十分強かったのよ。
それが後ろに仲間がいるなら。それこそ無敵よ!」
霊夢は意識を集中する。
重力の楔から解き放たれ、そして、世界の理からも解き放たれる。
世界からの乖離。
それは一つ間違えばどこまでも行ってしまうだろう。
前までの通りに独りで自由ならばそれでも問題なく飛べた。
だが、仲間という重石が逆にそれを妨げる。
帰れなくなるかもしれないという恐怖が無意識にその能力の発動を阻害していた。
しかし、それが重石ではなく絆という名の糸であるならば妨げることは無い。
むしろ、帰る道筋が分かっているのだ。
何の気兼ねも無く飛べるというもの。
【夢想天生】
霊夢の体が世界から浮き上がる。
それにより霊夢を狙った攻撃の全てが霊夢に干渉できない。
鉄の輪も砲撃も全てが霊夢をすり抜ける。
「へぇ……それが奥の手か。でも、防御を整えたところでどうやって私たちを打ち倒す?」
神奈子がそれを見て霊夢に問いかける。
「回避も防御も必要ないなら……攻撃に全力を出せば良いだけでしょ!」
霊夢は陰陽玉に全ての霊力を込める。
全身を守るべき結界も、回避のための意識も全て詰め込み。
攻撃に全身全霊をかける。
「いくわよ!」
そして、弾幕の中を無視して突っ込んで行く。
それに気づき神奈子は回避の為に移動を開始する。
だが、霊夢は空間跳躍で一気に神奈子の後ろへと回り込んだ。
「そんなに無駄な動きじゃ私から逃げられないわよ!」
霊夢は陰陽玉を神奈子へと叩き込もうとする。
神奈子は突風と御柱で霊夢を迎撃しようとするがそれらは何の意味もなさない。
諏訪子も水流を霊夢に放つがそれもすり抜ける。
正に無敵。
敵の攻撃を全て無意味にし、そして、一方的に自身の攻撃を成功させる。
霊夢は神奈子に陰陽玉をぶつけると全ての霊力を一気に解放する。
その衝撃に神奈子の体は吹き飛ばされ、湖のほとりの社まで吹き飛ばされた。
「……こりゃ、合格にするしかないね」
諏訪子はその様子を見て霊夢の勝利を宣言した。
「あんたをまだ、倒してないわよ?」
霊夢は再び陰陽玉に霊力を込め始める。
「止めておくよ。攻撃を無意味されてはどうしようもない」
諏訪子はじりじりと後ろへと退いていく。
だが、霊夢はそれよりも更に前へと進み始めた。
その視線は厳しく諏訪子を捕らえている。
「遠慮しなくても良いわよ。きっちりと決着をつけて、今までお世話になった分、全て返させてもらうから」
霊夢は怒りを隠さず告げる。
今まで散々、痛めつけられた恨みを晴らそうとしているのだ。
だが、霊夢は諏訪子に攻撃を加える前に違和感に気づく。
「あら?」
霊夢の体は自然に通常世界に戻っていた。
「時間切れ?」
霊夢はそのことに驚く。
今までそんな事態を経験したことなど無い。
正確な長さなど気にした事も無いがここまで短時間で終了するものでは無かったのだ。
「使えるけど万全……って、訳じゃないってことか」
諏訪子はその様子を見て退くのをやめている。
それに対して霊夢は身構えた。
「安心しなよ。前言を撤回するつもりは無い。あんたは合格で、
合格したなら攻撃する理由なんてないさ」
「意外と理性的なのね」
「合理的と良いなよ。それにこんな状況で無駄に力を失う事態だけは避けたいのさ」
諏訪子は少し顔をしかめる。
試験に合格し、霊夢は下山が許可された。
それと同時に妖怪の山の総意として人間との停戦を望んでいるという旨を受け取る。
そして、人間との交渉役として博麗霊夢が指名された。
人と妖怪の狭間に立つ者。
これほど両者の代表に相応しい者は居ないとして。
神奈子と諏訪子の後押しもあり、それはすんなりと決まった。
そして、次に人里に人の了解を取るために移動中。
霊夢は魔理沙に問いかける。
「何で、あんたは私が【夢想天生】を使えると思ったの?」
結局、魔理沙の読みどおりだった。
だが、魔理沙がどうしてそう考えられたのかが分からない。
「何、昔から干渉できないのはこっちからだけで霊夢からは出来てただろ。
だから、世界から浮かぶって行っても何もかも繋がりを無くす訳じゃない。
私たちとの繋がりぐらいで完全に使えなくなる訳なんかないじゃないか」
「まぁ、確かにそうかもね」
霊夢は何となく納得する。理解には遠いが。
そんな霊夢を見つつ、魔理沙は少し彼女よりも高度を取り、空を見上げた。
「それに少ししがらみがあると飛べないって言うのなら。
私が寂しすぎるからな」
霊夢に聞こえないように小声でそう呟いた。
霊夢は人里の長に外の人間たちとの交渉の代表となる許可を即座にとると和平も申し出を日本政府へと送った。
それに対して日本政府は話し合いの場を設けることになる。
「オレがザフトの代表としてその場に出席するのですか?」
アスランはデュランダル議長から受け取った任務に対して驚く。
「君は幻想郷についても知っている。そして、FAITHとしてのザフトでの権限も高い。
適任だと思うのだがね」
ディスプレイ越しのデュランダルは何時も通りの涼しげな表情でアスランを見る。
「いえ、問題はありません。一つ、確認しますがザフトとしては幻想郷と和平を行うと言う考えでよろしいんですか?」
「当然だよ。そもそも、我々は日本の自衛の為に動いたに過ぎない。
日本人を護るために戦うことはあっても、我々の独断で敵を討つのはやりすぎだ。
それに無益な争いなど誰も望んではいないのだよ」
「そうですか……そうであるならオレに依存はありません」
アスランはデュランダルからの命令を受理する。
そして、数日の後、幻想郷と外の世界との和平交渉が始まった。
だが、それは凄惨なる戦いの幕開けを始める狼煙となる。